千四百七話 作戦会議と古魔将アギュシュタンの髑髏指環
2024年3月20日 20時35分 修正
立体的な魔地図には、俺たちと悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの軍勢が将棋の駒のような物で配置されていた。
揺れているから地響きのようなモノが起きていると分かる。魔地図の効果かな。
レンに、
「タクシス大砦は持ちそうか?」
「はい、籠城は数十刻は持つはず……」
十数時間持つのならタクシス大砦は堅牢か。
「では、俺はタクシス大砦に向かう。そして、キサラから少しだけ作戦の概要は聞いていたんだが、レンはどのような作戦を考え中なんだ?」
レンは頷いて、立体的な魔地図に近付く。
レンは魔力を発して、その魔地図に幾つも置かれている将棋の駒を動かす。
今までの戦場の様子を示すように【ララガべ砦】、【ベーシアン砦】の背景と将棋の駒が悪神ギュラゼルバンのフィギュアに呑まれるように消えた。
そして【峰閣砦】付近にいたシゲザネと書かれた駒と他の駒が浮きながらタクシス大砦にまで移動し、
「――直参ナガタ魔槍隊、シゲザネ魔銃太刀隊、シモルア魔太刀特攻隊、カトウダ大隊の援軍が間に合ったタクシス大砦を守るほうが先決と考えています。恐王ノクターの勢力と睨み合っている黒騎虎銃大隊と北方マニア馬兵団はまだ動きそうにないですからね」
と教えてくれた。
「了解した。ではタクシス大砦の防衛に参加するか、野戦で悪神ギュラゼルバンの軍をなんとかしようか」
レンは頷くと、魔力を発して、俺を示すような<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と似た駒と、相棒のフィギュアのような物を、タクシス大砦へと移動させていた。
<血鎖の饗宴>を使えば大軍だろうと、ある程度は削れるだろう。
「――はい、その前にタクシス大砦の城主の間を映している秘境ノ大具を見てください。中央にいる黒髪の魔族がタクシスで城主、二剣流の強者です。隣がタクシスが抜擢した魔将校魔剣師アワリです、黒鳩連隊隊長ソウゲンも近くにいる。そして、他にもタクシスが、討ち死にした将校の代わりに雇い入れた魔傭兵団などの強者がいます」
「了解した」
しかし、アワリか、ルクツェルンの暦でゴトウガに負けて一文無しとなって、【ララガべ砦】の助太刀兵に出ていたはず。
出世したようだ、余っ程強いんだな。
同名で別人ってこともありえるが……。
秘境ノ大具のタクシス大砦の城主の間を凝視。
奥行きがある。時々視界が動く、合わせ秘境を持つレンの部下が城主の間にいるってことか。天井から家紋入りの垂れ幕が八方面の壁に掛かっていた。
俯瞰で見たら正十二面体を真上から見るような印象か。
家紋はタクシス大砦を支配している魔族の家紋か?
レン・サキナガの家紋もある。
天井付近の宙空には複数の緑柱石のような魔道具が浮いており、その魔道具から虹色と赤色の積層とした魔法陣が天井と垂れ幕が掛かる八方の壁を覆うように展開されていた。
八面の壁には、壁龕と魔力を有した菱形の緑柱石と紅玉のような柱が中央に向け突き出て、先端の魔宝石らしき物から輝度の高い光が城主の間に照射されている。
明るい壇の中央では、峰閣砦の天守閣と同様に会議が行われていた。
魔鎧を着た大柄の男が城主のタクシスか。
二眼二腕二足だが、腰に差した二本の魔刀は業物に見える。
襤褸な外套と革鎧を着た魔族がアワリ。
露出した体の部位に傷はない。
そして、身なりからして、かなり貧乏と分かるが、魔太刀は本物。髭といい強者だろう。
回復スキルも相当優秀か? ルクツェルンの暦で大負けしたアワリに違いない。ゴトウガとの約束もあったが、戦争中だルクツェルンの暦はいつかだな。ハブラゼルの魔宿の女将たちなら状況をある程度説明できるだろう。
背が低いドワーフと似た魔族と、魔術師の二人の女性と、面頬を装備した四眼四腕の魔族もいる。野郎たちの得物は魔大刀持ちが多い。
女性の魔術師たちは、上半身が霞んでいる。
霧状の魔法のヴェールのようなもので覆われていて、薄らと頭部と金髪が分かる程度。
あの武将たちの中にモゴゼ大隊の隊長さんたちもいるだろう。
ドワーフと似た魔族はハンマーを腰のベルトに差し背中の片腕が太い。
四眼三腕の魔族でもある、バリィアン族ではない。
頷き一通り、将校たちを確認してから、近くの床にゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の片方を置いた。
周囲がざわついた。
ヴィーネとエヴァとキサラとキッカを見てから、
「ご主人様、ここに鏡を、魔神たちは【峰閣砦】の天守閣を<千里眼>などのスキルか魔法で、遠隔から見ている可能性もありますが……」
「ん、そう考えると、わたしたちの作戦は筒抜け?」
「筒抜けを前提で話をするしかない。そして、見られてもいい」
と古魔将アギュシュタンの髑髏指環を触り宙に放る。
「古魔将アギュシュタンをここに出しておく――」
と古魔将アギュシュタンの髑髏指環は古魔将アギュシュタンに変身し、着地。
太い二本の腕と二本の足。
右腕だけから濃厚な<血魔力>を発していた。
「「「「「おぉ」」」」」
古魔将アギュシュタンは周囲を見渡して、魔大刀シスーを出現させながら片膝の頭で床を突く。
そして、頭を上げて、
「主、会議中であったか、戦の準備ですな」
古魔将アギュシュタンに向けて頷いて、
「おう、立ってくれ。古魔将アギュシュタンには、ゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の防御を頼む」
「承知」
古魔将アギュシュタンは立ち上がり、のしのしと歩きながらゴウール・ソウル・デルメンデスの鏡の前で仁王立ち。
「「「……」」」
周囲が静まり返る。
「〝古魔将アギュシュタンの髑髏指環〟から本当に変身した……」
「あぁ、話で聞くのと実際に見るとでは異なる」
ニナとズィルが普通に語った。
南華仙院と魔犀花流派は争っていた二人だから、少し嬉しい。
〝巧手四櫂〟のゾウバチは、
「古魔将アギュシュタン殿……特殊な魔大刀を扱うと聞いていた……闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスに複数の僕を生み出せる<光魔・血霊衛士>などもあると聞いていたが……総帥様は実に多彩だ! 戦も楽しみです!」
と興奮したように喜ぶ。
イモリザたちは、ジッと、南華仙院の明櫂戦仙女の二人と魔犀花流派の巧手四櫂の四人を見ていた。
レンも驚いて、
「シュウヤ様、その鏡が転移可能な……そして、その呼び出した存在は……」
「あぁ、古魔将アギュシュタンだ。普段は髑髏指輪だが、このように召喚が可能。バーヴァイ城にも<古兵・剣冑師鐔>のシタンという強者を防御に回している存在がいる」
「そうでしたか、見た目といい魔力も相当に内包している強者ですね」
「おう」
古魔将アギュシュタンは微動だにせず。
レンは拍手すると皆も拍手していく。
その拍手を止めるように両手を上げて、
「では、ヘルメとグィヴァは両目に入ってくれ」
「「はい!」」
直ぐに両目に入った常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァ。そして、
「キスマリ、ヴィーネ、キサラ、ビシュエ、キッカ、イモリザは、俺たちと共にタクシス大砦に行こうか」
続きは明日。
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