百三十二話 無双なる呂布を体現せり
一応、討伐証拠の死骸と魔石を回収しないと。
依頼を受けてないけど黒飴水蛇の死骸、目が残ってる頭部の一部をアイテムボックスに入れて、大きい魔石を拾う。
「なぁ、この大魔石、俺がもらっていいか?」
「ん、いい」
エヴァは優しい天使の笑顔で頷く。
「いいよ。この銀製の杖を選ばせてくれたし、この杖、ありがとね」
レベッカも珍しく反対しないで、お礼を言ってくれた。
あの銀杖をゲットできたのが余程に嬉しかったようだ。
「それじゃ遠慮なく、後、集めた黒い甘露水も俺が貰っといていい?」
「少し飲ませてくれるなら、いい」
「いいよー。あ、わたしも、今度、暇な時に飲ませて欲しいかも」
二人は頷き了承してくれた。
「あぁ、もちろん、飲ませてあげるさ」
俺が一番得してるが良いのだろうか?
様々なアイテムに大魔石もゲットしちゃった。
魔石は重要だからな。
俺には魔石を集めなきゃならない、絶対的な戦いがある。
どっかの日本代表戦のキャッチコピーじゃないが、アイテムボックスという魔石を要求するモンスターとの戦いが俺にはあるのだっ。
と、無理やりテンションを高めたところで、
「オープン」
アイテムボックスを起動して、大魔石を普通のインベントリの中へ入れておく。
実際に納めるのは宿でやろ。
「それじゃ、この部屋を出て、残りのスライムの依頼とジグアの回収へ行こう」
「うん、了解」
レベッカは新しい杖を掲げて、嬉しそうに声を出す。
「ん、がんばる」
「はい」
エヴァとヴィーネは冷静な顔付きで声を出していた。
皆で大扉を開けて外へ出る。
広場に戻ってくると、他のパーティが順番待ちをしていた。
「……エヴァ、青蜜胃無の湧く場所とジグアの採集場所まで、案内よろしく」
「任せて」
エヴァが先頭に立ちミディアムな黒髪を靡かせながら車椅子を動かし進んでいく。
順番待ちの冒険者たちが見守る広場を何事もなく通り抜け、またT字通路に戻ってきた。
エヴァは車椅子をくるりと左折。無言で左を選択。
木々が囲う通路を進み出す。
だんだんと横幅が開けてくる。
更に、足元が少し泥濘んだ地帯に変わり、地上の森のような広々とした場所へ変わってきた。
空気の流れもどんよりとしていて、湿気もある。
光源の明かりは広くなったせいか薄暗い。
ぬかるんだ地面のせいで、エヴァは車輪が土に取られて動き辛そうに見える。
大丈夫かな。
「エヴァ動き辛そうだけど、大丈夫か?」
「大丈夫。敵が近くに湧いた時は立って“これ”をメインで戦うから」
エヴァは微笑みながら右手からトンファーを見せる。
「後、みんな魔法があるから、今日はこれは使わないと思う」
マキシワンピのスカートを少し捲り“鋼鉄の足”先を見せて答えていた。
鋼鉄足には魔力が感じられる。
前に銀ヴォルクの頭部へ食らわしていた延髄切りの蹴りを思い出す。
魔鎚みたいな感じで強烈そうだった。
「……なるほど、それか」
「ん、もうこの辺から、青蜜胃無、甲殻回虫、樹魔も湧くから用心」
エヴァは俺だけじゃなく、皆に聞こえるように声を強めて話していく。
「了解、酸の攻撃を食らう前に魔法で潰すわ」
レベッカは強気な態度で、銀杖の先を、泥濘と森が広がる先へ伸ばす。
「索敵なら任せろ。ロロ、前に出るぞ」
「にゃ」
レベッカの強気な態度に乗り、俺は強い口調で話す。
黒猫と共に先頭に立った。
先に進むと、早速、掌握察に魔素が引っ掛かる。
「――右辺斜めに数は八。左辺にも数は二」
モンスターの位置を腕で指していく。
右辺に広がる木々の間から現れたのは樹魔と甲殻回虫たち。
