千四百八十八話 塔烈中立都市セナアプアに帰還
穿ち割れた二つの岩の上部と地下水が衝突し、大量の水飛沫が俺たちに降り注いでいた。
シャワーのような水飛沫は体を冷やしてくれて気持ちがいいが、<魔闘術>系統の<メファーラの武闘血>などの影響もあり、体から水蒸気のような魔力が体から噴出している。そのせいで少し視界が悪い。
その体から発生していた水蒸気などの魔力を<無方南華>と<火焔光背>を意識し発動させて体内に吸収し<闘気玄装>に<魔仙神功>と<滔天仙正理大綱>などの<魔闘術>系統のすべてを消した。
「おぉ、陛下が<武槍技>を……」
「にゃおお~」
「シュウヤ様の武芸者魂が炸裂!」
「地面は大丈夫なの~?」
相棒とデルハウトの厳つい声とルシェルとサラたちの声が背後から谺する。頷いて、
「陥没しているが、大丈夫だ」
と発言。
大きな桃を割って桃太郎ではないが……岩を割って<戦神流・厳穿>の獲得だ。
魔槍杖バルドークを持ちながら振り返り、皆に、
「岩を割る前だが、半透明な槍の幻影の他に戦神ツユキラ様の幻影らしき幻影が現れて、槍を突き出す仕種を繰り返していた。その動きを修験者の面持ちで真似をするように<魔雷ノ風穿>を下段突きに変化させて大きい岩を穿ったら、割れたところから光を帯びた槍の幻影が現れて飛来し、それを吸収すると<戦神流・厳穿>という名の下段突きスキルを得た。他の流派の連続技にも組み込める。単体で力を溜めて強力な下段突きを繰り出せる。<勁力槍>の恒久スキルと合うだろう。少し離れたところから相手の下段に飛び込む形で槍を打ち込めるし、キャンセルも可能。刺し貫いた槍を蹴りを放ち抜く動作もあると分かる。この<戦神流・厳穿>から発展したスキルもありそうだ。<刺突>の上段系統との揺さぶりなど、結構重要か」
「「おぉ」」
「やはり、戦神ツユキラ様の恩寵もあったか」
「ふふ、自由度が優れた戦神流の下段突きか」
「岩盤が陥没してますし、優れた突きスキルと分かります」
闇雷精霊グィヴァの言葉に頷いた。
「ん、色々と学んでいるシュウヤにはぴったりのスキル!」
「はは、天の美禄が利いたんだねぇ!」
「神界ヴァイスの戦楽譜と大仙楽譜だけでもありがたいのに、戦神の粋な計らいね」
「うん、戦神ツユキラ様も魔酒と神酒を飲んで嬉しくなったんでしょう」
「はい、ご主人様の水は水神アクレシス様を奉る大豊御酒を内包してますからね」
「うむ」
「神に供える酒といい、主の心意気が荘厳な儀式となったか」
「主と魔槍杖バルドークの構えも渋かった」
「はい、間合いを見るような、それでいていつでも突き出せるような間がありました」
「あぁ、槍技の妙技、ここにありって感じだったぜ」
「魔槍杖バルドークが前方斜め下に打ち出される瞬間、主と主の動きを追う分身のようなものが見えていた」
「ご主人様が<戦神流・厳穿>を放つ時、相手を翻弄できそうです」
皆の言葉に頷いた。
力を溜める動きの間も色々と工夫ができそうだ。
「足下への攻撃を連続技に組み込めるのもいいですね」
「シュウヤ様と模擬戦を行えば、より分かると思いますが<牙衝>を時折使うシュウヤ様は上半身への<刺突>や<豪閃>への切り替えをよく使用し、相手の防御を錯乱させてきますからね」
「<戦神流・厳穿>は上下の揺さぶりと力技にも使えるのは、奥義に近い」
シュレゴス・ロードの言葉にアドゥムブラリが、
「主と槍勝負ができる存在には<戦神流・厳穿>は厄介だな」
と発言。エヴァが、
「ん、<戦神流・厳穿>は<牙衝>と似ている?」
