千三百十一話 ソウゲンとシバに黒騎虎銃隊
2023年12月15日 0時47分 少し追加
ソウゲン連隊長は、頷くと、振り返り、
「ミトも無事でなによりだ」
「はい」
ソウゲン連隊長は半身の姿勢から体を開くように俺と相対し、
「シュウヤ殿と皆さん先ほどのミトの話は本当のようですな。皆を救い、ここまで運んでくださって、本当にありがとうございました」
とソウゲンさんは胸に手を当てレン家の軍隊式の挨拶をしてから丁寧に頭を下げてきた。
背後の黒鳩連隊の方々も武器を仕舞う。
ソウゲンさんに倣い胸に手を当てながら少し頭を下げた。
ソウゲンさんたちに、
「はい、助けられてよかった。頭を上げてください」
「ハッ」
先頭の黒鳩連隊隊長のソウゲンさんは頭を上げた。
直ぐに背後に並ぶ黒鳩連隊の隊員たちが、
「「「「ハッ」」」」
と揃った動きで俺に返事をしていた。
そのソウゲンさんたちに、
「改めて名乗りますが、俺の名はシュウヤと言います。種族は光魔ルシヴァル。仲間たちの大半が、俺の眷属です。足下にいる黒猫の名がロロディーヌ、愛称がロロです。皆をここまで乗せてきた神獣で、ネコ科の動物系ならどんな姿にも変身は可能、馬やドラゴンのような巨大な姿にも変身が可能なスペシャルな神獣で、相棒なんです。そして、銀灰の毛が美しい猫、ロシアンブルーと似た猫の名がメト、正義の神シャファとも関係している異界の軍事貴族で、大きな虎へと変身が可能な強い猫ちゃんなんです」
と紹介した。
足下にいた黒猫と銀灰猫も片足を上げて、
「にゃ~」
「にゃァ」
肉球を見せながらソウゲンさんたちに挨拶してくれた。
「「「おぉ」」」
「か、可愛すぎる」
「ちょ、猫ちゃんたちとか、反則よ!」
黒鳩連隊の中にいた女子隊員が、相棒たちの虜となった。
ソウゲンさんも、まんざらではないようだ、目を輝かせて、
「おぉ、見た目は魔猫のようで神獣なのですな……名はロロ様と……魅惑的なロロ様……皆を運んでくださってありがとうございます」
ソウゲンさんは黒猫に頭を下げた。
少しシュールかも知れない。
黒猫はドヤ顔気味に、
「にゃ」
と鳴く。
「「「おぉ」」」
背後にいる黒鳩連隊と一部の兵士たちが驚く。
神獣は魔界では珍しいかな、ソウゲンさんの態度が珍しいのか?
その黒猫は俺の右肩に乗る。
銀灰猫は左肩に乗ってきた。
二匹はゴロゴロと喉音を鳴らしながら俺の頭部と頬に、頭部を下げながら耳元を擦ってくる。
黒猫と銀灰猫の髭の毛の感触と、僅かな吐息にゴロゴロとした音がなんとも言えない。
時折、二匹の耳がパタパタと震えるように動いて頬と顎に当たる。
その二匹は甘える行動を止めてからソウゲンさんたちに、
「ンン、にゃ、にゃ、にゃぉ~、にゃ」
「にゃァ、にゃァ~、にゃにゃ」
いつもより長く鳴く。
黒鳩連隊の女子隊員は、
「……私たちに何かを伝えようとしてくれているの!?」
「可愛すぎる……」
と、語り、もう完全に警戒を解いている。
相当な猫好きのようだ。
ソウゲンさんは、ニコッと笑顔を浮かべてから、
「神獣様とメト様、私たちに対するメッセージだとは思いますが、魔猫語は私たちには難解すぎて分かりかねますぞ、そして、シュウヤ殿、改めて名乗っておきます、私の名はソウゲンと申します、黒鳩連隊の隊長です。【レン・サキナガの峰閣砦】の空軍の責任者です」
「はい」
「直に黒騎虎銃隊の斯波もここに来るかと思います」
「騎馬部隊もいるんですね」
「はい、手頃な黒き大魔獣ルガバンティを活かした黒虎系統と馬を合わせた混成部隊です」
黒き大魔獣ルガバンティか。
そして、シバさんとは、パセフティとボトムラウが語っていた強者の一人だな。
ソウゲンさんは、サシィとラムラントを見て、
「サシィ様、お久しぶりですな。バリィアン族の方も初めまして」
サシィはソウゲンさんたちに睨みを利かせ、
「久しぶりだな、ソウゲン……」
と発言。低い音の声質で、敵対者にたいする口調だ。
体から<血魔力>を有した<源左魔闘蛍>を発動していた。
魔斧槍源左は出していないが……。
雰囲気的にサシィとソウゲンたち黒鳩連隊と因縁があるのか?
