千四百三十話 旧神法具ダジランの指具
魔皇メイジナは、俺の周囲に浮かんでいる<血想槍>と<導想魔手>と近くで浮遊させている霊湖の水念瓶を交互に見ている。
霊湖の水念瓶の外観と中身の液体は極彩色が豊かで非常に綺麗だから注目するのは分かる。
少し離れた位置で、他の旧神たちと両手に黒い葉と茎を絡ませていたシュレゴス・ロードは額の眉間辺りから波動のような魔力を放って両目を瞑っているが、不思議だ。
他の旧神と知見を共有しているのか?
黒霧ハフラルーンとの戦いでは俺の近くにいなかったが、反対側で戦っていたようだ。
そのシュレゴス・ロードは両腕に絡んだ黒い葉を擁した茎を離すと、俺に会釈し飛来してくる。
シュレゴス・ロードを見ながら神界セウロスの仙王槍スーウィンを消した。消費の大きい<血想槍>も解除した。
神槍ガンジスと霊槍ハヴィスの武器を戦闘型デバイスに仕舞った。
魔皇メイジナは「<血魔力>の槍が消えた……」と<血想槍>ごと<血魔力>が消えたことに驚く。
そして、<導想魔手>を凝視するように六眼の内の三眼を輝かせると瞳から小さい魔法陣を出現させた。
<導想魔手>の分析かな。
<導想魔手>の歪な魔力の手は七本指で掌も大きい。
中身は無数の魔線が複雑に組み合わさった<導魔術>の技術で生成されている。
ゴルディーバの里でアキレス師匠から<導魔術>を学びつつ独自に修業を毎日コツコツと続けていたから、あの<導想魔手>を構築できたんだ。当時は試行錯誤の連続で面白かった。
あのような機会をくれたアキレス師匠とゴルディーバの里に感謝したい。
魔皇メイジナの傍に浮いている霊湖の水念瓶を手前に引き戻し、息を吸って吐いての深呼吸を行った。
また息を吐きつつ――腹式呼吸を行う。<闘気玄装>を残して、他の<魔闘術>を解除した。<無方南華>の効果で全身の皮膚から蒸気のような魔力が発生していく。
シュレゴス・ロードは、
「主、もう旧神たちが主と魔皇メイジナを襲うことはないと思う」
「了解した。一応、魔皇メイジナの傍で待機しといてくれ」
「承知――」
シュレゴス・ロードは振り返り低空を移動していく。
と、俺の左右にいたゼメタスとアドモスはシュレと会釈してから片膝の頭で地面を突く。
「――閣下が我らの<黒沸ノ闘魂>を扱っているように見えまする」
「<無方南華>の効果ですな、魔犀花流は閣下を強くした!」
アドモスの言葉に合わせて魔杖槍犀花を左手に召喚。ゼメタスとアドモスにその魔杖槍犀花を見せるように、
「――おう、二人とも立ってくれ、そして、その<無方南華>があるから<無方剛柔>を得られた。魔神ガンゾウと出会った当初は災難と思えたが僥倖だったってことだ。更に<戦神マホロバの恩寵>も得られる切っ掛けとなった明櫂戦仙女のニナとシュアノにも感謝しよう」
「「ハッ!」」
ゼメタスとアドモスは気合いを入れたように全身から漆黒と赤の蒸気的な魔力を噴出させながら立ち上がる。威風漂う二人を見ながら魔杖槍犀花を眼前に掲げて拱手。
魔杖槍犀花の柄は樹のような素材でできている。
後部は幅広くて舟を漕げるような大きい櫂にも似ている。
が中部から先端は魔杖であり穂先も槍だ。
そして、外にいるだろう巧手四櫂のイズチ、インミミ、ゾウバチ、ズィルに魔犀花流派の皆にも感謝の念を送ってから、
「ゼメタス、<黒沸ノ大闘魂>とは、あのぼあぼあとしている黒と赤の炎か、蒸気のようにも見える魔力の大本、<魔闘術>系統の名かな」
「はい、元々は<沸ノ闘魂>でしたが我らがアニメイテッド・ボーンズとプレインハニーなどを得て<魔界沸騎士長>へと進化し、上等戦士ゼアガンヌを得て、光魔沸夜叉将軍へと進化するたびに<魔闘術>系統も進化し、名が変化し、最近では<黒沸ノ大闘魂>へと進化を遂げました」
「様々にゼメタスとアドモスを進化させていたか」
「ハッ、閣下のお陰、私たちと閣下を繋ぐ楔の闇の獄骨騎の縁は、絶対的な絆ですからな!」
「ハイ! 神霊を帯びた楔が結ぶ合同の魂魄は、狭間をも越える絶対的な縁! 更に、閣下が近くで我らを使う時のほうが我らは強くなることが多いのです」
と熱気溢れる口調で語るゼメタスとアドモス。
双眸の炎がメラメラと闘魂を顕す勢いで燃え盛っていた。
二人の体から蒸気のような魔力が噴出しているが、外には飛び出ず星屑のマントの内側に吸い込まれていく。
