千三百八十二話 魔人武王ガンジスの弟子ドヌガと激闘
ドヌガは俺との間合いを詰めてくる、が、急激に速度を落としながら歩きに変えた。
腰の魔軍夜行ノ槍業と離れた位置に放置していた<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>の動きを見ながら、体から紫色と小麦色の魔力を噴出させて足を止める。
四眼の内、二眼から積層とした魔法陣を生み出し、
「雷炎槍エフィルマゾルごとシュリが消えたが、シュリと共に戦わないのか?」
「戦わない。そして、今は、断罪槍だ」
と答えた。
ドヌガは、
「ははは、お前の気質、嫌いじゃない……」
と笑顔で語り断罪槍をチラッと見てから右下腕を下げて、己の腹を、その右掌で触る。同時に体から発生させていた紫色と小麦色の魔力を四腕に絡ませた。
その魔力は腕の周りを螺旋で巡る。
「断罪槍のイルヴェーヌか……その槍を見ると、この傷が疼くぜ……」
と言葉から懐かしいと言うような雰囲気を醸し出す。
『弟子、そう言うが、私を使ってもいいのだからな、<魔軍夜行ノ憑依>を楽しみにしているぞ』
頷いた。
イルヴェーヌ師匠との合体修業は楽しみだったりする。
が、今回は個人的にがんばりたい。
『ふむ、妾もつこうてほしいところではあるが、頭目の体を取り返すことが肝要』
女帝槍のレプイレス師匠の<女帝衝城>以外の女帝槍流を学びたいところだが、
『ドヌガの魂で、弟子は更に強くなる』
塔魂魔槍のセイオクス師匠はいつも通り。
『ハッ、セイオクスは魂マニアか』
『ふふ』
『シュリは魔力切れか?』
『うん。でも、雷炎槍流で武威は示せたから、借りは十分よ。弟子を見守るわ』
『あぁ、弟子には難易度が極めて高いと思うが、がんばってもらうか』
悪愚槍のトースン師匠の思念に頷いた。
『そうだな、派手な魔槍技は使わないほうがいいだろう』
『カカカッ、弟子、任せたのじゃ』
飛怪槍のグラド師匠からの頼み、
『はい、師匠たちの想いは常に感じています、任せてください』
『うむ!』
『ふっ、まったく……』
『シュリ、泣くなよ――』
『ちょ、グルド、変態、触っていいは弟子だけ――』
『げぇぇ――』
と、魔軍夜行ノ槍業の表面にグルド師匠の頭部らしきモノが浮かび上がった。
シュリ師匠に殴られたのか?
何してんだが、と思った直後に、
『『復讐の怨嗟に燃え滾る、異形の魔城の守り手!』』
『『『われら、八大、八強、八怪、魔界八槍卿の魔槍使い』』』
『『われら、八鬼、八魔、八雄、魔界八槍卿の魔槍使い』』
われら、魔城ルグファントの八怪卿の魔槍使い。
われら、かつての異形の魔城の守り手!
われら、唯一無二の魔界八怪卿なり!
