千三百五十一話 ハブラゼルの魔宿
「ンン、にゃ~」
大きい黒虎は楽しそうだ。
と、右耳に可愛い息吹を感じた直後、
「ンン、にゃァ」
と銀灰猫の大きな声と共に右耳を舐められた。
くすぐったいが、ざらざらした舌の感触は結構気持ちいい~。
「ふふ」
「にゃァ~」
銀灰猫は、俺の右肩から降りて背後に移動。
ビュシエかな。
「あ、ふふ、メトちゃん、髪は食べちゃだめです~」
「ん、メトちゃん次はこっち~」
「わぁ~メトちゃん、ビュシエさんの手をもみもみして指をちゅぱちゅぱしている♪ 可愛い~」
「メトちゃんの後ろ脚が、ビュシエさんのおっぱいをツンツクしている~♪」
イモリザの言い方に吹いた。
ビュシエの背後と横には、エヴァ、イモリザ、エトア、ナロミヴァス、キルトレイヤ、バミアル、サシィ、ペミュラス、ヴィナトロスが乗っている。
キルトレイヤとバミアルは大柄だから触手で外にぶら下がる形だから、トンネルの上部に当たりそうで怖かった。
触手に雁字搦めのキルトレイヤとバミアルは終始無言。
恐怖に耐えている?
まぁ古バーヴァイ族だ、強いから、気のせいだろう。
そして、銀灰猫はビュシエの長い金髪を噛み噛み中か。
ビュシエの谷間に挟まれている銀灰猫は見たいかも知れない。
可愛いとおっぱいは正義――。
いかん、今は前の世界を意識せねば。
トンネルのような出入り口の前方に蒼い空が見えた直後――。
大きい黒虎はトンネルの縁際に来るや否や体勢を屈めると、その縁を後ろ脚で蹴って跳ぶ。
トンネルから外に出た。
グワンッと重力的なモノを体に感じた。
魔界セブドラの蒼い空――。
〝魔神殺しの蒼き連柱〟の影響下の真夜だ。
雲もある。その雲の切れ間から射すような光が綺麗だ。
蒼色からグラデーションで黒色へと変化していく様子はかなり美しい。
色合い的に異なるが……。
ヤコブの梯子、旧約聖書創世記28章12節に登場する場面を思い出した。
ヤコブが夢を見た時に、一つのはしごが地の上に立っていて、天使が上下している光景を見ただったかな。
と、大きい黒虎は体から橙色の魔力が噴出させる。飛翔速度を加速させた。
「ンンン、にゃ~」
と、また鳴いた黒虎は加速を弱めた。
ハブラゼルの魔宿に直進かと思ったが、ゆっくり飛行に移行しつつ鼻先をふがふがと動かし始めた。
虎の鼻で【レン・サキナガの峰閣砦】の大気の匂いを嗅ぐような印象。
と、「ん、にゃ?」と、鳴いて、その黒虎の頭部の先が肉屋が並ぶ通りを向いた。
魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンが売っていた場所と違う肉屋の通りだが、ここの肉料理は色々とある。
焼き鳥以外の肉も上手いに違いない。
散歩した際に、もう肉系統は堪能したかも知れないが、後で買っておいた魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥をプレゼントしてあげよう。
その黒虎に、
「ロロさんや、気持ちは分かるが、肉屋は今度な」
「にゃごおぉ~」
と、黒虎は頭部を前後させた。
俺たちもゆっさゆっさと上下に揺れる。
相棒はそのまま旋回機動を行いながら降下を始めた。
言うことを聞いてくれた。
「ん、風が気持ちいい~」
エヴァに同意だ。
縦長の家屋と桟橋を避けながら飛行する。
遠くに黒鳩連隊の方々が飛翔しているのが見えた。
同時に血文字で、キサラに、
『もうすぐハブラゼルの魔宿に着く』
『はい』
石垣の堀と堀の間を流れる河川を飛翔。
その石垣の上にも懸け造りの板組があり、その板組の上には高い楼閣が聳え立つ。
朱色を基調とした銀細工が至る所に施されている。
楼閣の一室には、魅惑的な舞妓さんが踊っていた。
