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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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140/2068

百三十九話 カレウドスコープ※

2021/02/07 23:40 修正

 ヴィーネは奴隷ではなくなったが、まだ俺に付いてきたいらしい。


 だから彼女は普通の従者となった。


 過去話をしていた彼女は疲れていたのか寝ている。

 迷宮からの帰りだったし、少し無理させちゃったかな。


 寝顔も美形だ。

 さっきは少し不安を覚えたが……。

 安心した寝顔を見ていると……。


 彼女は俺を信頼したか慕ってくれたのは確かなようだ。


 そして、男、特に弱い男のことを毛嫌いしているようだが、彼女の過去話による言い回しだと、仕方がないと思える。


 しかし、強い雄、強い男はダークエルフ社会に於いて逆に貴重な存在と分かった。


 ダークエルフの女社会は男のヒエラルキーが低いからよりよい種を残すための教育の一環だろうし、その中で〝強い雄〟を探すことは大変なんだろう。

 だからこそ優秀な女性は率先して強き男を夫に迎えて、他より優れた子孫を所属するコミュニティーに残さなきゃいけなんだろう。


 自分たちの一族である魔導貴族を繁栄させるために。

 ま、優秀な彼女を失わずに済んだ。


 無理やり、俺のスキル<眷族の宗主>で従属化はやりたくないし、彼女を俺の眷族にするのなら、コミュニケーションを円滑に行い互いに納得してから使いたい。


 眷族の従者はヴァンパイア化するんだから。


 俺と同じように光属性が苦にならないのなら別だが……。


 その可能性はやってみないと分からない。

 血を受け継ぐんだから大丈夫だと思うが……。


 もし、ヴァンパイアとして彼女が<筆頭従者長>になったら太陽が弱点となって、昼に歩けなくなったら俺の責任だ……。


 その辺を踏まえて、今度ヴェロニカやポルセンに聞いてみるか。

 しかし、ヴィーネがだ、俺が実はヴァンパイア系の新種族(ルシヴァル)だと、血を吸う人外と知ったら……どうなる?


 否定して逃げるか?

 只でさえ、マグルといって地上を差別的に考える女だ。


 可能性はある。


 だからと言って、俺の正体を明かさないのは……。

 逆に彼女の信頼を損なうものではないか? 


 と思うわけで……。

 ふぅ……

 まだいいか……ヴィーネは寝ているし。

 今は他にもやるべきことがある。


 真実を話すのは後回しにしよう。


 まずは集めた魔石をアイテムボックスに納めて宝箱から手に入れたアイテム類とかをチェックしないとな!


 銀箱から手に入れた、あの霧の蜃気楼(フォグミラージュ)の指輪を試す。


 あの指輪があれば、魔技<仙魔術>が生きてくるはず。

 肝心の<仙魔術>だが……。


 あまり練習をしてないんだよなぁ。

 これからは<仙魔術>の練習も時々行うか。


 さて、魔石をアイテムボックスに納める。

 アイテムボックスに触り、


「オープン」


 アイテムボックスを起動させて、中から百個の魔石を取り出し、魔石を床に置く。


 次にメニューにある“◆”マークを押した。



 ◆:エレニウム総蓄量:60

 ―――――――――――――――――――――――――――


 必要なエレニウムストーン:90:未完了。

 報酬:格納庫+20:カレウドスコープ解放。

 必要なエレニウムストーン:200:未完了。

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能搭載。

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。


 ??????

 ??????

 ??????

 ―――――――――――――――――――――――――――



 いつものようにウィンドウの右に羅列表示される。

 ウィンドウの左にも表示された。



 ―――――――――――――――――――――――

 ◆ ここにエレニウムストーンを入れてください。

 ―――――――――――――――――――――――



 その魔石を納める大きい◆マークへ床に置いてある百個の中型魔石を、いっきに入れる。


 ―――――――――――――――――――――――――――

 必要なエレニウムストーン:完了。

 報酬:格納庫+20:カレウドスコープ解放。

 ―――――――――――――――――――――――――――


 おぉぉ? 光だ。


 ウィンドウの中で完了と。

 報酬解放の文字表示が出た瞬間、アイテムボックスから光の粒が無数に放出された。


 その放出された光粒子がすぐ真上の一ヶ所に集合し消失。

 光の集合体は消えたが、消えた宙には小さい十字型の金属が浮かんでいた。


 これが、カレウドスコープ?

