千四百七十二話 キッシュにユイたちと記憶の共有
「にゃ~」
「ロロ、わたしも会いたかった!」
キッシュは肩に飛び乗った黒猫に頭部を寄せてから、その黒豹の首根っこを優しく支えるように抱きしめていた。
黒猫のお腹を吸うようにキスしまくるキッシュ。
その行動に、皆が笑顔となった。
黒猫は両前足でキッシュの冠の位置をずらすように押し当ててから、自らの頭部を冠に当てていく。
キッシュの髪を両前足で揉むように、その前足の指と指を拡げて閉じて、爪を出し入れさせて、甘えていた。
キッシュは、
「ふふ、あ、頭皮に……痛いが、ふふ、まぁいい、ロロ――あ、蜂式光魔ノ具冠を甘噛みしているのか?」
「にゃぁ~」
と黒猫はキッシュの髪を噛み始めてしまう。
髪も爪に引っ掛かり、「あぁ、ロロ、爪は仕舞ってくれ」と言うが、「ンン」と黒猫は甘えたりないと言うように、両前足をモミモミと動かす、パン職人のようなことを続けているから、キッシュの髪はめちゃくちゃになって冠も斜めに外れていた。
キッシュは頭部を振るいながら両手と腕で支えていた黒猫を降ろそうとしたが、黒猫は「にゃ~」と鳴いて前髪が垂れているキッシュを見やる。
まだ黒猫の前足にはキッシュの長い髪の毛が数本引っ掛かっていた。
キッシュは、その黒猫を見て、微笑むと、「もう、ロロ!」とロロの頬にキスを行う。
黒猫はゴロゴロと喉音を鳴らし続けていく。
暫しサイデイルの女王と黒猫のイチャイチャを眺めるだけとなった。
「「はは」」
「「「ふふ」」」
相棒にとっては、あの冠は邪魔か、面白い。
と、収まったと思いきや、キッシュの頬に頭部に耳を何回もぶつけて甘えていく。
キッシュの頬と首筋をぺろぺろと舐めていた。
キッシュも優しく黒猫の背中と撫でて、長い尻尾を引っ張るように伸ばしていく。
黒猫は尻尾を引っ張られると、少し動きを止めていたが、なすがままになっていた。
キッシュは俺をチラッと見て、
「はは、昔を思い出した……」
と黒猫を抱きしめてから、「ロロ、下に降ろすからな」と黒猫を降ろしていた。
「にゃ~」
黒猫はキッシュの足に甘えていく。
キッシュは、少し歩いて、俺が開けていたアイテムボックスを凝視しアイテムボックスから〝二刻爆薬ポーション〟を一つ取ってから、頷いた。
そのキッシュに、
「〝二刻爆薬ポーション〟での、サイデイルの防衛と、樹海の開拓にも役に立つかと思ってな」
「たしかに使える。ありがとう、樹海には鋼のような根は無数にあるから街道造りに大いに役に立つ、樹怪王と旧神にオーク帝国との戦いとオセべリア王国の一部の貴族相手にも使えるだろう」
「おう」
「分解もできますし、錬金の素材など様々に流用も可能かと」
クナの言葉に頷いた。
そのキッシュたちに、
「これらの品は【レン・サキナガの峰閣砦】への悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの破壊工作を防いでいる時に入手したんだ。そして、その時に<罠鍵解除・極>を使い罠解除に協力してくれたのは、エトア――」
半身のままヴィーネとキサラとアドゥムブラリに隠れるように立っていた小柄なエトアを見て、そのエトアに腕を向けた。
「まぁ!! ぐふふふ」
「え、罠解除の……」
「すごい……」
「「「「「……おぉ」」」」」
「わっ、罠解除の最高峰?」
「はい、凄いですね、有名所の冒険者クラン、国家から、超がつくほどの報酬が約束される存在で、お偉い様になれる……」
「わたしはネームス!」
「<罠鍵解除・極>だと……」
「ひさしぶりに見るぜ、地下にもそれらしいスキル持ちは何人かいたが……」
