千三百六十九話 愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊
キサラやアクセルマギナには、そのまま魔傭兵団ゼルタクスゼイアンなどの勢力を見張っていてもらうか。
名前が人工知能っぽいし、怪しすぎるんだよ。
このミツラガからも新たな情報は得られるかな、だがギリアムから既に大魔商ドムラチュアの情報はある程度得ているから、その身柄の確保だけで十分か。既に捕らえられているアキサダをミツラガが見ればギリアムの言っている事が正しいと分かるだろう。
ナギサ、ヘルメ、マルア、エヴァ、ナロミヴァスと見てから、
「ナロミヴァス、ミツラガの四腕を拘束している拘束具を維持した状態で、飛翔は可能かな?」
「可能です」
「なら皆でレンの私室に移動しよう。あ、その前にゼメタスとアドモスたちの様子見だ。下に降りる」
「「「はい」」」」
「「承知!」」
「御使い様の右目に戻ります――」
「おう」
闇雷精霊グィヴァは一瞬で――。
闇と雷の濃密なエネルギーのようなモノが、宙空の一カ所に集積。
中心は鏃のような形でプロミネンスの電弧を無数に放つ、神聖的な雷の精霊となった。稲妻の鏃のグィヴァは俺に右目に突き刺さるように帰還――。
少し怖かったが杞憂だ。
網膜、光彩の中に雷状のグィヴァが溶け込むように入り混むと、視界に小さいグィヴァが現れる。
一方、常闇の水精霊ヘルメは指先の球根のような<珠瑠の花>を出したまま、四腕の手首が背中側で拘束されているミツラガの背後に回っていた。輝く紐の<珠瑠の花>を指先の球根の中にシュルッと仕舞い格納。
その球根を消して元の綺麗な指に戻していた。ヘルメは俺に見られていると分かっているように――。
その綺麗な指先を魅惑的な唇の端に置いて頭部を少し傾けて、「うふふ」と笑顔を見せると左から右へと横回転。胸元に腕をクロスしながらクロススピンを行う、周囲に飛ぶ水飛沫のグラデーションが神秘的。
そのクロススピンから腕を上げて、腋を晒すように髪の毛をたくし上げるようなポーズから、ヘルメ・真立ちを行って動きを止めた。
見事なおっぱいの揺れ! と、片腕を上げてから拍手。その美しい常闇の水精霊ヘルメは応えた。くびれた腰を魅せるように腰を捻って此方を見る。乳房の揺れと背筋が綺麗だ。
グラマラスボディをアピールする新・ヘルメ立ちを行ってくれた。
さて、
「ヘルメも戻るぞ」
「はい~」
と、ヘルメとハイタッチ、共にベランダを歩く。
ヘルメは俺を背中から抱くように体の一部を液状化マントにさせながら共に進む。
背中から右肩にかけてヘルメの不思議な重さを感じた。
温もりと、おっぱいの柔らかさを得て嬉しい。
そのまま、ヘルメの不思議なマントを着た俺は――ハブラゼルの魔宿の正面の通りではなく――川がある方に足を向けて走った。
<武行氣>を意識し、端の段差を上がりベランダの端から飛び降りる。
体からフィナプルスの両翼を連想させるような<武行氣>の魔力を噴出させて浮遊をしながら緩やかに降下を行った――。
両足の裏で地面の上を滑るように着地。
「――ん、シュウヤ、精霊様のマントが格好いい~」
と、背後にいたエヴァが褒めてくれた。
「おう」
「ん――」
と振り返りつつ着地際のエヴァを両手で迎える。
ギュッとエヴァを抱きしめながら横回転。
「わっ、ふふ――」
エヴァが楽しそうに笑ってくれた。
そのエヴァの笑顔を見るように横にもう一回転。
そして、エヴァの金属の足を優しく地面に降ろしてあげた。
「ん、ありがと」
「いいさ」
頬が斑に赤くなっているエヴァの手を離しつつ――。
ハブラゼルの魔宿の一階側に移動。
大きな厩舎に近付くと、そこから獣と飼い葉の匂いが漂ってくる。
直ぐに、
「閣下! このドールゼリグンが気に入りましたぞ」
「閣下、我もドールゼリグンが気に入りました!」
ゼメタスとアドモスの言葉に振り向く。
ゼメタスとアドモスが乗るのは大型馬ドールゼリグン。
近くには黒い大魔獣ルガバンティと大型馬バセルンもいる。
「了解した。持ち帰れるか確認したか?」
「これからです!」
「まだです!」
と、ゼメタスとアドモスが発言すると、
彼らを乗せている大型馬ドールゼリグンが、俺のほうに向いて、
「「ヒヒィーン」」
と鳴き声を発しながら太くて長い両前足を上げて下ろした。
両前足の蹄が踏みしめた地面から振動は起きないが起きそうな印象でめり込んでいる。
その少し上の脛が見えないほどの足下の黒毛のふさふさが、ザ・魔帝王を思わせる。胸板が厚いし、筋肉隆々の大型馬ドールゼリグンは迫力が違う。
それでいて、馬鎧も渋い。鞍もかなりの大きさだ。
銜と鐙の一式と馬鎧に鞍は、相当な代物だと思われた。これほどの大型馬ドールゼリグンを手放したゴトウガは大丈夫か?
