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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1510/1997

千五百九話 コレクター、シキと再会

 ◇◆◇◆


「ジェヌ、もうヴァルマスク家の援護は望めないようです、あの第二の路地を曲がるのよ、急ぎなさい――」

「はい、死の館に誘い込むのですね」

「それは最後の手段よ。今はペルネーテの街並みを利用して、追手から逃れることを優先します」

「はい! 【天凛の月】たちの援護も期待できますからね」

「ふふ」「ふふ」


 コレクターは笑顔となって後部座席の一つに座る。

 ジュヌが運転する魔靱植物車ベルハラルは猛烈な勢いで直進。


 背後から爆発音が連鎖するが、第一の円卓大通りから第二の円卓大通りまで無事に進めていた。

 

 魔靱植物車ベルハラルの車内にはコレクターこと宵闇の女王レブラの大眷属シキと配下の宵闇の髑髏沼の覇者ハゼス、宵闇のアロマ、霧魔皇ロナド、高度吸血鬼(ヴァンパイア)のハビラと霊魔植物ジェヌが乗っている。


「しつこいですね、魔靱植物車ベルハラルはかなり速いのに」

「はい、わたしたちを潰す予定だったのでしょう」

「はい、キーラめが……」

「ふむ、【ラゼルフェン革命派】と【天衣の御劔】の闇ギルドに、【闇の教団ハデス】と【セブドラ信仰】などの魔人、魔族が連携してくるとは」


 とシキたちが語る。

 ハンドルのような形の樹を右手に握りつつ、変速機の変速段を左手で握り、それを前後に動かした霊魔植物ジェヌは、


「――曲がりますが、ご安心を」


 急角度なコーナーを魔靱植物車ベルハラルが曲がり始めた。

 八つの車輪から無数の茨と似た植物が飛び出て地面を這うように拡がるとコーナーの外側から入る。そのままアウトインのラインを走行しつつ車輪は火花を散らし炎の車輪と成りながらも中央から内側の走行ラインを走りながらアウトの外側へ抜けてコーナーを曲がりきると俄に加速しながら大通りを直進していく。


 魔靱植物車ベルハラルが通り抜けたコーナの地面には炎の轍が出来上がっている。

 その魔靱植物車ベルハラルが大通りを直進。


 と、背後の大通りに火球が衝突し爆ぜた。


 それは火属性の爆鳳炎苦(レフ・ファルド)と似た威力。

 そんな炎の魔法を無詠唱で繰り出したのは炎極ベルハラディという名の魔人だ。

 【闇の教団ハデス】の魔人キュベラスの配下の一人。


 炎極ベルハラディは、第九地獄の炎覇者バゼルマウアー、魔炎神ルクス、雷炎神エフィルマゾル、漆黒の虚炎魔神ガラビリス、火の魔神ババル、火の精霊イルネス、炎の精霊バオルー、炎の精霊ラッパグリグリ、炎神エンフリートなどの様々な炎の神や精霊を信仰している。

 

 その炎極ベルハラディは魔靱植物車ベルハラルを追いながら炎の双剣を振るい、数十の火球を双剣と己の周囲に生み出してから、それら火球を魔靱植物車ベルハラルに喰らわせようと前方に繰り出していた。


 魔靱植物車ベルハラルは速い――。

 炎極ベルハラディの無数の火球は一つも当たらない。

 炎極ベルハラディの火球は地面と衝突を繰り返した。

 更に、魔靱植物車ベルハラルの後部から出た植物の茎と茨が宙空で集積し、植物の壁と成るや炎極ベルハラディが繰り出した火球と何度も衝突を繰り返し、爆発しては火球を相殺していた。

 

 爆発と爆風を体に浴びても気にしない炎極ベルハラディは炎を突き抜け直進。再び、炎の双剣を振るい、双剣から炎の龍が混じるような火球を魔靱植物車ベルハラルに繰り出し続けた。