左の泥からは青蜜胃無と見られるモンスターが現れていた。
その姿は青い透き通ったゼラチン状の物体。
分厚い青ゼラチン状の物体がぷるぷると全身を震わせながら、土の上を進んでいる。
幸い、どちらのモンスター群も俺たちには気付いていないようだ。
「気付いてない、奇襲するか。まずは、俺、ロロ、ヴィーネの三人で、木と団子虫たちを叩く」
三本指を立て、右辺のモンスターを指す。
「了解、エヴァは対処できると思うけど、わたし、あの甲殻回虫と相性悪いからお願いするわ」
「ん、レベッカに同意。わたしたち青蜜胃無に備える」
「いいぞ、任せろ、ヴィーネもそれでいいか?」
「はっ」
ヴィーネは銀髪を揺らしながら俺に頭を下げ、了承。
レベッカは甲殻回虫があまり好きじゃなさそうだ。
確かにあの突っ込んでくる速度は厳しいか。
「それじゃ、まずは右辺の木と団子虫から先に殺る。ロロ、ヴィーネ行くぞ」
「はっ」
「ンン、にゃお」
黒猫は泥に足が取られるのを嫌ったのか、黒豹型よりも大きいサラブレッド級の馬獅子型サイズへ姿を成長させる。
そして、触手を俺の腰に絡めてくると、無理やり背中に乗せてきた。
「っと、ロロ、神獣一体でやる気か」
「ンンン」
喉声の返事のみ。
まぁここは天井も横幅も広いし地上みたいなもんだから暴れやすいとは思うが……。
黒猫が主導してやりたがるのは珍しい。
「ご主人様……」
その時ヴィーネが不安気な表情を浮かべ話してきた。
“あの、わたしは……”と遠慮したいと言ってるようにも見える。
「あぁ、済まんな、ヴィーネは青蜜胃無に備えて、エヴァとレベッカと共に見学していて」
喋り終えた瞬間、黒獅子型黒猫が首元から生えている触手を首下に付着させてくる。
その手綱触手を左手一本で掴むと、右手に魔槍杖を召喚。
そのまま馬獅子型黒猫に乗りながらモンスターが群がる右辺へ一気に駆けていく。
ぬかるんだ地面なんて、なんのその――。
瞬時に攻撃圏内に入った。
樹魔たちを馬獅子型黒猫の触手骨剣が捉え、動きを止める。
その動きを止めた樹魔たちの横を駆け抜けながら魔槍杖で樹魔を薙ぎ払った。
地面を転がってくる甲殻回虫には走っている馬型黒猫の前足が甲殻ごと踏み潰す。
馬獅子型黒猫は長い尻尾を鞭の如く振り回し、樹魔ごと甲殻回虫たちを薙ぎ払い吹き飛ばしていた。
更に、その吹き飛ばして宙を飛んでいるモンスターたちへ追撃の触手骨剣が突き刺さり、止めを刺していく。
撃ち漏らした甲殻回虫たちがいるが、一匹とて逃さない。
馬上から魔槍杖を振り下ろし、硬い甲殻を地面へ擦り潰すように仕留めていく。
その一連の動作を一分の隙もなく行った。
無双の如く成り。
神獣一体を超える<神獣止水・翔>のスキルのお陰だ。
右辺に出現していたモンスターの全てを一掃。
ぬかるみに転がる魔石も馬獅子型黒猫の六本触手を使い素早く回収。
俺は三国志の英傑の一人、呂布にでもなった気分で、爽快に馬獅子型黒猫を操り仲間が待機してるとこへ駆けていく。
「……」
「はぁ……」
「……」
『閣下の御勇姿たる威光により、彼女たちは忠誠心を得たかもしれませんっ』
ヘルメは新たなる独特ガッツポーズを取り、偉そうに語る。
エヴァ、レベッカ、ヴィーネの女子組三人衆たちは沈黙。
俺が戻っても、ただ、馬獅子型黒猫と俺を交互に見ては、嘆息を吐き、黙り込んでいる。
「……どうした?」
「ん、シュウヤとロロ、凄い」
「本当に、その子、ロロちゃんよね?」
何気に馬獅子型黒猫をお披露目するのは初だったか。
