千五百二十三話 歌姫シャナの有翼人のウミ波鳥
シャナは歌の佳境を迎えるように両手を広げる。
歌翔石、魔響石と呼ばれた魔宝石と連動した歌声と魔力は、やはり特別だ。
魔力と声が波のように周囲に伝う。魔声は風に乗っている。
シャナの襟と袖の衣装が風を孕んだように揺れていた。
詩の内容は、訳あって人族の恋人と離れ離れになっていた有翼人が、異国の港街のカフェで偶然に恋人と再会し、そこから生活を共にする内容だった。
衣装の一部が有翼人の翼の如くはためく。
演出は自らの<魔闘術>か。
体から出している魔力の影響を活かすとは面白い。
が、途中から雲行きが……。
――あぁ、有翼人の訳ありとは……。
有翼人の貴重な翼を狙った人族が放った矢を守るため体を張った女性の胸に矢が刺さって、恋人は死んでしまう。
有翼人が女性の恋人を胸に抱いて泣き叫び、その悲痛な叫びは空まで響き渡る。
シャナも泣くような勢いでシャナは感情を込めて、涙を浮かべながら歌い上げた。鳥肌が立つ……。
シャナは静かに、片目から涙を流しながらも、大切な詩を紡ぐように歌う。
――美しい旋律だ。
時の変遷を巡る詩に変化しながらも韻を踏む……。
恋人の死を受け入れられない有翼人は、しばらくの間、深い悲しみの中で過ごしていた。
が、亡き恋人の想いを胸に秘めながらも、旅立つことを決意する。
歌と詩のバランスが見事で、街から街への旅をしている気分となった。
幾星霜と時間が経った有翼人は、他の港街を点々と移動し、長閑な港街での生活を始める場面に移った。翼を活かした港の守人や漁師をがんばっていたようだ。
時折、恋人を思い出すような詩が増えていた。
有翼人の亡き恋人への想いが歌詞に溢れている。
それを歌うシャナが見事すぎる……。
港で生活している有翼人に夕焼けが射す場面で終わるかと思われたが……。
俄に曲調が変化――。
有翼人が港で仕事中に、
『ふふ、夕刻のウミ波鳥の鳴き声にはいろんな種類があるの、知っている?』
――その声は、まるで過去からの贈り物のように有翼人の心に響く。
と、ハッとした有翼人は思わず振り返る。
そこには自分が嘗て愛した恋人と瓜二つの美しい人族の姿があった。
そこからの歌は切なく恋バナの話になる。
最後は、幸せを意味するような詩になって静かに終了した。
暫し、シーンとなった。分かる、なんなんだ、振り返ったところのシーンは映像で見たいぞ! コンサート会場での余韻を得ている気分となった。
隣で座っていたベリーズとルマルディ、そしてミレイヴァルとマルアは、物語に心を奪われ、悲しみと希望が入り混じった表情で涙を流しながら微笑んでいる。
ベニーもシャナを見ながら泣いていたが、帽子を深くかぶり視線を斜め横に逸らし、口に咥えていた火を付けていない魔煙草を少しズラしている。
アルルカンの把神書とイモリザの姿がない。と、周囲の客たちが一斉に拍手を行う。
俺も皆も拍手をした。
すると、ステージ台に居るシャナは、俺を見てウィンクと投げキッスを行った。
「「「うああぁぁ~」」」
「――素敵な歌姫!」
イモリザがいつの間にかステージ前の最前線に居て叫んでいた。
「今のキッスは俺への愛だアァァ」
思わず吹いた。アルルカンの把神書が興奮している。
己の表紙の上にハートマークの魔力を浮かばせながら叫んでいるし、面白い。
しかも傍に居るファンたちと意気投合しているように、
「えぇ、違うわよ、わたしよ!」
「ううん、あたいよ、愛を感じた」
「否、否だ、俺への愛だぜぇ」
「うん、あんた見ない顔の本だけど分かるのね、ふふ」
「嬉しい……」
