千五百三十七話 ナロミヴァスたちとクリムにサケルナート
◇◆◇◆
オセべリア大平原のグリフォン丘の第四支城城主の間に仮設されている会議室に、上級将校と佐官が集められ緊急会議が行われていた。
会議の内容は籠城か否かで割れている。
出撃を拒む意見を貫くのは紅馬騎士団の副官ハイローサ。
上級将校:紅馬騎士団一番隊隊長ハルレルグ・キルベルン。
上級将校:紅馬騎士団二番隊隊長ハネン・ロンベルジュ。
高級参謀長ペリン・シガケヴァネン。
それに対して参謀補佐ベイスフェル・ホートマイルン。
白の九大騎士の大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォン。
公爵家嫡男ナロミヴァス・アロサンジュ。
の三人が、砦から打って出るべしの意見を貫いた。
ナロミヴァスは己の武力、魔法を誇示する言葉を繰り返す。
そうした籠城か否かの意見をオセべリア王国公爵ベイス・フォン・アロサンジュは黙って聞いていた。
副官ハイローサは、
「レヴァン様もついこの間まで、籠城の一択だったはずです。更に、帝国は、黒髪隊にラドフォード帝国皇帝ムテンバード家の袖付き、〝蜘蛛鴉ノ魔傭兵〟の大隊が現れたと聞きます。その包囲網を突破するのは容易ではない。そして、リムラとペルネーテは健在で援軍も第四支城にくる予定があると」
大騎士レヴァンは、
「はい、王太子レルサンの竜魔騎兵団の援軍がくるはず。それを踏まえての、ナロミヴァス様たちを前面に出しての突破案を支持しているのです。それほどまでにナロミヴァス様とアンブルサンとアポルアは強く、帝国の動きはきな臭い。それに【天凛の月】の盟主様とナロミヴァス様は、強い繋がりを得ています。槍使いの噂は聞いたことがあるはずです」
レヴァンの言葉に皆、沈黙。
副官ハイローサ・トイベリアスは、
「【天凛の月】の盟主の槍使いと、黒猫か……聞いた事はある。更に、その副長がファルス殿下と通じて、裏で暗躍している情報もあるな」
「第二王子派の和平を重んじる側だぞ」
「ファルス殿下の懐刀とまで言われるようになった【天凛の月】か」
ベイス公爵の言葉に皆が頷いた。
ベイスは、ナロミヴァスの顔色を見て、その槍使いが一枚噛んでいると察知していた。
上級将校:紅馬騎士団二番隊隊長ハネン・ロンベルジュは、
「そもそも【天凛の月】はオセべリア王国の正規軍ではない。所詮は闇ギルド裏の組織だ。個人の戦いを重んじる武人や冒険者崩れが集まった愚連隊。そのような組織の盟主とペットにいったい何ができるというのだ」
「ぬぅ! ハネンとやら何を語るか! 閣下は、単騎で万を相手にできる偉大な方だ! 神獣様なら、もっとだろう! 凄いんだぞ!」
とナロミヴァスは口を震わせながら語気を荒げた。少し涙目となっている。
公爵の嫡男であることや会議の場であることを忘れるまでに激高していた。
それほどまでに光魔ルシヴァルの宗主に対する無礼な言葉が許せなかった。
これにはベイスを含めた皆が驚く。
会議室に長い沈黙が流れると、周囲の佐官がコソコソと何かを話し始める。
ナロミヴァスは、
し、しまった……。閣下のことは内密にしようとしていたのだが……。
偉大な閣下のことを馬鹿されてしまい、わ、私は、あぁぁ……。
と、動揺したように視線を泳がせる。
傍に居たアンブルサンとアポルアが、そっと、そんなナロミヴァスの耳元で何かを囁く。
ナロミヴァスは直ぐに気を取り直し、
「……そ、そうだ。うむ、わたしが言いたいことは、【天凛の月】の盟主は、先の大騎士ガルキエフが活躍した戦のさきがけとなった砦の開放戦で第一の活躍を果たしてと言いたかった。そこで帝国兵を蹂躙し、砦の開放に導いたのは、【天凛の月】の盟主。ファルス殿下は公表しようとしたが、【天凛の月】の盟主は公表を拒んだ、隠れた英雄である」
と、発言。皆知らなかったようで、
「「おぉ」」
と歓声が会議室に響いたが、直ぐに、ベイスが、
