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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1314/2041

千三百十三話 【レン・サキナガの峰閣砦】のどんちゃん騒ぎ

序盤は三人称で、他者視点です。



 □■□■


 岩回廊に悲鳴と剣戟が幾度となく響いた。

 やや遅れて地響きも鳴り響く。


「――げぇ」

「――盗賊めが!」

「これ以上進ませるな――」

「げっ――」

「ぐぇ――」

「あっ」


 岩回廊の石畳を駆けたレン家の魔剣師たちは気合い声と共に魔剣を袈裟懸けに振るう。

 が、すべてからぶると刹那の間に首が飛んでいた。

 

 切断された頭部は岩回廊の天井と衝突し、潰れる。

 レン家の魔剣師の首を刎ねたのは、黒装束を身に纏う二眼四腕の魔族。

 左上腕と左下腕の手には赤黒い魔剣を持ち、右上腕と右下腕の手には蒼紫の魔槍を持つ。


 黒装束を身に纏う二眼四腕の魔族はたった一人で【レン・サキナガの峰閣砦】の宝物庫へと続いている岩回廊を突き進んでいる。


 彼の名はヴァヌサ、盗賊ヴァヌサ、闘剣槍師ヴァヌサ、など数々の異名を持つ。

 【メイジナ大街道】と【サネハダ街道街】では盗賊ヴァヌサの名前が有名だった。

 

 その二眼四腕のヴァヌサはレン家の短剣使いと相対し、

 

「お前が噂に聞くヴァヌサか!」

「――どこで俺の名を聞いたんだ?」


 ――蒼紫の魔槍を下段に払い、足下に飛来した短剣を蒼紫の魔槍で弾く。

 短剣使いは、不敵に笑う。


「……レン様と上草連長たちに決まっているだろう――」


 短剣使いは二本の腕から無数の短剣をヴァヌサに投げつける。

 ヴァヌサは、石畳を蹴って横に跳び、短剣を避けた。

 そのまま横壁を蹴って短剣使いに向かい、迅速に宙空から蒼紫の魔槍を突き出した。

 レン家の短剣使いは、両手の短剣で蒼紫の魔槍の一撃を防ごうとする。が、その両手ごと、短剣使いの胸を穿った蒼紫の魔槍は力強く、疾い。


 胸を穿たれた短剣使いは吹き飛ぶ。

 短剣使いを仕留めた二眼四腕のヴァヌサは、


「俺に不意打ちは無理だぜ」


 と語り少し退いた。

 ヴァヌサの左右の横から他のレン家の者が、


「そこだ――」

「盗賊めが――」


 と魔剣を振るう。

 二眼四腕のヴァヌサは姿勢を低くし――。

 赤黒い魔剣を肩に担ぐように掲げながら爪先半回転を行うと同時に右上下腕の手が持つ魔槍を右下から左上と振るい上げた。


 ヴァヌサは、左右のレン家の者が繰り出した斬撃を赤黒い魔剣で受ける。

 そのまま赤黒い魔剣で魔剣の攻撃を防御しながら横回転――。

 赤黒い魔剣とレン家の魔剣師の魔剣が衝突している箇所から火花が散った。

 ヴァヌサは横に回転する勢いを魔槍に乗せるように、蒼紫の魔槍を振るう。

 その蒼紫の魔槍の穂先が二人のレン家の者の足を捉え、それを切断。


「「げぇ」」


 二眼四腕のヴァヌサは横回転を続け――。

 赤黒い魔剣の柄ごと己の体に巻きこむように振るう。

 足を失い体勢を崩していた二人の体を真っ二つにしていた。


 二眼四腕のヴァヌサは四つに分かれた死体は見ず前進。


 奥にいたレン家の魔剣師に近付いた。

 レン家の魔剣師は、ヴァヌサを見て、


「大魔商の雇われが!」


 と言いながら蒼い魔剣を突き出した。

 二眼四腕のヴァヌサは、「ハッ」と嗤うがまま蒼い魔剣の突きを屈んで避けると同時に右上下腕の手を持つ蒼紫の魔槍を突き出す。


「ぐあぁ」


 蒼い魔剣の真下とクロスするように直進した蒼紫の魔槍が魔剣師の腹を突き抜けていた。 ヴァヌサは魔槍を引き抜くがまま前蹴りを放つ。


 蒼い魔剣を突き出していた魔剣師は腹を蹴られ、腹の傷孔から大量の血飛沫を噴出させながら吹き飛んだ。


 黒装束の二眼四腕のヴァヌサは斜め上に跳ぶ。

 ――岩壁に跳び移り、岩壁に蒼紫の魔槍の石突と赤黒い魔剣を突き刺し、その得物にぶら下がりつつ前方を見やる。吹き飛んで岩壁と衝突していた魔剣師を見たヴァヌサは、壁を蹴って直進――宙空から左上下腕の手が持つ赤黒い魔剣を振るう。魔剣師の首に、その赤黒い剣刃が吸い込まれ、その首を切断した。魔剣師の頭部は吹き飛ぶ。