ヴィーネは口が開いた状態で惚けるように、俺のことを見つめていた。
戦いぶりに驚いているようだ。
「ンンン、ゴロゴロ、にゃおん」
馬獅子型黒猫は獅子らしい口を少し広げて、喉声を響かせ鳴く。
ごろごろと鳴く喉声は、獅子や虎のように大きい音だが、猫声だけは変わらない。
地面に降りると、その声を轟かせていた黒猫は姿を縮ませる。
いつもの猫姿に戻りジャンプ。俺の肩に収まった。
「そうやっていると、いつもの可愛いロロちゃんなんだけどねぇ、さっきのは少し怖かったわ」
レベッカは肩で休む黒猫を見上げて、細い指先を小鼻へ伸ばしている。
黒猫は指に興味があるのか、その指先をクンクンと匂いを嗅ぐと、ペロペロと小さい舌で彼女の指を舐めていく。
そのタイミングでフレーメン反応を起こしてくれたら、笑えたのに。
「ふふっ、可愛いっ」
「まだ左に青蜜胃無が残っているぞ」
俺は黒猫と遊ぶレベッカを含めて、皆の気を引き締めるように話しながら、左辺へ視線を移す。
「うん」
「ん、皆で奇襲。魔法で殲滅」
「はい」
エヴァは言葉少なめに、指示を出す。
魔法で奇襲か。
「エヴァ、どんな魔法が効果的なんだ?」
「ん、物理じゃなきゃ、何でも、ぶよぶよ魔法に弱い。ぶよぶよの中に核がある。そこが一番の弱点」
確かに、透明、薄青のゼラチン質。
ゼリーのぶよぶよの中に細胞核のようなモノが見えている。
「了解。それじゃ、ヴィーネ、レベッカ、エヴァ、魔法を頼む。撃ち漏らしても、ちゃんとフォローするから、どーんっといっちゃえ」
『閣下……』
『ヘルメなら大活躍間違いないが、今は我慢な?』
『はい』
俺も氷系で遠距離攻撃で混ざることができるが、たまには外から眺めるのも良いもんだ。
「はいっ、お任せを」
「うん。やるわよ~」
「ん、頑張る」
すると、各自、話し合いを始めた。
「それじゃ、火球で左手前にいる青蜜胃無を狙う」
「ん、土槍で右奥」
「……では、雷撃鎖で二匹同時に狙います」
三人は見合わせ、頷く
レベッカが先に撃つようだ。
銀製の杖を掲げて詠唱を開始していく。
詠唱が終えると、いつもより火球が大きくなっていた。
『火球がいつもより大きいな』
『はい、あの銀製の杖が魔法効果を上げているのでしょう。素晴らしい魔力操作、錬成です』
解説者ヘルメの声が脳内に響く。
「――火球」
巨大な火球がゼラチンの塊のような青蜜胃無へ向けて、勢い良く飛翔し、火球が直撃。
衝撃は吸収されたが、炎が青蜜胃無の全身に広がりゼラチン質を燃やし溶かしていく。
旨そうに見えるのは一度食べているからか?
続いてエヴァの詠唱が聞こえる。
「土精霊バストラルよ。我が魔力を糧に、土の精霊たる礎の力を示し、土槍を現したまえ――」
おぉ、これは初。土系の魔法か。
声も綺麗だ。いつもの辿々しさは皆無。
『閣下、彼女の魔力と操作はレベッカより高いですが、攻撃魔法の質は低いようです。精霊さんの集まりが遅い』
『へぇ、レベッカのが精霊魔法の質が良いとなると、レベッカには特殊な“何か”があるのは確実だな』
『はい』
「――土槍」
そんな思考をしていると、土槍が右奥にいる青蜜胃無へ飛んでいく。
青蜜胃無のぶよぶよゼラチンの真ん中に土槍が突き刺さり貫通、大穴を開けていた。
ゼラチンゼリーへぷるるんっと衝撃が伝わり揺れながらゼラチン質が溶けていく。
続いて、ヴィーネの詠唱が響く。
「雷精霊ローレライよ。我が魔力を糧に、雷の精霊たる礎を越え、古から続く理の雷網たる天器に轟く雷鎖を現したまえ――」
ヴィーネの声は高らかに響き、青白い両手を前に突きだし構えている。
カメハ○波?
