千五百三話 ファーミリアとの会合
自然に生え揃った細い柳眉は風で少し揺れている。
睫毛も一つ一つの毛が長く<血魔力>が宿っており、その<血魔力>が毛先から放出されて宙空で花咲くように消えていた。碧眼の瞳といい、凄く綺麗な双眸で魅惑的すぎる。
そのファーミリアから吸血神ルグナド様のような気配を感じる。
ファーミリアは周囲に威圧感を与えるような<血魔力>のスキル持ちかな?
ヴァルマスク家の住処は惑星セラの王都グロムハイムの海岸線近くの【大墳墓の血法院】にある。その土地で、ファーミリアは吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>の一人の女帝として、無数の眷属たちと数千年生き抜いてきた。
だから、魔界側の吸血神ルグナド様の<筆頭従者長>の一人だったビュシエのように<血魔力>系統のスキルはファーミリアも相当な数を持っているはず、そしてタフネスも尋常ではないほど高いと予想できる。
そのファーミリアに、
「――貴女がファーミリア、ヴァルマスク家の女帝ですね」
「そうよ、リスクを承知で会いに来ました。わたしは戦うつもりはないから安心して」
「にゃ」
相棒も唸り声は出さず、挨拶をした。
ファーミリアに敵意はない証拠か。
ファーミリアの鼻が高く唇は小さい。
肌は白く透けて青白い血管と血の脈動が見えていた。
「リスクを承知で接触は光栄です。しかし、背後で立ち回って時間を稼いでいる吸血鬼がいますが、いずれここに教皇庁八課対魔族殲滅機関の一桁の何人かと聖鎖騎士団の連中が押し寄せてくる。その争いに俺たちも巻きこむつもりですか?」
ヴェロニカとビュシエは頷く。ヴィーネは翡翠の蛇弓を構えていたが、〝紅孔雀の攻防霊玉〟に切り替えていた。
ファーミリアは、
「すみません、わざとではないのです。ですが、はい、そうですね。巻きこまれると思いますので先にヴァルマスク家として謝罪しておきます。そんなことよりも槍使いの気配を察知したので、今、このタイミングでしか接触の機会がないと考えた次第なのです」
「にゃ」
相棒が唸り声を発しない。
ビュシエとヴェロニカは頷いた。ヴェロニカが、
「なんだかんだ言ってるけど、面倒な教皇庁八課対魔族殲滅機関のメンバーをシュウヤになすりつけるつもりよ、だから、やっぱりマギットを連れてくるべきだったかな」
と発言し、血の大剣に乗りながら両手にフランベルジュの形の魔剣を召喚している。
ヴェロニカは<筆頭従者長>だ。
その状態でマギットと融合するとなれば、かなり強い。
そのヴェロニカは、いつでも<血白狐閃>と<相剋ノ血剣塔>を繰り出せる構えを取った。
アドゥムブラリは、
「あぁ、女帝を囮に、ヴェロニカの天敵による襲撃はありえる」
とヴェロニカに言いながら黒い翼を羽ばたかせた。
長い金髪が肩の上を舞うように靡くと、目の前に偽魔皇の擬三日月を召喚した。その巨大な斧を浮かせたままファーミリアの右側を飛翔し、此方側へと徐々に降下している吸血鬼たちの様子と聖鎖騎士団たちの動きが見えるように坂下を見渡せるような位置取りを取った。
アドゥムブラリ一人いるだけで制空権は取れると自信が持てる。
ヴェロニカは、
「空には、ルンスたちかホフマンたちもいるわ、その背後には魔族殲滅機関の一桁と聖鎖騎士団の連中も!」
ヴェロニカの声に頷いた。
「「「はい!」」」
「カザネたちは後退してて」
「え、はい」
「わたしたちも戦えます」
「ううん、わたしたちに任せて、【天凛の月】の前に光魔ルシヴァルの戦いかも知れないから」
レベッカが立派なことを語る。