 

 ヴァヌサは岩回廊の石畳に着地と同時に前進し、二人のレン家の魔剣師と間合いを詰めるや否や、右上下腕の手が持つ蒼紫の魔槍を突き出した。

 やや遅れて、左上下腕が持つ赤黒い魔剣を突き出す。


「くっ」

「速い――」


 二人のレン家の魔剣師が突き出した魔剣を、蒼紫の魔槍の穂先が難なく弾き胸を穿った。

 左上下腕の赤黒い魔剣の切っ先は左の魔剣師の頭部を突き抜けていた。


 二人のレン家の魔剣師をあっさりと倒した二眼四腕のヴァヌサは、


「……たわいもない――」


 と発言しながら、今倒したばかりの魔剣師の死体を蹴り飛ばす。


 死体は中央に鎮座していた石灯籠と衝突。

 石灯籠は死体と共に自然と塵と化した。


 が、塵は意識がある如く前方に集積し魔獣の黒炎と化して、二眼四腕の魔族に向かう。


「ハッ」


 と二眼四腕の魔族は嗤うと――。


「――フザァァ」


 と口から衝撃波を放つ。

 魔獣の黒炎は消し飛んでいた。


 更に、天井の崩落が始まる。


「手の込んだ罠だが――」


 と、二眼四腕の魔族は呟きながら素早く前進し――。

 崩落してきた岩や土を避けきる。


 無事な回廊に転がり込むことに成功した。


 黒装束を着た二眼四腕のヴァヌサは華麗に立ち上がる。

 と、そのまま足下の石畳を蹴って前方に跳躍。

 岩壁に足先を突き刺して、そのまま岩壁を走り出す。


 また岩壁を蹴ったヴァヌサは跳躍――。

 宙空で前転し、斜め先から飛来した魔矢を避けた。

 再びヴァヌサに魔矢が飛来、ヴァヌサは上下の腕の肘を上げて下げるように赤黒い魔剣を上下させて、魔矢に赤黒い魔剣を衝突させる。


 盾代わりに魔矢を連続的に防いだ。


 連続して飛来してくる魔矢を睨むヴァヌサ。

 左右上下の腕が持つ得物を振るいながら前進し、すべての魔矢を切断したところで、ヴァヌサは右斜め上に跳躍した。

 

 岩壁を蹴って三角跳びで射手に近付いたヴァヌサ――。

 慌てた射手は「来るな――」と弓を振るい、ヴァヌサを攻撃しようとしたが、ヴァヌサは屈むような横回転を行い、余裕の間で、弓の一撃を避ける。と蒼紫の魔槍を振り払う。


 <豪閃>のような一撃がレン家の射手の腹をぶち抜く。

 射手を倒した二眼四腕のヴァヌサは、前方を見やった。


(レン)家か、噂通りの要塞だが、少し緩い……」


 と呟いたヴァヌサは【レン・サキナガの峰閣砦】の岩回廊の階段を素早く下りて、更に奥深くへ侵入していく。


 二眼四腕のヴァヌサはレン家の防御兵を悉く切り伏せる。

 鋼鉄製の扉の前に侵入を果たしていた。

 そこでキンとギンの名を持つ四眼四腕の魔剣師と戦い、その魔剣師を仕留めることに成功。


 そして、ヴァヌサは大きな鋼鉄製の扉を見つめ、


「ここが噂通りの【レン・サキナガの峰閣砦】の最奥地【レン家の宝廟】か?」


 と呟きながら、罠がないかと、鋼鉄製の扉を有した空間を調べていく。

 そのまま大きな鋼鉄製の扉に手を当て、その鋼鉄製の扉を押し開いた。

 