「半透明の槍を繰り出せるとかは、ないのか」
「半透明の槍は繰り出せない。下段の<牙衝>と似ているな」
「なるほど」
腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が揺れると、
『ふむ、<戦神流・厳穿>か、妾たちも覚えたい』
『雷炎槍流に合いそう』
『獄魔槍流だろう、獄魔を使った突き技の<獄魔幻穿>のフェイクと<戦神流・厳穿>を流用できれば、相対相手は面食らうぜ? 魔人武王ガンジスに、弟子だろうと致命的な一撃をくらうはず』
『あぁ、俺の妙神槍にもある。常に<魔軍夜行ノ憑依>で一体化しとけば覚えれるか?』
『己の魂を活かす塔魂魔槍の<幻塔>があるから<戦神流・厳穿>が活きる……』
『俺も覚えたいが、お前ら、弟子に自分の槍武術を伝えるための俺たちだと忘れるなよ?』
『カカカッ』
八人の師匠たちの機嫌が良い会話が響く。
魔槍杖バルドークを仕舞った。
「この【頭蓋の池】の地下遺跡には厳かな雰囲気もあるし、身が引き締まるわねって、魔素が右上から感じた」
レベッカの言葉に頷く。
「はい、〝樹海道〟も色々です、この魔素は旧神ゴ・ラードの蜻蛉の軍勢でしょう、古代狼族の狼将たちも顕れるかも知れません」
<導想魔手>が持っていた正義のリュートを掴んで、
「モンスターが此方に来たら、対処しよう。そして、上に戻る前に<魔音響楽・半霊>を試す、蜻蛉の軍勢が下りてきた」
「「「お任せを」」」
「旧神シュバス=バッカスや旧神エフナドたちの黒寿草とは、異なる!」
「「「あぁ」」」
「旧神ゴ・ラードの蜻蛉は単純だから結構らくさね、セナアプアの下界の連中のほうが、色々とあくどい――」
「ん――」
「はい――」
クエマ、ソロボ、キッカ、ブッチが一足先に飛んで、蜻蛉のモンスターを倒している。
アドゥムブラリとクレインとエヴァも参加すると、蜻蛉の軍勢は上昇するように逃げていく。
そこに古代狼族の兵士たちが左から、蜻蛉の軍勢を追い掛けていくのが見えた。
「おい、光魔ルシヴァルたちだ」
「あ、サイデイルの皆さん、失礼します――」
「こんにちは、旧神ゴ・ラードのモンスターはわたしたちが追いますので」
「なにぃ?」
「おぉ、マジだ!」
「え、水の女神に、黒髪の女神! 紫の魔術師!」
「銀髪の別嬪ダークエルフに、白銀のダモアヌンの魔槍持ち!」
「金髪の蒼炎もいる!」
「おぉ、剣帝、女王もいる、薄い緑色の髪が綺麗なキッシュ様だ!」
「あ! あの黒い髪の御方は!」
「「「「おぉぉぉ」」」」
「「魔英雄様じゃねぇか!」」
「「シュウヤ・カガリ様だ!」」
「「「「シュウヤ様ァ」」」」
俺を見た古代狼族の指揮系統が崩れてしまった。
少し浮遊しつつ、
「――すいません、俺たちに構わず、旧神ゴ・ラードの連中を頼みます」
「「はい!」」
「皆の者、魔英雄様のお言葉を聞いたな!」
「「「はい!」」」
「では、旧神ゴ・ラードのモンスター討伐を再開します、シュウヤ様とサイデイルの皆様、失礼致します――」
「「「「失礼致します」」」」
「ん」
「にゃ~」
「はい」
古代狼族たちの狼将の名は分からないが、古代狼族の部隊たちは、蜻蛉の軍勢が逃げた方角に向かう。
その様子を少し見てから正義のリュートを弾いた。
クラシック音楽から<魔音響楽・半霊>スキルを実行。
音楽を奏でている正義のリュートから音符が放出される。
辺りに上下に振動している音符が次々と出現し、水飛沫に合わせて音符の形が変化していた。前と違う。子精霊の形もある?
