千四百九十九話 アシュラー教団とデボンチッチとレザライサとの再会
神輿に乗っているカザネは、神輿の重量と重なってかなりの重量だと思うが、力士のような方々は力強い。
神輿の担ぎ棒を肩に担いだまま豪快に走り出した。
速度は速い。息の合ったかけ声と力強い走りは少し面白い。
そのままミライとアシュラー教団の兵士たちと共に都市の北側へと駆けた。
――アルルカンの把神書が後退。
――カザネと魔術談義でもしていたようだ。
――ルマルディと会話していく。
――前回は専用の馬車に乗っての移動だったが、今回は大人数での移動なこともあるんだろう。
そのアシュラー教団と俺たちが駆けている大通りと路地には商店街に路上で商品を売る豹獣人とエルフと人族も多い地域。
そろそろ貴族街に近い大通りだから人通りは少なくなるはずと思ったが商売人と冒険者たちの人数は多いまま、第一の円卓の通りに向かう人々と馬車が多いからカザネたちも駆けるのを止めた。
黒豹は黒猫の姿に戻って地面でゴロニャンコ。
俺たちも歩きのペースとなって観光客気分で人族の戦士やドワーフの猟師や馬車を連れている魔獣などを新鮮な気分で見ていく。
肩に猫を乗せた剣士がいた。
四肢が立派な魔獣を連れた鉤爪の武器を持つ冒険者もいる。
まものつかいか。
僧侶の格好した少しエッチな女性が、その鉤爪を持つ冒険者に話しかけていた。
更に百九十センチはある戦士がいた。
銀色のツーブロックの総髪を後ろで一本に纏めている。
大きな背中には主力武器の大剣と副武器の二本の長剣を背負い、腰にも骨の鞘が目立つ小剣を装着していた。
一流の類の雰囲気だが、どこかで見覚えがある。
と、俺と眼があった。
錦色の虹彩の中に黒い渦のようなモノか、二つの眼が虹彩の中に存在している? 摩訶不思議な眼だ。
と、銀色のツーブロックの総髪を後ろで一本に纏めているイケメンは<魔闘術>系統を強めて丹田の位置から魔力を爆発的に増やすと、体がブレて消えた。
前にも見た覚えがあるが、一流の冒険者なら、ここに居れば、またどこかで会うかもな。
そのそんな通りを向かう人々の声が、
「――おい、和平の空気が一変し、ラドフォード帝国との戦争がまた激しくなったと聞いたか?」
「――あぁ、サーザリオン領は堅持されているがな」
頭が禿げた大柄の人族の斧使いと虎獣人の槍使いの言葉だ。そこにエルフの射手が、
「【緑竜都市ルレクサンド】を巡る戦いでは、オセべリア王国側は負け続けて大騎士ガルキエフも傷を負い帰国したと聞いている」
二人は頷く。虎獣人は俺たちをチラッと見たが、気にせず、
「そうらしいな、オセべリア平原での進撃もここまでか、ラドフォード帝国の連中も本国で戦争派の侯爵の何人が不自然に急逝したらしいからな、その弔いもあるかもしれないが……戦というものは分からない」
エルフと人族は頷いた。
そして、人族は
「あぁ、ドラゴン丘の奪還から凄まじい勢い連勝続きだったのに、またサーザリオン領を失うかも知れない」
「そうなると西への交易ルートは迂回の連続だ。ルレクの油と肉などオセべリア平原の穀物などの値段も変化しそうだな」
「サーザリオン領が健在なら、その程度で済む。そして、戦に負け始めたらレルサン王太子派とファルス第二王子派の内戦も消えて纏まる。俺たちにはそのほう気楽だ」
「どちらの王子もペルネーテまでは戦場にしたくないだろうからな」
「しかし、帝国に勝利しても内戦の兆しが直ぐに始まる。どちらにせよ厄介だ」
「ふむ、次の戦で王太子の失態が続けば自然と王太子が第二王子に移るかも知れないぜ? そうなったらルーク国王もいい歳だから引退し、新しい王太子と同時に国王って流れがあるかもだ」
「どうだろうな……戦となれば、第一王太子派は盛り返すだろう」
などの噂を耳にすると、大通りの混雑が消える。
「シュウヤ様たち、道が空きました、先に行きますわ――」
「了解」
「にゃおぉ~」
神輿に担がれているカザネたちは先を進み始めた。
「「「らっせら~らっせら~、おぉぉっと」」」
「「らっせら~らっせら~」」
「「「おぉぉっと」」」
「にゃ、にゃぉぉ~」
また野太い声を響かせる。
何回か聞いていると癖になるリズム。
相棒もそんな気分か、一瞬で、再び体を黒豹に大きくさせた。
『祭りだ、祭りだ』
的な、魔法の歌かも知れない。
しかし、この分だとまた混雑するところが出るかもしれないな。
などと思ったが、進むごとに通りを行き交う人々の数が少なくなった。
――え?
