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千五百十八話 星海雷の会合に狂乱の夜

 ここは円卓の第三大通り寄りの港街の宿屋&酒場ベンサルの恋人。

 二階と三階の全部屋を貸し切ったのは【海王ホーネット】と【星の集い】と【シャファの雷】だ。後にこの会合は〝狂乱の夜の星海雷の会合〟や〝星海雷の会合〟と呼ばれることになる。

 近くの港には【海王ホーネット】と【シャファの雷】が利用している多数の船団も停船中だ。


 角の大部屋のベランダから倉庫街と港街と様々な船が見える。

 その居間でギュルブンとアドリアンヌとブルーたちが今宵の〝魔人たちの狂乱〟の事象と、【湾岸都市テリア】に【象神都市レジーピック】と【海光都市ガゼルジャン】の特産品の貿易協定を結ばないか? といった内容で盛り上がっていた。

 

 アドリアンヌにとって【海光都市ガゼルジャン】のハイム海近海でしか採取ができない鉱紅魔石アーメイドに緑水貝殻などの他、海光真珠、俗にガゼルジャン真珠にガゼルジャン魔真珠などの呼ばれた高級海産物は非常に魅惑的だった。


 それらの品は帝国では大変貴重な宝石類で魔宝石と成る。


 ブルーの【海王ホーネット】側も、オセべリア王国側の海賊業で拿捕した様々な戦利品を持ち資産は豊富だが、地下オークションにその資産を長いこと流していないぶん【象神都市レジーピック】では非常に珍しい品に成り得た。

 真珠王ジュマムルグフの関係から、ローデリア海の真珠の採取にはリスクの高い。

 そのローデリア海の産の真珠よりも海光都市産の真珠のほうが人気は高い。

 密貿易でしか出回らない魔真珠などは別で、貴重価値が高いが、あまり出回ることはない。原石は勿論、加工品も非常に人気が高い。

 また、それらの宝の産地も貴重な資源となるから戦争の口実に成る。

 帝国の国内でも宝石の原石と加工を巡る権益を巡って帝国の各貴族たちの間で争いが頻繁に起きていた。


 アドリアンヌは、【海光都市ガゼルジャン】と【象神都市レジーピック】を結ぶ輸送経路を確保済みではあるが、輸送経路は複数あるほうが良いことから【天凛の月】の盟主に相談をする算段もあった。

 【天凛の月】の大魔術師長、サイデイルの大魔術師長と呼ばれているクナの情報はアドリアンヌも得ている。


 そうした話の内容からアドリアンヌはブルーに、


「【海光都市ガゼルジャン】には独自の海中地下遺跡に海底迷宮があり、その遺跡と迷宮でしか採取、奪取ができないアイテムがあると聞いていますが、今年も出品をしないので?」

