千五百二十五話 ザガ&ボン&ルビアと再会
ミレイヴァルには<導想魔手>の上に乗ってもらった。
レガランターラと跳躍をしてから<武行氣>を発動し飛翔――。
高度を上げると屋根で休んでいた野良猫たちから「「「にゃ~」」」と話しかけられながら更に高度を上げて、周囲を把握した。
魔素の気配はトオたちだ。角ありの骨傀儡兵もある。
迷宮の宿り月の庭と向こう側の路地と、背後の第一の円卓通り方面と左右の路地には、角ありの骨傀儡兵たちの魔素が多い。妖しい気配はない。
第二王子邸と貴族街の大通りで、俺たちと戦った魔人&帝国兵の戦力は予備選力を注入した結果だったかな。
すると、近くの建物の屋根にいたトオたちが
「盟主――」
と一斉に片膝で屋根の板を突いて頭を垂れてきた。
見える範囲に居る角ありの骨傀儡兵の数十体も片膝の頭で地面を突いて頭を下げてきた。
「皆、頭を上げてくれ。そのままルルとララとロバートたちと共に、この迷宮の宿り月の守りを頼む」
「「はい!」」
「「「ハッ」」」
「「「「――」」」」
角ありの骨傀儡兵たちが一斉に立ち上がる。
――自律稼働か。俺を盟主だと判断する速度が知的生命体レベルで速い。
素直に凄い。魔導人形の技術も活かされているヴェロニカの<傀儡回し>は凄いスキルだな。
ファーミリアの女帝と同じ立ち位置なヴェロニカだから当然か。
そして、トオたちも〝セヴェレルス〟ではない魔銃を持つ。
胸と腰には弾薬ケースが付いていた。
そのトオたちに「じゃ――」と離れて飛翔――。
街のあちこちに半透明な膜状の魔力と魔法陣が展開されていた。
遠い南西の方角の暗闇に閃光と爆発のような火柱が幾つか発生。
南東にもあった。港側でも何か起きたか? 【星血海月雷連盟】の各闇ギルドも戦いに巻きこまれているだろうから、その戦いもあるか。
ペルネーテ南西は、ユイの<ベイカラの瞳>で赤く縁取った魔人キュベラスと魔族殲滅機関の一桁たちが居る方角。
それらの集団の戦いだろうか。また爆発と閃光が起きている。
――それらの爆発を見ながら飛翔――。
ペルネーテの南のザガ&ボンとルビアの家を目指した。
直ぐに斜め下に、魔法の膜で覆われている武術街の通りが見えた。
あの魔法の膜はユイたちから聞いていない――。
チラッと見てからザガのとこに行くか――。
レガランターラとミレイヴァルと共に武術街の近くを飛翔していく。
魔法防御の膜は半円のドームか。武術街をすっぽりと覆っている。
武術街の建物の幾つから複数の魔線が宙空に伸びて魔法の膜の内側と繋がっていた。
武術街に棲まう魔術師の強者が、この魔法防御の膜を作ったのか?
