千五百十四話 大騎士ガルキエフ
大騎士ガルキエフは飛来してきた魔矢を青龍戟の柄で弾きながら前進。
暗闇に乗じた射手たちは、
「「「「――出てきたぞ、逃がすな!!」」」」
と叫び続けざまに魔矢を放つ。
大騎士ガルキエフは射手たちの双眸の煌めきと魔弓と魔矢の魔力の輝きを逃さない。
飛来してきた魔矢をコンパクトに上から下に振るった青龍戟の柄で叩き落とし、数歩前進しながら青龍戟を迅速に左へ右へと揮い、魔矢を連続して弾き斬った。
射手の位置を、もう一度確認した大騎士ガルキエフは、
「暗殺者共! この大騎士が相手だ。生きては帰さぬと知れ!」
と叫びながら青龍戟を揮い魔矢を叩き落とした。すると、
「標的の一人だ、確実に殺せ!」
とリーダー格の指示の下、総勢三十数名の射手が番えていた魔矢を一斉に射出した。
大柄のガルキエフに向かう魔矢の影響で月明かりが一瞬暗くなる。
ガルキエフは癖の片目を瞑りながら――両手持ちの青龍戟を振るい回す。
青龍戟の青龍の意匠から洩れていく蒼白い魔力が龍のように揺らめいた。
青白い青龍が、魔矢を喰らうが如く――魔矢を弾いていく。
複数の魔矢を青龍戟のすべてで弾いていくが――側面に移動していた射手が放った複数の魔矢が甲冑の隙間からガルキエフの体に突き刺さってしまった。
ガルキエフは、
「なんのこれしき――」
と発言し、射手の位置を把握しながら振るった青龍戟の柄と穂先で、再び飛来してきた魔矢を弾き斬りながら庭を前進。屋敷に近い場所に建っている石幢の前に移動した。
石幢に魔矢が衝突し、火花が散る。
その石幢には、代々の王族と大騎士に竜魔騎兵団と第一と第二と第三軍団に所属していた竜騎士隊とグリフォン隊たちの英雄たちが彫られてあった。
その石幢に向け、会釈をした大騎士ガルキエフは、
「セイ師匠に王族の祖先たちよ、正義の神シャファ様の下に暗殺者たちに裁きを下したまえ――」
と発言し、石幢の横から飛び出た。
直ぐに飛来してきた魔矢を放った射手たちの位置と、射線と石幢と樹などの障害物と手前の射手の位置を把握した大騎士ガルキエフは戦場慣れしている。
青龍戟の穂先を手前の射手に向けながら直進して間合いを詰めた。
射手は、
「な!」
と驚きながら、左手の弓の末筈と右手に持った魔矢をガルキエフに突き出した。
大騎士ガルキエフは落ち着いた動作で青龍戟の穂先を左に右へと揺らすように扱い他から飛来する魔矢を柄で弾きながら、目の前の弓の末筈ごと弦を青龍戟の刃で切断し、弓を螻蛄首で左へと叩いて弾くと、青龍戟の柄を持つ右腕を前に突き出すように青龍戟を回し上げた石突で魔矢を弾きながら、弓と矢を突き出した射手の顎を石突で打ち砕いた。
「――ぐもっ」
と口が潰れた射手が蹲る前に、その胸を青龍戟で穿ち倒した。
射手の死体は青龍戟に突っ伏す。ガルキエフは、その死体を左手で掴みながら前進して、他の射手たちを近付いた。
「死体を盾に!?」
「クソ、大柄のくせにはえぇ――」
死体に次々と魔矢が突き刺さる。
ガルキエフは射手の一人に近付き、死体を射手に預けながら死体の肩越しから青龍戟を突き出した。青龍戟の矛の<刺突>が射手の頭部をズバッと貫く。
返り血もつかぬ勢いで青龍戟を引き、手放したガルキエフは、最初に盾にした死体を右に放り、直ぐに右手で青龍戟を掴みながらの左手で頭部を失った死体の胸ぐらを持ち上げて新たな死肉の盾にした。
