千五百二十二話 〝暁闇を刺し貫く飛び烏〟とシャナとの再会
周囲の血を吸い取っていく。血をかなり得た。
<血想槍>を連発しても余裕だな。
無名無礼の魔槍と魔槍ラーガマウダーを仕舞う。
<導想魔手>を消した。
闇と光の運び手装備の砂漠烏ノ型はそのまま維持。
「沙・羅・貂は左手に、ヘルメとグィヴァは両目に戻ってくれ」
「了解~」
「うむ!」
「「はい――」」
「分かりました――」
沙・羅・貂は一瞬で左手の掌の運命線のような傷に消える。
ヘルメとグィヴァはゼロコンマ数秒の間に女体を溶かすように崩し、水と雷状の魔力に体を変化させると一気に螺旋状に変化させながら両目に突入してきた。
ちゅぽんッと音は聞こえないが、そんな印象で両目に格納する。
常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァを仕舞うのは慣れない。
二人の妖精versionが視界にくるくる周りながら出現してくれた。可愛い。
「フィナプルスも魔界四九三書に帰還を頼む」
「はい」
フィナプルスは白い翼を畳ませように翼で体を包みながら急加速――。
俺の腰に頭から突貫するように見えるが、一瞬で、腰ベルトに紐で括られているフィナプルスの夜会にフィナプルスは突入してくれた。
「おぉ、フィナプルスの身長からしていきなり盟主の腰に消えるのは、驚きを覚えるな」
「あぁ、慣れないし、少し怖いんだ」
と本音でベニーに伝えると、
「盟主がビビるか。先ほどの戦いっぷりからしてあまり想像できない」
「ベニー、シュウヤは強いけど、意外にびびりで繊細なところもあるの」
「びびりで繊細か……」
二人のやりとりに、メルのようなジェスチャーで応えてツッコミを入れようかと思ったが、ピュリンが、
「使者様、イモリザが外に出たいそうです。私も皆様に貢献できたので、よろしいでしょうか」
「あぁ、好きなようにチェンジをしたらいい。イモリザ、こい!」
「ふふ、はい!」
<光邪ノ使徒>ピュリンは走りながら――。
黄金芋虫からイモリザへと数秒も掛からず変化を遂げた。
成長しているから変身時間が速い。
その<光邪ノ使徒>イモリザと、<従者長>ベリーズと、<光魔ノ秘剣・マルア>のマルアと、<筆頭従者長>ルマルディと、ベニーと、ミレイヴァルを連れて<武行氣>を発動――。
飛翔し大通りを俯瞰しながら前後の通りに魔人と帝国兵がいないか再度確認した。
王子邸の右側の大通りでは無数の死体が転がっている。
俺たちが魔人の戦力と帝国の兵士を倒した証明だが、あまりペルネーテでは見たくなかった光景だな。
血溜まりが無いのは俺とヘルメに光魔ルシヴァルの眷属たちが血を吸収したからだろう。
その大通りを反転し、相棒たちが過ぎ去った大通りの左側を見ながら、路地を越える。 両手の黒い爪を地面に突き刺し、その黒い爪を伸ばして宙空に居たイモリザを見て、
「【迷宮の宿り月】を目指す」
「はい」
第一の円卓通りを空から目指した――第一の円卓通りの建物が遠くに見えた。
すると、背後から、急速に俺たちに近付く魔素の集団があった。
振り返ると、
「――居た! 潰せぇ!」
「【闇の教団ハデス】の名の下に【天凛の月】に罰を!」
「「「おう!」」」
いきなり襲い掛かってきた。
魔刃が飛来――右手に魔槍杖バルドークを召喚。
飛来してきた魔刃を右から左に動かした紅斧刃の<豪閃>で切断。
