千五百二十四話 <九山八海仙宝図>とシャナたちと記憶共有
『レガランターラを出すつもりだが、沙・羅・貂たちも出るか?』
『ふむ! <九山八海仙宝図>のことをシャナに伝えるのだな』
『おう』
シャナは、
「〝紅玉の深淵〟を見つけられたのですか?」
「いや、〝紅玉の深淵〟の名を八大龍王ガスノンドロロクン様から数回聞いただけ、その〝紅玉の深淵〟の名が出たレガランターラを出すから聞いてみようと思う。それと沙・羅・貂たちも出す」
立ち上がりながら左手を翳す。
戦闘型デバイスから乾坤ノ龍剣レガランターラを取り出し、それを机に置いた。
そして<神剣・三叉法具サラテン>を意識し、発動した刹那、左手の運命線のような傷から神剣が出現。瞬く間に三つの神剣に分かれながら女体と化した。
その沙・羅・貂たちは仙女ポーズを取る。
可愛いし、いい匂いが漂った。
インナーの薄着と半透明な衣も似合う。
さすがに皆には乳房だけでなく、生地の色合いが濃くなって素肌が見えない。沙・羅・貂たちが薄着になっていたのは俺だけに見せる時だけか。
可愛いな沙・羅・貂たちは。
「沙・羅・貂、お帰り~」
「沙・羅・貂様たち、シュウヤ様と一体化ご苦労様~」
皆の食事も平らげていたイモリザとマルアも立ち上がり、沙・羅・貂の近くに寄る。シャナたちは、
「うあ~驚きました! 美女たちの召喚に、机に置いた神剣も龍の装飾が見事です!」
「「「「おぉ」」」」
「神獣様や精霊様の噂は聞いていたが美女が三人も……」
「<召喚>系のスキルか!」
「あぁ、<召喚>系だろう、精霊様の噂は聞いている。【残骸の月】いや、【天凛の月】の総長様は多才だ」
「新たな精霊様を使役したのか? それにしても強そうだ」
客の方々の言葉だ。
魔察眼が得意なら外からでもある程度俺たちが扱う魔力操作は見て取れるだろう。
「どこから出現したのかも分からなかったぜ」
「あぁ、さすがは塔烈中立都市セナアプアを【血月布武】の名で押さえ込んだだけある」
「……魔界から<上等兵>など呼び出せる<召喚>系スキルは魔道具に魔具を使うことで色々とあるぜ」
「神界側にも<戦士召喚>や<英霊召喚>などがあると聞いたことがある」
「【天凛の月】に成ることで、総長さんたちも成長しているってことか」
「……噂通りの相当な強者が【天凛の月】の盟主だ」
「あぁ、シャナの歌声が目的ではあったが、〝迷宮の宿り月〟を選んで正解だった……」
カズンとゼッタも、
「沙・羅・貂様ですな、メル副長から名は聞いていました」
「はい」
沙・羅・貂たちとマルアと目を合わせてから、「最初は、俺が軽く説明しとく」
「うむ」
「「「はい」」」
「はーい♪」
沙・羅・貂とマルアは頷いた。
イモリザもなぜか挙手。
「堕ちた神剣サラテンを使役し、<神剣・三叉法具サラテン>として進化しての今がある。右の女性が沙だ。神界セウロスで運命神アシュラー様に傷を負わせている。その隣が羅だ。尻尾が多いのが貂だ。沙が運命神に傷を負わせた事象は神界セウロスの仙鼬籬の森から玄智の森が離脱してしまった際の出来事と聞いている」
「なんと……」
「そのような……」
「神界セウロスの伝説……」
「「「すげぇ」」」
「凄い話です……」
「お、詩人ロッコか」
「あ、わたしも、シュウヤさん、今の言葉をメモらせて頂きます」
シャナはメモっていく。
「あぁ、歌用の?」
「はい! 作詞作曲もわたしが作っています」
客も色々か。俺も別段に秘密にしているわけでもないからな。
沙・羅・貂たちは胸を張る。
