千四百五十話 魔皇メイジナ様の勝利の叫び声
俺の左側の相棒が「ガルルゥ」と吼えながら少し跳躍するように両後脚を上げる。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の下に頭部を擦り当て甘えながらも前に出た。唸り声を発しながら甘えるとか新しい。
角に頬を擦り当てたかっただけかも知れないが。
すると、その相棒の背後から、
「主、あやつは我に任せよ、主は、右の魔虚大鷹クヒランに用があるのだろう」
「はい、宗主は、ギュラゼルバンの巨大神像に魔力を送っている魔虚大鷹クヒランの対処をお願いします」
キスマリとキッカも前に出た。
骨甲冑装備に身を固めている魔族は、「ほぅ、六眼と二眼の魔族か、両者とも魔剣師か……」と言いながら四腕に色違いの魔刀を出現させた。大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を少し上にズラし、左手に神槍ガンジスを再召喚し、左腕を左から右下に動かした。神槍ガンジスの蒼い槍纓の毛と方天画戟と似た穂先が傾く。
骨甲冑装備の魔族は腰を沈める。
魔刀と魔人武術の達人のような雰囲気だ。
渋い骨兜で双眸は見えない。顔の表情は骨兜に覆われているから読み取れない。
目の数は人間の双眸の位置に二つと、瞼の位置の端に大きい穴から緑色の瞳が覗けていた。
双眸の四眼か、四腕の魔族のゼメタスとアドモス的な存在か。その骨甲冑装備の魔族は、長い左足を前に出し、右足の踵を徐々に前に押し出す歩法で、間合いをジリジリと詰めながら紫と赤の魔力を骨甲冑の節々から噴出させて己の四肢を覆ってきた。
四本腕と武器と両足の動きが見にくくなった。 その骨甲冑装備の魔族は独自の<魔闘術>系統を強めると装甲の一部が剥がれ落ちた。
と、落ちた装甲が浮かび始めて骨甲冑装備の魔族と魔力で繋がると装甲の表面にルーン文字の言葉が出現し、装甲の表面から黒い粘液が大量に吐き出ては、それらが一瞬で集積すると、黒い異形な怪物となった。
辛うじて人型で、額の位置にルーン文字が刻まれている。
中央に大きな口がある以外は黒い粘液としか分からない。口の歯は真っ白で気色悪く見えた。
骨甲冑装備魔と怪物たちを見て、
「ギュラゼルバンの依代を守るつもりなら、神像に張り付いていたほうがいいと思うが?」
「は、今さらだ、魔虚大鷹クヒランよ、後は頼む! いざ、ドイラズンが参る――」
「我が名は、キスマリ! 光魔ルシヴァル<従者長>いざ、尋常に勝負!」
「名はキッカ、<筆頭従者長>の一人って――キスマリ! そいつは任せたわ、<血ノ闘魂>――」
「承知――」
キスマリは魔剣アケナドと魔剣スクルドで<黒呪仙炎剣>を繰り出している。
相対しているドイラズンは四つ魔刀で構えながら、キスマリの怒濤の勢いのまま四腕を振るった連続とした<黒呪仙炎剣>の袈裟斬りと斬りを防いでいた。
キッカは一瞬にて相対した黒い異形な怪物を魔剣・月華忌憚で穿つように倒す。
柄を突き出した<血瞑・柄目喰>の血剣術か。
そのキッカはキスマリの魔剣ケルと魔剣サグルーの逆袈裟に合わせてドイラズンとの間合いを詰めると、素早く魔剣・月華忌憚の<血瞑・速剣>を繰り出した。
ドイラズンは退いて左手の魔刀で受けては、キスマリの<黒呪咒刀衝鬼>を右手と左手の三つの魔刀で受け止めている。キッカはキスマリにドイラズンを任せて、反転し、他の黒い異形な怪物に近付いては、身を捻るような動きで魔剣・月華忌憚を振るい回し、剣刃を回転させる<血刃螺旋>を繰り出して、黒い異形な怪物を斬り刻んで倒していた。
「ご主人様、わたしも参戦します」
「了解した」
ヴィーネはガドリセスと〝紅孔雀の攻防霊玉〟の小形の盾を活かすように前傾姿勢でキスマリに向けられていた遠距離攻撃を小形の盾と体で防ぐと、その傷から流れた己の血飛沫をガドリセスに乗せて<血饌竜雷牙剣>を繰り出した。
「ぐあぁ」
と、ドイラズンの片腕と脇腹を切断していた。ヴィーネは強い。
ドイラズンは血を吐きつつも腕を再生させながら後退。
「ヴィーネ、ありがとう!」
「はい、行きましょう」
「うむ!」
ヴィーネとキスマリは前進してドイラズンを追った。
エヴァとキサラとビュシエとアドゥムブラリは俺の左右後方から動いていない。
頷きつつ、魔虚大鷹クヒランを見やる。
鷹の魔族たちは、左側のドイラズンと異形な怪物たちとの乱戦には加わってこない。
