千四百五話 ヘルメとグィヴァと明櫂戦仙女と巧手四櫂
青い光が【レン・サキナガの峰閣砦】の街と【メイジナ大街】の端を怪しく照らす。
魔神殺しの蒼き連柱の影響か。
真夜の魔界セブドラは薄暗いが魔神殺しの蒼き連柱の影響が強まると、空から青い光が魔界セブドラの大地に注がれる。
少し先の小石が敷き詰められた石畳も、家々の瓦の屋根も、通りの端の停められている荷馬車も、何もかもに僅かな青さがあった。
と、警邏の黒鳩連隊が見えた。
俺の姿を見て、宙空で止まると会釈し引き返しながら大通りに降下。
逃げていた方々に俺たちの存在を伝えているようだな。
一方、闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスは皆が降りたことを確認後、姿を小さくしながら寄ってくる。
その闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスの背後では人々が門向こうと四方の大通りへと駆け込むように逃げていくのが見えた。
闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスは直ぐに、俺が出しっぱだった〝闇烙・竜龍種々秘叢〟の巻物の中へと、風船が萎むような機動で帰還してくれた。
逃げず寄ってくる猛者は四眼四腕の魔族と二眼二腕の魔族の数名。
一般の方に酷い被害は出ていないと思うが、闇烙竜ベントラーと闇烙龍イトスの存在感は半端ないからな、驚かせてしまった。
見知らぬ人々に済まないと心で謝る。
と、空から近付いてくる見知った魔素を凝視――。
常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァだ。
ヘルメは体から環状の水飛沫を連続的に周囲に発生させていく。
音速並みの速度は出ているか?
が、グィヴァと共に衝撃波を発生させないことが可能のようだ。
両手の指先から細かな指向性を持った水魔法を発生させている。
蒼色が基調なグラデーションが、環状の霧を彩り儚く消えていく。
周囲の建物は揺れているようにも見えたが破壊はされていない。
グィヴァも両腕から放電しているような魔力を宙空に放出していた。
それはテスラコイルの放電や雷雲に発生するスプライトにも見える。
「――閣下と、ロロ様とメトちゃん~」
「――御使い様ァ」
「よう、二人ともただいまだ――」
「にゃ~」
「にゃァ」
ヘルメとグィヴァを抱きしめた。
相棒たちも二人に頭突きをしていく。
「「――はい!」」
横に回転しながら二人の温もりを得た。
首筋にキスをされまくる――。
大きい乳房の柔らかさを胸に得た。
ヘルメの水飛沫とグィヴァの稲妻の微かな刺激が、煩悩を刺激する。
同時に<無方南華>のお陰で、二人から魔力を得た。
「閣下……」
「御使い様……」
二人は目を瞑りつつ顔を上向けてきた。
まずはヘルメの唇から――。
その唇を重ねてキス。
長めのキスで上唇を優しくマッサージするように引っ張る。
そして、濃密な魔力を口移しでプレゼント。
「ぷはッ――」
ヘルメは背を反らしながら体を少し痙攣させていく。
そのヘルメの体を片手で支えると、悩ましい視線を寄越すヘルメの想いに応えるように、紫がかった小さい唇に自らの唇を重ねてキスをしながら上体を起こしてあげた。
ヘルメは上唇を滑らせながら俺の頬を舐めてくる。
興奮しているヘルメは身を委ねるように体重を掛けてきた。
と、俺の体に水を与えるように体の一部を液状化。その液状化は少し粘っこい。俺の体と一体化したいように股間辺りを重点に絡み付かせてくれた。エッチモードに入ってしまうだろうに、皆が見ているからヘルメにそれ以上はだめだと心で伝えると、伝播したように、僅かな温かさを股間に得たところで、ヘルメは液状となっていた体を自らの女体に引き戻していた。
「ふふ、閣下も元気な部分をもっと労ってあげたかった……」
「それは今度な、皆がここにはいる」
「皆の視線なら、既に周囲に簡易な《水幕》を展開させてますから見えていませんよ」
「そっか、が、続きは隣に待っているグィヴァもいるから、今度な」
「はい、ふふ」
ヘルメが離れると、グィヴァは体を寄せてくる。
グィヴァの桃色と紫色が混じる唇の上に、自らの唇を重ねてあげた。
最初は優しいキスをしていくが、グィヴァは直ぐに唇を広げながら俺の唇を広げて舌を絡ませてきた。そのままグィヴァとキスを楽しむ。
そして、<血魔力>を送ってあげた。
「あんっ」
とグィヴァは喘ぎ声を発して体を反らし果てていた。
恍惚とした表情を浮かべているヘルメとグィヴァは魅惑的だ。
その二人を起こすようにギュッと体を抱きしめてあげてから離れた。
「ガンゾウにしてやられたが、様々に成長できた」