「話の続きはまだある。玄智の森が神界から離脱してしまう切っ掛けを作ったのは白炎王山から〝白炎鏡の魂宝〟を盗んだ仙女フーディと仙女一族と仙骨種族たちなんだ。その一派は、神界セウロスの神々に罰せられて、神界セウロスから魔界に追放された。沙・羅・貂たちは、その玄智の森が神界から離脱してしまう影響に巻きこまれたが、仙妖魔にはならず、セラに堕ちて今がある」
と喋ってから、沙・羅・貂とマルアをもう一度見た。
沙は頷いて、
「その通り!」
「「はい!」」
「デュラート・シュウヤ様の言う通りです、でも昔の記憶は曖昧なところがあります」
沙は、カズンとゼッタを見て、
「ふむ、【残骸の月】の頃からの古参のカズンとゼッタだな。器の記憶を見ている故にかなり知っているぞ。妾の名は沙じゃ、そして、仙鼬籬の森にある、沙、誉れある神界の那由他の沙剣が、妾だったが、今では、<神剣・三叉法具サラテン>だ」
と語尾にじゃを付ける口調に戻した。
沙は時折、じゃを多用する時とぞを使う時がある。
続いて羅が、
「神界セウロスの仙鼬籬の森の誉れある神界の網と帷子が、わたし、羅です」
と羅の言葉と共に沙と貂とマルアとイモリザが頷き合う。
皆で握手をしては恋人握りの行うような遊びを行っていた。
楽しそうに笑顔を交えながらのコミュニケーションは可愛らしい。
続いて、その貂が、マルアとイモリザと指を合わせる遊びをしてから、
「――ふふ、神界セウロスの仙鼬籬の森の貂、誉れある神界の仙王鼬族でした。そして、先ほども言いましたがセラでは、沙と羅のわたしたちは器様の左手に刻まれている<サラテンの秘術>で、神剣サラテンの堕ちた神剣だったのです」
「「へぇ」」
「……メル副長やヴァロニカから聞いていたが、総長の眷族と仲間たちは成長を遂げていると話をされていたが、納得だ」
「「「はい」」」
「うむ!」
「はい、各自の成長は、各々の下地でかなり変化しますが、<筆頭従者長>のほうが比較的に能力の上昇は早いのかも知れません」
と<筆頭従者長>のルマルディが解説してくれた。
アルルカンの把神書も頷くように開いた本を上下させて頁をヒラヒラと自動的に捲らせながら机に置いてあるレガランターラの真上スレスレを飛行し、乾坤ノ龍剣レガランターラをを調べていた。
貂は、
「器のシークレットウェポン系秘術の秘宝神具サラテン剣が最初だ。当初、器に操作されるのは、しゃくだと、抵抗していた妾は少し阿呆であった……」
阿呆というか、当時の魔力や精神力などでは、沙のコントロールは難しかったということだろう。
「はい、今でも器様の操作を受ける身の神剣に変わりませんが、最近の器様は、わたしたちを大眷族の一大戦力として扱ってくれています。戦略拠点の将軍候補にもなり得るのが、わたしたち<神剣・三叉法具サラテン>なのです」
「「「「おぉ」」」」
カズンたちが納得するように吼える。
シャナも頷いていた。
『はい、<神剣・三叉法具サラテン>たちは頼りになります、魔裁縫の女神アメンディ様が居るバーヴァイ城の守りが不安に感じてしまうほどの強さですから』
『そうですね、御使い様も沙・羅・貂に『御剣導技』を学ばせてもらおうと言っていました』『あ、はい、ありました、『神仙燕書』ですね、その神界に纏わる秘宝、奥義書も、レガランターラの<九山八海仙宝図>に在り処が載っている』
『はい』
両目に内包している精霊の思念に納得。
カズンが、
「総長の左手には他にもシュレゴス・ロードが居ると聞いている」
「おう、居る」
<シュレゴス・ロードの魔印>を意識し、『少しだけ出ろ』と念話を送ると、
