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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1384/2032

千三百八十三話 朱幻会と罰夜組

 魔星槍フォルアッシュを仕舞う。

 ドヌガが使用していた魔斧槍と漆黒の魔槍を拾い回収――。

 血の錫杖は残し<血道第五・開門>と<血霊兵装隊杖>を解除。

 <闘気玄装>以外の<魔闘術>を解除。

 <血想槍>の<血魔力>の消費量は尋常ではない。

 <経脈自在>と<滔天内丹術>と<性命双修>を使用しながらでも消費は激しい、<血想槍>を解除――。

 すべての武器を戦闘型デバイスに仕舞い、代わりに高級回復ポーションの瓶と回復玄智丹入りの袋から回復玄智丹も取り出した。

 ポーションの蓋を囓り取って瓶を口に付けたまま傾け、飲んでいく――うーん、マズイ、もういっぱい、と青汁を飲む気分で中身をすべて飲み干してから――瓶を捨てて回復玄智丹を食べた。


 味は塩辛いが、塩は大事だ。

 マグネシウムも大事、天然の塩は特にな。

 

 ビタミンが排除されていない、科学的に造られた塩ではない、どっかの化学調味料ではない、自然の塩が大事だ――。


 玄智の森にも塩田のような製塩法はあったのかな。

 エンビヤに感謝――。

 ホウシン師匠たちは神界セウロスの光魔武龍イゾルデも元気だと嬉しい。


『回復玄智丹は、美味しそうに見えます』

『この回復玄智丹のタイプは、前とは少し異なる、塩味が濃い』

『そうなのですね』


 常闇の水精霊ヘルメと念話を行いながらエンビヤとイゾルデの姿を思い出している刹那――。


 周囲に見知らぬ魔素を察知――。

 新手の魔素は斜め左と前方と右からだ――。

 

 複数ある。右のほうが数が多い?


『閣下、外に出ますか?』

『御使い様、いつでも外に出られます』

『二人とも、そのままで』

『『はい!』』


 斜め左の上空から遠距離攻撃が迫った。

 複数の指の攻撃? 指の先端には長い刃物が嵌まっていた。指の長さは様々――。


「――ウチの用心棒を倒すなんて!」


 と、無数の指を操っているのは女性が叫ぶ。


 自分の指先も切り離している?


 指の数本が切断されたように浮いていた。

 指の群れの後部から伸びている魔線は、女性と繋がっている。


 多種多様の指を<導魔術>で操作しているのか。

 ――<導魔術>で操作された指と融合した刃とか奇怪だ。

 

 <血道第四・開門>の血の錫杖は出しっ放しだったことを利用し、その血の錫杖を操作しつつ<導想魔手>も再発動し、左後方に、大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を右側へと向かわせた。


 血の錫杖と<導想魔手>と<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を宙空に八の字を描くように操作し、複数の指の攻撃と、魔弾のような礫の攻撃を防いだ。


「激強い槍使いは、朱幻会になんの恨みがあるのかしら」


 と発言した女性が屋根から降りてきた。

 指の群れを従えているように周囲に浮いている。

 その指から出ている魔線がピアノ線に見えてくるが、実際の糸も混じっている?


 そんな指を操作している女性を凝視。


 二つのおだんごの髪形。

 だんごは、赤い紐で括られていて可愛らしい。

 前髪は薄くオデコは露出、細い眉に、丸い瞳。

 鼻は少し高い。唇の端に傷があるが、和風美人さんだ。

 顎も細い。


 和風の綾羅錦繡を羽織り、薄着の軽装に見える。

 が、魔力が内包された黒色の鎖帷子を着ている?