他の射手たちが繰り出した魔矢を、その死体の盾で防ぎながら前進し一人二人三人と、やや遅れて四人の射手の弓と魔矢ごと薙ぎ払う。
五人目の射手が至近距離で放った魔矢を両顎の歯で噛み付いて防ぎながら青龍戟を、その射手の顎先に突き上げ、射手の頭部を石突で潰すように破壊した。
残りの射手たちは、
「「なんて強さだ」」
と、響めきながら、
「大騎士がこれほどとは――」
そう喋った射手の口が消える。
ガルキエフの<牙龍閃>が決まったからだ。
その死体を新たな死体の盾を利用したガルキエフは駆けた。
左の前に居た射手が魔矢を番える前に間合いを詰めたガルキエフは死体の盾を、まだ生きているいる射手たちへと放りながら――。
目の前の射手に向け青龍戟を振るい、その首を<豪閃>で刎ねあげた。
頭部を失った射手の首痕から迸る血飛沫の返り血を浴びたガルキエフは、その血を振り払うように目の前の射手の死体を左手で掴み上げた。
再び死体を盾に利用しながら前進し、生きている射手に近付き、短く持った青龍戟の穂先を死体の盾の脇と腕の間に通して前に突き出す――。
ジュッと音を響かせながら前方の射手の胸を青龍戟の穂先が貫いていた。
ガルキエフは死体の盾を捨てて、
「――ぐえぇ」
と、まだ生きて、痛みの声を発した射手の口ごと頭部を左手で鷲掴み。
射手は体を動かそうとしたが絶命する。その死んだ射手を再び盾にしたガルキエフは、飛来してきた魔矢を死体の盾で防ぎながら、まだ生きている他の射手と強者たちを見据え、
「そこの強者! 隠れていないで出てこい!」
と叫ぶ。射手たちは直ぐに魔矢を射手し応えた。
大騎士ガルキエフは、射手の死体の胸ぐらを左手で掴み上げながら前進し射手たちと強者に近付く。死体に次々と矢が突き刺さるがガルキエフは止まらない。
間合いを詰めた射手の右足を狙うように<蜂落>で穿つ。
体勢を屈めた射手の顎先を、俄に上げた青龍戟の柄で、顎を潰すと仰け反るように絶命する。その死体を左足で、踏み潰しながら前に出たガルキエフは前に居る射手に近付く。
右腕ごと槍に成る如くの青龍戟の<刺突>を繰り出す。
射手の胸を穿つ。素早く青龍戟を引きながら、転がるように前方へと移動――。
射手に近付いて青龍戟を振るう<豪閃>で射手の足下を斬り裂いて倒した。
黒装束のまだ生きている射手たちは、後退しながらガルキエフを射殺そうと、魔矢を連射してくる。ガルキエフの新たに用意したばかりの死体の盾に、それらの魔矢が突き刺さりまくり、死体の盾は魔矢だらけとなった。
そして、ガルキエフの体に数本の魔矢が刺さってしまう。
ガルキエフはたまらず石幢の前に青龍戟の石突を突き刺し、転がり込んで肩で息をしながら背を石幢に預ける。息を止めていたが直ぐに息を吐き出したガルキエフは、
「ぐっ――」
と、くぐもった声を発しながら体に刺さっていた魔矢を抜いていく。
深呼吸をしてから高級回復ポーションの蓋を噛み取って背を反らしながら飲む。
体が癒えていくのを感じたガルキエフは呼吸を整えながら、青龍戟の螻蛄首辺りの血濡れた纓の紐束と布を見た。布には、猫の絵が書かれてある。
愛猫トトロ、私の死に場所はここかも知れないな。
先に虹の橋を渡ったトトロ……最期の瞬間は忘れられない。
我に手を伸ばすように伸びをしながら死ぬ瞬間を……。
トロロ、苦しませず死なせたかった。
と涙か。ふっ、いつになく弱気になってしまった――。
――一陣の風が吹き抜ける。
この匂いは何処かで、シュウヤ殿と黒猫ロロ殿?
