千五百二十七話 ザガとボンとルビアと記憶共有に魔命を司るメリアディ
エヴァとレベッカの血文字の返事に仲間を連れていくべきだと血文字を送ると、
『ん、分かった、ママニとサザーとフーと一緒に行く』
『おう、そのほうが確実、リリィとディーさんに宜しく』
『ん』
『了解したわ、キサラとサラと一緒にベティさんの店に行くから』
『あぁ、ベティさんよろしく』
すると、レガランターラが、
「ザガさんとルビアさんにボン君、初めまして、わたしは光魔龍レガランターラ。<光魔龍の従者>を持ち、シュウヤ様の従者です。八大龍王を目指している龍であり、陰陽龍、乾坤レガランターラが本来の名。乾坤ノ龍剣レガランターラの武器にも変化が可能なのです――」
光魔龍レガランターラは一瞬で乾坤ノ龍剣レガランターラの武器に変化を遂げた。
その武器を握った。
「おぉ~!」
「エンチャント!!!」
「凄い、龍剣!」
驚いている皆の顔が懐かしい――。
龍の意匠が素晴らしい柄巻に<血魔力>を送ってあげた。
乾坤ノ龍剣レガランターラの心から『ぁんっ』と喘ぎ声が響くと剣身から緑色と桃色の魔力粒子が漏れていた。
その感じている乾坤ノ龍剣レガランターラに念話で
『レガランターラ、送っといてあれだが、大丈夫か』
『はい! うふふ、<血魔力>を得て、成長に繋がります。そして、快感を得るほど気持ちがいいのです!』
『おう、成長するなら時々プレゼントしよう』
『やった……嬉しい……』
『では、戻ってくれ』
『はい!』
乾坤ノ龍剣レガランターラは一瞬で光魔龍レガランターラに戻した。
銀と緑が混じる長髪。
細い眉毛、大きい双眸は薄緑色。
ほっぺは斑に朱色になっている。
小鼻の孔も小さい、唇も可愛い。
首と鎖骨の龍門の模様が素敵だ。
<血魔力>の中を胡坐を掻いた姿勢のまま浮いている。周囲に小さい昇竜の魔力を行き交わせていた。
レンと似た和服に沙と羅と貂たちと同じような魔法の衣を羽織っている。
「――エンチャッ、エンチャント!!」
「おぉ、血の<血魔力>か、浮いている……」
「わぁ……」
ボンとルビアは、レガランターラが発している<血魔力>の中に入っていた。
血を触ろうと腕を動かしている。
二人とも<血魔力>が平気か。
強烈な闇属性ではないということだ。
同時に光属性にも親和性がある?
ザガと皆を眷族に迎えたいが死生観はアメリのようなことある。
『死生命あり』は論語(顔淵)の言葉にもあった。
ザガは、
「魔槍杖バルドークの変化といい、八大龍王を目指す龍娘を眷族に向かえるとは、光魔ルシヴァルは途方もない種族なのだな……」
「エンチャ……エンチャ……」
「はい……感動です、<血魔力>は美しい、そして、これがシュウヤ様の眷族の源……」
ザガとボンとルビアの言葉に頷いた。
ルビアを眷族に誘ったら魔命を司るメリアディがどう出るか……。
そして、その魔命を司るメリアディも知ると思うが、〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んでもらうか。
ザガはレガランターラに近付いて、
「光魔龍レガランターラよ、俺はザガだ、宜しく頼む!」
「エンチャント!」
「わたしはルビアです。よろしくお願いします」
「はい、シュウヤ様の記憶を見ているので、皆様のことは知っています。偉大な鍛冶屋のザガ、ボンが<賢者技師>なのですね。ルビアは《大癒》が使える剣師だと」
「ほぉ、記憶か」
「エンチャ!」
「はい、わたしたちのことを記憶で……」
「あぁ、俺の記憶を共有可能な、〝知記憶の王樹の器〟という秘宝を魔界セブドラで入手した」
「記憶共有に、魔界で……秘宝を!」
「エンチャ、エンチャント!」
「……凄い……」
「おう、俺の記憶入りの液体を飲めば一瞬だ。脳内時間は長いが、外の時間では一瞬の間で終了、手間は掛からないが、あまりの出来事に気を失う方々もいる」
「「「……」」」
「ザガたちにも、俺を知ってもらうため、後で飲んでほしいかな」
「おぉ……俺がシュウヤの……嬉しいが、記憶共有、初めての言葉に体感となるからな……」
「エンチャ、エンチャ、エンチャント!」
ボンは、俺の前で両手を上げてダンスを行う。
懐かしい、相棒がいたら不思議な時間が始まっていたはず。
「その〝知記憶の王樹の器〟の液体はあとで飲んでもらうとして、屋敷にきてくれるかな」