 開いた直後、【レン家の宝物廟】の内部から魔矢が飛来――。


 ヴァヌサの二眼の虹彩が散大――。

 ヴァヌサは口を閉じた。

 鏃の刃をガチッと音を響かせながら上下の歯だけで魔矢の鏃を止めていた。


 その魔矢の鏃を己の歯だけで噛み砕きながら【レン家の宝廟】に侵入した。


 【レン家の宝廟】にいた連弩を持っていた魔傭兵が、


「俺の魔鋼矢を噛み砕くとはな――」


 と、連弩の引き金を引いて、魔矢を連続的にヴァヌサに飛ばす。

 ヴァヌサは「ハッ」と嗤っては、跳躍し複数の連弩を避けながら【レン家の宝廟】の天井に移動。その天井の岩を蹴りつつ赤黒い魔剣を<投擲>――。

 連弩から魔矢を連射していた魔傭兵は赤黒い魔剣を避けながら魔矢を連続的に放つが、ヴァヌサには当たらない。


 連弩持ちの射手との間合いを詰めていたヴァヌサは蒼紫の魔槍を突き出し、射手の体を貫いていた。

 

 ヴァヌサは蒼紫の魔槍を横に振って、魔槍にぶら下がっていた魔傭兵の体を振り払う。

 落ちた連弩、ガヴィルの魔連弩を踏み潰して破壊しつつ<投擲>していた赤黒い魔剣を掴み直し、前方へ跳躍。


 石畳を低空飛行で飛翔していく。


 【レン家の宝廟】の奥には宝箱に極大魔石の山があった。

 更に中央の奥に赤カーテンで囲われるように飾られてあった魔槍と魔剣を見てほくそ笑む。


 ……『あの魔槍と魔剣が、ドムラチュア様が語っていた宵闇魔槍レブラと宵闇魔剣レブラか……』


 すると、ヴァヌサの動きに反応した石畳が急浮上――。


 黒装束を着た二眼四腕のヴァヌサに石畳が次々に衝突。


 ヴァヌサは「なんだァ――」と言いながら横に移動し、壁に背を預けた。


 体に付着した石畳は、勿論、普通の石畳ではない。


「チッ、この石畳、タイルか……粘着質、こんな罠まであるとはな……が――」


 とヴァヌサは口から衝撃波を発して体に付着したタイル状の物を剥ぎ取ることに成功していた。


「……へへ、<ヴァヌサの魔氣砲>があれば大概はいけるんだな」


 と黒装束が溶けていた箇所を見ながら喋り奥を見やる。

 と、上下左右の【レン家の宝廟】の壁穴から無数の鋼の杭がヴァヌサに向かう。

 ヴァヌサは俄に後退しつつ四腕が持つ赤黒い魔剣と蒼紫の魔槍で、鋼の杭を防ぐが、さすがにすべての鋼の杭は防げない――。


 次々と体に突き刺さる鋼の杭――。


「ぐあぁ――」


 と【レン家の宝廟】の床の一部が変形し、穴と成る。


「マジかよ――」


 ヴァヌサは円筒のような穴を垂直に落下――。

 蒼紫の魔槍を振るうが壁に衝突するだけで、落下は止まらない。

 

 体から血飛沫を発したヴァヌサは「――ハハハハッ」と大声で笑う。

 ヴァヌサは魔眼『<銀紫花面>』を発動し、真下の底に無数の銀と紫の花を発生させた。

 その<銀紫花面>をクッション代わりに、背で受けて、素早く跳躍前転から着地。


 そのまま開けた前方に出た。

 ヴァヌサはグラついて、


「――ぐっ」


 血を吐いた。

 左右の四腕が持つ赤黒い魔剣と蒼紫の魔槍の切っ先と穂先で床を衝きつつ――。

 片膝の頭で硬い地面を突いたヴァヌサは血濡れた視界を消すように重い瞼を無理に開けて、中央を見やる。


 ……レン家の黒髪の魔族を複数視認。


「……クソがッ」


 ヴァヌサは怒りのまま血の唾を吐いた。

 

 そこに拍手が響いた。

 拍手は、開けた地下空間の中央から響いてくる。

 