「シュウヤ、油断しちゃだめ、ファーミリアを見てて」
「ん」
とエヴァにも突っ込まれた。
ファーミリアを見ると、そのファーミリアは、
「戦うつもりはないですが……背後の教皇庁八課対魔族殲滅機関は槍使いたちにも敵ですからね……」
と発言。アドゥムブラリは、
「ファーミリアとやら、弁解しても状況が悪すぎだ。此方は戦いに備えるぞ」
と発言し、<魔弓魔霊・レポンヌクス>も召喚。
偽魔皇の擬三日月の巨大な斧は周囲を旋回している。
そのアドゥムブラリは、
「よーし、これで吸血鬼どもも、魔族殲滅機関の一桁や聖鎖騎士団たちも、俺たちだけで対応は可能!」
と発言。単眼球の頃とは雲泥の差だ。
頼もしくて拍手したくなる。
「うん」
ルマルディは、
「貴女がファーミリア。わたしは元空極ルマルディです。主に皆を攻撃するのなら、お相手致します。そして、主のシュウヤ様を守ります」
アルルカンの把神書も、
「主は控えめの性格だからな、ここで、俺たちの強さを示せば、【御九星集団】たちもびびりまくるはずだ」
と発言。
ルマルディは俺の左斜めをホバーリングで浮きながら左手首からスクロールの束を垂らす。既に左手には風魔法のスクロールを握っていた。
束は掌へと自動的に移動するような糸状の魔道具と繋がっている。あれは便利だな。
アルルカンの把神書は自動的に頁が開く。
と、頁の書かれた魔法文字と挿絵が、そのまま立体化しつつ魔法文字と挿絵が重なり合う。瞬く間に魔獣と鮫が融合しているような幻獣が召喚された。あれで、いつでも攻撃や防御が可能だろう。
ベネットは「後衛として背後も見とくよ」と発言し、後退した。
直ぐ横にいたキスマリは頷きつつ六個の眼球を目まぐるしく動かして、周囲の観察を繰り返している。そして、ベネットを見て、
「うむ、都会エルフ、我は前だ」
と発言。その六眼キスマリはベネットたちとアイコンタクト。
そのまま<黒呪強瞑>を発動し体重を下げながら魔剣アケナドを握る片腕をファーミリアに向ける。
そのまま三腕の防御の構えを取って前衛をキープ、構えは渋い。
ユイも、
「わたしも前に出るから」
と発言し<黒呪強瞑>を発動させた。
【天凛の月】の衣装の節々と体からも、傷のような形の魔力が零れ落ちて大気に混ざるように消えていく。
「ふむ、『内なる魔力を己の呪咒の剣刃として感じ得よ』だな、我の背中は任せるぞ、ユイ」
「ふふ、当然、少し気が早いけど」
と笑顔のユイは喋り、俺と口を両手で押さえているファーミリアをチラッと見てから頷き、キスマリの横に出た。
両手にアゼロス&ヴァサージを装備し、口に神鬼・霊風を咥えている。
最初から三刀流の構えだ。抜刀術ではないから乱戦を想定していると分かる。
双眸に白銀色の光芒が起きていた。瞳から銀色の魔力が溢れている。
そして、<ベイカラの瞳>を発動させて、ファーミリアを縁取っていたことだろう。
レベッカは城隍神レムランを腰から引き抜く。
ジャハールとタン・ブロメアの拳は使わないか。
エヴァは魔導車椅子に座ったまま後退、皆のフォローに回るようだ。
ミスティは、俺を見て、左手の暗器械を掲げている。
ミニ鋼鉄矢を出せるんだったな。
と、そのミスティはヘルメのようなポージング。
戦隊のノリで、魔導人形のゼクスを大きくさせる。
と、ゼクスの右肩に用意してあるポールショルダーに腰掛けて、魔導人形と連動しているだろうコントローラーを握っていた。
コントローラーとか……。
思念操作でも良いが、俺が前に戦闘用スティックを提案したことがあったが、それを取り入れたのか。
真・魔導人形はモビルアーマー試作型に変化を遂げている。
