千三百九十一話 <魔神ガンゾウの恩寵>と魔犀花流の弟子
と、その魔神ガンゾウの神像に魔力粒子のガンゾウが突入――。
巨大な神像から目映い閃光が迸る。
ここは魔神ガンゾウの神殿か。
元々は魔神コナツナの神殿だったのかも知れない。
すると、神像から音波のような波動が発生していく。
神殿内に共振でも起きているように反響音が徐々に大きくなってきた。
周囲の洞窟が輝く。
洞窟の天井と床や壁などが魔神ガンゾウの像が放った閃光の影響を受けたのか、輝いて熱を帯びる、岩壁は焼け爛れたように熔解していく。
反響音は様々な音色で音波を奏でた。
バチバチッとした音が響き脳内に鐘の音が鳴った。
精神に来る攻撃を繰り出してきた?
が、この反響音は、空間、この神殿自体に作用している感じだ。
と左手首の<鎖の因子>から<鎖>を射出。
が、<鎖>は天井から迸った稲妻のような魔糸が絡まって止まった。
すると、魔神ガンゾウの神像の頭部が蠢いて口が露出し、
「『――無駄じゃ、その鎖は通用しない』」
「……そのようだな、ここに俺を案内したのも、戦いを楽しむためか」
<鎖>を消しつつ右手に魔槍技バルドークを再召喚。
左手に断罪槍を召喚。
天井に発生していた稲妻のような魔糸は魔線で魔神ガンゾウとも繋がっている。
「『ひゃっひゃひゃ、槍使いとの勝負は楽しいからの……』」
「ガンゾウの本体は、そこの巨大な神像か? 街で出していた幻影の姿と似ている」
「『そうでもあり、そうでもない。シュウヤに倒されたのも本体じゃ……そして、倒されたのは数千年ぶりぐらいかのぅ……改めて褒めておこうか。ふぉふぉ、体を再構築するのにどれほどの魔力に労力を使うか……それよりもだ、先ほど、わしの魂を吸おうとしてきたのは、吸血神ルグナドからの直伝に思えるが、違うのか?』」
さらっと凄まじいことを教えてくれた魔神ガンゾウ。
<吸魂>は吸血神ルグナド様に高祖吸血鬼なら持つってことか。
「……直伝ではない。それよりも、体の復活は可能?」
「制約に準備をしておけば、神性に関係がなく可能じゃよ」
と魔神ガンゾウの神像が普通に喋る。
「神性に関係なくか、では魔神、最上級の神格を持つと復活は余裕で行えるのかな?」
「倒された時の状況による、シュウヤの神界セウロスの妙技などを連続して喰らえば、余裕ではない」
頷いた。そして、
「……魔界王子テーバロンテは滅したと思うがそうではないのか?」
「滅している」
「ガンゾウの言葉を聞いていると復活してそうな気がしてくる」
「ひゃっひゃひゃ、普通なら復活もありえたと思うが、ない。〝魔神殺しの蒼き連柱〟も起きたのじゃからな」
「……」
頷いた。
魔神ガンゾウの神像は、
「魔界セブドラに斜陽を起こした魔界王子テーバロンテは魔界の一柱じゃ、滅するのは普通ではない所業ではあるが滅されている。そのテーバロンテが消えたことで、その神格の枠を巡り諸侯と半神級に神々の争いが勃発したのじゃ、ふぉふぉ」
それは知らなかった。
「枠を巡る争いとは魔界王子の称号、神格か、そんな争い求めるものなのか」
「うむ。セラに深く影響を与えられるからのぅ、その魔界王子の枠の一つはライランが有名じゃが、ついこの間、魔界の神々の争いがあった影響で、だいぶ消耗したようじゃな」
それは俺のせいか?
