千三百六十三話 大魔商ドムラチュアの情報考察とイルヴェーヌ師匠の師匠
ベランダの広い庭園と露天風呂のお洒落な板の囲いと六幻秘夢ノ石幢と似た石幢などを見てから皆に、
「皆、魔軍夜行ノ槍業の断罪槍のイルヴェーヌ師匠に手足を渡すから、突然で悪いが、自由行動にしようか。魔傭兵ドムラチュアの連絡役が食堂に現れたら強引でもいいから捕まえといてくれ」
と、発言しベランダを歩く。
「「はい!」」
「修業の見学をしたいです~」
エトアたちは近くで見るらしい。
「自由と言いたいが、ヴィナトロスは寝ているキサラとアクセルマギナを連れて、先ほどのアキサダ関連の三つの魔傭兵集団を探ってくれ。ナロミヴァスかアポルアにアンブルサンは、一階で魔酒を軽く飲みつつ、魔傭兵ドムラチュアの連絡役が来るのを待っといてくれ。ペミュラスも一階に移動するなら、ナロミヴァスたちに守ってもらうように」
「「はい」」
「「お任せを!」」
アンブルサンたちは会釈後、室内に戻った。
ヘルメが、
「閣下、ヴィーネたちがいる【レン・サキナガの峰閣砦】に戻るのは……連絡役ミツラガ次第でしょうか」
と聞きつつ少し視線を上げた。
そのヘルメの視線に釣られて【レン・サキナガの峰閣砦】の建物と山の崖を見る。
山の崖に持たせかけた複雑な板組みはここからでも十分に分かる。
その山の崖と【峰閣砦】の建物から――ハブラゼルの魔宿のベランダと部屋の中にいるエヴァたちを見やってヘルメたちに視線を戻し、
「……イルヴェーヌ師匠とのやり取りが終わり次第かな。魔傭兵ドムラチュアの連絡役の確保は、二の次だ」
ヘルメはギリアムをチラッと見てから、
「魔傭兵ドムラチュアの連絡役はそこまで重要ではない?」
頷いた。
「あぁ、バーソロンとアドゥムブラリがここに来るまでの間に確保できればいい程度だ。魔傭兵ドムラチュアのギリアムは、ここにいる」
「そうですね、廃墟で入手した魔薬バリードなどもあります」
「あぁ、極大魔石、クイバンの嘶きとエイラスの咆哮の短槍も入手済み、特に、魔薬バリードと極大魔石は大魔商ドムラチュアの資金源で、活動費の一部だったはずだ。損害は計り知れないはず、保険があるかもだが」
皆が頷く。ヘルメは、
「保険とは、閣下の好きなプランBかCをドムラチェアが行っている?」
思わず微笑む。
「……金持ちなら、両建て以上の保険は用意するだろうという推測段階、あくまでも仮の話だ」
ヘルメたちは頷く。そのヘルメは、
「ふふ、どっちに転んでも損がない戦術ですね」
と発言。頷いた。
そのまま満足そうな表情を浮かべてから、
「……ドムラチェアが、ギリアムや連絡役の人的存在を貴重と見なすか、ただの捨て駒扱いかで、ドムラチェアの性格が分かりそうです」
ヘルメの発言にギリアムがビクッと体を反応させていた。
そのギリアムを見ながら、
「たしかに、そして、魔傭兵ドムラチュアは任務に失敗しているが手塩にかけた人材ならギリアムが無事なら喜ぶはずだ。ライバルのパリアンテ協会のコセアドもいるし、交渉はスムーズに行えるかも知れない。が、ドムラチュアが投資していたラマガンは俺が殺している……」
「あ、はい」
「……」
ギリアムの顔に汗の粒が現れていく。
廃墟の戦いを思い出しているのかな。
そのギリアムたちに、
「ドムラチュアは、ラマガンの手足にイルヴェーヌ師匠の手足を、移植するために特別に用意していた。と前に、ギリアムは語っていたよな」
と言うと、ギリアムは唾を飲む、独特な嚥下音を響かせる。
やや遅れて頷いた。焦ったか怯えたか、大丈夫なんだが……。
そのギリアムは、
「はい、ドムラチェア様は悪神ギュラゼルバンの眷属キムハラを討ち取ったラマガンを褒めていました。実際はベアトリスのほうが強かったんですが、どうしたことか、ラマガンの将来性に懸けていたようですね……本部護衛衆、その一角の三番隊の隊長にラマガンの抜擢が決まっていました。正直言いますが、その抜擢にはベアトリスに俺もですが、不満でした……」
ギリアムの四眼は真剣だ。
エヴァが触らずとも本心で語っていると理解できた。
では、大魔商ドムラチュアは、ラマガンの潜在能力を見抜いたってことかな。
「ドムラチュア様とやらは、慧眼の持ち主かな」
俺がそう聞くと、四眼の虹彩が分かりやすく収縮し、散大を繰り返す。
少し遅れて、瞬きを繰り返した。
「……はい、ドムラチュア様は魔眼系スキルは豊富に持ちます。蜘蛛王審眼も……」
と、ここで蜘蛛王審眼か。
更に、カザネが持つ<アシュラーの系譜>のようなエクストラスキルも持っているなら鑑定眼は並ではない。宵闇の女王レブラ様と通じている?
