千五百三十一話 武術街の自宅に一時帰還し、皆と合流
金漠の悪夢槍と仙王槍スーウィンを仕舞うと、ルビアの体から黒い魔力が溢れ出た。その魔力が魔命を司るメリアディ様の幻影に変化。
そのメリアディ様の幻影は、ルビアを抱きしめるような素振りを取る。
母が子を労るようすに見えた。
そのまま魔命を司るメリアディは満足そうに微笑んでから徐々に消えていく。
ルビアはカシーンの剣を引いた。
リャインは絶句の表情のまま倒れた。
リャインの死体が倒れる音が路地に響く。
ルビアは、手元が震えて、
「リャインを殺してしまった……でも……うん」
と喋ると手元の震えが消える。
――カシーンの剣を鞘に戻す所作は騎士にも見えた。
ルビアが先程繰り出した鋭い剣突は<刺突>のような鋭い一撃だった。
ルビアがクラン【蒼い風】に所属し冒険者として活躍できた理由には大癒だけではないと理解できた。
メリアディ様の加護を活かした剣突スキルかな。
そのルビアに、
「ルビア、大丈夫か」
「……少し動揺しましたが、はい」
「エンチャント!」
「――シュウヤたちとルビアも、俺たちを救ってくれてありがとう」
ザガとボンとルビアは抱き合う。
「おう、無数の短剣や魔矢の飛来は、大丈夫か」
「うむ、一つも飛んで来なかった。シュウヤが、金色の魔槍を振るい回し、飛び道具のすべてを弾くさまは記憶の通りだが……実際に見るのとは、やはり、迫力が異なる! 女の魔槍使いを仕留める動きも、実に巧み、見事だった」
「エンチャント!」
「はい! 素敵でした」
ルビアも褒めてくれた。
「おう、上手くいった」
ザガは頷きながら、無数の死体を見て、
「しかし、この……魔人と人族とドワーフたちのクソ共は……俺たちだけでなく近隣の住人たちをも襲うつもりだったとはな……」
「エンチャント……」
ザガとボンは悲しげに語る。
すると、ヴィーネがコソデイローが使っていた魔杖を拾い寄ってきた。
「ご主人様、コソデイローは【幻獣ハンター協会】と言っていましたね」
「あぁ、【闇の枢軸会議】の大枠の中の一つの組織だ」
「【幻獣ハンター協会】も、今回の魔人キュベラスたちの【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】とラドフォード帝国の特殊部隊と連係しつつペルネーテの破壊工作を行っていたということでしょうか」
「そうだろうな」
ミレイヴァルが、
「コソデイローとレムカはルビアを標的と語っていましたね」
「たしかに言ってた」
レガランターラも、
「紅色の髪の魔槍使いレムカは、魔人キュベラスに様を付けていた。そのことからレムカは【セブドラ信仰】に所属している魔人だったのでしょうか」
と発言。ミレイヴァルは、
「はい、コソデイローとレムカはルビアたちを拉致し犯す算段の話をしていましたし、周囲の店も襲う算段だったようですからね、この地域で暴れる予定だった魔人たちの首謀者が、【幻獣ハンター協会】のコソデイローだったと仮定はできます」
頷いた。
ヴィーネとザガとルビアとレガランターラも頷く。
ボンは静かに丸い瞳で「……」俺たちを見ている。
先ほどの半透明なガントレットとグリーブは消えていた。
ヴィーネはガドリセスの剣を透魔大竜ゲンジーダの胃袋に仕舞うと、そのアイテムボックスから、
「ご主人様、コソデイローが使用していた魔杖をしまいますか?」
「ヴィーネが使わないのなら、俺が回収しとくか?」
「はい――」
と魔杖を手渡された。
その魔杖を戦闘型デバイスのアイテムボックスに入れる。
「では、大通り沿いを見てきます」
「了解した」
ヴィーネは身を翻して、大通り沿いに戻った。
ミレイヴァルとレガランターラは、
「コソデイローたちは、ペルネーテ南側でテロを起こす首謀者だった?」
「そうかも知れません」
「リャインの依頼もその序でか?」
「推測ですが、はい」
レガランターラとミレイヴァルは頷いた。
ザガとボンも頷く。ルビアはリャインの死体を再度見て、少し体が震えていた。
ミレイヴァルは、
「コソデイローは幻獣ハンターなのでしょうか、ヴィーネと戦うコソデイローは幻獣らしき存在を出していなかったです」
「分からないが、幻獣は実体化しないタイプで、<魔闘術>系統とか? レムカは魔槍に蛇の幻影を発生させていたが……【セブドラ信仰】だと思うからな」
「はい、シュウヤ様はレムカに有無を言わさず、見事に仕留めました」
頷いた。
レムカが使用していた短槍の魔槍は転がっている。
それを回収。ミレイヴァルは、
「はい、【幻獣ハンター協会】と言えば、過去に狼月都市ハーレイアに潜入していましたよね」
「していたな」
ルビアとザガとボンに【幻獣ハンター協会】のコソデイローが興味を抱く?