 大通りの地面に火球が何度も衝突し、その度に地面が陥没を繰り返す。


 炎極ベルハラディはマントを靡かせながら何度も火属性の爆鳳炎苦(レフ・ファルド)と似た魔法を前方の魔靱植物車ベルハラルに繰り出し続けて飛翔していく。


 通りをたまたま進んでいたエルフの冒険者と人族の油売りの商人に魔獣を連れていたテイマーは、炎極ベルハラディの火球の魔法を体に喰らい一瞬で炭化して死んでいた。

 火球の影響で魔靱植物車ベルハラルの車体の後部が揺れて浮き上がったが、ジュヌの下半身と魔靱植物車ベルハラルは繋がっており、植物の組成で構成されているようにも見える車軸と八つの車輪は鋼鉄よりも硬く同時に軟らかさを兼ね備えているから壊れることはない。


 魔界セブドラの大魔獣ベルハラルの靱帯をジュヌが吸収した成果の一つ言えるだろう。

 極めて潰裂強度は高く頑丈な車が魔靱植車ベルハラルだ。


 そのジュヌが運転しているシキたち一行は順調に迷宮都市ペルネーテの第二の円卓通りの魔法街と貴族街の間の三番通りに突入していた。


 すると、前方に空から飛来してきた魔人が降り立った。

 その魔人は炎極ベルハラディではない。


 両手に長細い魔剣を召喚した魔人は長細い魔剣の切っ先から弾丸のような魔刃を連続的に魔靱植車ベルハラルに繰り出していく。


「ジュヌ、潰して構わないわ」

「はい」


 ジュヌはハンドルのボタンを押す。

 と、魔靱植物車ベルハラルの刃状のバンパーから魔刃が飛び出た。


 魔人が繰り出した魔刃と、その魔刃が衝突。


 打ち漏れた魔刃が、魔靱植物車ベルハラルに飛来し、魔靱植物車ベルハラルに衝突するかと思われたが、車輪と車軸から茨のような植物の茎が真下に伸びて、魔靱植物車ベルハラルが自然と跳躍したように真上に上がると、魔刃を避けていた。

 魔靱植物車ベルハラルから伸びた植物の茎が地面を鋭く穿つと、その反動で、車体全体が斜め前方へと跳ね上がった。その挙動は、大型の猛獣が跳躍するようにも見える。

 両手に長細い魔剣を持つ魔人の頭上を軽々と跳び越え、通りの先へと着地。轟音とともに走行を続けた。路地の横を曲がる。


「追っ手は撒いたと思いますが、まだ走ります」


 ジュヌの言葉にシキは魔酒が入ったグラスを持ちながら頷く。


「シキ様、敵側に我らの逃走経路が漏れている可能性がありますな」


 そう発言したのは、シキの横に座る〝髑髏沼の魔公ハゼス〟の言葉だ。

 通称は骸骨の魔術師ハゼスと呼ばれることが多い。

 嘗てのサイデイルのシュウヤたちの混沌の夜の際に援軍に駆けつけたのも彼だ。宵闇の女王レブラからも、コレクターのシキと共に魔界セブドラに独自の領域を持つこと許されている。


 シキは、


「キーラは去年の地下オークションで、カザネが用意した夢魔の水鏡、夢吸いの笛、夢瓶を競り落としていたわ。夢魔世界を使いこなせるなら、かなりのことが可能だからね、私が得意とする死の館で罠を張る戦い方も、特殊な<千里眼>に<予知>や<未来視>で、私の感知や看破する能力を上回っていたのなら観られていたのかも知れないわね」

「……閣下ヲ、観ルトハ、フソン……」

「「はい」」


 皆の言葉を聞いたシキは右手に惑星をモチーフにしたような魔法球を生み出す。その魔法球には、狐火が漂う【アシュラー教団】の結界が張られてあったところを淡く映し出していた。