角と通りの左右から尖塔がニョキッと出現し始める。魔法ギルド用の青白い尖塔を彷彿とさせるが、違う。
紫色と朱色の魔力を放っている尖塔か。
左右の通りにも出現した――。
また角を曲がる際にも、角っこに尖塔が出現していく――。
尖塔は街灯ぐらいの大きさで石幢でもあるようだ
その尖塔のような物が左右の通りに並ぶ様子は街路樹のようにも見えた。
ミライが、
「――紫と朱の魔力を放つ尖塔は【アシュラー教団】専用。お母様と私たちの、今だからこそ可能となるスキル効果のアイテムです。尖塔なので気にせず――」
と説明してくれた。
駆けているカザネを乗せた神輿とミライたちの前方の空間か少し歪みながら魔法の角灯が出現。
あれも【アシュラー教団】の能力か。
『ミライが言う通り、運命神アシュラー様のお力を由来するスキルか魔法でしょう』
と仙王鼬族の貂が教えてくれた。
神界セウロスの神の一柱の運命神アシュラー様を信奉する組織が、【アシュラー教団】だからな。
カザネやミライと初めて会った時は剣呑な印象だったが、今ではかなり異なる。
そして、貂と同じく左手の掌の傷の中にいる<神剣・三叉法具サラテン>の沙と羅は黙っている。羅は性格的に大人しいから分かるが、沙が黙るのは珍しい。
妾がなんたら! と言う娘が沙だが……。
『運命神アシュラー様のスキル系統は、貂の仙王鼬族も使えるのかな』
『はい、運命神アシュラー様のスキル系などを得意としている本場は、運命神アシュラー谷や鸞仙山脈や神魔山シャドクシャリーなどの近くにも棲まう鸞仙族でしょう。次点でヒュシュラ族やアーバーグードローブ族やル・ジェンガ・ブー族が得意だったと思います』
アーバーグードローブ・ブーは懐かしいな。
ブーさん一族は今もペルネーテの空にいたりするんだろうか。
頷いた。そのことではなく、
『貂は?』
『はい、運命神アシュラー様と関連しているスキル類は多少使えます。しかし、わたしは<神刀鳴狐>や<水風・白鶴剣>に<傾角畏狐刀>などの剣術が得意です』
『その辺りは個人差か』
『はい、仙王鼬族の中には運命神アシュラー様を信奉している者も居ましたから、その仙王鼬族たちは<仙塔不壊>や<仙守ノ籬塔>に<仙鼬守塔>を得意としている者が多かった。次点で<時森ノ守尾塔>と<仙幽狐ノ尾場>に<仙王・仙鼬運命翔>や<仙王・魔狐守角>と<魔塔アシュラーの風狐>などのスキル類を得意としていた』
尻尾が多い仙王鼬族らしきスキル名があるのは面白い。
『へぇ、今のカザネたちが使っているスキルと同じのはあるのかな』
『はい、簡略化した印象は否めませんが、スキルや魔法は似ている印象です』
似ているか。
『そっか、運命神アシュラー様の眷属のカザネだからな』
『はい、運命神アシュラー様の加護によりカザネと神輿だけでなく【アシュラー教団】の兵士たちの衣服と体の<魔闘術>系統も強化されている。恩恵は多重にあると分かります』
『だからか、神輿を運ぶ兵士たちの筋力と体力に足も速いのは、そして、今も通りに生えて伸びる小さい尖塔は<魔塔アシュラーの風狐>のスキルかな』
『たぶんですが、そうでしょう。わたしが見たことのある<魔塔アシュラーの風狐>や<仙鼬守塔>と似ています』
『先ほどと同じく個人差だな』
『はい、仙鼬籬の森の仙王鼬族だけでも個人の差で形や色と、名にも変化がある場合がありました。集団用のスキルも多種多様に変化があった。ですから、運命神アシュラー様から授かっているだろうスキル類も、この惑星セラ独自の多様性を示すような、偉大な進化を果たしている可能性があります』
千差万別な世界で自由度満載って素晴らしいよな、自然と頷いた。
『――なるほど、通りの尖塔は、名前的に<仙塔不壊>とも関係がありそうだが』
『あ、<仙塔不壊>は手元に尖塔を召喚し近接にも、遠距離武器にも使えます。他にも<仙塔不壊・封氷>などは敵対者やモンスターを封じ込めることもできる』
『へぇ、召喚ってだけなら<南華魔仙樹>などで作成可能な魔杖槍南華の棍と似ているのかな。更に使い捨て可能なら<水晶魔術>の<水晶剣ビスラ>と<水晶槍ブラムス>のような印象でもある』
『はい、似ているといえば、召喚して出すのは魔法全般ですからね』
『たしかに』
『それに器様の古代魔法系統の<水晶魔術>は高度な魔法技術の塊です。細かく言ったらきりがないですが、<仙塔不壊>とは少し違うような氣もします』
と貂と会話を続けながら駆けると――。
地面の先に運命神アシュラーを意味するだろう紋章も出現し浮いた。
神輿に乗っているカザネとミライたちは構わず直進――。
続けざまに地面から現れ浮かぶ運命神アシュラーを意味するだろう紋章を皆で吸収しながら先を進む。
と、通りの地面や商店街の建物自体から半透明な時計と歪んだ空間とオコジョや狐と鼬の紋様も次々と出現――。
進んでいる通りの空間が一気にアウターゾーンとなった如く不思議で神秘な魔力に満たしていく。
思わず、臨界!?
