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槍使いと、黒猫。  作者: 健康


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1311/2032

千三百十話 レン家の方々の再会と黒鳩連隊

12月14日 13時02分 修正 最後少し追加

2024年4月7日 18時42分 追加&修正

 

 神獣ロロディーヌは「にゃご、にゃ~」と周囲に警告の意味があるような大きな声を鳴きながら幅広な砂利の道に着地した。


 砂利の道の左右には兵舎付きの櫓が並ぶ。


「ンン」と喉声を発した神獣(ロロ)は翼を畳ませる。

 と己の背中に乗せていたミトの体に触手を絡めると、俺の前に運んできた。 

 ミトの胸元に触手の一部が食い込んで膨れて見えた。

 おっぱいの大きさがくっきりと分かる。


 ミトは美人さんだけに、魅惑的、


「……あ、シュウヤ様、その、ここまで運んでくれてありがとう」

「おう、相棒、下にミトさんを降ろしてあげるんだ」

「ンン、にゃ? にゃ~」


 と神獣(ロロ)は何かを語るように鳴く。

 と皆を一気に降ろしていく。

 黒髪の方々は、


「「「きゃぁ」」」

「「おぉぉ~」」

「「神獣さまぁ~」」

「ボクも運んで~」

「次はわたし~」


 随分と楽しそうだ。


 子供たちは相棒のことを随分と気に入ってくれた。

 触手の裏側にぷっくりとした桜饅頭のような肉球はぷにぷにと柔らかいし、体の黒毛はふかふかだ。


 そんな神獣(ロロ)は大人も子供も魅了してしまう。まさに、可愛いは正義だな。


 すると、浮遊して既に偵察モードに入っているフィナプルスが俺の視界に入り、


「――シュウヤ様、先に後方からぐるっと回って偵察をしてきます」

「了解」


 フィナプルスは宙空で敬礼。

 白い翼を羽ばたかせながら神獣(ロロ)の背中の真上を飛翔して、大きい尻尾を避けながら飛翔していく。


 そこにイモリザが銀髪の先端を【レン・サキナガの峰閣砦】に向けながら、


「使者様、崖にある【レン・サキナガの峰閣砦】に突入し、レンと直に会うかと思っていました!」

「それは最終手段だ」

「はーい♪ 冗談半分です♪」

「だろうと思った」

「――ふふ♪」


 とスキップするように神獣(ロロ)の鼻先に出たイモリザは額に手を当て、


「あ、【レン・サキナガの峰閣砦】の下のほうから騎馬隊が、手前の櫓と兵舎からも黒髪の方々が来ていますね」


 と指摘。


「おう、では、皆降りようか」

「はい~、では、エトアちゃん一緒に降りよう~」

「イモちゃん、はい」


 と、エトアとイモリザは先に降りた。

 皆を見て、


「降りよう」

「「「「はい」」」」

「閣下、私たちも降りて警戒を強めますぞ」

「我らに前衛をお任せあれ!」

「おう、前に出すぎるなよ」

「「承知!」」

「はい~」

「はい!」

「では、先に――」


 キサラとヴィーネが相棒の頭部の端から飛び降りる。

 俺たちも降下――全員が地面に降りるのを確認した巨大な神獣(ロロ)は一瞬で黒猫の姿に変身。


 すると、イモリザがエトアに、


「ふふ、でもエトちゃん、シュウヤ様の<魔神式・吸魔指眼>をバンバン使った魔王バージョンをまた見たくないですか?」

「それは……」

「後、<魔神ノ遍在大斧>の大斧と金漠の悪夢槍による<豪閃>と<双豪閃>の連続打ち上げコンボに合わせた<魔神式・吸魔指眼>を頭上に放つ光景が格好良かったから、わたしは見たい♪」

「はい、たしかに!」


 と、エトアは俺を見る。

 更にビュシエが、


「いいですね……賛成です」


 と呟きながら、足下に<血道・石棺砦>で階段状の石棺を次々に造り出しては、それを上るように前進。

 一人用の高台からレン家たちを一人見据えるビュシエか。


 <血魔力>製のメイスを両手に召喚。


 ビュシエよ、それだと余計怪しく見えるぞ、とは言わない。

 すると、キサラが、


「ふふ、ビュシエ~、もう少し高度を下げましょう」

「あ、はい」


 ビュシエは階段のように積み上げた<血道・石棺砦>の石棺の上層部を消すと、己を白い大きな蝙蝠に変身してから元の女性の姿に戻すと足下の<血道・石棺砦>の上に着地した。階段状の<血道・石棺砦>は射手台に見える。


 キサラとヴィーネとキッカも跳んでビュシエの隣に着地していた。

 <筆頭従者長(選ばれし眷属)>の美人たちが、会話しつつ笑顔を交わす。ここから写真を撮りたくなる構図だった。


 と、サシィとラムラントはレン家の方々を見ているが、不安げで微妙な表情だ。サシィとラムラントはレン家の方々と会話をしていたが明らかに他の眷属たちに比べて少なかった。