色々なモデルチェンジが可能な魔導人形化は、シリーズ化して、プラモデルかフィギュア化したら人気がでそうだ。
ゼクスの右肩に乗ったミスティは飛翔してアドゥムブラリの横に移動する。
クナは俺の背後にきた。
とりあえず、ヴァルマスク家の女帝ファーミリアに、
「俺たちに何の用ですか?」
「【御九星集団】のキーラと、その【御九星集団】最高幹部の盾使いコンマレと、他の最高幹部たちと兵士多数、更に魔人キュベラスと魔人アルケーシスに【闇の教団ハデス】の闇炎の串刺し公アルグロモアと魔公ディフェルの討伐依頼です。報酬もお約束致します」
やはり【御九星集団】のキーラたちはコレクター側と揉めていたか。
交渉中に何かがあったと予測。
「先ほど蝙蝠と鴉の数人の吸血鬼たちが、【御九星集団】たちが乗った馬車目掛けて急降下して行きましたが、やはり、それ関係の抗争中でしたか」
と聞くと、ファーミリアは頷いた。
「はい、既に私たちはレブラとルグナドの協定により、【御九星集団】と戦闘中です。しかし、教皇庁のうるさい蠅どもと聖ギルド連盟のギルド員、冒険者の吸血鬼ハンターたちに邪魔をされて、まともにコレクター側に支援ができないのです」
なるほど。
「争いの原因は分かりますか?」
「【御九星集団】のキーラたちと、コレクターのシキたちは、交渉中に争いに発展したようです。その争いで、シキの部下の霧魔皇ロナドに宵闇の女王レブラ様と吸血神ルグナド様の血の眷属でもあったハビラが不意打ちを受けて傷を負ったとのこと、死亡者が出たとも聞いています」
「そうでしたか、なら話が早い、依頼は受けましょう」
「おぉ!」
そのファーミリアの背後に次々と蝙蝠と鴉たちが吸血鬼に変化して着地を行う。
「「「ファーミリア様――」」」
「――急な予定変更は困ります!」
「教皇庁八課対魔族殲滅機関と聖鎖騎士団の連中も此方にきます!」
吸血鬼たちは魔力を帯びた指輪を装備している。陽を体に浴びても大丈夫になる指輪かな。
吸血鬼にはデイ・ウォーカーは必須か。
女帝ファーミリアは、
「アルナードにルンスとホフマン、大丈夫です。ルンスは気をつけたほうがいいとは思いますが、槍使いは冷静沈着、ですわよね、【天凛の月】の盟主様――」
と頭を下げてきた。
俺も「善処はしますが……」と言いながら頭を下げた。
直ぐに背後の吸血鬼たちが頭を下げてくる。女帝への忠誠心は確かなようだ。
それにしても、ここで<筆頭従者>ホフマンとルンスか。
ホフマンは加勢もあるから、まずは、老獪そうなルンス。
ルンスは顔色が悪い。
交渉スタイルを変化、少し怒りを滲ませて、
「そこの<筆頭従者>ルンスはヴェロニカを禁忌と呼び、執念を燃やして追い続けている。【湾岸都市テリア】でもクナたちとも戦闘を起こしていたが女帝の考えで、そこのルンスは俺たちを標的にしているのではないのか?」
と語った。
「違いますわ、私の命令は、槍使いと関わるな。と命令を出している。ルンス、釈明があるなら聞きますわ」
ルンスは苦虫を噛み潰したような表情を一瞬作る。
が、直ぐに表情を元に戻した。
そして、
「申し開きはありません。禁忌、否、ヴェロニカと、クナと言ったか、我から、もう槍使いの眷属たちに、仕掛けることはしない」
と発言。
少しだけ頭を下げていた。
「スロトお父さんのことに、ビビちゃんを、そんなことで許せるわけがないんだけど!」
ヴェロニカはフランベルジュの切っ先をルンスに向ける。
ルンスは冷や汗をかいたように見えたが、吸血鬼だからかいてないが、そのままたじろいで、