 ボタンやゲームコントローラーの十字キーにも見える。

 その浮かんでいる十字ボタンを掴んだ。


 これ、金属製のバッチのような感触。

 どんな風に使うんだろ。

 分からない、後回しだ。


 その金属十字を握りながらアイテムボックスの上に浮かぶウィンドウ表記を見た。


 エレニウムストーンの数を確認。



 ◆:エレニウム総蓄量:160

 ―――――――――――――――――――――――――――


 必要なエレニウムストーン:200:未完了。

 報酬:格納庫+25:ディメンションスキャン機能搭載。

 必要なエレニウムストーン大:5:未完了。

 報酬:格納庫+30:フォド・ワン・カリーム・ガンセット解放。

 必要なエレニウムストーン大:10:未完了。

 報酬:格納庫+35:フォド・ワン・カリーム・ユニフォーム解放。


 ??????

 ??????

 ??????

 ―――――――――――――――――――――――――――


 ちゃんとエレニウムストーンの総量が百六十になった。

 次の二百は減らなかったからカウントされなかったらしい。


 それと魔石を納める報酬に新しいのが追加されている。

 ユニフォームとは防具品か?

 求められるエレニウムストーン大か。

 ……きっと大型魔石や極大魔石じゃないと駄目なんだろうな。


 魔石を集めるのも苦労しそうだ。


 そこでウィンドウ画面を素早くタップして、アイテム表記に戻す。

 すぐにブゥンっと効果音がなり、普通のアイテム表記画面に戻った。


 ◆:人型マーク:格納:記録

 ―――――――――――――――――――――――――――

 アイテムイベントリ 65/120


 やった。ちゃんと格納庫の最大数が増加した。

 これでもっとアイテムを色々と入れられる。


 次は掌にあるカレウドスコープの確認だ。

 そこで、アイテムボックスのウィンドウを消し、スコープを握ったままだった掌を開く。


 小さいカレウドスコープの感触は冷たい。

 薄い金属、表面は滑らかな光沢。

 裏側は少しざらつきがある。

 マグネットじゃないが、何かに貼り付く仕様になっているようだけど、端子や電池の先にある金属部品のようにも見えた。


 最初はカレウドスコープという名前からして、サングラスとか万華鏡のイメージを浮かべたが見た目は小さいボタン、十字キーだもんな。


 裏側がざらざらして貼り付く……。

 もしかして、これを皮膚に貼るのか?

 試しに、掌の上に乗せて十字金属の中心を上から押す。


 うぉっ! と、光った。ビンゴ?

 十字金属の光沢表面が少し緑色に光る。


 だけど、何にも効果が無いぞ。

 すると、error、error、 errorと十字キーの金属表面に異世界文字が浮かぶ。


 更に、目の横に装着してください。


 と、赤文字で注意を促すように小さい文字が横へ流れていった。


 これを目の横に装着すればいいのか?

 掌から目の横に装着っと。


 うひょっ、貼り付いた。

 右目の横に十字型金属がくっついちゃった。

 冷んやりと気持ち良く皮膚に貼り付いている。


 おでこに貼る、冷やピタ的な感触。

 その刹那、視界にホログラフィック文字が浮かんでいた。


 ――≪フォド・ワン・カリーム・サポートシステムver.7≫起動。

 ――遺産神経(レガシーナーブ)を注入しますか? Y/N


 こんなのが浮かぶ。フォドワンカリームサポートシステム? 

 遺産神経? ひょっとしてナノマシンでも射たれちゃう? 簡易OS的なモノが起動したのか? 


 まぁ、強化されると思うんで、注入しちゃうか。

 視界に浮かぶYをポチっとな。


 ――了承しました。

 ――遺産神経(レガシーナーブ)が注入されます。


 そんなホログラフィック文字が視界に浮かんだ、その瞬間、目にチクッとした痛みが走り、右の視界がぼやけてしまう。

 だが、ぼやけたのは一瞬ですぐにクリアな視界となるが、少し変わっていた。

 視界を薄い青膜が覆っていたのだ。


 ――未知の元素、抗体を確認。適合化確率82%。

 ――適合化、成功。


 おぉ、薄青い視界の中に僅かにワイヤーフレームのような淡い光が足されていく。

 視界の範囲にある、壁、扉だけでなく全ての物を縁取るように光の線が走っている映像に変わっていた。


 レーダー? ヘッドマウントディスプレイ?