と交じって仲良くなっていた。
「否、わしじゃ、あの仕種はわしだけ……ぐふ」
「ごもろう爺が倒れたぞ!」
「げぇ。爺が倒れたぞ、おい、主、回復魔法を急げ!」
アルルカンの把神書も焦っているが、大丈夫だろう。
「毎度だ、気にするな!」
「毎度だと! 鼻血が出て倒れたままだぞ!」
「あぁ、ごもろう爺は、シャナに一度介抱されてから、癖になっているんだ。直ぐに起きる」
と他のファンが言うと、ごもろう爺は瞬きをして、ゆっくりと立ち上がり、
「……くぅ……シャナッ子に介抱されるチャンスを、おのれ!!」
「いてぇ、ごもろう爺は大人しくしとけ!」
シャナのファンたちが面白い。
が、それだけ実力と人気を兼ね備えている証拠だな。
まさに歌姫のシャナ。
オペラなら主役としてディーバを務められるだろう。
そのシャナはお辞儀をすると横の楽屋に急いで戻っていく。
イモリザとアルルカンの把神書は戻ってきた。
傍で感動のあまり泣いていたルマルディだったがアルルカンの把神書の行動に少し恥ずかしさを覚えていたのか頬を赤らめている。
すると、
「おぉ、本当に総長たちが帰ってきた!」
カズンだ。
厨房の暖簾が勢いよく揺れると、そこからカズンの豹獣人としての特徴的な顔が現れる。
その目は懐かしさと喜びに輝いていた。
カズンは俺たちの【天凛の月】の最高幹部、ペルネーテ支部の幹部の一人で腕の良いコック兼一流の戦士だ。
普段は料理長を優先とするが、内実は【迷宮の宿り月】の主人と言える存在がカズンだ。
ララーブインの闇ギルド【髑髏鬼】とは【天凛の月】の前身【残骸の月】だった頃の古参と共に因縁が深い。
とにかく元気そうで良かった。
変異体に成れる強者で豹獣人の部族の中でも、かなり貴重な血筋と予想ができるカズン。
あの錬金術師のマコトがカズンの血を欲しがった理由だろう。
光魔ルシヴァル入りをしてもらいたいほどの人材だが、今はナロミヴァスとハンカイが先だ。
が、ナロミヴァスには戦場に向かう前に<筆頭従者長>にしときたかったな。
手をあげて、
「よう、カズン久しぶり」
「はい!」
「「え! 総長って!」」
「「「「「おぉぉぉ」」」」」
「「「マジかよ!!」」」
「「!?」」
厨房内が騒ぎとなった。
その厨房から、厨丁たちがわらわらと現れる。
ボウルを胸元に抱えているシェフもいる。
ミレンゲ作りの最中だったのか、ボウルにはかき混ぜ棒が入っていた。
ミキサーの魔機械なども迷宮の宝箱から取れる機会もあるとは思うが、あまり出回っていないようだ。
キャネラス邸やファルス邸など流通しているのは極一部か。
そして、獣人系の部下が多いのは変わらないようだが料理人たちは人族にエルフと増えている。
ボウルを胸に抱えている女性の料理人は初見だ。
見た目からしてパティシエかな、結構可愛い。
迷宮の宿り月が雇ったのかな。迷宮の宿り月も新しいメニューも増えたことは血文字で聞いていたし、メルとエッチをした際に迷宮の宿り月についての会話をしていた覚えがある。料理界も日々進化しているだろうからな。
そのことは言わず、立ち上がりながら厨房に居るカズンに大声で、
「カズン、いつものと魔酒を人数分頼む!」
と発言した。
「おぉ! 特製料理! 了解しました!」
カズンの豹獣人も嬉しそうだ。はは、と俺も笑う。
カズンは興奮したのか、変異体の力を示すように背中の毛が盛り上がる。
調理用の衣装が少し破けてしまっていた。
デニム系の衣装でゲージ幅が厚そうな衣装だが、豹獣人らしい剛毛は刃の如くか。
カズンは調理用の衣装が破れたこと気付かず厨房に戻り、
