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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1343/2032

千三百四十二話 観光しながら大きい地下牢へ


「ンン、にゃ~」

「にゃァ~」


 肩にいる黒猫(ロロ)銀灰猫(メト)は風が気持ちいい~といった印象で鳴いた。


 そのままフィナプルスと共に降下していく。

 大砲を持つまだ生きていた四眼四腕の力士のような魔族を見てから、レンたちが乗っているジオジルガの後を追った。


 レンを乗せたジオジルガの機動は緩やかだ。

 ジオジルガの龍の先頭に立つレン・サキナガは民衆たちに手を振っていた。威厳に満ちている。


 背後にいる源左サシィとキッカもどことなく気後れしているように見えた。

 そんな美人さんたちの足下に転がっているアキサダ。

 具足帷子と禿げは渋いが、体から漏れている魔力はやはり怪しい。


 ジオジルガは【レン・サキナガの峰閣砦】の懸け造りの板敷きの回廊と、魔塔と魔塔が改築されたような集合住宅との間を通り――。


 徐々に降下――。

 

 ジオジルガの龍の後頭部の先端に立つレンは、頭部をキョロキョロと動かしている。

 何かを探すように体の向きも変えていた。


 オオノウチとアキサダの部下が隠れていないか調べているような印象だ。

 背後ではアキサダが何か文句を言ったらしく、サシィとキッカの鞘でアキサダは小突かれていた。


 サシィはアキサダとも戦ったことがあるのかも知れない。

 そんなジオジルガの龍が通っていく狭い間には幅広い桟橋があった。


 その桟橋は人通りが多い。

 大首絵を売る商人が通った。

 荷車に立て掛けられた板には、大首絵の浮世絵が売られている。

 レンの上半身の似顔絵は俺も欲しいぐらいな出来映え。

 他、様々な魔族たちの浮世絵が売られていた。

 黒髪の魔族とデラバイン族は普通の魔族にしか見えないが、四眼四腕の魔族や二眼四腕の魔族は、結構な迫力だ。

 他にもマーマイン、大狸、魚人、キュイズナー、戦獄ウグラと似た似顔絵もある。


 モンスターもあるのかな。

 面白いなぁ。


 と、背後からエヴァたちも観光を楽しむように降下してきた。


「ん、シュウヤ、あの絵は魔石で買えるらしい!」

「ご主人様、ここは未知の文化の山ですよ、あ、あそこには書物屋が!」

「おう、ヴィーネ、寄り道するか?」

「い、いえ、アキサダのことが気になりますから、一緒に地下に行きます!」


 ヴィーネの悩む顔がいじらしい。


「無理しないでいいんだぞ?」

「大丈夫です。ラムラントの眷属化もありますし、バーソロンとアドゥムブラリの合流もある。その間は暇になりますから、今はアキサダの体の秘密と、だれと通じているかを知ることのほうが重要です」

「了解した」


 すると、キサラから血文字が浮かぶ。


『シュウヤ様、勝利の報は血文字で知りました。おめでとうございます』

『おう、今、レン・サキナガたちと一緒に【レン・サキナガの峰閣砦】を降下中だ。ハブラゼルの魔宿で部屋は取れたかな』

『はい、ハブラゼルの魔宿の最上階の豪華な部屋を取れました。魔宿の女将ハゼラゼルと妹のモミジが、シュウヤ様と話がしたいようです、暗に、<血魔力>と<分泌吸の匂手(フェロモンズタッチ)>のことを言っているようなニュアンスでしたが、断りましょうか』

『<血魔力>か……吸血神ルグナドの<筆頭従者長(選ばれし眷属)>や<筆頭従者>の高祖吸血鬼(ヴァンパイア)ではないだろうし……謎だが、断らなくていい、後回しとなるが』


 キサラの血文字に間が空いた。

 

『……ハブラゼルの魔宿の利用者とのトラブルはないんだな』

『は、はい、光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに喧嘩をふっかける者は皆無でした。少し拍子抜けです、ふふ』

『どんな感じだったんだ?』

『ゼメタスとアドモスが一階の中央に近付くと、カードと魔薬を興じていた者たちが一斉に動きを止めて静まり返りました』

『はは、戦わずして勝つだな』

『ふふ、厳つい者たちをあしらっていた娼婦たちも緊張してました。しかし、魔猫と魔獣ポプンと魔獣たちが、ゼメタスとアドモスの足下に群がって甘えてくると、ゼメタスとアドモスが興奮したような声と体から魔力を噴出させて、逃げなかった魔猫を抱えて可愛がると、ハブラゼルの魔宿内に笑いが走りました、そこからは和やかになりました』