「ここにも半霊が!」
「ラッキーだ、頂こう」
「子精霊系なら自然が豊かな場所には多いのかも知れませんよ」
「はい、でも、不思議ですね、半霊が音符として顕れるなんて」
「うん、正義のリュートから、コインの形状で取り出せるのも不思議だった」
「はい、神格の時馬車がどのように作用するのかも楽しみです」
ヘルメの言葉に頷いた。
音符に近付くと、音符は清々しい音と水氣を寄越してくれた。
またまた不思議な音楽が鳴り響くと正義のリュートも半霊の音符を吸収し、楽器の表面に円状の印が追加されていく。
半霊のコインの意味か。
これで魔界セブドラの〝神格の時旅馬車〟の使用が可能。
――音符の半霊は質量も魔力もあまり感じない。
振動と音ぐらいか、前と同じく音符が体に触れると音符が振動し僅かな魔力を齎す。
音符と音符の振動が連動し、音程が噛み合うと音符が一際大きくなるのは地上と同じだ。
魔力を得るごとに清々しい風も得られていく。
音楽も奏でられてテンションが高まった。
アクセルマギナも気を利かせて、右腕の未来のガジェット風の戦闘型デバイスから似たような効果音を響かせてくる。
浮遊して天井近くの音符を吸収して、地下遺跡の半霊の蒐集を終えた。
正義のリュートの新しい印を確認しつつ急降下し、精霊樹の道にいる皆に、
「半霊も結構貯まったと思う。戻ろうか」
「はい!」
「ん」
「戻りましょう♪」
「使者様たちとの樹海の冒険は、凄く面白かった~」
「ふふ、はい」
「あぁ、昔を思い出したぜ」
「「はい!」」
「あぁ!」
「うん」
皆で精霊樹が造り上げていた通り道を通って【頭蓋の池】から離脱し無事にサイデイルに帰還。
「皆、ペルネーテに行くなら先に転移陣の前に、俺はサイファを回収してくる」
「「はい」」
「あ、シュウヤ様、一緒に魔界に戻っても良いでしょうか」
「おう」
「ん、転移陣のところに行ってる、エトアも転移陣までは一緒」
「はい」
「では、皆の報告もあるから屋敷に戻っていよう」
「ヘルメとグィヴァは目に、では、皆は後で――」
「「「はい!」」」
「「ふふ――」」
「「「「はい」」」」
ヘルメとグィヴァが両目に突入する時は少し怖いが、両目に仕舞った。
そのままキッシュたちとハイタッチしてから、<武行氣>で飛翔――。
サイデイルのルシヴァルの紋章樹を見ながら小山へと移動し、ログキャビンの自宅と訓練場を見やる。
訓練場ではルッシーの小人たちとサイファがいた。
「オゥゥン、オゥウゥンン」
と鳴いているサイファ、その幻甲犀魔獣のサイファに近付いた。
薄いエメラルドグリーンの瞳は美しい。
「サイファ、魔杖槍犀花に戻らず、ここで皆と楽しく暮らすのもいいかも知れないが、どうする?」
「オゥン」
と俺に頭部を寄せてくる。
喉元に手を当てて、撫でてあげた。褐色と紫色の毛並みが柔らかい。
「にゃ、にゃお~」
肩にいた相棒もサイファに挨拶。
サイファは魔杖槍犀花に頭部をぶつけていく。
魔杖槍犀花の花模様が少し輝く。
「そうだよな、魔犀花流、魔杖槍犀花の中がいいんだな、俺たち一緒に行くか」
「オゥゥン!」
と少し強めに鳴いた。
「良し! それじゃ魔杖槍犀花に戻れ」
「オゥン」
と、幻甲犀魔獣のサイファは、魔杖槍犀花の中に吸い込まれるように消えた。
小山から離れて階段の上を<武行氣>で飛翔しながらキッシュの屋敷に向かう。
キッシュの部屋に入り、地下にある転移陣が敷かれている地下室に移動した。
「よ、ただいま、アジュールたちも元気かな」
「もちろん」
エトアが寄ってくる。
「アメリさんに絡んでいる聖鎖騎士団と教皇庁八課の魔族殲滅機関のメンバーが気になりますね」
「前にイシュラの魔眼を使って追い払ったけど」
