千三百七十六話 風雲急を告げるどころじゃねぇ
三叉の魔槍をアイテムボックスに入れた。
new:ヴァンラーの魔槍×1
ヴァンラーの魔槍が、三叉の魔槍の名か。
結構渋いし、飛び道具も使えるから断罪槍と一緒に使うかな。
と考えつつ木製の扉を押して開けた。
むわんと酒の匂いが鼻を衝く――。
食堂の床は焦げ茶色の板の間――。
大小様々な机があり、椅子に男と女たちが座っていた。
天井の中央には、香具と扇風機と光源がセットになった魔道具が設置されていた。
結界的な魔道具でもある?
俺たちには危害はないと分かる。
食堂の広さは、三十畳から五十畳ぐらいか?
左側の壁で、右奥にカウンター。
酒樽は壁際に多く積まれてあった。
男女の魔傭兵の身なりは、鉄の鎧を身に着けている者たちが多い。
次点で鎖帷子の装備。
革の鎧を着ている者とローブで身を隠している者は少数。
足の装備だけ、お揃いの鎖帷子のような脚絆を付けている。
ローブで身を隠している靴は……魔力があまり感じない。
逆に怪しいが、気のせいか。
カウンターの奥に禿げの主人がいるようだが、構わず、
「――俺の名はシュウヤ、お前たちが魔傭兵団ゴイアン、魔傭兵団モゼルダ、魔傭兵団ゼルタクスゼイアンの分隊だな?」
と宣言した。
基礎の<魔闘術の心得>を意識し発動――。
相手に<闇透纏視>などを使える者がいたら、直ぐに、俺たちの実力は把握できるだろう。
まだ全身から血を放出させるような<血魔力>は使わない。
テーブルの縁に背を預けていた四眼四腕の魔傭兵が、
「あ゛ぁ゛なんだ? いきなり黒髪の魔族たちか」
「しかし、なぜ、その魔傭兵の名を知っているんだ?」
と発言しながら寄ってきた。
ヴィーネとキサラが俺の前に立ち、
「いきなりのけんか腰、ぶちのめされたいようだな」
「はい、四眼四腕の魔族、手数の多さがすべてではないと身を以て味わいますか?」
と語る。
キサラは左手にダモアヌンの魔槍を召喚し、柄を短く持ち直す。
「ハッ、言うじゃねぇか、白銀髪の姉ちゃんたち。いい乳でもみがいありそうだぜぇ、へへ、可愛がってやろうか?」
その言い方にイラッとしてきたが、我慢。
更にキスマリが、
「お待ちを、このような胡乱な雑魚に、宗主と光魔ルシヴァル<筆頭従者長>のヴィーネ姉様とキサラ姉様が出る必要はない。我で十分、この魔剣アケナドと魔剣スクルドの刃で斬り刻んでくれる」
すると、食堂にいる全員の魔傭兵たちが、此方を見て、
「「かちこみか?」」
「ゴザクラとジャト、どうした?」
と椅子に座っていた魔傭兵たちが得物を握りながら立ち上がり、寄ってきた。
ヴィーネとキサラとキスマリの肩に手を当て退かせた。
エヴァたちは背後にいる。
前に出て、
「かちこみではない、話し合いだ」
と言うと、最初の声を上げた四眼四腕の大柄の男は、
「信じられないな、お前シュウヤと言ったか……悪式組か、朱幻会の連中なんだろう? 七八通りと、シュメル街道の隅では揉めたが、あれは悪気があったわけではないと、お偉いさんに伝えておいてくれ」
悪式組と朱幻会という名の闇ギルドと勘違いしている。
「七八通りの揉め事とはなんだ。違う」
と言ったが、四眼四腕の大柄の男は四つの眼で俺を見る。
疑問げな表情を浮かべていた。
レンとアキサダは背後にいるが、まだ気付いていないのか。
他の魔傭兵団ゴイアン、魔傭兵団モゼルダ、魔傭兵団ゼルタクスゼイアンの分隊たちが、
「かちこみではないなら、こいつらは挨拶料を求めに?」
「え? 分隊長、俺は悪式組と朱幻会の事務所に行きましたぜ? そして、指示通りに悪式組と朱幻会のマエダとコマツに極大魔石を三つも渡しました」
「だとしたらシュウヤたちは罰夜組かも知れねぇ……バティ、罰夜組にも、ちゃんと魔石は渡したんだろうな」
「……あ、罰夜組には渡していない、飲み屋代にすべて消えて……」
「おぃ……なら、シュウヤたちは罰夜組の催促でここに?」
盛大に、勘違いしている。
「が、今さらか? 相手を間違えているんじゃねぇか?」
「あぁ、だいたい俺たちと揉めたら【峰閣砦】での商売はできねぇと思うが」
「あぁ、たしかに俺たちと関わると、レン家と揉めるってことでシュウヤとやら、帰れ帰れ」
と言ってくる。
罰夜組、朱幻会、悪式組とは闇ギルドの名だろう。
魔傭兵ドムラチュアのドリアムたちは、魔薬バリード百五十kgをアキサダの組織に売っていた。
そのアキサダの黒羽衣会と黒海覇王会のメンバーが、売人として魔薬バリードを一般人に売っていたのか? それとも、他の組織に委託して売っていたのか?