 全身の下着は黒い網タイツかも知れない。


 その女性の背後から黒装束の集団が降りてきた。


 おだんごヘアが可愛い和風の女性の横に並び、魔刀の切っ先を向けてきた。

 

 その者たちに、


「恨みなんてない」

「恨みがないのに、なんで用心棒のドヌガを殺したのよ!」

「ドヌガは朱幻会の用心棒だったのか」

「……知らなかったの?」

「知らなかった。ドヌガとは、俺の師匠たちと関係があっての戦いだ。朱幻会に迷惑はかけるつもりはなかった、済まなかったな」

「……嘘よ、わたしたちに恨みがあるからドヌガを殺したはず!」

「信用しないならそれまでのことだ、先ほどの続きをしてもいいぞ」

「……ふふ、大蟲ジェブドーザーをもいとも簡単に倒してしまうドヌガを倒すだけはあるようね」

「ドヌガはそんなことをしていたのか」

「そうよ、朱幻地下闘技場で大活躍、というか五十連勝中だったんだから……そんな無敵のような強さを誇ったドヌガを、貴方は倒した」

「へぇ、貴女は朱幻会の代表者なのかな」

「そうよ」

 

 と、礫がまた飛来。

 ――石ころか?

 血の錫杖を消し――。

 右手に魔槍杖バルドークを召喚――。

 そのすべての投石の攻撃を魔槍杖バルドークの柄で弾いていく。


 投石の遠距離攻撃が止まる。

 その投石を行った魔素の連中も近付いてきた。

 投石を行った者たちは崩壊しかかっている屋根の上にいた。魔傭兵かな、黒色の革鎧を着ている者が多い。


 中央には大型馬ドールゼリグンに騎乗している者がいた。

 赤髪で大柄の武者か。四眼四腕の魔族。

 その横に立っている大柄の四眼四腕の魔族も強そうだ。黒髪で背中に大太刀を背負っている。

 先に大型馬ドールゼリグンが屋根を破壊しながら跳ぶ。

 黒髪の大太刀を背負う四眼四腕の魔族も跳んだ。

 

 周囲の黒色の革鎧を着た集団も一斉に跳躍し、通りに降りてきた。

 騎乗している赤髪の武者が、


「皆、朱幻会のアヤコたちを見張れ」

「「「はい!」」」


 指示を飛ばし、大型馬ドールゼリグンを進めてきた。

 背後には、黒髪の大太刀を背負う者が残る。


 大型馬のドールゼリグンの足首に生えている黒毛のモフモフが格好いい。

 

 あ、大型馬のドールゼリグンを連れたゼメタスとアドモスはそろそろ呼んでも大丈夫か。

 

 赤髪の武者はドールゼリグンの腹を叩いて動きを止めると、魔槍の切っ先を見せてくる。


「お主、悪式組の手先か?」

「違う」

「では、どこの組織の者だ」

「ここの闇ギルドではないが、正確にはセラのペルネーテやセナアプアにある【天凛の月】の盟主、総長だ」

「セラだ? 傷場の向こう側の世界とは……にわかには信じられぬ」

「別段信じなくて結構」

「……で、その【天凛の月】の長が、朱幻会の用心棒を殺し、同時に我ら罰夜組の縄張りを大いに荒らしたのだな……」

「戦いの流れでこうなった。朱幻会と罰夜組には悪いことをした悪かった、謝ろう――」


 と魔槍杖バルドークを仕舞い、頭を下げた。


「「「……」」」

「「え」」


 少し間が空いた。

 すると、


「にゃご~~」

「ンン、にゃァ~」

「ご主人様、キサラたちと合流しました」

「シュウヤ様~」


 とヴィーネたちの声が響く。

 俺は半身の姿勢で、横目になりながら、右手を上げて、ヴィーネたちを迎えた。


「ご主人様、この者たちも恐王ノクターや悪神ギュラゼルバンの眷属たちですか? それとも魔人武王ガンジスの弟子たち?」


 そのヴィーネの問いを皆に聞くように赤髪の武者と、朱幻会のアヤコさんと思われるダンゴの髪形の女性を交互に見やってから、


「と、ヴィーネが聞いているが、どうなんだ、朱幻会と罰夜組の者たち」


 朱幻会と罰夜組たちは、ざわざわ、とざわついた。

 朱幻会のアヤコさんは、


「……恐王や悪神? 魔人武王ガンジスの弟子? わたしたちはそんな神々の眷属ではないわよ、この地域の闇ギルドの一つが朱幻会です」

「無論、俺たちも違う、俺は罰夜組のラカトだ」


 朱幻会のアヤコさんと、赤髪の武者のラカトが発言。

 キサラを乗せた銀灰虎(メト)が前に出る。

 ダモアヌンの魔槍の切っ先を、ドールゼリグンに乗っている赤髪に向けて、


「シュウヤ様たちに喧嘩を売る組織が、朱幻会と罰夜組ということですね。レン家の者が知れば、ここの街では無事では済まされないですよ?」

「え!」

「なんだと!」


 朱幻会のアヤコさんと、罰夜組の赤髪の武者がレン家の名に驚いた。

 またも朱幻会と罰夜組の者たちが、ざわつく。

 

