千三百八十五話 罰夜組と朱幻会との抗争も今日限りで仕舞い
ガルボンドを見ながら、
「いきなり配下か」
「はい、どちらにせよ、サシで負けた俺は罰夜組組長では居られない。ですから一兵卒からお願いいたします」
ガルボンドの四眼の瞳には嘘はないと分かる。
キスマリのような猛将タイプかな。
「お前を受け入れるとして、罰夜組はどうするんだ」
「罰夜組の皆もシュウヤ殿の配下にしていただきたい」
「全員が一兵卒か? 部下たちの意見を聞かずか?」
「聞いてもいいですが、罰夜組の大半が魔傭兵上がりで、少しだけ闘技者が混じる。そんな連中ですから既にシュウヤ様の強さに惹かれている者が多数かと。俺と共にシュウヤ様の部下になりたいと思う者が大半かと思います」
「強さに惹かれるか、俺は闇ギルドを持つことは持つが、それはセラ側の話であって、ここでは関係ない。今は悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターとの戦いに備えてレン家と同盟を組んだところだったんだ。そして、【マセグド大平原】側の三つの砦では、もう戦いが起きているはずだ。で、そんな俺たちなんだが、それでも下に付くのか?」
「はい、悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターの眷属と戦っておられる話を聞いています。それらを踏まえて、矢面に立つ覚悟もありまする」
一兵卒と語った理由か。
「罰夜組を辞めるということだな?」
「はい、俺は、先ほど言ったように組長を辞する思いです。ただ、部下全員が俺と同じ気持ちかは不明ですが……」
「了解した。ひとまず部下たちの意見を聞いてからにしてくれ」
「分かりました」
ガルボンドの意志は硬そうに見える。
ヴィーネとキサラを見て頷いた。
魔槍杖バルドークを仕舞う。
ヴィーネは、
「ご主人様、受け入れましょう」
賛成か、キサラも頷いて、
「はい、それに、ここはレンが支配している【レン・サキナガの峰閣砦】の街ですから、罰夜組と、すべての闇ギルドは、既にシュウヤ様の配下のような氣がしますが……」
それはざっくり過ぎる。
が、戦場となったら、ここで暮らす一般の方々もレン家に付くか。
『はい、ここは閣下が支配する土地、遺跡もあるようですから、冒険者としても地下を探索も将来的に楽しめる。それに、今は、あのアヤコという女性魔族は気になります、閣下の部下に勧めたい。勿論、ハブラゼルや監獄主監ルミコもですが』
『ふふ、ですね、アヤコの指から出た剣のような刃が気になります』
『気が早いが、アヤコさんは、たしかに俺も気になっていた。が、今はガルボンドたちだ』
『『はい』』
常闇の水精霊ヘルメと闇雷精霊グィヴァの念話はそこで切り上げる。
ヴィーネはキサラに、
「たしかに、レンは、ご主人様の眷属になるのですからね」
「はい、どうせなら罰夜組と朱幻会も【レン・サキナガの峰閣砦】を守る側の戦力として悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力との戦いに加わってもらいましょうか」
「はい、いいですね」
「にゃ~」
「ンン、にゃァ」
ヴィーネとキサラの会話に相棒と銀灰虎の同意するように鳴いていた。
自然と頷いた。
ヴィーネとキサラに、
「朱幻会の盟主のアヤコは無数の指を操作し、自分の指も切り離して操作していた」
「そのようなスキルを持つのですね、アグラトラの甲指のようなアイテムでしょうか?」
「本当の指だと思うが、指からは剣刃が伸びていたんだ」
「それは、不思議な能力です」
ヴィーネとキサラの言葉に頷く。
すると、
「組長が起き上がって会話している!」
「「おぉ」」
「魔法で癒やしてくれていたのは見えていた!」
「今、戦ったばかりだと言うのに本当に回復してくれていたのか」
「回復魔法は水の魔法だったか? 速くて見えなかった」
と、黒色の革鎧を着ている罰夜組の連中が叫ぶ。
彼らは、まだ境界線代わりに造り上げた<朱雀閃刹>の棒手裏剣と手裏剣のところを越えていない。
ガルボンドは部下たちを見て、
「お前たち、俺は生きている! シュウヤ様に救われたのだ!」
「「「おぉ」」」
「更に、シュウヤ様は、先ほど謝っていたように、この通りの縄張りを荒らしてしまったことに心を痛めていた。その詫びにと、極大魔石を大量にくださったのだ! 周囲の土地の者たちに分けるようにも告げられていた……そんな大いなる慈悲を持つ強者が、シュウヤ様、真の大侠だ!」
「「「「おぉ」」」」
「極大魔石を大量!?」
「「すげぇ」」
「だからこそ完全に俺たちの負け、罰夜組の敗北だろう。そして、俺はシュウヤ様の器量に惚れたから配下にしてもらう!!! 皆も付いてくるなら自由だ!」