魔刃は左右に分かれて下の屋根に衝突。
反撃に<光条の鎖槍>を五発飛ばす。
先頭の魔人、否、魔族は魔剣を無数に周囲に浮かばせている。
魔族は片腕を上げた。片手の指先には魔力が集積している。
その指を上下に少し動かした。
宙空に浮いている魔剣が連動し、瞬く間に、重なり五つの大きい魔剣に変化を遂げた。
その五つの大きい魔剣と<光条の鎖槍>が衝突。
<光条の鎖槍>が止まる。
<光条の鎖槍>の後部の先端がイソギンチャクのように蠢きながら光の網へと変化を遂げると、光の網は五つ魔剣を取り込むが、落下していく。
<光条の鎖槍>がこういう形で防がれるのは初めて見たような氣がする。
アルルカンの把神書を漂わせているルマルディは魔力の衝撃波を飛ばす。
飛来してきた魔刃と黒い稲妻と火球に魔剣を潰していく。
ルマルディの魔力の衝撃波の中には月の形をした炎と風の刃が無数に重なっている強烈な魔法かスキルに見えた。
<光条の鎖槍>を防いだ魔族は、旋回機動を取った。
他の複数の魔剣の切っ先を向けたまま、俺に直進させてくる。
隣の四眼四腕の魔族は四つの魔杖を掲げた。
魔杖の先端に渦のような魔力溜まりがある。
その渦のような魔力溜まりから、魔刃と黒い稲妻と火球などの遠距離攻撃を再び繰り出してきた。俄に大きい駒<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前に召喚し、盾として直進させた。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は黒い稲妻と衝突し魔力を吸収する。
更に、片手半剣を持つ魔族が操作している複数の魔剣をも弾く。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を突進させ続けた。
飛び道具対策には、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が有効だ。
本来は<魔仰角印>などの攻撃方法が正しいらしいが――。
「チッ、あの壁のような魔道具は厄介だな――」
「「「あぁ――」」」
「吸収だと――」
「「「ぐぁ」」」
と魔人の四人は急降下――。
大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避けて路地に向かう。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は、逃げ遅れたように武器を振るっていた他の魔人たちと正面から衝突。頭部と武器が弾かれ手足が潰れ武器が跳ね返り体に突き刺さっていた魔人たちが居るようで墜落していく。
数人の魔人は腕が折れたように曲がっていたが直ぐに回復していた。
左手に魔槍ラーガマウダーを召喚。
「――皆、空の魔人たちは任せよう。路地に降りた魔人共は俺が潰す――」
「「はい!」」
「「了解!」」
「承知!」
「分かりました~」
――路地に急降下。
すると、魔人の一人が、
「【天凛の月】の盟主、槍使いだな」
と聞いてから「そうだ」と告げる。
魔人は二眼二腕で頭部が異常に細いから魔人ではなく魔族か。
赤い筋肉鎧にマントを羽織る。
片手半剣の魔剣を片手に持ち複数の魔剣を周囲に浮かばせている。
<導魔術>使いか。周囲に浮いている魔剣の数は三十ぐらいはあるか?
