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千五百十九話 ガルキエフの追悼に<光の授印>

 ユイはアゼロスを消して()と抱き合ってから、片手を上げ、


「ふふ! シュウヤ、一先ずの勝利。王子も皆生きている。あ、一応庭を見てくる」

「了解」

「ふむ、器よ、妾も外を見てくる――」


 ユイと()は駆けた。

 ここからは見えないが窓から庭に出たんだろう。


 ――<魔闘術>系統を<闘気玄装>と<武行氣>を残し他を解除――。

 周囲の血飛沫と水氣の魔力を吸収した。


 しかし、派手に直進する<紅蓮嵐穿>をぶちかました……。

 ファルス王子の部屋の壁際から廊下を斜めにぶった切るように突き抜け、此方側の大部屋の横壁に大きい穴が空いている。

 巨大な機関車が突き抜けた跡と言えば良いか……。

 此方側の大部屋でも、死体が多い。

 無数のアイテムも絨毯や床の上に散乱している。

 壊れた壺とワイングラスに、倒れた燭台と蝋燭の火が絨毯に触れていたのか、絨毯が燃えている――急いで<生活魔法>の水を散布し消火した。


 傷付いた熊の調度品は普通のアイテムか。

 が、銀色の髑髏と、まだ血肉と腐った眼球が付いている髑髏と妖しい人形を発見。


 更に、指が太く変な指輪を嵌めまくっている多指を有した片腕も見つけた。

 指輪から小さい指が無数の伸びているのもある。


 それら呪い系のアイテムも散乱している。


 怖い物と分かる。

 王子から許可を得ていないが、無魔の手袋で、その指が太く変な指輪を嵌めまくっている片腕を掴む。


 その片腕が蠢いた。

 これは生きている?


 戦闘型デバイスに仕舞った。


 new:魔皇アブラモラモスの多指と指輪×1


 ヤバそうな名だ。


 後で、言おう。


 と、倒れている大小様々な机と椅子……げ……。


 階段箪笥と壁の間に隠れていたメイドたちの死体か。


 胸に赤い斑点があり、剣を突き立てられて死んでいた。


 戦えない者も始末するとは、酷すぎる。戦っていた衛兵の遺体も多い。


 数人のメイドは逃げたところを背中を斬られて貫かれたようだ。

 メイドを庇うように死んでいる衛兵もいる。

 両腕を上げて防御するがまま首が刎ねられていた衛兵もあった。

 皆、無念だったろう――片手で拝む。

 南無阿弥陀仏、アーメン、仇は取れたと思うから、どうか安らかに――。

 外のガルキエフも……南無……と、部屋の隅で火災が発生している――。

 急いで燃えていたチェストと壁の下に移動し――。

 <生活魔法>の水を大量に撒いてチェストの壁の炎を鎮火させた――。

 ここは全部消えたが、


『ヘルメとグィヴァ、第二王子の屋敷の内部で燃えているところがあったら消してくれ、庭の外から結果報告を行っている敵も見つけたら倒していいが、直ぐに自宅に戻るから戦闘はできるだけ無しで、出てくれ』

『『はい!』』

 ヘルメとグィヴァが両目から出た。

 ヘルメは「こちらのほうに火の精霊ちゃんが集まっています!」


 と右の部屋を抜けて、見えなくなった。

 ヘルメの「<滄溟一如ノ手ポリフォニック・ハンド>――」とスキルを使った声が響く。敵は居ないと思うが少し心配して追った。

 ヘルメは燃焼が激しかった壁を破壊していた。

 まだ燻っている火元に水を放出して鎮火している。


 敵は第二王子の命だけでなく、屋敷を燃やし証拠も何もかもを消そうとしていたか?