「あぁ、今年も無しだ」

「ここの迷宮都市ペルネーテのような魔地図が【海光都市ガゼルジャン】にもあり、冒険者たちが賑わっていると聞いていますが」

「そうだ。魔地図の鑑定のやり方も似ている。出現する宝箱は、今のところ金箱だけのようだ」

「はい、聞いたことがあります。発掘した際は、モンスターが大量に現れることも似ていると」

「その通り」


 と発言したブルーから、珍しい船を入手したから船の権利を地下オークションに出すことも考えたが、結局通例通りに参加するだけに止めたと、発言。


 ギュルブンは、


「それは残念だ。が、船なら、俺のところもフォーレンの入り江が近いから拿捕は狙いやすいから、色々と入手しているぜ」

「はい、昔から船の座礁が多い場所と聞いていますわ」

「サーマリア王国にも近いフォーレンの入り江か、【海王ホーネット】の船はあまり近寄らない」

「海軍や大海賊に商船などとの戦い以外にも、モンスターなどが急激に湧くなどの危険があるのですね」

「ある。モンスターも様々で危険は危険。海も危険だ。海図も変化する。風魔法が効かない場合や、海流が突如として引き、浅瀬に成っては、津浪が起きることがある」

「そのようなことが、納得ですわ」

「はい、噂で聞いたことがあります」

「帝国が支配する海岸沿いにも幾つか入り江はあるが、そこまでの事象は聞いたことがない」


 とフォーレンの入り江の事象をあまり知らないアドリアンヌと【星の集い】のホワインたちの言葉だ。

 ギュルブンは、


「それを逆手に取れば、座礁した船荷から様々な宝を得られることになる。だから今年も品は豊富だぜ、地下オークションは楽しみにしていな」

「「「「おぉ」」」」


 と【星の集い】の部下で最高幹部のホワインとオルンが歓声を発した。

 アドリアンヌも期待の眼差しでギュルブンを見て、


「ふふ、期待していますわ」


 と発言。

 【海王ホーネット】のブルーは、


「了解した、我らも期待しよう。そして、同じ我と同じオセべリア王国の大海賊私掠免許状を持ったと聞いている。その成果は出ているようだな」

「おうよ」

 

 【シャファの雷】として自信有り気なギュルブンの語りに、ブルーも貴重な品を買う側に回ることに専念をしていることを皆に宣言するように、懐に仕舞っていた大白金貨を数枚見せて、ニヤリと笑う。


「「ふふ」」

「おいぃ、ブルーのおっさん、やるなぁおい!」


 とアドリアンヌたちと、特にギュルブンはテンションが高まる。

 

 そのギュルブンもお返しに、懐から、白銀のアタッシュケースを見せる。


「ふふ、ここで現生を見せ合うのですか?」


 ギュルブンはアドリアンヌの言葉に「ふっ」と笑みを見せてから、アタッシュケースを開ける。

 そこには大白金貨と、魔力を有した未知の古代硬貨に、魔界で流通している魔コインと渋い色合いのコインケースがポリエチレンのような素材の梱包材に包まれていた。


 アドリアンヌの金マスクから覗かせる魔眼が煌めく。

 そのアドリアンヌは、


「……ギュルブン、その古代硬貨ですが、地下オークションに出さないのですか?」

「あぁ、これか、御守り効果が高いようだからな、硬貨なだけに」

「「……」」

「すまん、売りもんではない」

「……そうですの」

「ほしいのか?」

「えぇ、地下オークションに出すのなら、競売に参加したいですわ」

「ナキュ、アドリアンヌたちなら欲しがると、予想していたが、当たったな?」

「えぇ、そうね。でも、ギュルブン不用心よ、ブルーさんに釣られて大事な資金が入ったアイテムを見せるなんて」

「あぁ、そうだが、お前も十分あるだろ」

「それはそれ、これはこれ、速く仕舞ってよ」

「へいへい」

 とアタッシュケースを閉じる。

 アドリアンヌはジッと、アタッシュケースを見ていた。

 アドリアンヌには、コレクターのような蒐集家の面もある反応だと分かる。


 アタッシュケースを直ぐに仕舞ったギュルブン。

 彼は【湾岸都市テリア】の表の支配者ドロティア・フォン・オセシル侯爵とも正式に組んだことにより、オセべリア王国の正式な海軍と似た大海賊と成る。実質はドロティア・フォン・オセシル侯爵の代表者として、ハイム海とローデリア海のオセべリア王国の主力海軍を担うことになるだろう。つい先日、ファルス殿下との面談も果たしていた。


 アドリアンヌは、そのギュルブンとも楽しげに会話をしていた。


 ハイム海とローデリア海の貿易は【天凛の月】の黒船号や銀船を経由すれば入手可能だが【シャファの雷】が持つ外洋軍船は大海賊たちに引けを取らない。ハイム海を超えてローデリア海やローレイク海と南海ジェルグンラードにも余裕で進出が可能となる。

 更にオセべリア王国とラドフォード帝国とセブンフォリア王国の海沿いの都市の輸送と貿易を利用できればリスク分散に繋がり、金儲けにも繋がる算段から、この貿易協定にはアドリアンヌも乗り気だった。