と、師匠たちの思念が魔軍夜行ノ槍業から響きまくる。
その魔城ルグファントの歌を思わせる、八人の師匠たちの思念は聞こえなくなった。
その間にもドヌガは俺を凝視。
俺もドヌガを<闇透纏視>で観察。
両下腕と両足の境目に僅かな魔力の差異がある。
あの両下腕は確実に飛怪槍のグラド師匠の両腕だ。
体格的にも、あの両腕はドヌガ本来の体格に似合わない。
上腕三頭筋に二頭筋の上部は細いが下部は太く長い、筋肉量は多そうだ。
肘の魔点穴と前腕には円状の魔印が浮いていた。
円状の魔印の回りを巡っている紫色と小麦色の魔力の流れがネズミ花火に見えてくる。
両足の膝近くにも、円状の魔印があるようだ。
両腕の魔力と同じように紫色と小麦色の魔力が渦を巻いていた。
頬の円状の傷から出ている細い魔線は、グラド師匠の手足と繋がっていた。
<闇透纏視>で辛うじて見える細い魔線。
と、腰と左右下腕を守るように分厚い装甲に絡み付いているルグファントの戦旗が煌めいてスカートのように靡いて捲れ、腹の一部が露出した。
腹直筋や外腹斜筋が凄まじいほどに隆起している。
複数の切り傷と大砲に貫かれたような傷痕が目立つ。
ドヌガは、槍で穿たれたような傷痕を指でなぞっていた。
腹横筋は装甲で見えないが、筋骨隆々のドヌガは、丹田を中心にまた違う系統の魔力を発した。新たな<魔闘術>系統か。
俺も頷いてから、
<滔天神働術>を発動。
<水神の呼び声>を発動。
<煌魔葉舞>を発動。
<霊魔・開目>を発動。
<闘気玄装>を再発動。
<黒呪強瞑>を再発動。
<龍神・魔力纏>を発動。
<水の神使>を意識し、発動。
<経脈自在>を意識し発動。
<性命双修>を発動。
※性命双修※
※戦神流命源活動技術系統:神仙技亜種※
※大豊御酒、神韻縹渺希少戦闘職業、因果律超踏破希少戦闘職業、高水準の三叉魔神経網系統、魔装天狗流技術系統、義遊暗行流技術系統、九頭武龍神流<魔力纏>系統、霊纏技術系統、<魔手太陰肺経>の一部、<魔闘術>系技術、<水月血闘法>、<経脈自在>、戦神イシュルルの加護、<滔天仙正理大綱>が必須※
※使い手の内分泌、循環、神経、五臓六腑が活性化※
※己の魄と魂の氣が融合※
※魔力と精神力と精力が倍増することで、高密度の魔力操作と酒類の功能と心身の潜在能力の開発を促す修練力が上昇する※
※あらゆる異性が興味を持つフェロモンを放つようになる※
※戦神イシュルルの秘技の一つ※
<滔天内丹術>を発動。
※滔天内丹術※
※滔天仙流系統:恒久独自神仙技回復上位スキル※
※戦神イシュルルの加護と<水神の呼び声>と<魔手太陰肺経>の一部が必須※
※玄智の森で取り込んだ様々な功能を活かすスキル※
※体内分泌などが活性化※
※<闘気玄装>、<魔闘術の仙極>、<血魔力>の魔力が呼応し効果が重なる※
※回復玄智丹、万仙丹丸薬などの分泌液と神経伝達物質が倍増し、それらが全身を巡ることにより飛躍的に身体能力が向上し、<魔闘術>と<闘気霊装>系統も強化され、魔力回復能力も高まる※
※<経脈自在>で効果倍増※
「……ハッ、先ほどの悪神ギュラゼルバンの大眷属を倒したのは、当然か。魔界王子の一角を打倒したのは、やはりお前に違いない」
「はい、分かりますか」
ドヌガは四眼で俺の魔力の分析を行うように凝視している。
「……当たり前だ、これほどの<魔闘術>系統の扱いは、他ではあまり見られない。魔力の高まりも尋常じゃねぇ……」
「貴方も<魔闘術>系統を幾つも発動している」