 グィヴァは罅割れが多く炎が燃え広がっている壁を<雷雨剣>で連続的に切断。

 壁を破壊しまくる。天井の崩落を防いだことを確認してから建物の外に出ていた。


 見回しながら王子たちが居た部屋に少し戻る。

 大部屋の床に散らばっている調度品が無残過ぎた。

 額縁ごと破壊されている無数の絵画も多い。

 損害が凄まじいことになりそうだ。と、まだ火種を発見、水を撒いた。


 ――周囲の火の元を確実に消しつつ、


「ヘルメとグィヴァ、早めに切り上げていいからな――」

「「はーい」」


 ヘルメたちの返事を耳にしながら廊下を出ると俄に複数の魔素を察知した。

 黒装束の連中がまだ居る? ――鋼の柄巻を抜いた。

 いつでもムラサメブレード・改の青緑色の光刃を出せる。

 ――魔素の近くは壁からか……壁に手を触れると自然と壁に印が浮かぶ。

 と、壁が横にズレた。自動ドアか。壁の奥には隠された通路と地下に向かう階段があった。灯りは保たれている。メイドたちが使う緊急用の脱出通路かな。

 その階段の下から階段を上がっているような複数の足音と息遣いが響いてくる。

 ――目には見えない、魔素も感じない――鋼の柄巻に魔力を通す。

 

 ブゥゥゥンと青緑の光刃が鋼の柄巻の放射口から出現した。


 その下のほうに不思議に思ったところで、いきなり目の前の空間が剥がれ落ちる。


 床に魔法の布が落ちると「「「あ……」」」と声を発した短剣を持つ四人のメイドさんが見えた。なんだメイドたちか、良かった。と安堵感を覚える。そのメイドの中に見知った侍女のリズも居た。リズも俺を見て、


「――やっぱりシュウヤさん!」


 元気なリズの言葉に自然と笑顔となった。

 魔法の布と隠し部屋で自分たちの気配を殺していたのか。

 そのメイドたちを見て、


「良かった、王子は生きています、共に王子たちが居る部屋に行きましょう」

「「「「はい!」」」」

 

 生きていたメイドたちを連れて廊下に戻る。

 そのまま<紅蓮嵐穿>の傷跡が生々しい廊下を抜けて、左のファルス王子たちが居る寝室を兼ねた大部屋に戻った。

 ファルス殿下を守った魔法の馬は消えている。

 あの能力は王族だから可能なスキルなんだろうか。


「戻ってきた!」


 部屋に居たフランだ。血濡れていた片手半剣を仕舞い笑顔を見せた。

 深紅に近い髪は変わらず、瞳は鳶色だ。

 鼻と頬には可愛らしいソバカスもある。一方、レムロナも、レムロナは髪が少しだけ長くなっている。瞳とソバカスもフランと似て魅惑的。大騎士としての白い甲冑が血塗れだ。


 その二人が、


「――シュウヤ、助かったぞ、ありがとう!」

「――シュウヤ!」

「――おう」

 

 駆けよってきたレムロナとフラン――。

 闇と光の運び手(ダモアヌンブリンガー)装備を消した。

 ゴルゴダの革鎧服の素材の半袖バージョンに着替えて抱き合った。

 ――良かった、生きていて。

 

「ンン、にゃおおお~」


 涙目の黒豹(ロロ)だ。窓の外から飛翔するように入ってきた。

 レムロナとフランとの熱いハグに相棒も加わるようにのし掛かってきた。


 レムロナとフランも少し必死な黒豹(ロロ)に顔を舐められて、


「――あはは」

「ふふ」


 二人を黒豹(ロロ)に任せてファルス殿下に近付いた。

 黒豹(ロロ)もガルキエフの遺体を見ているからな。

 レムロナとフランを救出できて本当に良かった思っているんだろう。


 その横に居たキリエも会釈し、


「シュウヤ様、助かりましたありがとう」


 と礼を言ってきた。キリエとファルス殿下を見ながら、


「おう、殿下もご無事で何より」

「あぁ、シュウヤとユイに神獣ロロは私の命の恩人だ、本当にありがとう!」

「はい、助けられて良かった。ただ……」

「ただ?」


 ガルキエフの死を告げるのは辛い。が、


「はい、ここに突入する前に、庭でガルキエフの遺体を確認しました」

「「「「……」」」」


 ファルス殿下に皆が沈痛の面持ちか、沈痛どころではないか。

 ガルキエフは一人無数の黒装束を相手に粘ったから、今の皆がある。

 レムロナも胸元に手を当てながら涙を零し始める。


「……ガルキエフ……」

 とボソッと語ってから涙を流しつつ破壊されている窓際の壁から外に出ていた。


 皆とアイコンタクト。静かに頷き合い、外に出た。

 すると、<黒南風もののふ>を使用しているゼメタス、<赤北風もののふ>を使用したアドモスが突進するように近付いてきた。


「「閣下ァァァ――」」


 <ルシヴァル紋章樹ノ纏>を発動させているゼメタスとアドモスは目立つ。

 上半身の渋い兜の前立ては旭日の如く輝き、烏賊耳のような横の出っ張りが格納されていくさまは面白い。下半身と足下は月虹のグラデーションが掛かって足下にいくほど暗くなっている。星屑のマントの煌めきも良いコントラストだ。


