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十三話 修練道

 

 師匠に【修練道】という場所へと連れてこられた。

 ゴルディーバの里がある崖上から梯子を何回か下りた先にある広い森林地帯だ。


「ここは古くから若きゴルディーバ族たちが己の武術の腕を磨くために切磋琢磨して訓練を行ってきた場所である」

「色々な器具がありますね……」


 周りを見渡すと不自然に倒れた丸太が森の各地に向かうための小道となっていた。森の各地に訓練施設があるのか。

 宙に浮かぶ鎖やロープに繋がった丸太も多数ある。ロープで吊した丸太の先端に鉤爪が無数に付いた物もあった。

 人を模った木人には血濡れた痕もある。


「……丸太を使ったバランス訓練が主力の〝風薙ぎ〟だ。木人を叩く訓練もある。更に高度になるが、相手の攻撃を躱し、攻撃に移る訓練を行う〝爪磨ぎ〟。此方は、高度な訓練用の器具で、尖らせた杭刃を装着した木人が何体も迫ってくる〝追連獄〟だ」


 今言われた器具の他にも特殊な訓練器具とみられる代物は幾つもあった。大きな水瓶らしき物が階段を挟んで上下に一つずつ置かれてある訓練場まであるし、訓練場の端は特徴的で、高さ三十メートルはある壁のような崖が垂直に伸びている。

 どうやら、あれも訓練用らしい。縦に上がれるような溝が掘られてある。懸垂の訓練かな。まさに【修練道】は少林寺の訓練場みたいだな。

「わしも若い頃は、ここでよく訓練をしたものだ」

「先ほども言いましたが、昔からある訓練場ですか」

「そうだ。遥か古代からあるらしい。わしが子供の頃からお世話になった場所だ。シュウヤもここで槍の訓練をやってもらうぞ。まずは初歩からだ。シュウヤならすぐに慣れてしまうだろうが、まぁやってみろ」

「はいっ」


 風薙ぎから訓練は始まる。


 まずは二本のロープで吊された丸太の上に立たされる。

 その丸太は結構な勢いで上下左右に揺れる。

 そんな丸太の上でバランスを崩さず、立ち続けながら木人を攻撃するのが、風薙ぎ。

 横に設置されてある革の紐で縛った木人の急所を黒槍で攻撃しなければならない。


「揺らすぞ」

「はい」


 師匠は丸太を揺らす。

 訓練が開始された。


「もっと素早く突け。そうだっ。前に歩け、歩幅に注意しろ、もっと機敏に速度を維持しろ!」

「ハイッ」


 三十分ほど行ったが、バランスを崩すことなく上手く行えた。

 ピコーン※<平衡感覚>※恒久スキル獲得※


 あっという間に、恒久スキルの<平衡感覚>をゲット。


「やはりシュウヤは規格外だな。すぐに適応しおった。難しいと思うが、爪磨ぎにも挑戦してみるか?」


 わくわくする、どんなのだろう。


「……それはどんな訓練ですか?」

「目隠しをしながら丸太の上を歩き、迫る鉤爪付きの丸太を躱しながら標的を感じて、その標的に攻撃を当てるという奴だ」


 目隠しして訓練……うへぇ、まじか。


「……目隠しですか?」

「そうだ。不安か?」


 笑顔だが笑顔ではない師匠。

 あなたは鬼コーチですか?


 とは言わずに普通に話す。


「いえ、やってみます」


 目を皮布で隠し、訓練を行う。


「――ぐえっ」


 いてぇぇ、いきなり失敗。


 丸太とはいえ、当たればものすごい衝撃がくる。

 俺は足場の丸太から見事に転落していた。


「さすがに初見では対応できないな。視覚が無くなるのは恐怖だろう?」


 確かに怖い。

 だが、イメージすれば、なんとかできそうな気はする。


 後は、まぁ遮二無二の精神で。


「そうですね。でも、痛みはすぐに引きますから、何回も挑戦してれば上手くこなせると思います」

「よし、その意気だ。続けてみろ。間合いを感じ、回転避けの極意を得るのだ」

「――ハイッ」


 何回も何回も鉤爪付きの丸太にぶつかり、落ちてしまう。

 しかし、やればやるほど慣れていった。

 音、歩幅、足裏回転の軸をどこにするか、迫る鉤爪の間合い、黒槍の射程を掴むと、丸太の鉤爪を避けられるようになってくる。


 イメージと先見が一致。

 そして、咄嗟に爪先半回転を行い、鉤爪を避けてからの追撃が初めて成功した。


 ピコーン※<軽技>※恒久スキル獲得※

 ピコーン※<軽技槍士>の条件を満たしました※

 ※<槍使い>が<軽技>により<軽技槍士>へとクラスアップ※


 おぉぉ、スキルを得て、戦闘職業がクラスアップしたよ。


「多少時間はかかったが、それが爪先半回転だ。回避歩法の一つ。まだまだ回転速度も歩幅も甘いが、初日でこれなら十分だろう。次の訓練に移る。ついてこい」


 ついていくと、そこは崖が上に重なる岩場だった。


「この崖を登ってもらう」


 この崖を?