と、バイクに乗りながら叫びたくなる。
通りを行き交う人々も不思議そうに周囲を見回していた。
カザネを乗せた神輿と力士的な兵士にミライたち【アシュラー教団】の兵士は、それらの魔力の角灯と紋章と建物から出現している不思議な紋様をも吸収するように走り続けた。
「ンンン――」
相棒も興奮気味だ。
すると、カザネたちを中心に半透明な魔力が、中央に遊歩道のある大型商店街のモールを形成するように上下左右へと拡がって、魔力の門を擁したモールと成った。その魔力の門でありモールのような魔力は元々の商店街の門と左右の商店の建物や屋根瓦とも融合しつつ建物自体を覆い、建物の群れを次々と強化するように拡がり続けた。魔法のフィールド魔法にも見えてくる。和の狐の動物たちがモチーフの意匠もあった。
その魔力の門の表層の狐の意匠が立体化し、その意匠から狐の幻影が幾つも生まれ出ては、建物の屋根と魔力の門の上を駆けていく。
「にゃ、にゃ~」
走っている相棒が反応し、跳躍しながら狐に突撃、狐は半透明で透けているから相棒の体を通り抜けながら消えていた。
すると、自然と<水の神使>が発動した。
※<水神の呼び声>と<水の即仗>と光魔の陰陽分れざりし心の溟涬而含牙の使い手が水神アクレシスの強い神気を浴びて得られる希少恒久スキル※
※水神アクレシスの神籬の意味を持つ腰に注連縄を巻く子精霊を出現させることが可能※
※紙垂には神の領域と人の領域を分ける働きがある。腰に注連縄を巻く子精霊は混沌の極みの表れ、操作は不可能※
「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」
「――デッボンッチィ、デッボンチッチィチッチィ」
と懐かしさを覚える音程と共に、腰に注連縄を巻く子精霊たちが自然と俺の周囲に出現しまくり、狐たちに近付いて共に駆けていく。
面白い――。
「ん、ふふ、不思議祭り?」
「わぁ~使者様音頭で一発~♪」
イモリザが走りながら大興奮。
皆が笑う。
跳んで宙空を駆ける狐たちと子精霊。
子精霊から避難するわけではないが、カザネたちを襲うように、カザネたちに急降下する狐たちもいた。
それらの狐たちはカザネたちが吸収していた。
途端に、神輿から不思議な花火が打ち上がる。
「「わぁ~」」
「にゃおぉ~」
「はは、面白いな、アシュラー教団は!」
「「「ふふ」」」
「「あはは」」
通りの前方に着地した狐たちは先を駆けていく。他の幻影の狐たちは子精霊とダンスを踊りながら地面を走っている俺たちに追従してきた。
可愛い。
この幻影の狐たちは運命神アシュラーの子精霊だろうか。
【アシュラー教団】の証明で、運命神アシュラーも俺たちを導いてくれている?
ミライが装備している仮面や衣装には、狐のデザインが施されていた。
運命神アシュラー様は、狐が好みか?