皆、魔剣の切っ先を俺に向けて間合いを詰めてこない。
<投擲>もないし、鷹の双眸には朱色の環状の魔眼のようなモノが生み出されていた。
時折、大きい駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を見ている。この大きい駒は魔力を吸うし、硬いからな。警戒したようだな。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の主と裏に『八咫角』と『風槍流』と『九槍卿』の文字を刻まれている盾でもあることが、布石となるはずだ。
魔虚大鷹クヒランもグランドピアノから螺旋状の魔刃を飛ばしてこなかった。
「アドゥムブラリ、背後の他の勢力たちの動きを頼む」
「了解、俺たちに突っかかる勢力が出るか否か……<水念把>の威力を信じよう」
アドゥムブラリは浮遊したまま俺たちの斜め後方の階段近くに向かう。
半身のキサラは、幅広い階段と大広間を見やり、右の野戦が行われていた形跡がある右側と城の残骸を見て、
「はい、現状は様子見を決めたようで、階段から下に撤退してくれましたね」
エヴァが
「ん、闇遊の姫魔鬼メファーラ様がいるのなら、シュウヤの<水念把>は女神様に届いた?」
「届いたはずですが、キサラはメファーラ様が近くにいると分かるのですか?」
と、エヴァに続いてビュシエが聞いていた。
キサラは、神妙な顔付きとなって頷く。
「まだあやふやな感覚ですが……ダモアヌンの魔槍が振動していますし、柄のメファーラ様の魔印は光を帯びている。身につけている姫魔鬼武装も魔力が強まり続けている。そして、魔槍杖バルドークを持つシュウヤ様のことも気付いているはず」
魔槍杖バルドークを持ち上げて、頷いた。
依然と、髑髏模様が双曲タイリングパターンは出現中。
「右の陣営のどこかに姫魔鬼メファーラ様がいる可能性は高いか」
魔槍杖バルドークからブゥゥンと不思議な音を響いた。
と『カカカッ』と乾いた嗤い声も響かせてくる。
ビュシエは、
「キサラ、現状のセラのメファーラの祠に黒魔女教団の総本山は廃れたと聞いています。その件で、姫魔鬼メファーラ様は怒りを覚えている可能性はあるかもですか?」
「はい、あるかもしれないです」
アドゥムブラリは、
「……黒魔女教団創始者の髑髏魔人ダモアヌンの関係者のキサラが【ダモアヌンの魔女】でありながら、光魔ルシヴァルの勢力に加わっている事にも憤慨を覚えているようなことはないだろうか」
と発言。
そのアドゥムブラリは階段からだれも上がってくる気配がないと確信したのか、魔虚大鷹クヒランのほうに顔を向けていた。
一方、キサラは唇が震えながら俺を見る。
マスク越しだが蒼い瞳は震えていた。
「……否定はしません」
「ん、わたしたちは旧神法具ダジランの指具で転移したばかり、【メイジナ大平原】から【グィリーフィル地方】への移動は神々だって驚いているはず、闇遊の姫魔鬼メファーラ様は怒っているかもだけど、驚いているほうが強いと思う、後、キサラ、何があっても傍にいるから」
「ふふ、はい、ありがとう」
キサラとエヴァは見つめ合って笑顔を見せる。
エヴァは、
「ん、神界側の運命神アシュラーならすべてを見通せているのかも知れないけど、すべてがすべてを見通せていたら、神々の争いは起きていないと思う」
「ふむ、それはそうだな、<未来予知>に<千局面予見>に<多層世極牌>などのスキルはあるが、確実ではない」
魔皇メイジナ様の発言に皆が注視。
<千局面予見>と<多層世極牌>は初めて聞く予測系スキルだ。
「はい」
「ですね、旧神法具ダジランの指具とベリラシュの指を喰う追跡者を使った転移ですし」
アドゥムブラリとビュシエの言葉に頷く。
俺は、
「たぶんだが、俺たちの出現は、周辺を支配している神々や諸侯たちにとって驚き以外の何物でもない」
と、キスマリたちの動きを見る。
キスマリとキッカとヴィーネと戦っている骨甲冑装備を着たドイラズンと黒い異形な怪物たちは、中々強い。
が、戦いはそろそろお終いか。黒い異形な怪物たちは残り五匹で、四匹となった。
ドイラズンは再生が速いが、頭部と胸を穿たれて甲冑がボロボロで、二つの腕と片足になることが多いが、かなり強いなドイラズン。
そして、キサラを見て『突然に、闇遊の姫魔鬼メファーラ様が来訪しても、キサラ、大丈夫だな?』と目だけで語りかけた。