「その通り……それにしても、冷静に分析を優先する槍使いでもあるようだ、ただの熱血野郎ではない。だがっ――」
と、ドヌガは言葉尻のタイミングで地面を蹴って前進。
瞬く間に間合いを詰めると、迅速に、魔斧槍を突き出す。
<刺突>系統の<断罪刺罪>と似た速度――。
断罪槍を僅かに下げて、その穂先と螻蛄首で魔斧槍の矛と斧刃を受けたが重い――。
衝撃は殺せず後退した――二つの足跡が通りの真ん中に出来上がる。
と、ドヌガは相棒とヴィーネを警戒したのか、四肢に力を入れて後退。
「ご主人様!」
「にゃごおおお~」
通りの左右にいたヴィーネと黒豹を越えて後退してしまった。
左右前方にいる黒豹とヴィーネは俺たちを見据えているドヌガを見て、複数の触手とガドリセスの切っ先を向ける。
「ヴィーネとロロ、ここは俺に任せてくれ」
「はい、ヴァドラがいた大通りに向かいます、武器などアイテムがあれば回収しておきます」
「にゃお~」
「おう、頼む」
相棒は俺の足に頭部をぶつけてからヴィーネと共に通りを駆けた。
ヴァドラの武器の回収はしていなかったから回収してくれるかな。
ドヌガは、
「いいのか? 多人数で襲い掛かってきても魔法を使っても、俺は構わんぜ?」
「俺も槍使い、風槍流の使い手として、魔人武王ガンジスの弟子ドヌガに挑ませてもらいます」
と、断罪槍を払い、礼をした。
ドヌガは、笑顔を見せる。
「いいねぇ――」
と構えを解いて、魔斧槍を振るってから、礼をしてくれた。
そのドヌガは魔斧槍の穂先を見せてから、
「風槍流の使い手、改めて、名を聞こうか」
「シュウヤ、シュウヤ・カガリです」
「シュウヤか。俺も改めて名乗ろうか、名はドヌガ、ドヌガ・ガラサリ。仲間に多かった怪魔人ではなく悪鬼と呼ばれた一族が俺だ、出自は、【亡剋鬼謀ノ廃砦】が有名地方で、【鬼牙の郷】がそうだ。昔に、七魔七槍とも呼ばれていた時期もあったな、そして、お前も知っているように、俺の師匠は魔人武王ガンジス様だ……」
「はい」
「では、やろうか、ルグファントの亡霊の使い手であり、風槍流のシュウヤ――」
と、前傾姿勢のドヌガは左斜めに低空で跳躍飛行――。
と思ったら地面を蹴って、地面を爆発させるや否や、体から小麦色と紫色の魔力を交互に発して加速し、魔斧槍を突き出してくる――。
断罪槍を少し前に出す。
片鎌槍の穂先で魔斧槍の穂先を叩きながら、体ごと断罪槍を直進させた。
魔斧槍の柄の上を三日月状の肢刃が滑るように進む、ドヌガの持ち手と指を狙った。
ドヌガは魔斧槍の柄を左右に動かしながら腕ごと魔斧槍を捻り上げる。
片鎌槍の穂先の指と手首斬りは防がれた。
構わず、ドヌガの左横に僅かに跳びながら――断罪槍の石突をドヌガの横っ腹に向かわせた。
ドヌガも跳び、俺に合わせ相対しながら断罪槍の石突を躱す。
と、魔斧槍を横に払って斧刃と矛の一閃で、俺の首を狙う。
断罪槍を斜めに掲げるように右腕を上げる。
首に迫った魔斧槍の矛と斧刃を柄で弾くと、ドヌガは魔斧槍を下から石突を上げてきた。
断罪槍を下げ――穂先と螻蛄首で魔斧槍の石突を叩き落とす。
ドヌガは叩いた反動を利用し、魔斧槍を下から上に回転させて、斧刃の振り降ろしで、俺の頭を狙ってきた。
俄に断罪槍を上げ直す、三日月状の枝刃で振り降ろされた魔斧槍の斧刃を受けた。
魔斧槍の重さがあるが、その重さも利用するように断罪槍の片鎌槍の穂先を活かす――断罪槍を右に回し下げながら前に出た。
断罪槍の三日月状の枝刃でドヌガの脇腹の切断を狙う。
