千五百十話 ナロミヴァス・ゼフォン・アロサンジュと、角あり魔族との戦い
序盤は、ナロミヴァス視点です
◇◆◇◆
ここは武術街のシュウヤ・カガリの自宅の庭。
そこにいたナロミヴァスたちに頭を下げている騎士たちが居た。
ナロミヴァスは、その騎士たちから、
「ナロミヴァス様……」
「ナロミヴァス様、本当に生きていて良かったです。ですが、先ほども言いましたように、安堵ができない状況です」
「俄には信じられないが……レヴァンたちは公爵の紋章で私の位置を知ったのか?」
「……あ……それは……」
「……」
男性の騎士と女性の騎士は周囲を見やる。
男性の騎士はオセべリア王国、白の九大騎士の大騎士序列:第六位レヴァン・ラズトグフォン。王の従兄弟:ベイス・フォン・アロサンジュ公爵の専用の大騎士である。消失した魔族三十氏族の子孫で昔から<魔闘術>系統と槍武術と剣術が優秀で、王槍流コホア・ジェメスと王剣流フグリハ・ソクリに師事を受けていたこともある。 女性の騎士は公爵家の護衛の筆頭騎士のキュネイ・ハリオネルア。
ナロミヴァスは、
「大丈夫だ。この屋敷の皆様は全員が信じられる。アンブルサンもアポルアも、アジュール様、ミミ様、イザベラ様、クリチワ様、アンナ様、すべてが信用できる閣下を支えている偉大な方々だ」
レヴァンとキュネイは、ナロミヴァスが発した言葉とは思えない台詞を聞いて一瞬、思考が飛ぶ。
が、ナロミヴァスの声と姿は、本物。魔道具の反応も本物である。が、先ほどの会話といい、会話がいまいち噛み合わないことで、動揺を隠せないでいた。瞬きを繰り返す。
二人は氣を取り直すように懐に手を当て会釈してから
「……分かりました。その通りです。これをご覧ください」
レヴァンはアイテムボックスから公爵家の紋章が点滅している魔道具を示す。
「それは父上が持つ紋章ではないか!」
「はい、オセべリア王国の王章。公爵家専用にカスタマイズされた公爵家紋章のブローチでもあります。同時にこれは、危機を知らせる証明となる物で、公爵家の血筋の者の位置を示す貴重なアイテムです。父上に渡すように頼まれています」
とレヴァンからナロミヴァスは公爵章のブローチを受け取った。
ナロミヴァスに反応した公爵家紋章のブローチ魔力が宙空に出て紅馬騎士団の紋用が浮かんだ。
「これをお前に渡したということは負け戦は本当か。そして、父上はまだ生きているのだな!」
「はい、しかしアロサンジュ公はグリフォン丘の第四支城で籠城状態。ラドフォード帝国の軍勢に囲まれている。ガルキエフ殿は敗れて撤退し、オセべリア正規軍の第一軍団の竜魔騎兵団団長でもある王太子:レルサンが竜騎士部隊を率いて帝国軍に反撃を繰り返していますが、第四支城の抱囲している軍の突破はままならない状況です。私を含めた別働隊として動いていたグリフォン部隊は健在でしたから、それが急襲に加われば多少は変化すると思いますが……王太子の軍も内部に不自然な動きがあります、ですからグリフォン部隊は絶対的な戦力ではありません」
「分かった。わたしが行こう――」
とナロミヴァスは公爵家の紋章を<水血ノ夢衣環>の異空間に仕舞う。
「え、今、公爵家の手勢は百名に満たないです」
「手勢は要らない。わたしとアンブルサンとアポルアだけで十分」
ナロミヴァスの言葉にレヴァンとキュネイは信じられない思いで、
「「え?」」
と反応。
ナロミヴァスは何も言わず、
「イザベラ様、閣下が早くここに戻ってきたら、この事象を説明して頂けるか?」
「はい、お任せください」
「アジュール殿もここを任せた」
「我はここの警備隊長だ。ナロミヴァスに言われずとも守るのが仕事。そして、武運を祈る」
「はい」