 その結界から飛び出るように坂道から飛び出たのは槍使いと黒猫たち。


「ふふ、わたしの誘いを断った〝本物の強者〟」

「あ、シキ様の<魔球俯瞰>! シュウヤさんたちが映りました」

「ふふ、そうね、ファーミリアの一族たちも無事に【アシュラー教団】の結界に入れたと分かります。さて……」


 シキは満足そうに頷いて<魔球俯瞰>を操作――。

 新たに水球に映ったのは……。

 燐火が怪しく漂う【アシュラー教団】の結界に外から干渉し、結界を消している女性だった。

 近くに小柄の盾を左腕に嵌めている魔剣師風の女性と大魔術師風の人物が居る。


 その女性が振り返ると、体からゆらゆらとオーラのような魔力を発した。

 指先は尖りつつ、周囲に無数の魔剣を生むと、炎の魔印を指先で刻む。

 そして、シキの視線にウィンクを行う女性。

 刹那、シキの<魔球俯瞰>の魔法球は内側から炎に飲まれたように消える。


「シキ様、今のはキーラですね、シキ様の<魔球俯瞰>に干渉してくるななんてなんて魔法使いなのでしょう」


 と語るのはアロマ。

 シキは頷いた。


「地下オークション中に動くと、他の闇ギルドたちにそう叩きに合うけど、それに合う戦力を得ているようね……」


 シキは現状の迷宮都市ペルネーテで起きている混沌はどこまで加速するか読めないでいた。

 

 シキたちを乗せた魔靱植物車ベルハラルは影の魔力を噴出させて周囲の夜の気配に同調するように気配を消しながら狭い路地を進む。


 と爆発音があちこちで響く。

 聖鎖騎士団の一団と魔族殲滅機関(ディスオルテ)の戦闘服を着た槍使いが、コレクターたちが乗る魔靱植物車ベルハラルの前方を通り抜けた。

 が、直ぐにその聖鎖騎士団を追うように魔人たちが現れる。


 その魔人たちに<血魔力>を有した複数の魔矢が突き刺さって、魔人の一人が爆発するように死んでいた。

 

「シキ様、さすがに先ほどの炎使いと魔刃を繰り出してきた魔人は、撒いたとは思いますが……今度は、新たな魔人たちと聖鎖騎士団とヴァルマスク家の一部が戦っているところのようです」


 ジュヌの言葉にシキは頷いた。


「協定ではありますが、ヴァルマスク家に借りが出来ましたね。あ、その先の通りに行きましょう、シュウヤさんたち【天凛の月】の強い氣配がしますし、協定通りなら色々と好都合です」

「はい」


 と、そこに爆発音。

 魔靱植物車ベルハラルも追跡されていた。


 追うのは【闇の教団ハデス】、【セブドラ信仰】の魔人たちと【ラゼルフェン革命派】と【天衣の御劔】が用意した戦力たちだ。

 皆【御九星集団】のキーラが用意したとも言える。


「ジュヌ、急ぎなさい」

「はい――」



◇◆◇◆



 ――他にも建物を崩壊させるほどの戦いはあちこちで起きていた。

 紫の魔刃を出した魔人キュベラスの魔素は、集団戦が起きている箇所に転移するように消える。

 と少し足を止めた。

 相棒と共に振り返り、低空を飛翔しているユイと駆けているハミヤとホフマンを見た。

 キサラはホフマンの後方斜め上を飛翔し、周囲を警戒しつつホフマンを見ている。

 ユイは通りの先を見つつ、


「シュウヤ、<ベイカラの瞳>で、魔人キュベラスと、魔族殲滅機関(ディスオルテ)の三人は縁取ったから」

「了解した」


 ここはペルネーテの北西当たりだと思うが――。


 【白の九大騎士(ホワイトナイン)】のレムロナの部隊とガルキエフの部隊に【幽魔の門】のフランもくるかも知れないな。


 レムロナは時空属性持ちの額に隠れた白い瞳を持つから事件の根元の存在を逸早く追跡できるはず。


 ガルキエフは戦争で傷を負ったようだから、参戦はないかな。


 と、そこに魔刃が右の路地から複数飛来――。

 相棒が「にゃご」と言いながら口から紅蓮の炎を右側の百八十度の方向に吹きながら少し浮遊しつつ後退。

 