魔獣商会ミヤビの会長さんは、相当激怒しているはずだが、感謝しておこう。光魔沸夜叉将軍のゼメタスとアドモスにこれほど似合う大型馬は、たぶん魔界セブドラやセラにはいないだろう。
そのゼメタスとアドモスに、
「ゼメタスとアドモス、大型馬をグルガンヌ地方に連れて行けるか確認してくれ。此方側から、この闇の獄骨騎の指輪で、体感で五分ぐらい進んだら呼び出す」
「「ハッ」」
ゼメタスとアドモスは直ぐに降りた。
「では、皆々様、愛盾・光魔黒魂塊を使用しますぞ!」
「同じく、大型魔獣の移動が成功するかどうか! 愛盾・光魔赤魂塊を使用しまする!」
「いまする~」
イモリザもいつものように真似をしていた。
「おう」
「にゃ~、にゃ~」
「ンン、にゃァ、にゃ~」
黒猫と銀灰猫も応援するように鳴いている。
「ん、ゼメタスとアドモス、がんばって」
「見てますよ~」
ゼメタスとアドモスは体から魔力を噴出させつつ、互いの骨盾を突き合う。
愛盾・光魔黒魂塊の骨盾の表面に埋まっていた魔コインの一部と魔法陣が露見。
レンシサの魔白金コインと、ディペリルの高級魔コインと、レブラの高級魔コインが自動的に浮かぶと、愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊の縁から虹色の魔力が大噴出――。
ゼメタスとアドモスと大型馬たちは虹色魔力に包まれた。
すると、骨盾の前の空間が歪む。一点に集約されたような穴が空いた。
その穴の中に――ゼメタスとアドモスを先ほどまで乗せていた大型馬ドールゼリグンが吸い込まれて消えた。
「成功しましたぞ!」
「我も成功しました!」
「その骨盾が生み出した空間に、運べるだけ運んでいいぞ」
「「ハッ」」
ゼメタスとアドモスは、愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊を角灯的に掲げながら厩舎内を移動していく。
ゴトウガから獲得し、厩舎内の敷居にいた大型馬バセルンと大きい大魔獣ルガバンティとドールゼリグンのすべてを、骨盾の空間の中に吸い込ませて仕舞っていた。多数の生物を仕舞ったせいか、愛盾・光魔黒魂塊と愛盾・光魔赤魂塊の骨の盾から浮かび上がっていた魔コインの数が減り、虹色の魔力の噴出力が弱まっていた。
「閣下と皆様、一旦グルガンヌに戻りまする」
「戻りまする!」
「おう」
「ん」
「はい~」
「お務め、気張ってください!」
「ゼメタスとアドモス様、待ってますぞ」
ナロミヴァスとアポルアの言葉と雰囲気が、ゼメタスとアドモスの閨閤の臣に見えた。
「ゼメタスとアドモス様、待ってます~」
「「行ってらっしゃいませ~」」
ハゼラゼルとモミジの言葉が響いた後――。
光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスは体がブレながら消えた。
シンプルな闇の獄骨騎が少し揺れる。
ゼメタスとアドモスは切腹しながら消えるのも面白い演出だったが、シンプルな方が手早く済むか。
そして、インターバルは少し余裕を見たほうがいいだろう。
そこで、おやつをもらっていた黒猫と銀灰猫も見た。
黒猫たちが振り向いて、
「ンン、にゃ、にゃぉ~」
「ンン、にゃァ、にゃァァ~」
黒猫と銀灰猫は、ハブラゼルとモミジからもらったおやつを口に咥えながら、俺の足下にやってきた。
口に咥えているのは、カニカマのようなはんぺん、練り物か。
膝頭を地面に付いて姿勢を低くした。
目線を合わせた黒猫と銀灰猫に手を伸ばす――。
「相棒とメト、もらっておこう」
「ンンン」
「ンン」
黒猫と銀灰猫は喉声を響かせながら、俺の掌にはんぺん的な食いかけの食材を載せる。それを摘まんで匂いを嗅ぐ……と、魚の臭いがした。
大丈夫だろうと、がぶっと食べた。おぉ、ぷにぷにしている、魚肉ソーセージっぽい。
胡麻塩が付いている。醤油でも合うと思うが、これはこれで美味い――。
一瞬で魚の練り物を食べた。
「相棒とメト、美味しかったぞ、これはハブラゼルかモミジから、もらったのかな」