「行こう、避難ではなく、ここを畳んでシュウヤのところに住んでもいいか?」
住むか、
「いいぜ、自由に住んでくれていい」
「おぉ! ありがとう、ルビアも聞いたな? ボンもシュウヤのところに引っ越すぞ!」
「エンチャント!」
「はい! これもシュウヤ様たちと行動を共にしろとの、光神ルロディス様の采配でしょう……是非お願いします」
引っ越しか。何かあったんだろうか。
「店の売れ行きが、あまりかんばしくないのか?」
「それはあまり関係がない、個人のやり取りで済むからな、問題は、ルビアの【蒼い風】だ」
問題? とルビアを見た。
ルビアは頷いて、
「はい、リャインたちが、しつこくつきまとってきました。ですから冒険者クラン【蒼い風】を辞めました」
「え……」
「なんと」
「まぁ……」
ヴィーネとレガランターラとミレイヴァルも驚く。
レガランターラも俺の記憶を見て知っているからびっくりか。
「離脱を決めたあとも、リャインたちが、この近辺に現れて嫌がらせを行うようになったこともある」
「リャインと一味は、金貨を払って、赤の他人にも嫌がらせを行うこともします」
「団長のカシムだったか、相談をしても止まらないか」
「はい、エスカレートしました」
「そのリャインを見たら、張り倒すがいいかな?」
「え、はい!」
「シュウヤなら安心できる」
「エンチャント!」
ボンとザガにも何かあったのかな。
リャインとは、前に一度見ている。
イケメンの男か。ルビアは美少女だからな、狙ったのか。
そのことではなく、
「では、荷物の梱包を手伝おう」
「あ、大丈夫です、アイテムボックスもありますし、冒険者用の装備だけですから部屋で着替えて荷物の整理をしてお終いです!」
「了解」
「エンチャ!」
ルビアもボンとザガは工房から地続きの部屋の中に向かう。
ミレイヴァルは、
「陛下、先に通りを見ておきます」
「おう」
「あ、リャインを見かけたら手足とアソコを潰しますか?」
「賛成です。しかし聖槍シャルマッハが穢れる。翡翠の弓で仕留めます」
「「おう」」
「……」
ザガとレガランターラは何も言わない。
「見かけたら倒していいが、魔人たちの争いもあるからあまり派手なことはしないでいい」
「「はい!」」
二人は敬礼をしてから身を翻し工房から外に出た。
レガランターラは、
「【闇の教団ハデス】の連中も都市で暴れるのなら、そのリャインとかいう乱暴者を巻きこんでほしいですね」
「そうだな、リャインとかいう存在は害悪だ」
「はい」
レガランターラは、工房内部の内装と置かれてあるアイテム類を見ていく。
ザガに、
「荷物の整理は大変だと思うが」
「心配せずとも、準備済み。直ぐにでも旅立てるようにな」
「そうだったのか、この時間帯に作業していたのは、その理由も?」
「いや、それはたまたまだ。起きて作業していたのは、外が騒がしいことに、ボンが少し様子が変だったのだ」
「ボンが……」
「うむ、ボンが外に出て虫とロロの匂いを得たと、エンチャ、エンチャ、エンチャと騒いでいたのだ」
「相棒の匂いを得たか……虫の知らせってことかな」
「あぁ、それに加えて都市が騒がしい。何かが起きているのかもしれないと胸騒ぎをしていた」
「なるほど」
「では、少し準備をする」
「了解」
「仕舞うのも移動も直ぐだ――」
ザガは腰に下げていた携帯用アイテムボックスに魔力を込めた。
途端に、ザガのハンマーが、その携帯用アイテムボックスの中に吸い込まれて消える。
ザガは「ルビアの稼ぎも中々に俺たちを豊にした――」と言いながら目の前の金床を両手で抱えて持ち上げる。と、その金床も一瞬でスカッと音が鳴るように携帯用アイテムボックスの中に吸い込まれていた。
金床の重さを体で表現していたザガは、『なんのことはない』といった快活な笑顔を見せていた。
「へぇ、重そうな金床も特殊だったのかな」
「うむ!」
と元気な声で応えたザガは振り返り手袋を外した。
その手袋も携帯用アイテムボックスの中に吸い込まれる。
頭にかけていたプロテクターも携帯用アイテムボックスの中に消える。
机の上の羊皮紙の束を触ると、それも吸い込まれる。
更に、緑皇鋼の十キロはありそうな塊と、白金貨が豊富に入っていそうな四角い箱と、筆記用具、液体金属が詰まっている不思議な電気ポット類と、半田ごて、銅コイル、腕環、ナイフ、ヤスリ、魔法の布などが携帯用アイテムボックスの中に吸い込まれて消えた。