ラムラントは、
「はい、初めまして」
と語ると、背中の腕を前に出して丁寧に頭を下げた。
ソウゲンさんも、二人に会釈。
「サシィ、今日の目的は一先ず達成されたが……」
「シュウヤ、和議だと分かっている。今だけだ」
「分かった」
「すまん、黒鳩連隊は源左との戦で、多数の仲間を斬り捨てた中核だったのだ。あの黒い翼を活かした飛翔を見て、つい、昔を思い出してしまった」
なるほど……。
すると、背後から騎馬隊が到着――。
中には、黒い虎に乗った武者もいる。
魔槍を持った武者たち。
金漠の悪夢槍と魔星槍フォルアッシュを装備して、我流の二槍流に、妙神槍流を組み合わせて、戦ったら良い修業相手になりそうな印象だ。
先頭のシバさんが乗っている大魔獣は一際大きい。
皆、魔銃を背に持つ先頭のシバさんは、
「――ソウゲンに皆どうした! ん、げぇ、源左サシィだと!? それに手斧のバリィアン族、え……雷牙たちか? 生きていたのか……」
と呟くように話をして、驚いている。
サシィは、シバを睨む。
ソウゲンさんは、
「シバ、黒鳩連隊の八番隊隊長だったミトと隊員のハットリも無事に帰還した」
と発言。
シバはミトとハットリと、複数の助かった人々を見て、目を見張る。
「な……ミトとハットリか、生きていたとは驚きだぞ」
ミトたちは、前に出て、
「はい、シバ様と黒騎虎銃隊の皆、久しぶりです。この度、わたしとハットリは、シュウヤ様たち、光魔ルシヴァルの方々に命を救われた。他の方々と一緒に、神獣様の背中に乗せて頂きまして、空を旅して、ここまで送ってくださった。源左サシィ様もシュウヤ様の配下として、わたしたちと敵対関係にあることを承知でここに来られました」
シバさんは皆を見て、
「ほぉ、光魔ルシヴァルのシュウヤ様か。<血魔力>を扱う種族のようだな……そして、源左サシィとバリィアン族がここにいる理由か……が、ミト、もう少し詳しく話せ」
「はい、赤霊ベゲドアード団に捕らわれたわたしたちは【赤霊ノ溝】にある赤霊ベゲドアード団の拠点の中で、体を食われるしかない状況でした。【赤霊ノ溝】の砦の内部では、無数の同胞とバリィアン族と他の魔族たちが捕まっていて皆、食料に……拷問されながら生きたまま食われる者もいた……そんな絶望的な状況のわたしたちを、見ず知らずのシュウヤ様たちは命懸けで救ってくださった」
「恩人が、シュウヤ殿ということか」
「はい」
ミトは、チラッと俺を見て舌を出しては、頬を紅潮させている。
そして、直ぐに真面目な表情に変化させて、シバさんとソウゲンさんを見ていた。
俺に喋っていた時の口調とは異なる。
ミトは、
「……シュウヤ様と眷属様たちは、四眼四腕の魔族、二眼四腕の魔族を薙ぎ倒し続けてくれたのです。そして、赤霊ベゲドアード団のベゲドアードを、砦の真上で派手に倒してくださった時は痺れました……今も、心に焼き付いている。血に染まった視界が一気に色づいた……この魔界セブドラの世に、魔英雄という存在が、本当に存在した……と、強く理解したのです。そして、わたしたちを助けてくれた中には、魔皇獣咆ケーゼンベルス様もいます」
「「えぇ!?」」
「なんだと、それは本当なのか!」
ミトの言葉に、シバさんとソウゲンさんがかなり驚いていた。
「「「「おぉ」」」」