「はい、ヴィーネとキサラから少し聞きました」
「ガンゾウは、魔神で放浪魔神など幾つもの異名と称号を持つような存在で、わたしたちの攻撃を往なして強かった……転移して消えたときは、心を穿たれた氣がして、辛かった……とにかく無事で良かったです」
「おう、ごめん」
「ふふ、はい」
「下にいるのが、魔犀花流派と南華仙院の方々ですね」
「そうだ」
《水幕》を解除したヘルメとグィヴァを連れて少し降下。
南華仙院と魔犀花流派の皆は広場で空を飛べる者と空を飛べない者に分かれていた。
争い合う姿はない、長く説明しただけはある。
というかアドゥムブラリとも何回も話をしているが、記憶を共有できるようになるスキルは俺には必要か。だが、探している余裕はないからな、現状はこれも仕方なし。それに実際に喋って伝え合うのもコミュニケーションになるしな、神界側の南華仙院と魔界の魔犀花流派の交流にもなった。
空を飛んでいる明櫂戦仙女のニナとシュアノはヘルメとグィヴァを見て気付いたように上昇し近付いてくる。
南華仙院と魔犀花流派には、空を浮遊している方が数百名いた。
飛行術の魔法か、<武行氣>のようなスキルを持っていたようだ。
飛行できない方もいる。
ニナとシュアノに頷きながら、
「一旦下りよう」
「「「「はい」」」」
共に降下。
幻甲犀魔獣の犀花と広場にいた魔犀花流派のイズチ、ゾウバチ、インミミ、ズィルも寄ってきた。
「オゥ~ン」
と、幻甲犀魔獣の犀花がヘルメとグィヴァに挨拶。
「ふふ、こんにちは、この不思議な幻獣ですか?」
「御使い様が使役を?」
犀と似た角を縮ませる犀花は頭部をヘルメとグィヴァに向けた。
ヴィーネたちから聞いていなかったか。
「そうだ、〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を読んで、魔神ガンゾウの記憶を見た時に<幻甲犀魔獣召喚術>のスキルを獲得したら得られた」
「ふふ、〝黒呪咒剣仙譜〟と似たような奥義書で、幻獣のような召喚獣のスキルを獲得とは……」
「オゥ~ン」
とヘルメとグィヴァは犀花の頭部を撫でていく。
犀花の頭蓋骨は馬のように見えるが後頭部の出っ張りはトリケラトプスと少し似ているし防具的で武器になりそうだ。
グィヴァはその犀花を撫でて、
「――幻甲犀魔獣……魔神ガンゾウは幻獣か魔獣の存在の魂を封じるスキルか魔法も扱えたのですね」
「たぶんな、相当な存在だ」
その犀花は後退し、俺の背後に回る。
黒猫と銀灰猫も俺の足下に戻ってきた。
さて、皆にヘルメたちに紹介しようか。
〝巧手四櫂〟の四人は額に花模様があるし、美人で渋い武人ばかりだから味方にできて凄く嬉しい気分だ。
魔犀花流派のスキルも〝魔犀花流槍魔仙神譜〟を知っているが細かな槍技はまだまだ覚えていないことが多い、完全に読み切ったらまた違うのかも知れないが……。
光魔ルシヴァルの眷属化の話もふりたいな。
魔犀花流派としてのプライドがあるだろうし……と、いきなり過ぎるか。
広場にいる千名近い方々が、一斉にグィヴァとヘルメを注視してきた。
一歩前に出て片手を上げてから、その片腕の先をヘルメとグィヴァに向ける。
そして、
「皆、話をしていたが、この女性たちが、俺の目に棲まうことが多い精霊たちだ。名はヘルメとグィヴァ」
と紹介した。
「「はい」」
「常闇の水精霊ヘルメです。閣下の水です。閣下の左目にいることが多いです、よろしく」
「闇雷精霊グィヴァです。御使い様の雷です。御使い様の右目にいることもあります、よろしくお願いします」
ヘルメはヘルメ立ちを行う。
グィヴァもグィヴァ立ちを行なった。
特徴有るポージングは魅惑度がかなり高い。
「「はい! 精霊様!」」
「「「「よろしくお願いします! 精霊様」」」」
「「「「「「「――はい! 精霊様!」」」」」」」
「「「「「「――よろしくお願い致します!!」」」」」」
ニナとシュアノと南華仙院の戦士団は勿論、イズチ、ゾウバチ、インミミ、ズィルに魔犀花流派の人面瘡の鎧を着た兵士たちが、一斉にヘルメに敬礼し、挨拶していく。
野郎も多いから美しい女性でもあるヘルメとグィヴァには魅了されただろうな。
ヘルメとグィヴァに、
「二人と本契約を果たしたところは、だいたい説明してある」
「あ、はい、閣下との出会いは、あの泉……うふ」
あの泉だ。激しくエッチした覚えがある。
その後、ずっと、俺のお尻に入ったままでいた。
水神アクレシス様の神殿で、神官長キュレレがヘルメ爆誕の誕生を奇跡的に見ていたが、今思えば、完全に忘れていたし、驚きなんてもんではなかった。俺は女性を産んだと思ったからな……さて、水神アクレシス様に感謝しておこう……。
そして、ヘルメがいたから、お尻愛という謎言葉が俺の中で流行ったことがあった。