「その腰のアイテムボックスは、高級品だな」
「おう、俺のようなドワーフ用の小物入れに見えるが、この腰の箱は立派な伝説級のアイテムボックスなのだ。名は〝魔念の次元箱〟だ――」
「へぇ」
ザガは、陳列棚の壁の前に移動し、その壁の中にめり込んでいる箱の表面を片手で叩く。
と、その小型の箱が壁から盛り上がるように横に出る。
その小型の箱の横のボタンを太い指で押していた。
途端に、棚に陳列されていた魔鋼、鉄球、鎖、魔剣、魔槍、様々なアイテムと長い棚と壁の一部が浮き上がりながら縮小すると、壁の横に出た小型の箱に吸い込まれた。
更に、屋敷の壁が素材に分解される。
内部のアイテム類も縮小しながら、それが畳まれるように小型の箱の中へと吸い込まれて消えた。凄いな、工房の解体を途中まで自動化しているような印象を受けた。
引っ越しも楽か。
ザガは、その小型の箱も腰の〝魔念の次元箱〟の携帯用アイテムボックスの中に仕舞う。
「壁と棚も格納とは魔造家の機能も?」
「その通り、収納壁箱バブラス。魔造家の技術の一環で作られた品だ。【蒼い風】の活動と、俺とボンもそれなりの冒険者たちから注文が増えたからな、白金貨は貯まる一方だった」
「へぇ」
ザガたちも結構な金持ちになったか。
すると、ボンとルビアが工房の中に戻ってきた。
ボンは野球帽をかぶって鎧が少し豪華になっている。
と、その帽子を脱いで自分のぼあんとした頭髪を見せた。
ドワーフらしい天然パーマ系の髪をアピールか。
そのボンは、俺があげた釣り竿も掲げていた。
「ボン、懐かしい! 俺が上げた品だな」
「エンチャ、エンチャント!」
ボンが同意するように片腕を真上に突き出していた。
ルビアは、二剣流用の装備に切り替わっている。
胸甲だけで、動き易そうな防護服か。
カシーンの剣と古代竜の剣を愛用しているようだ。
<魔闘術>系統も学びを深めたようだ。
魔力操作が前よりも巧み、確実に成長していると分かる。
前よりも、少し身長が高くなって乳房も成長した印象がある。
メリアディの恩恵の無詠唱で特殊な回復魔法を使用できるが、もしかしたら回復担当の後衛より、前衛としての経験が優っているお陰で戦闘職業も剣士級から剣師級まで成長しているかも知れない。
『閣下、先ほどの魔命を司るメリアディの幻影といい、やはりルビアは神子。そして、成長力が加算されるような恩恵を得ているのかも知れません』
『あぁ』
『メリアディ様と狭間を越えた繋がりを持つのは希有な存在です』
『閣下とゼメタスとアドモスの楔の繋がりのような繋がりを、魔命を司るメリアディとルビアは有しているのかもですね』
『あるだろうな』
グィヴァも俺の記憶からルビアを知っていたが成長には少し驚いたか。
するとボンが、俺の横にきて、
「エンチャ、エンチャッ、エンチャント~?」
と聞いてくる。ザガが、
「あぁ、ボンはロロが居ないがどうしたと聞いている」
「ロロは自宅だ。巨大な黒猫の頭部に乗せたファルス殿下と大騎士レムロナとフランとメイドたちを自宅に運んでいたところだった」
「……ここを支配するファルス殿下にそれを守る大騎士が避難とは、ラドフォード帝国は本格的に迷宮都市ペルネーテの襲撃を行っているのか」
「あぁ、ファルス王子を守り、王子を殺そうとしていた暗殺者たちと、周囲の兵士たちは倒したが……ガルキエフは亡くなった」
「……あの大騎士ガルキエフが……だからシュウヤの屋敷に避難したわけか」
顔色を悪くしたザガに、
「おう、では、〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んで記憶を共有しようか」
「了解した」
「はい!」
「エンチャ~」
〝知記憶の王樹の器〟を取り出して<血魔力>を送った。
直ぐに〝知記憶の王樹の器〟の中に神秘的な液体が溜まる。
早速その液体に指を入れて、<血魔力>を再度注いだ、慣れないが記憶の操作を開始――。
最初の記憶から最近までの記憶を――。
深海の中を潜水艦に居る印象で記憶を操作していく――。
エッチな部分はまるごとカット。出来た――。
俺の記憶が入り液体で満ちている〝知記憶の王樹の器〟をザガに渡した。
「この液体を飲めば……」
「おう」
ザガは両手に持った〝知記憶の王樹の器〟を傾けて神秘的な液体を飲む。
意外に倒れずと思ったが目元が揺らいで泣きながら倒れ掛かった。