 視力はアップしたようだ。

 青い感じだけど、ズームアップができる。

 さっきよりも高解像度。


 寝ているヴィーネもフレームのような淡い光線に縁取られて、あれ、▽のカーソルが付いている?


 縁取られてる上の▽カーソルも気になるが、俺の右目横の肌感触も何か変だ。


 ゲートの鏡に映る俺の顔を確認した。


 おぉぉ、右目が変わっている。


 鏡に近付き凝視。


 目の横に貼り付いていた金属が大きな卍型の手裏剣のような形に変形していた。

 更に、卍型金属の端から薄青い硝子繊維のような極めて細かな線が皮膚の中にめり込み右の眼球に伸びていた。


 右の眼球と青い繊維が同化している。


 何か、インプラントの特殊義眼のようだ。

 色彩は鮮やかなブルー。

 コンタクトレンズのようなのが表面に付いている。

 これは近未来型スカウ○ーか?


 もしや、ドラゴンボー○のように相手の戦闘力が数値で解っちゃう?


 ザー○ンさん。ドド○アさん、追いかけなさい!

 わたしの戦闘力は五十三万です。


 とか、できちゃうのか?


 良いねぇ……。

 と、冗談はほどほどにして、薄青い視界を凝視していく。


 すると、視界の下に


 ――サイバネティックアタッチメントを切り替える時には目の横にあるアタッチメントをタッチしてください。


 と文字表示がされている。


 このアタッチメントが卍字型金属のことを指すのだろう。

 触ってみるか。

 目の横に貼り付いている金属の卍型金属を指の表面で一回優しくタッチすると、一瞬で視界が元通りになった。


 鏡を確認すると、普通の目に戻っている。

 切り替えが瞬時に可能ということか。

 目の横に装着してあるアタッチメント機械の形も元の十字手裏剣の形に戻っていた。


 また、その十字金属にタッチすると、瞬時に薄青い視界になり目の横に装着してる十字金属も卍型金属へ変形。


 カッコイイ。形状記憶合金のようだ。


『閣下のおめめが……不思議な物ですね』


 俺の左目に宿る常闇の水精霊ヘルメが視界に現れながら、そんなことを言ってきた。


『そうだな。ヘルメにはどう見える? この目』

『無機質にも見えますが、微細な魔力が僅かに感じられます』


 精霊とて、それぐらいしか分からないか。

 この目に装着した未来的な機械(カレウドスコープ)にも魔力は使われてると思うがどうみても未知の技術で作られてるのは明らかだし。


 たぶん、地球の科学技術を超えている機械類だ。

 予想だと、アイテムボックスのメニューにある人型を押して表示される種族たちの技術かな?


 推察、その一。

 この星の過去には高度文明を持つ種族が住んでいたが、現在は滅びた?

 定番で、核戦争規模の大破壊魔法による自滅?

 しかし、ロロディーヌが神獣ローゼスと呼ばれてた遥か古代の頃に、そんな高度文明が発達している雰囲気は皆無だった。

 だが、あれは地底の話か。地上は物凄く発展していたのかもしれない。


 推察、その二。

 ヴィーネやはぐれドワーフのロアが言っていた地下の暗黒世界にそんな文明が残ってる?

 推察一とかぶるが、一と同様、可能性は低いな。


 推察、その三。

 それとも、地上の何処かに隔絶された地域があるのか?

 鏡の空島?


 推察、その四。


 宇宙からの知的生命体が蠱毒システム的なモノで迷宮に挑み死んだ結果、アイテムボックスのみが現地人の手に渡った? 

 それとも高度な知的生命体による、この星にいる現地人を採用するシステムかもしれない。

 宇宙軍、帝国と同盟に分かれた……。

 そう、ジェダ○の騎士的な優れた隠者を探す蠱毒システムなのかもしれない。


 四は妄想をしすぎ、と突っ込まれるか。

 しかし、この不思議な機械と同化している目を見ると、ある言葉を思い出す。


『充分に発達した科学は魔法と見分けが付かない』


 が、正式にはこのカレウドスコープは科学とは言えないか。

 ま、いいや。謎は一時、放棄。

 寝ているヴィーネに視線を移す。


 縁取る線の上にある▽カーソルをチェック。


 これ、何だろ。


 と、意識をヴィーネに向けた途端、▽カーソルが点滅。

 ヴィーネを囲っている線も点滅し、足元が透かりだした。

 彼女の足から胴体へと全身をCTスキャンするように、その体が透過されていった。


 内臓まで見えまくり。

 一瞬でスキャンは終了。

 