「師匠、この槍で、ですか?」

「そうだ。黒槍を両手に持ち、溝へ槍を引っ掛けてから、反動をつけて上へと上がっていくという訓練だ」


 上へと続く岩壁には横溝が段々に掘られている。


 あの溝に槍を乗せながら登るのか。

 単純な懸垂の筋力トレーニングのような物か?


 ジークンドーとか中国拳法のトレーニングでありそうな感じ。

 腕に力を入れて、反動をつけながら黒槍を崖の溝へ引っ掛ける、と言うより、黒槍を持ち上げる訓練か。


 この訓練は身体能力が上がったこともあり、苦にならずに行えた。あっさりと頂上につくと、

「――早いな。自力で下りてこい」

「はい」

 下りると、師匠が、

「今度は魔力操作を意識しながら登り下りだ」

「分かりました」

 登れたが明らかに集中が途切れる。

 何とか魔力操作を意識しながら、登り下りを終わらせる。

「……これから数日間、こういった訓練を行っていくつもりだ。今日は風薙ぎと爪磨ぎに崖登りの三つをセットで繰り返しやるぞ」

「はいっ」


 訓練は一週間続いた。


 途中から天秤翔、回転殺、追連獄といった高度な訓練器具を使う訓練へと移行。

 だが、その追連獄の訓練は熾烈を極める結果になった。


 この訓練、今までの集大成といった感じ。


 最初は目隠しをしながら狭い足場である丸太の上に立つ。

 爪磨ぎと同じで、丸太が激しく揺れ動く中から始まる。


 ここまではだいたい共通しているが――。


 俄に鋭い杭刃が備わった案山子木人が、幾つも横や斜めから襲い掛かってくるし、その木人を躱すか倒しても、網縄が上下左右から放たれてくる。

 それを軽い跳躍で上手く躱せても、回転する丸太に合わせた着地際に、また杭刃付きの木人が迫ってくるという激しさ。


 初めての時は、杭刃が腕に刺さり丸太から落ちて失敗。


 二回目は腹に刺さり失敗。

 三回目は足に刺さり失敗。


 何回も重傷を負うが、俺はヴァンパイア系の新種族。


 光魔ルシヴァル。


 なので、すぐに傷は回復。

 何回も連続で追連獄の訓練を行っていく。


 最初の杭刃付きの木人にはすぐに慣れたが、ランダムで放たれてくる広い網縄に体が引っ掛かり苦戦した。


 軌道も不規則なので中々慣れない。


 五十回ぐらいは網に絡まり地面に落ちて失敗。

 二百回目ぐらいだろうか……。

 ついに、擦り傷を負いながらもギリギリで成功。


 その瞬間――。


 ※エクストラスキル<脳魔脊髄革命>の派生スキル条件が満たされました※

 ピコーン※<脳魔軽運動>※恒久スキル獲得※

 ※<平衡感覚>と<軽技>と<脳魔軽運動>が融合します※

 ピコーン※<超脳魔軽・感覚>※恒久スキル獲得※


 連鎖的にスキルを取得し融合。


 この特別なスキルを得てからは余裕で全部の訓練をミスなく行えるようになった。


 これは優れたスキルと実感できる。

 俺の運動性能が飛躍的にアップ。


 身体能力系の訓練では効果を発揮し続けた。

 師匠は呆れていたが気にしないことにする。

 そうして、二ヶ月が経過した。



 ◇◇◇◇



 修行の結果、様々な能力値が上がる。


 ちゃんと0.1ずつ上がっていたから毎日寝る前にステータスを確認するのが楽しかった。

 訓練すればそれに見合った能力が多少上がりやすい傾向にあるようだ。あくまでも傾向だが、順調に修行生活を過ごしていたが、一つ気掛かりなことがあった。それは俺の睡眠について。


 ――寝つけないのだ。二ヶ月経っても寝つけない。

 地下生活を続けていた時よりも酷いかも。

 今も横になりながら木窓から見える夜空を眺めていた。

 とりあえず、また目を瞑る。

 明日も早いし、訓練や任された仕事があるので寝ないと、と、瞼の裏を感じながら眠るために、この二ヶ月を振り返る。

 一日の行動サイクルはだいたいこうだ。

 まだ薄暗い夜明け前、アキレス師匠に見守られる形で【修練道】での訓練を開始する。

 朝日が昇る頃に訓練を終わらせ家畜の餌やりを手伝う。

 それが終わり次第、朝食を取る。

 朝食後は畑に水を撒くか師匠との槍武術の訓練を行う。

 そして、昼食を取って軽く休憩。午後には【修練道】で訓練をやったり、森に出て狩りを手伝ったり、魔技の基本である魔力の引き上げ操作を繰り返したり、<鎖>の出し入れの訓練を行う。