「ビュシエ、ご主人様は、無理な争いは好みません」
「分かっていますが……」
ビュシエは血塗れのメイスを両手に出している。
「シュウヤなら、宗教国家ヘスリファートへと誘う連中なんて、堕天の十字架を出しつつ胸の<光の授印>を出せば、一発KOよ、ね?」
「レベッカ、冗談だと分かりますが……」
「え? う、うん」
「【天凛の月】の当面の仕事は、レルサン王太子派とファルス第二王子派の争いを止めつつ武の公爵アロサンジュのバックアップと、ラドフォード帝国の反撃を押さえつつの戦争を止めることですからね」
「ゼントラーディの伯爵が生きているなら我を送れば暗殺してくるぞ、ラドフォード帝国との戦争ならば、我が特攻し、その前線の大将首を取れば、早々に終わるだろう」
皆で、色々と会話している。
血潮が滾るキスマリといい、ペルネーテ組は多い。サラとベリーズとルシェルも一緒だ。
ビアを抜かしたママニたちもペルネーテ入り。
ここの守りは薄くなるが、デルハウトとシュヘリアに頑張ってもらおうか。
地下オークションの幹部の出席には限りがあるが、コネを使えば大量に出席可能かな。
無理でも、いっか。
「では、魔塔ゲルハットに集まってくる皆に〝知記憶の王樹の器〟を飲んでもらってから、ナロミヴァスを連れてくる。エトア行こうか」
「うん、了解」
「はい!」
「「「了解~」」」
「我もペルネーテ!」
「わたしたちは先にペルネーテ入りしとく」
「分かりました」
「おう、ヴェロニカとベネットによろしく」
「はい」
「ンン、にゃお~」
黒猫は肩に乗って、皆に首から出した触手の裏側を見せながら、その触手を振っていた。
「ふふ、またねロロちゃん~」
「アメロロの猫魔服が可愛すぎる!」
「ロロ様、また後で~」
エトアと共に、サイデイルの転移陣からセナアプアの魔塔ゲルハットの転移陣に瞬間移動した。
耳が少し詰まった感覚がある。
目の前にルマルディたちがだ。
「「――シュウヤさん!」」
「お、主に神獣!」
「お帰りなさいませ、選ばれし銀河騎士マスター!」
ビーサの後頭部の三つの器官の先端から桃色の粒子が迸っている。
宇宙の戦士は変わらずだ。
「ワンッ!」
「グモウ!」
「「シュウヤ様」」
「そして、彼女がエトアさん!」
「お兄様、お帰りなさいませ!」
「「「「「「――盟主」」」」」」
「ボクの盟主様♪」
カリィにハンカイも健在だ。
「よう、シュウヤ!」
「にゃォ」
「にゃァ」
<筆頭従者長>のルマルディは元気だ金髪も変わらない。
アルルカンの把神書も左にいる。
正面にビーサと、ペレランドラとドロシーとディアもいる。
カットマギーにレンショウとミナルザンにリツとナミもだ。
ザフバン、フクラン、ラピス、クトアン、ラタ・ナリ、ペグワースとシウにビロユアン、ヒムタア、パムカレ、アジン、ジョー、ウビナンもいる。黄黒虎と白黒虎もトコトコと歩みよってきた。
皆、エトアと挨拶しては魔界のことを告げていく。
トロコンたちは現場か、ゲンガサの元【夢取りタンモール】は地下かな。
ヒューイは外かペントハウス内には見当たらない。
「皆、ただいま、早速だが、これが〝知記憶の王樹の器〟だ。<血魔力>を込める」
〝知記憶の王樹の器〟を出して、指を入れて液体の記憶を操作。
今までのことは勿論、俺の最初のほうと、プライバシーに配慮して――。
「それが〝知記憶の王樹の器〟!!」
「おう、ではルマルディから、アルルカンの把神書も飲めるなら飲んでくれ」
「はい!」
「え、俺か、よぉし!」
「にゃおお~」
続きは明日。
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