それとも武術街を守る為の各家に仕込まれてあった魔道具を作動させたか。
後者だとしたら独自の結界があるってことか。
魔人たちを寄せ付けない移動を阻む結界とかも考えられる。
そう言えば互助会というボランティア活動があったが……。
ペルネーテの危機か武術街を守る独自の防衛機能があるか魔術師がいたのか。
その魔法の膜の中を飛翔しているアドゥムブラリやエヴァが見えた。
二人は高度を上げて魔法防御の半透明な膜を越えている。
見た目通りの……物理障壁ではないようだ。
アドゥムブラリは<魔矢魔霊・レームル>を出している。
エヴァは、サージロンの球を宙空に浮かばせていた。
魔法の膜の下を飛翔しているレベッカにヴィーネとキサラも居る。
下には、のしのしと歩く巨大な黒猫ロロディーヌが見た。
長い尻尾を傘の尾の如く立てている。
散歩気分か? 危機感はあまり感じられない。
武術街の大通りの道幅ギリギリの体長だ。横に少しズレたら、ご近所さんの武人の屋敷を破壊してしまうことになる。少し冷や汗が出たが、大丈夫だろう。
相棒の体からは燕色の魔力を放出していない。
相棒なりに状況を理解し、魔人の集団と帝国兵の強者たちの襲撃を警戒しているつもりだろう。巨大だが、黒猫の体毛のお陰で暗闇に乗じられているかもだ。
が、さすがに大きすぎるから気休めか。
バレては居るが、返り討ちが凄まじいようだから、隠れて追跡するだけかな。
先ほどのユイの血文字に多少の襲撃があったが、その襲撃相手が逆に可哀想な勢いで倒されたと聞いているから抑止力にはなったかな。
が、時折クラッキング音を響かせていたとも、ユイが血文字で報告してくれた。
ロロディーヌを追跡している存在は、シキたちを追っていた炎極ベルハラディだろうか。
ヴァルマスク家と聖鎖騎士団と追い掛け戦っていた魔人たちだろうか。
皆も炎極ベルハラディの名は、キサラや聖鎖騎士団ハミヤとパーミロ司祭様とキンライ助祭様にシキたちから聞いただろう。
相棒の嗅覚で捉えきれない相手だからな。
皆は警戒するように、巨大な相棒の周囲を飛び回っている。
途中で、手招きをしたり見回しをしたりと忙しそうだ。
ロロディーヌの頭部に居る第二王子たちと話をしているようだ。
その黒猫は、遊びで戯れていないことも偉い。
大きさ的に本能のまま馬車などを追い掛けて猫パンチを行うようなアイスホッケー遊びで『馬車を倒したいにゃ~』とか考えているはずだ。
そんな遊びを我慢して第二王子を大事そうに運んでいる良い子ちゃんだ。
そして、戦いとなっても自宅の居るメンバーなら大丈夫だろう。
ヴァルマスクと聖鎖騎士団とシキたちに<筆頭従者長>のクレインとヴィーネとミスティとヴェロニカたちが居る。
巨大な神獣ロロディーヌも居る。
ペルネーテの上空にいるだろう神界勢力の戦士は急降下してこないが、先ほどの迷宮都市ペルネーテの各所で発生している閃光と爆発があったから、そこでブーさんのような一団が魔人の集団と戦っている可能性はありか。
【白鯨の血長耳】のレザライサたちと【星の集い】のアドリアンヌたちも戦いになっているんだろうな。【血星海月雷連盟】の【海王ホーネット】のブルーと【シャファの雷】のギュルブンたちもか、無事だと良いが。
魔人キュベラスの本人と【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の魔人連中は、魔族殲滅機関の一桁たちを引きつけてあしらっていた。
魔人ザープ&義賊ホクト&盗聖サウラルアト組も、魔人キュベラスを追跡しているはずだ。
魔人キュベラスは、のらりくらりと動き回っているから、強者たちを引き寄せる役目で、第二王子ファルス暗殺は二の次のはずだ。本命なら【八指】の暗殺者ではなく魔人キュベラスが行って速やかに済ませたはずだ。
が、それは早計か、なんらかの妨害が魔人キュベラス側にあった故の、今の行動かも知れない。貴族街の戦力は帝国兵を含めて結構な戦力だった。
それを踏まえると、やはり、本命は第一王子レルサンの暗殺だろうか。
そして、第二王子ファルスが殺せない場合の作戦に移行しているはず。