『承知!』
と左手の掌にある<シュレゴス・ロードの魔印>から小さい半透明の蛸足集合体が出た。
「「「おぉ」」」
「マジに何か出たし!」
「そのお三方が、【天凛の月】が盟主を、器だと言っているが、分かるような氣がするぜ」
と周囲の客たちが発言。
改めて、シャナに机に置いてある乾坤ノ龍剣レガランターラを取り、
「神剣に当たるかは不明だが、神剣の名は、乾坤ノ龍剣レガランターラ、八大龍王を目指している龍だ」
「美しい龍の装飾が施された神剣です」
「おう、実は龍の化身、光魔ルシヴァルの眷族で従者でもある。レガランターラ外に出てくれ――」
右手に持っていた乾坤ノ龍剣レガランターラは一瞬、緑色の炎が蜷局を巻いた龍の幻影を見せる。
と、直ぐに<血魔力>と、その<血魔力>で龍の形を作ってから女体化。
銀と緑が混じる長い髪。
髪の間には小さい金色に近い角が見えている。
細い眉毛と大きい双眸は薄緑色。
小鼻と唇に、顎も小さい。鈴のような髪飾りもある。
細い首から和風の衣装といい、胸まで続いていそうな光を帯びた龍門の模様も素敵だ。
胡坐を掻いた姿勢は変わらないが、生の太股が見えている。色白でもちもちしていそうな肌。
和風の衣装はレンのように太股を魅せている。
体と和服系の衣装の周囲に、小さい昇竜の魔力を行き交わせていた。
沙と羅と貂たちと同じような魔法の衣を羽織っている。
龍の角は短いが和風の衣装が似合う。
「「「「おぉ~」」」」
「神界の龍!」
「「「「可愛い……」」」」
レガランターラは皆の様子を見て少し気恥ずかしさを覚えたように俺の背後に隠れようとしたが、イモリザとマルアが引っ張ってレガランターラを横に出す。
「……」
レガランターラは、俺を見て、小さい体をブルッと震わしてから緑と桃の魔力を噴出。
そして、皆を見て、
「シュウヤ様と皆様、光魔龍レガランターラが、ここに――」
と発言して片膝の頭で床を突き、頭を垂れた。
そして、黒い龍のガスノンドロロクン様と大龍王ペラデル様の言葉を思いだしつつ、
『では、大龍王ペラデル様が、〝六眼妄卵王アモダン〟を封じるために〝六幻秘夢ノ石幢〟を造ったのですか?』
『それは分からぬ……大龍王ペラデル様が既にある〝六幻秘夢ノ石幢〟を利用したのかも知れぬ。妾は気付いたら〝六幻秘夢ノ石幢〟の中にいたのだ、そして、大龍王ペラデル様は、『心しろ、レガランターラ、お前の八大龍王の大いなる試験の一つが〝六眼妄卵王アモダン〟を封じる一手なのだからな。お前が今後、乾坤ノ龍剣や乾坤ノ龍槍に……馴染むための龍王修業の一環であると心得よ……そして、次にお前が明滅の独鈷により、〝六幻秘夢ノ石幢〟から目覚めし時が本番となろう。その本番の新たなる試練とは、〝六幻秘夢ノ石幢〟の封を破りし者に、お前が、乾坤ノ龍の剣か龍の槍に龍人として、従者か眷属となって仕えることだ……その主人となる者は、堕ちた神剣を人知れず育みに鍛え直している槍使いのはず……その者に<九山八海仙宝図>を与えられるならば与えて付き従え。それこそがお前の八大龍王の道と心得よ……また、その者は水を知り闇を知り光を知る一即多、多即一を理解し、調和を齎す希有な者なり、神界セウロスに至る道に恩恵を齎す者であり……レガランターラと、仙王鼬族、仙甲人、鴉天狗、白蛇仙人たちを……【大光神ノ御園】へと導く水鏡の槍使い様と心得よ……まさに六幻秘夢ノ石幢を破りし者が陰陽龍、乾坤レガランターラ最後の使い手なり!』と宣言されていたのだ』
と、大龍王ペラデル様が、仰り、ガスノンドロロクン様が、