「ンンン」
「ンン、にゃァ」
二匹は何かを言うように俺の右肩と左肩に乗ってくる。
ゴロゴロと喉を鳴らす黒猫と銀灰猫は、俺の耳の臭いを嗅ぐような頭部を近づけて頭部を突けてくる。
から首がくすぐったい。
頭突き攻撃を止めるため、二匹の頭部の両耳を掴む勢いで撫で撫でを強くしてから、立ち上がった。
傍に来ていたハブラゼルが微笑みながら、
「ふふ、シュウヤ様と皆様、ゼメタスとアドモス様は本当に魔界の地に領有権をお持ちなのですね」
「そうだ、昔からいる部下たちで成長してくれている」
「はい、少し聞きました」
黒猫と銀灰猫の鼻息が少しうるさいが、仕方ない。エヴァたちが背後から黒猫と銀灰猫に手を差し伸べてきていた。少し体勢を屈めるが、相棒たちは離れない。
ハブラゼルは、
「シュウヤ様たちはこれからどこかに?」
「おう、その予定だ。ゴトウガがここに来るのはまだ後だと思うが、遅れたら今はいないと言っといてくれ」
「はい、〝ルクツェルンの暦〟の再戦を楽しみだったのですが……シュウヤ様は出られそうにもないのですか?」
「差し迫った争いがあるわけではないから大丈夫と思う……だが、カードゲームは女将も楽しみなのか」
「はい、ハブラゼルの魔宿の関係者と客たちと周辺地域、すべての楽しみと言えます。大魔皇ルクツェルン大会常連、〝特級〟の一人でもあるゴトウガを負かしたエヴァさんが凄く〝ルクツェルンの暦〟に強かったのもあります」
エヴァは少しドヤ顔気味だ。
少し子鼻が膨らんで見えたが、それが可愛いエヴァっ子。
「すべての楽しみか」
「はい、大魔皇ルクツェルン大会に出場予定の他の方も来るとか。ですから、シュウヤ様がどのように〝ルクツェルンの暦〟で遊ばれるのか、期待しているのです」
へぇ。
ハブラゼルと横にいるモミジはエヴァたちに頭を下げている。
「……期待しているところ悪いが、その〝ルクツェルンの暦〟のルールは分からんし再戦も了承しただけで、たぶん、俺が戦っても負けると思うが……」
素直に心情を語る。
女将ハブラゼルは視線を鋭くさせると、
「ふふ、それは、やってみないと分かりませんよ」
「うん、〝ルクツェルンの暦〟は普通のカードゲームではないから」
とモミジも話に加わった。
「そうね、シュウヤ様なら〝ルクツェルンの暦〟で、どのようなカードデッキを構築できるのか、ふふ……」
エヴァも、
「ん、本当。色々なマジックアイテムの魔札も〝ルクツェルンの暦〟では使えるし、シュウヤとロロちゃんの運、魔力も高いから大丈夫と思う。シュウヤは頭がいいから勝てる」
と発言、エヴァの紫色の眼は力強い。
その眼と揺れた前髪を見ながら、
「魔札に、運と魔力か、〝獄官魔王カイガトの魔札〟に、夜王の傘セイヴァルトの戦闘職業を意味するカードも使える?」
「ん、獄官魔王カイガトと契約必要かも知れないけど、使えると思う。後、運と己の能力も重要っぽい。わたしも〝ルクツェルンの暦〟のルールは分からなかったけど、カードとデットに触れた途端、不思議と理解できた、面白かった」
エヴァがそう言うなら面白いんだろうな。
古の十層地獄の獄官魔王カイガトの魔札が使えるとは驚き。
〝ルクツェルンの暦〟とはカードデッキを構築して遊ぶような仕組みってことだろうか。
ふと、エヴァが任天堂のSwitchか、ASUSのROG ALLYでゲームをプレイしているところを想像してしまった。
「モミジは普通のカードゲームではないと、〝ルクツェルンの暦〟のことを指摘していたが、〝ルクツェルンの暦〟とはマジックアイテムでもある?」
「ん、そう」
「へぇ」
モミジとハブラゼルも頷いていた。
初対面で武器を振り回していたモミジだが、あの時とは雲泥の差だ。
ハゼラゼルにも注意を受けて反省したんだろう
「では、女将とモミジ、ヴィーネのところに戻るから、また後で」
「「はい」」
「ンンン――」
黒猫が跳躍しながら神獣ロロディーヌに変化を遂げる。
続きは明日。
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