 その繰り返しで一日が過ぎていく。


 一ヶ月が過ぎた辺りだったかな。

 槍武術の訓練が本格化した。


 【修練道】での訓練が減った。

 師匠と直接戦う模擬戦を行うようになった。

 <刺突>から<刺突>の槍の引き際の隙をわざと作ることも教わるが難しい。

 師匠曰く「その妙が強者の道なのだ」とのことだが、光魔ルシヴァルなら強引に勝てるだろうとか、そんな甘いことを考えていたら、「小童が! 風槍流はそんなに甘くないのだぞ!」と叱られた。

 そんな訓練を暫く続けても……結局、師匠からは一本も取れず。

 ボコボコにやられてしまう。


 そして、模擬戦を行う前に、俺なりに誓いを立てていた。

 エクストラスキル<脳魔脊髄革命>から派生した<脳脊魔速>を使わないと。


 俺自身の成長を促すためだ。訓練中の禁止事項。

 よほどの危機でなければ使わないと決めた。


 このスキルは身体速度を上げる非常に使えるスキル。

 しかし、これに頼っていたら武術の腕が上がらないと判断した。


 そのお陰か分からないが、槍武術の腕は目に見えて向上し、成長を実感すると共に戦闘職業も<軽技槍士>から<槍舞士>にクラスアップ。


 その他に、種族特性についての検証も始めていた。

 <吸魂>と血液についてだ。

 <吸魂>は狩りを手伝う際に傷付いたモンスターで試した。


 モンスターが瀕死の時に<吸血>しながら魂をもらうと強く意識する。


 その瞬間、試した大鹿モンスターは魂を吸われたのか、干からびて骨だけになった。

 中には骨さえも残らずに塵や灰になる場合もある。

 魂を吸収した際、体は淡い光を発して、爽快感と共に活力が湧く。

 得した気分となるのは変わらない。


 が、アキレス師匠やラグレンの視線が気になるので自制した。

 そうは言っても、一人で狩りをする時は、遠慮なく血と魂を吸い取ったが。


 魂を吸うたびに、精神値が上昇していった。


 まさに一石二鳥。

 爽快感も得られる上に、精神力も上がる。

 神獣契約により精神値が減っていたので、これは好都合だった。

 爽快感が得られるといっても、中毒になるほどではないのも都合がいい。


 しかし、人族の血を吸った場合は、まだ分からない。


 その血だが、事前に知っていた通り動物やモンスターの血でも大丈夫だった。

 人族の血は必須ではなく、七日過ぎても能力がダウンしないことは改めて確認している。


 だが、念のために血を吸わずに過ごす実験をすることにした。


 二度経験済みだが、敢えて確認を兼ねて実行。


 やはり前と同じように体が重くなり血漿欠乏病になり能力が半減。

 わざと傷を作り出血したところから自身の血を飲むことも試した。そうしたら、多少だが症状が緩和された。


 血を飲む量がどれぐらい必要なのかも、この時完璧に把握した。


 一滴ではさすがに回復せず。

 しかし一滴でも口に含むと効果があり、回復効果は抜群だ。そして、必要な血の量は小さじ一杯分で済んだ。


 小さじ一杯で症状は完全に回復したのだ。


 たったそれだけの量で大丈夫とは驚いたもんだ。


 今後一生に関わる事だっただけに、安心したのを覚えている。


 と……この二ヶ月を振り返ってみたが、まだ眠くならないな……。


「ふぅ……」


 溜め息を吐き、寝返りをうつ。


 しかし、眠りが浅く短いのに朝早く起きられるんだよなぁ。

 最初は環境の違いかと思ったが、どうやら違うようだ。


 体が吸血鬼(ヴァンパイア)系だからなのか、エクストラスキル<脳魔脊髄革命>のせいなのか、まだはっきりとした理由は分からないが……やはり、この体は睡眠があまり必要無いのかもしれない。


 眠気がくれば、普通に寝てはいるが……。


 まだ眠気はこないし。

 だが、良いことかもしれない。

 冒険者生活を始めれば、眠気はないほうが良いに決まっている。


「冒険者生活――」


 冒険者と言えば――。

 師匠から冒険者についても基本的なことを教わった。


 要約すると……。


 ・登録に血が必要で、Gから始まりSまでランクがある。

 ・昇級試験があるのはCから、強さがあれば一日でDランクまでランクアップが可能。

 ・パーティ結成とクラン結成は、都市ごとに細かいルールがある。

 ・C、Bに成るには、例外を除き、Dランク以上の依頼を三十回達成することが必要で、更にギルドの試験官と一対一の対決が求められる。そこで実力が認められ、合格すればC、Bランクとなる。


 Aや例外は、


 その例外を含めた話を未探索地域開拓ミッションと呼ぶそうだ。


 師匠の言葉を思い出していく。


「例外とは合同で行われる特別な依頼のことだ。これは難易度が高く犠牲者が大量に出ることで有名だ。だが、この依頼を達成するとAやSランクに成れる。たとえランクがCだった場合でも、試験官と戦わずにBランクに成れるということだ。BだったらAに、AだったらSと成る。これが例外ということだ」