玄智の森から魔界セブドラ入りした頃を思い出したが、その事象ではなく、
「魔皇は魔神の一種で数が多い印象だが、魔界王子の枠は結構希少なのか? 位は魔皇が上だと思っていたが、魔界王子のほうが上なのか?」
「神格なら魔神の中では覇皇や魔皇に天魔帝、十層地獄の王が頂点類じゃな、魔界王子は次点類と言えるかの、が……様々じゃよ、魔界王子の神格を得られるほうが実は難しいのじゃ」
「難しい、神格も単純な強さではないと……」
「うむ、強さか、そうじゃのぅ……セラに影響を与えている神々も強いと言えるかの」
納得。
「〝魔界セブドラの神絵巻〟に載っている神々が最上級の神々でしょうか、魔皇の名はありませんでしたが」
「……ふぉふぉ、スキルの影響もある故、一概には言えぬが、魔皇を得ても取り込んで魔皇の名がでないこともある」
なるほど。
「魔界王子が難しいとは?」
「魔界セブドラの広大な領域、〝魔神殺しの蒼き連柱〟や〝魔神殺しの紅蓮なる連柱〟を起こした数、真夜を崩し己の神意力を魔界と融合させ魔界セブドラと同化した数、傷場の占有に、魔界セブドラの魔族やモンスターを従えている数、信仰心、恐怖心、欲望、快楽、エトセトラ、セラにおける贄、憎悪、欲望、快楽、恐怖、信仰心の獲得など、様々に関係しているからじゃ」
「……納得だ、魔神ガンゾウのことが知りたい。肉体の復活はどうして可能なんだ?」
「制約に準備と言ったが、わしの場合は、魔界に覇を目指すような代物ではないことと、セラにあまり興味がないことも関係がある。強いていえば〝半霊〟を集める〝放浪魔神〟故かの? スキルで言えば<魔主観念>、<魔転輪廻>、<魔念生滅>、<魔転生写>などがあるから可能なのじゃ」
「輪廻転生やクローンのような印象のスキル名だが……」
と、魔神ガンゾウの神像の口が止まった。
答えは返ってこない。
ガンゾウの頭部に再現されているイボイボの凹凸具合が凄まじく、顔には八眼はない。
皺が何重にも重なって段々とした顔の造形。
奇怪な爺さんガンゾウを初めて見たときと同じ姿だ。
着ている法被は少し短いかな、が、異形の、か細い体は同じ。体には無数の孔もある。短い左手と長い右手には魔杖が握られていた。枯れ枝のような、か細い両足。
か細いが、蹴りは強烈だし、腕っ節もかなりの物。
棍棒術も凄まじく高度だった。
そんなことを考えていると、巨大な魔神ガンゾウの神像が破裂した。
「な!」
驚きと共に大地震――。
神像の破片が礫として飛来――。
即座に<武行氣>で体を浮かせつつ、大きな駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を目の前に召喚――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾代わりに使う。
無数の礫を<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で弾いた。
が、転移してきた膨大な魔力が乗った礫を全身に喰らう――。
痛いどころではない――。
衝撃は殺せず吹き飛ばされた。
視界がぐらついて、血を吐いた。
※ピコーン※<根源ノ魔泉>※恒久スキル獲得※
※称号:<魔神ガンゾウの恩寵>※を獲得※
「『ハハハハ、見事、それはわしの褒美の一つ!』」
受け取ったが――。
<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を前に展開しながら――。
<仙魔奇道の心得>を発動。
<仙魔・暈繝飛動>――。
<水月血闘法・水仙>を実行。
無数の礫を避けまくる。
駒の<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と無数の礫が衝突しまくって重低音と金属音も響いてくる。
と、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と衝突し、床を転がっていたバビブルスと似た金属の提灯が見えた。
前のような機敏さはないからバビブルスが復活したわけではないと分かる。
礫が収まると、洞窟の壁は溶岩のような色合いとなって、うねうねと動きまくる。熱の壁の表面には魔法陣が浮かんでいた。
魔法陣の中身と形はガンゾウの八眼の中に記されていた魔印と似ている。
細い体に発生していた魔印とも似ていた。
熱の壁が爆発しプロミネンスのような炎が噴き上がった。
何度も重低音を響かせながら爆発が連続し、その炎が迫った。
大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を動かし炎を防ぐと、熱の塊も飛来し、<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>と衝突を繰り返す。
爆発が収まると、神殿の空洞内の急激に温度が高まる。
空間の震動が強まった。
壁の模様の魔印も罠か?