「「マジか」」
「……魔皇獣咆ケーゼンベルスが、助けに……」
「魔界王子テーバロンテに抗い続けた魔皇獣咆ケーゼンベルスが、シュウヤ様たちと行動を共にしているのか」
「……最強クラスの大魔獣だぞ」
「噂では、神格を持つ大魔獣の最強クラス……」
「では、【ケーゼンベルスの魔樹海】からの外に出ているモンスターが減ったという情報は本当のようだ」
「あぁ、大動乱となったと聞く【マセグド大平原】と違い、【バーヴァイ平原】はまったく荒れていないと聞く噂も本当のようだな……」
と、一気にざわつく黒髪のレン家たち。
そして、抱き合って再会を喜んでいたレン家の方々が、兵舎から出てきたばかりの兵士の方々に俺たちのことを説明していた。
そうした説明の最中に【赤霊ノ溝】で自分たちが、俺たちに救われた話になると、異様な盛り上がりとなっていく。
ソウゲンさんは、黒猫をチラッと見てから、俺に、
「ではシュウヤ殿、否、シュウヤ様は……神獣ロロディーヌ様のように魔皇獣咆ケーゼンベルス様を使役したということなのでしょうか」
「はい、使役した。その魔皇獣咆ケーゼンベルスは【古バーヴァイ族の集落跡】に残り、警邏中で赤霊ベゲドアード団の残党狩りを行っている。更に【ケーゼンベルスの魔樹海】に一旦戻るはずです。デラバイン族と源左の一族に、ケーゼンベルスの黒い狼の眷属たちを、バリィアン族にも付けるつもりのようですから。源左サシィと同様にケーゼンベルスも大同盟に尽力してくれている」
「「「「おぉ」」」」
また騒ぎとなった。
「凄い! 黒き大魔獣ルガバンティを超える魔皇獣咆ケーゼンベルス様を使役したなんて!」
黒鳩連隊の一人が興奮して叫んでいた。
「俄には信じられないが……皆様方の気配は尋常ではない……本当のようだな」
頷いた。
ヴィーネが、
「皆さん、わたしの名はヴィーネといいます、ご主人様とミトの話はすべて本当です。そして、わたしたちは<血魔力>を扱ってますが、吸血神ルグナド様の眷属ではないので勘違いしないようにお願い致します」
「「「はい」」」
続いて、常闇の水精霊ヘルメが、
「ふふ、皆さん、こんにちは、わたしは閣下の水の常闇の水精霊ヘルメ。そして、閣下が、ここに来た理由は、今後のため、いずれは、悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターなどの大勢力と戦う日が来るとの読みから、その戦いに備えての行動です。レン家も、源左とデラバイン族とバリィアン族のように、わたしたちの大同盟に加わらないか? という提案をしに来たのですよ!」
「「「「……」」」」
「「おぉ……」」
沈黙が大半か。
ヘルメの胸を凝視する者は歓声を発していた。
プルルルンと音が聞こえてくるような巨乳の揺れと水飛沫を見ると、言葉よりも、その巨乳に刮目するのは当然と言える。
「精霊様とは驚きだが……光魔ルシヴァルの眷属の方々の<血魔力>が凄まじいし、美しすぎる」
「「あぁ」」
「ヘルメ様……銀髪と白絹のような髪の女性たちが素敵すぎる……」
「髪の毛が自由に蠢いている方々も三人もおられるぞ……」
「車椅子に乗った方も可愛い……」
「おら、あんな美人たちを見るのは初めてだ!」
「「……」」