 その中心には、鳥居形の背と勾欄が付いた豪華な椅子に座った女性がいた。

 周囲には黒鳩連隊の副長など黒髪のレン家の精鋭たちがいる。

 その女性の前には、膨大な魔力が隠る大きな鏡が設置されていた。

 鏡の半分は、【レン・サキナガの峰閣砦】の昇降台の前の通りで、どんちゃん騒ぎを起こしているシュウヤたち一行が映っている。


 もう半分の鏡には、血濡れたヴァヌサが映っていた。

 女性は大きな鏡を触り、消す。

 そして、とことこと足音を立たせながら、ヴァヌサに近付く。


 女性は、長い黒髪を靡かせながら、ヴァヌサに


「盗賊さん、あぁ、名は、ヴァヌサだったわね、ここまで侵入したことは褒めてあげる」

「くっ、近付くな」

「あら、貴方も、こうした宝物がほしいんではないの?」


 女性は笑みを浮かべて、右手に、眼球が集積している、たま状の丸い物を出現させる。


「……なんだ、それは……」


 血濡れたヴァヌサは<魔闘術>系統を発動しつつ、聞く。

 女性は気にせず、眼球が集積した丸い物を消し、


「気にしないで、ところで貴方の実力を買うとして、私のお宝を狙ってきた雇い主はだれかしら?」

「喋るわけがない――」


 立ち上がりながら蒼紫の魔槍で、女性を貫こうと差し向けた。

 女性は「ふふ――」と笑みを見せると、体から複数の丸い炎を周囲に生み出す。

 そして、魔力を有した斧槍を右手に召喚――。

 その斧槍で、ヴァヌサの蒼紫の魔槍の穂先を上に弾くと、流れるように右回し蹴りをヴァヌサに喰らわせて吹き飛ばす。


 ヴァヌサは転がりながら岩壁に背をぶつけ、項垂れた。


 まだ意識は保っているヴァヌサは見上げ、歩み寄ってくる女性に向け、


「お、お前は、レン・サキナガか?」

「うん、そうよ――」


 ヴァヌサの意識はそこで刈り取られた。



 □■□■


 お礼にキサラに向け「キサラもほら、あーん」と言って魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥を差し出す。


「はい!」


 キサラの小さくて可愛い唇が開いてパクッと焼き鳥を食ってくれた。

 可愛いキサラはもぐもぐと直ぐに魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥を食べる。


「あぁ! ご主人様! あーん!」


 と嫉妬気味のヴィーネの発音が面白い。

 ヴィーネは両手に持った魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥を差し出してきた。


 思わず「はは」と笑いながら、「もらおう――」とそのヴィーネが差し出してくれた焼き鳥を食べた。


 エヴァとキッカとビュシエとも腕を組み合って踊るように食べ合った。

 キッカとビュシエから<血魔力>を送り合う濃厚なキスもした。

 エヴァとキサラともワイン代わりに<血魔力>を送り合う。

 

 後は普通に皆で食べ合う。

 

 ペミュラスにも手渡して焼き鳥をプレゼント。

 ナロミヴァスと闇の悪夢アンブルサンと流觴(りゅうしょう)の神狩手アポルアにも魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥をプレゼント。

 

「閣下……私にまで、恐縮であります」


 ナロミヴァスは少し遠慮していたが、


「嫌いだったら済まない」

「ナロミヴァスが要らないなら……」

「いえ、とんでもない、アンブルサン、何を言うか! 閣下、嬉しさのあまりの言葉ですぞ!」


 と、頬を紅潮させているナロミヴァス。


「分かったから、アンブルサンとアポルアもナロミヴァスもこれを食え」

「「「はい!」」」


 魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥を食べたナロミヴァスとアンブルサンとナロミヴァスも笑顔となった。

 

 ナロミヴァスの知る帝王学で学んできた付き合い方とは、ほど遠いと思うが、少しずつ、俺のやり方に慣れてってもらおうか。


 ――マルアにも焼き鳥をプレゼント。


「わぁ~デュラート・シュウヤ様ありがとう!」

「おう」


 隻眼だが、笑顔が可愛らしい。

 <光魔ノ秘剣・マルア>としての眷属のマルアだが、キスマリのように<従者長>となれば片目の復活は可能のはず。だが、光魔騎士と違い、<従者長>や<筆頭従者長(選ばれし眷属)>に成れるのか挑戦してみないと分からないな。

 ……そんなことを考えつつアミラとミレイヴァルとフィナプルスとイモリザとヴィナトロスとも魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥の交換をするように食べ合う。

 

 通りを行き交うレン家以外の魔族たちも集まってくると混雑し始めた。

 魔軍夜行ノ槍業が揺れる。


『カカカッ、まこと快い!』

『うん、さすがはわたしたちの弟子!』

『あぁ、まったく、やることが豪快極まりない』

『闊達自在とはこのことか』

『……カカカッ、ん? ほぅ……今の今まで気付かなんだが……弟子の気概雲気の影響か……【レン・サキナガの峰閣砦】の街には無数の強者たちが集まっていたようじゃな……』