『……ならば、音楽系スキルを正義のリュートで試してみるがいい、正義の神シャファに関わる楽譜か、神界系の楽譜が近くにあれば、その方向に音波と魔力が向かい自然と音楽を奏でる魔線と繋がるであろう。遠い場所でも、その方角に魔線と音符が飛んでいくはずだ』
『音符が、分かりました』
『うむ。昔、大鯉に乗った大仙人と仙女たちが集団で仙琴を使い〝大仙楽譜〟や〝神界ヴァイスの戦楽譜〟を探す旅をしている一団とあったことがある』
『そうでしたか』
『うむ。神界の楽譜についてだが、もう一つは〝乾坤ノ龍剣〟の名のアイテムを入手することだ。乾坤ノ龍剣に魔力を込めれば〝乾坤ノ龍〟に因んだ、八大龍王になりかけの龍と契約が可能とされている……その乾坤ノ龍から<九山八海仙宝図>というスキルか、宝の地図を得られる伝承もある。宝の地図には〝神界楽譜〟、〝神仙幻楽譜〟、〝魔仙楽譜〟、〝神仙羅衝書〟、〝神仙樹剣巻〟、〝魔仙巻〟、〝神仙燕書〟、〝神淵残巻〟、〝神魔ノ慟哭石幢〟、〝紅玉の深淵〟、〝六幻秘夢ノ石幢〟、〝魔封運命秋碑〟などが記されているという話も聞いたことがあるのだ』
『おぉ』
『他にも様々な伝承がある。大主ならば、乾坤ノ龍剣の秘奥も知れるはず、我の知らぬスキルも得られよう』
と教えてくれていた。
<九山八海仙宝図>について聞いてみよう。
「レガランターラ、立ってくれ。地下オークション後と考えていたが、今聞こう。<九山八海仙宝図>は使えるのか? それともアイテムとして持っているのか。また、そこに載っている〝紅玉の深淵〟を知っていたら教えてくれ」
レガランターラは立ち上がり、
「――はい。従者だけの特権、主人のシュウヤ様にならば<九山八海仙宝図>を与えることが可能です。シュウヤ様の<血魔力>も少々消費します」
「了解した。では、お願いしよう、<九山八海仙宝図>を出してくれ」
「はい――」
<血魔力>が自然とレガランターラの髪の毛に移る。
俺の<血魔力>を得た髪と髪飾りは艶が出た。鈴が揺れて鈴の音を響かせてきた。
「「「「「おぉ~」」」」」
皆が歓声を発するのも分かる。
髪飾りの鈴が平たく拡がって<九山八海仙宝図>と成った。
そこには、様々な山々と海と砂漠地帯のような場所が、中心の大きな山と小宇宙に切り分けられて載っていた。小宇宙須彌山を中心とする鉄囲山を連想する。何かの結界の意味もあるんだろうか。
〝列強魔軍地図〟とはまた異なる幻想的な地図だ。
〝神界楽譜〟、〝神仙幻楽譜〟、〝魔仙楽譜〟、〝神仙羅衝書〟、〝神仙樹剣巻〟、〝魔仙巻〟、〝神仙燕書〟、〝神淵残巻〟、〝神魔ノ慟哭石幢〟、〝紅玉の深淵〟、〝六幻秘夢ノ石幢〟、〝魔封運命秋碑〟
各秘宝の名と秘宝が存在する場所まで記されてあった。
〝紅玉の深淵〟と〝神仙燕書〟と〝神仙樹剣巻〟が存在する場所が、見るからにゴルディクス大砂漠と分かる。シャナを見ると目が輝いて、<九山八海仙宝図>に近付いていた。
近付いて、〝紅玉の深淵〟の名と地名を触った。
すると、<九山八海仙宝図>の表面から魔線が迸る。
魔線は食堂と迷宮の宿り月を越えていた。
「「「「おぉ」」」」
直ぐに〝神仙樹剣巻〟と〝神淵残巻〟を触ると、同じ方向に魔線が飛ぶ。
「器! 魔線の先に〝紅玉の深淵〟と〝神仙樹剣巻〟と〝神仙燕書〟があるのだな、そして、ゴルディクス大砂漠にあるということか!」
「そうだろう、レガランターラ?」
「はい、そうです」
「「「おおぉ」」」
「――器、ゴルディクス大砂漠に突っ込もう!!」
と沙は神剣に乗って宿屋の天井スレスレを飛びまくる――。