キサラは微笑みながら頷くと、ニコッとした笑顔を見せてくれた。
可愛い。
と、蒼い双眸に<血魔力>が宿った。力強さをアピールしてくる。
光魔ルシヴァル<筆頭従者長>の気概を感じた。以心伝心の気持ちが通じたようで嬉しかった。
すると、左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から半透明の蛸足集合体が少し出た。
『主、我も第三勢力と対魔虚大鷹クヒラン戦に<旧神ノ暁闇>による先制攻撃を浴びせれば、かなりダメージを与えられるだろう』
『先制攻撃は行うかは分からないが、〝暁闇を破る鬨の声〟にシュレ本人にも活躍してもらうかもだ、出てくれ』
『ハイ! 有り難き幸せ――』
と左手の<シュレゴス・ロードの魔印>から半透明の蛸足集合体がニュルリと出ては、一瞬で人型の渋いシュレゴス・ロードとなる。
クリスタルにも見える角が立派だ。
端麗さを持つアドゥムブラリの横に並んだシュレゴス・ロードも端正な顔立ちで格好いい。
アドゥムブラリは『またお前か』というような顔つきだったが左手の拳を突き出す。シュレゴス・ロードは目を細めながら右手の拳をアドゥムブラリの拳にコツンと合わせていた。互いに不敵な笑みを浮かべていく。
おいおい、なんやかんやの友情かよ、たっく、面白い。
その間に戦闘型デバイスから戦神ソーンと戦神ソーンの遺跡地図を取り出す。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の上に載せた。続いて、無魔の手袋を右手に装着――。
その右手に〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟を出現させてから<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に載せる。
グランドピアノを弾いている魔虚大鷹クヒランに向け、
「よぉ、ピアニストの魔虚大鷹クヒラン、降伏の申し入れを正式に断りにきた、これを返しておこう――」
鷹の頭部の魔族たちが立ち塞がるがグランドピアノを弾いていた魔虚大鷹クヒランが曲調を変えると鷹の頭部の魔族たちは一斉に示し合わせたように体を動かしてから退いた。マリオネットで操作しているような印象だった。
魔虚大鷹クヒランの体から出ていたグランドピアノを弾いていた魔虚大鷹クヒランの幻影が、ピアノを弾くのを止める。
と、前に出て<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を両手で止めてきた。
幻影の魔虚大鷹クヒランの魔力を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は吸い込む。
俺は魔力を得た。少し薄らいだ幻影の魔虚大鷹クヒランは消えていない。
が、消えるように魔力粒子となった。その魔力粒子は<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の上を這うように移動すると、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に載っていた〝グィリーフィル漆黒の魔炎晶〟と地図はグランドピアノを弾いている本人に魔虚大鷹クヒランに吸い寄せられて消える。
魔虚大鷹クヒランはグランドピアノを弾くのを止めた。
立ち上がって<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>をチラッと見てから、皆を見据える。
そのままお辞儀を行ってから、
「降伏の証しに捧げた物を……返却はたしかに承りました」
「おう」
「流れを汲みて源を知る。まさに、悪を防ぎ善に導く正しい行いを好む聖君のようですな……」
「ただ律義なだけだ、律義は阿呆の唐名ってな」
「ふっ、誤魔化さずとも……私の主君を倒した実力者のシュウヤ殿。〝旧神の石箱〟の契約を反古にできるほどの強者ならば他の勢力など構わず強引に力で解決ができるはずです。が、それをしない智慧者でもある。そして、ここに転移してくる算段があったのですね」
「旧神シュバス=バッカスから転移用のアイテムがもらえたんだ」
「はぁ、あ、そうですか……では、先ほどの神意力の文言通り、シュウヤ様とメイジナ様は、我らを滅しに来られたと……」