『『……』』

『もしかして……』

『あぁ、俺たちの……』

『妾の……』

『『『あぁ』』』


 魔軍夜行ノ槍業の雷炎槍のシュリ師匠、獄魔槍のグルド師匠、塔魂魔槍のセイオクス師匠、悪愚槍のトースン師匠、妙神槍のソー師匠、女帝槍のレプイレス師匠、断罪槍のイルヴェーヌ師匠、飛怪槍のグラド師匠の方々の装備か体を持つ存在がいるってことか? それともレン家が持っている?


「兄ちゃんありがとな――ほら――」


 と、見知らぬ眼帯をした四眼四腕の魔族から魔酒が入った大瓶を差し出された。

 自然な動作で受け取ったが、


「ありがとうございます」


 背中に数本の大太刀を装着している渋い四腕魔族は、俺を見て、


「いいってことよ、ゼガサッチ産の魔酒だぜ、楽しんでくれ」

「ゼガサッチ産はレアな魔酒のような」

「ははは、いいから、俺と血が繋がっている四眼ベムハベの焼き鳥店に、投資を行う兄ちゃんの気概に惚れたんだ。いいから飲んで楽しんでくれや」

「あ、はい」


 と、渋い四眼魔族は魔酒の巨大な樽を抱え飲み干す。

 

「うははっはははっ、うぇーい、おぉ、あの姉ちゃん、おっぱいが大きい!」


 と叫ぶと飛ぶように消える。

 すると、ビュシエが、


「シュウヤ様、今の魔族は……」

「ん、ビュシエ、どうしたの」

「体付きに魔力も内包されていましたが、ただの酔っ払いに見えましたよ?」

「それは、そうですね……戦公バフハールのような気がしたので」

「「え?」」

「そういえば……背中の大太刀は……」

「ん、お酒好き……」

「「あぁ!」」


 と、皆で周囲を見渡すが、混雑しているし場所も店が多くて分かり難い。

 そして、戦公バフハールが消えた方角にいた、おっぱい大きい綺麗な女性も姿を消していた。


 と周囲の四眼四腕の魔族たちが俺たちを注視。

 更にドワーフに似た種族たちも俺たちに指を差した。


 ドワーフではないか、三腕のバリィアン族のように背に太い腕があった。

 エルフと似た魔族もいる。


 そして、通りを行き交うレン家と思われる一般の魔族たちが俺たちを見て、


「おぉ、季節外れの八海軍魔王の祭りが開催されている!!」

「否、あれは魔皇サネハダ祭の予行だろう!」

「いや、魔酒が入った空き瓶が幾つも空を飛んでいる! あれは、魔酒剣魔王フダガ祭に違いない!」

「そうではなく、氣然我王ドクー様の再来祭りだ!」

「八腕鬼魔王キリガンの真夜祭ではないのか?」

「分からねぇ! とにかく、魔酒と焼き鳥が俺たちも加わろう!」

「「「「おう」」」」


 と、どんちゃん騒ぎが加速する。

 ――知らない女性魔族から抱きつかれた。


「ああぁ、これ以上は寄るな、シュウヤ様に抱きつくな――」

「レザミアたちまで、あぁ――」


 さすがにソウゲン隊長とシバ隊長は面を食らったのか、慌てた様子で、俺に抱きついてくる魔族を叩くように払い始めた。


 通りを行き交う見知らぬ魔族たちも次々に地面に置かれた箱に置かれた魔酒を拾っては、簡易的なテーブルに置かれた魔鳥バーラーと魔鳥マグルーンの焼き鳥を取っては、その焼き鳥を食べまくる。


「――シュウヤ様、先を行きましょう、昇降台はお陰で空いています――」


 ミトの言葉に頷いて、


「おう、皆、昇降台に乗ろう――」


 と雑踏を掻き分けながら先を急いだ。


続き明日。

HJノベルス様から書籍「槍使いと、黒猫。1~20」発売中。

コミックス1巻~3巻発売中。


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― 新着の感想 ―
[一言] 宵闇魔槍レブラと宵闇魔剣レブラ。宵闇の女王レブラ所縁の宝ですな。 シュウヤ来たのは丁度侵入者が来たタイミングだったんだな。ヴァヌサは再生系のスキルが有ればまだ戦えただろうがなぁ。
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