直ぐに〝知記憶の王樹の器〟を取りザガを支えた。
「シュウヤ……お前は……なるほど……がんばっているのだな」
「お、おう」
とザガの力強いハグに少し圧倒されるが、そのままにした。
「魔槍杖バルドークが進化したのも頷ける経験だぞ!」
と離れるザガは、魔槍杖バルドークを凝視。
少しその魔槍杖バルドークを持ち上げて、
「あぁ、魔槍杖バルドークは『呵々闇喰』とか魔法文字が出るようになった」
と発言するとザガは嬉しそうに笑ってから、
「ははは! 魔槍杖バルドークは、シュウヤの<血魔力>をも何度も喰らっている証拠、シュウヤの記憶から文字を学んでいるのかもしれん」
「……」
頷く。ザガは、
「闇遊の姫魔鬼メファーラ様と魔皇メイジナに感謝だな、俺たちの魔槍杖バルドークを強化してくれた」
「あぁ」
「この胴金の魔印は魔皇メイジナの玉佩の印。シュウヤが助けたお礼が隠っていると分かる……神格を有した存在に感謝されるとは、シュウヤよ……」
と、そこで涙を流してから、魔槍杖バルドークを見て、
「ここに嵌める武器も六浄短槍ベギリアルを選択しているのは正解だろう。が、他の武器を嵌めることで違う効果が生まれるかもだぞ」
と、アドバイスしてくれた。
魔槍杖バルドークの角度を変えて胴金のところを見ながら、
「六浄独鈷コソタクマヤタクに六浄魔大斧ガ・ランドアでは、また違った効果か」
「うむ、ラムーか、スロザに鑑定してもらえたら、分かると思うがな」
「たしかに」
「最近は魔槍ラーガマウダーを使うようだが、魔槍杖バルドークの場合は、<柔鬼紅刃>で紅斧刃と紅矛から、嵐雲の穂先に穂先の形をいつでも変えられるが、闇遊の姫魔鬼メファーラ様の加工で紅斧刃が太くなったことで、暫くは紅斧刃と紅矛のハルバード形態を使うことに決めたようだな」
「分かるか」
「うむ、戦闘を見ていれば分かる。しかし見事な槍捌きばかりだ。あの判断能力の高さはどこからくる。と聞きたいが聞いても仕方ないな、がはは」
「はは」
ザガの豪快な笑いに釣られた、ザガは視線を強めて、魔槍杖バルドークを再び凝視し、
「……棟は前々よりもメイスや盾に活かせるようになったことも大きいか。髑髏の魔力は炎攻撃に活かせる仕組みがあると分かる。そして、古代竜の魂と俺たちのアウロンゾの能力も活かされたままなことも嬉しいぞ! とにかく、魔槍杖バルドークは、とんでもない神話級のアイテムに成長を遂げていることは確実だ……」
「あぁ、ザガとボンには感謝だ」
「ハッ……嬉しいことを……そして、闇遊の姫魔鬼メファーラ様が非常に美しい女神様でもあったとはな。更に知記憶の王樹キュルハ様が端正な男だとは思わなかった……闇と光の運び手装備も見事だ」
頷いた。
続いてボンにも〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んでもらうと――。
ボンは恍惚とした表情を浮かべて、
「エンチャ……エンチャ? エンチャァ……エンチャント!? エンチャァ……」
と何かを語る。
俺と俺の背後に何かを語る?
分からないが、少し面白い、倒れることはなかった。
「ボン、大丈夫か?」
と聞くと、ボンは俺の背に手を当て、
「エンチャ……エンチャント! エンチャ、エンチャント~」
最初は静かな口調だったが、途中から笑うように語っていた。
ボンのエンチャント語の翻訳を、ザガに頼むように視線を向ける。
ザガは、ボンを見ながら数回頷いてから、
「ボンは、シュウヤを褒めている。漢の中の漢だと、色々な神様と会った凄い魔英雄だと。そして、魔槍杖バルドークの製作に関われて……とても光栄だと、はは、俺と同じことを……」
「エンチャ……」
ザガは泣いてボンも泣いては、互いにガシッと握手して強大の絆を見せる。
続いてルビアにも飲んでもらった。
「……シュウヤ様の記憶……そんな、地下で……あぁ……」
と、気を失う。直ぐにそのルビアを抱くように支えたが――。
ルビアからゆらりと黒いオーラが噴き上がる。
『……光と闇を持つ槍使い、シュウヤよ、ルビアを守るために動き、ルビアの想いに応えて記憶を見せたのだな。妾に記憶が見られようと構わないと……』
『はい、貴女様は魔命を司るメリアディ様?』
『うむ……』
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