千五百二十六話 ん、光と闇がシュウヤの自宅に集結した!
エヴァ視点です。
ロロちゃんの尻尾の毛が柔らかくて、さらさらしてフッサフサ――。
ロロちゃんの大きい尻尾から離れて巨大なロロちゃんを見るように旋回していく。
ふふ、大きいロロちゃんを見るのは新鮮――。
そのまま上昇して大きいロロちゃんの頭部に居るファルス殿下たちを確認しよう――。
ロロちゃんの小さい触手が飛来してきた、目の前でプルッと音がして止まる。
触手の裏側には小さい肉球もあって可愛い。団子のようなモチモチな先端から骨剣が出るとは思えないけど、ここから骨剣が出る。
「ん、ロロちゃん、皆を運んでくれてありがとう」
「にゃぁ~」
ロロちゃんの小さい触手を右手で掴むと触手は右腕に絡み付いてきた。
「ンン」
喉声を鳴らしたロロちゃんは触手をゆっくりと収斂させて、わたしを自身の大きい頭部へと送ってくれた。優しいし、わたしの行動を先読みしてくれた――。
ぎゅっと小さい触手を握ると、
『えう゛ぁ』『だいすき』『えう゛ぁ』『こっち』『あたま』『みな』『いる』『みな、あめだまたべる』『あいぼう』『つおい』『ぶんぶん、たおした』『てき、くちゃいのいる』
と色々と気持ちを伝えてくれた嬉しい。
そんなロロちゃんの耳の産毛を見ながら――皆が居る頭部に着地。
ファルス殿下にレムロナとフランにメイドさんたちとキリエも無事。
「エヴァ」
「エヴァさん」
「ん、レムロナとフラン、王子も助かってよかった」
「「はい」」
「うむ」
わたしの手に絡み付いていた触手が離れて頭髪に吸い込まれたように見えなくなった。
笑顔が素敵な大騎士レムロナとフランも元気そうに見えるのは、空元気と分かる。
無理をしている。二人とも幽鬼族の血を引いている魔人、魔族よりだけど、光魔ルシヴァルではないから疲労は蓄積しているはず。
そして、暗殺者に命を狙われた第二王子ファルス殿下も無事をこの目で確認して、一安心、本当に良かった……キリエも笑みを浮かべてくれた。ファルス殿下は、
「エヴァ裏帳簿の貴族たちへの粛清以来だな、元気そうでなによりだ」
「ん、はい。殿下と皆さんがご無事で本当に良かったです」
「あぁ……シュウヤ殿と神獣と皆に感謝している。が……」
と殿下はガルキエフの遺体を見やる。
「ん、ガルキエフは残念」
ファルス殿下の双眸が哀しげに揺れる。一緒にガルキエフの遺体を見てから、
「……あぁ、本当に、凄く残念だ。わたしを叱ってくれたこともあったガルキエフは、わたしたちを守って死んだ……」
「……ん」
ガルキエフさんの遺体は国旗と氷のアイテムに包まれている。
ロロちゃんの触手が、そのガルキエフさんの頭部を撫でていた。
ガルキエフさんとは、キリエとフランとレムロナたちと一緒に、ファルス殿下と敵対関係中の貴族との交渉の場に参加してくれたことがあった……。
その時に猫ちゃんが大好きと聞いて少し盛り上がったことを思い出す……。
『黒猫ロロを撫でてみたいのだ』
と恥ずかしそうに言っていた。
……わたしも座ってロロちゃんの頭部の毛と触手を撫でて、安らかに眠っているガルキエフの頬に指を当てて、『……ガルキエフ、仇はシュウヤが取った。王子はシュウヤとわたしたちが守るから安心して、あと、裏で暗躍している悪者はぜったいに許さないし、シュウヤなら必ず倒してくれる……だから安らかに眠って……』と黙祷を捧げた。
ロロちゃんの触手がわたしの手に触れた。
『えう゛ぁ』『がるきえふ』『しんだ』『ざんねん』『あいぼう』『かつ』『げんき』
……ロロちゃんも分かってたんだね。涙が自然と出た。
レムロナとフランもキリエとメイドさんたちも皆が微笑みながらも涙ぐむ。
