千四百五十七話 〝闇遊ノ転移〟
〝樹海道〟は、サイデイルの樹海にもあるってことだ。
女王サーダインも利用していた。
そして、闇遊の姫魔鬼メファーラ様と、メファーラ様の大眷属ポイラーシュさんと魔樹咒守手ゲンザンさんに向け一礼し、
「ではポイラーシュとゲンザンも宜しく」
「あ、ha,hai!」
「はい」
とゲンザンさんは少しどもった発音だった。
挨拶されるとは思わなかったか。
四眼六腕の魔族のゲンザンさんは呪術師と戦士が合わさったような長袖の防護服を着ている。開いた胸板は硬そうな樹の肌で、その樹から無数のワイヤーのような枝が着ている防護服と繋がっていた。
大眷属ポイラーシュさんのほうは、一見人族と似ているが人族ではない。
額にはCPUの基盤のような樹の魔法陣に縁取られている第三の目を彷彿とさせる灰色の魔宝石が嵌まっていた。二眼二腕の右手に魔杖を持つ。
魔術師で半袖の魔術師のローブを着ている。
前腕と肘には<鎖の因子>のような印があり、その印から血濡れた樹と月虹に赫く樹の枝が宙に弧を描くように頭頂部の額の魔宝石と繋がっていた。
そのポイラーシュさんとゲンザンと闇遊の姫魔鬼メファーラ様に、
「知記憶の王樹キュルハ様と面会が可能な場所ですが、正確な所在地は常に変化しているのでしょうか」
「その通り、大概は〝輝ける実〟があるとされる【世界樹キュルハ】。次点で【キュルハの蔦樹場】と【知記憶の王樹キュルハの根】にいるが【キュルハ湖岩樹大家】にもいることがあるのだ。更に魔界セブドラ側の十二樹海の結界の中か、【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】にいる場合もある。先ほど利用を注意した〝樹海道〟を極自然に使うからな……そしてポイラーシュの呼びかけならばキュルハも直ぐに応えて会えるだろう。妾も領域外からキュルハにコンタクトを取ることが可能な<キュルハの呼び魔声>と<魔皇・王樹鈴>を持つが、キュルハの来訪に合わせて地形が大幅に変化することがあるから、使い場所は限られるのだ。使ってもこないこともあるのも困りもの……キュルハの領域内で使えば必ずくるが」
闇遊の姫魔鬼メファーラ様の言葉に頷いた。
「なるほど、分かりました。【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】の地方ですが、知記憶の王樹キュルハ様と吸血神ルグナド様と宵闇の女王レブラ様は仲が良いのでしょうか」
メファーラ様は遠い目をして、
「……仲が良い場合もある。資源採取の循環も上手く行っている間は、三者が連合し、他者に対抗する。だが、係争地が真実、資源が採取可能なのだからな。更に吸血神ルグナドはごく最近、欲望の王ザンスインや恐王ノクターに喧嘩を仕掛け、キュルハの根を切り取り、それを破壊の王ラシーンズ・レビオダに投げつけたからな……それにより信奉する眷属同士の争いが発展している」
マジか。吸血神ルグナド様の機嫌が悪かった?
「この件によりキュルハも当初は怒りの反撃で吸血神ルグナドの所領を幾つか破壊している。破壊の王の血と吸血神ルグナドの血が混ざった影響で新たな魔族が誕生したことを知って嬉しがっていた」
新たな魔族の誕生とは、もしかして、女王サーダインのことだろうか。
「そして、【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】の中心には、そんな神々の喧嘩の理由を超えた根本的に争い合う理由が存在する。無限に極大魔石と闇星極の塊と魔重炎石が採取可能な【闇星極龕の間ミュマ】が中心に存在するのだ。その中心地を巡りルグナド、キュルハ、レブラの三つの勢力が争っては手を組み合うことが何度も起きている。大眷属同士で好き嫌いもあるだろうな。他にも、無数の勢力がその【ルグナド、キュルハ、レブラの合同直轄領】の中心地の【闇星極龕の間ミュマ】を欲している。その場合はしれっとルグナド、キュルハ、レブラは組むことが多い」
と語ると、魔皇メイジナ様も知っているように頷いた。
神々と諸侯の争いは当然、古代から続いているよな
ビュシエ繋がりもあると思いたいルグナド様が切れたら怖いか。
恐王ノクターに喧嘩を仕掛けたようだが、【吸血神ルグナド様の類縁地】を巡って前々から争っていたとは思うし、昔から吸血神ルグナド様と恐王ノクターは犬猿の仲だったということかな。