魔剣の群れの影響で魔族の姿が見えにくい。
左に居る魔族は四眼四腕で角は無い。
だが、額に縦に大きい魔印が刻まれていて光っている。
ヴァクリゼ族やシクルゼ族などと似た魔族だ。
四眼四腕の持つ魔杖が、
「魔人キュベラス様は遊ぶ程度にするのよ? と、警告していたがスマル、アスレオ、ルガーも分かっているな」
「あぁ、分かっている、アスレオとルガーも俺に合わせろ」
スマルが片手半剣を持つ魔族の名か、
「了解した、あの方に近寄る者はだれであろうと許せない」
「おう、魔斧ペショードで盟主を斬る」
アスレオが槍使いの名か。
ルガーが双斧使いか。
「「「うむ!」」」
路地の屋根の横に浮いている四眼四腕が持つ魔杖の魔力溜まりから黒い稲妻、炎玉、風弾、岩の塊に魔刃が飛来してきた。
路地の地面に居る片手半剣を持つスマルは<導魔術>を強める。
周囲に浮いている複数の魔剣から出ている魔線はスマルの体と繋がったまま太くなり輝きも増した。それらの魔剣の切っ先を一斉に俺に差し向けると、その魔剣を直進させてくる。
瞬間的に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を寄せて前進させた。
――<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と衝突した黒い稲妻、炎玉、風弾、岩の塊、魔刃、などの遠距離攻撃の魔法かスキルの物理属性をすべて弾き、魔力を吸収する。
魔術師は降下する。
スマルが繰り出した複数の魔剣も硬質な音が響いているように<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は弾いてくれた。
そのまま直進した<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避ける四眼四腕の魔術師は再度浮遊しながら魔刃を寄越す。
「接近戦で仕留めるぞ――」
「おう!」
「三魔狩りを行おう!」
「「「了解」」」
スマルとアスレオとルガーは、左壁と右壁を走って<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を避けた。
壁を走り俺との間合いを潰す。
と、それぞれ迅速に右手に持つ魔槍と片手半剣と斧刃を突き出し振るってきた。
――<魔闘術の仙極>を意識、発動。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を消す。
左手に魔槍ラーガマウダーを召喚。
――<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させた。
魔槍の穂先と片手半剣の突きスキルと斧刃と飛来してきた魔刃を見ながら俄に後退。
<血道第一・開門>を使う――。
全身の皮膚から<血魔力>を放出させた。
<血道第三・開門>――。
<血液加速>――。
速度を加算させると敵の動きがスローモーションに見える。
後衛の魔術師が放った黒い稲妻、炎玉、風弾、岩の塊と魔刃が飛来してくるのを見ながら――。
<血想槍>を意識し発動させた。
敢えて前衛組に前進しながら――。
右前に居るスマル目掛け魔槍杖バルドークで<血刃翔刹穿>を繰り出した。
スマルは片手半剣を上げて防御に回し――紅矛の<血刃翔刹穿>を防ぐ。
火花と血飛沫の刃が散り無数の傷をスマルは受けるが直ぐに回復していた、そのまま衝撃で後退していく。と、スマルは、己が操作している複数の魔剣で、自身の体を支えて衝撃を殺していた。
槍使いアスレオの<刺突>を風槍流『異踏』で左に体の軸をズラし躱す。
ルガーの双斧使いの踏み込みと歩幅に、後衛に居る魔術師を視界に捉えつつ――。