 【血星海月雷連盟】の皆が利益を甘受できる貿易の話は暫し続いたが……。

 途中から現状のペルネーテの夜を騒がしている〝魔人たちの狂乱〟と呼び合う事件についての話題が多くなっていく。

 アドリアンヌは、その〝魔人たちの狂乱〟に深く関わっている商会と背後で蠢く軍需産業の勢力を知っていることをギュルブンとブルーに告げてから、その大枠の外部商会への直接的な支援を徐々に弱めて、最終的には手を切るとも、告げていた。

 

 【シャファの雷】のギュルブンと【海王ホーネット】のブルーが神妙な顔付きを浮かべて、

 

「外部商会か……今回の事象と関わっているなら支援を弱めるのは分かるが……」


 彼の背後にはナキュたちも居る。【海王ホーネット】のブルーは、


「あぁ、カルテルの外部商会の支援を弱めて手を切るとは……象神都市レジーピックでは【玲瓏の魔女】との繋がりもあるのだろう? 本当にそんなだいそれたことをして平気なのか? 帝国側の各都市にも外部商会の息が掛かった闇ギルドは無数に居るだろうに」

「……えぇ、それはご心配には及びませんことよ、利を巡る争いには()ず勝利しておりますから、群がる蠅が多ければ、私たちの贄になりますから、ね? うふふふ、それに……」


 アドリアンヌの言葉に、【星の集い】のホワインたちは胸元に手を当て会釈。

 ギュルブンとブルーは独特な言い回しに、少し顔が強張るが冷静に、


「……ふむ、意外だ、リスキーに思える」

「……あぁ、で、それにとは?」


 とブルーとギュルブンがアドリアンヌに話を促した。

 アドリアンヌは、


「先ほどの会合で、キーラの【御九星集団】たちに【血星海月雷連盟】として立場を表明したように、名目だけの八頭輝よりも【血星海月連盟】の名を持つ【星の集い】の名が、玲瓏の魔女たちを含めた既にラドフォード帝国の各都市を支配する闇ギルドたちに響いておりますの」

「……なるほど」

「はい、それは最近ですけどね。帝国の闇ギルドたちは、【星の集い】を東の顔役として立ててくれています」

「納得だ、だから外部商会と手を切るか……その争いもまた熾烈になると思うが、戦いも自信があるんだな」

「当然ですわ、そして、今回の街の騒ぎの裏には、外部商会の商会が掛かっている。帝国の匂い()もあります」


 とアドリアンヌが発言すると、ブルーは、


「ヴァルマスク家と聖鎖騎士団の衝突といい、この〝魔人たちの狂乱〟にラドフォード帝国の連中が絡んでいるか……状況的にありえるが……」

「だな、西のオセべリア大平原を巡る争いも増えている。帝国の工作員が地下オークションの闇ギルドの中立を利用して、魔人たちをも利用か……実行犯が帝国絡みとあっては、【白鯨の血長耳】のレザライサも今頃苛ついているか? 【天凛の月】の盟主はヴァルマスク家を囲うことも驚いたが、同様に殿下の面目を潰したことになる」

「……ぁん、うふ、シュウヤさんは素敵でしたわ……」

 と、アドリアンヌは、シュウヤが女帝ファーミリアとヴァルマスク家と聖鎖騎士団への対応を思い出して、女としての体が痺れが起きてしまう。


 ブルーとギュルブンは顔には出していないつもりだが、きょどっていた。

 アドリアンヌの肩にホワインが手を当てて、「アドリアンヌ様、重要なことを告げていません」と発言。


 アドリアンヌは黄金の仮面越しにニコッと微笑む。

 【星の集い】の最高幹部の一部以外は、アドリアンヌの表情の微妙な変化は分からない。

 そのアドリアンヌはブルーたちを見て、


「外部商会の実行班は西方フロング商会の人員でしょう。その人員が、【闇の枢軸会議】が大枠の、様々な魔人たちの組織と協力関係を結んだと予想しますわ。外部商会も、それと同じ以上のコングロマリットの軍産複合体の一面がありますからね……西方フロング商会にピサード大商会のバーナンソー商会などが、外部協会には大規模な出資をしている」