「てやんでぇ、最強クラスの罠解除のエキスパートか!」
「闇夜の盗賊神ノクターの化身か!?」
クナが驚いて、怪しい笑い声を発した。
ルシェルも驚く、ユイ、サラ、ミスティ、ママニ、フー、サザー、ビア、ネームス、モガ、サルジンたちがざわついた。
冒険者として活躍していた中では、<罠鍵解除・極>の名はそれなりに有名かな。
ヴィーネとキサラが横に退く、皆が、そのエトアを注視。
エトアは口を両手で隠しながら恥ずかしがる。
アドゥムブラリがエトアの背を押すとエトアは『ええ?』といった動揺した表情を浮かべてアドゥムブラリたちを見やる。アドゥムブラリたちは笑ってから顎先をクイッと皆に向けて挨拶を促していた。
エトアは、頷いてから、少しおどおどしつつも此方を見て、
「あ、みなしゃま、ぼ、ボクはエトアといいましゅ! よろしくお願いし、しましゅ!」
と皆に挨拶していた。
アイテムボックスに〝二刻爆薬ポーション〟を戻したキッシュは直ぐに、
「エトアかシュウヤたち協力してくれたのだな、わたしからも正式に礼を言おう、ありがとう、〝二刻爆薬ポーション〟はサイデイルの発展のために使わせてもらう」
「はいでしゅ!」
エトアは敬礼していた。
皆に
「極大魔石のほうは、【ケーゼンベルスの魔樹海】から永続的に採取できるのは、もう知っていると思うから、このアイテムボックスに入っている極大魔石は、キッシュたちの生活に使う魔道具のエネルギー源に活かすか、サイデイルの軍資金に転用か、ペレランドラの活動資金、【天凛の月】の運用資金に活かすか皆が決めてくれ。だが市場に流し大白金貨などに変化させるなら極大魔石の価値が極端に南マハハイム地方で下がらない程度に頼む」
「「はい」」
「ふふ、はい」
「了解した」
皆を見ながら、
「オセべリア王国とレフテン王国とサーマリア王国に各大商会と、惑星セラの他の大陸にも通じている【聖魔中央銀行】と揉めるような展開は、いまところは避けようか」
「「「はい!」」」
「そして、〝知記憶の王樹の器〟を使う前に、バーソロンの情報の基にした評議員たちと、その配下の粛清と〝死蝕天壌の浮遊岩〟の件だが、どうなっている?」
キッシュはユイとレベッカとクレインとメルとミスティとクナを見やる。
クレインとメルが前に出た、メルが、
「一時の平和と思いますが、総長が大きい建物ごとケアンモンスターをあっさり消し飛ばしたことが噂になりました。多少は闇社会を利用する勢力に効いていると思います。敵の【五重塔ヴォルチノネガ】、【ラゼルフェン革命派】、【錬金王ライバダ】、【血印の使徒】、【セブドラ信仰】、【闇の教団ハデス】、【十二大海賊団】、【ミリオン会】、【不滅タークマリア】の子飼い、【狂言教】もやや大人しい印象となりました」
大人しいか。では、毎回の如く争いがあるか。
「そうさね、シュウヤが冒険者Sランクに昇進し、〝天を衝き、地を衝く槍の王、すべての悪を一手に引き受けて、その悪を滅する〟といった言葉も有名になったさ」
皆が頷いた。
魔槍杖バルドークの<空穿・螺旋壊槍>で、螺旋壊槍グラドパルスが下界の大地ごとケアンモンスターを消し飛ばしたからな。魔槍杖バルドークと螺旋壊槍グラドパルスがケアンモンスターの塊ごとセナアプアの下界の一部を喰らったような跡地になったからな……。
クレインは、
「肝心のバーソロンの情報を基とした、クソな評議員の大半は仕留めたさ」
「それを先に聞こう」
クレインはレベッカとユイと目を合わせてから、俺たちを見て、