ナロミヴァスはイザベラたちに笑みを浮かべて会釈し、
「では」
とアンブルサンもアポルアを見て、
「では、第四支城にいる父上を救ってこよう」
「「はい」」
ナロミヴァスたちは浮遊すると、
「ナロミヴァス様、待ってください!」
とレヴァンが<灰玉ノ魔獣オウラ>を使用し、それに乗って浮遊してナロミヴァスに寄った。
「レヴァンも付いてくるつもりか」
「はい、しかし……」
「私たちでは無理だと言いたいのだな? が、何れはナロミヴァス・ゼフォン・アロサンジュに成る言葉として信じてもらおうか、私は昔の私ではない、光魔ルシヴァルなのだ」
「……光魔ルシヴァル? しかし、空を飛べるとは、ナロミヴァス様はどういう……」
「気にするな、細かいことを説明している暇はない。今のわたしなら、一人ぐらいは救出することも余裕で可能なのだ」
「分かりました」
「にゃぁ~」
「ンン、にゃ」
「にゃァ~」
「にゃォ~」
「グモウゥ~」
「ワンワンッ」
大騎士のレヴァンは、乗っている魔獣オウラが吼えずに怯えていることに不思議に思いながら、
「ナロミヴァス様……そして、この猫ちゃんと動物たちは一体……」
ナロミヴァスは頷いて、
「あぁ、アーレイ様とヒュレミ様に、異界の軍事貴族のフル・メト様とシルバーフィタンアス様とハウレッツ様たちだ、すべて閣下が使役している特別な召喚獣のような存在たちでもある」
と説明。
「あ、あの、閣下とは……」
「シュウヤ・カガリ様だ。ここの屋敷は知っていてきたのではないのか」
「あ、いえ、はい」
「ふむ、向かうとして、アーレイ様とヒュレミ様にシルバ様とハウレッツ様はアジュール様と、ここの警備をお願いします」
「にゃァ」
「にゃォ~」
「ワンッ」
「グモゥ~」
とナロミヴァスの言葉に返事をした黄黒猫たちは一瞬で、姿を大きくさせながら庭に着地。
大騎士のレヴァンは驚いて目を見張る。
護衛の筆頭騎士のキュネイ・ハリオネルアは腰を抜かして倒れていた。
直ぐにメイドたちが助け起こしている。
「行くぞ――」
「は、はい――」
ナロミヴァスは加速上昇しながら西に向かう。
シュウヤたちが激闘を繰り広げている夜に、西のオセべリア王国大平原に向かったナロミヴァスたちは一瞬で、【迷宮都市ペルネーテ】から大平原に出ていた。
光魔ルシヴァルの血の眷属となったナロミヴァスは速い。
◇◆◇◆
紳士のコート服を着た魔人は、右腕を伸ばし、その手が握るステッキを振るい回してステッキから円状の防御フィールドを前方に発生させる。
その防御フィールドで、ユイの<バーヴァイの魔刃>を防ぐが勢いに押されて後退を続けた。
キサラとホフマンは左にいる射手から飛来していた魔矢を避けていた。
――<メファーラの武闘血>を発動しつつ<血魔力>を左手から魔槍ラーガマウダーに送る。
※メファーラの武闘血を得た武器は髑髏の模様を発して形質変化を起こし、切れ味が増す※
※使い手の体に纏えば強力な攻撃となり、様々な効能を齎す※
そして、右腕が大きい魔人の横合いから――。
左足の踏み込みから魔槍ラーガマウダーで<刺突>を放つ。
「ぬん!」
と声を発した魔人は大きい右腕を盾に代わりに、十文字の穂先の<刺突>を防いできた。
が、十文字の穂先が右拳にめり込んでいく。
すると、その右腕が点滅した直後、魔人の右腕から炎が噴出――。
『閣下!』
『御使い様!』
『大丈夫だ』
熱波を感じながら<火焔光背>を発動し、その炎の魔力だけを吸収後退しつつ魔槍ラーガマウダーを意識して魔力を込めた。
魔槍ラーガマウダーの柄から蒼と橙と朱の炎が噴出し鳳凰の翼のような形で羽ばたく。
と、柄から伸びた鳳凰の翼が魔人の右腕から出た炎を吸収していく。
退いた俺に向け魔人は、