と、疑問に思ったところでヘルメが、
「ドムラチュアは、宵闇の女王レブラ様側だとアドゥムブラリムの情報にありましたが、眷属シキとは、取り引きを行っていたのですか?」
「シキ? コレクターと名乗る存在なら、はい、過去に取り引きを行ったことがあります」
「「おぉ」」
ヘルメと俺はハモった。
エトアたちは疑問顔となる。
「だから、宵闇の女王レブラ側なのか」
「はい、【メイジナの大街】の大魔商デン・マッハとも、俺たちは同盟関係です」
「色々と辻褄が合う」
「はい」
過去のアドゥムブラリムとの血文字情報で、
『主、【メイジナの大街】の大魔商デン・マッハのことだが、まだ話がある。今は大丈夫か?』
『あぁ、大丈夫だ。【古バーヴァイ族の集落跡】に向かう最中だったりする』
『了解した。簡潔に言うが、デン・マッハは、魔王の楽譜とモモンの楽器を持つ。宵闇の女王レブラ様が占領している傷場、その一つの使用許可は下りているようだ。そのデンはレブラ様が支配している傷場から、東マハハイム地方の傷場に出入りをし、セラの闇社会とも通じている』
『ほぉ……惑星セラ側の東マハハイム地方に傷場があるとは初めて知った。そして、その傷場は、魔界セブドラ側の宵闇の女王レブラ様が支配する傷場の一つに繋がると……』
『そうだ。セラの東マハハイム地方には傷場は多いとも聞いている』
とあったからな。
さて、
「ギリアム、変なことを考えてないだろうな?」
と<血魔力>を体から出しつつギリアムに対して釘を刺す。
そのギリアムは、四眼の眼が少し震えるように瞳孔が散大し収縮してから、
「は、はい、勿論です。しかし……」
「なんだ?」
「……大魔商ドムラチュア様は俺を許してくれるかどうか……」
悪いが、
「……ギリアム、俺たちの立場も理解しているな?」
「はい、大魔商ドムラチュア様に会えるように協力致します」
頷いた。
「では、広いとこに――」
走りながら戦闘型デバイスのアイテムボックスを意識。
断罪槍のイルヴェーヌ師匠の手足と断罪槍を出した。
『弟子、待ちわびたぞ!』
『はい!』
『なぁ、キベラが扱っていた未知の<魔闘術>系統なんだが、今なら弟子に伝授できるかも知れない』
『ソーよ、空気を読め。<魔軍夜行ノ憑依>を用いた修練方法は、体の一部を得ている八槍卿たちも行いたいはずなのだからな』
『……了解したぜ、イルヴェーヌの姐さん』
『いつから、お前の姐さんになったんだ!』
『すまん、って、七魔七槍のような魔槍技を見せるなよ――』
『ふふ、ソーは調子に乗りすぎ。イルヴェーヌ、そのまま突いちゃえ♪』
『ちょっ』
と、シュリ師匠の思念とソー師匠の驚いたような思念が聞こえた刹那――。
魔軍夜行ノ槍業の一部が膨らんで一瞬で収縮。魔軍夜行ノ槍業の中で戦争でも起きているのかよってツッコミを入れたいが、
『弟子、なにしている』
「あ、はい、では――」
まずは<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を出した。
<魔軍夜行ノ槍業>を意識し、発動。
そのまま腰にぶら下がる魔軍夜行ノ槍業に魔力を込める――断罪槍イルヴェーヌ師匠の手足を当てる。魔軍夜行ノ槍業の中にイルヴェーヌ師匠の手足と断罪槍が吸い込まれると魔軍夜行ノ槍業から閃光が迸った。
視界が一変――何処かの大森林?
俯瞰気味、否、斜め上空の視界となった。
と、大森林の先は、大きい城と城下町に湖と山が見えた。
魔界セブドラのどこだろうと、大森林にズームイン。
樹が減り視界が開けると人の手が明らかに入った土の道が右にある、その先には大きな切り株と巨大な岩石のようなモノが並んでいた。
切り株の上にイルヴェーヌ師匠と目される少女がいた。
隣の切り株の上にもイルヴェーヌ師匠の師匠のような存在が座禅を組んでいる。少女と師匠は共にローブ姿。頭巾を深々被っていて此方側からは顔が見えない。すると、イルヴェーヌ師匠の師匠が体から銀色の魔力を噴出させた。
ローブの一部が風を孕んだように宙空に靡く。
更にイルヴェーヌ師匠の師匠は魔力を操作しつつ何かのスキルを発動させるとイルヴェーヌ師匠の師匠の半透明な分身が目の前に誕生した。
同時にイルヴェーヌ師匠の師匠は頭巾の両端を持ち頭巾を背後に運び顔を晒した。
顎に白髭を生やした初老の男性が、やはりイルヴェーヌ師匠の師匠だろう。
「イル、いつものように先に<断罪ノ化身>から<断罪刺罪>を示す」
と言うと立ち上がった。
半透明な分身を己の体に取り込むイルヴェーヌ師匠の師匠は大柄だ。
着ていたローブが自然と千切れ飛ぶ。
片方だけの肩当てと家紋入りの胸当てと槍掛が渋い。
騎士の鎧で半透明な魔力がフォースフィールドのように掛かっていた。
先ほどの分身は<魔闘術>系統の一種かな。
体の一部が鎧でもあるのか?
イルヴェーヌ師匠の師匠らしき初老の男性は右手に断罪槍を召喚。
イルヴェーヌ師匠の師匠は<刺突>系統のモーションを見せた直後――岩の下に移動し間合いを瞬時に詰めていた。
既に引いていた右手がブレると大きい岩が断罪槍に貫かれて弾け飛んでいた。
続きは明日。
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