ドヌガは魔斧槍を引き、脇腹を狙った三日月状の枝刃は、その柄で防がれた。
ドヌガは俺を見て、
「随分と、片鎌槍の扱いに手慣れている!」
と言いながら魔斧槍を突き出してくる。
矛を断罪槍の穂先で叩いて、
「実は、習いたてだが――」
「ほぅ――」
魔斧槍の払いを断罪槍の柄で受けた。
そのまま断罪槍を上下に揺らすように、また魔斧槍を叩いて引く。
断罪槍の柄を右手の掌の中で滑らせるように前に出して、<刺突>を繰り出した。
その<刺突>は斧刃を上向かせた魔斧槍の柄で防がれた。
続けざまの断罪槍の<豪閃>でドヌガの胸元か左右上下腕を狙ったが、ドヌガは魔斧槍を斜めに上げる、柄で<豪閃>は防がれた。
断罪槍の穂先が魔斧槍の柄を削るように金属音が響き火花が散った。
ドヌガは四眼が輝き、魔斧槍の柄も煌めく。
魔斧槍の柄の傷が消えた。魔槍杖バルドークを彷彿とさせるメンテナンス力。
ドヌガは魔斧槍を捻り上げ、断罪槍の穂先を弾くと、
「……なるほど、風槍流の〝槍使い〟いい腕だ――」
と、魔斧槍の迅速な<刺突>系統のスキルを繰り出す。
その<刺突>系統のスキルは、今までとは異なり速く鋭い――。
断罪槍の柄で受けながら、後退。
腕が痺れたが、力で押し返すと、衝撃を完全に殺した。
「ハッ、<愚皇・覚刹>を読むか――」
と、魔斧槍が上下にぶれる。
籠手狙いの一撃、断罪槍を傾けながら――の横移動で、その籠手狙いの突きを弾きながら――断罪槍の<龍豪閃>の反撃でドヌガの脇を狙う。
ドヌガは、四眼の内の一眼で、俺の動きを捉えつつ――。
残りの三眼で断罪槍の動きを完全に読み切ったように魔斧槍を僅かに下げた。
柄と断罪槍の穂先が衝突――。
逆袈裟機動の<龍豪閃>は防がれた。
が、その片鎌槍の三日月状の枝刃を活かす。
魔斧槍の柄を削るように断罪槍を押して、三日月状の枝刃で、ドヌガの上腕を狙う。
と、金色の十字架のような形の魔力を発した魔斧槍に断罪槍は上に叩かれたように断罪槍はズラされた。
断罪槍ごと右腕が超振動を起こし、先ほどよりも長く痺れてしまう。
と、数秒後に回復、良かった。
ドヌガは少し後退し半身で下段の構えを見せ、片頬を上げて、
「<金架縛り>の小細工は効かぬか」
「多少は効いたさ――」
<導想魔手>を出現させて魔槍グドルルを持たせる。
同時に断罪槍で<光穿>を繰り出した。
ミスディレクションを狙ったが、相手は四眼、魔斧槍に加えて新たな漆黒の魔槍を左上腕に出現させると、<光穿>は防がれた。
構わず、<滔天仙正理大綱>を発動。
<導想魔手>が握る魔槍グドルルで<闇雷・飛閃>――。
一瞬の闇雷の閃光を思わせる薙ぎ払いは、漆黒の魔槍と魔斧槍で防がれた。
体を浮かせて、魔槍グドルルの<闇雷・飛閃>の威力を減退させていたドヌガは着地し、
「魔力の歪な手は<導魔術>か。見事な薙ぎ払い、さすがは八大、八強、八怪、魔界八槍卿を使役できる存在か……そこの大駒の、魔界九槍卿の名も、納得だ……雷炎槍流のシュリが最強の弟子と呼ぶのも頷ける――」
ドヌガは流暢に南マハハイム地方の言葉を喋ると――。
体がブレた。「<愚皇・――」とスキル名が聞こえないほどの加速力で左上に跳躍。
魔斧槍の一閃か、斧刃を断罪槍の穂先で防ぐ、威力に押されて右に運ばれる。
建物の壁と衝突し、壁が破壊され、床の素材が一気に崩壊し、残骸が浮かぶ中、連続的に魔斧槍を突き出してきた。