 愛盾・光魔黒魂塊と名剣・光魔黒骨清濁牙と愛盾・光魔赤魂塊と名剣・光魔赤骨清濁牙は血濡れているが、直ぐに吸収されていた。


 光魔沸夜叉将軍のゼメタスとアドモスも活躍してくれたようだ。

 結果は庭の惨劇を見れば分かる。

 黒装束の兵士たちは最低でも二百名以上は死んでいるかな。

 数え切れないほどの死体が転がっている。


 アクセルマギナも近付いてきた。


「マスター、視認できる敵反応はありません――」

「シュウヤ様、敵を倒しました」

「はい――」


 ミレイヴァルとフィナプルスも低空を飛翔するように寄ってきた。

 アクセルマギナは魔銃を胸元に抱えながら半身のまま、俺たちの周りを一周する。

 ボディスーツの胸のマスドレッドコアが少し光る。

 義手と義足に半身の肉体も美しい。

 人の指のような金属のアーマーが腰とお尻と太股の外側広筋を覆っている。

 太股とお尻の膨らみが張りを維持した状態だから魅惑的だ。


「「「ひぃぁぁ」」」

「魔界騎士様ァァ――」

「「なっ!?」」


 メイドとキリエとファルス殿下たちが、ゼメタスとアドモスの魔界騎士のような姿を見て驚愕しているんだろう。レムロナとフランも驚いている。


 光魔沸夜叉将軍に進化したゼメタスとアドモスだからな。


「皆さん、頭蓋骨系の大柄の魔界騎士と似たゼメタスとアドモスは、俺の配下です。怯えずとも大丈夫。ミレイヴァルとフィナプルスとアクセルマギナの三人の美女たちも皆のため暗殺者たちが連れていた敵兵士を倒すことに貢献しています」


 ファルス王子は、


「おぉ! そうであったかゼメタスとアドモス殿、ありがとう。ミレイヴァルとフィナプルスとアクセルマギナ殿もありがとう」

「「「「ありがとうございました!」」」」

「「――皆様は命の恩人です!」」

「「はい!」」


 興奮しているメイドたちも嬉しそうに礼を皆に言っていた。


「「ふむ!」」


 ゼメタスとアドモスは気合い声と発して、魔力を体から噴出させる。

 

 ミレイヴァルが、


「はい、陛下のご命令のままに行動したのみ。ですが、助けられてよかったです」


「敵は殲滅しましたが、増援がありましたから予めの準備は相当のはず」


 アクセルマギナの言葉に皆も頷いた。

 フィナプルスも、


「どういたしまして皆の言う通り、襲い掛かってきた黒装束はすべて返り討ち。ただ気配を断つスキルを持つ者も居るでしょうし、増援がくる可能性も非常に高い。ここは危険ですよ」


 フィナプルスの警告に、ファルス殿下とレムロナもフランも頷いて、


「それはそうだな……」

「はい……あ、サージェスの反応が……」

「え、あ……はい……」


 レムロナのドラゴンは倒されたか。

 フランは肩を落としているレムロナに寄り添った。

 アクセルマギナとミレイヴァルとフィナプルスとゼメタスとアドモスに向け、


「皆、がんばってくれてありがとう。ゼメタスとアドモスは一時、魔界に帰還してくれ、アクセルマギナも、戦闘型デバイスに戻っていい」

「「承知!」」

「「はい」」


 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは一瞬で消える。

 闇の獄骨騎ダークヘルボーンナイトとの繋がりも進化している証拠だ。

 アクセルマギナは胸のマスドレッドコアの点滅が速まると義手と義足が先に分解されたように魔力の粒子に変化し、ボディースーツのような体も魔力粒子状に変化し、対数螺旋のまま戦闘型デバイスの中へと吸い込まれてアクセルマギナは消える。