その恐王ノクターこと魔商人ベクターから戦争の後始末という形で闘霊本尊界レグィレスのネックレスをもらったから喧嘩はしたくないが……。
ビュシエの情報によると、【吸血神ルグナド様の類縁地】を守る<筆頭従者長>のルカーさんは美人さんのようだしな。
「分かりました。知記憶の王樹キュルハ様の所在が【世界樹キュルハ】などの地にいるといいのですが」
「ふむ。今なら【世界樹キュルハ】にいると思うぞ」
とメファーラ様は発言しつつ大眷属のポイラーシュと魔樹咒守手ゲンザンを見る。
ポイラーシュは、
「はい、いるはずです」
と俺たちに向け頭を下げながら発言した。
両手首から頭上にかけて伸びている樹と枝から血と月虹に赫いた。
「ふむ、では、シュウヤたちを<魔樹転移門>か時空魔法のゲートで案内せよ」
「はい」
その前に、〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟を〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟を見せながら、
「少しお待ちを、〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟とはゴルディクス地方の槍武術でしょうか、また、〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟は黒魔女教団と関係が?」
「大まかには、そうだ、セラでいう暁の時代を前後した時代の魔槍流は様々とあったが、ゴルディクス魔槍流と名付けた。暁の帝国が滅びた後のゴルディクス大砂漠に伝わっているゴルディクス魔槍流が学べるはずだ。古代の闇であり光を背負う者たちの髑髏魔人とゴルディーバ族たちが残した魔槍に関する技術資料でもある。〝暁闇を刺し貫く飛び烏〟の四天魔女の天魔女流とも似ている型もあるだろう。より源流に近いのが〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟なのだ。細かな槍技術もあるから眷属たちも学べよう。無論、高度な<魔槍技>は闇と光の運び手のシュウヤだからこそ学べるのもあるはずだ。闇と光の運び手用の槍武術もある。更に、ゴルディクスが大砂漠と化す前と大砂漠に化した後で、ゴルディクス魔槍流の型が異なることも特徴的だ。その後期の大砂漠に化したゴルディクス魔槍流は妾の魔人武術とも関わるキサラもよく知る天魔女流と似ているのだ。そして、〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟はその通り、ルロディスとキュルハと妾が関わったダモアヌンの物語、黒魔女教団の創建についての史実が書かれてある。ダモアヌン山にて黒魔女教団の再建を行うなら……外典とあるが、それが新たなる聖典となろう」
「我らのメファーラ様――」
キサラが黒魔女教団の挨拶をしながら片膝で地面を突いた。
キサラの背後に無数の黒魔女教団に命を懸けた人々の幻影が見えたような気がした。
頭を下げてから出した〝ゴルディクス魔槍大秘伝帖〟と〝髑髏魔人ダモアヌン外典〟を仕舞った。
「説明ありがとうございます。そして、これもあるのですが――」
と旧神法具ダジランの指具を右手に出す。
闇遊の姫魔鬼メファーラ様は、
「なんだそれは、あ、メイジナ、もしや……」
「そうだ。悪神ギュラゼルバンを討伐できた理由」
「転移可能となる旧神法具ダジランの指具か」
「うむ。シュウヤが我を旧神たちから救ってくれた後、旧神シュバス=バッカスからシュウヤがもらっていた。旧神法具ダジランの指具、中にベリラシュの指を喰う追跡者が棲んでいる。約束を違えた旧神とはいえ、好意のままのアイテム譲渡は稀な事象だった」
「ふむ、普通は等価交換のような印象だからな」
魔皇メイジナ様は頷いた。
「はい、メイジナ様が仰ったように、この中には、幻想的なドラゴンのような、ベリラシュの指を喰う追跡者が棲んでいるのですが、そのベリラシュに標的の魔力を喰わせると、魔力を喰わせた存在の近くに転移が可能となるアイテムなのですなのですが、闇遊の姫魔鬼メファーラ様の魔力を喰わせたら、直ぐに転移可能なので、魔力を喰わせていいでしょうか」
「妾の魔力を喰わせてもいいが、妾の下に直ぐに転移したいのなら大眷属のポイラーシュに頼めば直ぐに転移可能だぞ」
「はい」
ポイラーシュさんは頷いた。
闇遊の姫魔鬼メファーラ様は、