殿下は、
「白の九大騎士の詰め所の遺体安置所も使えないから暫くシュウヤ殿の屋敷を借りることなる」
「ん、はい」
そこでメルとユイが、ロロちゃんの頭部の上に着地すると、そのユイとメルとレムロナとフランとキリエたちが今後のことで話を始めた。
「治安の回復には、白の九大騎士の職員と兵士の生き残りの結集を図るべきです」
「姉さん、悪いけど詰め所ごと襲われたのなら、無事に逃げられた方が居たかどうか……」
「無理なら無理で、冒険者と連合している青鉄騎士団の生き残りと、わたしたちも合流をはかるべきだと思う」
レムロナとフランの語りにユイが、
「そうね、それでも合流は明日次第。今はわたしたち【天凛の月】とシュウヤに任せて」
と力強く語る。
メルも副長として「はい、わたしたちに任せてください」と重ねた。
「ふむ、拠点を得た気分と成ったから反撃を直に行いたくなってしまった」
「……賛成です。リノを失った感覚もある。そして、これの輝きもない、事務所ごとすべて破壊された証拠」
フランはアイテムボックスから紋章と焼き印が入った印籠を見せる。
ん、驚き、【幽魔の門】は最王手、そこを攻撃するなんて。
メルは、
「【幽魔の門】は最大手、そこを襲撃とは……【闇の枢軸会議】の【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】と魔人キュベラスに【御九星集団】の敵連合は纏まっていないのかも……暴走している組織もあるかも知れないわ、それに邪神連中って線もあるから今はなんとも言えない」
「ん……たしかに」
「ラドフォード帝国の特殊部隊に残置諜者の蜂起と、【闇の枢軸会議】の【セブドラ信仰】と【闇の教団ハデス】に【闇の八巨星】の【ラゼルフェン革命派】たちに、邪神の勢力が、我らの敵か……【天凛の月】の同盟たちも、それらの戦力に襲われている可能性が高いわけだな」
殿下の言葉にメルが、
「はい、先ほどの八頭輝の会合に出ていた【血星海月雷連盟】は、確実に【闇の教団ハデス】や【セブドラ信仰】から襲撃を受けたはずです」
「八頭輝か、有力な闇ギルドが増えて、十頭輝となったと、数が増えたと聞いている」
「はい、その中の【大鳥の鼻】や【ベイカラの手】がどうなっているのか読めません……【髑髏鬼】は敵側として盟主アルカル・メメルアと紅のアサシンなどは会合に出席していたので、今回の狂乱騒ぎには参加していないはず。代わりに【錬金王ライバダ】の【天衣の御劔】と【ラゼルフェン革命派】と十二海賊団【鵞峰ヴァクプドー】の人員が、帝国特殊部隊と、【セブドラ信仰】と【闇の教団ハデス】と組んで大暴れしている戦力と確定していいでしょう。【御九星集団】のキーラ側はあまり暴れていない可能性が高いです」
「クリムと手を組んでいるだろう【御九星集団】のキーラとやらが、騒乱の主犯格の一つと聞いていたが……キーラは、地下オークションに出席するつもりなのか」
殿下の言葉に、わたしも「ん」と同意すると、メルは、
「地下オークションの八頭輝の会合に出席していた以上は、地下オークションに何食わぬ顔を浮かべながら出席するつもりなのでしょう」
「ふてぶてしい女だ」
「はい、面が厚い……裏でコソコソと活動し、それでいて八頭輝の名目を、一応の、闇ギルドの面子を保とうとしているのだな……」
ん、フランがボソッと語る。少し怒っていた。メルは、
「はい、ふてぶてしいキーラ。そのキーラが盟主の【御九星集団】の連中と、ファルス殿下の暗殺の実行集団や帝国の特殊部隊とは、直接的には繋がっていない可能性が高いですね」
ん、メルの考察は正解だと思う!
