千四百十二話 見事な<血道・石棺砦>と単騎の戦い
<武行氣>でドラゴンの顎と似た突兀としている岩場を離れて――。
《連氷蛇矢》を連発――。
重装歩兵のベドアズの頭部を次々に《連氷蛇矢》が貫きヘッドショットで倒していく。
神獣が紅蓮の炎を吐いて、大量の重装歩兵のモンスター兵を焼却処分してくれたが、まだまだ数は多い。
その間にも、ドラゴンの顎と似た突兀岩場の真上に浮遊したビュシエが全身から<血魔力>を放出させながらマエストロの如く両腕を動かし、<血道・石棺砦>の複数の石棺を突兀岩場の周囲に展開させていく。
血が滴る石棺で芸術性の高い砦が細密に構築されていくさまは壮観だ。
吸血神ルグナドの元<筆頭従者長>なだけはある。
と魔素が飛来――対戦車ミサイルのような魔法弾が俺に迫ったが――。
普通に退きながら<超能力精神>で魔法弾を止めて槍状の魔法弾を破壊する。
と炸裂弾の如く散った。
対戦車ミサイルのような魔法弾を寄越した存在は左へと飛ぶ。
反撃に《連氷蛇矢》を数十と飛ばすが、《連氷蛇矢》は当たらず、避けられた。
ヴィーネとアドゥムブラリが、その魔法使いへと、光線の矢と<魔矢魔霊・レームル>の魔矢を射出、魔術師は宙空で動きを止めて左手を翳す。
と前方に魔法の盾を生成。
その魔法の盾で光線の矢と<魔矢魔霊・レームル>の魔矢を防いでいる。
魔法の盾はビクともせず悪神ギュラゼルバンの眷属は確定か。
腕の数は二腕足の数も二本。
先ほど倒した<導魔術>と似たスキルを使った魔剣師と似た二眼二腕の魔術師と想定したが、そいつを狙って突進はしない。
眼下に犇めくような重装歩兵のベドアズ軍団が、俺たちがいる突兀としている岩場に近付いてきていた。
相棒の炎を見ても逃げないのは恐怖の感情がないように思える。
重装歩兵のベドアズは眼球が四つで四つの口が両肩と胸元に拡がっているし、知能は低いのかも知れない。
近付いてくる重装歩兵のベドアズ軍は数千以上。
迫力があるが見た目だけだ。
更に数千の四眼四腕の魔剣師集団もいる。
と魔犀花流派の〝巧手四櫂〟が俺の周囲に集まる。
「総帥様、魔犀花流派で新手に突撃しますか?」
「あの新手たちには、俺たちが対処する」
「「「「はい」」」」
「それより、先ほどは見事な急襲だった」
「「「「はい!」」」」
「今は岩場で休憩しておいてくれ。そして、俺たちがここから離れた場合、イズチの判断で、打って出るべきと考えたら出ていい」
「分かりました」
「では、休ませてきます」
イズチに頷いた。
インミミ、ズィル、ゾウバチの〝巧手四櫂〟たちは頷き合うと、
「「「「では!」」」」
身を翻し降下――魔犀花流派の兵士たちも続いた。
石棺の壁を越えて突兀としている岩場に着地。
真下にいる相棒に、
「相棒も少し休憩していい」
「ンン、にゃ」
俺の真下付近にいた神獣は頷く。
と上昇し、黒豹に変化すると触手を石棺の壁に繰り出して突き刺し、収斂させると体を、石棺の壁に移動させて、その石棺を蹴って上昇し突兀としている岩場の中に戻った。
宙空からヴィーネたちに、
「皆、<血道・石棺砦>の石棺の砦と、突兀としている岩場を中心に、ここに群がってくる敵を尽く殲滅させようか!」
「「「「おう!」」」」
「「「「「「はい!」」」」」」
「にゃ、にゃおぉぉ~」
「ンン、にゃ、にゃァァ」
「オゥウゥンン~」
皆の返事を聞きながら、
「――相棒は皆を頼むぞ、俺は空から敵を倒しながら敵の本陣か、強者を探す――」
突兀岩場の頂点の位置にまで駆け上がっていた黒豹は、エジプト座りで俺を見上げていた。
「にゃお」
と返事をしてくれた。
「「「「承知!」」」」
「「「「「はい!」」」」」
「にゃァ~」
「オゥ~ン」
銀灰虎と犀花は石棺の壁の上で休憩中。
その間にも、ヴィーネとアドゥムブラリが宙空を行き交いながら、翡翠の蛇弓と<魔弓魔霊・レポンヌクス>から光線の矢と魔矢を射出していく。
一方、キサラとキスマリとキッカは地上。
石棺の壁を背後にしている。
突兀岩場の右斜めの草原側を見据える場所だ。
近付く魔肉巨人ドポキンアと似た巨人兵が数十と無数の重装歩兵のベドアズ。魔傭兵の二眼二腕と四眼四腕の魔族もいる。
魔肉巨人ドポキンアと似た巨人兵の名前は、肉団子巨人兵と呼ぶか?