 それから、Aランクから一流の冒険者と呼ばれ、自然と周りの冒険者から称号や通り名で呼ばれるようになるとか。


 因みにアキレス師匠はAランクと言っていた。


 師匠が冒険者だったのは三百年も前だ。

 冒険者ギルドが今も存続しているのかは分からないが、その当時から続いているとなると、冒険者ギルドってのは三百年以上存在しているということになる。


 歴史が長い。


 そこで、また寝返りをうつ。


「だけど、師匠があんな風に呼ばれていたとはな」


 師匠は旅するごとに、渾名、二つ名が変わっていったそうだ。

 二剣のアキレス、四剣のアキレス、飛剣のアキレス、風槍アキレス、魔技のアキレス、とか、色々な名で呼ばれていたらしい。


 それから、未探索地域での依頼は大変な思いをした。

 と、その経験を語ってくれた。


 長距離移動。

 言葉の通じない人や獣人。

 盗賊やモンスター。


 行路開拓の際には魔石のエネルギーを保った状態で魔法陣を確保するのに苦労したとか、奴隷商お抱えの傭兵部隊との戦闘では冒険者仲間数人が命を失うはめになり、激戦だったが生き残ったとか……。


 この時の師匠の話は面白く、夢中になって聞いていた。

 楽しくて、わくわくしたのを覚えている。


 ふあぁぁぁぁ、ようやく欠伸が。

 んぁぁ、眠くなった。寝よ寝よ。



 ◇◇◇◇



 次の日――。

 久々の快眠の後、いつも通りの日課である訓練後に行う家畜の餌やりを終え、師匠がいる茸栽培部屋に向かった。


「師匠、今さっき餌やりを終えました」

「おう、すまないな。今戻る」


 師匠は木のボウル一杯に茸を入れて戻ってきた。

 ボウルにふさふさと嵩張る茸を俺にわざと見せて、怪訝な顔つきで話す。


「今日から、またしばらく茸浸けだな?」


 少し顔がひきつっている。

 さすがに毎日茸料理はイヤみたいだな。


「ははっ、ラビさんの料理は何でも旨いですから、俺は良いですよ」


 適当にラビさんをフォローするように師匠と他愛のない会話を続けながら崖上の家へ戻り、皆と朝食を済ませた。


 朝食後は、畑周りの雑草取りを手伝い、暇になると一足早く黒槍を手にして訓練場の広場に向かう。


 さて、<刺突>から普通の突きを繰り返しますかね……。

 俺が適当に槍武術の訓練をしていると、師匠が遅れて歩いてきた。


 あれ? 持っていない?

 師匠は黒槍を手にしてはいなかった。


「今日は槍武術の訓練ではなく、<生活魔法>と魔技を教えたいと思う」

「おぉ、マジですか?」


 アキレス師匠は、一瞬怪訝そうに眉を動かし「おお、マジだ」と同じ言葉を返してくると、すぐに表情を引き締め話を続けた。


「シュウヤ、おぬしは基本中の基本である魔力操作をほぼマスターしたと言っていい」

「マスターですか? 確かに魔力操作は上手くできるようになりましたけど」

「それが大事なのだ。おぬしの眩しいほどに外へ漏れていた魔力が、今はまったく外へ放出されていないのだからな」


 おぉ、魔力が漏れずに制御できていると!