その近くをアルルカンの把神書が飛んでいた。
シャナに
「〝紅玉の深淵〟の道標は得たから、シャナ、俺たちとゴルディクス大砂漠に行かないか?」
「はい、行きます!」
「了解、だが、今のペルネーテの件を片付ける。シャナも安全のために俺の自宅にきてくれ」
「あ、はい! ふふ! よろしくお願いします。皆さんも!」
シャナは笑顔満面となった。
「「はい!」」
「此方こそよろしくです」
「宜しくお願いします」
「シャナさん、改めて、よろしく♪」
「はい」
レガランターラに、
「〝紅玉の深淵〟がある場所のもっと詳細な地図は見られないのかな」
「ゴルディクス大砂漠に踏み入れたら、詳細に成るかもしれないです。ですが、たぶんこのままかと」
「了解した、<九山八海仙宝図>は仕舞っていい」
「はい」
<九山八海仙宝図>は一瞬でレガランターラの髪飾りに戻った。
魔線も消える。
〝紅玉の深淵〟の場所に、〝神仙燕書〟と〝神仙樹剣巻〟の場所が分かったのは大きい。
「では、シャナと【天凛の月】の皆、地下に行こうか。そこで記憶の共有を行う」
「「記憶の……」」
「了解♪」
「地下か、器の記憶は覚えている!」
「行きましょう~」
「「はい、賛成です」」
「そうだな」
貂とルマルディとアルルカンの把神書も賛成。
「そうですね、坂の戦いから様々なことがありましたから」
ミレイヴァルの言葉に頷いた。
「あぁ」
「行きましょう~」
「了解しました。カズンとゼッタとルルとララにロバートたちも旦那の記憶を得られたら、今の状況が丸わかりですからね」
ベニーの言葉に頷いて、
「おう、ヴァルマスク家のファーミリアたちと聖鎖騎士団たち、団長ハミヤ、聖鎖騎士団のパーミロ司祭とキンライ助祭に、シキたち、第二王子ファルスを守って死んだ大騎士ガルキエフ、貴族街の密度の高い戦いなど、その記憶は覚えておいて損はないからな」
「はい」
と客たちが不満そうな声を発したが、「悪いな、迷宮の宿り月の常連は、いやでも情報を得ることなるさ、では――」と客たちに挨拶をしてから、食堂の右にある扉を開けて螺旋階段のを下りていく。
昔は宿の女将メルと少女イリーこと、ヴェロニカとポルセンとアンジェが居たんだよな。
メルとイリーが階段を下りていく幻影と重なるように階段を下りた。
少し先に狭い通路の突き当たりに、大きな扉が俺たちを待ち受ける。
二つの月オブジェのダイヤルキー……。
ふと、ポルセンとアンジェが待っていた頃を思い出す。
メルとイリーは二つの月オブジェをカチャカチャと時計を回していた。
昔と変わらない――とそのオブジェを回した。
大きな月オブジェが崩れ残骸の月オブジェに変化を遂げた。
ガチャンと鍵が外れる音も、昔と同じ。
銀行の金庫扉のような扉が開く。
その先には地下空間が広がっていた。
はは――。
メルの、
『さぁ、中へ入って』
とメルの言葉が広場に木霊していたことを懐かしむまま、進む。
中央が窪み、乾いた空気に円卓の机――。
『なにか嬉しいです』
『はい、御使い様の記憶通り、心が温まる』
ヘルメとグィヴァの言葉に頷いた。
会議で、イリーはヴェロニカに変身したんだよな。
と、奥行きのある天井……白猫の像だ。
アブラナム系の荒神マギトラの力。
実際の白猫は聖女アメリの近くか。
複数の傀儡兵と一緒に守っていると聞いている。
肉球の片足の丸い魔法の光源も昔と同じ。
と、岩壁の奥の浮き彫り状のキリストのような茨の冠をかぶった女神像の前には、聖十字金属の大量に積まれている箱がある。