あ、フランに続いてレムロナも怖い表情を浮かべている……。
メルの言葉が真実に近いから? あ、レムロナは昔、ラドフォード帝国と関係している商会を探っていたと聞いたことがある。
殿下は、
「ユイたちは魔人キュベラスなどと遭遇したと聞いているが」
ユイは頷いて、
「はい、聖鎖騎士団と魔族殲滅機関の一桁と戦っていた時に遭遇しましたが、攻撃というよりは逃げに徹していました。そして、殿下の暗殺を狙った集団とは遠い位置に魔人キュベラスと鎌を持った魔人が居たことは確認ずみ。今も、魔人キュベラスたちは、ペルネーテの南西の第三の円卓大通り付近を高速に移動している」
ん、ユイは<ベイカラの瞳>を持つ。
「……ふむ……」
「そうじて、【御九星集団】は表では活動せず、裏での活動に終始しているはずです。動くなら、地下オークションが終わった直後……」
皆が頷いた。ユイは、
「……王子邸と通り前に押し寄せてきた【セブドラ信仰】と【闇の教団ハデス】と帝国特殊部隊を主力とした【ラゼルフェン革命派】や【天衣の御劔】などの敵連合の兵士は、最低でも千人は超える規模だった。それをシュウヤたちが撃破したのだからデクオル伯爵、トニライン伯爵邸を占拠しているラドフォード帝国特殊部隊は孤立しているはず。だから青鉄騎兵団と冒険者たちの連合が、その伯爵邸を占拠しているラドフォード帝国特殊部隊を倒せるかも知れない。それに【白鯨の血長耳】も動いたはず。動いたのなら、そのラドフォード帝国特殊部隊を潰すはず。だから、朝になれば狂乱の夜の戦いの結果が自然と分かると思う」
ん、ユイの考察も凄い。たぶんあってる!
「うむ。さすがは、【天凛の月】の最高幹部のユイ殿。死の女神と呼ばれているだけの戦術眼をお持ちのようだ……感服した。そして、納得だ。今はシュウヤ殿を【天凛の月】の力を信じよう」
ん、ファルス殿下の表情には決意がある。レムロナとフランとメルは頷く。
レムロナは、
「はい、信じます」
「ならば、無事に地下オークションが開催されたのなら、わたしも出るべきか」
メルは、
「帝国兵との戦闘に大平原の戦争の結果も不明ですから、出席は、後々責められる口実を他の貴族たちに与えることになりかねません」
「ふむ……」
殿下は考えるように顎に指を当てた。
フランは、
「わたしたちがしれっと地下オークションに出席できたのなら、最初から危機はなかった。いつも通りの夜だったと、逆のアピール材料にも成り得ます」
「そうですね、それもあり得る。現状少なくとも、敵の初期段階の目標を阻害に成功していますから、十分なアピールに繋がるかと」
「「はい」」
「ん、敵には、プランBやCがあるとシュウヤなら言うと思う」
皆が頷いてくれた。良かった。
シュウヤはザガとボンとルビアちゃんをここに連れてくるはず。
あ、リリィとディーの店がある。あとで見に行こう。レベッカもベティさんの店に行くのかな。
「たしかに……敵も時間の経過と共に作戦を変えてくる……そう考えると不安だ」
「うむ」
「ふふ、そのプランBとプランCごと総長なら薙ぎ払いますよ」
「うむ、力強い、【天凛の月】の副長らしい言葉だ」
「はい、武術街の互助会もファルス殿下に協力するようですし、ここを拠点に徐々に敵戦力を駆逐していきましょう」
「ふむ」
メルは視線を斜め下に向ける。そこには武術街互助会のトマスさんが居た。
リコは近くには居ないけど、リコが前に出て活躍してくれていたとアンナたちから聞いた。殿下は、
「ありがたい、武術街に住まうトマス殿と神王位の上位たちと神王位上位級の実力を秘めた武芸者たちと、リコ殿たちだな」
「はい」
「そして、あの神殺しの総長が、このペルネーテで活動しているんですよ? それがどれほどのことか……更に言えば、屋敷に居る聖鎖騎士団とヴァルマスク家とシキたちを見てください。光と闇が、ここに集結している。こんな光景は、生まれて初めて見ます。更に言えば、南マハハイム地方の歴史始まって以来の快挙かと密かに考えていましたが、どうでしょうか」
メルの言葉に、同意! たしかに、そう。光と闇が結集した!
「それはたしかに……」
「「はい」」
「ヴァルマスク家とは噂でしか聞いたことがないが……闇中の闇と聖鎖騎士団が……凄いな、たしかにそうだ……」
ん、光魔ルシヴァルは、シュウヤは皆を繋げられる!