「……当然だ、汝に出ずるものは汝に帰る。悪神ギュラゼルバンは我が滅する!」
魔皇メイジナ様は六本の腕に魔剣と魔槍を召喚した。
六浄独鈷コソタクマヤタクのような武器はない。
魔虚大鷹クヒランは視線を鋭くさせた。
「魔虚大鷹クヒラン、ギュラゼルバンの復活を諦めて退けば、俺たちはお前を追わない」
「フッ、今さら退けませんよ――」
本人の魔虚大鷹クヒランから幻影の魔虚大鷹クヒランが出ては、背後のグランドピアノに移動し、座ると、幻影の魔虚大鷹クヒランはグランドピアノを弾き始めた。曲調は先ほどよりも激しい、周囲の鷹の魔族たちの魔力が増大していく。
霊湖の水念瓶と<水念把>を意識し、〝レイペマソーマの液体〟を操作し、グランドピアノの音波を阻害させた。
そして、
「……大眷属として、最期まで戦う覚悟か、命の選択をする氣はないのか?」
アドゥムブラリたちは俺をみやる。
その視線は理解できるが、応えない。
魔虚大鷹クヒランは双眸を震わせ、なんとも言えない表情を浮かべてから、
「……ふっ、笑わせないでください。私は悪神の大眷属ですよ? 生きたところで、シュウヤ殿にそぐわない行動を取ることになるのは目に見えている。それに野郎としての誠意を持つ御方のようですから、今の私の気持ちが理解できるかと思いますが、違いますか?」
「誠意をもって務めを果たすか。あのような主君だろうと、忠義を貫くか」
「はい、因みにテーバロンテが使う毒は体内にはありません。あ、洗脳は大眷属ですから、受けていると言えますが……なくとも、この場でギュラゼルバン様の復活を目指したでしょう。さぁ、無駄な交渉はここまで、皆! 目の前の槍使いとメイジナたちの魂をギュラゼルバン様に捧げるのです!!」
「「「「「ハイッ」」」」」
ショパンの革命と似た曲に合わせて鷹の魔族たちが一斉に寄ってきた。
右手に魔槍杖バルドークを召喚。
霊湖の水念瓶を消しながら『師匠たち、出番です!』腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業が揺れる。
『『『『『『『『承知した!』』』』』』』』
<血想槍>を意識し、発動させる。
魔槍グドルル、金漠の悪夢槍、茨の凍迅魔槍ハヴァギイ。
六浄魔槍キリウルカ、夜王の傘セイヴァルト、無名無礼の魔槍、王牌十字槍ヴェクサード、骨装具・鬼神二式。
雷炎槍エフィルマゾル、夢槍と無覇、独鈷魔槍、魔杖槍犀花、魔星槍フォルアッシュ。
同時に腰ベルトにぶら下がる魔軍夜行ノ槍業を意識し魔力を送った。
――大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に魔力を送りながら周囲に展開させて、鷹の魔族たちを近づけさせない。
大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を引き寄せて『魔界九槍卿』の刻まれている面に左手の掌を当てて魔力を送る。
<魔俯角印>と<魔仰角印>を連続して意識、発動。
一瞬で<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の表面に八人の師匠たちらしき顔の幻影が見え隠れ。
――『八咫角』と『風槍流』の文字も輝いて梵字も浮かぶ。
「駒の背後に回れ、あの槍使いを潰すように倒せ!」
「「「「はい!」」」」
魔虚大鷹クヒランが指示を出すが――。
<血想槍>で操作している王牌十字槍ヴェクサードと無名無礼の魔槍が複数の鷹の魔族を封じるように牽制。
その間にも大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に刻まれている〝八咫角〟の文字が蠢く。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の表の背景に、輝く枝葉と万朶のルシヴァルの紋章樹のような樹が刻まれた。その樹の根は暗い。<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の中心では闇と光の魔力が枯山水の動きで融合していく。そのまま陰と陽の氣が合わさり、万物を意味すような陰陽五行説や太極図と似た模様が<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の中心に刻まれた。陰と陽の魔力の中に魚のような二匹の魔生物が泳いでいた。背景のルシヴァルの紋章樹と陰と陽に太極図を意味するだろう魔法陣が消えた。