……黒猫ロロは元気にしているだろうか。
シュウヤ殿の【天凛の月】たちは……。
否、我は大騎士、第二王子ファルス様の大騎士だ。
と、ガルキエフが思考した刹那――。
少し前方に紫色の瓶と白銀の瓶が投げ込まれ、それが爆発、閃光に包まれる。
閃光と爆風を浴びたガルキエフは意識が飛びかけた。
青龍戟も吹き飛んで屋敷側の地面に突き刺さっていた。
土埃と肉と髪が焼けた匂いが周囲に漂う。
「ぐ、あぁ……」
ガルキエフの大騎士の白い甲冑の一部も破損し、腰のポーチも破損。ポーション入れも一部が破れて瓶も幾つか破壊されている。甲冑で覆っていない関節に大やけどを負っていた。そのガルキエフは震える手で、まだ残っているポーション瓶を掴み瓶ごと噛み砕いてポーションの液体を飲み込んだ。
そのまま片足の膝に左手を当てながら立ち上がる。
右前方の地面に突き刺さっている青龍戟を拾いに駆けた――。
右腕を伸ばし青龍戟を掴み取るが、
「ぐあぁ」
と、背中に魔矢が数本刺さるがまま振り返り、飛来した魔矢を青龍戟でへし折るように揮いながら石幢に戻った。右手が持つ青龍戟の螻蛄首を石幢に当てつつ石幢越しに向こう側に居る射手たちを見ようと頭部を少し横にズラした直後、ガルキエフの頭部を狙った魔矢が飛来――直ぐに頭部を戻し石幢に隠した。
ガルキエフの頭部を狙った魔矢は背後の屋敷の壁に衝突。
――まだ射手はそれなりに居る。
ファルス殿下たち居る室内からも剣戟が響いてきた。
――もう入り込まれていたか。
――護衛兵は五十以上居るはず、そのすべてが倒されたか……。
と、思考するガルキエフの顔色に焦りが出始めた。
そのガルキエフは先ほどの刹那に弓兵たちの背後のローブを着た者との戦いを予測しつつ……「レムロナとフラン、殿下を頼む……」と小声で呟く。
決意を固めたように、と左から前に出て<魔闘氣>を全開にして加速――。
足下に二つの紫の瓶がコロコロと転がってきた。
その爆発ポーションを柄で跳ね返す。
跳ね返った紫の瓶は宙空で衝突し合うと弓兵の二人の前で爆発。
二人は燃えながら吹き飛んで敷松葉の上を焦がしながら転がり息絶えた。
ガルキエフは構わず、体に魔矢が刺さりながらも、射手の一人二人を薙ぎ払う。
残り数名となった射手たちは背後から、
「――もういい、一度退け」
と指示の魔声が響くと射手たちは退いた。
すると、声が響いた庭樹の暗がりからローブを着た二人の人物が現れる。
その二人は、ローブから頭巾を払いガルキエフに拍手をしながら歩み寄った。
「……見事ですね、王国に槍の武人あり、その言葉に嘘偽りはない」
「ふふ、はい」
ガルキエフは、二人を凝視。
一人は見るからに老人で右手と左手に逆手の魔剣を持つ。
もう一人は若い女性に見えた。右手と左手の甲を覆う手甲と鉤爪を装備している。
ガルキエフは、
「暗殺者共が、ふざけるな――」
と叫びつつ逆手を持つ老人に青龍戟を突き出した。
「ふっ――」
老人は前傾姿勢のまま前に出て片手の逆手で青龍戟の<刺突>を受け流しながら左手の逆手を迅速に振るいながら駆け抜けていた。
ガルキエフの白い甲冑ごと腹の半分が「ぐっ」と切り裂かれていた。
腹から鮮血が迸る。
ガルキエフは意識は飛びかけたが、尚も強氣のまま――。
若い女性に青龍戟を突き出しながら前進――。
若い女性は鉤爪が付いた片手でガルキエフの迅速な<刺突>系統の突きスキルを受けながら後退するとガルキエフの背後から、老人が逆手の魔剣を振るい上げていた。
ガルキエフの背を斬る。
「ぐあぁぁ、が、まだまだ――」
とガルキエフは叫びつつ血飛沫を体から発しながら振り返り加速。
この加速には老人も目を見張る。
ガルキエフは逆手の魔剣を構えた老人に向けて青龍戟で<豪閃>を繰り出した。血濡れた槍纓が老人に降りかかる。
ガルキエフの左から右に向かう<豪閃>は逆手の魔剣を斜に構えた『赤雷ノ防型』に防がれた刹那、「ぐあっ」とガルキエフの右肩に鉤爪の刃が喰い込んだ。青龍戟に結ばれていた猫の布が解かれ地面に落ちた。
その鉤爪の後部からは魔鋼の鎖が伸びている。
魔鋼の鎖は女性の暗殺者の右手の甲と繋がっていた。
「……くっ」
ガルキエフの視界が揺らいだ。
「これは毒か……」
ガルキエフはそう呟くと、足下に落ちた愛猫の絵柄を見て、嘗て愛していた鳴き声を聞きながら……。
「うふふ、魔鯨でさえ数秒で死に至るのに、やはり白の九大騎士は毒耐性も並ではないのね」
「……」
「テキル、さっさと仕留めるぞ」
「はい、バイデルン様、あれ……〝魔迅ノ鉤爪〟が外れちゃった」
「……」
「既に死んでおったか」
「凄い立ったまま涙を流して死んでる」
「一度は引退したと聞くが、さすがの大騎士よの」
「うん……」
続きは明日。
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