女神像は二つの月石を両手に持ち天へ掲げている作りに変化はないが、ベニーの治療に用いた女神像とは、あの像のことか。
ベニーは、その像の前に移動して十字を切るようにお祈りをしていた。
「ベニーが治療に用いたってのは」
「はい、この女神像の中です、棺桶で寝る、ヴァルマスク家気分でしたよ」
「ハッ」
と笑いながら〝知記憶の王樹の器〟を取り出した。
ベニーは魔煙草を口に咥えながら、マッチ棒を己の〝セヴェレルス〟で擦り火を付けて、魔煙草に火を付けていた。
健康に良い魔煙草を吸っていく。
ルマルディとミレイヴァルはマルアと話をしながら、「本当にシュウヤ様の記憶通りです。感動を覚えます」と話をしている。沙も同意するように「ここが、【残骸の月】の本部――」とあちこち移動している。
羅・貂たちは普通に椅子に座っていた。
イモリザは両手を伸ばして、「キーン」と走っている。
うんちくんを見つけて、つんつくつん♪ を行うかもしれない。
「さて、〝知記憶の王樹の器〟を使う――」
<血魔力>を送って、中身に液体が直ぐに溜まる。
その液体の中の俺の記憶を操作して――完了。
「では、カズンから――」
ゼッタとルルとララにロバートにシャナに〝知記憶の王樹の器〟から溢れ出そうな俺の記憶入りの液体を飲んでもらった。
皆、気を失ってしまうが直ぐに体を支えては《水癒》をかけては高級魔力回復ポーションなどを飲んでもらって気を取り直してもらった。
その後は、涙涙で感想がたどたどしい。その勢いはだいたい同じだった。
やはり、最初の地下の二年間は壮絶か。
サイデイルのこともよく知れたようで、亜神夫婦のところでは、大泣きしていた。
魔界王子テーバロンテを倒したところでは感動しているようだった。
さて、
『皆、シャナたちと合流した。シャナも俺たちとゴルディクス大砂漠に向かうことになったからよろしく、そして、ルビアとザガとボンを見てくるから自宅の警護をよろしく』
『『『了解』』』
『『はい』』
『『分かりました』』
『ユイ、武術街の自宅には?』
『あ、もうすぐ、ロロちゃんが途中でカカカッって鳴いて止まることがあったから』
『そっか、またか。陰で追跡している奴が居るってことか』
『うん、わたしが出ると、クラッキング? は無くなる』
『ユイの追跡能力を把握しているわけではないと思うが、追跡者はタイマンでの勝負を避けているタイプか』
『うん』
『では、そのまま自宅についたら皆のことを頼む』
『分かった』
と皆とユイとの血文字を終えて、
「ゼッタにカズン、ルマルディとアルルカンの把神書と沙・羅・貂たちは、シャナを武術街の自宅まで送ってくれ」
ロバートとルルとララは迷宮の宿り月を守ってもらう。
「了解した」
「ハッ!」
「はーい!」
カズンとロバートとイモリザが素早く返事をして、
「「分かりました」」
ゼッタとルマルディも了承し、
「「はーい」」
マルアとルルとララが返事をした。
「「はい――」」
羅と貂はアルルカンの把神書が書物の上に発生させている幻影のモンスターを神剣を振るい切断するように消している。
その皆に、
「俺は、ザガとボンとルビアの家を見てくる。ミレイヴァルとレガランターラ一緒に行こう」
「「はい」」
地下の秘密基地から地続きの階段から街に出られるが、入ってきた通路から螺旋階段を上り、宿の食堂に戻ってきた。
客の方々に再度挨拶をしてから玄関から普通に路地に出る。
続きは明日。
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