五穀をつかさどる倉稲魂神を連想した。
――倉稲魂神様、今年もよろしくお願いします。
「不思議~」
「――前にもあった?」
「――前は馬車に乗っての移動だったからね」
とユイたちも楽しそう。
ハンカイも髪の毛に付着した子精霊が消えるのを見て、
「とにかく不思議だ――」
と元気に発言。
アルルカンの把神書が、
「――先ほど少し【アシュラー教団】のカザネ婆と会話をしたが……カザネとミライは、運命神アシュラー様から加護の証明の<アシュラーの運命道>と<幻狐アシュラー>と<警邏運命道>に<運命ノ人払い>などのスキルが使えるようだった。会合と地下オークションの時に多用するようだぞ」
「「へえ」」
「納得です」
それにしても幻想的な光景だ。
その魔力の門を有した商店街の通りをカザネたちの神輿が通り抜けていく。
俺たちも魔力の門を抜けて第二の円卓の大通りを越えた。
幻影の狐たちは子精霊たちと前方を行く。
黒豹は「ンンン――」と喉声を発して追い掛けていく。
幻影の狐の数匹はカザネたちを誘導するように先を駆ける。
一部の狐はアシュラー教団の兵士たちの体に入り込んで消えることもあった。
他の狐たちは黒豹と俺たちを誘導してくれた。
他にも他の十字路や横の通りの前に移動して集結し、大きい幻影の狐となって十字路の横を防ぐように動きを止めていた。
「「おぉ」」
「マギットみたい――」
「ふふ、はい、カザネたちはこのような力を今まで隠していたのね」
「うん」
とヴェロニカたちも知らなかったか。
大きい幻影の狐は、カザネと俺たちが通っている大通り側へと、他の通りから邪魔が入らないようにしているようだ。
黒豹は此方を振り返り、
「ンン、にゃ~」
と鳴いた。その黒豹に俺たちが追いつくと、黒豹はまた振り返ってカザネたちを追うように長い尾を立たせながら先を進む。
スマートな黒豹が両前足を前後させて長細い両後脚が地面を蹴って駆ける。
時折、四肢から橙色の炎が噴出しては、黒い毛の至る所から燕の形をした魔力が数十と飛び立っていく。躍動する姿は格好いい。
だが、時折、桃色の菊門を覗かせてくるのがキュートだった。
ルマルディが、アシュラー教団の兵士の一人が大剣を召喚し、独鈷を数個取り出して<導魔術>で操作するのを見て、
「アシュラー教団も結構戦いが得意そうな兵士がいるんですね」
と聞いてきた。
「あぁ、<導魔術>の独鈷使いとか、キーラ対策かもだな」
「はい、その【御九星集団】のキーラも会合に……」
「そうだな」
「……はい」
とルマルディと会話しながら手を握って、少しいちゃついたが、<ヘグポリネの紫電幕>を出したヴィーネにいちゃつきは止められた。
神輿とアシュラー教団の兵士たちの一部が放っている<魔闘術>系統も他と違う。
狐の幻影を纏っている禿げな方は中々強そう。
ミライよりも強い、アシュラー教団の狐を被っている部隊の中でも何番隊とかあるっぽい。
身に付けている仮面には数字が彫られている方もいた。
魔族殲滅機関的に、一桁がエリートだったりするんだろうか。
そんなことを考えつつ駆けた。
皆は、クナとクレインとエヴァとレベッカとミスティとラムーとエトアは、狐の幻影と腰に注連縄を巻く子精霊を楽しそうに追う。
今年の会合場所も前回の貴族街の会合場所と同じか? 近所かな。
すると前方のミライが速度を落として、
「――シュウヤ様、先ほどのお話の続きですが、五百九十一年度の地下オークションは八頭輝が一カ所に泊まる宿は用意致しません。各自の闇ギルドにお任せとなります」
「勢力図が変化する天凜堂ブリアントの戦いは望まずか」
ミライは少し頷いてから、
「争いは勝手で結果も受け入れていますが、大きい組織が立て続けに消えると仕事量が増える。同時に八頭輝の名目が余計に意味がなくなる。地下オークションの運営を円滑にこなす側が【アシュラー教団】ですから」
「了解した」
昨年の天凜堂の戦いで【影翼旅団】が潰れた。
その後も【ノクターの誓い】が潰れたからな。
前方を行く神輿のカザネたちは商店街の左の路地を曲がった。
路地の先には幅広い石の階段があり、その階段を上がっていくカザネを乗せた神輿とミライとアシュラー教団の兵士たちも階段を上る。
「シュウヤ」
「ん」
「あ、右と左ね」
「少し剣呑な空気感と見知った魔素を感じたが、なるほど」
「はい」
クレインとキサラと皆の言葉と態度に頷いた。
階段の左右の対称の魔塔の建物に【白鯨の血長耳】のエルフの兵士たちが数人見えた。