その肉団子巨人兵をキサラが青炎槍カラカンで早速倒していた。
お? 青炎槍カラカンから青炎が噴き上がって右腕に薄らと青炎を纏っていた。
キサラが少し浮遊して自らの右腕と青炎槍カラカンを見ていた。
新スキルを獲得したか? とそのキサラに掛け声を発したキッカとキスマリが前進し、次々に肉団子巨人兵を薙ぎ払うように倒している。
肉団子巨人兵は大きいから倒れたら、倒れた側にいた重装歩兵のベドアズが一度に数百は巻きこまれて倒せるから便利だな。
と俺の近くの地盤が平らの地面と敵たちが宙に舞った。
イモリザか、イモリザが銀髪を地面に浸透させて、一気に、その地面をひっくり返し地面に乗っていた複数の魔族兵士たちを宙空に放り投げていた。
「きゅぴーん、いっきまーす」
間の抜けた可愛い声が戦場に響く。
突兀岩場の上空に点在し泳いでいる大量の<魔骨魚>から雷属性を帯びた骨の弾丸が次々に射出され、宙空に放り出されていた魔族たちの体を蜂の巣にしていく。
凄い。更に、地上からイモリザに近付いていた眼球と眼球が左右にくっ付いたガビーサーをも<魔骨魚>が撃ち抜いていた。イモリザは銀髪を元に戻して両手の指から黒い爪を伸ばし、二眼二腕の魔剣師の体を串刺しにして倒す。
俺も前方の敵集団向け《連氷蛇矢》を連続的に放つ。
イモリザとキサラたちをフォロー――。
《連氷蛇矢》で眼球モンスター兵のガビーサーを倒していく。
イモリザは、
「<使徒三位一体・第一の怪・解放>」
とスキルを発動。
<魔骨魚>に乗って上昇しつつ「使者様、石棺の壁は完全に城です! そこでわたしは戦います!」と発言しつつ石棺の上を飛行していく。
「――おう、ピュリンだな」
「はい~」
とイモリザはピュリンに変身。
ピュリンは、俺に向けて手を振った。
頷いてから敵を倒そうかと、意味を込めて《連氷蛇矢》を地上にいるガビーサーを撃ち抜く。
ピュリンは組み上がった石棺と石棺に片腕の骨銃を置いて、直ぐに骨の弾丸を撃ちまくっていく。
重装歩兵のベドアズをヘッドショットどころか潰すように連続キルしまくっていた。
銃架からブローニングM2をぶっ放しているように見えるほど連射速度が速い。
そのピュリンはうつぶせスタイルに移行――。
片腕をバレットM107の対物ライフル銃と似た形の骨銃に変化させ<光邪ノ大徹甲魔弾>を射撃しまくる。イモリザが崩した地面のお陰で、地形が悪くなっているお陰もあり、地上にいる重装歩兵のベドアズは非常に足が遅い。ピュリンは最初からこれを狙っていたようだ。
次々に重装歩兵のベドアズが撃ち抜かれて倒れる。
戦車の大砲を喰らった如く複数の重装歩兵のベドアズが一度に破裂しながら散る姿が凄まじい。
そして、大軍故に水神ノ血封書に王氷墓葎の書などを出して極大魔法をぶちかましたくなった。
が、先ほど倒した四眼四腕のライシャンが、どの程度の地位かも不明だ。
俺に槍状の魔法弾を飛ばしてきた魔術師もいる。そいつは、俺たちから離れたままだ。投石器のような物も破壊したいが……。
この重装歩兵のモンスター兵を潰さないとな、タクシス大砦の堀が死体で埋め尽くされたら壁を越えられてしまうことも可能なほどの数だ。
そして、他にも悪神ギュラゼルバンの眷属か大眷属はいるだろう。
ヴィーネとアドゥムブラリの二人は上下左右の宙空を行き交いながら翡翠の蛇弓と<魔弓魔霊・レポンヌクス>を用いた遠距離攻撃を行い中。
その二人は、飛行速度を落とす。
俺に視線を向けてから突兀としている岩場に向かう。
石棺の壁の上に着地しながら、そこで、ピュリンたちと会話しつつ遠距離攻撃を行い始めた。