 ヴィーネの▽カーソルが拡大。


 ――――――――――――――――

 炭素系ナパーム生命体B-f###78

 脳波:安定、睡眠状態

 身体:正常

 性別:女

 総筋力値:18

 エレニウム総合値:520

 武器:なし

 ――――――――――――――――


 こんな数値が出ていた。

 冗談ではなく、本当にスカウ○ーで当たりだったらしい。


 しかし、一瞬とはいえ体を透かすか。

 服だけを透かす技術だったら、常におっぱい見放題だったのになぁ。


 ま、スケベな思考はここまでにして、考察の続きだ。

 この機能は相手の能力を測定できるとして、鑑定に近い。


 脳波、筋力値は分かる、けど、エレニウム値か。

 精神や魔力のことかな?

 解説らしきものは一切でない。

 分かった範囲じゃこの程度。

 そこで目の横の卍型金属のカレウドスコープをタッチして視界を元に戻した。


 視界はやはりこっちのがいい。


 でもこれはいい暇潰しの道具になりそうだ。

 色んな人たちを鑑定して遊べる。


 次は霧の蜃気楼(フォグミラージュ)の指輪を試す。


 指輪を取り出し空いてる指に装着。

 魔法の指輪らしく、どの指に嵌めても自動でサイズを調整しぴったりと合う。


 この指輪の力を使うには、周りに水分が必要なんだっけ?


 空気中に湿気なら少しあるだろうし、一度試してみよう。

 指輪に魔力を送ってみた。

 その瞬間、俺の姿を象った薄い霧が発生。


 おぉ、すげぇ、分身だ。

 しかも動きをトレースしてる?


 分身だけ動かせるのかな、と思考したら分身体が違う動きをした。

 わぉ、こりゃよい。

 あっ、崩れた。徐々に分身体が消える。

 ついに崩壊し消えてしまった。


 周りの水分が足りてなかったようだ。

 次は水を使って試そう。

 桶に移動して、生活魔法の水を放出し桶に水を少し溜める。


 それから霧の蜃気楼(フォグミラージュ)を発動させた。


 水の分身が現れる。


 桶の溜まった水は少し無くなった感じがする。

 しかし、ごっそりと大量の水分を一気に消費するわけじゃないらしい。


 分身が着ている服は、発動した時の服だ。

 それにしても精巧な俺だ。


 分身の人差し指と俺本体の人差し指を合わせて「ET」とか、やってみた。


 懐かしい映画のように自転車の籠に乗った宇宙人ちゃんは現れない。

 合わせた指同士が光るわけもなく、合体するわけもなく。

 ただシーンと、夜の静寂音が耳に聞こえるのみ。


 うん。誰もツッコミがなくボケるのは止めるか。

 そこで指を合わせるのを止めて、分身をしばらく放っておいた。


 ファイティングポーズを取らせて、構えた状態で放置。


 数十分後も、そのままのポーズで分身は残っている。

 この分身の解除はどうやるんだろ?


 試しに分身を意識しながら〝解除〟と念じたら霧状に霧散。


 簡単に解除できた。

 桶の水は少し減っただけ、水分も大量に必要ということではないらしい。


 この分身……使えるな。

 後は<仙魔術>の訓練もやろうか!