魔弓ソリアードもいる、皆、耳元に手を当てて誰かに連絡している。
なるほど、もう会合場所は近いということだ。
「ンン、にゃ~」
踊り場を越えた広場の奥に大門のような石材と木材を活かした建物の間を潜り先を進む。
と、今度は地下に向かう坂道が続く。
坂道の左右には魔法の角灯が浮いていた。
子精霊と幻影の狐もは、魔法の角灯の魔力の影響か消える。
坂道を下った先は大きい庭があった。右に馬車が数台置いてある。
左側に塔と歩廊と兵舎がある。
そこにはアシュラー教団の兵士たちが数百名はいた。
と、中央が大きい屋敷と右端に煙突がある。
神輿から降りたカザネが、
「シュウヤ様と皆様、こちらです」
「了解」
「「「はい」」」
「ンン」
相棒は黒猫に戻ると、肩に乗ってきた。カザネとミライの背後から付いていく。
屋敷の石畳の玄関口を通り、横に開いたままの玄関を潜って中に入った。
靴を脱ぐ場所があるのは日本の邸宅の玄関を連想させるが、カザネは足袋を脱いでいない。ミライもそのまま上がった。
カザネは、
「ふふ、シュウヤさんは日本の心をお持ちのご様子。靴を脱ぎたくなる気持ちは分かりますが、ここは普通に上がってもらって構いません、土俵の場に靴を履いてあがる無礼な阿呆。とは言いませんから大丈夫です。上がってくださいな」
「了解」
カザネの婆とミライは会釈して振り向いて廊下の先を歩く。
廊下は板の間で、幅がかなり広い。
一応はアーゼンのブーツのまま上がったが、なんとなく地肌、アーシングは大事だ。と板の間だが、惑星セラの大地を実際の足で歩くように、アーゼンのブーツを消す。
素足のまま板の間を歩いた。
黒猫は板の間の匂いを嗅ぎつつ後退し、ついでに俺の足の指に鼻を付けて爪などの匂いをふがふがと嗅ぐ。
見上げてきた。
「なんだ相棒、くちゃ~な顔をするなよ?」
「にゃ」
と前足を上げて肉球挨拶を俺にする黒猫さんが面白い。
「「「ふふ」」」
「ん、ロロちゃん、わたしたちにも肉球の挨拶をして!」
「ふふ、なにしてんだが、行くわよ~」
レベッカが先に行く。
「おう」
「にゃ~」
元々が貴族の屋敷だったかな。
と、左の奥に複数の魔素を察知。
魔素は、これはレザライサたちだ、一発で分かる。
肩にいる黒猫も、「ンン、にゃ」と鳴いた。
『これは、れざのまりょくにゃお~、どうちてるかにゃ~』
と考えているに違いない。可愛すぎる。
他の魔素にも覚えがある。
【海王ホーネット】の盟主、ブルー・ブレイブ。
【星の集い】の盟主、アドリアンヌ・リーカンソー。
【ベイカラの手】の盟主、ガロン・アコニット。
だろうな。
殺気のような感覚もあるから皆……一気に緊張感を得たような顔付きとなった。
これが闇ギルドだよな。
廊下の板の間から冷たさを感じた。
カザネたちの背を見ながら皆と廊下を進む。
神鬼・霊風を片手に持ち警戒を怠らないユイが、
「――シュウヤ、前の時は突然、新しい部屋が現れたけど、今回は違うようね」
「あぁ」
と先を行くミライが、
「はい、オードバリー家に所属する職人たちも高いですからね」
「なるほど」
そのまま廊下を進んで角を曲がると広間に出た。
中央に円卓があり、その円卓の周りには背凭れ付きの椅子に座っている闇ギルドの面々がいた。
円卓の左奥の席に、
「やっときたか、槍使い。それより、お前に渡した魔通貝は、どうした?」
「あ、シュウヤさんたち、【天凛の月】の最高幹部たちもお揃いで!」
「「シュウヤ様」」
「「――シュウヤ様」」
レザライサとクリドススとメリチェグの軍曹にファスにレドンドとキューレルも一緒だ。
「レザライサとクリドススに軍曹たち、すまんが、肩の竜頭装甲で衣装替えしてから忘れてた、ポケットに入ってるはずだ――」
と胸元のポケットに指を入れると魔通貝が出てくる。それを嵌めながら円卓の机に近付いた。
「ゴホンッ、シュウヤ様? 同盟相手がこの場いることをお忘れなきよう……」
と星の集いのアドリアンヌの声だ。
レザライサたちの近くに座っている。
アドリアンヌの背中に雲のような魔力が発生して、その雲のような魔力が<火焔光背>の効果でもあるように周囲の空気を吸い込んでいる。やはり、異質だ。
お、片目を瞑った弓使いホワインもいた。
「よう、アドリアンヌにホワインも」
続きは明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