皆のルックスは際立っているからな。
常闇の水精霊ヘルメは少し肩を落とした。
体から水飛沫を発しながら堂々としていたが、少し思っていた反応と違うと判断したのか、すぅ~とした動きで俺の背中側に移動してきた。
「閣下、すみません」
「いいさ、ヘルメらしく胸を張っといていい」
「はい! ふふ――」
と頬にキスをしてから、また頭上に元気よく浮かび始める。
可愛い。
さて、ソウゲンさんとシバさんに、
「黒き大魔獣ルガバンティとは、【古バーヴァイ族の集落跡】のポーチュルという名の水棲動物を食べていた黒虎のモンスターですよね」
「そうです。野生の黒き大魔獣ルガバンティを捕まえることは、レン家では大変な名誉になる。繁殖や改良に飼い馴らすには、また特別なスキルが要りますが、最低でも極大魔石数個の値段が付く、極大魔石ではなくとも、いい品物と交換が可能なのです。黒馬バセルンよりも人気が高いのが黒き大魔獣ルガバンティです」
とシバさんが説明してくれた。
「では、黒き大魔獣ルガバンティを捕まえて使役するのは、レン家での社会的地位を高めること繋がる?」
「そうとも言えます。ただ、場所による。【古バーヴァイ族の集落跡】の黒き大魔獣ルガバンティを捕まえて使役するのは、なかなか難しいのです」
「そうですか、黒き大魔獣ルガバンティの繁殖場所は多い?」
「はい、それなりに多く、土地柄で毛の色合い、性格、体躯の強さなどが微妙に変化する。レン家では【サネハダ街道街】と【メイジナの大街】などで行われる大魔獣覇王競争大会の共同参画に加わっています。また、大魔獣覇王競争大会に出場を目指す調教師と競技者を備えた一族は、レン家以外にも多い」
「ふむ、活気ある大会ではあるが、きな臭い権力争いの場でもありまする」
「「……」」
へぇ、面白いな。
大魔獣覇王競争大会で優勝したらどうなるんだろう。
すると、サシィが前に出て、
「ソウゲンとシバ、わたしたちが、ミトとハットリに、三十名のレン家の魔族の命を救ったことは重に理解しただろう? そして、わたしたちがここに来た目的は和議のためなのだ。さっさとレンのところに案内してくれ」
「分かりました」
「はい!」
「では、私とシバが、レン様の下にまでご案内致しましょう」
ソウゲンさんの言葉に頷いて、
「頼みます」
「行こう」
「では、皆様方、付いてきてください」
「「「はい」」」
キサラたちと頷く。
皆、ヴィナトロス、フィナプルス、マルア、アミラ、ナロミヴァスも頷いた。
「にゃ~」
と右肩にいる黒猫が鳴いた。
子猫のまま体から橙色の魔力を噴出させる。
と首から先端がお豆のような小さい触手を出した。
その触手で俺の首を触る。
『あいぼう』『ひげ』『ひげ』『あいぼう』
と、俺の髭か? 自分の髭か? 分からないが、可愛い反応を寄越す。
銀灰猫は子猫のまま大人しく肩の竜頭装甲が肩に用意した小型ソファのような場所に背を預けながら香箱を崩すスタイルで横になっていた。
その二匹を肩に乗せながら、砂利道を歩き始める。
先を行くソウゲンさんとシバさんの部下の数名が、【レン・サキナガの峰閣砦】に伝令を飛ばしていた。
続きは明日。
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