「なるほど、噂以上か、【天凛の月】はただの闇ギルドではないのだな」
「はい」
ナロミヴァスは、父ベイスを見て、
父上は、納得顔だ。閣下のことを調べていたのだろうか。王太子派の父が和平に動かざる得ない時に、きっと調べたのだろう。
と考えていた。
そして参謀補佐ベイスフェルは、
「それほどの要人と縁を得たということは、我らのこの戦場にも?」
「くるかもしれない。戦場に降り立った槍使いと、黒猫を見れば、私の態度も理解できるはずだ」
「なるほど、わたしは閣下と大騎士レヴァン様のことを信じます。それに味方があっての籠城ですからね、戦場で、味方の援軍が帝国軍に敗れ続けたら、籠城の意味がない」
否定派の参謀補佐ベイスフェルの言葉だ。
語尾のタイミングで、己の顔を籠城肯定派のハイローサに向けている。
ハイローサは、
「味方があっての籠城なのはご尤も! 何度も言いますが味方は健在、連絡も二時間ごとの連絡も取れている。東のリムラ補給基地が潰えていない、この情報は確かなんです。今は無理することなく籠城が最善の策かと……更に、この城から討って出る算段も、ナロミヴァス様の個人の強さを前面に押し出すとのこと。それでは無頼や烏合の戦術と同じ、紅馬騎士団が取る戦術ではない。そして、ナロミヴァス様と大騎士レヴァン様、すみませんが、現実的ではないアンタッチャブルな【天凛の月】の存在は省きます」
と、副官ハイローサ・トイベリアスが辛辣に力説する。
彼女の実家トイベリアス家はアロサンジュ家の寄子でアロサンジュの領内では、権門勢家の出にあたる。代々アロサンジュ家に仕えてきた
参謀補佐ベイスフェルは、そのハイローサの出世にコネがあることを知り妬んでいるためハイローサの意見には、ことあるごとに反対していた。
そのベイスフェルは、
「無頼戦術に、閣下が推している方を省くとは、無礼な」
と発言。ナロミヴァスはベイスフェルに視線を向け、
「いいのだベイスフェル、ハイローサの意見は道理で真面。が、それは一般的観点からの意見だ。何度も言うが戦場は水物、状況は変化している。二時間の間にどれほどの変化、出来事が起きているか。そして、【天凛の月】の盟主と同様に、今の私と闇の悪夢アンブルサン、流觴の神狩手アポルアは普通ではないのだ……先も言ったが戦いには自信がある。戦えば魔人の集団であろうと一人で勝てるだろう。相手が、【天凛の月】の盟主のような相当な実力者でない限り」
「「おぉ」」
父ベイスは、息子の言葉を聞いて嬉しさを覚えると共に、あまりに理路整然に語るので、寓言ではないのかと疑問を感じ始めていた。
「……ナロミヴァス、その言葉はまことか?」
「はい」
ナロミヴァスの紺碧の眼をジッと見る父ベイスは……。
息子のナロミヴァスが……。
わたしに隠れてペルネーテで何かをしていたことは知っている。
とんでもない不祥事を起こしていた。
第二王子が、その件を利用し、王太子派の切り崩しに代替的に利用せず、我らに含みを持たせて交渉を仕掛けてきた。
その和平案に乗りかけたが……。
帝国の和平交渉は単なる時間稼ぎに過ぎなかった。
と、その不祥事を起こしたナロミヴァスも先ほどまでは行方不明だった。
ところが、いきなり姿を見せたと思いきや、この語りだ。
急激にあらゆる面で成長を果たしたような……。
一挙手一投足のすべてが別人に見えてくる。が、本物の息子に変わりない。
公爵家の紋章が入ったブローチはナロミヴァスだと示している。
何があったのか、不明だが、帝王学はそれなりに詰め込んだはず、レヴァンの教育とキュネイたちに託したことが幸いしたのか? 才能が開花したのか……。
とベイスは長考し頷いて「ふむ……」と息を吐いてから両手の指を組み……机に置いて、横に居るレヴァンたちに視線を向けていた。
大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォンは静かに会釈して、