まだ重装歩兵のベドアズの部隊は近寄ってきているが、ドラゴンの顎と似た突兀岩場を囲う石棺の壁は越えられない。
ビュシエは、砦としての出入り口を坂下の先に造り上げていた。
重装歩兵のベドアズの大軍勢が、その出入り口のほうに並びながら向かう。
すると、ビュシエが突兀岩場から離れた。
飛行し俺に近付きながら複数の<血道・石棺砦>の石棺を生成。
ビュシエは、突兀の岩場にいる俺たちを攻撃しようと前進していた眼球のモンスターのガビーサーと重装歩兵のベドアズの軍勢目掛けて複数の<血道・石棺砦>の石棺を落とした。
重装歩兵のベドアズとガビーサーは逃げることもできず石棺に次々と押し潰されていく。
石棺は長方形が多いが上下左右に並び重なれば正方形。
右前方で積み重なっていた石棺の一部がちょうど巨大な正方形となった。
瞬く間に石棺の段差が付いた大通りが平原に出来上がる。
が、さすがに背後に砦を維持しながらの<血道・石棺砦>の攻撃の運用には<血魔力>の消費が激しいのか直ぐに地面に敷き詰められていた複数の<血道・石棺砦>を消していた。
石棺が消えた地面は重機で整地されたように見える。
これが<血道・石棺砦>の本当の使い方かも知れない。石棺は凄い。
ビュシエに、
「攻めの<血道・石棺砦>も見事、優れたスキルだ」
「はい、ありがとうございます!」
と笑顔満面で返事をしたビュシエは<血魔力>を含んだ金髪が一気に舞い上がる。
石棺の砦の外側は斜面の岩場が多い。
だから、ドラゴンの顎と似た突兀岩場に入るには宙空から侵入する以外は、ほぼほぼ不可能。
と、坂下は城の中庭のような広場になっている。
その広場の前方は石棺と石棺の虎口が形成されていた。
虎口は一人か二人通れる幅の通路で、その虎口を進む重装歩兵のベドアズは確実に皆から攻撃を受けて潰れるように倒れる、十字砲火どころではないな。
相棒の炎がそれらを倒れた死体を焼き払い、死体の肉壁も作らせていない。
と重装歩兵のベドアズたちが、俺たちに向けて斧を投げてくるが、届かない場合が殆ど。
この岩場は敵の注意を引き受けた形となったようで、タクシス大砦を囲う敵の数は極端に減った。そして、ここを皆に任せても大丈夫かな。
が、ビュシエの<血道・石棺砦>を破壊できる強力な攻撃もありえると想定しておかないとだめだ。すると、リサナの波群瓢箪が石棺の上を浮遊しながら外側へ跳び降りていた。真下の斜面には、重装歩兵のベドアズたちの死体を吹き飛ばしていた四眼四腕の剣師たちがいる。
悪神ギュラゼルバンが雇った魔傭兵団だろう。
その四眼四腕の剣師は、魔剣を突き上げ波群瓢箪の底を刺そうとしたが、その魔剣ごと四眼四腕の剣師ごと、足下の複数の死体をも潰すと斜面ガレ場を大きく陥没させていた。
リサナの波群瓢箪は直ぐに上昇し――。
<血道・石棺砦>の石棺が作る簡易砦に戻ってきた。
リサナは波群瓢箪から<魔鹿フーガの手>はまだ出していないが、波群瓢箪も<血道・石棺砦>のように使える。
ピュリンとヴィーネとアドゥムブラリの遠距離攻撃の軌跡を見ながら――。
俺も《連氷蛇矢》を射出しまくる。
ビュシエは、<血道・霊動刃>を飛ばしていた。
と、黒豹と銀灰虎が<血道・石棺砦>の石棺の壁から跳び降りた。
石棺の壁際にいた重装歩兵のモンスター兵に飛び掛かる。
四眼と変な四つの口がある頭部を喰らっては、吹き飛ばしていた。
犀花も、
「オグォ~ン」
気合い声を発して角を伸ばしながら、ガビーサーを貫いて倒す。
そこに、悪神ギュラゼルバンの騎兵軍団が近付いてきた。