「炎の翼だと? その魔槍! お前が、あの槍使いだな!」
と叫びながら大きい右腕から炎の拳を飛ばしてきた――。
「ンン――」
黒豹が前に出て「にゃごあ――」と口から吐いた線状の紅蓮の炎で消し飛ばす。炎なら神獣の相棒ロロディーヌのほうが優秀だ。
「ロロ、ありがとう。次の炎の拳は俺が払う」
「ンン――」
黒豹はユイの右側に跳ぶ。
頭部に角を有した大柄の魔人は異常に大きい右腕を突き出したまま<魔闘術>系統を強めてバックステップ。
その拳から再度、炎の拳を射出してくる。
五つ六つと炎の拳が連続的に飛来した。
頭部に角を持つ魔人は接近戦も可能だが中距離型か。
それにしても厳つい。
肌は全身が筋肉鎧と同化しているように見える。
あの見た目からして魔人ではなく魔族の兵士にしか見えない。しかし、【バーヴァイ地方】や【メイジナ大平原】には居なかった魔族だ。
闇神リヴォグラフ側の勢力に棲まう魔族かな。
魔界セブドラもかなり広いからな。
その炎の拳を寄越した魔族と、飛来してくる炎の拳を見ながら、前に出て<握吸>を発動し握りを強めた魔槍ラーガマウダーで<刺突>を繰り出した。
炎の拳を十文字の穂先が穿った。
右手に青炎槍カラカンを召喚し、少し前進するように左足の踏み込みから――右手ごと青炎槍カラカンになった如くの、<青炎・穿牙>を繰り出し、炎の拳を穿った。
炎の拳は一瞬で消える。
次の炎の拳に向け魔槍ラーガマウダーを左へと動かす。
螻蛄首で叩き落とした。
続けざまに飛来してきた炎の拳にも、魔槍ラーガマウダーを右へと動かして、炎の拳を弾き防ぐ。
次の炎の拳には魔槍ラーガマウダーを左から右へと僅かに返す機動で炎の拳を右に弾いた。
炎の拳は遠方の家の壁と衝突し、爆ぜる。
また飛来してきた炎の拳には魔槍ラーガマウダーの穂先の<豪閃>で切断――続けて飛来した炎の拳には、青炎槍カラカンを上から下に振るい落として弾いた。
――また飛来してきた炎の拳には魔槍ラーガマウダーを横に振るい、柄で炎の拳を魔人に打ち返すように炎の拳を弾き返した。
魔人は、弾かれた炎の拳を己の太くて大きい右腕を突き出して、炎の拳を吸収するように潰していた。
右腕が異常に大きい魔人は、その大きい右腕で俺を差しながら炎の拳を繰り出さず、俺を凝視し、
「その動き【天凛の月】の盟主に違いない! 狙い通りだ! 仕留めるぞ!」
「「「あぁ」」」
「狙いを槍使いに絞れ――」
「「「「「おう」」」」」
魔人たちは一斉に魔刃や火球に魔弾と風の弾丸に雷状の衝撃波を寄越してきた。
直ぐに大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前方に召喚――それを押し出して魔人たちが繰り出した遠距離攻撃を防ぐ。
大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>から様々な衝撃音が響くと、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が吸収した魔力が伝搬してきて魔力をかなり得た。
避けながら前進していたユイにも遠距離攻撃が向かう。
ユイは跳躍から低空を飛翔し三刀流で、凌ぐ。
前線に近寄ろうとするが、射手の魔矢が速く近づけなかった。
相棒も左右に移動しながら炎を吐いて、火球と魔刃を燃焼させて防ぐ。
相棒とユイの防御に<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を回した。
<武行氣>で左前の低空を飛翔しながら<血道第一・開門>を意識し、両足のアーゼンのブーツが真っ赤に染まる勢いで足下に<生活魔法>の水と血の<血魔力>を周囲に撒いて拡げた。