白粉が似合う。見知らぬ魔界セブドラならではの雅遊ができてしまう? 楽しそう~。
それにしても懸け造りの回廊が美しい。
「ん、シュウヤが行ったらダメなところ」
「シュウヤ様、女遊びは厳禁ですからね」
と、背後にいる女性陣たちから殺気が隠った言葉が聞こえてきたが、「あぁ、そ、そうだな」と、相棒が気を利かせたのか、前方斜めに急上昇しては急降下して、違う場所に向かう。
今度の通りは日本の武家屋敷風や砦風――。
敷地が広い家は、上草連長か、それに連なる者たちの家かな。鍛冶小屋と水場に広い庭は日本庭園を思わせる。
がここは傾斜している地形が多い分――。
建物と庭の造りは独特で凹凸感がある。
野面積の石垣も凹凸だ。
【峰閣砦】から少し離れると、一気に景観が変化する。
和風の建物が減って、一気に西洋と中東で見られるような建物が増える。
イスタンブール的、ビザンチンノーブル系の建物もあるし、東西に分かれた頃のローマ帝国にあるような建物を見るとワクワクしてくる。
建物の中には壁画があるのだろうか、ダ・ビンチではないが、魔界の才人が造り上げた名画があるかも知れない。
と、急降下――。
家紋が記された様々な旗が並ぶ商店街を突き抜ける。
と、坂に着地、否、坂を蹴り跳ね斜め前方へ高く飛ぶ。
「「「おぉ」」」
「大きい黒き大魔獣ルガバンティだ!」
「いや、少し違うぞ――」
相棒は加速するように飛翔する。
坂を行き交う様々な魔族たちの声は聞こえなくなった。
再び、街並みを見るように飛翔しては大きい建物へと直進――。その大きい建物に体当たりしそうな勢いだ。
避けて、右にあった大きい石壁に両前足から付き後脚で石壁を突くように石壁を駆けてから、その石壁を蹴って三角跳びを行う。
坂下の砂利道を滑りながら着地し――。
平らな道を真っ直ぐ駆けていく。
「ふふ、速度は遅いですが、ロロ様の豪快な走りは楽しいです。迫力満点です!!
直ぐ後ろにいるビュシエの言葉に、
「あぁ!」
通りを直進――。
大きい黒き大魔獣ルガバンティに乗ったレン家の者たちとすれ違っていく。と、ハブラゼルの魔宿が見えてきた。
到着――。
ハブラゼルの魔宿の隣は路地があり、その先に廃墟があるのが見える。あそこでラマガンやギリアムたち魔傭兵ドムラチュアと戦って断罪槍のイルヴェーヌ師匠の手足と断罪槍をゲットできた。
二階の室内には囚われていたコセアドがいた。
そこにあった魔戦酒バラスキアに極大魔石とポトリィスラディボルシアボットンと腐った豆も獲得できたんだよな。
然り気無く重要な廃墟。
その廃墟で、<分泌吸の匂手>を行ったから、このハブラゼルの魔宿も縄張りの範疇に入ってしまっていると思う。
見知らぬ吸血鬼たちに、魔界ならではの吸血鬼を狙う方々を刺激した可能性は大。
そんなことを考えつつ黒虎を体を右手で撫でて、黒毛を梳く。そして、相棒に、
「――相棒、ご苦労さんだ、ありがとうな」
「にゃ、にゃ、にゃ~」
と黒虎は嬉しそうに鳴いて返事をしてくれた。
そんな黒虎の胴体を右手の掌でポンッと叩いてから、一足先に降りると、皆も降りた。
すると、上にキサラの魔素、
「シュウヤ様~上にいます~」
「シュウヤ様~」
とキサラとラムラントの声を聞いて見上げた。
キサラとラムラントは最上階のベランダの手摺りにいる。
キサラの黒いアイマスクに修道女と似た姫魔鬼武装は似合う。
「おう、後でな、最初は玄関口から行く」
「あ、はい、ではわたしも」
「はい――」
と、二人が室内に入って見えなくなった。
視線を降ろしてハブラゼルの魔宿の一階、出入り口を凝視。
玄関前には人通りも多いが、前に偵察用ドローンで見た時と変わらず、両扉の出入り口だ。
続きは明日。
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