千三百三十九話 オウガの甘噛み
黒き大魔獣ルガバンティの大人と子供をチラッと見てから少女のパンに、
「オウガとキュティが名か」
「はい」
「にゃ~」
「にゃァ」
パンは笑顔。
黒猫も銀灰猫も同意するように鳴いていた。
すると、黒虎と似た大人のルガバンティが、「ワオォン!」と鳴いて俺の前に来ては頭を垂れる仕種をして座った。
両前足をエジプトのスフィンクスのように揃えている。
幼いキュティという名のルガバンティも「ワォン」と鳴くとトコトコと前を歩いて小さい頭を下げてきた。
両前足は小さくか弱い。
前のめり状態で座るが、座れていないか。
虚弱体質なのか?
尻尾が左右に揺れているし、つぶらな瞳が可愛すぎる~。
その二匹を見ながら、
「オウガとキュティよろしくな、俺はシュウヤだ」
「ワオォン!」
「ワォン~」
二匹に挨拶しながら、黒き大魔獣ルガバンティのオウガに近付いた。
オウガは瞬きをしてから立ち上がる。
黒虎と似ているが、所々に鋼の皮膚、甲殻と鎧甲のような部分と刃が出ている。オウガは頭部を俺の膝に寄せる。ペロッと<魔戦酒胴衣>の布生地の表面を舐めてから、頭部を当ててくれた。
獣の匂いがブアッと漂う。
が、大きい黒虎的で可愛い。
そのオウガの頭部を撫でてあげた。
黒い毛は結構硬さがあるが、弾力もある。
そのまま胴体を抱きしめたくなった。
が、頭部から背中を撫でてあげるだけにした。
黒毛下の肌も柔らかいが筋骨隆々だと分かる。
この辺りは、猛獣だなぁ……。
というか、やはり動物系の魔獣は最高に面白いなぁ~。
あ、オウガが俺の手を舐めてくれた……。
指を甘噛みされた、可愛い。
「凄い、オウガがいきなり懐いた……しかも親として認めるように親指を甘噛みしている……初めて見ました……あ、神獣様とメトちゃんを使役しているシュウヤさんだからか……」
と呟いている。
頷いたが、オウガを使役したわけではない。
黒き大魔獣ルガバンティは格好良いし可愛いから使役できたらしたいが……。
だが、キュティが心配だ。
「なぁ、このキュティに水属性の回復魔法と魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥をあげたいが、大丈夫かな」
すると、パンが、
「はい、でも、キュティの見た目は幼いだけです、肉に魚はいつもあげてましたから」
「そうなのか、分かったが、一応――」
――《水浄化》。
――《水癒》。
無詠唱で発動。
龍を纏う水晶のような水球が一瞬で崩れてオウガとキュティにかかった。毛並みが綺麗になったぐらいで、回復とかはないが、安心できた。
さて、そのパンに、
「レン・サキナガは、裏切り者の大将格を仕留めたばかりだが、直ぐに此方に来るだろう。そうしたらアキサダがパンとオウガとキュティと所属していた商会の方々に対して何をしたのか、レンに伝えるがいい」
「はい」
裁判の仕組みは【レン・サキナガの峰閣砦】にはあるのかな。
法三章と似た殺人、傷害、窃盗を罰するような仕組みはありそうな予感。
パンは両足の膝を床に付けているアキサダを睨む。
アキサダは、床に唾を吐いてからパンを睨み返していた。
「……」
そのアキサダの視線を受けたパンは怖かったのか、オウガとエヴァの背後に移動していた。マルアとアミラも寄る。
エヴァは「ん、パンちゃん、わたしの名はエヴァっていうの宜しくね」と自己紹介をしている。
ナロミヴァスは、
「オオノウチと違い、戦いの場に姿を出さなかったのは逃げるつもりだったのだろう?」
と聞きつつ闇の炎に包まれている剣の切っ先をアキサダに向けていた。
アキサダは、
「当然だ……そこのシュウヤとやらが魔界王子テーバロンテを滅したのは、確かなようだからな……」
「閣下を呼び捨てにするとは……」
ナロミヴァスがそう呟きながら手元がブレる。
「ヒッ」
「――ナロミヴァス、別に名はどうでもいい。それよりもまだ殺すな」
「は、はい!」
ナロミヴァスは闇の炎に燃えた剣を直ぐに消して胸元に手を当てた。
イケメンなだけに渋い。
キスマリは、
「主、ナロミヴァスに浅くアキサダの片耳でも切らせてやればいいのだ、有能な情報を吐くならいざ知らず、主のレンに、刃向かった謀反人の主格の一人がアキサダだ。その一族郎党皆殺しが妥当」
と確信的に語る。
魔界の法も地方ごとに様々だと思うが、魔界大戦を何度も経験しているキスマリの言葉だ、一族郎党皆殺しが当然だった地域もあったんだろう。
キスマリは、アキサダを殴りたそうに拳を突き出していた。
ビュシエを見て、