「……前にも言ったが、正義の評議宿の権利を拡げようと張り切っている【義遊暗行師会】の連中や同盟相手の【白鯨の血長耳】のレザライサよりも成果をあげたさ、セナアプアの評議員とハイゼンベルク商会の魔調合師ともつるんで悪いことを、さも良いことといいふらし、『おもいやり』と宣伝しては、人殺しに加担していた、そんな行政府の腐った役人たちも仕留めて、子供たちの人身売買を行った罪深い奴は捕らえてから、その罪を書いた紙を体にはり付けて、さらし首にしたさ……だが、そうしたことも一過性に過ぎないようだねぇ……メルが大人しい印象と語ったが、〝死蝕天壌の浮遊岩〟と関係があるかは不明だが、下界の【天凛の月】と【白鯨の血長耳】の縄張りにちょっかいを出す連中は増え続けているさね……」
「利害関係上仕方ない面もあるか」
「そうさねぇ……【五重塔ヴォルチノネガ】、【ラゼルフェン革命派】、【錬金王ライバダ】、【血印の使徒】、【セブドラ信仰】、【闇の教団ハデス】、【十二大海賊団】、【ミリオン会】、【不滅タークマリア】、【狂言教】などの敵は多いさね……が、それはそれ、バーソロンの情報を基にした関連とルマルディの仇の組織はちゃんと仕留めたさ」
頷いた、人口が多い都市で様々な種族が暮らしている大都市だからな。
柵も多く敵も多くなる中、やることをやっているクレインたちはさすがだ。
クナたちも頷いている。
ユイも、
「うん、バーソロンの情報網を利用した【テーバロンテの償い】の残党潰し&魔薬に絡んだ上院評議員バルブ・ドハガルと【統場派・精狂街】潰しは【白鯨の血長耳】が既に完了している。それと、レベッカたちもがんばって、ルマルディの仇、上院評議員テクル・ホーキスルの戦力の主力の空魔法士隊【空龍】と雇いの闇ギルドたちと空戦魔導師ベナトリクを倒して、【運び屋・イチバル】の内、【運び屋・イチバル】の戦力と事務所も潰した。その後始末と余波でルマルディとアルルカンの把神書とハンカイは上界と下界に行ったり来たりと忙しい……あと、レベッカは上院評議員テクル・ホーキスルの傭兵と闇ギルドたちが襲撃をかけてきた時に、【天凛の月】のメンバーたちのことを体を張って守りながら、敵を倒してくれたの。〝【天凛の月】の蒼炎〟の名はそれでまた知名度を増したわ」
とユイがレベッカを褒める。
レベッカは胸を張って、
「ふふ、活躍したユイに言われると照れるけど、うん! リツとビロユアンにラタ・ナリたちに、わたしたちも協力したから」
そのレベッカに向け拍手をした。皆も続いた。
「ん、レベッカ凄い!」
「――当然! ってエヴァ娘! さっさとこっちにきなさい! まったく」
「ん! ふふ!」
「ふふ――」
見知ったエヴァとレベッカが抱き合う。何回も何十回も見ているが、いいもんだ。
……昔、武術街を一緒に歩いていた頃を思い出して胸の奥が温かくなった。
俺たちが魔界セブドラで色々とやっている間に皆、サイデイル、ペルネーテ、ヘカトレイル、サイデイルでがんばってくれていた。ルマルディの敵討ちには俺も協力したかったが、これも一つの道か。
クレインは抱き合うエヴァとレベッカを見て優しげな表情を浮かべては、数回頷いていた。
師匠というより、母親のような表情に見えた。
そのクレインに、
「他の下界の話が聞きたい、死蝕天壌の浮遊岩のその後などを、教えてくれ」
「盟主のシュウヤのことが有名になっても、〝死蝕天壌の浮遊岩〟に直に乗り込む連中も多いのさ。盟主がいないことを知っているような感じにね……」
ほぉ……。
「〝死蝕のベギアル〟は恐怖の対象だと思うが、利益のほうが、逆に死蝕天壌の浮遊岩が有名になってしまったかな」