 戦闘型デバイスの風防ガラスと縁の紅焔の飾り一回回った。

 プロミネンスの炎を模るように魔力を発して輝いている。

 皆が、戦闘型デバイスを見ていたが、その右腕を上げてガルキエフの、


「ガルキエフの遺体はあそこです」


 と発言。ファルス殿下は頷いた。

 メイドたちは口に手を当て……『信じられない』と言うように息を呑んでいる。


「……うむ」


 皆でガルキエフの遺体の下に走る。ユイが近くにきた。

 ファルス殿下とレムロナもフランとキリエが先に立ったまま死んでいるガルキエフに近付く。

 メイドたちも、


「そんな、ガルキエフ様が……」

「うそよ、あのガルキエフ様が」

「うぅぅ――」

「……」


 と泣きながらガルキエフの傍に寄っていた。

 先頭にいる王子が、


「――立ったまま我らを最後まで守ろうと……なんという大騎士なのだ……」

「ガルキエフ……肩の傷に切り傷は、先ほどの暗殺者の……」

「あいつらは強かったからな……」

「あぁ」

「わたしが外に居れば……」

「キリエ、お前は廊下側、少し離れた部屋に居たからこそ、廊下の敵を一時は殲滅できたのだ」


 とレムロナが発言。キリエは頷いて、


「はい……」

「……にゃ……」


 黒豹(ロロ)は黒猫に戻す。涙を流していた。

 黒猫(ロロ)の足下にはガルキエフが愛用していた青龍戟が落ちている。

 猫の絵が描かれた絵柄は前と変わらず……ガルキエフ……。

 

 ユイは、


「大量出血と毒の死よ……〝魔紫牙毒ヴェノム〟のような即効性の奴だと思う」


 レムロナもフランも頷いた。ユイは退いてから俺の横にきて、


「ガルキエフさんは、残念だけど……」


 と小声で言いながら王子をチラッと見る。頷いた。


「あぁ、ガルキエフが居たからこそだな」

「うん」


 ユイと悲しみのまま頷いた。

 アクセルマギナも「はい」と小声で言うと、ミレイヴァルとフィナプルスは得物の先端をクロスさせた。十字架の鎮魂を意味か。


「はい、王子のために奮闘した偉大な騎士」

「魔女を守ろうとした古代樹ソルフェノスやアニュイルの巫女を思い出します」


 と発言。

 レムロナとフランもガルキエフの遺体を少し調べ出した。


「ユイさんの言う通り、毒死、あの鉤爪を扱う女性暗殺者のせいです」


 レムロナの言葉に皆が頷いた。


「毒は血流に作用する猛毒……ユイが言ったように〝魔紫牙毒ヴェノム〟か〝蠱毒魔魂〟だろう。即効性があるが長続きはしない……もう効果はない部類か」


 と発言。ファルス殿下は頷いて、


「構わない……レムロナもフランも手伝え」


 と、嗚咽を漏らしつつレムロナとフランに呼びかけるとガルキエフの遺体に近付き、懐からポーションの瓶を取り出しては蓋を開けて、そのポーションの液体をガルキエフの遺体に振りかけていた。