「ナロミヴァス様の実力は保証します」
と静かに語る。副官ハイローサも頷いた。ハイローサはナロミヴァスの意見に反対しているが内情ではナロミヴァスのことを信じている。
が、今は副官の立場と最前線を指揮する部隊長の性格などを考慮して籠城策を指示し続けていた。しかし、ここにきてハイローサは、ナロミヴァス側に傾く。
「……ナロミヴァス様の言葉が真実ならば、頼もしいですが……」
と籠城肯定派の上級将校:紅馬騎士団一番隊隊長ハルレルグ・キルベルンに顔を向けていた。ハルレグルはハイローサの心情を察してはいるが、『おいおい、現場に王族を出すつもりかよ……こっちの身にもなってくれ』と視線でアピール。
が、ハイローサは微かに頭部を左右に振る。
それを見たハルレルグは、溜め息を吐いて、横に居るハネンを見る。
ハネンは、ハイローサたちのことなどこれっぽっちも考えていない。
ハルレルグはまたも溜め息を吐いてから、現場を思い、
「……ナロミヴァス様たちの言葉が確かだとしても、ベイス様の大事な跡取りを戦場の前面に押し出すのは、作戦を立てる以前の問題です」
「はい、王太子レルサンのような武人であっても反対意見は根強いのですから」
上級将校:紅馬騎士団二番隊隊長ハネン・ロンベルジュも、ハルレグルと同意。
現場の隊を率いる者として、忌憚なく意見を発した。
すると、大騎士レヴァンが、
「ここの城にくるまで、ペルネーテから一直線に傷もなくこられたのは、ナロミヴァス様の力があるからです。その実力は私を超えている。魔国イルハークの魔族たちよりも強くあるように見えました」
「ほぉ……魔国イルハークを知る大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォンの言葉は重いぞ」
「あぁ、ナロミヴァス様たちは、一個師団の実力と判断していいだろう。<灰玉ノ魔獣オウラ>を合わせた私を超えているといったほうが、皆が納得し易いか」
「「「おぉ」」」
大騎士レヴァンの言葉に、会議室が歓声に包まれた。
高級参謀長ペリン・シガケヴァネンと上級将校:紅馬騎士団一番隊隊長ハルレルグ・キルベルンと上級将校:紅馬騎士団二番隊隊長ハネン・ロンベルジュが顔色を変えて、
「「なんと!」」
「それほどの……だったら、素晴らしい、素晴らしいぞ!」
「ふむ……」
武のアロサンジュも思わず微笑む。
自分の跡取りが、あの大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォンを超えると聞けば、当然の微笑みである。
と、会議の流れが傾く。
「父上と皆、私たちを信じてくれ。レヴァンと、アンブルサンとアポルアで活路を開く。グリフォン丘を駆け下りて、一気に迷宮都市ペルネーテに戻りましょう」
「はい!」
レヴァンの言葉は真実だと分かっているベイスは、息子の自信に溢れた態度を見て、嬉しい思いを得てはいるが……腑に落ちない。が強者としての感は確かであると理解できていた。息子と再会を果たした瞬間に、凄まじい<魔闘術>系統の数々を察知していた。
自分が知らない間に……と。武人故の嫉妬もあったが、父の危機を聞いて直ぐに動いた、その心持ちと実際に帝国軍の抱囲を突破してきた強さと優しさを非常に高く評価していた。
また、ベイスは大騎士レヴァンを良く知るだけに、ナロミヴァスの強さは本物だと、時間が経つほどに納得していく。
数秒後、ベイスは机を両手で叩いてから、魔煙草を取り、口に咥えた。
傍に居る副官ハイローサは即座に火付け道具をベイスが咥えた魔煙草の先端に当てた。
ふぅと、煙を吐いたベイス。
ナロミヴァスを変えたであろう【天凛の月】の盟主にも会わないとなるまいな。
これもファルス殿下が王太子派を崩す策か。
否、戦に勝利すれば王太子派が勢いを増す。王位を狙うならば、わしのことは捨て置くのが上策だが、ペルネーテも落とされるような算段もあるのか?