 あまり自覚はないが、上手くできている。


「なるほど、操作とはそういう……」


 訓練時にあれほど口をすっぱくして言ってきたのはそういうことだったのか。

 崖の登り降りには二重の意味があったんだな。


「そうだぞ。槍だけではなく、魔法も筋が良いということだな?」


 俺の魔力操作を褒めてくれた。


「はは、褒められると照れますね……」

「ふっ、すぐ調子に乗りおって。さっさと<生活魔法>を覚えるぞ。シュウヤの属性は水。だから、水が生み出せるはずだ」


 水……。


「どうすれば?」

「魔力操作ができているお前なら簡単だ。自分の魔力を使い、水をイメージすればいい。水属性なのだから簡単なはずだ」


 簡単ね、イメージか。


「イメージですか……」

「そうだ。<生活魔法>だから魔力は僅かな消費だけで済む。精霊を扱う言語魔法とは違うから使い勝手は限られるがな? それが<生活魔法>でもあるんだが」


 魔力を使いイメージしていく。水、水、冷たく美味しい水。

 他に知る水と言えば、ありきたりな化学記号だ。二個の水素原子と一個の酸素原子でできているんだったよな。


 後は簡単に、川に流れる水を想像……。

 蛇口を捻り水が流れる、単純なイメージをした。


 ピコーン※<生活魔法>※スキル獲得※

 ピコーン※<魔法使い見習い>の条件が満たされました※


 お、戦闘職業の<魔法使い見習い>ゲット。


 すると、手の先から水が発生、流れ出した。

 おぉ、水だ。魔力が少しずつ失われていくのが分かる。不思議だな。

 自然と一体化したような、自然の一部分を利用しているような感じ。


 蛇口を止めるようにイメージしたら水が止まった。

 水を想像したら上手くいった。


「おっ、成功したな」

「これ、お湯とか氷とかに温度調整できるんですかね?」

「できるはずだ。イメージ次第だが、<生活魔法>なので幅は小さいが、できる」


 とりあえず、水からお湯をイメージ。

 更に、温かいほっこりするようなイメージを浮かべる。


 おっ――ぬるま湯ができた。


 次に冷たい塊をイメージしたら、温かいお湯が一瞬で凍り、固まる。

 ――氷もあっさりとできた。


 普通の科学なら、水が0℃になると水素結合。

 六方結晶になり氷になるとかだったはず。


 氷が解けて水に変わるのが、発熱反応だったか吸熱反応だったか。

 が、魔法だと氷から水に戻るのが一瞬だ。

 普通、氷は熱を吸収して水に戻るはずだ。化学反応が違う?

 基本は同じだったような、魔法が介在することによる変化なのかなぁ?

 こまかく考えても、今こうして氷ができて、水に変わったりするのには変わりないわけで……。

 因みに氷の形は自由自在に弄れる。こりゃ便利だな。

 ちょっとした粘土を遊ぶ感覚で遊べる。

 そんな感じで水を出し入れを行い、凍らせた馬や小さい人型を作り出して遊んでいると、師匠は驚きの表情を浮かべていた。


「……これはすごいな。その人形のような氷の造形は面白い。<生活魔法>とはいえ、そこまで形作れる物なのか……」

「イメージしてたら、できちゃいました」


 師匠は俺のおちゃらけた態度に呆れたような顔を見せている。


「まったく、ふざけおって……しかし、わしは魔法のことは門外漢だからよく分からんが、シュウヤならば、水系魔法を極められるのではないか? 大魔術師も目指せるかもしれん」

「大魔術師ですか?」

「あぁ、だが、まぁ……時間はあるんだ。あれやこれやを学ぶより、今はわしが教えられる槍武術を中心に学ぶべきだな」

「はいっ。でも、水が自由に出せるとは、面白いですねぇ」


 そう言って、水を周りに発生させて、宙に水の環を幾つも作り、その水の環を重ねて天然の知恵の輪を作り出した。


「ふむ。水の出し入れがスムーズだな? 今後の畑の水撒きは任せたぞ。わしを含めて水属性はここにはおらんからな」

「……分かりました」


 調子に乗っていたら、仕事が一つ増えてしまった。


「次は魔技だ。純粋に自身の魔力の放出と魔力を留めるをやってみるのだ」


 <生活魔法>を止め、ゆっくりと頷く。

 待望の魔技だ、テンションが上がるが、頑張る。


「放出と留める……」

「まずは放出からやってみるがいい。発動するだけなら簡単だ」


 言われた通り、魔力を操作して、それをそのまま手から出してみる……。


 手から薄い水色の炎のような魔力が出てくる。

 ピコーン※魔技開発成功※<導魔術>※スキル獲得※


 おぉ、視界の左上に<導魔術>と出た。

 それと心地いい頭に響く音。やった、<導魔術>スキル獲得。


「次は魔力を体に留めるのを意識してみろ」

「はい」


 良し! 集中。

 ……魔力を引き上げ、血管を通り身体の内部に拡散。

 拡散した魔力を内包させる。


 身体に留めて血が流れるように循環させる。細胞が活性化したのを魔力で纏う感じ。


 ピコーン※魔技開発成功※<魔闘術>※スキル獲得※

 ピコーン※<魔闘術の心得>※恒久スキル獲得※


 視界にスキル獲得の赤い文字が出現。

 アキレス師匠は驚いているらしく、大きく眉を顰めて僅かに瞳孔を拡げている。


「なっ……いきなりか……」

「えっと……師匠?」


 驚いているが、これは凄いんだろうか……。

 連続で<魔闘術>系のスキルも覚えた。


 感覚から実感へと変わっていく。


「ハハ……」


 アキレス師匠は驚きの表情を浮かべた状態で、乾いた笑い声を発していた。


「……師匠?」


 今度は笑っているし……。


「いやはや、思わず驚いたのだ。その纏、シュウヤのそれは<魔闘術>だ……<導魔術>は全くの初心者だが、<魔闘術>は一流の類と言ってもいいだろう」


 一流……。

 確かにスムーズに魔力が展開できている。


「だから<魔闘術の心得>も同時に獲得したんですね」

「おっ、やはり、同時に<魔闘術>系の更なるスキルを覚えておったか。<魔闘術の心得>を獲得したということは、<魔闘術>はやはり一流の類いとなる。<導魔術>は素人同然だが、まったく……振り幅が大きい奴だ。魔力操作の基礎を一ヶ月きっちりと行ったことも関係あると思うが……どういう訳なんだ?」


 どういう訳か。そんなこと言われてもな……。

 これが一流の類いなのか?