【セブドラ信仰】に所属しているだろうレムカは、俺に交渉してきたから三人を欲する理由には、魔命を司るメリアディと呪神アウロンゾかな。
【蒼い風】のリャインが漏らした情報をたまたま得たコソデイローたちだったのなら話は早いが。ミレイヴァルは、
「【幻獣ハンター協会】と繋がるバーナンソー商会とヘヴィル商会などを持っていた元上院評議員ドイガルガは、サーマリア王国の王都ハルフォニアに逃げています。そして、神姫ハイグリアは、そのドイガルガを追い掛けてハルフォニアに潜入したと聞いています」
と語るとレガランターラも、
「はい、シュウヤ様の記憶を得てますので理解できます。サーマリア王国には、魔神バーヴァイ様の関係で、いずれは向かうとも」
頷いた。俺の記憶を知っているから情報の整理が早い。
ミレイヴァルは、
「斧使いのドワーフたちは、コソデイロー様とレムカ様と言っていたので、冒険者崩れでしょうか」
「たぶんそうだろうな、では、武術街に行こう」
「あ、魔人たちの死体とアイテムボックスを回収しないのですか」
「しとく――」
「あ、わたしも調べましょう」
「はい、わたしも調べます――」
ミレイヴァルとレガランターラと共にバメランとコソデイローとレムカたちの残っている死体を調べ出す。血はすべて吸い取った。
バメランが使っていたツヴァイヘンダーと似た魔剣を回収。
魔剣レムカの腕にアイテムボックスらしき腕輪を発見。
その腕輪の外し方は、腕をぶった切るしかないのかと思ったが、表面を押すと留め金が上に出るタイプだった。良かった。留め金を外し腕輪を外して、それも戦闘型デバイスに回収した。
腰ベルトに付いた袋と小箱ごと回収。
new:ル・クルンの魔杖×1
new:蛇神チャスラの魔槍×1
new:ゲルダーノ咆哮×1
new:幻魔ノ腕輪ボックス×1
new:幻獣アゲロンの腰ベルト×1
new:魔造小箱×1
new:爆弾ポーション×5
ゲルダーノ咆哮を押して取り出すと、ツヴァイハンダーの魔剣が現れる。
それを再び戦闘型デバイスに仕舞う。
アイテムボックスが三つか。
するとミレイヴァルが、
「この魔力に覆われている小型ケースは――」
ケースを開けると小型の魔道具が入っていた。
表面の殆どを骨の網目の素材か、一部は金属の塊で、ボタンとダイヤルが数個付いている。小型のスピーカーかラジオのような無線機にも見えた。
網にはチェーンに留め金が付いたいる。
ベルトにも付けられるタイプか。
呪いの品には見えないから回収して大丈夫だろう。
ミレイヴァルは俺を見てきた。
「それは連絡用の小型の魔道具かも知れない。今は、ミレイヴァルが持っておいてくれ」
「はい」
ミレイヴァルとレガランターラは頷き合ってからコソデイローとレムカなどの死体からアイテム類を回収していく。
すると、レガランターラが、
「シュウヤ様、先ほどのクズたちの会話をよく我慢しましたね……」
「あぁ……怒りよりも冷めた目で見ていた、アホも極まればなんとやら、自分がやっている行動を理解できていないとな」
「なるほど、わたしは切れそうで……ですが、シュウヤ様の槍裁きを見て少し落ち着きました」
「エンチャント!」
ボンもレガランターラの言葉に同意するようにアピール。
切れそうだったのか?