それとも己も立場がなくなることを危惧しての采配か。
否……ここでの深読みは危険か。
今は息子を信じよう、ファルス殿下よりも若い。将来的には、ふっ、わしを超えてのオセべリアの王位も見えてくるだろう。
と考えては、第四支城から出ることを決意させることになる。
魔煙草を吸い終わったベイスは、
「……ふむ、ペリン、迷宮都市ペルネーテまでの最短路はもう用意してあるのだな」
「は、はい!」
「ならば決まりだ。息子を信じよう。ハルレルグ、ハネンもいいな、作戦同意書にサインしろ」
「「はっ」」
上級将校:紅馬騎士団一番隊隊長ハルレルグ・キルベルンと上級将校:紅馬騎士団二番隊隊長ハネン・ロンベルジュは、直ぐにサイン。
籠城肯定派だった参謀長ペリンは、作戦概要図とオセべリア大平原の地図を机に拡げた。
副官ハイローサは同意書を皆に配った。
ベイスは顎髭を右手で触りつつ、頷いて大騎士レヴァンをチラッと見る。
そのレヴァンは微かに頷いた。
ベイス公が何を言いたいか直ぐに理解するレヴァンは、ナロミヴァスたちを見てから、
「ナロミヴァス様たちと私が先陣です。敵をできるだけ蹂躙しましょう」
「ふむ、ハイローサもいいな?」
「はい、支城の先の谷間の敵をナロミヴァス様たちに掃除をしてもらいます。その後の平原に陣を張る帝国兵の各個撃破もお願いします。そこを紅馬騎士団の機動力で突撃をかませば、敵の主要部隊の撃破も容易でしょう。しかし、ペルネーテまで一気に駆けることを優先しますから、敵はなるべく無視する方向と進みましょう」
「良し! 解散、細かな準備ができ次第、広場に集結だ。迅速に動け、集合次第、ナロミヴァスが先に出る」
「「「「はい!」」」」
◇◆◇◆
黒い悪趣味な仮面を被った豪華な衣装を着た男は――。
周囲に魔刃を伸ばした状態の魔杖を無数に生み出しながら急降下し、オセべリア大平原のドラゴン崖の近くに移動した。
魔杖を消した男は<黒の遺物>で仕留めた王太子レルサンの死体を確認し、
「本当に死んだ?」
と、もう一度、王太子レルサンの死体に<黒の遺物>を放つ。
黒い閃光を浴びた王太子レルサンの死体は闇の塵となって消えた。
「良し! なんかあっけない」
傍に落ちていた神槍カーナディアを回収した男は、
「ガァァァァ」
まだ生きていた白い高・古代竜のアルディットが威嚇するように鳴いた。
「アレ、殺したと思ったんだけどな」
大きい翼はへし折れたまま回復が追いついていない。
普通なら傷もなく回復を遂げているはずだが、黒い悪趣味な仮面を被った男が放った<黒の遺物>は猛毒の効果もあるからだだろう。
その弱っている白い高・古代竜のアルディットに、黒い悪趣味な仮面を被っている男が近付いた。
男は仮面に手を掛けてから、
「へぇ、脊髄に<黒い遺物>を浴びても平気なんだな。やはり白い高・古代竜だ。噂じゃ知能があるって聞いたけど、喋れないの? 変身もしないし。タフはタフだけど……本当に、高・古代竜なのかな。あ、でも、僕の<黒い遺物>には漆黒ノ死毒もあるんだった、だから、この白いドラゴンは回復を徐々にしているって証拠かぁ、なんかショックだなァ、僕もまだまだだ。あ、その血と鱗に回復力で色々と実験に使えそうだし、生きたままもらうかなぁ~」
と楽しそうに発言。
アルディットは即座に、
「ギュァァァ」
と黒い悪趣味な仮面を被る男に白銀の炎を吐く。
男は左手を掲げると、その左手の中央が少し裂けて、小さい口が顕れる。
そこの小さい口が白銀の炎を吸い取っていた。
「おぉ、ありがとう、君の白銀の炎は光属性が強い炎なんだね。お陰で、僕の光属性が増したよ! でも、不意打ちのお仕置きはしないとね♪」
男は右手に魔杖を召喚すると魔杖から金の魔刃が生えた刹那――。
消えたように加速し、アルディットの頭部に近付いては金色に輝く魔杖を振るっていた。
金色の魔刃がアルディットの頭部の先端を両断――。
くるくると前転して、前方に着地をした身軽な男は、掌で魔杖を回してから背後を振り返る。
悲鳴も上げられないアルディットは切断された顎から大量の血が噴出していた。
「はは、まだ生きているし、再生しようと肉の線維と骨の素材が増えているし! 面白いな! あ、白銀の血ってわけじゃないんだねぇ――」
黒い悪趣味な仮面を被る男はアルディットの宙空から向かう。
その宙空に巨大な絆創膏と光る網を放る。
と、アルディットの切断された口を絆創膏のような物が付着された。
そのアルディットの体に光る網が巻き付いていくと、アルディットの体は急激に小さく収縮されて、小さい人形と化した。
「やった。テイム成功! ん?」
「ハッ、それはテイムではないだろ」
その声を聞こえた方向は、背後だ。