「おい、皆、伝説の総長を生で見たい気持ちは分かるが、戻れ!」
「「「はい!」」」
「……モーにカッカ、メイもだ、浮かれず、仕事を忘れるな!」
「「――はい!」」
と、カズンは料理長らしく厨房から仲間たちに檄を飛ばすように指示を出していた。
そんなカズンだが、ズボンが破れてお尻が見えていたら笑う自信がある。
少しして、カズンとゼッタが高級食材のトトガ大鳥の焼き鳥と、シチューに、酒入りのゴブレットを載せた台を持ちながらやってきた。
ゼッタも【天凛の月】の最高幹部、ペルネーテ支部の幹部の一人。
蟲使いを兼ねた錬金術師だ。
錬金商会の為のポーション作りと角付き傀儡兵の改良に忙しいと聞いているが、最近では、溶かした聖十字金属を吸い吐き出し注入も可能な特殊な蟲を見つけたようだからな。
カズンは、
「――総長とベニーに皆も、ご苦労さんだ、まずは一杯飲んでくれ――」
カズンとゼッタが、持っていた盆を机に置いてゴブレットと料理と食器を丁寧に配膳してくれた。
「おう、ありがとう」
「ありがてぇ!」
とベニーは直ぐにコブレットを掴んで魔酒を飲んだ。
「ありがとうございます!」」
ミレイヴァルが少しテンションが高い、頬が既にほんのりと赤い。実は酒好きか。
マルアはジッと酒とシチューと焼き鳥を見て、
「……いただきます~」
とフォークを取って切り分けられてある焼き鳥の一切れをフォークで突き刺し、その肉を口に運び少しだけ食べると「!!」と表情だけで何を言っているのか分かった。
フォークに刺さっていた肉は直ぐに無くなる。
「まるあん、美味しい?」
「はい、とても! イモちゃんも食べて!」
「うん♪ いただきまっこす!」
とイモちゃんは嬉しそうに食べた。
まるあんこと、マルアも笑顔だ。
カズンとゼッタに、
「ここは第一の大通りに近いこともあるからか、魔人たちの襲撃は少なそうだな」
「はい、この近辺や武術街にはS級冒険者や神王位の上位が多く住んでいますし、普段鳴りを潜めている強者も、ごまんと居ますからね。更に迷宮の宿り月には、最高幹部のカズンと私、二階に居るルル&ララとロバートが居ます。そしてベニーの新参連中も揃って居る。ですからまず崩れることはないです。とはいえ、白猫が居ないと、少し不安は不安でした。あ、それで副長たちはどこに?」
とゼッタが答えた。
二階にルル&ララとロバートが居るのか。
「メルたちは武術街の俺の自宅だ」
カズンとゼッタは頷いた。ゼッタは、
「そうでしたかっ、ヴェロニカがあれほど拘っていたアメリの保護を白猫に任せて副長と何処かに移動していたことは知っていましたが、なるほどなるほど」
その言葉に頷く。すると、ベニーが、
「ゼッタ、盟主と話がしたいのは分かるが、例のアレを頼む」
「了解――」
ゼッタはアイテムボックスから光を帯びた様々な虫を取り出すと、手袋を外したベニーの両手と両腕に、その虫を置いた。鈴虫にも見える虫たちは飛び跳ねずジッとしたままベニーの両手と両腕に光る粉を振りかける。
刹那、ベニーの両手と両腕の筋肉と骨の内部に浸透していたであろう聖櫃と関係しているかも知れない魔力が浮かび上がり、その魔力を鈴虫は吸い取っていた。鈴虫は新たなな力を得たようにリーン、凜々と癒やしの周波数を鳴らす――。
音と共に光り輝く小形の天道虫が顕れて消えていた。
音は、どことなく鐘の音にも聞こえる。
日本の文化を感じた。
寺にあるような大きい鐘の音色には、人々を癒やす効果もあるのではないかと言われていた。
鈴虫の音にも癒やしの音に振動数があるのかも知れない。
ベニーの顔色はあまり変化がないが、すっきりしている?