「……本当に、あのガルキエフが……死んでいる。目を開けたまま気を失っているわけではないのだな……」


 と発言すると、震えた両手で、そのガルキエフの頭部を触り、


「ガルキエフ……忠義は忘れぬ……私の幼い頃からお前は……くそ、あぁぁぁ……」


 と大泣きしてはガルキエフの胸元を抱きしめていた。


 レムロナもフランも涙を流す。

 幼い頃からか、第二王子としての不遇をずっと支えていた一人がガルキエフか。

 罷免されたサリルとも、それなりに付き合いはあったと思うが、ガルキエフとの繋がりのほうが大きかったようだ……。


 あの悲しむ王子の姿を見て自然と涙が零れた。

 ミレイヴァルとフィナプルスにアクセルマギナも涙を流す。

 ファルス殿下は、ガルキエフの双眸に指先を伸ばす。

 レムロナもフランがガルキエフの遺体の左右に移動し、肩で遺体を支えた。


 ファルス殿下は、ガルキエフを見て、


「……ガルキエフ、お前には特別休暇を与えよう……わたしがそこに行くまで、ゆっくりと休んでいるがいい、亡き妻と愛猫の下で楽しくつつがなく暮らすが良い」


 とガルキエフに語りかけてから、見開いたままだった瞼を片手で下ろして目を閉じさせた。

 レムロナとフランは泣いている王子と目を合わせていた。

 レムロナとフランは足下に綺麗な布を敷く。


 そのレムロナとフランはガルキエフの遺体を動かそうとした。


 が、ガルキエフは微動だにしない。

 レムロナとフランは、そんなガルキエフに、


「ガルキエフ、王子を守ったから安心して……」

「ガルキエフ……王子は生きている。シュウヤとロロ様がきて下さった。もう大丈夫なんだ……見事な大騎士だった……」


 と涙を流しながら語りかける。

 ガルキエフの表情が穏やかになったような氣がした。

 すると、微動だにしなかったガルキエフの遺体がレムロナとフランに寄りかかった。


 それは大騎士の先輩のガルキエフが後輩のレムロナに何かを語るように見える。


 レムロナとフランは、


「「ガルキエフ……」」


 と言いながらガルキエフの遺体を抱きしめる。

 そのままガルキエフの遺体を、地面に敷かれた綺麗な布の上に載せてあげていた。

 ――ガルキエフの青龍戟の槍纓と猫の絵柄が描かれてある布を拾う。


 その猫の絵柄の布と青龍戟を持ってガルキエフの遺体に近付いた。

 ガルキエフの死に顔は安らかそうだ。足を揃えて腕を畳むように胸元に両手が組まれていく、体中が傷だらけだ。その胸元に青龍戟に結び直した猫の絵柄の布を置く。


 大騎士の証明の白い甲冑もぼろぼろで色合いが変化していた。

 ポーションを飲んで無理やり傷を塞いだ痕も見受けられた。


 ……もっと速く来ていたら……否、たらればだ。

 ……しかし、ガルキエフ、こんな再会とは残念だ。


「にゃおおぉ~」


 黒猫(ロロ)も哀し氣な声を発して、泣いていた。

 ()が、そんな黒猫(ロロ)の頭部を撫でていく。


 ガルキエフが黒猫(ロロ)を見て興奮していた頃を思い出すと泣けてくる。


 レムロナもフランは黒猫(ロロ)()を見て微笑む。

 と、涙を拭いてからガルキエフの傍から離れた。


 ガルキエフの遺体の下に敷かれている綺麗な布はオセべリア王国の国旗か。

 すると、胸元の<光の授印>から輝き、光が伸びてガルキエフの遺体に当たった。

 ガルキエフの遺体が淡く輝くと、光る天道虫たちが周囲に発生。


 と、猫のような形の輝きもあった。


 その猫の輝きはガルキエフの頭部を舐めてから、ふわっと浮いて天道虫たちに引き寄せられるまま天に昇り、夜空のどこかに消えた――。


 ガルキエフの遺体の輝きも消える。

 

「今の光は……」

「はい、シュウヤさんの胸元に……」

「「「……」」」

「ふむ……」

「陛下は本当に光ノ使徒だと分かります」

 

 と片膝で地面を付いていたミレイヴァルの言葉に皆が俺を注視してきた。

 王子の侍女のリズが、


「……え、光ノ使徒……光神ルロディス様の八大使徒や光神教徒と呼ばれている聖者様でもある?」


 と小声で反応していた。


 ガルキエフの追悼に<光の授印>が反応すると思わなかった。


 すると、外から複数の魔素を察知――。

 メルたちもきた、破壊されている玄関口ではなく壁を乗り越えてくる。

 メル、ヴィーネ、ベリーズ、クレイン、ベニー、ピュリン、ルマルディだ。


「総長、遅れました。途中で【セブドラ信仰】の魔人たちと遭遇し撃破、と、ここでも戦いが……え、そこに寝ているのは……」

「あぁ、ガルキエフだ」

「「まぁ!!」」

「……激戦があったようだが、外からまた不自然な魔素が顕れているよ」


 クレインの言葉に頷いた。

 と血文字が浮かぶ。


『武術街の自宅に付いた』

『シュウヤはユイから襲撃があったって聞いた、後、ナロミヴァスが居ない。父の危機に西の戦場に出向いたと言ってた』

『うん、ナロミヴァスと闇の悪夢アンブルサンと流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアがベイス公爵、武のアロサンジュ公爵の紅馬騎士団の救出に向かったらしいの。武術街にも不審な魔人と裏武術会の連中が顕れたようだけどリコちゃんを筆頭にここに住む神王位の上位たちと神王位上位級の実力を秘めた武芸者が警邏チームを組んで、妖しい奴らをすべて皆殺し状態だった、だからここだけ結構平和』