『へぇ、面白そうな光景だ。偵察用ドローンの映像はガードナーマリオルスが録画してくれているから、暇な時に、そのシーンを見ておこう』

『はい!』


 と、キサラの血文字を終わらせる。

 <武行氣>を弱めてゆっくり降下。

 ヘルメの<珠瑠の花>の輝く紐に体が絡まっている皆も周囲の見学をしていた。


 皆で、レン・サキナガを乗せたジオジルガの龍を追う。


 下の階層にも桟橋がある。

 

 そこをのしのしと通るのは、上半身がタヌキのような大柄の魔族。

 巨大な茶釜のような物を腹に抱えながら運んでいた。

 

 背後では、使用人風情が茶道具的な小道具を持ちながら進む。

 更に後方から輿が通る。輿を運ぶのは力士のような方々。


 屋形の下に付いた二本の轅を肩に担ぐ力士の数は六人。

 これまた、のしのし、せっせと、桟橋を揺らしながら輿と進んでいた。

 頑丈な桟橋だが、さすがにあれは怖い。


 そして、輿に乗っている人物は見えないが、レン家なのか?

 魔商人、闇魔商人と呼ばれている商人かも知れないな。


 他にも、洗濯物が干されたロープもあった。

 

 ジオジルガの龍は、そこを進みながら、


「皆の者たち騒ぎを起こして済まない、そして、戦いがあろうと慌てずに平常を心掛けてくれて感謝する――」


 とレン・サキナガが【レン・サキナガの峰閣砦】で暮らす方々に語りかけながら降下していく。


 他のロープには、鯉のぼりのような飾りとレン家の旗印も飾られてある。それらの物に桟橋を避けながら降下。


「ンン、にゃ~」

「にゃァ~」


 相棒たちが、桟橋を行き交う人々と、鯉のぼりのような飾りに片足を伸ばしていく。

 洗濯物と旗にも反応しまくって大変――。

 と、先を降下しているジオジルガの龍が速度を上昇させた。

 向かった先は洗濯物を取り込んでいた中年の女性?

 あぁ、落ちそうになっているところを助けていた。

 ジオジルガの龍の頭部らへんには角が密集して危なそうだが、その角の先に中年の女性の衣服を引っ掛けて助けてあげていた。


 レンとサシィとキッカに両手首が拘束されているアキサダを乗せたジオジルガの龍は地上付近に到達。


 地上付近といっても基本は傾斜している岩場。

 坂道と岩場を利用した建物と道が多い。

 勿論、岩場を削ったような平らの場所も上に比べたら多い。

 道は殆どが天然の石で、石切り場が近くにあった。

 石屋の商店もあった、なるほど、石材も商品か。

 水が流れている堀と暗渠から石の管が露出していた。

 下水用に使われているのか。


 そこの近くに斜めに突き出た筒型の地下道に続く孔があった。

 そのレン・サキナガたちを乗せた龍のジオジルガが入る。


「にゃ~」

「ンン」


 俺たちも、その孔の中に突入――。

 両肩にいる黒猫(ロロ)銀灰猫(メト)も楽しそうだ。

 探索ではここには入らなかったようだな。


 ――筒型の石の中はトンネルか。

 その中を滑るように進む――。

 途中で、空気圧が変化し、耳がぶあっとなった。

 そのまま明るくなったところで、視界が開ける。


 レンと戦った地下の闘技場に到着した。

 その中央に向かうレンたちを乗せたジオジルガの龍。

 

 ジオジルガが止まるとそこからサシィとキッカが降りた。

 レンもアキサダを連れて降りる。

 ジオジルガの龍はレン・サキナガの腰帯の中に入って消えた。

 俺たちもそこに降りた。


「皆様、こちらです」

「おう」


 と、闘技場の端の扉を開けて地下階段を降りた。

 地下牢が並ぶが、大きい地下牢の前で止まると、熱気が感じられた。


 地下牢の中央に溶けた金属が流れ付いて溜まっていた。

 上に魔高炉でもあるのか……。

 大きい坩堝と巨大な棺桶も並ぶ。

 近くに処刑人とみられる黒髪の方が二人いた。

 二人はそそくさと左右に移動して、頭を垂れていた。


 レン・サキナガはアキサダを連れて入った。

 サシィとキッカが先に入る。

 俺たちも続いた。


 アキサダは抵抗しない。

 レンは手枷から伸びている魔法の紐を短くしては、紐を振るう。

 アキサダを乱暴に、ギザギザしている壇の上に座らせた。

 

「……ここで、わしを拷問か……」

「あら、賊軍の扱いは……よーくご存じでは?」

「黒羽衣会と黒海覇王会のことか」

「ふふ、それもありますが、昔のことは忘れたようね……」


続きは明日。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絵はひとっところに集めて美術館みたいに飾りたい。 『ゼメタスとアドモスが一階の中央に近付くと、カードと魔薬を興じていた者たちが一斉に動きを止めて静まり返りました』 まぁ、そうなるわな。そ…
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