ファルス殿下は明るい顔つきでわたしを見て、
「エヴァよ、話を変えるが、メルも皆もだが、空を飛べるようになったのだな」
「ん、はい。飛行術の魔法書をセナアプアで得ました」
「【血月布武】のシュウヤとレザライサたちはネドー派を潰し、塔烈中立都市セナアプアで名を上げた。浮遊岩と魔塔に【血銀昆虫の街】などの権利を獲得したと聞いてる。飛行術の魔法書もそれ関係で入手しやすくなったのか?」
「ん、はい。飛行術の魔法書は【天凛の月】支部の幹部の一人、隻眼のビロユアンから頂きました」
「ほぉ……隻眼のビロユアン……」
王子はメルを見た。メルは、
「――はい、ビロユアンは猫好きで隻眼の空戦魔導師。嘗ては評議会副議長ラモンド・ルシュパッドに仕えて【緑風艦】の空魔法士隊を率いていた強者です。ネドー派と魔塔セルハードを巡る戦いの最中、捕らえて捕虜にしたことが切っ掛けです」
レムロナとフランもメルのビロユアン情報を知っているように頷いていた。
猫好き空戦魔導師ビロユアンは、それなりに名が通っていた?
あ、フランは【幽魔の門】経由でも情報を得ているのかな。
「空戦魔導師ビロユアンを捕虜か」
メルは頷いて、
「はい、ビロユアンはルシュパッド魔法学院を守る立場の空魔法士隊【緑風艦】であり、その隊長の空戦魔導師。しかし、評議会副議長ラモンド・ルシュパッドは、【緑風艦】の空魔法士隊とルシュパッド魔法学院を捨てて逃げた。そのビロユアンは、飛行術の魔法書など貴重なアイテムが保管されている宝物庫にも出入りが可能な魔法上級顧問のジェイスとも知り合いでした。そうした関係から、学生や飛行士隊に必要不可欠だった飛行術の魔法書を大量に入手できたようですね」
上級顧問の知り合いがジェイスさんなのね。
「ほぉ……ジェイス、聞いたことがないが、そのような存在がいたのだな」
「はい、ジェイスは【幻瞑暗黒回廊】に多少は通じている大魔術師級の強者でもある」
「ルシュパッド魔法学院の上級顧問は相当な実力者でもあると」
「はい、当然に、魔術総武会の幹部でもあるはずです」
魔術総武会の幹部……。
そこまではシュウヤたちと話をしていなかった。
ファルス殿下は、
「……クリムと、魔術総武会の幹部の宮廷魔術師サーエンマグラムと従兄弟の、魔法学院ロンベルジュ魔法上級顧問のサケルナートたちとも関係があるということか?」
「あるかも知れません、更に、これは推測ですが、セナアプアの魔塔ナイトレーンの魔術総武会のセナアプア支部の大魔術師たちが、ペルネーテとグロムハイムの各魔法学院や魔術総武会の支部の大魔術師たちと【幻瞑暗黒回廊】の内部で内輪揉めを起こしている? または、他の闇神リヴォグラフの勢力との激しい戦いが起きていて、その影響もあるかもです」
メルがそう答えると、レムロナも、
「……あ、【幻瞑暗黒回廊】の移動方法が、ありましたね。はい、サケルナートが居る魔法学院ロンベルジュはペルネーテにもあります。王都グロムハイムの魔術総武会の魔法ギルドも王級内部にあり、【幻瞑暗黒回廊】もありますし、宮廷魔術師サーエンマグラムもそこに常駐している……」
大騎士レムロナの言葉に、フランと殿下は頷いて、
「ふむ……そうなると……父上たちが心配だ」
「はい、シュウヤの智慧、意見が聞きたいところですね」
「うむ、まさに……」
第二王子ファルス殿下の強気な態度は消えている。
シュウヤを頼っている、分かる。
シュウヤは冷静沈着で裏で仕掛けている側の思考を読もうと試みている。ザガとボンとルビアを助けながら、色々と考えて皆を助けるにはどうしたらいいかと、考えているはず。
メルは、
「因みにルシュパッド魔法学院の存続は、ペレランドラに名を変えての存続が決まっています。空魔法士隊の【緑風艦】は潰れて解散が確認されています」
「なるほど……メル副長、ありがとう」
「はい」
殿下は空を飛びたいのかな。魔法使いの戦闘職業が必須だけど……。
すると、メルが、
「殿下と皆さん、そこの総長の屋敷に入りましょう。魔造家はお持ちかと思いますが、庭も広いので、総長なら樹で家も直ぐに造ることも可能です。あ、ではロロ様、殿下たちを下ろしてあげてください」
「にゃおお~」
ん、ロロちゃんの体からびゅっとすごい勢いで触手が出た。
触手は一瞬で皆の体を絡め取ると、
「ぬおぉぉ――」
「――わゎぁぁぁ~」
「「「あぁぁぁ~」」」
皆は、もう庭に居た。
ロロちゃんは、もう何重、何百と、こうしたことをやっている。
ファルス殿下とメイドたちとキリエも慌てていたけれど、庭に居る方々を見てから、見回している。わたしも、その皆がいる傍に着地した。
「ンン――」