 確かに<魔闘術>が凄く体に馴染んでいる気がする。


 まぁ、一つの可能性としては……。


 エクストラスキルの<脳魔脊髄革命>によって得たスキル<脳脊魔速>のお陰かもな。

 あのスキルを得た瞬間、不思議な感覚が脳幹から全身を駆け抜けた。


 何かが身体全体へと染み渡り、細胞の細部(ミクロ)にまで行き渡っていく感覚。


 ひょっとして、何かは魔力を起こす細胞だったのか?

 それによって、魔素が体内を巡る動きが活性化した?

 

 とかかなぁ……後は、ありきたりな……。


「……イメージ、<魔闘術>のイメージがしやすいからかも、ですね」


 過去に漫画、ゲーム、アニメ、映画、小説と……。

 色々と楽しんだ。そういったイメージの材料は豊富だからな。


「イメージしやすいか、それなら納得がいく。魔力そのものは本人の精神やイメージに左右される。……では、腕に魔力を集中させて地面を殴ってみろ」

「はい――」


 右手に魔力を集める。

 冷たい爽やかな魔力で指を覆い、節々を固くしていく。

 指、手の甲から手首を魔力で固めた。


 その状態で言われた通り、地面を殴ってみる。


 ぬん!

 土の地面には拳大の穴が空いていた。


「す、すごい」


 自分でも驚いた。


「ぬおっ……そうだった。シュウヤは吸血鬼(ヴァンパイア)系だからな。それは元々身体能力が高いから、穴が空いたのだぞ? <魔闘術>で更に威力が増したようだが……そのように魔力を集中させ一ヶ所を強くすることもできる。……しかし、風槍流ではなく豪槍流のが向いてるのかもしれん……」


 師匠は最後、ボソッとそんなことを言っていた。


 地面を穿った手の甲は、表面が少し赤くなっているだけ。

 <魔闘術>がなきゃ、拳から血が出ていただろう。


「これが<魔闘術>」


 師匠は説明を続けてくれた。


「<魔闘術>は体内を活性化させ身体を強化する魔技。攻撃だけでなく防御にもある程度は効果がある。しかし、<魔闘術>で一ヶ所に魔力を集中させて守ったところで、実際の剣、ナイフのような刃物には敵わない。基本は生身であり肉と骨が存在するからな? 多少防御力が上昇するだけだ。これは攻撃にも言える。剣や槍に鋭い武器の方が有効だ。が、シュウヤのように身体能力が高い場合は話が違ってくる。<魔闘術>の格闘でも武器として十分に通用するだろう……」


 格闘か。


「それでは<魔闘術>とは、単純に格闘の技術ということですか?」


 アキレス師匠は左右に首を振る。


「いや、単純ではない。魔技の中で最重要と言える」


 師匠はきびきびと俺に言い聞かすように人差し指を立て、重要さをアピールしている。


「それはなんでです?」

「色々とあるのだが……まずは一つ。条件付きだが、実際にやってみれば分かる。目に<魔闘術>で魔力を集中させ、留めて視るのだ」

「条件? 目ですね。早速やってみます」


 目に集中……。


「その状態を維持して、わしを視てみよ……」


 言われた通りに目に魔力を溜めて、師匠を視る。


 ……と、師匠の体から溢れるように広がる幾つもの魔力の光る枝? が目に入ってきた。


 それがクネクネと四方八方へ延びている。


 驚きもものきなんとやらだ……。

 光る無数の帯が枝のように四本の剣と繋がっていた。


「おっ、さすがだな。もう条件を軽くクリアか。わしの<導魔術>が見えたのだろう?」

「はい。<導魔術>……」

「これで、わしが四本の剣を浮かせて見せていたカラクリがはっきりと解ったはずだ。この目に<魔闘術>で魔力を留める行為は察眼とか魔察眼と言われている」


 俺は魔察眼を用いながら話を聞いた。


「これが魔察眼……でも、その条件とは?」


 師匠は自分の目を指で指す。


「条件とは目だ。魔力を溜められる目と溜められない目が存在する。この目を持つ者はあまり多くは居ないと言われているが、正確なことなど誰にも分からない。今は増えているかもしれん。わしが冒険者時代に対決してきた中で、この魔察眼を用いてくる相手は、大抵手練れであった」


 魔力を目に留められる奴は強い奴が多いんだ。


「ということは、この目は貴重だったり?」


 アキレス師匠はコクリと頷くと、自身の<導魔術>の光の帯を動かして実演しながら具体的に説明していく。


「――そうだな、貴重だろう。そして、わしが外に放出している魔力を導魔線、魔線とも言う。もし、戦う相手が魔技系統を修めている場合や魔力を帯びた武器や防具を使ってくる場合、魔力の動きを追える。何処に魔力を伴った動きがあるか一目瞭然というわけだ。勿論、魔法使いが相手でも魔法の原型が見える。更には慣れていけば<夜目>代わりにも成るだろう。魔素の一部が見え、人やモンスターが使う魔力の流れが見えるのだからな。これで、この魔察眼が最も重要なのは分かるな?」