「それは、あるさね……〝死蝕のベギアル〟によるリスクが少なくリターンが大きいような印象操作された情報がわざとセナアプアの下界に流されたフシがある……」
偽旗作戦といい二重、三重と罠を張るか。
根拠のない扇動的な宣伝は国のプロパガンダも含む、自分たちの保身のためなら人が死んでも構わないような連中もいるからな……そのような流言飛語も含めて……。
俺が死蝕天壌の浮遊岩の乱を派手に鎮めること予め想定した後に備えた作戦でもあったかな。
ならば、利益が多かろうと、死蝕天壌の浮遊岩自体を潰す方向で検討しておくかな。
が、今は皆のお陰で対処はできている。そのことで、
「死蝕天壌の浮遊岩に乗り込んだとしても、〝死蝕のベギアル〟のモンスターに変化してしまう毒が怖い印象だ。そして、また毒がゾンビのようなものが下界に広まるのは困る」
とキッカとクレインを見ながら語った。
キッカは、
「はい、ギルドの皆にもそのことで会っておきたい」
クレインは頷いた。
「それは大丈夫さ、ドミタスとエミアの裏仕事人に【血月布武】の仲間が片付ける前に、他の組織に片付けられることも多い。そんな警備を掻い潜り、乗り込んで成果を上げられるような存在も<従者長>カットマギーとカリィとレンショウの暗殺者組と元【髪結い床・幽銀門】のパムカレたちにゼッファとキトラも協力して、人知れず片付けている。だから今のところは、死蝕天壌の浮遊岩で大きな問題になることはないよ、特に、<従者長>カリィとレンショウは激強い」
クレインの言葉に嘘はない。レンショウはともかくカリィは元々変態的な強さだったからな。
<血魔力>を手にして不死系となった今、ヤヴァいぐらいに戦闘力が進化しているはずだろう。
「了解です、皆はやはり頼りになります」
「あぁ」
一緒に魔界入りしたキッカも安心したような表情を浮かべていた。
冒険者ギルドマスターとしての責任は感じていると分かる。
アドゥムブラリとヴィーネとキサラとエヴァは神妙な顔つきとなって聞いていた。
キッシュは<光魔王樹界ノ衛士>ルヴァロスとアドゥムブラリをチラチラと見ている。
やはり気になるよな。が、先に、
「狂言教の連中は?」
「フッ、それこそ心配は入らないさ、城郭都市レフハーゲンの豪商五指の【ミリオン会】と【不滅タークマリア】に狂言教の連中は、カットマギーを狙うように現れているが、カリィとレンショウが逆にそれを利用して、狂言教の来襲を楽しみにしているように、そのすべてを撃退している……あの二人は躊躇しないから怖いさね。カリィは海賊連中からの襲撃が減って〝ボク的には最高の環境さ、今もビンビン〟とか、きしょいことを言ってた、陽狂の一環と分かるが、二人だけの環境でやられるとちょいと怖い」
クレインの真顔の言葉に皆が、『あのカリィらしい』といった表情を浮かべている。
が、味方のカリィは頼もしい、さすがのカリィとレンショウだ。
「他の下界はどうだろう」
「港に歓楽街に武術街と宗教街もあるからありきたりさ、それも聞く?」
「あぁ、頼む」
「……了解、【天凛の月】の最高幹部のユイとハンカイとルマルディとアルルカンの把神書は言わずもがな、ドミタスたち裏仕事人に元【髪結い床・幽銀門】のパムカレの仲間たちに、【剣団ガルオム】のルシエンヌたちと【魔塔アッセルバインド】のリズに、【ペニースールの従者】に【白鯨の血長耳】のレザライサたちがいるというに……金に釣られた阿呆連中は多いからねぇ……三カ国が囲う、セナアプアの深い毒沼掃除の仕事は、困らないほどの戦いは起きているさ、カリィという毒沼好きのクロコダイルがいるから楽だけどね、ふふ」