なんか皆もリラックスしたような安らいだ顔付きとなっていた。
ベニーは、
「ありがとう、ゼッタ、楽になった」
「はい、〝セヴェレルス〟をかなり撃ったようですね」
「あぁ、中々の激戦だった――」
とベニーはゴブレットに入っていた魔酒をまた飲む。
いい飲みっぷりだ。
ゼッタは鈴虫と似た虫を仕舞う。
すると、惨殺姉妹のルル&ララとロバートと角あり傀儡兵たちが、ぞろぞろと階段から下りてきた。ルル&ララは、
「――総長だ!」
「わっ――」
「シュウヤ様がご帰還されていた!」
ルルとララも元気そうだ。
【天凛の月】の幹部たちが健在で嬉しくなった。
近くにきたルルとララは俺をマジマジと見て、
「総長、生きてた!」
「うん、驚き!」
「って、生きてるにきまってんだろう」
と、面白顔のルルとララを抱きしめる!
「わわっ」
「わ~」
とルルとララの身長はあまり変わらない。
二人も俺の体を抱くようにぎゅっと細い両腕に力を入れていた。
幼い二人の見た目だが、かなり鍛えられている。
その二人とのハグを止めて、「ルルとララが元気そうで良かった」と言いながら離れた。
そのルルとララは、
「うん」
「ふふ、はい」
と言って、頬を朱に染めている。
【天凛の月】の衣装の二人の赤い帽子の位置がズレていたから位置を直してあげた。
「「……」」
二人は頬を赤く染め、照れくさそうに目を伏せる。少し恥ずかしいのか、小さな体をすりすりとカズンとロバートの背後に隠すように寄せていく。その仕草は見ている者の心を和ませる愛らしさだった。
ミレイヴァルたちはルルとララを見て少し驚いていた。子供の年齢だし初めてみたら驚くか。
「ロバートも久しぶりだ」
「はい、総長も元気そうでなにより」
「おう、【天凛の月】は順調かな」
「はい」
そのロバートの背後に居るララは頭部をズラし、俺たちを見ている。
「しかし、ルルとララは、なんで俺が死んだと?」
「あ、はは、セナアプアから魔界に行ったと聞いて以来、ルルとララは、総長は『おだぶつかも』と何回か言っていたんです」
とロバートは背後に手をやり、横にララをずらすように体を押していた。
ララは、「あ、うん、だって、魔界の連中が時々変なことをいうんだもん!」と発言しては、カズンの背後にいるルルの隣に移動していた。
ロバートは、
「俺たちが戦う相手は、闇ギルドや海賊、冒険者崩れたちが大半ですが、ヴェロニカやベネットが叩けていない魔界の神々や諸侯の眷属と戦いになることも、偶にありますからね、その時に総長の名を出すと、退く場合があるんです。しかし、総長のことを、『あぁ? あの槍使いは死んだ』と、『憤怒のゼア様の一撃を受けてあの世だ』に、『ゼバル様の子飼いとなって死んだ』に、『俺が殺したぜぇ』など、『闇神様に喰われたんだ』に、『新たな魔界王子は既に闇神リヴォグラフに喰われている!』の他にも、『眷属たちと一緒に闇鍋だぜぇ、うへへ』と、そういうわけの分からない言葉を吐く連中が多く……はい、レッテルをはり付け、嘘を風潮する輩も増えまして……」
「なるほど、滅茶苦茶だな」
「はい、俺はそれだけ、総長が、魔界セブドラで大暴れしているんだと、説明していましたが……」
と、ロバートはルルとララを見やる。ルルとララは頷いていた。
カズンとゼッタは数回頷いている。
魔界の連中には、そんなことを言う奴らが増えているのか。
【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の連中が俺を狙っている理由の一つにもありそうだな。ルルとララを見て、
「……ルルとララ、俺はこの通り生きている」
「うん、生きている~」
「良かった~、あ、けど総長、今のペルネーテって危機なの?」
小さいララの言葉に、