 確かに、情報を知ることは重要だ。

 敵を知り己を知ればなんとやらだ。孫子の兵法書は偉大すぎる。


「はい」

「魔技の攻防に於いて必須、機先を制するのにも重要ということだ。<魔闘術>はとても重要なのだよ」


 師匠の身体から後光のように放たれている<導魔術>は一種の芸術作品にも見えた。

 光る帯が纏まり、光る翼にも見える……。


 すげぇ……。


「そうですね。今になって分かりますよ、師匠の凄さが」

「伊達に長く生きてないからな。それと、重要なのがもう一つある。<魔闘術>で魔力を足に集めての移動速度の調整だ。これを魔脚、魔闘脚と言う。戦闘において重要なのが呼吸法で緩急だが――」


 師匠の一言一句が、子供の頃の記憶を呼び覚ます。


 一つの動作を一呼吸


 呼吸を止めての連続動作は最初は良いが、後に続かない。


 篝流では、必ず連動して技をかけつつも呼吸はするのじゃ


 そして緩急を付けるのだ。


 前世の爺ちゃんとアキレス師匠の声が重なり、俺の頭に響いた。


 爺ちゃんがまだ若くて元気だった頃……。

 爺ちゃんは剣道が大好きだった。

 篝流とか本人は自称していて、よく体育館や道場に連れていかれて、泣かされながらも無理に剣道をやらされたっけ……。


 結局は長続きしないで、俺は水泳ばかりやっていたが、爺ちゃんの目はいつも真剣だった。

 爺ちゃんとアキレス師匠の顔は似ていないが、瞳に宿る真剣な思いは重なり伝わってくる。あの時はやる気のない不甲斐ない子供(ガキ)だったが、今は違う。


「どうした?」

「あっ、はい。緩急は重要ですね。タイミング、間合いが変わる」


 アキレス師匠は俺を見据え、感心するように頷いていた。


「その通り。さすがに飲み込みが早い。思わず嫉妬してしまうぐらいだ」

「えっ? 師匠が?」


 驚き。アキレス師匠の目を見る。

 目は本気だ。冗談ではないらしい。


「そうだぞ? シュウヤが物凄い才能だからだ。多少のチグハグさはあるがな? だが、そんなことは些細なことだ。なんせ、土台その物が大きい。まるで天まで届く竜(グレートイスパル)のような器。【修練道】の激しい訓練を難なくこなし、乾いた土が水を得たように、わしの技術を余すことなく吸収していくんだからな? 全く、たった二ヶ月と少しでここまで到達するとは……」


 グレートイスパル?

 が分からないが褒めてくれた。


「……師匠のお陰です。押ス!」


 思わず、空手の挨拶をするようにお辞儀をしていた。


「ん? なんだ? 何か気合いが入る言い方だな……押ス!」

「ハハ……」


 別に前世で空手をしていたわけではないが、何となくノリでやってしまった。


「しかし、才能があるのは確かだが……<導魔術>はまだまだお粗末すぎる。これからは<導魔術>の訓練を優先することだ。<導魔術>をマスターすれば、<仙魔術>はすぐに覚えられる。と言っても、<仙魔術>の方はあまり得意ではないので、教えられることはあまりないのだが」


 へぇ、人によって得意ではないのがあったりするのかな。


「得意ではないと言うと、個人によって得手不得手が魔技にもあるんでしょうか?」


 アキレス師匠は、<導魔術>で浮かした小剣を宙に漂わせながら答えてくれた。


「あるにはあるが、これは好みの結果とも言える。わしは<導魔術>がたまたま気に入ったから研鑽し、使い続けた結果だ。それが得意になり、今に至る」

「研鑽すれば、ですか。とにかく修行ですね」


 アキレス師匠は厳しい表情に戻して、言葉を紡ぐ。


「その通りっ。まずはイメージの改善からだ。放出する魔力が水色ではダメだ。まずは無色透明を目指せ。そして、最初はもっと細く長くイメージしろ。んでは、わしは上に戻る。錬金と金具作りがあるんでな」


 放出……そして、無色透明か。


「……分かりました」


 その後は失敗の連続。

 放出する魔力が水色のまま、無色透明にならないのだ。


 何度も何度も挑戦するが、成功しない。


 夜になってもダメだった。


 次の日もダメでまた次の日もダメだった。

 さすがに顔に出ていたらしく、夕食時にラグレンとラビさんに加え、レファも気遣うように接してくれた。

 黒猫(ロロ)も俺の頬に二本の触手を当て続け、長い間親しみの感情を送ってくれた。


 お返しに撫で撫でとグルーミングをしてやった。

 柔らかい腹に顔を埋めて、まったりと過ごす。


 そんな調子で暫く<導魔術>の訓練を続けたが、進歩はせず、次の日も、また次の日も、放出する魔力が無色透明にならない。


 これにはさすがに少し凹んだ。

 アキレス師匠は気にするな。焦っても仕方ないぞ?