 ラムラントのバリィアン族に至っては憎しみが込められていてもおかしくない。パセフティとボトムラウの会話では、レン家の黒髪に身ぐるみ剥がされた三腕のバリィアン族がいるようだからな。当初はパセフティとボトムラウたちも黒髪のレン家の方々を見ては睨みを強めていたが救出された中に子供たちがいるのを見て少し動揺するように反応に困っていた。


 子供の健気な様子を見たらどこの魔族だろうと同じ……か。

 否、人型の魔族を喰うバアネル族という例外があるか。

 【赤霊ノ溝】の中にもバアネル族の子供、赤子はいた。


 エヴァも含めて皆、そのことをあまり語ろうとしないが……。


 バアネル族の子供だと思われる、やけに背の低い四眼四腕の魔族や二眼四腕の魔族も問答無用に俺たちを喰おうと近付いてきたからな……。


 赤子でさえ俺たちに……昆虫的な本能なんだろうか。

 が、大人は皆ちゃんとした思考を有していた。


 ヘルメから少し聞いたが、食料庫ではバアネル族の同族の子供も……。

 文化の違い、価値観の違い、それだけで片付けるには片付けられないほどの拒否感がバアネル族にはある。


 話が通じるといっても俺たちを食い物にしか見えないのならバアネル族は人食いのモンスターで話は終わるか。


 そして、赤霊ベゲドアード団のバアネル族という共通の敵がいる以上、黒髪のレン家もバリィアン族と源左家とデラバイン族と仲良くできるはずだ。


 魔皇獣咆ケーゼンベルスが、相当数の赤霊ベゲドアード団を倒してくれたが、すべての四眼四腕と二眼四腕のバアネル族を倒したとは言えないだろうことが逆に不幸中の幸いと言えるか?


 悪神ギュラゼルバンや恐王ノクターといった分かりやすい勢力はまだ本腰を入れてこない以上は、はっきりと敵だと分かる存在が残ってくれていたほうが、話は纏めやすい。


 皆、守る者がいるからな。

 三腕の魔族バリィアンにも子供たちに家畜がいた。

 レン家にも子供たちはいる。

 レン家の軍人ミトやハットリも、俺たちの他にもバリィアン族の方々に対しても感謝の言葉を述べていた。


 そのレン家のミトとハットリに、


「ミトとハットリと、皆さん、ここの砂利の道で解放しようと思います。できれば、レン・サキナガ様に話がしたいと伝えてくれるとありがたい」

「「はい」」

「わぁ、もうおうちに帰れるの?」

「うん、帰れる。家に帰れるんだ!」

「やったぁぁ」

「「シュウヤ様ありがとう!」」

「「神獣様もメトちゃん様も、皆様もありがとう!」」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 レン家の方々の感謝の言葉に笑顔を送った。

 キサラたちも笑顔を浮かべながら子供たちに手を振ったりしている。


 子供と大人のレン家の方々は何回も振り返って頭を下げては、振り向き直して、砂利道を歩き始める。


 俺たちも少し前を歩いた。

 ヴィーネたちに、


「黒鳩連帯という空を飛べる部隊がいるようだからフィナプルスと共に周囲を警戒しようか」

「「はい」」

「ん」


 直ぐに常闇の水精霊ヘルメが、


「閣下、エトアとペミュラスの回りに透明度の高い《水幕(ウォータースクリーン)》を展開させておきます」

「おう、頼む」

「御使い様、わたしも周囲を見ます」

「了解した」


 ヘルメはエトアとペミュラスの回りに《水幕(ウォータースクリーン)》を展開させる。


 レン家たちの背後を見ながら俺たちも砂利の道を進む。

 砂利の道が延びた先には、崖と山が連なった表の岩場に崖造りの建築物としての【レン・サキナガの峰閣砦】の砦が見えていた。モスクと魔塔と五重の塔のような木製の建物と木組みも岩の凹凸に合わせた崖造りだから、かなり複雑に建材が組まれていると分かる。

 と、複数の馬車と馬に乗った兵士たちが近付いてくる。土煙がぼうぼうと立ち昇る。

 常備軍に馬の警邏兵か。黒鳩連隊という空軍に懸崖上の【レン・サキナガの峰閣砦】の建築物といい、レン家はかなり高度な文明を持つようだ。車轍馬跡が残っているからここも交通の要所だろうと思うが、田んぼのあぜ道が左右にあり、そのあぜ道からも【レン・サキナガの峰閣砦】に向かう砂利道は存在していた。