頷きつつ、クレインの冗談に笑顔となる。
「そっか……戦いの他には?」
「サーマリア王国側と前から通じていた上院下員の評議員に賄賂を送る連中が増えたぐらいかねぇ、あ、レフテン王国のネレイスカリの使いとオセべリア王国のシャルドネ側の密使がペレランドラに挨拶しにきたぐらいさね」
ネレイスカリの使いか、メルも頷く。
「……ネレイスカリとシャルドネが、ペレランドラにか、上院評議員のペレランドラは優秀かな」
と発言。
クレインは、
「優秀さね、セナアプア安全委員会の理事にもなった上院評議員ペレランドラの評判も上々さ。傍にわたしとユイとカリィとレンショウとカットマギーとルマルディが付いて、メルも転移陣でセナアプアにちょくちょく来るようになったことからオセべリア王国第二王子との付き合いがペレランドラにもあるのでは? といった噂が立ったことで、三カ国以外の国々も上院評議員ペレランドラを最重要視し始めたって噂が広まった。ネドーと【テーバロンテの償い】が潰れたこともあるが、評議員たちの権益が様変わりさ!」
皆が頷いた。同時に強い安心感を得た。
ペレランドラとメルがいれば【天凛の月】は回る。
そこでヴィーネたちに視線を向けた。
「――ご主人様、〝死蝕天壌の浮遊岩〟に手を出した存在は、サーマリア王国の諜報機関が関わっているようにワザとみせた、第三勢力の偽旗作戦の可能性もあると、前に話をされていましたが……」
「あぁ、一見はそう見えるが……」
「そうさねぇ、裏がある?」
「ん」
「裏の裏とかよくあること」
ユイは冗談的に語る。懐かしい。神鬼・霊風を掲げる。
思わず笑った。
「ふふ」
可愛いユイだ。
そのユイとカルードにも〝炎幻の四腕〟についての話をしないとな。
「偽旗作戦……わたしたちがサーマリア王国を叩けば、喜ぶ勢力がいる? または、オセべリア王国とサーマリア王国の戦争が長引けば大儲けが可能な軍需産業の大商会連合が、三国の講和を拒む連中の正体でしょうか、そして、それら軍需産業の大商会たちからお金をもらっているオセべリア王国とサーマリア王国の官僚と公爵と侯爵たちが国益と称して国民をダマして戦争へと誘っている?」
ヴィーネの言葉に皆が頷いた。
「そうだ、軍産複合体の一つ一つの商会は一見表向きはまともな商売だが利益をあげるために、わざと戦争へと誘う連中が多い、またそうしないと自分たちの職が奪われるから必死だったりするからな」
皆が頷く。
「はい、自分の懐さえ暖まれば他は知らない、それが多い……そうなってしまうのも分かるのもまた少し考えさせられますが」
「あぁ、では、だいたい此方側の話は理解できた。では、俺たちの体験を皆に――」
〝知記憶の王樹の器〟を取り出した。
直ぐに<血魔力>を込めた。自然と液体が大きい皿に満ちた。
その〝知記憶の王樹の器〟の液体の中に指を入れ<血魔力>を更に注ぐ――。
液体の中に海馬体のような印が直ぐに浮かぶ、そこを思念でタッチ、すると、視界が変化。
様々な記憶が瞬時に浮かんできた。
記憶をコントロール――。
『――炯々にことたりうる、ことありもの穿ちもの、さもう゛ぇいるのことたりうるぜかいをこえし炯々ことなり――』
混乱するが慣れだな――父と母の事故の記憶など転生前は省くか。
それ以外はプライバシーに配慮して大丈夫なところは見てもらう――記憶を止めながら指を〝知記憶の王樹の器〟の液体から抜いた。
視界は元通り――。
「皆、血文字で聞いていると思うが、これが〝知記憶の王樹の器〟だ。中身の液体を飲めば、俺がここまできた記憶を体感できる。その時間は一瞬だが、結構心に来ると思う。キッシュから飲んでもらうか、皆もいいか?」