 と俺を励ましてくれて、


「ちょっとした槍の訓練をやろう」


 そんな感じで、急遽、趣旨の違った槍の訓練を始めてくれた。


 アキレス師匠と槍を向かい合わせる形で軽い組手演習を行う。

 お互いにゆっくりと体を動かし、槍を体に当てないで、寸止めする。


 この練習は意外に面白く楽しかった。

 ゆっくりとした動作の中に技の正確さが如実に現れるからだ。


 そんなこんなで、一週間経っても<導魔術>は成長せず、上手くいかなかったが、他にもやることが増えたので気にならなかった。


 それは、魔獣ポポブムの操縦訓練。


 餌をやるついでに教えることがあると、アキレス師匠に言われ崖下の家畜小屋まで連れてこられた時だった。


「今日からポポブムに乗る訓練をするぞ。まずはこの鞍に乗るのだ、こうやってな……」

「こうですかっ」


 ごわごわでゴツゴツだ……。

 初めてポポブムの鞍に乗った感じは、不安の一言。


 柔らかい鞍の下から感じる筋肉が硬い岩に乗っているような感じで、ごわごわして不安定だった。


「そうだ。後は手綱を握りポポブムに任せてみろ」

「はい」


 手綱を握ると、ポポブムの鼻孔から重低音が響く。

 まるで法螺貝のような重低音の「ブボッ」という声が聞こえ、一歩一歩重そうに足を出していた。


 鞍の下から感じる岩のような筋肉が柔らかく動く。

 その動きに驚くと共に、楽しく、癖になる動きだった。


「手綱を少し引くだけで止まるからな」

「分かりました」


 その日は歩くだけで終わる。

 ポポブムの騎乗訓練を開始して二日目から走れるようになった。


「ポポブムは頭が良い。口笛を吹けるか?」

「はい。ピーピピッピー」


 俺の地味な特技でもある口笛を吹く。


「ぬっ、鳥のような音だな? シンプルに口笛を吹けばポポブムは遠くにいても戻ってくる。覚えておくがいい」

「はい、覚えておきます。では、少し飛ばしてきまっす」


 そこで俺は少し調子に乗る。

 そうしてポポブムに乗り続けた結果、内腿からお尻に掛けて股擦れができてしまい、痛い目に遭った。

 が、すぐに回復が、またコスレタ! ひぃぃ、尻がぁぁ、ひりひりするけど楽しい♪

 あぁぁ擦れるぅぅ、おれぇたち♪ かぜがぁ、スゥスゥ、ふんふんふん♪ 尻いてぇぇ。

 鼻唄を交えながら変な歌を唄う。また乗り回しては股擦れを起こし回復。と、何回も繰り返し乗り回して、騎乗に慣れていった。

 五日ほど繰り返し乗り続けた結果。


 ピコーン※<魔獣騎乗>※スキル獲得※


 <魔獣騎乗>を得た。


 <導魔術>の修行が上手くいかない中、<魔獣騎乗>は楽しく、スキルも得られて楽しかった。


 それからはポポブムの操縦が格段に進歩。

 長く乗っても股擦れが起きなくなり、速度を上げて高原を走る、走る。


 曲がり道も、速度をそんなに落とさず曲がれるようになった。


「だいぶ慣れたな? 家畜を誘導するのも大丈夫そうだ。このまま向こうの高原地帯に突っ走るぞ」


 アキレス師匠と共にポポブムに乗り、高原を突っ走る。

 風が気持ちいい。魔獣に乗るのがこんなに楽しいとは。


 風を感じ、高原の草の匂いを嗅ぎとる。

 雄大な自然を走った。

 何も考えず、ただ高原を突っ走るだけだが、これは癖になる。


 一瞬だが、前世でよく聴いていた曲が脳内で再生された。

 単純だが、この事だけでも小さな幸せを感じる。異世界に来て良かったと。

 気分良く家畜小屋へ戻った時、黒猫のロロディーヌが勢い良く飛び乗ってきた。

 ポポブムの後頭部に陣取って、「にゃあっ、にゃぁ!」と高い声で鳴き興奮している。


 我が輩を乗せろにゃ、走れ! 走れ! と言っている?


 仕方なく黒猫(ロロ)をポポブムの後頭部に乗せた状態で走ってやった。少し走ってやると、黒猫(ロロ)は嬉しそうに、そして気持ち良さそうに「にゃお、にゃおぉ、にゃぁ」と声高に歌うように鳴き声を発している。小さい触手をムチの如く扱って、ポポブムの首へ当てているし……。


「ハハハッ、神獣様もお喜びでいらっしゃる」


 アキレス師匠は横で追走しながら黒猫(ロロ)を見て笑っていた。

 こうしてポポブムの<魔獣騎乗>は上手くいき、楽しく乗り回していたが、肝心の<導魔術>の方は上手くいかずに、ずっと苦戦し続けていた。相変わらず放出する魔力は水色のまま。透明を意識しているんだがな……。

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