「だが、ポイラーシュをいつも傍にいさせるのもアレか……」
と発言すると、砂漠色の毛を持つ猫イーフォスとシャム猫ララァが耳をピクピクと動かして、<血魔力>製の魚を口に咥えたまま此方を見やる。
相棒は<血魔力>製の海老を噛み付いて猫キックを海老の腹に浴びせていた。
『ニャルガクルガ』モードだ。
後脚の爪も鋭いから<血魔力>の繊維のようなモノが海老の腹から沢山でていた。
それがまた、爪に引っ掛かって、黒猫は楽しそうに<血魔力>製の海老の玩具で遊び続けている。ビュシエとエヴァは直ぐ横で俺たちの会話を聞きながらも猫たちの遊ぶ様子を見て楽しんでいるようだ。
「時空属性の魔法書は、言語魔法と紋章魔法も入手は難しいのでしょうか」
「そうだな、時空属性の魔法書に限り……どのような秘宝よりも難しいだろう。時魔神パルパディや時空の神クローセイヴィスならば一瞬でシュウヤたち伝授も可能とは思うが、妾はそのようなことはできない。言語魔法の風や土の魔法書なら妾でも皇級、神級は生成できるが、時空属性は他の属性とは異なるのだ。メイジナも時空属性は持つが妾と同じ転移陣の構築までだろう」
「うむ、時空属性の魔法書は貴重品だ」
メイジナ様も同意するように発言している。
闇遊の姫魔鬼メファーラ様は、
「転移陣と転送陣に伝送陣の生成も、セラとはまた異なる。大型転移陣も同様だ。が、それは、魔法書に限ってのこと。シュウヤが持つ旧神法具ダジランの指具とベリラシュの指を喰う追跡者があるようにマジックアイテムならば幾らでもある。その一つ〝闇遊ノ転移〟を渡しておこう――」
と発言した闇遊の姫魔鬼メファーラ様はヘテロクロミアの赤目と錦目の魔力を強めた。
途端に、額に再出現させていた十字架を収縮させると、その十字架を錦目の中に吸い込ませて消した。膨大な闇属性の魔力と<血魔力>を体から発生させると、その魔力は一瞬で骰子と化した。
骰子には六面体。
一から六の数字と〝闇遊ノ転移〟と漢字が刻まれてあった。
それが目の前まで浮遊してくる。
「それは〝闇遊ノ転移〟だ、魔力消費も僅か。魔力を込めたらゲート魔法とはまた異なる転移が可能となるマジックアイテムだ。<メファーラの武闘血>と<姫魔鬼武装>を獲得しているシュウヤだからこそ使える。面に魔力を込めたら面に設定されている場所に転移ができる。一面から三面が妾に設定されている。四面が、ギュラゼルバン城の横に妾たちが築いた本営の玉座の前、五面が【メファーラの大地】にある妾の寝室。六面が妾の十二将の一人ハマーヌの陣地にある転移陣と連動している。そして、二面と三面の指を押しながら<メファーラの武闘血>と<姫魔鬼武装>を意識すれば骰子の面を透過させたような幻影面が浮く。その幻影面を転移する場所と空間に向けて己の指で幻影面を押せば、〝闇遊ノ転移〟の二面か三面に、その場所と空間の記憶をさせることができる。そして、〝闇遊ノ転移〟に魔力を込めたシュウヤに触れている者も自動的に転移が可能。転移陣やゲート魔法の移動と同じく数に限りはない。シュウヤが身に着けているマジックアイテムに体内に封じている魔法生命体も、シュウヤと共に転移が可能だ」
「はい、これをいただけるのはありがたい。活動範囲が楽になります」
と〝闇遊ノ転移〟を持ちながら、皆に「少し試す――」と右上に跳躍――。
ギュラゼルバン城を俯瞰、周囲の堀は埋まっている。
右の平野に闇遊の姫魔鬼メファーラ様の陣地が見えた。
と直ぐに〝闇遊ノ転移〟の一面に魔力を送る――。
と瞬時に、闇遊の姫魔鬼メファーラ様の近くに転移――。
「「おぉ」」
<仙魔・龍水移>よりも遅く感じたが、これは使える。
「ん、転移成功!」
「転移された!」
「〝キュルハの宇内乾坤樹〟の手形に〝闇遊ノ転移〟か、凄いアイテムを得たな!」
「はい、これでゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡と、二十四面体のパレデスの鏡と〝闇遊ノ転移〟の合計三つの転移手段を獲得なされた」
キサラの言葉に頷いた。
闇遊の姫魔鬼メファーラ様は、
「それと〝闇遊ノ転移〟も狭間は越えてセラ側への転移は無理だからな。他の転移系と同じく魔界セブドラなら魔界セブドラのみ。セラならセラのみ時空内となる」
「分かりました」
続きは明日。HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