星屑のマントが空気を孕んだように靡くさまは凄まじい迫力。
魔皇メイジナも<導想魔手>を見るのを止めて、気合い漲る光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスを凝視している。
シュレはその横で待機。
「ご主人様」
「シュウヤ様」
ヴィーネとキサラも寄ってくる。
二人はエヴァとアドゥムブラリに血文字で連絡をしていたようだ。
「おう、エヴァたちは大丈夫としてアドゥムブラリたちが乗っている骨鰐魔神ベマドーラーはまだそのままかな」
「はい、全員が骨鰐魔神ベマドーラーの真上に浮上しています。旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿の出入り口にも近い位置です」
キサラの言葉に頷いた。
「ご主人様、これから恐王ノクターの陣営を見に?」
「あぁ、そうなる、そして、ギュラゼルバンを滅しに【グィリーフィル地方】に向かいたいが【マホロバの地】に送る南華仙院の兵士たちとニナとシュアノがいるからな」
「はい」
「にゃおぉぉぉ~」
「ウォォォォン」
黒豹と魔皇獣咆ケーゼンベルスの鳴き声に釣られて見ると、黒い葉を擁した茎の群れがまだ怪しいと思っているようだな。
黒豹と魔皇獣咆ケーゼンベルスから逃げるように黒い葉の群れはズズッと後退していた。
黒豹は前足を交互に伸ばして、黒い葉と茎を掴もうと必死だ。イカ耳となって腹を地面に付けながら、動きを止める姿は『ニャルガクルガ』再び、だな。黒い葉と茎を追い掛ける。尻尾も膨らんでいる。戯れて遊んでいるようにも見える。
相棒と黒い葉を擁した茎の動きがS極とS極の磁石が反発しているような動きで面白い。
その相棒と魔皇獣咆ケーゼンベルスは黒い葉を追うのを止めて跳ぶような機動で此方に戻ってきた。
皆とアイコンタクトを行ってから魔皇メイジナを見やる。
魔皇メイジナは六本の腕の手に六浄の武器だけでなく様々な武器を召喚しては武器の確認を始める。
左上腕の魔剣の袈裟斬りから右下腕の薙刀の突きを前方に繰り出しては身を捻りつつ跳躍をしては左中段の両腕が持つ魔刀を振るって魔刃を宙空に飛ばすような演武を始めた。
六浄以外にも神話級のアイテムを持つようだ。
魔皇メイジナは少し体を浮かせて両足の真下に小さい魔法陣を生成しては消してを繰り返す。
靴は珠色と黒色の装甲がお洒落なグリーブ。
その魔皇メイジナは安全と一安心。
両開きの〝霊湖水晶の外套〟を払い背に回しマントのように変化させながら周囲を見渡していく。
足下に来た黒豹が「ンン」喉音を響かせて少し前方を歩く。と振り向き少しだけ膨れているように毛が立っている尻尾でポンッと地面を叩いて「ンン、にゃ」と鳴いて見上げてきた。
つぶらな黒豹と見つめ合う。
瞼を閉じて開くを行った黒豹さんが可愛い。
と直ぐに反転し前方をトコトコと歩き始めた。
また直ぐ振り向いて「にゃおぉ」と鳴いて尻尾で地面を叩いてきた。
その意味はなんとなく分かる、
『まだあんしんできないにゃお、ついてきてにゃ~』
という意味だろう。
「ふふ、ロロ様は旧神の黒い葉と茎と遊びたい? と思ってしまいますね」
横にいるヴィーネが楽しそうに反応していた。
俺も「あぁ、たしかに」と笑いつつ、背後にいる魔皇獣咆ケーゼンベルスたちを見やると、ケーゼンベルスは大きい姿のまま香箱スタイルで休みつつキサラに胴体の毛を撫でられている。
そのキサラはエヴァとアドゥムブラリに血文字を送りつつケーゼンベルスの毛の中にダイブしていた。
はは、俺もやりたいが、今は止めておくか。
ゼメタスとアドモスは演舞を終えた魔皇メイジナに挨拶していた。
振り返り、相棒を連れてヴィーネと少し歩いた。
旧神の墓場、知能を有した群生旧神の間、旧神エフナドの秘奥黒寿宮殿と呼ばれている地下空間を散歩する知的生命体は少ないかも知れない。
右後方を歩くヴィーネが、
「……ロロ様は安心できないようですが、旧神の黒霧ハフラルーンは大人しくなったようですね、そして、旧神たちですが〝暫くの猶予〟が再開したという印象です」
「あぁ、黒い葉と茎の群れはまだ一部が蠢いているからな」
「はい」
「ンン、にゃ」