ロロちゃんは一瞬で、小さい黒猫に変身。
隣に着地してきたレベッカの足に頭を擦りつけていた。
レベッカはロロちゃんを抱き上げて、ロロちゃんの頭部にキスをして、片足の肉球をギュッとしてからわたしを見て、
「エヴァ、シュウヤは互助会がある武術街に家を買ったのもこういう時のためだった?」
「ん、たまたまと言うと思うけど、色々な神様の導きがあるからだと思う」
と言うと、レベッカは微笑んでロロちゃんの片足を掴む右手を少しあげていた。
ロロちゃんはレベッカを不思議そうに見上げてなすがまま。
レベッカはロロちゃんの片足にチュッとすると、ロロちゃんもお返しのペロペロをレベッカの頬に返していた。二人とも可愛い……。
「ふふ、ロロちゃん、大好き~」
とお腹にキスされている。ロロちゃんは気にせず、背を伸ばし身を捻って、両前足をわたしのほうに向けながらレベッカの両手から離れた。
「あぁ~」
と残念がるレベッカ。
ロロちゃんはスマートな動きでわたしの足下にきたから魔導車椅子に変化させた。
座ると、直ぐにロロちゃんは「ンン――」と喉音を鳴らして太股の上にきて、右手の掌と指を舐めてくれていた。うふふ、ざらざらした感触は好き。
「ふふ~」
「楽しそうだが、本番はこれからさね」
「ん、本番、戦いは激しくなる?」
「あぁ、クラブアイスの解放といい、偶然とは思えない」
「ん、シュウヤなら大丈夫、先生もいる」
「ふっ、わたしよりもシュウヤなら大丈夫は納得だ。だが、ここは黒き環の上に存在する迷宮都市ペルネーテだ。昔から三つ巴の戦力が争う都市がペルネーテ」
ん、その通り、レベッカたちは足下の地面を見る。
そのレベッカは、先生に、
「邪神たちの眷族たちが動くってこと?」
と質問していた。先生は、
「この騒ぎに乗じているはずさ。クラブアイスの解放も関連してくるかもしれない」
「「「……」」」
皆の顔色が様々に変化。
ミスティとヴェロニカは、ヴァルマスク家のファーミリアさんと聖鎖騎士団の団長ハミヤさんを見てから先生に視線を戻し、
「邪神たちとニューワールドの魔王たちがクラブアイスを襲う?」
「可能性はある」
「そのクラブアイスは封じられるほどに強い存在だから、魔人キュベラスなどと個人で戦わない限りは大丈夫とは思うさ」
先生の言葉に皆が頷く。わたしもそうだと思って頷いた。
「うん、迷宮の十五層の異世界ニューワールドを経験しているクラブアイスたち、魔王級モンスターのエグワードメタルと邪神の使徒たちと三つ巴の戦いを経験しているからね」
レベッカの言葉にミスティと先生は頷いた。
そのミスティが、
「エヴァ、マスターが武術街の通りの空に居たようだけど、見えた?」
「ん、チラッと見えた。レガランターラを出していた」
すると、近くに居た沙が、
「ふむ、シャナが望む秘宝〝紅玉の深淵〟の在り処が、レガランターラの<九山八海仙宝図>のゴルディクス大砂漠に載っていたのだ」
と沙が教えてくれた。そのシャナは、こちらを見て、
「はい、シュウヤさんたちもゴルディクス大砂漠に向かうと、わたしも一緒に向かうことなりました!」
「ん、よろしく!」
「「よろしく~」」
「はい!」
すると、キサラが、
「秘宝も重要ですが、シュウヤ様は、闇と光の運び手です。メファーラの祠を有した黒魔女教団の総本山を建て直すことを優先します」
キサラが力強く宣言する。
すると、ファーミリアさんが拍手をして、
「ふふ、闇遊の姫魔鬼メファーラ様と光神ルロディスが認めた闇と光の運び手装備は素敵でしたわ……そして、シャナさんはシュウヤ様から直に、ゴルディクス大砂漠に誘われたのですね、実に、羨ましいですわ」
と発言すると、他の吸血鬼たちは拍手をしていたが止める。
ファーミリアは構わず、シキと会話を始めていく。
シャナは、<筆頭従者長>ビュシエと――。
<従者長>サラちゃんと――。
<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスと――。
<筆頭従者長>ユイと――。
<筆頭従者長>の先生と仲良く話をしていく。
ふふ、シャナは注目を浴びて頬を朱に染めていた。
ラファエル、エマサッド、ママニ、サザー、フー、ハンカイ、ブッチ、エトア、ラムーは、聖鎖騎士団の方々とヴァルマスク家の方々に、シキたちと会話をしていた。
未だに信じられないけど、光と闇の勢力が会話をしていた。
でも、聖鎖騎士団のパーミロ司祭様とキンライ助祭様は、あまり喋っていない。
パーミロ司祭様は、ヴァルマスク家よりも少し怖い。メイスを持つ腕の筋肉が時々膨れて、吸血鬼を見る時の視線に殺気がある。
ロロちゃんもあまり近付いていないのは気のせい?