 美人なアヤコさんに、


「……レン家と親しい者が俺たちだ。今ここで退くなら、俺たちも忙しいから無視しよう。どうだ?」

「……」

「ハッ、レン家がどうしたというのだ、シマを荒らしたのなら、やり返すまでよ」


 赤髪の武者のラカトは強氣だ。

 背後に佇む四眼四腕の魔族は微動だにしない。

 

「にゃごぉ」

「にゃごぉぉ」


 相棒たちも興奮。

 ヴィーネが右手に翡翠の蛇弓(バジュラ)を召喚。


「俺たちは、魔傭兵団モゼルダと魔傭兵団ゴイアンと魔傭兵団ゼルタクスゼイアンの連合、通称、モゴゼ大隊の分隊と交渉中だった。だが占拠していた商店で、その分隊の中にいた悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの勢力が暴発してな、そのメンバーを追い掛けて、この通りでの戦いとなった。そして、その分隊のメンバーは、周囲の闇ギルドに、挨拶料、みかじめ料を渡していたと語っていた。悪式組と朱幻会、そのマエダとコマツに極大魔石を三つも渡したと語っていたが、覚えていないか?」

「「「……」」」


 朱幻会のアヤコさんは半身の姿勢となって仲間たちを見やる、そして、数名のメンバーが前に出て、アヤコさんに耳打ち、アヤコさんは、頷きつつ俺を見て、頭を下げると、直ぐに指先を直ぐに元に戻し、すべての浮かばせていた指を両手首に吸い込ませていた。


 そして、


「確認が取れたわ。七八通りとシュメル街道でキトウたちと揉めて殺した連中、魔傭兵集団ね。そいつらと交渉ってことは、本当にレン家と親しい者たちのようね」

「そんなことは聞いてない」


 と、発言したのは、黒髪の大太刀を背負う四眼四腕の魔族。

 赤髪の武者ラカトは大型馬ドールゼリグンを操作して、後退し、黒髪の大太刀を背負う者に会釈しながら、黒髪の大太刀を背負う四眼四腕の魔族の背後に回る。


 黒髪の四眼四腕の魔族が前に来たから、その四眼四腕の魔族に、


「挨拶料は、罰夜組には渡していないようだった」

「ふざけた連中だ」

「……怒るのはごもっともだが、まずは名乗ろうか、名はシュウヤだ」

「俺は罰夜組の組長、盟主のガルボンドだ」

「そうですか、ガルボンドさん、アヤコさん、先ほどと同じですが、別段縄張りとか興味ないので、では、ヴィーネたち退こう」

「「はい」」

「にゃ~」

「ンン――」


 キサラを乗せた銀灰虎(メト)は素早く後退し、通りに向かう。

 俺とヴィーネも身を翻した。

 相棒は直ぐに走り寄ってくる。


「「なっ」」

「えっと……」


 二つの組織連中が騒いだが無視だ。

 が、


「ふざけるな、黒髪のシュウヤ! レン家だからなんだというのだ、ラカト、朱幻会の連中を見ておけ――」

「はい――」


 と大太刀を背負う四眼四腕の魔族、ガルボンドが突進してきたと分かる。

 皆に、「ヴィーネたち、悪いが見ててくれ」


「「はい」」

「ンン、にゃ~」

「にゃァ」


 振り返りながら魔槍杖バルドークの穂先をガルボンドに向けた。

 

続きは明日。

HJノベルス様から「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[一言] 朱幻会のアヤコと罰夜組のガルボンド。用心棒が殺されたり縄張り荒らされて出て来たか。 縄張りを荒らされた面子の問題も有るんだろうが、とはいえガルボンドは無謀だなぁ。
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