「オセべリア王国には危機だが、俺たちは大丈夫だ。しかし、ラドフォード帝国も民たちの虐殺を狙うなら、ペルネーテの危機になりえる」
「「……」」
ルルとララは沈黙してしまう。
まだ子供だからジッとしていてほしいが、意外に大人以上に思考が回るところがあるからな。
それに剣術の実力者だ。
そのルルたちにも、
「副長たちは武術街の自宅に居るからな」
「あ、はい」
「盟主、話を戻しますが、この魔人たち騒ぎは副長の父様も関係しているのでしょうか」
「関係しているようだ。ザープと義賊ホクトに盗聖サウラルアトたちは、魔人キュベラスと戦っているようだな、が、連絡を密にしているわけではないから、正確な位置は不明なままだ、ユイは、上手く連携できたらいいのだけど、と言っていたが、魔人ザープとメルの関係性なこともある」
「はい、副長も何回が打診しているようですが……」
「父も人知れずの英雄だ。それでいて娘は【天凛の月】の副長で、あり、今では王政側だからな、中々か……」
「はい」
カズンたちは頷く。
ゼッタが、
「地下オークションはどうなると思いますか」
「地下オークションの品々の強奪がされていないのなら、開催はできるだろう。そして、帝国が関わったことで、レザライサたちはキレていたから、少し遅れるかも知れないが」
たぶん、ペルネーテのどこかで帝国と絡んだ商会と【御九星集団】と連なる組織を潰しているだろう。
もしくは、あの魔通貝の切れ方からして、宿屋を狙われて天凜堂のような事が起きている可能性もありか?
「はい、【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】などと連動している帝国兵が大暴れしているようですからね」
ロバートの言葉に皆が頷いた。
「あぁ、【黒の預言者】の名を利用して襲撃人数を増やした魔人キュベラスと、キーラの【御九星集団】なども絡んでいるようだ」
「地下オークションの慣例を破る……」
「証拠がちゃんと在ればな、地下オークションの品も簒奪されず、そのまま開催されて参加してきたから、しらをきるだろうな」
「……むかつきます」
「あぁ、あからさまに俺を攻撃してくれれば、楽なんだが」
皆が頷いた。
その皆に、ユイとの会話のことを、
「そして、ユイとの会話の時に現状のペルネーテ事件を裏で起こしている張本人の存在を、予想していたんだが……」
と、そこで少し間をあけ、周囲を見ながら「……その予想を聞くか? まだ当たり外れのある段階なんだが」とボソッと発言。
すると、カズンとミレイヴァルが、やや前のめりとなって目を輝かせながら「「「はい! 聞きます」」」と聞いてきた。
ロバートも静かに顎に置いた右手首を下げ、「気になります」と静かな声で言った。
その表情には、これから聞く内容の重大さを察知したように緊張を含んでいる。
そして、重そうに指で顎髭をじゃりじゃりと掻く。
ベニーは魔煙草から一筋の煙を俺たちではない方向に強く吐き出してから、真剣な眼差しで、「総長の勘は当たるから聞かせてくれ!」と強い口調で促した。そこにはベニーのなりの勘もあるような印象だ。
皆の喰い気味な態度と言葉に頷いて、ゆっくりとグラスを置き、
「了解した。裏の大本は、魔人キュベラスと第三王子クリムと、更に、三玉宝石など魔神たちの秘宝の扱いが得意な【魔術総武会】の幹部の宮廷魔術師サーエンマグラムと従兄弟ロンベルジュ魔法学院の魔法上級顧問のサケルナートが、闇神リヴォグラフが結託して、国王ルークと、王の手ゲィンバッハや大騎士たちの精神を支配し、第二王子や第一王子の王太子の命が危ないとな。そして、国王ルークたちが、逆に第三王子側を操っている場合もあるか……最後の予想はユイとは話をしていない」