 とエヴァとレベッカから血文字が浮かぶ。

 ナロミヴァスたちも強いと思うがセラも強者が多いから油断はできない。

 そのことではなく、


『了解した。ユイの血文字で知ったと思うが、ファルス殿下とレムロナとフランは無事だ』

『うん』


 そして、ヘルメとグィヴァが屋敷の屋根から飛翔して、降下し、


「――閣下とメルにヴィーネたち、左後方に新手です」

「――魔人たちです。出ますか?」


 またか。ヴィーネも、


「ご主人様、貴族街の一部、デクオル伯爵、トニライン伯爵邸がラドフォード帝国の特殊部隊にも占拠されたようです。第二青鉄騎士団団長のリード子爵邸の占拠していた帝国の特殊部隊を、一部の青鉄騎兵団と冒険者たちが連合し、帝国の部隊を撃破したようですが、油断は成らない状況のようです」

「なんだと!」

「え……」


 ファルス殿下たちが驚く。

 耳に【白鯨の血長耳】の魔通貝を嵌めて、


「『レザライサ、今大丈夫か?』」

『あぁ? 大丈夫だが、どうなっているんだ、今のペルネーテは!』

「『やはり、襲撃があったか』」


 皆もこの会話は聞いている。


『あぁ、魔人、魔族と裏武術街の連中だ』


「『了解した、此方も魔人、魔族の【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】の連中と何度か戦った。【闇の枢軸会議】の大枠に関わる組織が結構参加しているようだ。更に、帝国の特殊部隊も動いている。デクオル伯爵、トニライン伯爵邸がラドフォード帝国の特殊部隊に占拠されたようだ』」

『……』


 とレザライサから魔通貝が途絶えた。

 怒りのままぶっ壊した?

 分からないが、あのレザライサだ。

 父と共にオセべリア王国の建国に関わる長生きでもあるし、なにより、帝国の都市で破壊工作をしまくった本人だからな。

 

「レザライサのことだ、大丈夫だろう」


 クレインの言葉に頷いた。

 レムロナも、


「この分だと、白の九大騎士(ホワイトナイン)の詰め所も魔人たちと連合している帝国の特殊部隊から襲撃を受けたか……」


 と発言し、フランも、


透明な鷹(リノ)の帰りも遅い。もしかしたら盗賊ギルド【幽魔の門】のペルネーテ支部にも何かがあったか……西の戦場での動きも連動していると考えていいだろう」

「……では、長く潜んでいた裏切り者たちの一斉蜂起か?」

 

 レムロナの言葉に「な……」とファルス殿下の体が揺らいで倒れそうになったから支えてあげた。


「殿下、一つ一つ出来ることかしていきましょう」

「……あ、あぁ……【白鯨の血長耳】と大騎士がここまでやられたのだぞ……シュウヤ殿は随分と冷静なのだな……」

「はは、そう見えているだけですよ」


 と笑顔を見せてからファルス殿下から離れた。

 

「……帝国がこのタイミングで絡んで来るとは完全に予想外です」

「ふむ」


 皆を見て、


「紅馬騎士団と公爵アロサンジュはナロミヴァスが居るから大丈夫として……王太子レルサンの軍はどうなっているだろうか……ユイ、魔人キュベラスたちの位置は?」


 ユイは<ベイカラの瞳>を発動させながら、


「……ペルネーテの西の城壁近くね、魔人キュベラスと鎌を扱うだろう魔人も近く。魔族殲滅機関(ディスオルテ)の三人組は、そこから少し離れた南東側に居る。別の魔人と戦っている可能性が大」