『上級クラスの雷魔法でしょうか。魔力操作も素晴らしい。精霊の集まりはレベッカ、エヴァに劣りますが、中々の速さです』
ヴィーネは魔法も高レベルらしい。
「――雷鎖」
ヴィーネの両手先から、黄色い雷が発生。
凄まじい稲妻。
黄色い閃光たる雷線が青蜜胃無に衝突。
燃えていたゼラチンの全身に黄色い雷が巡る。
連鎖した黄色い雷は隣に居た青蜜胃無にも巡り、土槍の貫通した穴に雷が直接通ったのか、瞬時に全身が震え、爆発、爆散。
遅れて炎で半分程度溶けていたスライムも爆発。
ぷすぷすと、蒸発したような音が響くだけとなった。
さすがは雷だ。強烈。
「ヴィーネ。凄い魔法だ」
「……ぁ、はっ、ありがとうございます」
ヴィーネは青蜜胃無の残骸を見ないで、俺に対して頭下げている。
少し呼吸が荒い? さすがに上級はキツいようだ。
「雷の上級?」
レベッカがヴィーネに聞く。
「はい」
「……すごい。やるわねぇ」
「はっ、ありがとうございます」
ヴィーネはレベッカに対しても慇懃な態度で答えている。
「ん、優秀」
ヴィーネが頭を下げている最中にエヴァもさりげなく小さい声で褒めてから、車椅子で素早く前に移動。
車椅子に乗りながら青蜜胃無の素材を回収していく。
溶けていたりバラバラになったゼラチンを全部、袋に積めて回収していた。
魔石は中魔石。
形がスライムの形状でどこか可愛かった。
「あ、あそこにジグアが生えてる」
回収を終えたエヴァが嬉しそうに声質を上げると、トンファーの先を伸ばす。
そこには特殊な樹木が育っていた。
大きい金魚。
名前通りな魚の形をした樹木だ。
ぬかるんだ地面から生えている他の木々とは明らかに違う。
根っこから幹に掛けてが特殊。
何重の細枝が集合し螺旋を描き絡まった状態で、上方へ伸びて大幹になっていた。
根はオリーブの木のようだが、違う。
その太幹から金魚のような形を作っている。
表面は鱗のように生えているが、樹木。
魚の胴体部分から牛蒡のような細長い棒が斜めに生えていて、その牛蒡の先には沢山の葡萄のような白身玉が付いている。
俺がエヴァの店で食った食材だ。
エヴァは急いで金魚樹木に移動すると、白身玉を傷付けないように牛蒡の根本を切りジグアを回収していた。
作業を行っているとこへ近寄っていく。
……これがジグアの食材か。ほんとに魚型の樹木とはな。
摩訶不思議だ。一個の金魚型樹木に十個ぐらいのジグアが実っている。
「まるごと、ジグアが手に入った」
エヴァが嬉しそうに語る。
「いつもはまるごと手に入る訳じゃないんだ」
「ん、そう。ゴブリン、オーク、青蜜胃無が食べちゃう」
そんな話をしてると、魔素反応。
左から七つほどの魔素が動いて近付いてきた。
「左から敵だ」
「ん」
「了解」
「はい」
七つの反応はどれもゼラチン質の青蜜胃無たちだった。
「遠くにいるけど、確かに青蜜胃無たちね」
「また、ぶよぶよっ食材」
エヴァは嬉しそうに頷き、車椅子を動かしている。
「でもさ、シュウヤの索敵は凄い。今日モンスターからの奇襲を受けてないよ?」
「まあな」
「ん、確かに――わたしよりも上。素早く魔法殲滅できる」
エヴァはその場で車椅子を動かし、くるりと回転させ機嫌よく答えていた。
「褒めるのは後だ。今回は俺も混ざる。ヴィーネ、さっきの魔法は何発撃てる?」