その連続突きを断罪槍の柄で受けながら、<導想魔手>が握る魔槍グドルルで<血龍仙閃>――ドヌガは漆黒の魔槍で<血龍仙閃>を防ぎながら後退。
通りに一瞬で戻ったドヌガだったが、その地面を爆発させると直進。
俺は左に側転しながら<龍豪閃>と<双豪閃>――。
ドヌガの漆黒の魔槍と魔斧槍の薙ぎ払いを跳ね返しながら通りに戻った。
が、直ぐにドヌガは体を独楽のように回しつつ魔斧槍を振るってきた。
その魔斧槍を<導想魔手>が握る魔槍グドルルのオレンジ刃で落とすように衝突させる。と、ドヌガは「もらった!」と一段階加速した。
両手の武器を消し、再び武器を両手に召喚。
断罪槍で漆黒の魔槍の攻撃を押さえていたが、漆黒の魔槍が一度消えたことで断罪槍の位置がズレる。魔槍グドルルのオレンジ刃の穂先も地面と衝突する――。
ドヌガが、
「<魔槍雷飛・遣穿>――」
分身をしながら魔斧槍と漆黒の魔槍の突き――。
魔槍雷飛流技術系統:奥義を繰り出してきた。
二つの穂先、否、無数の穂先の連続攻撃が迫る。様々な突き機動か――。
俄に、右手の断罪槍の柄を掲げながら、<仙魔・暈繝飛動>を発動、続いて<仙魔奇道の心得>と同時に<水月血闘法・水仙>を実行。
様々な魔力と<血魔力>を得た水鴉が俺の周囲に発生――。
分身が一瞬で数十と散った。
右腕にダメージを喰らう。痛すぎる――。
※水月血闘法・水仙※
※独自<闘気霊装>:<水月血闘法>系統:奥義加速避け※
※霊水体水鴉などの<血魔力>で本体を追尾する幻影、または分身を作る※
※熟練度の高い<魔闘術>が必須で、<水月血闘法>と<水月血闘法・鴉読>も必須※
ドヌガの<魔槍技>の無数の突き技は、その俺の分身と水鴉の群れを貫いて消していく。本体の俺は斜め後方に後退。
右の指と、二の腕と脇腹は大きく損傷していた。
瞬時に回復するが、俺も獲得している<魔槍雷飛・遣穿>の恐ろしさは身をもって味わった。
<握吸>を使い断罪槍の握りを強める。
そのタイミングで<滔天魔経>を意識し発動。
<血脈冥想>を意識し、発動――。
<闘鮫霊功>を意識し実行――。
発動した<血脈冥想>を活かす。
心の内の膨大な水の法異結界と大豊御酒の効能を<闇透纏視>で視るように心の襞を全身で感じ取ったゼロコンマ数秒後――。
<魔槍雷飛・遣穿>を繰り出しているドヌガの本体と無数の分身を捉える。
左手に神槍ガンジスに召喚し、魔力を通した。
神槍ガンジスの蒼い纓が一瞬で靡きながら蒼い刃となって――。
<魔槍雷飛・遣穿>を繰り出している分身のドヌガを貫いていく。
本体のドヌガにも蒼い纓の刃は降り注いだ。
ドヌガの分身は蒼い纓の刃を喰らうと消える。
<魔槍雷飛・遣穿>を繰り出した本体にも神槍ガンジスの蒼い纓の刃が向かっていたがドヌガ本人の扱う魔斧槍と漆黒の魔槍の斧刃と穂先で切断されていた。
ドヌガは<導想魔手>が振り降ろした魔槍グドルルの一閃を避ける。
と、左斜めに前進し右足を前に出して動きを止めた。
血の分身と白銀の霧を本体の俺に集約、吸収させてから姿を晒した。
ドヌガは、俺の左手の神槍ガンジスを凝視し、
「その槍は師匠が愛用していた神槍ガンジスじゃねぇか!」
「その通り」
「師匠の失った神槍ガンジスを……ここで見るとは」
「魔人武王ガンジスは、どうして神槍ガンジスを失ったんだ?」
「とある魔界大戦の最中に神魔石がどうとか言ってたが……」
詳しいことは知らずか。