「……くっ、ファーミリア様の前で武器を抜くとは……」
と発言してからファーミリアたちに助けを請うような視線を向ける。
皆は沈黙しているが……。
ファーミリアは哀しげな表情を浮かべる。
「ルンス……【湾岸都市テリア】の吸血は聞いていますが、委細の報告に差異があるように思えますことよ?」
ルンスは、「は、はい……」と発言。
そこで動揺を示すように顔色を変化させて、ヴェロニカたちを見て、
「済まなかった……が、わしは血の掟がすべて……では――」
と皆に謝るように頭を下げたルンスは、背後から来ていた聖鎖騎士団の兵士たち特攻を駆けていく。
「ルンス様――」
「ルンス様に続け――」
「「「おう」」」
ルンスの配下の<従者長>たちも続いた。
魔族殲滅機関の一桁はまだ見えないが、時間の問題か。
聖鎖騎士団の司祭と助祭もいずれはここにくるだろう。
ヴェロニカたちはルンスを追わず。
「「……」」
皆の空気感は分かる。ひとまずファーミリアに、
「襲撃の情報などは、魔界セブドラの吸血神ルグナド様の連絡役が、そのハビラで、そのハビラからヴァルマスク家は連絡を受けたのですか?」
「はい、他にもありますが」
「魔界セブドラの吸血神ルグナド様とセラ側の<筆頭従者長>のファーミリア様とはコンタクトを密にしているのでしょうか」
「いえ、もうずっと連絡は取れていない。傷場も地下の遠い洞窟の先にありますが、南マハハイム地方の樹海は様々な争いがありますからね」
「そうでしたか、南マハハイム地方の樹海には、ホフマンが利用していた土地がありましたが、まだ、ヴァルマスク家の秘密基地がある?」
「秘密基地はありません。ただ、ハーヴェスト神話に登場する由来が深い土地は南マハハイム地方の十二樹海にありますよ。もう人員は置いていないですが、ヴァルマスク家の土地と口だけでは言えます」
と少し苦々しく語る。
「お、樹海にそのような土地があったのですね。知らなかった。教えてください」
「はい、【樹海のハーヴェストの泉】で、【キュルハ様とレブラ様の同盟の血碑】と〝血の陰月の大碑〟があります。魔界セブドラの【忌丘神狼ハーヴェスト】と【双月ノ破壊碑マハハイム】に【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】や【ウラニリの大霊神廟】などにも、同じ血碑と〝血の陰月の大碑〟があると、昔、吸血神ルグナド様の魔界騎士ヘルキオス様と<従者長>モモルから聞いたことがあります」
「へぇ、魔界騎士ヘルキオス様と<従者長>モモルは傷場か十二樹海を使い、セラと魔界の行き来をしていた?」
「そうです。嘗ての死蝶人の目を盗むように……」
「そうでしたか……」
ビュシエを見る。
「はい、魔界騎士ヘルキオス様は有名。<従者長>モモルは知りません。そして、ファーミリア、久しぶりです。と言っても直に見たことはないですし、シュウヤ様の記憶から知っている気分となりましたが、あ、魔界セブドラ側の元<筆頭従者長>のビュシエ・エイヴィハンです」
ファーミリアはビュシエを見て、目を見開く。
「え? あっ……あぁ! あの噂では、はい……ビュシエ様、え……それが、槍使い……の……」
皆が頷く。
「そうだ、俺の<筆頭従者長>の一人が、ビュシエだ」
ビュシエは胸に手を当てた。
ファーミリアは、ビュシエを凝視し、俺に視線を戻し、
「なんという……あ、では、魔界で吸血神ルグナド様と槍使いは、血の盟約や血碑の契約を結んでいるのですか」