――<水の呼び声>を発動。
肩の竜頭装甲を意識――。
「――ングゥゥィィ」
装備を一瞬で闇と光の運び手装備に切り替えた。
頭部も蓬莱飾り風のサークレットと額当てから砂漠烏ノ型へと変更しつつ<血道第三・開門>――。
嘴のような兜の先端が右斜め上の視界を埋めてくるまま<血液加速>を発動した。
風を魔力の線で捉え闇と光の運び手装備に纏わせる。
<砂漠風皇ゴルディクス・イーフォスの縁>に感謝。
<武行氣>と<闘気玄装>は維持し――。
先ほど解除していた<滔天仙正理大綱>を発動。
更に<滔天神働術>を発動――。
※滔天神働術※
※滔天仙流系統:恒久神仙技<神仙召喚>に分類※
※戦神イシュルルの加護と<水神の呼び声>の水神アクレシスの強い加護と高水準の霊纏技術系統と<召喚闘法>と<魔力纏>技術系統と<仙魔奇道の心得>が必須※
※水属性系統のスキルと水に纏わるモノが総体的に急上昇し、水場の環境で戦闘能力が高まり、功能の変化を齎す※
※酒を飲むと戦闘能力が向上※
続けて<龍神・魔力纏>を発動――。
※龍神・魔力纏※
※九頭武龍神流<魔力纏>系統:奥義仙技<闘気霊装>に分類※
※使い手に龍の魔力が宿り、周囲に無数の細かな龍の魔力が展開※
※<白炎仙手>などの仙王流系統の<仙魔術>と相性が良い※
※龍韻を刻む心、<脳魔脊髄革命>、<魔雄ノ飛動>、魔技三種、<白炎仙手>、<水神の呼び声>、<光魔武龍イゾルデ使役>、注連縄を腰に巻くデボンチッチの魔力と汗が必須※
※水神アクレシスと白蛇竜大神インと神人万巻、小精霊たちが見守る中、仙王の隠韻洞に溜まっていた白蛇聖水インパワル、聖水レシスホロン、アクレシスの清水の玄智聖水の中で〝武王龍神イゾルデ〟の復活&契約を果たし、九穴八海などに住まう龍族・龍神族・九頭龍族を治める武王龍神族家ホルバドスの秘奥義を獲得した者は他にいない※
更に<黒呪強瞑>と<魔闘術の仙極>を連続発動。
――<水月血闘法>を発動。
※水月血闘法※
※独自闘気霊装:開祖※
※光魔ルシヴァル独自の闘気霊装に分類※
※<脳魔脊髄革命>と<魔雄ノ飛動>と魔技三種に<超脳・朧水月>、<水神の呼び声>、<月狼ノ刻印者>が必須※
※霊水体水鴉と双月神、神狼、水神、が祝福する場だからこそ<水月血闘法>を獲得できた※
※血を活かした<魔闘術>系技術の闘気霊装が<水月血闘法>※
――<無方南華>を意識し、発動。
――<無方剛柔>も続けて発動。
※無方剛柔※
※魔犀花流技術系統:奥義※
※魔犀花流呼吸法:上位※
※南華仙院流呼吸法:上位※
※<魔闘術>技術系統:上位※
※全身の皮膚の潰裂強度を高めて、武術に活かせるようになる※<無方南華>と<無方剛柔>で身体能力が跳ね上がる※
※<無方南華>の効能が<無方剛柔>を得ることで上昇し、<無方南華>があることで、<無方剛柔>の性能が上昇する※
※<幻甲犀魔獣召喚術>の性能を上昇させる※
無数の<魔闘術>系統を発動したことにより――。
丹田を中心に魔力の〝うねり〟を感じるがまま大脳の神経網とエクストラスキルの<脳魔脊髄革命>の脊髄に体中の神経と血流が活性化。細胞と細胞と血管を行き交う魔力と血が暴れるように行き交う。
<四神相応>や<魔仙神功>はまだ使わず。
<血脈冥想>も使わず、己の素で心を修めた。
――青炎槍カラカンを消す。
ユイは神鬼・霊風の柄巻をネックレス状の金属のホルダーに装着して、
「狙い通りって、わたしたちの出方が予測されていた?」
と言いながらアゼロス&ヴァサージの魔刀を振るう。
魔刀アゼロス&ヴァサージの刃から<バーヴァイの魔刃>が幾つも発生し、魔人たちに向かう。
ユイの首の神鬼・霊風を装着させている金属製のホルダーはミスティ製かな?