背後を見ると閉じ込められた訳ではないから罠ではないか。
が、この空間の震動とか、次元攻撃だろうか?
電子レンジ的な攻撃とか?
洞窟の奥には、マイクロ波を放出させるようなマグネトロンの磁電管でも仕込んであるような勢いだ。
再び、熱波が迫る。
《氷命体鋼》を発動。
《氷竜列》を上下左右に連続して放ちながら後退し、氷の頭の龍が、瞬く間に幾つもの氷竜に変化しながら熱波と衝突していくのを見た――水蒸気爆発のような現象が起きる。
が、不思議と洞窟には、爆発の影響はあまりない。
洞窟の壁は特殊仕様?
魔神ガンゾウの神域だからか?
先ほどの熱も、マイクロ波によって対象者の水分や細胞などを、異常なほど振動させて熱を発生させるような攻撃に思えたが、違うのか?
駆けて、開けた場所に戻る。
と、急激に温度が低下し、そのうねうねと動いていた洞窟の壁が固まり、無数のアルコーブと変化していた。
アルコーブの小さい石像が振動していく。
と、足下から土塀が盛り上がり、無数の刃と手が伸びてきた。
直ぐに足下に<血鎖の饗宴>を発動――。
無数の刃と手を無数の血鎖で溶かすように消し去った。
ガンゾウの巨大な石像は消えたが、ガンゾウの大きい頭部の幻影が出現。
頭部から膨大な魔力を放っていた。
アルコーブに鎮座されていたガンゾウ擬きの石像は振動を強めていく。
転がっていた金属の塊が煌めくと、浮かび始めた。
金属の塊は大小様々あるが、総じてタマネギの形だ。
バビブルスの復活が先か?
しかも複数か、そのバビブルスのような提灯の表面には人面もある。
それらが俺ではなく巨大なガンゾウの神像が在ったところに向かい、ガンゾウの幻影を取り込むように吸収し、壁に向かう。
どういう――。
と、バビブルスの金属が融合し洞窟の壁をぶち抜くと、金属の通路に変化。
奥には別部屋があると分かる。
刹那、その通路に吸引されるように引き摺られていく。
膨大な魔力を吸い取られていった。
胃がねじ曲がるような、今までにない頭痛も――と、闇の魔力を得ると不思議と楽になった。その通路に入る。
金属の音がキィィィィンと響いた。
歩くと、金属が熔解しているような沼のように変化。
熱くないが、非常に歩き難いが、<血魔力>を放つとスムーズに進めた。
進む度に、風のような魔力を得ていく。
金属の沼地を抜けて進んだ先は黄金の金属と闇の魔力で構成された部屋だった。
と、無数の眼球が壁の内部に現れると、壁からにゅるりと出ては部屋の中央の宙空に集結し、パッと火花が散るように火炎が吹き荒れる。
眼球が消えて火炎がカバラのような魔印を縁取った。
魔印は消えて、八眼を擁した魔神ガンゾウの幻影が浮かぶ。
嗤っている? と幻影が消えた。
そこには長い魔杖と書物が浮いていた。
「『ふむ、無事に入れたようだじゃな。その褒美を受け取るがいい……そこから先は槍使いシュウヤの才覚次第だろう、ひゃひゃ』」
「長い魔杖はガンゾウが使っていた?」
「そうじゃ、魔杖槍の名は犀花」
「魔杖槍の犀花を俺に?」
「うむ。魔犀花流の弟子として認めてやる。そして、いつか体を取り戻したら、また勝負しようか、では、然らばだ――」
と、長い魔杖と書物が飛来、体で受け取ったが、痛い――。
黄金の金属と闇の魔力で構成された部屋から弾き出された。
続きは明日。
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