『はぅ~』


 と小型のヘルメが視界に登場するほどの熱波。

 飛来してきた魔刃をすべて一瞬の間に溶かす。


 その紅蓮の炎を一瞬で吸い込んだ黒豹(ロロ)は右を見やる。

 

 そこにいたのは魔人たちだが、専用の馬車を追い掛けながら襲撃している魔人たちか。


 左の開けた建設現場では、魔人たちと戦う聖鎖騎士団の重騎士たちも居る。と、魔人たちと戦うホフマンの<従者長>か不明なアラギヌスたちも居た。


 しかし、専用の馬車が観たことがない。

 その馬車が跳躍するように此方に近付いてくる。


 と、その馬車の印は見覚えがあるし、中身の魔素はコレクターのシキか。


 その馬車を追う連中も背後に見えた。

 右の拳が異常に大きい角を生やした魔人。

 魔族と体の半分が闇の影状の魔獣となっている魔族。


 雷状の魔力を発している双斧を持つ魔人。


 紳士のコート服に長いステッキを持つ魔人。

 

 外套を着た魔槍を持つ人族。


 黒髪に蒼い双眸で鼻は低い。

 唇は紫色で小さい。耳は短いから人族か。

 が、ダークエルフにも見える女性は、左手に魔弓を持つ。宙空に赤黒い魔矢を数本生み出していた。


 すると、専用馬車が直進し、俺たちの前で横回転しながら突っ込んで来ると、急激に止まって、植物と鋼の素材のドアが自動的に上向いて開いた。


「ふふ、シュウヤさんたち、お久しぶりです。おこんばんですわ」

「シュウヤ様、久しぶりです!」

「「「……」」」

「シュウヤ殿、どうも」


 アゼロス&ヴァサージを構えているユイと共に頷いて前に出た。


「おう、シキ、生きてて良かった。ファーミリアから聞いたが、随分と大量に追われているな」

「はい、めんぼくなく」

「では、シキ、いきなりだが共闘と行こうか?」

「はい、周囲が敵だらけですが大丈夫でしょうか」

「任せろとは言わないが、それなりにがんばるしかない」

「分かりました。〝混沌の夜に相応しい共闘〟といきましょう」

「二人とも、話はそこまで、背後の強そうな魔人たちが寄ってきているわよ、シュウヤとキサラ、ロロちゃんも行こう」


 ユイの言葉に頷いた。

 

「おう、ホフマンとハミヤ、左のアラギヌスと聖鎖騎士団へのフォローは任せた」

「「はい――」」


 頷いてから、


「皆、行こうか」

「了解」

「「はい」」

「にゃご」

「はい!」


 キサラを左に、右にユイが先に馬車を越える。

 ホフマンと共にシキたちが乗っていた馬車を跳び越えると右の拳と腕が異常に大きい魔族だと思われる魔人が俺たちに向けて右腕を翳しながら前進し、その拳から火炎で構成された火炎の拳を繰り出してきた。


 その火炎の拳を避けながら直進――右腕が大きい魔人に近付いた。

 ユイは両手のアゼロス&ヴァサージを振るい<バーヴァイの魔刃>を路地にいた魔人に飛ばしていた。



続きは明日。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] シキと合流!そして本格的にキーラの連合勢力とふつかり合うことに。果たしてこの混戦はどこまで広がるか。 [一言] キーラはコレクターにアシュラー教団にとオークション中にも関わらず積極的に敵勢…
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