すると、聖鎖騎士団の方々とヴァルマスク家の方々が第二王子たちを見て、
「オセべリア王国のファルス王子か……〝黄金聖王印の筒〟を持つシュウヤ様は、すべてを助けるつもりなのか」
「シュウヤ様だから、こそですよ、これだけの勢力すべてを救出しているのですから」
とファーミリアが聖鎖騎士団の重騎士の言葉に返していた。
ヴァルマスク家の方々も、全員頷いていた。
<筆頭従者>のルンスは眉間に皺を寄せていた。
あのお爺さんが、ルンス……ヴェロニカとメルとベネットたちの宿敵。
もう何度目か分からないけど、信じられない。
……争っていない。
聖鎖騎士団の方々が、
「……まさに聖者、聖王様の行為である。我らはなんて御方に刃を向けてしまったんだろう……」
「……神よ、罪深き我らをお救いください、アーメン」
「「「「アーメン」」」」
背の小さい女性重騎士もお祈りをすると、体が目映い光が――。
あ、「きゃぁ」と近くにいたヴァルマスク家の吸血鬼の一人の肌が少し焼けてしまう。
「「「……チッ」」」
ヴァルマスク家たちは火傷を負った吸血鬼を助けてから一斉に聖鎖騎士団の方々から離れた。
吸血鬼たちだもん、光はだめなのに――。
火傷を負った吸血鬼たちを守るように近付いたけど――。
わたしの血では、吸血鬼たちを傷付いてしまう。
するとヴェロニカが、「しょうがない――」と言いながら、ヴァルマスク家たちの前に移動し、血が入った瓶が大量に入ったチェストを出していた。
「……これで、血の補給は楽になるわ」
「……ヴェロニカ様……この血は、普通の血……いいのですか」
「いいから飲んで、<傀儡回し>に使うから大量にあるから」
「分かりました、いただきます――」
と吸血鬼が血の瓶の蓋を開けて血を飲んでいた。
みるみるうちに顔色が良くなる吸血鬼たち。
「「「おぉ~」」」
「ありがとう、ヴェロニカ様!」
「ありがとうございます!」
ヴェロニカは頷いてから直ぐに離れた。
……優しい。ベネットが驚いていた。
すると、聖鎖騎士団の団長さんの声が聞こえた。
シュウヤと戦っていた団長のハミヤさんは、隣に居るファーミリアの女帝とエラリエースと会話をしていた。三人とも凄く綺麗。あ、シキも素敵。
隣に居るアジュールも一緒に会話していた。
不思議な<血魔力>と光属性との反撥についての会話……。
皆も興味があるのか、聞き耳を立てていた。
ホフマンはキサラと、
「シュウヤ様は千年王国を成し遂げられる本物の救世主、神のような御方と考えている、それはキサラ様も同じでは?」
キサラは、
「……シュウヤ様は<光の授印>を持つが<光闇の奔流>も持つ。そして、闇と光の運び手であり、黒魔女教団の救世主がシュウヤ様なのだ」
と話をしていた。
ミスティとヴェロニカと角ありの骨傀儡兵の進化具合について話をしている。
ん、皆ともっと話をしていたいけど、
『シュウヤ、ディーさんとリリィたちを見てくる』
『了解した。ザガとボンとルビアと会った。今此方に誘っている』
『うん、わたしも状況次第だけど誘ってみる』
『分かった』
と、血文字のやりとりを終えた。すると、レベッカも、
「エヴァ、わたしもベティさんも見てくる」
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