グィヴァは、
「……わたしは、ブカシュナの闘柱大宝庫ですね」
「おう、本契約では、俺が雷属性を得られた時でもある。感謝だ、グィヴァ」
「ふふ、御使い様、闇神アーディン様の影響が殆どですよ」
「それでもだ、可愛い精霊さんが増えて嬉しい」
「……はぃ……嬉しい」
グィヴァの両目が、とろんっとして可愛い。
が、直ぐにグィヴァは、ハッとしたように表情を変化させた。
千名近くの魔族たちが、ここにはいるからな。
そのグィヴァの体から稲妻の魔力が放出された。
バチバチとした音が少し怖い。
「グィヴァ、皆も気になっているようだぞ」
グィヴァは、皆の眼差しに応えるように一歩前に出て、
「御使い様との本契約には、闇神アーディン様も関わっているのです。わたしは、闇精霊ドアルアルの塊だった。そして、闇精霊だけの記憶は、【闇雷の森】の花妖精アンと『青い花と赤い花』の会話をしたことを覚えているだけ、しがない闇精霊だったのです。闇精霊サジュ、闇精霊ベルアードよりも小さい。しかし、御使い様の本契約で闇雷精霊グィヴァに昇華できたのです」
「「「おぉ」」」
グィヴァの語りに皆が感心するような声を発した。
その皆に、
「南華仙院の皆、この【レン・サキナガの峰閣砦】で暫し、待機してもらうことになると思う」
「シュウヤ様、特務部隊は実戦が豊富です。悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターとの戦いに貢献できます」
「はい、シュウヤ様は戦神マホロバ様の恩寵を持つ、南華仙院の大仙人様と同じ、わたしたちには師叔にあたる立場、自由にわたしたちをこき使ってください!」
「「「「「はい!」」」」」
「「俺たちは戦えます!」」
「「わたしも戦えます!」」
「「戦えます、戦いますぞ、戦神の名にかけて!」」
南華仙院の戦士団の方々が気合いを発しながら語る。
その気合いを確認するように、<武行氣>で少し体を浮かばせて、皆を見据えてから、ニナとシュアノの明櫂戦仙女の二人を見て、
「……戦神マホロバ様に、『南華魔仙樹がある【マホロバの地】まで送ってくれ』と頼まれたんだ。悪いが、一人たりとも失わせるわけにはいかない。だから戦神マホロバ様のために【レン・サキナガの峰閣砦】で特務部隊は待機となる」
「分かりましたが、どのくらい待機していればいいのですか?」
シュアノの言葉に、南華仙院の方々全員が、俺に刮目。
坊主頭の戦士のバムトさんは、真剣な面持ちで、魔杖槍南華を掲げている。
『わしも戦いたい!』と心の声が聞こえたような表情を浮かべていた。
呉の厳顔のような武将に似ているし応援したくなる。
連れていって戦ってもらいたくなるが、心を鬼にして、
「悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの戦力が、この地方から手を引くまでぐらいだな」
「「「……」」」
「シュウヤ様……」
シュアノと南華仙院の戦士たちの中には納得がいかない者もいる。
武闘派が多いから当然だろう。だが、ニナは、
「――分かりました、待ちます、皆もいいわね? いつも通り魔界の街での行動基準に沿っての行動を忘れないように!」
「「分かりました」」
「「はい!」」
とリーダーらしく皆を纏めてくれた。
そこで、魔犀花流派の〝巧手四櫂〟を見てから、右手に持つ魔杖槍犀花をヘルメとグィヴァに見せるように掲げつつ、
「ヘルメとグィヴァ、そこの四人が魔犀花流派の〝巧手四櫂〟の四人だ」
「あ、はい、ヘルメです、よろしくお願いします。そして、魔犀花流派の方々、魔神ガンゾウを信奉する集団でもあるとか?」
「はい、グィヴァですよ、よろしくお願いします」
「「「「はい!」」」」
拱手して精霊たちに応える巧手四櫂のイズチとズィルとインミミとゾウバチ。
イズチが、
「はい、魔犀花流派の奔流は総帥があっての魔犀花流派! 魔神ガンゾウ様も『岩戸で新しい弟子、新しい総帥が魔犀花流派を復活させる、それまで、お前たちは生き残れるかは、己の才覚次第じゃ、ひゃひゃひゃ……』などの他にも様々な言葉が、伝承として口伝されていたのです」
己の才覚次第か、俺にも言っていたな、魔神ガンゾウらしい。
「そうですか、魔犀花流派は、槍使いたちでもあるようですから、閣下も気に入ったのですね」
「あぁ、魔杖槍犀花はいい武器だ」
そこで、ヘルメからニナとシュアノとイズチたちに視線を移し、
「レンたちがいる峰閣砦に向かうが、明櫂戦仙女と巧手四櫂のメンバーだけ付いてきてくれ」
「「「「はい」」」」
「「承知」」
続きは明日。
HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。
コミックス1巻~3巻発売中。