黒い葉を擁した茎の群れは俺たちを囲っているが、かなり遠目の位置だ。先程、旧神エフナドと旧神シュバス=バッカスらしき黒い葉を擁した茎の群れは旧神ハフラルーンの黒い葉を擁した茎の群れと戦ってくれていた。
その黒霧ハフラルーンが話をしていた石箱と黒い札は完全に潰したから旧神たちと魔皇メイジナとの契約は切れたはず。
「接触はないようだ、ロロとヴィーネ戻るぞ」
「にゃおぉ」
「はい」
魔皇メイジナたちの下に戻った。
魔皇メイジナに、
「魔皇メイジナ様、呪いのような〝旧神の石箱〟との契約は解除されたはずです。どうでしょうか」
「そのようだ、シュウヤたちに助けられた、ありがとう」
「はい、無事でよかったです」
すると、離れていた黒い葉を擁した茎たちが集まってくる。
一部の茎から桃色の花が咲くと地面にも不思議な烏賊の形をした花が咲く。そこから黒い茎が伸びて横に拡大しながら女体化すると、旧神シュバス=バッカスに変化した。
旧神エフナドらしき幻影も一瞬出現。
蛍光色と銀色と金色と漆黒色の魔力が構成した六角形とカアバを連想する立方体が無数に連鎖し、神聖幾何学模様となっている。その周りには天使のような黄金の環も無数に幾つも連鎖していた不思議な幻影だった。
シュバス=バッカスは桃色の花を擁した黒い茎を周囲に生み出していく。そして、
「かの者は本当に強いわ♪ 最後の<血魔力>の槍無双に銀色の炎が出ていた槍技は絶対に喰らいたくない♪ そして、黒霧ハフラルーンはもう襲うことはない、魔皇メイジナちゃんはもう大丈夫よん♪ 悪神ギュラゼルバンへの契約も消えちゃったけど、いいのよね?」
「はい、構いません、俺がギュラゼルバンを完全に滅しに行くかもしれませんので」
六眼バーテの魔皇メイジナを見る時の無念そうな顔色と、俺と相対していた顔付きの差を思い出すと……。
ギュラゼルバンが六眼バーテに何をしていたのか反吐が出る思いとなったからな。バーテは悪趣味な赤い靴を装備し、口調も妾に変化していた。相当な悪事を働くようになったのも……。
否、これ以上の気持ちの洞察は無駄か。
「……うふふふ、いいわ♪ 凄くいい♪ シュレゴス・ロードが気に入った本当の主がかの者なのね、分かる……だから――」
と、シュバス=バッカスは俺たちに右手を伸ばす。
その右手の掌の中心が渦を巻いた。
と渦の中心が伸びて三角錐のアイテムが出現。
三角錐の中には宇宙的な世界が内包していた。
「この入れ物は旧神法具ダジランの指具。この中にいる〝ベリラシュの指を喰う追跡者〟ごと旧神法具ダジランの指具をあげるわ」
「……旧神法具ダジランの指具とベリラシュの指を喰う追跡者とは……」
「旧神法具ダジランの指具の底に指を嵌めるところがあるの、そこに指を入れて魔力を込める。そして、中にいるベリラシュに己の指を喰らってもらうことで契約は完了よ。旧神法具ダジランに指示を出せばベリラシュが外に出て攻撃も可能、そして、標的の品物や魔力など、なんでもいいから喰わせたら準備は完了。その後、旧神法具ダジランを使用すれば、標的がどこに居ようと、その近くに異空間回廊を作る。その異空間回廊を通れば標的の近くに着く。そして、既に悪神ギュラゼルバンの魔力は何回か吸っている」
「指を喰わせれば契約が完了するとして、呪いは?」
「ないわ。これを使う者は一人だけ体内に飼っている者は省く、標的が周囲に結界などを用意していたら異空間回廊は少し距離が離れた場所に出るけど近くに出るはず」
「それは便利ですね、ではいただきます」
「うん♪ 今回の悪神ギュラゼルバンに対して責任を感じているから、かの者と魔皇メイジナに協力するわ――」
と、シュバス=バッカスから離れた旧神法具ダジランの指具が飛来。それを掴んで戦闘型デバイスに仕舞う。
new:旧神法具ダジランの指具×1
中身は出ないか。
「では、俺たちはここから外に出ます」
「了解♪ かの者とシュレゴス・ロードに魔皇メイジナちゃんと怖い神獣とケーゼンベルス、ばいばい♪」
シュバス=バッカスの体は溶けつつ黒い茎に吸収された。
と一斉に黒い葉の群れが蠢いた。
「相棒と皆、外に出るぞ」
「にゃごおお~」
「ウォォン」
「「はい!」」
「「承知!」」
「ハッ!」
続きは今週。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」
コミックス1巻~3巻発売中。