「わ、分かった」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
「「「「「承知致しました!!」」」」」
「「「……」」」
「どきどきします」
「「はい」」
キッシュに〝知記憶の王樹の器〟を渡す――。
「では……皆、先にシュウヤを知る……」
「「……はい」」
と、キッシュは〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んだ。
直ぐにキッシュは恍惚ぎみの表情を浮かべてから、俺を見る、涙が流れた。
「……シュウヤは……」
「あぁ」
俺の言葉を聞いたキッシュは両肩を震わせて、〝知記憶の王樹の器〟を落としそうになっていた。直ぐに隣にいたユイに〝知記憶の王樹の器〟を渡して机に寄りかかって「皆を救うために、これほどの……<バーヴァイの魔刃>どころではない……なんていう、聞くと体感では、まったく……」と声を震わせていた。
頷いた。
続いてユイが〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲む。
暫し、呆然。
口が開いたまま少し液体が零れている。
「大丈夫か?」
「ぁ……」
と倒れかかったからユイを支える。〝知記憶の王樹の器〟を掴んだ。
〝知記憶の王樹の器〟を隣にいたレベッカに渡す。
ユイは俺を見て「シュウヤ……皆のために昔からずっと一筋なのね……わたし……ううん、シュウヤ大好き……」と抱きしめてくる。そのユイが泣き止むまで抱きしめ続けてあげた。
〝知記憶の王樹の器〟を持つレベッカは「ユイが動揺って結構なことよね……」と発言、頷いた。
「傍にいる」
「うん」
微笑むレベッカは〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲む。
と蒼い双眸が薄らいだように、ぼうっとすると、片目からつぅと涙がこぼれ落ちる。
そのレベッカは俺を見て泣き始めた。鼻水も垂れていく。
〝知記憶の王樹の器〟を落としそうな印象だったので、直ぐに〝知記憶の王樹の器〟を掴んだ。
「しゅ、シュウヤ……ほんとうのきゅ、きゅうせいしゅ様なのね……」
とユイと同じ倒れかかった。直ぐにレベッカを抱きしめてあげた。
〝知記憶の王樹の器〟を傍に来ていたエヴァに手渡した。
「ぁ……」
途端に、レベッカは氣を失う。
レベッカの背中を撫でながら抱きしめ続けると、目覚めた。
「大丈夫か?」
「……うん、ありがと、地下の二年間のこと、あまり話さなかったけど、よくがんばって生きたと思う、ほんとうに凄い……」
「あぁ」
「……魔界セブドラのことと<バーヴァイの魔刃>のことは全部分かった、ビュシエとアドゥムブラリのことも、ふふ、エヴァとの出会いとか、わたしの出会いとか……あぁ……」
とまた涙を流すレベッカ、その背中を撫でてあげた。
エヴァは〝知記憶の王樹の器〟をミスティに手渡していた。
そうして、皆が順繰りに〝知記憶の王樹の器〟の液体を飲んでいった。
◇◇◇◇
セラで過ごした経験と魔界セブドラの事象をすべて知った皆と直ぐに抱き合うように円陣を組んでいた。
そして、サイデイルの自宅に皆で移動し拡張していた二階でハッスル大会などが起きた後――。
セナアプアに向かう前にステータス。
続きは明日。明日こそはステータス回。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