「結んでいない、ビュシエを救出する際にちょっとしたことで俺の<筆頭従者長>になった。吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラ様と繋がることでもある」
「……よ、宵闇の指輪ですか? 秘宝……」
蒼い双眸が揺らいでファーミリアは少し唇が震えていた。
宵闇の指輪はかなりの貴重品か。
クナとビュシエとヴェロニカは余裕感が出たのか、微笑み合う。クナは、ドヤ顔気味だから微笑みではないかな。
「そうだ。少し聞くが、ファーミリアたち、ヴァルマスク家も南マハハイム地方の十二樹海の一つを利用できたのか?」
「〝世界樹ノ根〟があった頃の数回程度です……ですが、樹海には、古代狼族、黒髪の貴公子、樹怪王の軍団の樹魔妖術師、白の貴婦人が従える怪物たち、旧神ゴ・ラード、地底神の諸勢力、オーク大帝国がいましたからね」
頷いた。皆を見てから、とりあえず、
「ファーミリアの<筆頭従者>ホフマン、何時ぞやの加勢は覚えている、ありがとう。が、キサラへの行為は許されない。それは分かっているんだろうな」
「はい、槍使いシュウヤ様」
と、動揺せずに語る。
キサラは、ダモアヌンの魔槍の穂先を<筆頭従者>ホフマンに向けた。
ホフマンは満面の笑みのまま、キサラを見て、
「……素晴らしい……」
とボソッと小声で発言し、俺を見て涙目となっている。
少し法悦状態か?
すると、<筆頭従者>ホフマンの背後から、ざわざわざわざわ……と、眷属たちが騒ぐ、あきらかに態度が変化して、皆の目付きがヤヴァい。
「――おい、ホフマン? 背後のことを考えろ」
「あ、ぁぁ……」
と<筆頭従者>ホフマンは仲間の<筆頭従者>らしきイケメンの眷属にツッコまれて気を取り直している。
と、坂下にいるルンスが聖鎖騎士団の連中に全身が串刺しにされてヤバそうだ。
状況も状況だから、口調を意識し、
「ファーミリアとヴァルマスク家の皆さん、先の依頼は引き受けますが、【御九星集団】は、今しがた会合で中立を約束したばかり、そして、朝には地下オークションがありますから、そのオークション中は、【御九星集団】とは直に戦うつもりはないです」
「分かりました」
「「「「ハッ」」」」
「――イエス、マイロード、我らの救世主!」
と、ホフマンが叫び、片膝で床を突いて頭を下げてきた。
お前の主はそこだろうと、意味を込めてファーミリアを思わず見る。
「えっと……」
「ホフマン、どうしたのです」
「あぁ、す、すいません――」
とホフマンは俄に立ち上がり、背後を振り向いて、
「――アラギヌスたちも立て、我らも坂下の戦いに参戦する」
「「「はい!」」」
「ファーミリア様とアルナード、足止めは任せろ」
「了解した」
「はい」
と<筆頭従者>ホフマンと<従者長>たちと多数の<従者>が坂を下っていく。聖鎖騎士団の連中と戦いが始まった。
クレインは無手で右の前に出た。
ハンカイは、
「ハッ、ここで吸血神ルグナド様の吸血鬼共と神聖教会たちの戦いに巻きこまれるとはな」
と発言し、金剛樹の斧を両手に出しながら左の前に出てくれた。
隣にいるブッチも、
「ハンカイの叔父貴、気をつけてください。どちらも、樹怪王の水棲のような隊長クラスの敵が多いはず。相当にタフなはずです」
「ブッチ、前に言ったが、俺はお前の叔父貴ではないぞ」
「はは、すみません、流れです。しかし、斧の腕前は、光魔ルシヴァルの俺よりも上なんですから、その貴ぶ思いをのせて、叔父貴と呼ぶのは自然の流れですぜ」
「はは、俺をか、ありがたい思いだ、許可しよう」
「はい!」
ハンカイの叔父貴か。
その紅虎の嵐でもある<従者長>ブッチは、片手斧を腰ベルトから抜いて左手の甲から鋼を拡げて小型の盾を生成していた。