背後に黒い稲妻、炎玉、風弾、岩の塊と魔刃が衝突していく音を感じながら、左足の踏み込みから槍使いアスレオに向け<杖楽昇堕閃>を繰り出した。
槍使いアスレオは、魔槍の柄で十文字の穂先の一撃を防ぐ。が、二撃目の魔槍ラーガマウダーの振り降ろしの石突の打撃は防げない、左足に喰らう。
「げぇ――」
と転倒。周囲に槍を戦闘型デバイスから出現させる。
血を纏う雷式ラ・ドオラで、スマルが操作している複数の魔剣を払うように<龍豪閃>――。
遠隔操作されていた複数の魔剣を雷式ラ・ドオラの<龍豪閃>が一度に払う。
「――な!?」
複数の魔剣を払われたことに驚いていた片手半剣を持つスマルの頭部を狙うように――。
血を纏う白蛇竜小神ゲン様の短槍を直進させて<白蛇竜異穿>を繰り出した。
血を纏う魔星槍フォルアッシュで片手半剣を持つスマルに<血刃翔刹穿>を繰り出した。
スマルは複数の魔剣と片手半剣を、己の体を守る盾にして、<白蛇竜異穿>と<血刃翔刹穿>を何とか防ぐ。
スマルは<血想槍>のスキルの連続攻撃に耐えた。
血を纏う王牌十字槍ヴェクサードを防御に回してルガーの魔斧の連続斬撃を防ぐ。
血を纏う茨の凍迅魔槍ハヴァギイで地面を転がる槍使いアスレオの頭部を<魔仙萼穿>で貫く。
防御の構えのスマルを見ながら<水月血闘法>と<光魔血仙経>を実行。
数段階の加速上昇した俺にスマルは追いつけていない。
そのまま血を纏う聖槍ラマドシュラーで戦神流<攻燕赫穿>を繰り出した。
赫く燕の火炎魔力が聖槍ラマドシュラーから迸った。
聖槍ラマドシュラーが片手半剣をすり抜けスマルの鎧を突き抜け腹に突き刺さる。
ボッと音が鳴った刹那――スマルの体から異音が轟くと体が膨らみ大爆発。
「ぐああぁ」
聖槍ラマドシュラーの穂先と柄から噴出していく赫く燕は、戦神イシュルル様を模りながら飛翔し、再生しようとするスマルの体に纏わり付いて燃焼し、爆発を繰り返した。
スマルだった肉塊は炭化。
血を纏う聖槍アロステを上昇させ四眼四腕の魔術師に繰り出した魔法に<魔仙花刃>――。
血を纏う聖槍キミリリスを上昇させ四眼四腕の魔術師の魔法と本人を狙う<雷穿>――。
血を纏う霊槍ハヴィスを上昇させて四眼四腕の魔術師が繰り出した魔法に<光穿>を繰り出した。
血を纏う夜王の傘セイヴァルトを上昇させ四眼四腕の魔術師の本人に<闇雷・一穿>を繰り出す。
血を纏う六浄魔槍キリウルカを上昇させて<攻燕赫穿>。
<攻燕赫穿>が四眼四腕の魔術師を撃ち抜く。
「ぐあぁ――」
体が燃焼している魔術師だが、念の為――。
血を纏う魔槍グドルルでもう一度<血刃翔刹穿>を繰り出した。
オレンジ刃の青龍偃月刀と似た穂先で、魔杖を持っていた炎上している魔術師本人を狙う。
<血刃翔刹穿>魔術師の体を貫いていた。
オレンジ色に燃焼しているような穂先の周囲に無数の血の刃が迸っている。
血の刃が多重に重なりながら螺旋しているところもあり、畝っていると言えばいいか……。
<刃翔刹穿>から進化した<血刃翔刹穿>はなかなか強烈だ。
斧使いルガーは王牌十字槍ヴェクサードを相手に苦戦中。
その斧使いルガーを見ながら魔軍夜行ノ槍業に少し魔力を送る。
『飛怪槍のグラド師匠、この間覚えた魔槍技を試させてもらいます――』
『カカカ、弟子の殺気がいかほどか……見させてもらおう――』
とゼロコンマ数秒もない間の思念のやり取りを行う――。
<血魔力>を吸収するように<血想槍>を終了させる。
路地の暗闇と僅かな明るさを利用するように<暁闇ノ歩法>を実行。
空間の闇を足で掴むように斜め前に加速移動――。
双斧使いルガーは驚いて、
「夕闇に体がぶれる!?」
『――ふふ、閣下の渋い機動」
『はい! 御使い様の新スキルの歩法の一つ!』