「あぁ、ピサード大商会かよ」

「……元上院評議員ドイガルガのピサード大商会か、ならば、ライバダ大商会、タークマリア商会、ドラアフル商会の略してピラタド大商会連合組織に、カミホハド魔薬カルテルも関わるのか?」


 カミホハド魔薬カルテルとは、カロライナ商会、ミドガッル商会、ホセロドリゲス商会、ハイゼンベルク商会、ドライセン大商会の連合組織を略した名だ。海光都市ガゼルジャンの【海王ホーネット】ブルーが、


「ハイゼンベルクか……名は海光都市ガゼルジャンでは、魔薬作りの魔調合師(料理人)として有名だった。頭は禿げていたし青目の男。合成魔薬(クリスタルメス)を流行らせた資金でハイゼンベルク商会を造り上げたのだろう。塔烈中立都市セナアプアでも活動していたようだ」


 と発言。皆が頷いた。


「しかし、元上院評議員ドイガルガですが、サーマリア王国に逃げた際に、ピサード大商会などは大きく力を落としたので、今回、ピラタド大商会連合組織が直に関わっているのかは、微妙なところだと思いますけど」

「そうだな」

「うむ」

「ラドフォード帝国と強い繋がりを持つ西方フロング商会とピサード大商会のバーナンソー商会に、その残党の外部商会側と【闇の枢軸会議】の大枠の中の【闇の八巨星】か【セブドラ信仰】の闇の組織との連合勢力でしょう。そして、キーラの【御九星集団】も関係があるかもです」

「……地下オークションの約定破りか? しかし、ペルネーテだけでなくオセべリアの各都市で争いが起きている可能性もあるのか」

「それはさすがに分かりませんわ。しかし、青鉄騎士団、青鉄衛兵団の動きが極端に遅いですし、白の九大騎士(ホワイトナイン)の動きも鈍いのは……ですから、わたしたちも戦うことになるかと考えています」

「あぁ、そうだと思って、最高幹部の何人かは、下の通りに張らしている」


 【シャファの雷】のギュルブンの言葉にナキュたちが頷いた。


「はい、新たな武闘派の魔槍使いファジアルも下で、この宿を守らせてますわ」


 アドリアンヌはレジーの代わりに凄腕の魔槍使いを雇い最高幹部にまで引き上げていた。


「他の八頭輝、否、地下オークションに参加予定の闇ギルドも狙われるか?」

「ありえますね、ヴァルマスク家のほぼ全戦力が、ペルネーテに出てくる事象は今までありましたか?」

「「ない」」

「だいたい、吸血鬼(ヴァンパイア)は陰に生きてこそだろう、それが……と、光魔ルシヴァルがあるから違うか」

「今までの常識で考えてはダメですね……」

「では、ここも戦場に……地下オークションに大丈夫か?」

「ふふ、それは大丈夫ですわ、アシュラー教団の危機には、神界セウロス側が総出で付くようになっておりますし」

「だが、先ほど、【天凛の月】の盟主が奮闘した話では、アシュラー教団も襲われる側だったと聞く」

「イレギュラーですわ、【天凛の月】のシュウヤさん、槍使いの、カザネの言葉を思い出してくださいな」

「「「〝盲目なる血祭りから始まる混沌なる槍使い〟」」」

「……皆の盲目のように、混乱するって、混沌か……カザネはここまで予見していたと?」

「さぁ、そうかも知れません……」



 と、外から殺気を感じたアドリアンヌは立ち上がる。

 やや遅れて、この場に居る、アドリアンヌ以外の皆が、ベランダから飛翔するように外に出ていた。 


「ふふ、ファジアルなら一人でも余裕でしょうが……ふふ、私たちにも戦いを仕掛けてくれるなんて……」


 とアドリアンヌは右手と左手をゆらりゆらりと揺らしつつベランダを低空で飛翔する。

 アドリアンヌが腕を振った空間が妖しくブレていた。


続きは明日。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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[気になる点] >【天凛の月】の盟主はヴァルマスク家を囲うことも驚いたが、同様に殿下の面目を潰したことになる シュウヤがヴァルマスク家を囲う事がファルス王子の面目を潰すとは?ヴァルマスク家がファルス王…
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