蹄が大地を打ち鳴らす重低音は迫力がある。
「サイファ、来い――」
「オゥ~ン」
走り出していた犀花に跳び乗った。
右手に魔杖槍犀花を召喚――跳ぶように駆けて騎兵部隊を追った。
ドラゴンの顎と似た突兀岩場の周囲も傾斜しているから騎馬には向かない。
近づけてもビュシエが用意した<血道・石棺砦>の石棺の壁を越えるのは至難だろう。
が、騎馬が空を飛べるなら別だ。
ドールゼリグンかバセルンに見えるから飛べないとは思うが。
騎馬隊は、ビュシエがドラゴンの顎と似た岩場と<血道・石棺砦>の石棺の壁を避けるように周囲を回っていく。
騎兵部隊に乗っている魔族の頭部にヴィーネとアドゥムブラリの遠距離攻撃が刺さっていく。騎手を失ったドールゼリグンのような馬は転倒し、違うところに走って逃げていった。戦わず逃げてくれと祈る。
その中の騎兵部隊から俺の動きに合わせて数十騎が寄ってきた。
突撃してくる。騎手は四眼四腕の魔族で兜が渋い。
得物は青龍偃月刀を彷彿とさせる。
<闘気玄装>など複数の<魔闘術>系統は維持したまま駆けた。
すると、犀花は加速。
「オグォ~ン」
気合い声を発した犀花。
そのまま四眼四腕の騎兵に近付くと、
「速いが!」
と青龍偃月刀を振るってきた。
受けずに魔杖槍犀花で<血龍仙閃>――。
魔杖槍犀花の血のブレードのような魔力の穂先が青龍偃月刀と似た薙刀系の得物をすり抜けて四眼四腕の騎兵の肩口から胸を真っ二つ。
俺は騎馬戦もそれなりに経験済み――。
そのまま駆けて、前方に居た四眼四腕の騎兵に近付く。
騎兵は魔槍を突き出す。その穂先を魔杖槍犀花の柄で受け流し、返しの<魔仙花刃>で、片腕を切り落としてから魔杖槍犀花を振り上げる。櫂で、騎兵の顎から潰すように、頭部を吹き飛ばして倒した。
続けざま、魔犀花流を示すように魔杖槍犀花を振るい、犀花と一体化したように十数の騎兵と相対、数合も打ち合わず、そのすべての騎兵を仕留めた。
と左上空から魔素を察知――。
犀花は左に跳ぶ、俺は右上に上昇――。
魔素は槍状の魔法弾――。
犀花がいた地面に突き刺さって爆発。
犀花は寄ってきた神獣と銀灰虎の下に帰還。
俺は魔術師に向かう――。
と右の視界の隅に巧手四櫂と魔犀花流派人面瘡を鎧に有した兵士たちが騎兵集団を追跡し、次々に騎兵を討ち取るのが見えた。
ヴィーネたちが指示を出したか、イズチの判断だろう。
巧手四櫂のイズチとゾウバチが右に飛翔して、インミミとズィルが左に飛翔して分かれた。
人面瘡を鎧に有した兵士たちは反転し、騎兵軍団を追うのを止めてドラゴンの顎と似た突兀としている岩場へと戻っていく。
魔術師は半身の姿勢の俺に向け魔法の槍を射出しまくってきた。
今度は戦う氣があるようだな。
<水神の呼び声>と<龍神・魔力纏>と<魔闘術の仙極>を連続発動し、左に回り、魔法の槍を避けながら、いきなり《氷竜列》を放つ――。
宙空を突き進む氷龍の頭は瞬時に数頭の氷竜に成長し魔術師に向かう。
魔術師は魔法の盾を急ぎ生成するが<魔闘術>系統の差が顕著に出たか、数頭の螺旋に回転している氷竜とまともに衝突し、大爆発――。
凍り付いたことも見えず氷霧と水蒸気が周囲の空を締めた。
良し、悪神ギュラゼルバンの眷属らしき魔術師を倒した。
刹那――。
左の上空に漆黒の雲のようなモノが出現するや――。
「『お前が【レン・サキナガの峰閣砦】を守っている謎の槍使いか……』」
と神意力を有した存在が念話を寄越してきた。
続きは明日。
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