 あぜ道には農夫が数組いるが、俺たちを遠くから見ているだけで寄ってこない。

 農夫たちは手套を肩に載せて襯衣(しんい)網襦袢(あみじゅばん)のような衣服を着ていた。すると、兵舎から出たレン家の魔族たちが走り寄ってくる。

 その兵舎組の方々の衣装は兜鉢を被り赤茶の鎧を着た者が多い。

 レン家の方々の衣装とは異なる。

「お前たちは! あぁー!」

「ハットリに、ミトがいる!」

「ライガも、ババ、サトウ、キクマ!!」

「「「おぉ」」」

「お、お父さん……」

「あぁぁぁ、ユリィィィ」


 と子供のお父さんか……。

 娘を抱く兵舎から出たレン家の魔族兵士。

 外にも、数組の女性と男性が兵舎から出たレン家の兵士と抱き合っていた。

 兵士の得物は魔刀と魔槍と弓と数十と入った矢筒か。

 それら武器は地べたに落としていた。父と娘の再会の場面は心に来る、本当に助けられて良かった。すると、レン家の馬車と騎馬隊が到着。

 更に、空からかなりの速度で黒い方々が近付いてきた。

 騎馬を超えてミトとハットリと再会を喜んでいるレン家の魔族を越えて急降下。

 華麗に着地した空飛ぶ一団は揃った動きで両手に持った魔剣の刃を向けてきた。

 彼らの周囲には黒い羽が落ちている。皆、隼を連想させるような衣装だ。

 アイマスクに近い仮面が似合う。

 キサラのアイマスクと少し似ているか?

 この黒い羽を活かした防護服が似合う部隊が黒鳩連隊の方々か。

 背後にいる背の高いがリーダー格かも知れない。

 皆、<魔闘術>系統が巧みで達人級と認識。ヴィーネたちが身構える。

 ビュシエが全身からゆらりと<血魔力>を放出しては、


「……この状況でわたしたちに切っ先を向けるとは、反撃を受けても已む無しと受け取るが? 覚悟はいいか?」


 と凍えた息吹にも思わせる声音で空を飛んできた集団を威圧した。

 光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスも合わせる。

 星屑のマントを煌めかせながら、骨の盾を掲げて前に出た。愛盾・光魔黒魂塊から虹色の魔力が噴き上がる。両足からは、暗さとのコントラストが美しい月虹の輝きを放つ魔力を放っていた。ルシヴァルの紋章樹の根っこのようなデザインも見える。

 光魔沸夜叉将軍のゼメタスとアドモスがいるだけで、相手は威圧感を覚えるだろう。

 バミアルとキルトレイヤとキスマリとキッカも合わせるように前に出た。

 一触即発な雰囲気となった。俺が前に出て、と、必要ないか――。


 ミトが、


「黒鳩連隊の者たち! その方々に手を出すな! わたしたちは、その方々に助けられたのだ。わたしは黒鳩連隊八番隊副長だった者で、名はミトだ。覚えている者もいるはず! そして、横にいるのは同メンバーのハットリだ!!」


 と黒い羽のマントを着ている部隊の背後から叫んでくれた。


「「な!?」」

「なんだと! 黒鳩連隊八番隊は、全滅したはずだ!」

「赤霊ベゲドアード団、四眼四腕と二眼四腕の魔族連中に喰われて……」

「「あぁ」」

「違う、わたしたちは生きている! 赤霊ベゲドアード団に捕まって、【赤霊ノ溝】の砦の中で食料になるしかない状況のわたしたちは、そこに居られる黒髪のシュウヤ様と眷属の方々と、三腕のバリィアン族に救われて、今があるのだ! シュウヤ様は光魔ルシヴァルの宗主で、神獣ロロディーヌ様を使役している。わたしたちは、その神獣様に乗せていただき、ここまで運んでくださったのだ。そのシュウヤ様は、レン様がいる峰閣砦に直に乗り込むことも容易にできたにもかかわらず、わたしたちの安全を考えて、ここで降ろして解放してくださった! 多大なる恩がある御方。だからこそシュウヤ様と背後の方々に無礼が無きようお願いする!! そして、ラムラントという名のバリィアン族と【源左サシィの槍斧ヶ丘】の頭領源左サシィ様もシュウヤ様の配下としてここに居られるのだ! 本来ならば上草連長首座の方々が頭を地べたに突いて、お会いする立場の方々と心得よ!」

「「「え!?」」」

「源左の頭領!? シュウヤ様に光魔ルシヴァル?」

「<血魔力>を有した存在が……しかし、副長ミトの名は聞いたことがある」

「……」


 背の高い方が黒い羽マントを一瞬で畳む。

 と、前方の仲間の肩に手を当てながら「皆、私が対応しよう」と発言して前に出る。


 その背の高い方が、


「ハットリに、ミト、生きていたようだな……」

「「あ、ソウゲン連隊長……」」


 と、ミトとハットリさんがハモる。

 ソウゲン連隊長か、黒髪の日本人にしか見えない、渋いおっさんだ。


続きは明日。

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コミックス1巻~3巻発売中。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一触即発だったがミトを助けたお陰ですな(まぁ、ミトとしても戦ったらどうなるか分かってるからかもしれないが) [一言] 救出された中に子供たちがいるのを見て少し動揺するように反応に困っていた…
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