「それよりも見事な槍武術だ。<血魔力>の分身は、吸血神ルグナドの眷属が使うような避けスキルだとして、<魔槍技>の<魔槍雷飛・遣穿>を避けて、逆に、打ち破られるとは、思わなかったぜ、だが、スキルってのは破られてなんぼだ、へへ、楽しくなってきた――」
語尾のタイミングで――。
稲妻のような魔力を発した魔斧槍の石突が、俺の足下に来る。
更に、疾風の勢いで漆黒の魔槍の穂先が胸に迫った。
雷炎槍流や飛怪槍流の技術か? 魔人武王流だろうか――。
断罪槍を下げて足下の突きを防ぐ。
神槍ガンジスを前方に出して、螻蛄首で漆黒の魔槍の突きを防いだ。
直ぐに反撃するが、反撃を返される。
二十合、激しく打ち合う。
周囲の建物が消えていく――。
ドヌガは強い、下段を連続して狙ってきた。
神槍ガンジスを下げて左右に動かし、魔斧槍の石突と漆黒の魔槍の突きを弾いた。
「チッ――」
ドヌガは四腕を振るい――。
漆黒の魔槍と魔斧槍を<投擲>してきた――。
驚くが、三腕に新たな漆黒の魔槍を召喚している。
俄に、大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を盾にするように前方に向かわせた。
魔斧槍と漆黒の魔槍が、大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>が衝突。
衝撃音を響かせながら<投擲>を防ぐ。
「……その大駒があったんだったな、ここでそれを盾に使い、飛び道具を防ぐ判断力は見事、しかし、九槍卿か。ルグファントの亡霊を使役する理由はそれか――」
魔斧槍から出た魔線がドヌガの右手に収斂すると跳ね返るようにドヌガの右手に戻った。<導魔術>系統の能力もあるのか。
<導魔術>を使わないのは槍使いとしてのプライドか。
ドヌガは前傾姿勢で突っ込んできた。
嗤っている、ドヌガは戦闘狂だな。
俺も嬉しくなりながら即座に<闘気玄装>を強めて前に出た。
左足の踏み込みから左手の神槍ガンジスと右手の断罪槍を突き出すダブルンの<刺突>を繰り出した。
ドヌガは三本の漆黒の魔槍と魔斧槍を振るい突く――。
ダブルの<刺突>を防いできた。
直ぐに<水雅・魔連穿>を繰り出す。
「ハッ、<愚皇・力風穿>――」
ドヌガの魔斧槍と漆黒の魔槍の<愚皇・力風穿>と――。
神槍ガンジスと断罪槍の<水雅・魔連穿>の連続的に突きが真正面から衝突――。
目の前の魔界セブドラの世界がセピア色に変化するような凄まじい火花が散りまくる。
「ウオォォォォォォォ――」
「うぉぉぉぉぉぉぉ――」
ドヌガの咆哮と俺の咆哮と槍と槍ががっぷり四つ――。
ピコーン※<水極・魔疾連穿>※スキル獲得※
スキルを得たが、そんなのは関係ないように互いに攻めて、互いに守る。自然と、何十と打ち合っていた。
――左上下腕と右上腕の手が持つ漆黒の魔槍と右下腕が持つ魔斧槍で、的確に防御を行うドヌガは強い。
頗る槍の扱いが上手い。
手数に押されて、少し退いた。
ドヌガは勝ち誇ったように、
「ハハハッ、二眼二腕のシュウヤ、良く戦った!」
と喋ると前傾姿勢で、漆黒の魔槍と魔斧槍を連続的に突いてくる。
一度、二度の急所を狙うような突きを神槍ガンジスと断罪槍で防いだ。
ドヌガの漆黒の魔槍の穂先が蛇矛に変化し、連続技の槍舞を繰り出してくる。
――完全に守勢になった。
<鬼神・飛陽戦舞>のようなスキルか――。
四腕の魔族の戦舞は強烈――。
<血道第四・開門>。
<霊血装・ルシヴァル>を発動――。
<血霊兵装隊杖>の血の錫杖を頭上に浮かせながら――。
<魔闘術の仙極>を発動――。