「……神出鬼没な魔人キュベラスたちは陽動だろう」

「陽動……本筋は、ファルス殿下の暗殺?」

「あぁ、それも次いでか。ペルネーテの騒動その物が陽動、キーラの【御九星集団】も会合に顔を見せたように地下オークションが開催されてもされなくてもどちらでも良い算段か」

「……ご主人様、クリム王子は、聖鎖騎士団とヴァルマスク家を衝突させようと狙っていたのなら、相当な策士ですね」

「……あぁ、クリム王子も頭が回る。傍にいる参謀のような【黒の預言者ブラック・プロフェット】のような魔族が、キュベラスの他に居るのかも知れないな」

「「はい」」

「ナロミヴァスも語っていましたね、【闇の八巨星】の暗殺者たちを利用しないとだめだぞ、と……」


 ヴィーネの言葉に頷く。

 ユイも頷いて、


「【闇の教団ハデス】のバフラ・マフディは強かったし、シキたちを追い掛けていた炎極ベルハラディも居る」

「……塔烈中立都市セナアプアで揉めた【闇の八巨星】は多い。【ラゼルフェン革命派】、【錬金王ライバダ】、【天衣の御劔】はキーラ側のバックに付いている。【八指】のような連中も敵側さ」


 とクレインの指摘に、皆が表情を険しくさせた。

 先ほどの爺さんが【八指】の一人だったのかも知れないな。


「では、クリムが、わたしの暗殺を狙ったと言うのか!」


 と少し怒ったファルス殿下。

 身内を思うのは分かるが、


「はい」

「……」


 ファルス殿下は俺の短い返事ですべてを悟ったように息を吐いた。

 

 外から近付いてくる魔素を把握。皆を見て、


「魔人集団か帝国の黒髪隊か不明だが、ここに近付いてくる。ということで、皆、俺の屋敷に避難しましょうか、殿下、よろしいか?」

「勿論だ、良い!」

「あ、屋敷の中には妖しいアイテムが落ちていましたので一つ回収しました」

「……呪いのコレクションは要らない。シュウヤにあげよう。それに失いたくないアイテムはアイテムボックスに仕舞ってある」

「分かりました。では、いただきます」


 リズは何かを言うように俺を見る。

 回収したアイテムが気になるのかな。 

 ファルス殿下は、

「レムロナとフラン、シュウヤに世話になる、いいな?」

「「はい」」


 頷いた。

 レムロナとフランが、

「シュウヤ、殿下が言ったが、またまた厄介になる」

「うん、シュウヤの屋敷に……」

「おう、喜んで、シキのコレクターと、ヴァルマスク家と聖鎖騎士団などが居るが喧嘩とかないように」

「え?」

「「……」」

「ンン」


 相棒は姿を巨大な黒猫に変化させた。


「「「――うあぁ」」」

「「ひぃぁ」」


 香箱スタイルのように姿勢を低くする。

 と、王子たちに触手を絡ませて背中に乗せていた。布に包まれているガルキエフの遺体も載せた。


 ユイ、メル、ヴィーネ、ベリーズ、クレイン、ベニー、ピュリン、ルマルディとアルルカンの把神書を見ながら、


「ユイ、メル、ヴィーネ、クレイン、先に戻っておいてくれ相棒の前後を頼む」

「了解」

「はい」

「分かりました」

「承知したさ」


「にゃご~」


 と相棒は王子たちを連れてゆっくりと走り始めた。

 いつもより橙色の魔力の放出も多い。

 

 ()とベリーズ、ベニー、ピュリン、ルマルディとアルルカンの把神書を見て、


「では、俺たちもゆっくりと敵を出迎えながら通りに出ようか」

「うむ!」

「うん」

「ハッ」

「「はい!」」

「おう!」

続きは明日。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[一言] 呪いの品を〝夢追い袋〟のようなアイテムボックスに収納せず、大量の死体と呪いの品を屋敷に放置するのはかなりヤバそう…。 屋敷に無数の呪いの品と贄になりそうな大量の死体が集まると、何か予想外な…
[良い点] ガルキエフの死に皆涙。皆殺し具合的に、リズ達少数のメイドが生きてたのは奇跡だな。 [一言] わざわざ呪いの品っぽい魔皇アブラモラモスの多指と指輪を回収してるのは、何かしら感じるもんが有った…
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