 と、気合いを入れて、出窓から屋根の上へ歩き出る。

 月に向かって吠えるように、屋根の天辺付近まで歩く。

 足場が悪く斜めになっている場所で待機した。


 ここでいいか。掌握察で周囲を確認。

 魔力の波が周囲を探知する。


 下の宿屋の中から複数の魔素をいつものように感じた。

 外の路地からは何も感じない。


 ま、今は真夜中を過ぎて朝方だからな。


 よーし、訓練の開始だ。

 気合を入れるように腕をクロスさせて、腰溜め。


 〝押スッ〟


 空手を使うように気合を入れて、掌握察を解除せずに魔力の放出を続けた。

 集中……薄く、薄く、伸ばす波。


 そして――<仙魔術>を発動。


 水気が風を生むように俺を纏い回ると、同時に大霧が発生。

 久々に口の中が渇く感覚を得る。

 だが、昔、仙魔術を初めて使用した時よりかは、楽だ。


 準備もそんなに必要ではなくなっているし、確実に魔力消費は低くなっていた。

 それでも、胃が捩れる感覚と、この大量に魔力が失われる感覚は好きにはなれない。


 霧は瞬時に宿の屋根を越えて周囲に広がっていた。

 闇夜の中、辺り一帯を霧が包む。

 ここで、指輪に魔力を注ぐ。


 この指輪の霧の蜃気楼(フォグミラージュ)という名前通り……。

 霧の中に俺の蜃気楼(分身)が生まれ出る。


 更に<隠身(ハイド)>を発動。


 霧の中へと少し後退。

 分身体をその場に残し、霧の中へ俺は消えていく。


 こりゃ、予想通り姿を眩ますのに効果大だ。


 <仙魔術>の霧は完全に濃霧。

 師匠の言葉が脳裏を過る。


 使えば使うほど、魔力消費を抑えられ長らく作用し応用もできるようになり〝未知なる成長〟を果たすのだからな。


 最後の未知なる成長は実感できないが……。

 その言葉通り霧は濃くなりまだ周囲に残っている。

 凶悪な相手から逃げる時に使えそうだ。

 或いは急襲し待ち構える時も使える。


 今日は……こんなもんでいいだろう。


 分身を消して部屋に戻ろっと、分身を解除しては霧を放置。

 屋根を伝い降りて出窓から、部屋に戻る。

 寝台へ倒れるように横になり、寝転がった。


 久々に能力チェック。


 ステータス。


 名前:シュウヤ・カガリ

 年齢:23

 称号:水神ノ超仗者

 種族:光魔ルシヴァル

 戦闘職業:魔槍闇士:鎖使い

 筋力22.3敏捷23.0体力20.7魔力26.3器用20.3精神28.3運11.2

 状態:平穏


 全体的に上がってはいるが、格差が大きくなってきてる。

 やはり精神値だけが上がりやすいようだ。


 ステータスを消して、何回も寝返りをしていく。


「にゃ」


 んお?

 いきなり猫声。赤いつぶらな瞳がドアップだ。

 ん、いつの間にか、黒猫(ロロ)が近くに来ていた。


「なんだ?」

「ンン」


 黒猫(ロロ)はめんどくさそうに喉声を鳴らす。

 枕元でゴロリ、腹を見せて猫パンチを軽く打ち出してきた。


「遊びたいのか?」


 猫の内腹をくすぐるように撫でてやる。

 黒猫(ロロ)はくすぐったいのか猫パンチを俺の腕に激しく繰り出してきた。

 しまいに俺の腕を腹に抱え込む。

 ダブルな猫キックを連続でカンガルーキックのように腕に浴びせてきた。


「痛ッ」


 俺が痛がると、黒猫(ロロ)はすぐに動きを止めた。

 顔色を窺うようにつぶらな瞳を俺に向ける。


「大丈夫だよ。ただ、爪は引っ込めてほしいが」

「にゃお」


 ゆっくりと瞬きした黒猫(ロロ)はそう返事すると……。

 謝るようにペロッと腕を舐めてきた。

 そのまま胸の下の中へと前足を収めていく。

 

 可愛く座った。

 香箱座りのスフィンクス体勢。


 可愛い姿をしおってからに。

 頭から背中と尻尾にかけて黒毛ちゃんを梳いていく。

 何回も撫でてやる。

 黒猫(ロロ)は俺の掌の動きに合わせて、身体を滑らかに悩ましく動かす。

 掌で感じる黒猫(ロロ)の筋肉の動きがとても愛しく思えた。

 黒猫(ロロ)はゴロゴロと喉を鳴らす。

 また、瞼をゆっくり閉じて開くを繰り返す。

 

 リラックスしているよ。


 と気持ちを示してきた。


 俺も瞼をゆっくりと閉じて大好きだぞっと意思を伝える。

 相棒はにっこりと笑ったような気がしたが、次第に目を閉じて眠りだしていた。


 はは、可愛い、俺も少し寝るか。

 目を瞑る。暗い瞼を感じながら……心地いいゴロゴロ音が癒しの音に聞こえてくる。

 その音を耳朶に感じ入りながら久しぶりに意識を閉じていく。



 ◇◇◇◇



 コンコン、コン。

 部屋のノック音で浅い眠りはいきなり終了。


 三十分か一時間ぐらいか?