ハーモニカホルダー的だが、形はユイに合うように洗練されていてマスク的でもあり、かなり渋い。
――ユイは再び左手と右手を交互に振るう。
アゼロスとヴァサージの魔刀から<バーヴァイの魔刃>を魔人たちに繰り出していく。
半身のままユイに頷き、
「――あぁ、裏に、大胆なこの構図を仕組んだ奴が居る」
右手から<鎖>を紳士服の魔人に射出した。
「うん、キーラは中立を破ったことになる?」
「ンン――」
ユイと相棒の動きに聖鎖騎士団と団長ハミヤとホフマンたちの動きを見ながら――。
<鎖>弾いた紳士服の魔人は強いか。
<鎖>を消しつつ《連氷蛇矢》を紳士服の魔人を中心に連射し、
「――【御九星集団】の名は出さず、本人は違う場所に居ましたと言えば、幾らでも誤魔化しは効く」
「それもそうね、力があればなんとでもなるか」
「――あぁ、だからこそ、この戦いは負けられない」
「そうね! 聖鎖騎士団に手を出されたようだけど、【黒の預言者】の名を利用して襲撃人数を増やした魔人キュベラスが黒幕かな?」
「分からないが、魔人キュベラスはキーラとは異なる思惑で動いているのかも知れない」
「――異なるか……闇神リヴォグラフ側の【闇の教団ハデス】を率いているって言ったから……実は、その闇神リヴォグラフの肝煎りで今回の事変が始まったとか?」
ユイの言葉が真実なら背筋が寒くなる。
アロサンジュ公爵家とアス家と関わりが深い第三王子クリムの裏に闇神リヴォグラフか。
状況的にあり得るが、どうなんだろう。
<鎖>と《連氷蛇矢》とユイの<バーヴァイの魔刃>と黒豹の触手骨剣の攻撃とピンポイントの紅蓮の炎のすべてを防ぎまくる魔人たちを見ながら、
「――魔人キュベラスと第三王子クリムと、三玉宝石など魔神たちの秘宝の扱いが得意な【魔術総武会】の幹部の宮廷魔術師サーエンマグラムと従兄弟ロンベルジュ魔法学院の魔法上級顧問のサケルナートが、闇神リヴォグラフが結託して、国王ルークと、王の手ゲィンバッハや大騎士たちの精神を支配した? その場合、第二王子や第一王子の命が危ないかもな」
「……地下オークションの品々の強奪ではなく、この騒ぎの目的は、ファルス殿下と王太子レルサンの暗殺に……国王ルークまでも狙う算段って線もあるわよ――」
ユイは予想をしながら色々と想像して顔色が青ざめていた。
「――あぁ、第三王子は、己の研究のために従兄弟を嵌めるような奴だからな、そこに闇神リヴォグラフが絡めば、人族の国を裏側から侵略することも容易だろう――」
「……シュウヤが語ると真実に思えてくる――」
ユイは少し前に出てアゼロス&ヴァサージを振るい<バーヴァイの魔刃>を連射。
紳士のコート服を着た魔人は、右腕を伸ばし、その手が握るステッキを振るい回してステッキから円状の防御フィールドを前方に発生させて、ユイの<バーヴァイの魔刃>を防ぎつつ俺の<鎖>と《連氷蛇矢》を弾いていくが勢いに押されて後退を続けた。
しかし、あのコート服のおっさんはポルセンのような印象だが、かなり強いか。
何者だ?