または、数kgごとに魔薬を分けて他の闇ギルドや魔傭兵たちに売りつけていたのか?
その詳細は知らないが……それらの事は既にレンと監獄主監ルミコに話をしたことだろう。
すると、レンがアキサダを連れて前に出た。
「皆さん、私にお任せください」
「あぁ」
「「「はい」」」
ヴィーネたちは退いた。
魔傭兵団モゼルダと魔傭兵団ゴイアンと魔傭兵団ゼルタクスゼイアンのメンバーたちは、レンを凝視、
「……ん? あの太股の『闘争:権化』に『鬼化:紅』の魔法文字は……げ……」
「マジかよ、レン・サキナガじゃねぇか!」
「本当だ……」
「噂していた以上の美しさだ……」
「あぁ、白い肌、え、あ、あ! あの男、アキサダの親分でないか?」
「げ、本当だ」
「あの黒羽衣会と黒海覇王会の会長!?」
「捕まったと聞いていたが、なぜ……ここに、レンと一緒なんだ?」
「おぃぃ……」
「「「「……」」」」
魔傭兵団ゴイアン、魔傭兵団モゼルダ、魔傭兵団ゼルタクスゼイアンの分隊たちは一気に沈黙モードに入る。アキサダが前に出て、
「わしとオオノウチの謀反は仕舞いだ。お前たちの三つの魔傭兵の本隊の目的も、すべての情報は、レン様とシュウヤ様に告げてある。そして、お前たちの仕事柄、強氣に出るのは分かるが、生きたいのならシュウヤ様とレン様の言葉を素直に聞け。懐が深いシュウヤ様は、オオノウチの秘策であった悪神ギュラゼルバンの大眷属、六眼バーテを仕留めている強者中の強者。先ほども狩魔の王ボーフーンの大眷属ジィリザールと、連携していた魔傭兵か不明の者たちを倒した御方だ」
「「げ……」」
「アキサダ様、それは真か?」
「本当だ。わしが悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターと取り引きをし、スキルを得たこともすべて伝えた。今、こうして話で済んでいるということはお前たち、魔傭兵団の戦力を買っているお陰と心得よ」
「……そう言うが、そのような強者なら、俺たちのような魔傭兵団を雇わずとも、事足りるのでは?」
と、大柄の魔傭兵が語る。
レンは俺たちをチラッと見た。
頷くとレンは頭を少し下げてから、視線を強めて、
「それは一理ありますね。では、手っ取り早くここで戦い合いますか?」
「……待った」
「待ちますが……シュウヤ様?」
と、レンは聞いてくる。
同時に、魔刀の柄に手刀を当てて、刃を出しながら聞いてきた。
言いたいことは分かる。が、もう少し待とうか、と意味を込めて頭部を左右に振った。
レンは頷いた。
三つの魔傭兵団の本隊がまだ動いていない。
情報も捨てがたい、味方は多いほど良いからな。
それに足下にいる相棒と銀灰猫が妙に大人しいのも何かある。
レンは、
「……魔傭兵団の貴方たちを消すだけなら、上草影衆か黒鳩連隊を使いますことよ? それを使わず私たちが今こうして、話を優先している意義を考えてくださいませ」
レンの発言に皆が息を呑む。
少し間が空いて、ざわついた。
レンは溜め息を吐いて、
「……出向いた理由は、直ぐに察してほしいものですわね」
とボソッと言うと俺を流し目で見てきた。
『シュウヤ様、この察しの悪い魔傭兵団を雇い、扱うのですか?』と聞いているような雰囲気を醸し出す。
レン・サキナガから胆力的な迫力を感じた。
キサラ、ヴィーネ、キッカ、ビュシエ、サシィに、負けず劣らず烈女だと改めて強く認識した。
そのレンは魔傭兵団の皆に、
「……三つの魔傭兵を纏めている分隊長がいると思いますが、だれなのですか?」
と言葉を皆に投げかける。