更には、邪神ニクルス、邪神セル・ヴァイパー、邪神アザビュース、邪神シテアトップ辺りも警戒しておかないとだめだ。
漁夫の利を狙うか皆が争いに焦点している間に拠点造りにいそしむ可能性が大か。
もうじき朝だが、無事に地下オークションが開催されるのかどうか。
宗教街の正義の神シャファの神殿に居るかもしれないイヴァンカも心配だ。
魔人集団の【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】と帝国の兵士などの影響で治安が乱れたところを、【悪夢の使徒】のようなイカレた宗教集団が、正義の神シャファ神殿や、愛の女神アリア、神聖教会に戦神教の神殿などに特攻を仕掛けるかもしれない。
銀行強盗に【聖魔中央銀行】も狙われるかもな。
緊急依頼が行われていないのは緊急依頼を依頼する行政側が狙われたからだろうか。
と、考えているとヴィーネが飛翔してきた。
金属鳥が周囲を飛んでいる。
「――ご主人様、自宅にこないのですか、ザガとボンは寝ていましたか?」
「あぁ、寝ているかもな、ザガの家はまだだ」
「あ、まだでしたか」
「おう、迷宮の宿り月を出て、武術街を覆う魔法防御陣を見ては、少し周りを見ながら考えていた。そして、先ほど血文字でも告げたが、シャナたちも自宅にくる。合流予定だ」
と言うと、ヴィーネは傍に浮遊しているレガランターラを見て、
「はい、<九山八海仙宝図>を出して、〝紅玉の深淵〟の話をしたと聞きました」
レガランターラは礼儀正しく頭を下げた。
「おう、だから今からザガとボンとルビアのとこに向かう。一緒に来るか?」
「はい」
と言いながら、ヴィーネは、
『皆、ご主人様たちと武術街の大通りの手前で会った、わたしもザガとボンとルビアの家を見てきます』
『『『『了解』』』』
『了解したぜ』
『うん、そちら側の空域と地上を徘徊している魔人たちが居るかも! 気を付けて』
『はい、【セブドラ信仰】などが居たら潰しましょう』
『分かった。お、沙・羅・貂に、ルマルディとカズンにベニーにシャナだ』
皆とレベッカとキサラとアドゥムブラリの血文字が浮かんでいた。
『ロロちゃんも順調に、あ、着いた。ファルス殿下に挨拶してくる』
とエヴァの血文字も浮かぶ。相棒の長い尻尾がエヴァを出迎えている。
エヴァは神獣ロロディーヌの尻尾の毛に包まれて見えなくなった。
もふもふを堪能しているんだろう。
尻尾の毛のモフモフ具合は、他の体とはまた違うからな。
モフモフマスターの俺も虜になるほどのモフモフさ加減だ。
ロロディーヌはエヴァとの戯れに安心したようだ。
燕の形をした魔力を周囲に放出し始めた。
途端に、ロロディーヌの周囲が明るくなった。
同時に艶のある美しい黒色の毛並みを有した巨大な黒猫の姿に魅了される。
と、尻尾が傘の尾のように立っていたから、桃色の立派な菊門が見えた。
『まぁ! モフモフの毛にお尻ちゃんが可愛い!』
『ふふ、はい! ワンダフルニャンコです!』
ヘルメのグィヴァの念話に笑う。良かった。
うんちさんはこびりついていないように見える。
乾燥している巨大なうんちを飛ばすような攻撃ができたのなら、強力かもだ。
神獣のうんちだから、肥料には良いんだろうが、あまり喰らいたくない攻撃だろう。
と笑ってしまう。
ヴィーネもその様子を見て笑っていたが、表情を切り替えて、翡翠の蛇弓を出すと、
「ご主人様とミレイヴァルにレガランターラ、ザガたちの家に行きましょう」
「おう、行こう!」
「「はい!」」
皆でザガ&ボン&ルビアの家に向かった。
「何事もないといいのですが――」
「そうだな。油断はできない――」
「はい、数時間したらもう朝ですし、地下オークションの開催はされると思いますが、状況は読めない――」
とヴィーネと飛翔しながら語る。
<導想魔手>に乗るミレイヴァルと傍を一緒に飛んでいるレガランターラも周囲を見ながら俺たちの話を聞いていた。
ナロミヴァスが戦っているだろう西の戦場にも向かいたいところだが……。
守るべき人材が多いと大変だ。
ミレイヴァルとレガランターラとヴィーネは飛翔しながら周囲を見回している。
と、ザガとボンとルビアの家が見えた!