「――メルのお父さんの魔人ザープたちと上手く連携して戦えたらいいのだけど」
「それは期待薄だな、まずは有視界にいる魔人を倒し、左の建設現場で戦っている聖鎖騎士団たちを救うことだけ考えようか、では、そろそろ仕掛けるぞ、ユイが先に出るなら、角ありの右腕がデカイ魔族と、あの紳士服のコートの魔人以外を頼もうか、あいつは多分それなりの手練れだ」
「ふふ、了解、少し本気を出す――」
ユイはホルダーに嵌めていた神鬼・霊風を、噛む。
犬歯を生やした小さい口で咥えると、加速――。
ユイの体がブレた。
吸血鬼系の光魔ルシヴァルだからかこそ可能な歯のグリップか。
そのユイは、<ベイカラの瞳>から漏れた<銀靭>の白銀の魔力を得ている神鬼・霊風から<血魔力>と白銀の魔力が混じった<バーヴァイの魔刃>を魔人たちに飛ばしていた。
雷状の魔力を発した双斧も斜め右から俺たちに近付いていたが、双斧を掲げ、雷状の半透明な盾を生成し、その半透明な盾で<バーヴァイの魔刃>を防ぎ後退しているが、その半透明な盾は削れて直ぐに体は傷だらけとなって背後の壁に衝突し、壁ごと体の一部が切断されていた。
闇の影の魔獣は<バーヴァイの魔刃>を噛み付いて止めていたが、体に<バーヴァイの魔刃>を喰らいまくり、吹き飛んでいく。
外套を着た魔槍を持つ人族は魔槍を掲げて、魔槍の螻蛄首から網目状の立方体のような盾が出現し、<バーヴァイの魔刃>を防ぐが、ユイの袈裟斬りに両足が真っ二つ。
つよ――。
黒髪の魔弓持ちは<バーヴァイの魔刃>を避けきれず吹き飛んでいた。
キサラとホフマンは射手の攻撃がなくなったことで、左側の建設現場に向かう。
角を頭部に有した右腕だけが大きい魔族もユイの<バーヴァイの魔刃>を体に喰らって胸元が抉られたように血飛沫を発したが瞬時に回復し左に跳ぶ。
その右腕が異常に大きい魔人に近付くと――。
「――お前、【天凛の月】の槍使いだな!」
と俺の<魔闘術>系統に合わせてきた。
加速力に対応してきた魔人。
大きい右腕の拳を前に出したまま、その拳から火炎の拳を繰り出してきた。俄に火炎の拳の直進――。
頭部に当たる左手の魔槍ラーガマウダーに魔力を込めながら<断罪刺罪>で火炎の拳を突き、火炎の拳を消し飛ばすのと同時に魔槍ラーガマウダーを消し、再召喚し、右手に神槍ガンジスを召喚しつつ左手の魔槍ラーガマウダーで、風槍流『枝巻き』を実行しながら<魔手回し>を実行し、大きい右腕を回して上に上げたところで「何――」と驚いている角あり魔族に<滔天魔瞳術>――。
「!?」
大きい右腕を上げたまま体が硬直した角あり魔族の首を狙うように右手の神槍ガンジスを突き出す<光穿>を発動――。
光に溢れる方天画戟と似た穂先が、大柄の角あり魔族の首を穿った。
首から血飛沫が迸るが、頑丈で、突き刺さったのみ。
神槍ガンジスを消しながら右腕を引いて直ぐに再出現させながら左腕の手が握る魔槍ラーガマウダーで<杖楽昇堕閃>を繰り出す。
大柄の角あり魔族の左の腹を薙ぎ右胸を薙ぐ。
「ぐえぁぁ――」
更に神槍ガンジスで<勁力槍>を実行。
そして、<握吸>で握りを強めた神槍ガンジスで<戦神流・厳穿>を繰り出した。
方天画戟と似た穂先が角ありの大柄の魔族の下半身を消し飛ばして倒した。
続きは明日。
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