「ビュシエ、魔界セブドラも惑星セラも地域ごとに法はバラバラだと思うが、どうなんだ?」
「はい、魔界は神々がすべて、諸侯は、セラと似た絶対君主制、連合、連邦国家など様々にあります。そして、魔界に限らずとも、法は建前なところが多いです、結局は力ですから」
シンプルだが、それも一つの答えだな。
頷いて、サシィとキッカにも意見を聞きたかったが、ビュシエと違い、まだ下の回廊に敵でも残っていたのか戻ってきていない。
オオノウチも強かったが、幹部ではないレン家にも強者はいるはずだからな。そして、ペミュラスとエトアの無事を確認してから、ホッと安堵感を得た。
そう考えると、強さ的にエトアを先に眷属化したくなってくる。
が、ラムラントもバリィアン族を代表する立場。
デラバイン族=源左=バリィアン族=ケーゼンベルス=レンの大同盟には必須な眷属化だからラムラントを先にしよう。
と、考えながらベランダと周囲を見て回る。
そして、下の回廊にいる皆から祝福を受けて勝利宣言を行っているレンを見てからアキサダを見てから皆に、
「……レン・サキナガは、ここを支配する諸侯の一人。アキサダの処遇はレンに任せよう」
「「「はい」」」
「そうですね」
「この者たちの命もですか」
アンブルサンの言葉だ。
頷き「あぁ、そうだ」と返事をした。
アンブルサンは、魔杖の先端をアキサダたちに向けていた。
先端は黒曜石の刃に見える。かなり鋭そうだ。
アポルアは弓を背に背負った状態で、黄土色と銀色の魔力を発している短剣の刃をアキサダの部下たちに向けている。
イモリザとマルアとアミラたちは沈黙。
イモリザが珍しい。
ヘルメはフィナプルスの宙空の動きを見るようにベランダから外に出て浮遊している。
バレエの『グランプリエ』のような動きでスラリとした長い片足を交差させて天女のように舞ながら水飛沫を周囲に発していた。
レンに何かを語りつつ俺たちへと片腕を差す。
グイヴァも寄っては、周囲に放電模様を作ってレン家の方々から歓声を受けていた。
ヘルメたちはアキサダのことを伝えたかな。
レンたちは、アキサダ囚われるの報を聞いたのか、そこで大歓声となった。
余計に肩を落としているアキサダに、
「アキサダ、オオノウチと一緒に謀反を企てた主な理由はなんだ?」
「……わしのほうが、皆を率いるに相応しいからだ。それに、源左やバリィアンにデラバインと同盟などあり得ない。百足魔族デアンホザーもだ、わしの部下は大量に、蜘蛛魔族ベサンとデラバインとデアンホザーの部隊に殺されている。息子は源左に殺され、友はバリィアンの魔力の斧に殺された」
「「「「……」」」」
アキサダの部下も小声でボソボソと、アキサダの言葉に同意していた。
源左やバリィアン族より百足高魔族ハイデアンホザーと百足魔族デアンホザーとデラバイン族への恨みの声のほうが大きい印象だ。
魔界王子テーバロンテの軍隊は【レン・サキナガの峰閣砦】を無視していたようだが、【メイジナの大街】、【サネハダ街道街】、【メイジナ大街道】にはバーソロンを送っていたようだからな。
そのことではなく、パンとアキサダを見て、
「魔獣商会アキサダは、大魔獣覇王競争大会に出場予定で……パンが所属する優秀なトトムノ魔物商会が、大魔獣覇王競争大会に出場されると厄介だから、事前に襲撃を計画していたんだな」
「そうだ……」
アキサダの言葉にパンは涙を流し、
「酷い! 酷い……なんでよ、結果はまだ分からないのに……」
「お前たちが優秀だったからだ、調教師に特に魔獣栄養師ロンなどな……わしらのところに来ないのであれば、潰すのみ」
ツラヌキ団とオフィーリアが狐追いレースに出場していたことを思い出す。
パンは、目が見開いて、絶句、そして、唇を震わせて、
「……親方にドィル、姉のようなロンとパーシィ、皆が大切に育てていた黒き大魔獣ルガバンティたちを返して! 返してよ! ばか、ばか、ばかあぁぁぁぁ」
と叫んで、嗚咽……。
オウガとキュティが、そんなパンの横に移動して涙を舐めていた。
エヴァも背中をさすってあげている。
肩にいた黒猫もパンの下に移動して慰めようとしていた。
銀灰猫も小声で優しい氣を送るように鳴いている。
本当に銀色の魔力光を体から発していた。銀灰猫にあんな能力があるとは。
すると、レンの魔素を察知。
下の回廊から飛来してきたレンはベランダに着地し、
「アキサダ、お前の商会が優秀な調教師と競技者を抱えていることは知っていたが、ここまであくどいことをしていたとはな」
「……」
続きは明日。
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