「ん、この間の<魔仰角印>と<魔俯角印>!」
「「はい!」」
エヴァたちの声を響くと<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の中心がクリスタル状の八角形と化した。
クリスタルの半透明から先に見える鷹の魔族たちを一瞬でターゲッティング――。
八角形の角から出ている魔線と共に<血想槍>で扱う魔槍が鷹の魔族たちを穿つ――。
数体の鷹の魔族を屠る。続いて、左腕が<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>のクリスタルのような半透明の中に吸い込まれた――。
――滑り感はこの間と変わらず。
動きの制約も昔と同じ、時間と空間も一つの知覚でしかない、クリスタルの中で時空属性が凝縮し、五感を超えた皆是、理の源泉――凄まじい力だ。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の<魔仰角印>と<魔俯角印>の使用は魔力をかなり消費していく、内臓が捻れて痛いが、我慢。
すべての武器を消しては、また再出現させる魔槍杖バルドークを右手に装備。
<血想槍>を意識しながら、八槍卿たちの力の解放を味わうと共に――。
『『『これが<魔軍夜行ノ槍業>!』』』
『『『『『<魔仰角印>と<魔俯角印>だ!』』』』』
師匠たちの多重の声が響き渡る。
体の一部を得ているイルヴェーヌ師匠とグラド師匠とシュリ師匠とトースン師匠とソー師匠と、幻影だけのセイオクス師匠とグルド師匠とレプイレス師匠が<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の前に出現し、突進。
体を得ている師匠たちは得物を握りながら直進し鷹の魔族たちを一掃し、魔虚大鷹クヒランごと、豪快にグランドピアノに神殿と玉座の壁とギュラゼルバンの巨大な神像の足下をくり抜く――。
「おぉ~」
「魔軍夜行ノ槍業の師匠たちの連続槍舞に一閃は凄まじい――」
アドゥムブラリたちもしかと見えたか。
ゼロコンマ数秒もなく、転移してきた八人の師匠たちは<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の八角形のクリスタルの上に立つと、その八角形の中に消えて、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>は元通り。
背後のギュラゼルバンの巨大な神像が崩壊していく。
「見事だ、シュウヤ! <魔皇強靱>――」
「にゃおおお~」
魔皇メイジナ様は相棒に乗って駆けていた。
少し嫉妬を覚えるシルエットとなるが、それは一瞬、魔皇メイジナ様が振るった六本の腕が持つ魔槍で<断罪刺罪>のようなスキルが繰り出される。ギュラゼルバンの巨大神像の漆黒の炎の塊は、こっぱ微塵に破壊される。空間が断絶されるような紅蓮の閃光が生まれるが一瞬で消えた。
ドッと空間が振動が起きた。魔神殺しの紅蓮なる連柱が起きたかな。
と、背後の残っていた壁と巨大な祭壇の一部を細断された。
六腕がブレていた魔皇メイジナ様が繰り出した独自の<魔槍技>か?
黒虎ロロディーヌに騎乗している魔皇メイジナ様は着地――。
膨大な魔力を得ていると分かる。魔皇メイジナ様は神格を回復したかもしれない。
「――え」
と、声を発したのは、まだ戦っていた骨甲冑装備のドイラズン。
その声を発したぼろぼろだった骨兜は細切れとなって消える。
残りのドイラズンの体もキスマリとキッカとヴィーネに細断された。
よっしゃ、すべて倒した。
「ん、ギュラゼルバンの神像の魔素は完全に消えた!!」
「「「おぉぉぉ」」」
「やりました!」
「ああぁぁ、我は悪神ギュラゼルバンを倒したぞ!!! 皆、見ててくれたか!! バーテ、グレナダ、バジラセ、お前たちの仇は取った!」
魔皇メイジナ様の勝利の声が大広間の玉座の残骸に谺する。
そこに巨大な魔素が右側から――。
続きは明日。
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