大通りの前に着地、と店は開いている。魔素は大丈夫、三つある。
ヴィーネは慌てて、
「まさか――」
と工房の中に足を踏み入れていた。
「大丈夫だろう――」
「「はい――」」
と俺たちも工房の中に入った。
隣に居るヴィーネは笑顔。頷いた。
ザガは両目を守る眼鏡プロテクターのような装備を嵌めていた。
厳つい。金床に熱されている刃を置いて片手が握る魔法のハンマーを打ち下ろしている。
作業中だった。ボンとルビアは工房の奥で荷物を抱えている。
皆、この時間でも起きているのか。と、衣装は昔の魔竜王装備がいいだろう。
ザガ&ボン製の装束を想像しつつ肩の竜頭装甲を意識。
「ングゥゥィィ~」
と衣装を魔竜王装備に変化させた。
ついでに魔槍杖バルドークの進化をみてもらうか。
作業に夢中なザガたちは、玄関口、工房の出入り口に居る俺たちのことには、まだ気付いていない。工房の奥に居るボンと、それを手伝うルビアを見て懐かしさを覚えながら――。
「よう~」
「こ、あ、おはようございます」
「どうも、こんにちは」
「こんばんは~」
と声をかけて、工房に足を踏み入れた。
背後からミレイヴァルとレガランターラを連れた。
ザガとボンにルビアは直ぐに気付く。
「お!」
「エンチャ? エンチャントッ!」
「あっ、シュウヤさん!」
ルビアの笑顔は良い。
が、ヴィーネとミレイヴァルとレガランターラを見て少し陰を見せた刹那――。
ルビアの背中から……ゆらりと黒いオーラを周囲に放っている魔命を司るメリアディが出現。額に第三の目を持つ女性で威厳がある。
第三の目は充血したような魔眼だ。前と変わらない。
その魔命を司るメリアディはルビアを見て微笑むと、俺を見てきた。
ジッと見ては、右手の幻影を生み出して、俺を指さすと魔線が見えたが、魔線は途中で消えていた。魔命を司るメリアディは俺を見ながら微笑むと頷いてから消えた。
魔線は攻撃ではない印象だった。ザガは、厳つい眼鏡プロテクターを外した。
「シュウヤじゃねぇか! どうした、こんな時間に!」
「おう、作業中に悪いな、ザガにボンにルビア、元気にしていたか」
「あぁ! 元気だぜ!」
と近付いてきたザガたち。ザガは俺の魔竜王装備を見て、笑顔を見せた。
魔槍杖バルドークを見て、少し怪訝を覚えたような表情を浮かべていたが、何かに気付いたように「おっ!」と小声を発していた。
「エンチャ、エンチャッ、エンチャント!!」
「シュウヤさん、外の騒ぎは大丈夫なのですか」
「おう、俺たちは大丈夫だ、その騒ぎの被害が、ここにも及んでいないかと心配で見にきたんだ」
ザガは魔槍杖バルドークから俺に視線を向け直し、
「ハッ、さすがに一介の鍛冶屋のわしたち……が、ドワーフ氏族アウロンゾ一族の才能が詰まったボンの能力は凄まじいからな……ボンを狙う存在が居てもおかしくない」
と、ザガが語る。
「あぁ、魔人連中が暴れているし、帝国兵も呼応している。オセべリア大平原もきなくさいし、大規模なラドフォード帝国の軍勢が、ここに押し寄せる可能性もある。オセべリア王国内の王政も揺れているから、ここで暮らす国民に被害をもたらすかもしれない。ってことで、ザガたち。俺たちの家にこないか?」
「え?」
「ふむ……」
「エンチャ?」
ボンが頭部を傾げている。可愛い。
続きは明日。
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