魔族の双斧使いルガーからは消えたように見えたのかもしれない。
双斧使いルガーは双斧に魔力を込めて反応するように振るい上げた。
ルガーの体から炎の魔神が斧を振るう幻影が見えた。
が、<暁闇ノ歩法>のまま槍圏内に入る手前で――。
〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟に載っていた何千種類の槍武術が想起しつつ実行――空間の闇と夕闇を捉えるように跳躍し、軽やかに双斧使いルガーの二振りの斬撃を避けつつルガーに向かう。
『『おぉ~』』
『まさに、〝暁闇を刺し貫く飛び烏〟』
宙空から右腕ごと魔槍杖バルドークに魔力を魂と殺気を込めてからルガー目掛けて<飛怪槍・赤斂ノ戦炎刃>を繰り出した。
体から殺気が炎として自然と体から溢れ出る。
その殺気の炎が魔槍杖バルドークと一体化したように紅矛と紅斧刃が朱色の炎に飲まれたまま直進し、双斧を横に弾き飛ばし、ルガーの胸を貫いた。
ルガーは朱色とルビーレッドの殺気の体現化と思われる異質な炎に包まれると炎の中に不動明王のようなモノを顕れたが一瞬で炎が消えた。
ルガーの体のみが炭化し塵となる。
更に朱色とルビーレッドの異質な炎は銀杏穂先の形に成りながら地面を貫いて爆発し爆発が収縮。
――収縮した地面の土が仏の影絵に見えた直後、その地面が溶けて蒸発するように陥没した。
これが<飛怪槍・赤斂ノ戦炎刃>か。
結構ヤバイスキルだ。
『ふむ、見事な、殺気の影向じゃ』
魔軍夜行ノ槍業の飛怪槍のグラド師匠も認めてくれたようだ。
ピコーン※<暁闇ノ跳穿>※スキル獲得
おお、槍スキルを得られた。
〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟を読んだ効果は凄い。
ヘルメは興奮しながら念話をしていたが、本当に四天魔女の〝暁闇を刺し貫く飛び烏〟と関係している型のスキルが<暁闇ノ跳穿>だな。
<血想槍>を解除しすべての武器を仕舞い、皆がくるのを少し待つ。
「デュラートシュウヤ様、地面が陥没! 結構強かったようですね」
「おう」
「――使者様が<魔槍技>を使ったのでは?」
「正解だ、魔軍夜行ノ槍業の飛怪槍のグラド師匠の<魔槍技>を試した」
『なかなかの威力!』
妖精のヘルメが念話で発言するが、勿論、皆には聞こえない。
「「おぉ~」」
「――シュウヤ、此方の魔人も倒したわ」
「盟主、ぬかりなく、殆どをルマルディとミレイヴァルが倒していましたが」
「「はい」」
掌握察と<闇透纏視>で周囲を見ながら、
「では、迷宮の宿り月を見に行こう――」
「「「はい!」」」
その後は戦闘もなく第一の円卓通りに突入。
バリケードも特になく第一の円卓通りでは戦闘は皆無。
冒険者たちは多い。
古魔術屋のスロザの店は無事だが、シキたちの家があったところが、一部破壊されていた。
――西のペルネーテ大草原の戦にて、大隊戦規模の戦いが発生、竜魔騎兵団及び青鉄騎士団の敗走が続いている。
布告人の情報は久しぶりだが、ナロミヴァスたちの応援に行かないとな。 商人と冒険者たちで活気に溢れている。ルビアは見当たらない。
ルビアが所属している【蒼い風】の冒険者クランが、ラドフォード帝国とオセべリア王国の争いに巻きこまれていないといいが……。
「――五階層の荒野なら、どこでも案内できるぜぇ~」
「――六階層なら経験済み~片手剣と盾を使うし、回復魔法も使えるから万能よ! 五階層でもいいからパーティに入れて~」
「前衛が可能な、名は、ハチガモンだ。槍使いであり、剣師でもある。冒険者ランクはAランクだぜ!」
と冒険者たちの声が響く。
懐かしい、いつも通りに見える。
一部の傭兵稼業もこなす冒険者はオセべリア王国の軍と連合し、貴族街で帝国兵と魔人の兵と戦っているようだが、国が勝手にやっていることと割り切っている冒険者たちも多いってことだろう。