ミレイヴァルも、
「そうですね、わたしも聖槍シャルマッハを握る手を強めましたよ……ですが、今夜の騒ぎに乗じて、周囲の民家などの襲撃をもくろんでいたなんて……恐ろしい連中です」
「そうだな、あ、シュウヤ、ここの路地に居ると、他の魔人たちがやってくるってことか?」
ザガの言葉にミレイヴァルが背後の路地を見る。
だれもいない。
レガランターラはヴィーネが出た大通りを見るが、ヴィーネ以外に、魔素の気配はない。
「では、武術街の家に行こう――」
「はい――」
<鬼想魔手>と<導想魔手>と<鎖>の土台を作る。
「よし――」
「エンチャッ!」
「はいっ」
ザガとボンとルビアにミレイヴァルを乗った。
レガランターラは低空を飛行しながらヴィーネの頭上で待機。
俺も低空を飛翔しながらヴィーネが居る大通りに出た。
「戻ろうか、途中で出会う敵が居たら倒しにかかる」
と左手を出した。
ヴィーネは、
「――はい!」
と左手を掴んでくる。
そのヴィーネの手を握りながら、
「行きましょう!」
と<武行氣>を強めて上昇――。
一瞬で、宗教街の通りを見ながら武術街に到着。
まだ魔法の膜は展開されている。
そこに突入すると、通りを進むリコの姿が見えた。
挨拶しておきたいが、先に自宅の大門が見えたから――。
と、ヴィーネが手を放し先に大門を超える。
「あ、器とヴィーネにレガランターラとミレイヴァルに皆だ!」
「「器様――」」
俺もやや遅れて大門を超えた――。
沙・羅・貂たちと一緒にゆっくりと降下。
黒猫とポポブムたちが右の厩舎に居る。
「エンチャッントォォ!」
とボンが<導想魔手>から離れて跳んで豪快に庭に着地している。
と、庭に居る方々がかなりの数――。
アジュールの屋敷と庭の左側に聖鎖騎士団の野営地が出来上がっている。
面白いが――石畳に着地。
ザガとルビアも<鬼想魔手>と<鎖>の土台から飛び降りた。
直ぐに<鬼想魔手>と<導想魔手>と<鎖>の土台を消す。
「おぉ……こりゃ、ここは軍の野営地か?」
とザガが半笑いで語る。
まさにそんな感じだ。
「――主!」
「お帰りなさいませ、総長!」
ファーミリアたちと会話していた<筆頭従者長>アドゥムブラリと<筆頭従者>メルが直ぐに寄ってくる。
「メル、ザガのところにも敵が居たんですよ」
とヴィーネが報告を開始。
レガランターラとミレイヴァルも、アドゥムブラリと会話を始めた。
続いて、コレクターのシキと聖鎖騎士団団長ハミヤとエラリエースと<筆頭従者長>ビュシエが寄ってきた。
血魔力の血魔法やブラッドクリスタルの会話でもしていたんだろうか。
レムロナ、フラン、<筆頭従者長>クレイン、シャナ、<筆頭従者長>ユイ、<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロス、ラファエル、エマサッド、ハンカイ、<従者長>ブッチ、エトア、ラムー、<筆頭従者長>ルマルディ、カズン、ベニーが寄ってきた。
ファルス殿下はその背後、樹が生えている付近で専用の椅子に座っていた。
メイド長のイザベルとアンナとクリチワにミミを含めた俺の屋敷のメイドたちと、ファルス殿下のメイドたちと一緒だ。
足下には絨毯が敷かれている。
野外用の敷物があるのようだな。
母家に入っていてもらって構わないのだが、
エヴァとレベッカはいない。ママニとキサラたちを連れて行くと言っていたからな。
「ンン、にゃおぉ~」
「――プボプボォ~」
お、ポポブムが駆けよってきた。
勢いがあるから、皆が左右に退いていた。
あはは、面白い。
と、ポポブムの頭部には黒猫が乗っている。
相棒の触手がポポの首下を撫でていた。
「ははは、ポポとロロ!」
「プボプボォッ!」
とポポブムに抱かれる勢いで、頭突きを腹に受ける。
ドッとした重さを得たが、両手でがっしりとポポブムの大きい頭部を受け止めた。ポポブムの鼻息が荒い。
そのポポブムから飼い葉の匂いと、藁の匂いを得た。
――懐かしい、アキレス師匠とレファの匂いも不思議と得たような氣がした。
すると、ポポブムの頭部に居た黒猫が見上げて、
「ンン、にゃお~」
「ロロ、皆を運んでくれてありがとな」
「ンン――」
相棒は喉音を響かせながら跳躍し、肩に乗ってきた。
可愛い、フガフガしている鼻息を耳元に得た。少しこそばゆい――。
が、肩の竜頭装甲を意識し、
「ングゥゥィィ」
衣装が切り替わる瞬間に肩に居た黒猫は跳躍し、着地。
魔竜王の素材からの防護服から牛白熊の素材のラフな格好に切り替えた。
「にゃ~」
と、黒猫に耳朶を甘噛みされた。
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