「ンン、にゃ」

「ご主人様? 誰か来たようです」


 黒猫(ロロ)も音に反応。

 顔を上げていたが、香箱座りの状態で見守るようだ。

 ヴィーネは寝台から起き上がり武器を手に取りながら、扉へ向かおうとしている。


 そういや、女将がさっき部屋に来ると言っていた。


 起き上がり、


「……ヴィーネ。大丈夫だ」

「はっ」


 ヴィーネは頭を下げ、了承。

 彼女は素早く俺の寝台側に移動して待機した。

 胸を張るように背筋を真っすぐ保ち両腕を後ろに回し組んでいる。

 護衛のつもりらしい。


 彼女の行動に感心しながら扉へ顔を向けた。


「鍵掛かってないから、どうぞぉ」


 大きめの声で促す。

 扉を叩いていた主は、声が聞こえたのか扉を開けると、おずおずと入ってきた。


「……夜分遅くにすみませんね」


 やはり、女将のメルだ。


「いいですよ。それで何の話でしたっけ?」

「闇ギルドの件です」


 メルの視線は何処と無く厳しい。

 部屋に入る動作も、歩く動作も隙が無い。


「……シュウヤさんに【梟の牙】が潰れた件について、詳しく聞きたいと思いまして」


 やはり、その件か。

 どの程度情報は出回っているのかは知らないが。


「あぁ、潰れたようだね」


 様子を窺うように無難に話す。


「えぇ、お陰で【月の残骸】も大きな縄張りを得ることができて忙しくなりました」

「それはそれは、良かった」


 俺にとっちゃどうでも良いけど。


「……ふふ、では、互いにまどろっこしい言い方はこの辺でお仕舞いにして、事実を……【梟の牙】の本拠地を潰した事実について、詳しくお話ししてくれますか?」


 メルは俺が潰したとは予想がついてるのか。

 情報網は中々に優秀らしい。

 だが、話したところでね……。


「……別に詳しく話さないでも良いだろ? そっちの想像通りと思ってくれて構わないよ」

「そうですか。分かりました。シュウヤさんは、わたしたちと今後も協力関係を持ってくれると?」

「協力というか、まぁ、そうだな。俺、ヴィーネ、知り合いに敵対しなければ、仲良くするよ。それに、今は宿の客だしね」


 最後に笑顔で締めながら、カレウドスコープを思い出す。

 そうだ。メルをスコープ越しに見てみようか。


 然り気無いポーズで、右目横に装着している十字金属の表面をタッチ。

 自動的に金属が卍型に変化を遂げ、カレウドスコープが起動された。


 さっきと同様に薄青の視界になりフレーム世界が広がる。

 ▽カーソルとメルの身体を縁取るフレーム線も変わらない。

 その▽カーソルを意識すると、メルの全身を透過しスキャンしていった。


 ――――――――――――――――

 炭素系ナパーム生命体A-f####12

 脳波:安定

 身体:正常

 性別:女

 総筋力値:16

 エレニウム総合値:289

 武器:あり

 ――――――――――――――――


 こんな数値になった。


 筋力値、エレニウム数値共にヴィーネのが上。

 メルは何処かに武器を隠し持っているようだ。

 そこでまた目の横に装着している卍型金属をタッチ。


 視界を元に戻す。


 メルは何かしら? 