自らのおまんまのため、金を稼ぐことを優先している冒険者の数はそれなりに居る。
施政者が変化しても冒険者活動は続くだろうしな。
帝国が冒険者を閉め出すような政策を取りだしたら話は変化すると思うが。が、今は今。
迷宮は残るし、邪界ヘルローネの邪神の使徒や魔界セブドラの魔神や諸侯の眷属と神界セウロス側の神々の眷属や神界戦士の戦いもある。
オセべリア王国の施政者、ファルス殿下は神々の争いにはあまり介入していない印象だった。
見知らぬアイテム類は魔機械などにも及ぶから生活が便利に成るし、蒐集家には最高の都市だろうからな。
ここに居る冒険者たちは、オセべリア王国とラドフォード帝国の戦争は関係ないって印象だ。
「迷宮都市ペルネーテの中心地、活気はあるように見えるけど、商人の数は少ないかな?」
とベリーズの言葉に頷いた。
「迷宮の宿り月に行こう」
「了解しました。皆も居ると思いますぜ」
「「「はい」」」
ベニーも蟲使いゼッタに世話になったようだからな。
――迷宮の宿り月に戻ってきた。
久しぶりのランタンのオブジェだ。淡い光の点滅が軒と壁を射す。
淡い月を象った影が通りに伸びている。と、野良猫たちが通った。
昔も、ここを野良猫たちが通ったんだよな、影絵にも見えたんだった。
蝉の鳴き声が響く、ゼッタの蝉は健在だ。すると――。
宿り月の屋根と、隣の建物の屋根の上に魔素を察知。
その魔素が路地に着地してきた。全部で五名。
あぁ、ベニーの元暗殺チームか。
そう言えば、【天凛の月】のペルネーテ支部に入っていたんだった。騒ぎに合わせて警護を増やしていたんだな。
「盟主、シュウヤ様とベニー隊長!」
「よう、名はトオだったか」
「はい」
ベニーが、
「ここは無事のようだな」
「なんとか、外で魔人たちと戦いになりましたが」
「了解した、そのまま迷宮の宿り月の警護を頼む。そして、旦那、さっさと中に入ろうぜ、一杯飲んで、補給がしたい」
「分かった」
トオたちは、
「では、盟主、ここの警護を行います」
「おう、がんばってくれ」
「「「「「はい!」」」」」
と跳躍し、屋根の上に乗っていた。
「わたしも少しの間、迷宮の宿り月の門番長をここでしますか?」
「今はいい、シャナの歌声を聞きたくないのか?」
「え、あ! シャナさんのことがありました! 一緒に入ります!」
「おう」
「「ふふ」」
微笑むマルアとベリーズ。
『楽しみです』
『はい、サイデイルでシャナのことは数回聞いています』
『うむ、妾も皆も歌ったが、キサラとイモリザの美しい歌声に優るほどと聞く。楽しみじゃ!』
と、沙・羅・貂たちも楽しみか。
ミレイヴァルは通りを見張ってくれていた。
光の美人騎士のミレイヴァルは絵になる。
そのミレイヴァルにも「中に入ろうか」と言って皆を連れて、宿り月の玄関に手をかけると聞き覚えのある癒やしの歌声が聞こえてきた。
シャナの歌声だ。
相変わらず素晴らしい声――。
扉の下には相棒が爪研ぎを行った跡が残っている。
はは、懐かしい――。
昔、黒猫は扉を『あけて、あけて~』と両前足を上下させていた。
「はは――」
と笑いながら玄関を開けた。
懐かしい酒の匂いを感じながらシャナの歌声に導かれるまま食堂に向かう。
抑揚のあるシャナの歌声に乗る気分となりながら食堂のテーブルに座った。
ふと、メルたちが駆けよってくる幻影が見えたような氣がした。思えば、ここがペルネーテの原点だからな。
歌っているシャナが俺たちの存在に気付いて、腕を振ってきた。応えて腕をあげた。元気そうだ、シャナの首には歌翔石が嵌まっている。
他の客が一気に俺たちを見やる。
野郎からキツイ視線だが、しらんがな、だ。