速度が上昇し、ドヌガの手数に合わせられたが、肩の竜頭装甲も傷だらけ、右手首の戦闘型デバイスが心配になるほど傷を受けまくる。
ドヌガは<魔闘術>系統を強めた。
まだ、秘策があるのか――。
連続的な<雷飛>か――異常な速度、連続突きを繰り出してきた。
痛い、左腕が穿たれ、首の一撃は、<霊血装・ルシヴァル>の面頬が防げた。
刹那、<闇透纏視>を強めて<夜行ノ槍業・弐式>を実行。
神速の勢いで、神槍ガンジスを下から振るう。
上向いた神槍ガンジスの穂先が、直進してきたドヌガの左上下と右上腕の手が持つ、漆黒の魔槍の穂先をそれぞれ跳ね上がる。
やや遅れて、右下腕の魔斧槍も上がった。
――キィィィィンと甲高い金属音が響く。
<滔天魔瞳術>を発動。
更に<脳脊魔速>――。
<血道第四・開門>の<霊血装・ルシヴァル>を解除。
聖魔術師ネヴィルの仮面を装備。
白銀の防護服に一瞬に変化。
続いて<水の神使>や<滔天仙正理大綱>と<滔天神働術>をより高度に活かすための――<滔天魔経>を発動――。
※滔天魔経※
※滔天仙流:開祖※
※血仙格闘技術系統※
※玄智武王院流※
※白蛇竜武王鬼流※
※仙王流独自格闘術系統※
※仙王流独自<仙魔術>系統※
※三叉魔神経網系統※
※怪夜王流技術系統※
※魔人格闘術技術系統※
※悪式格闘術技術系統※
※邪神独自格闘術技術系統※
※魔界セブドラ実戦幾千技法系統※
※<水の神使>と<水神の呼び声>と<血脈冥想>と<滔天仙正理大綱>と<性命双修>と<闘気玄装>と<経脈自在>と<魔人武術の心得>が必須※
※血仙人の証しの<光魔血仙経>の影響を得た故の<滔天魔経>の獲得、滔天仙流系統:恒久神仙技<神仙霊纏>の恒久スキル<滔天仙正理大綱>の質が上昇し、魔力活力源の底上げと上限が上昇した。滔々と流れる大河を心に宿した存在※
※水場での戦いが極めて有利に進む※
※<滔天仙正理大綱>や<滔天神働術>と同じく滔天仙人の証し※
※<霊仙酒槍術>などの酒の功能がより上昇した※
頭上に光る鐶を有した血の錫杖が生まれ出ると、胸甲と鈴懸と不動袈裟風の衣装防具とハルホンクの防護服が融合を遂げる。
<霊血装・ルシヴァル>は外したが、光魔ルシヴァル宗主専用吸血鬼武装で胴体を固めた。
魔闘術系統の<魔闘術の仙極>を、違う<魔闘術>系統の<武行氣>や<闘気玄装>と重ねるように――体幹を軸に魔力と実際の筋肉を己の魔力だけで活性化させながら速度を上昇させておく。
<魔装天狗・聖盗>を実行。
※魔装天狗・聖盗※
※魔装天狗流技術系統:上位変身奥義系※
※義遊暗行流技術系統:上位変身系※
※正義の神シャファが聖魔術師として、本物の二十面相の仮面を正式に装備することを認めた証し※
※正義の神シャファ神殿長、正義の神シャファ戦巫女、正義の神シャファ執行機関の義遊暗行師会に悟られず、正義の神シャファの義義遊暗行流技術系統の上位変身系を獲得した存在は、聖魔術師ネヴィル・クロフォードなど、ごく僅か※
※<魔装天狗・聖盗>発動中は、隠蔽系スキル効果急上昇、覇槍神魔ノ奇想効果上昇、身体速度上昇、神代神楽効果上昇、窃盗確率上昇、時空系魔法効果微上昇、獣貴族などの異界の軍事貴族と出会い易くなり、神話系魂群の使役可能率が上昇※
※正義の神シャファが愛用した異界の軍事貴族たちが近くにいれば、<魔装天狗・聖盗>を獲得した者に使役され、使役した者は<軍事貴族使役>を獲得するだろう※
※二十面相の仮面を揃えし時……※