レンは、魔刀の柄に手を当てながら、歩き、皆を見る。
直ぐに居合いのような剣技を繰り出しそうな雰囲気だ。
魔傭兵団モゼルダと魔傭兵団ゴイアンと魔傭兵団ゼルタクスゼイアンのメンバーたちは、その気概に応えるように勝ち氣溢れる笑顔を見せていく。
レンの太股の内側に刻まれている『鬼化:紅』の魔法文字が輝いていた。
腰に差してある三つの魔刀といい、輝く文字とか渋いし、白い肌も魅惑的すぎる。
と、そんなレン・サキナガに対して大柄の四眼四腕の魔族が、
「俺だ、モゼルダ、ゴイアン、ゼルタクスゼイアンを合わせた、通称モゴゼ大隊、その分隊長ゴザクラと申す」
ここの分隊長か。
四眼四腕の黒い総髪に浪人のような見た目で、腰に魔刀を差している。
かなりの武芸者と見た。
レンは、そのゴザクラを凝視し、
「ゴザクラ。アキサダが囚われの身となっても、貴方たちがここに居続けた理由は?」
「……」
コザクラはジッとレンを見つめて沈黙。
その瞳の動きには感情のもつれのようなモノを感じた。
と、そのコザクラは唾を飲む。
レンは姿勢を少し下げた。
同時に、左足を前に出し腰の魔刀の柄に左手の手刀を当て、また少し抜く。
「……ここでの長い沈黙は、貴方たちが悪神ギュラゼルバンと恐王ノクターの手先だと判断しますよ?」
「待った、事前の話と異なるからだ。アキサダの謀反が成功するにしろ失敗するにしろ――ぐおぁ」
とコザクラの背が爆発。
更に、酒樽が連続して爆発が起きる。
「「――ぐあっ」」
カウンターの近くの横壁も爆発し、複数の魔傭兵たちが吹き飛んでいた。
横壁にできた穴に飛び込んでいくローブを着た二人組が見えた直後――。
<闘気玄装>を発動――。
断罪槍を右手にヴァンラーの魔槍を左手に召喚。
丹田を中心に体が活性化する<闘気玄装>の魔力を全身の皮膚から排出しながら床を蹴った。壁の穴から外に出た直後――。
宙空に<投擲>されていたポーションが破裂、爆風が迫った。
げっ、
『閣下――』
<精霊珠想>が左目から自動的に展開してくれた。
ヘルメの液体の体が扇状に展開されて、手榴弾のようなポーション爆弾の爆風を防ぐ。
「チッ――」
とローブを着た者が舌打ちを行うと、バックステップ。
相手は四眼か? しかし、風雲急を告げるどころじゃねぇな。
そのバックステップ中のローブを着た者に、アクセルマギナの魔銃から射出されている無数の弾丸が衝突していく、が、ローブからは火花が散るのみで、魔弾のすべてを弾いていた。
背後から剣戟音と共に、
「シュウヤ様、ローブを着た者たちの襲撃です」
「ヴィナトロスたちは、そのまま対峙している連中を追え」
「はい――」
ローブを着ている者のローブの素材はPAN系炭素繊維を越えている?
ローブを着ている者はアクセルマギナに向かう。
アクセルマギナはブレードを振るった。
ローブが捲られるように出た四腕の手が握る魔剣が、そのアクセルマギナの袈裟斬りのブレードを簡単に斜めに弾くとローブを着た者は斜め上に跳躍し壁を蹴って三角跳びを行い――隣の建物の屋根に跳び移った。
屋根にいた他のローブを着た者たちと合流し、走っていく。
それを見ながら、ローブを着た者たちを追った。
俺の背後から、
「ご主人様――」
「シュウヤ様」
とヴィーネとキサラが付いてくる。
背後の二人に、
「このままローブを着た連中を追うぞ!」
「「はい」」
『エヴァたちはレンたちと動いてくれ』
『ん、分かってる』
続き明日。
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コミックス1巻~3巻発売中。