「後、二発です」
やっぱそれなりに魔力を消費するのか。
「わかった。次は魔力消費を抑えるためにグレードを下げて違う魔法を撃つといい」
「はい」
「話は終わり? それじゃ、遠慮なく行かせてもらうわっ――」
レベッカが口火を切り、銀製の杖を振り上げ詠唱を開始。
レベッカの炎、エヴァの土、ヴィーネの風、俺の氷。
皆で、一斉に、魔法攻撃を行う。
先制攻撃は偉大だ。
次々に反撃をゆるさない無慈悲なる魔法攻撃が青蜜胃無に直撃。固定砲台ならぬ遠距離からシューティングゲームと化していた。
青蜜胃無たちを一蹴。
黒猫も口からブレスが放てるが、俺の肩でさぼるように待機。
魔法の軌跡は綺麗だからな。
紅いつぶらな瞳は魔素が大気に散る様子を眺めていた。
その後も休憩を交えながらジグアの回収を続けていく。
青蜜胃無も見つけ次第、その全てを倒し、素材と魔石を回収。
途中、オーク対ゴブリンの殺し合いをしている現場に遭遇すると、漁夫の利を得てオークとゴブリンを全滅させたり、青蜜胃無、樹魔、甲殻回虫、出会う全てのモンスターを倒し続けて素材や魔石を集めていく。
二日かけ、魔石依頼と全ての依頼素材を集めきり、食材も当初の予定よりも沢山集めることができた。
「依頼は全て集めたし、少し、疲れたわ、休憩してから帰らない?」
「ん」
二人とも疲れた顔を浮かべている。
二日間ぐらいか、休憩しながらだけど、第三層の奥地を歩き回ったからなぁ。
「そうするか、あそこ辺りはどうだ?」
比較的、泥濘が無い場所を選ぶ。
「ん、了解、結界石、置く」
彼女は頷きそう言うと、懐から手慣れた手つきで小さい青白い石を取り出し、周りに置いていく。
「エヴァ、毎回の休憩時に結界石を使わせて悪いわね」
「ん、構わない」
あの石か。前に魔法書を買った店にあったような気がする。
「ヴィーネも休むぞ」
「はっ」
ヴィーネも疲れた顔だった。
仮面があるし、元から青白い顔なので判断が難しいけど。
皆で小さな円を作るように一纏まりになり休憩していく。
レベッカは座りながら水筒を口に含む。
エヴァは車椅子の膝上から毛布をかけて、眠ろうとしていた。
それを見ていた黒猫が俺の肩から離れて、毛布の上に乗ろうと、エヴァの足元へ移動してる。
あいつめ、ちゃっかりしているな。
「ンン、にゃぁ」
黒猫はエヴァに甘えた声で鳴く。
膝に乗せて、とアピール。
「ん、ここ、くる?」
エヴァは優しい笑みを浮かべて、毛布をかけてある股の上をぽんぽんっと叩きそんなこと言っていた。
「ンンン」
黒猫は喉声で返事をしながら、エヴァの股上へジャンプ。
迎えてくれたエヴァの細い手をペロっと舐めてから、毛布の上でくるくる回り丸くなっている。
「いいなぁ、ロロちゃん、可愛い。エヴァになついてるぅ」
レベッカが口にパンを頬張り食べながら、羨ましそうな顔を浮かべてそんなことを言っていた。
「はは、あの股上なら気持ちよく寝られそうだからな?」
邪な顔でニヤついて、エヴァの太股を想像。
「微妙にイヤらしく聞こえる」
うぐ、レベッカめ鋭いな。目細めてくるし。
「いや、ほら、例えだよ例え……」
そこで誤魔化すように漫然とした視線を、俺の側で片膝ついて休んでいるヴィーネに向けた。
「……ご主人様?」
今、ヴィーネは微妙に冷たい眼差しだったよね?