左手の手甲に備わる小型の盾はバックラーを大きくした印象の盾で、結構、格好いい。
サイデイルを攻撃してくるオークや樹怪王に旧神ゴ・ラードなどのでの戦いで入手したのか、ミスティが試作型魔白滅皇高炉で素材を流用して鍛冶屋に作らせたか、クナ経由かな。
そのブッチは、俺の左前に出た。
「うふふ、槍使いたちの眷属は頼もしい」
と、ファーミリアの発言に、エマサッドたちが会釈。
元軍罰特殊群の五番隊隊長のエマサッドも魔剣ソリュルレーと魔剣ギュンターを召喚し前に出る。
乱戦次第だが、ゼメタスとアドモスは呼ぶかな。
魔銃を持ったベニーも、左向こうに跳躍を行う。
建物の屋根の端に着地し半身で魔銃〝セヴェレルス〟の銃口を坂の下に向けている。
広場の前に空からやっている吸血鬼たちと坂下に集まっている聖鎖騎士団の連中を撃ち抜ける距離だ。
遅れてサザーも跳躍し、広間に並び立つ石幢の上に着地しては、イスパー&セルドィンの魔剣の切っ先を吸血鬼たちと坂の下の連中に向ける。
朱色のマフラーが似合うサラは右に跳ぶ。坂の下の連中にいつでも仕掛けられる位置だ。
ヴィーネは、
「皆さん、これを試すので利用してください」
と言いながら〝紅孔雀の攻防霊玉〟を巨大な盾に変化させる。
その巨大な盾を持ちながら坂の上にまで移動した。
「了解~」
「ん」
「「「「はい」」」」
レベッカとエヴァとフーとママニとベリーズとツアンとメルが、その盾を利用するようにヴィーネの背後に移動。
ラファエルは、
「やはりシュウヤとロロちゃん様がいると色々と起きて面白い!」
と言いながら魂王の額縁から火蜥蜴の『イントルーパー』を出す。続けて『トルーマン』を出して、バッタが絡むような仕種だったが、一瞬で魔杖からハンドガンに変化し、それを装備している。
魔杖でありバッタのように生きている『トルーマン』か。
あの魔杖はハンドガンの見た目の形状で、実際に魔弾を射出が可能だ。構えといい結構格好いい。
構えの見た目は『CAR』スタイルだろう。
中心軸を再ロックするCAR Systemという射撃スタイルと似ているのは変わらず、近接戦闘も可能なラファエル。
「火を吐く蜥蜴ちゃんは防具にもなる、武装魔霊っぽいです」
と背後にいたクナが『イントルーパー』の動きを見て発言。
ルシェルは俺の右後方のまま動かず。
『閣下、出ますか?』
『御使い様、いつでも出られますので』
『まだ大丈夫』
『『はい』』
ファーミリアたちに、
「では、俺も聖鎖騎士団の連中と魔族殲滅機関の一桁を見てきます」
「あ、はい。押し付けたようでごめんなさい」
ヴェロニカたちが一瞬ファーミリアたちを睨むが、俺が直ぐに片腕を上げて、往なす。
「皆、備えろ、ルンスとホフマンが突破された――」
「にゃご」
黒虎と共にヴィーネたちの前に跳躍。
光魔ルシヴァルの宗主、【天凛の月】の盟主としての気概を示すか。
坂前に出ながら魔槍ラーガマウダーを左から右上に左下へと振るう。
左手から右手へと柄を交換するように持ち手を変えながら――。
腰を基点に腰が柄を握っている如くの真横に一回転させてから左腕全体に魔槍ラーガマウダーの柄を沿わせる形で止めた。
「ウォォォ、吸血鬼どもがぁぁぁぁ」
「いたぞ、あそこの天辺に女帝だ!!!」
「光の名の下に、吸血鬼共を殲滅するのだ!」
「「「ウォォォ!」」」
槍を持ちながら突進してくる聖鎖騎士団の連中か。
一人一人が強者かな。
続きは明日。「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