<魔神式・吸魔指眼>を実行。
指先から漆黒のビームのような遠距離攻撃がドヌガに向かう。
ドヌガは反応している。
「――げ!?」
<脳脊魔速>に合わせられる速度を上昇させていたか。
だが遅い、<魔神式・吸魔指眼>の遠距離攻撃が僅かに反応していたドヌガの左右上腕に突き刺さる。
<血想槍>――。
血を纏う夜王の傘セイヴァルト――。
血を纏う聖槍ラマドシュラー――。
血を吸う魔槍杖バルドーク――。
血を纏う魔槍レーフェル――。
血を纏う霊槍ハヴィス――。
血を纏う王牌十字槍ヴェクサード――。
血を纏う聖槍アロステ――。
血を纏う雷式ラ・ドオラ――。
血を纏う独鈷魔槍――。
すべての魔槍と神槍で連続的に<龍異仙穿>――。
ドヌガの武器と首と左右上腕を穿つ――。
即座に前進し、ドヌガの腰に巻いてあった戦旗を戦闘型デバイスに回収しつつ<魔布伸縮>を発動、魔布でドヌガの四眼を封じた刹那――。
<闇透纏視>を活かしながら少し後退――。
ドヌガの両下腕の境目を凝視。魔力の僅かな淀みを狙う。
断罪槍の<龍豪閃>で、ドヌガの左腕の根元と脇腹の間を妙なる速度で切断に成功――。
飛怪槍のグラド師匠の左腕を回収。
続いて左手の神槍ガンジスで――。
ドヌガの右下腕の根元、体部分を<血龍仙閃>で切断し、無事に飛怪槍のグラド師匠の右腕を回収。
即座にドヌガの両足を凝視し、<双豪閃>――。
<闇透纏視>で魔力の淀みを見極めながら両足の根元の臀部を両断し、無事に飛怪槍のグラド師匠の両足を回収した。
ドヌガの体は失われた四肢に新しい骨と血肉が生えてきていた。
<脳脊魔速>を発動中なのに凄まじい再生速度だ。
一呼吸後、<脳脊魔速>の時間はまだ大丈夫――。
両手の武器を消して、魔星槍フォルアッシュを右手に召喚し、覚えたばかりの<異空間アバサの暦>と<星ノ音階>を発動。
魔星槍フォルアッシュから瞬時に漆黒の魔力が拡がった。
ドヌガと俺は宇宙空間的な魔力に包まれる。
ドヌガの体に宇宙的な星々の煌めきが重なると体の表面に六点の輝きが発生、その輝きは魔線で連なっている。
魔星槍の星座か――。
そのまま音程とリズムを自然に感じながら<星槍・天六穿>を繰り出した。周囲の漆黒の魔力から新たな恒星が誕生したように目映い閃光が幾つも生まれ出る――。
それら閃光と共に魔星槍フォルアッシュの穂先でドヌガの体を六度貫いた。
「魔人武王ガンジスの弟子ドヌガ、然らば――」
「ヌゴォァ――」
ドヌガの体に六カ所の風穴が空く。
その魔星槍フォルアッシュが穿った六カ所へと周囲の宇宙的な魔力が吸収されるように消えた直後――。
ドヌガの体は爆発した。
残骸はあまり残らず――。
<脳脊魔速>が終了――。
ドヌガが使っていた魔斧槍と漆黒の魔槍が地面に落下し突き刺さる。
よっしゃ、勝った。
聖魔術師ネヴィルの仮面を脱ぐ――。
『弟子……見事』
『あぁ、強かった……あの魔人武王ガンジスの弟子に大勝利』
『あぁ、一人の槍使いとしての勝利だ……』
『……ったくよ、泣かせるなよ』
『見事なり、ドヌガの魂は我らの糧にもなった』
『カカカッ』
『頭目……』
『頭目、良かったですね、弟子が……うぅぅ』
魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちが泣いている。
良かった、喜んでもらえて……。
続きは明日。
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