ヴィーネまで……。
「あ~、シュウヤ、いくら自分の奴隷だからといって、わたしたちが居る前では手を出さないでよ?」
何を言っているんだ。
う、ヴィーネ、今、一歩後ろに下がった。
今は、そんなことはしないのに。
「レベッカ君、俺がそんなことする露出趣味を持っていると?」
「だって、女奴隷持ちの大半はソレ目的もあるのが普通よ?」
「シュウヤは、えっちぃなの?」
エヴァも素直にそんなことを聞かないでくれ。
「まてまて、仕事中にそんなパコパコはしないから、俺を何だと思っているんだ……レベッカは一度パーティを組み近くで俺を見ているだろう?」
「まぁねぇ、でも、パーティ組んだ理由が、わたしが“女”で“可愛い”から組んだって、言っていたわよねぇ?」
ぐ、あの時素直に喋ったのが災いしたか……。
だが、否定しても意味がない。
「そうだ。だが事実だろ?」
「うっ……ばか、もうっ奴隷の話をしてるのに……」
レベッカは急に顔色を赤く染めて俯く。
「ん、レベッカ、確かに可愛い女性」
エヴァも天使の微笑みで、同意してくれた。
「エヴァまで、もう」
レベッカはまんざらでもない顔を浮かべて照れるように叛ける。
「ところで、えっちぃのシュウヤ、さっきの股上の話。ロロちゃんだけじゃなく、シュウヤもわたしの股上で寝る?」
ええ? エヴァさん天使の笑みを浮かべながら……。
流れた話を蒸し返したうえに、そんな大胆な発言をっ。
「ちょっ?! エヴァ、本気?」
「ん、本気、どうして?」
エヴァは当たり前の行動だけど? という感じに頷く。
レベッカに対して疑問顔を浮かべ答えていた。
「エヴァ、嬉しいが、それはまた今度……」
話がややこしくなりそうなので無難に逃げとこう。
「ん、了解」
「ダメだよぉ。エヴァが襲われちゃうよぉ~」
レベッカが半笑いでボケるように言ってきやがった。
襲わねぇ……よ。襲いたいけど。
「シュウヤ、襲う?」
はぁ、エヴァさん、あんたも真に受けるなよ。
ここはワザと乗っかり、ツッコまずにボケてみるか。
ニヤリと笑顔を作り、口を開く。
「あぁ、エヴァだけじゃなく、皆を、襲って襲いまくって、やるさぁ」
「えぇぇ」
レベッカは驚き、
「ほんと?」
エヴァは嬉しそうに声を出していた。
「……」
ヴィーネは怖がり怒っている顔だ。
ジョークは止めておこ。
「冗談だ、そんなことはしないから」
顎を突き出し笑顔で言ったが、周りの反応は様々。
失敗したか?
「そ、そうよねぇ、ハハ」
レベッカはぎこちなく笑っている。
何なんだ全く、変な話をふったのはレベッカだと言うのに。
「ん、冗談……残念」
「……」
エヴァは少し残念がっているし、ヴィーネは黙りと睥睨を続けている。
銀仮面の底から俺を冷んやりと刺すような視線だ。
「……ハハ、もう休憩するんだろ? さっさと休もうぜ」
誤魔化すように半笑いしながら腕を泳がせる。
「そうね」
「ん」
「はい」
三人はそれぞれ好きな体勢で休んでいく。
と、休もうぜと言った手前、俺は休む必要がないんだよな。
喉が乾いたから生活魔法で、水でも作ろっと。
宙から発生させた水を口から喉に流し込む。
ゴクゴクッと喉音が鳴るように飲んでいった。
喉に水を通すと、さっき飲んだ黒い甘露水の味を思い出す。
のど越しがスカッとして、甘くて最高だった。
黒い甘露水、高く売れるとは思うが売らずに保存するか。
そうこうして、暇をもて余すこと、数時間。
魔造家を使えば快適な部屋空間が用意できるが今回は使わない。
まだ知りあって間もないってこともあるが、王族が持つようなアイテムが、魔造家だ。
今は使わない。
暫くすると、エヴァが懐中時計を示して起きてくる。
休憩の時間は終了だ。
俺たちは迷宮の帰路についた。