 という顔を浮かべて右目を見てきたが、まぁバレても構わない。


「……分かりました。“今は”それで十分です。ふふ、ヴェロニカも喜ぶでしょう」


 ヴェロニカが喜ぶね。


 メルは安堵したのかホっとした笑顔を浮かべて話している。

 そういや、そのヴェロニカの姿を見掛けないけど聞いてみるか。


「そのヴェロニカは今日、宿にはいないのですか?」

「はい。今日も居ませんよ。【梟の牙】が潰れたとはいえ他にも闇ギルドは多数ありますからね。夜にはポルセンたちと共に“食味街”の防衛を兼ねて動いてもらっています」


 そういうことか。

 眷族の従者について、質問しようと思ったんだが……。


「……忙しそうだね」

「はい。彼女に用ですか? シュウヤさんの用でしたら、急ぎ知らせますが」


 偉い親切だな。


「あ、いえいえ、そこまで急いでないので大丈夫です」


 あまりにもメルが丁寧なので、逆に敬語で返したくなっちゃった。


「そうですか? いつでも言ってくださいね。それと、シュウヤさんに知らせておくべき情報が……」

「うん? 何です?」


 メルはそこで、急に勿体振った態度に変わる。


「ふふ、あ、用事を思いだしました……」


 と、メルは誤魔化すように部屋を出ていこうとした。

 気になるじゃないか。

 ちっ、そういうことか。前言撤回。こっちの話が本命か。

 俺が曖昧な情報しか出さなかったから、そっちもそういう態度か。


「……待て、わかった。さっきの【梟の牙】の情報をちゃんと渡してほしいのか?」


 メルはピクッと肩を動かし反応してから振り返る。

 その顔は満面の笑みを浮かべていた。


「えぇ、そうです。察しが早くて(・・・・・・)助かります」


 へっ、皮肉かよ。

 訳すると遅すぎなんだよ馬鹿野郎。という感じか。


「悪かったな。そうだよ。俺が直接【梟の牙】の本拠地に乗り込み潰した。エリボルも総長のビルとやらも俺が殺った。……これで、満足か?」

「えぇ。はいはい。満足です。でも、悪く取らないでくださいね? その件についてなのですよ。シュウヤさんに知らせておくべき情報とは……それはべネットが俄に掴んだ情報なんですが、陰で【オセベリア王国】の【白の九大騎士(ホワイトナイン)】が貴族街で起きた殺人事件の犯人を追っている。とのことなんです」


 何だって? 今度は国の機関かよ?

 メリッサから聞いたことはある。

 あぁ、思い出した。

 あの場に踏み込んだ時に見回り兵士がぼやいていたっけ、隣が王族とか言ってたな……。


 と言うか、今、俺が殺ったと証言しちゃったじゃん。

 上手く誘導された、チッ、録音とかされてたらアウトだよ。


 そんなものはないと思うが。

 しかし、魔法か魔道具ならありえるか?

 公開されちゃ困るな。

 ま、そうなったらそうなったで後悔させてやるが。


「……国か。貴重な情報をありがとう(嵌めたなクソが)


 皮肉を込めたつもりだ。


「いえいえどういたしまして(話したのは貴方です)ですが、安心してください。【月の残骸】は裏切りません。一方的ですが、わたしは貴方を“仲間”だと思って接していますから」


 うひゃ、なんとも言えない笑顔で皮肉を話し、余裕の笑みを浮かべている。

 彼女的に俺の弱味でも握ったつもりなのかねぇ。


 食えねぇ女だ。だが、楽しい。


「……はは、分かったよ。俺もそのお仲間さんとやらの言葉は信じているさ(今は信じといてやる)


 ニコっと爽快な笑顔を繰り出す。


「……はい。では気を付けてくださいね(・・・・・・・・・・)


 メルも相応しい笑顔を返してくると、意味あり気に話を終える。

 仲間だと思っていますよ。的な皮肉かな。

 彼女は欣然として笑顔を浮かべたが、途中で闇ギルドの団長らしく、威厳ある仕草を取りながら胸を張って部屋を出ていった。


 ふぅ……皮肉合戦は疲れる。


「ご主人様、先程の【月の残骸】とは仲が良いのですね。組織に入るのですか?」


 黙って聞いていたヴィーネが額面通りに受け取ったのか、そんなことを言ってきた。


「いや、入らないが微妙に協力する関係だ。と言うか、闇ギルドについてどの程度知っている?」


 ヴィーネは少し頭を下げ、口を開く。


「キャネラスから、ある程度は……彼曰く『この都市は【梟の牙】が一番の勢力を保っているが、この先は分からない』、『複数の闇ギルドがこの都市に存在しているから覚えておくがいい』と言われていました」

「少し前まではその通りだったんだが、俺はその【梟の牙】と揉めた。ヴィーネと契約する前に、その揉めていた闇ギルド【梟の牙】のトップを潰したんだ。そのトップの表向きは大商会の会長だった。だから、国の組織【白の九大騎士(ホワイトナイン)】が、俺のことを調べているらしい」


 俺が持つエリボルの裏帳簿には大騎士との名があるし、癒着もあったみたいだが、まぁこれはまだ説明しなくていいか。


「この都市の最大勢力を潰したのですね……さすがです。そのホワイトナインも聞いたことがあります」


 ヴィーネは感心した様子だ。

 少し熱を持った視線で見つめてきた。

 

 左目の綺麗な銀色の瞳を見て、あることを思い出した。


「それより、ヴィーネに渡す物がある」

 

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