黒い悪趣味な仮面を被る男は、
僕の背後を取るなんて、あいつかな……そして、友と言えども許可も無しに〝闇神リヴォグラフノ赤目札〟など利用しての、追跡用の何かを仕込むか。
いずれはぶっ殺す予定に入れるかなァ……
と考えてから背後を見る。
そこには幻影の人型がドラゴン崖に両足を着いた状態で立っていた。
刹那、幻影の人型の足下に魔方円と魔法陣が多重に生成される。
そこの魔方円の魔方陣と魔法陣から凄まじい量の魔力が噴き上がった。
その魔方陣と魔法陣の上に、大魔術師らしき男が出現。
「サケルナートか、僕の動きを追っていたのかい?」
「そうだ、それより、王太子を見事倒したようだな」
「うん、第一目標は達成さ。でも君がここにくるなんて、何か不都合でも?」
「ファルスの暗殺に失敗し、一部の魔人が【幽魔の門】を襲撃した」
「魔人たちに関しては、なんとも言えない。そして、【天凛の月】が機能したようだね」
「……クリム、それを知ってて暢気に高古代竜をアイテム化か?」
「うん、そうさ、これがどれほど貴重な素材か理解できない君ではないはずだよ」
「……そんなことよりも王の指示だ、さっさと第二王子と【天凛の月】を仕留めに動けと」
「いやだね、僕に指図できるのは僕だけだ、父と闇神リヴォグラフや【異形のヴォッファン】に合わせているけど、いい加減うざいんだよ」
「なんだと……」
サケルナートは己の体から漆黒の魔力を出現させる。
右手に薄い赤い双眸が出現した。
「ふっ、冗談さ、スレーたちには【天凛の月】を見張るようには指示を出してある」
「……見張る……」
サケルナートは漆黒の魔力を霧散させた。
「情報は大事だよ、それに【御九星集団】のキーラだって、表だって動いていないだろ」
「……ふむ、【闇の枢軸会議】の連中を利用している」
「そりゃそうさ、アシュラー教団には陰ながら何かをやっているとは思うけどね、そのキーラだって、地下オークションで出品される貴重なアイテムを、できるだけ安全に手段で入手したいだろうし」
「……」
「とにかく、僕は僕の仕事をした。父も分かってくれると思うけど」
「……仕事と言うからには……すべてをやり終えてからにしてくれ」
とサケルナートは上空を見る。
うん、竜魔騎兵団の残りか。
「そうだね、でも、ファルス兄を仕留めたいなら、サケルナートたちも表に出ないと【天凛の月】たちを仕留めるのは難しいと思うよ?」
「……」
「あと、キーラとキュベラスたちが、本当にファルス殿下を仕留めるつもりなら、やはり地下オークションが終わってからだと思うな」
「お前は?」
「――ふふ、どうだろう、僕の実験材料を増やしてくれるなら、【天凛の月】の盟主と話をしたいかな」
「……」
サケルナートはまた漆黒の魔力を体から出してきた。
僕を脅迫しているつもりなのかな。
魔法学院ロンベルジュの魔法上級顧問のサケルナートか。
クリムは殺気を放ち、ここで……と考えた刹那、サケルナートが出現していた魔方陣と魔法陣の転移陣から、『ククク……』と闇神リヴォグラフの嗤う声が響く。
クリムは仮面越しに闇神リヴォグラフを睨む。
ふっ、いずれは、あの赤い双眸も僕の研究材料に成るんだ。
「サケルナート、スレーの情報次第ってことで、では、僕は僕の残りの仕事を終わらせよう――」
と飛翔――。
「兄を倒した帝国の黒髪隊は最強に強かった設定の情報は、盗賊ギルドに【幽魔の門】などを利用して、次の日の布告場で流れるだろうな。あ、【幽魔の門】は襲われたんだったか。さて、残りの竜魔騎兵団にも死んでもらわないとね。誰一人として逃がさない――」
クリムは無数に魔刃を生み出している魔杖を周囲に生み出しながら飛翔していく。
竜騎士を乗せたドラゴンに近付きながら、周囲の魔杖から伸びた魔力の刃でドラゴンごと竜騎士を斬り刻んで倒していた。
クリムは右腕を少し前に出す。
右腕に膨大な魔力が集積した刹那、掌の皮膚が少し裂けると、無数に魔法紋の亀裂が発生し、その掌から膨大な漆黒の魔力が生まれた刹那、<黒の遺物>が発動された。
<極魔・無詠唱>を利用。
<黒の遺物>の黒き閃光が直進。
先ほどの王太子レルサンの後頭部を穿った一撃が、竜魔騎兵団のドラゴンと竜騎士を捉える。
一瞬で竜騎士とドラゴン貫かれた。
黒い閃光の<黒の遺物>を横に薙ぎるように動かすと、
黒い閃光は巨大なエネルギー刃として遠く飛翔していた残りの竜騎士とドラゴンたちを薙ぎ払った。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
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