「「「「「え……」」」」」
ガルボンドの言葉で罰夜組の方々はざわつく。
構わず<朱雀閃刹>を消した。
棒手裏剣や手裏剣から発生していた炎が消えた。
ハルホンクの防護服の袖口を地面の先に伸ばし――。
刺さっている棒手裏剣と手裏剣を袖口に吸わせるように、手裏剣類を回収していった。
境界線が消えると、罰夜組の方々たちが近付いてくる。
大型馬ドールゼリグンに騎乗していたラカトはゆっくりと降りると、
「お前たち、組長の前に整列しろ――」
「「「はい」」」
と罰夜組の方々に指示を出す。
罰夜組の方々は俺たちの前で整列。
やや遅れて朱幻会の方々も近付いてきた。
「ンン、にゃ~」
黒豹は黒猫の姿に戻ると、足に頭部をすり寄せてくれた。
ヴィーネとキサラは得物を消して無手に戻る。
キサラを騎乗させている銀灰虎はまだ大きい銀色の虎のままだ。
キサラの片手が、銀灰虎の腹を撫でているのかゴロゴロとした大きい喉音が響かせてくれた。宙空に出しっぱなしだった大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を仕舞う。
ガルボンドとラカトを見て、
「朱幻会のほうにも話をふるがいいかな」
「「はい」」
ガルボンドとラカトは了承してくれた。
朱幻会のアヤコさんの前に向かう。
背後から、ガルボンドの声が聞こえてきた。
「ラカト、お前はどうする」
「俺は組長の下でしか働かない」
「そうか」
「何暗い顔をしているんですかい、俺も組長と一緒にシュウヤ殿の下で一兵卒になるということですよ」
「おぉ」
『ふふ、全員が閣下の部下になりそうですね』
『あぁ、魔傭兵団〝罰夜組〟として、レン家の下に付いてもらうと思うが』
『はい』
ヘルメと念話をしつつアヤコさんに、
「朱幻会の代表のアヤコさん、用心棒の件だが」
「いいの、先ほどは戦いを仕掛けてごめんなさい。極大魔石も要らないわ」
「あ、そうですか」
「でも用心棒を失って不安だから、わたしもレン家の下に身を寄せたいかな。渡りをお願いできるかしら」
「それは構わないが……」
「部下たちのことは気にしないで、皆もわたしに付いてくる」
「了解したが、状況は理解しているようだな」
「うん、シュウヤ殿が謝ってくれていたけど、悪神ギュラゼルバンと恐王ノクター様のことは噂で知っているし、戦場も知っている。そして、悪神ギュラゼルバンは魔界王子テーバロンテ以上に話が通じないと噂があるわ。弱者から搾取するどころか弱者を皆殺しにするとか、最悪な部類の支配者のはず。だから、のほほんと魔酒と魔肉を堪能し闘技場で遊んでばかりは居られないと思ってね、レン家に貢献したいのよ」
アヤコさんの言葉に頷いた。
前々からそんな考えだったと分かる。
「分かった、では、レンがいるモゴゼ大隊の分隊がいる場所に戻るから付いてきてくれ」
「了解したわ――」
とアヤコさんは振り返り、
「皆、聞いたわね、罰夜組と朱幻会との抗争も今日限りで仕舞いってこと。副長のチバ以外は、七八通りの事務所に戻って、私たちの報告を待っててね」
「「「はい」」」
アヤコさんは、朱幻会の皆に告げると一名の空手家のような格好のチバさんを連れて俺の横に来た。
チバさんが渋すぎる。
禿げているし、巨大な牛を、正拳突きで倒しそうな印象だ。
『ふふ、戦力が減るどころか、罰夜組と朱幻会という戦力が増えました』
『おう、災い転じて、なんとかだ』
『災い転じて福となす、ですね!』
ヘルメはトン爺から聞いた諺を覚えていたかな。
アヤコさんとチバさんに会釈してから、振り返り、罰夜組のガルボンドたちの近くに戻る。
ガルボンドは、
「ラカトもシュウヤ殿の配下に加わりたいと言ってました」
「はい、罰夜組、特攻隊長のラカトです。ドールゼリグンに騎乗した特攻と、魔槍使いでもあります。お願い致します」
「了解した、ガルボンドたちも、レンたちがいる場所に戻るから付いてきてくれ、それとガルボンド、コレを返しておく――」
魔大太刀を返した。
「あ、ありがとうございます――」
「おう、では、ヴィーネとキサラも戻ろう」
「「はい」」
「ンン、にゃぉ~」
「にゃ~」
と相棒と銀灰虎を乗せたキサラが先に進み始めた。
途中でキサラから魔槍斗宿ラキースよりも青炎槍カラカンのほうが相性が良いかも知れませんので、と魔槍斗宿ラキースを渡された。
それよりもヴァドラ・キレアンソーの武器の回収したかな。
魔軍夜行ノ槍業の飛怪槍のグラド師匠の手足の返還が先か。
と、考えながらキスマリやエヴァたちに闇ギルドの朱幻会と罰夜組のことを報告しながら歩いた。
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