「「「「……」」」」
「そして、現実に第二王子が狙われたと……」
ベリーズの言葉に皆が、神妙な顔付きとなる。
「その予想が当たりならば、現在のルーク国王がラドフォード帝国の侵攻を許可している?」
ミレイヴァルの言葉に頷いた。
俺は、
「そうしている可能性はあるだろう。裏では、まさに「『ツーツーズブズブ』」の関係だ。第三王子、あるいは現在の王に対して、刃向かう勢力を狙うための算段が裏で勧められていた結果が、この戦争かも知れない。それら裏側が、帝国や魔人、闇神リヴォグラフと取り引きを行い、帝国と絡んだ魔族たちに、わざと自国民を襲わせて、現体制や第三王子に反抗的な政治基盤を狙わせた。そして、第三王子か現体制の特殊部隊も、反体制側の拠点を徹底的に潰す算段で動いている最中とかな。更には、分断統治の狙いで、帝国に関連した商会が用意した移民や魔人たちにオセべリア王国の国民のフリをさせたり、背乗りさせたりと、現体制に不満を持つ兵士と国民たちに保険をかけ、陰ながら殺せば、帝国や魔人たちの成り済まし国民にオセべリアの王国の税金を払う仕組みがあるのかも知れない。陰で自国民のふりをしている三国人が連帯しつつ自国民を狙う仕組みが出来上がっているとかな、またそれと連動し、自国民の命に保険をかけ、金儲けを狙っている可能性もある。が、これは保険の商会などが存在した仮定の話だな。そして、後から現国王か第三王子などが悲しんだ面で国民の前に出て、ラドフォード帝国にやられたと、幾らでも国民に宣言ができる。オセべリアはラドフォードに復讐を果たすと、そうした戦争宣言も楽だ、一般の国民は、偽りの正義と真実の正義の見分けがつかない。国民は、ていの良い言葉にのせられて、偽りの正義の名のプロパガンダに嵌まったまま戦争拡大に利用されることが多いからな。だからこのままでは今の戦争が拡大し、大規模な出兵が行われることになる可能性が高い。そうなれば、それに関係する軍需産業は大儲けってことだ」
と、発言。皆は頷いた。
「「「「……」」」」
「もしそうなら、クズですね、現在の王族も第三王子も、裏にいる軍需産業も!」
ミレイヴァルの言葉に皆が頷いた。
今の話を聞いていた、客たちも頷いて王族たちと大商会の悪口を言い始めた。
「あぁ、金に権力に自ら欲望しか頭にないということになる、人としての温もりを忘れた奴らだ」
「はい、しかし……帝国という免罪符を利用し、オセべリア大平原の各都市に、ペルネーテの都市までも犠牲にしようとするとは……」
ミレイヴァルの言葉に頷いた。
「裏で儲けている軍需の商会を潰すしかないだろうな」
「シュウヤさん!」
突如響き渡った声に、重苦しい空気が一瞬で払拭された。
振り返ると、そこには軽装の冒険者装束に身を包んだシャナの姿があった。
先ほどまでのステージ衣装とは打って変わって実戦向きの装い。それでも、その立ち姿には歌姫としての気品が漂っている。シャナは軽やかな足取りで此方に寄ってきた。先ほどの歌姫の面影を残っているが、冒険者としての凛とした表情さも出ている。シャナは近付いて、
「ペルネーテにきていたんですね!」
「おう、先ほどの歌は見事だったよ」
「あ、ふふ、ありがとうございます」
「メルから血文字で旅用の資金は貯まったと聞いている。ゴルディクス大砂漠にはまだ出ていない理由でも?」
「あ、はい、この仕事も楽しいこともありますが、メルさんたちから、シュウヤさんの活躍を聞いて、会いたかったこともあるんです」
「おう、それは俺もだ。実は、シャナが前に言っていた〝紅玉の深淵〟のことなんだが」
「え!」
続きは、明日。
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