千三百九話 ミトとハットリと【メイジナ大平原】
2023年12月15日 22時43分 台詞少し修正。
神獣ロロディーヌは山と崖が連なる場所に飛行していく。
「ん、【メイジナ大平原】には【サネハダ街道街】と【メイジナの大街】と【メイジナ大街道】などががあるし、規模はサシィたちが暮らす【源左サシィの槍斧ヶ丘】よりも大きい?」
「……大きい。【メイジナ大平原】にある【サネハダ街道街】も要衝で、古より源左から外に出た、通称黒髪の魔族は多いのだ」
源左サシィの発言に、皆が気を引き締める。
裏切り者と聞いていたから、まだ独立勢力として小さい勢力だと思っていたが、それなりの下地がもう外にあったわけか。
神獣に向け、
「速度を落としてくれ、少しレン家の方々から聞いてくる」
「にゃ~」
神獣の後頭部を毛の反発力を活かすように神獣の背中側へと跳躍して、移動した。そこにいるレン家の方々に、
「俺たちを乗せている神獣ロロディーヌの存在は、レン家の魔族では、珍しい部類でしょうか」
「はい、黒猫、黒豹、黒馬、黒獅子と……今のように巨大なドラゴンかグリフォンのような姿に変身が可能な神獣ロロディーヌ様は珍しい大魔獣ですな。しかし、だいたいの者は大厖魔街異獣ボベルファを見たことがある。ですから、初見では驚かないと思いまする」
「そうね、大魔獣ルガバンティは有名だし、変身する魔獣を飼う強者、魔傭兵も多いし、多少は驚くと思うけど、あ、でも、このまま空から【レン・サキナガの峰閣砦】に近付けば、攻撃を受けるわよ? だからこの近くで降りるんでしょ?」
「そうする予定です。このまま、もう少し【レン・サキナガの峰閣砦】に近付いたら、狼煙が上がる?」
「うん、最初の狼煙の緑か赤が上がる」
ハットリさんと美人の黒髪魔族が教えてくれた。
勝ち気な雰囲気が気になったから、名を聞くか。
「すみません、貴女の名前を教えてください」
俺がそう聞くと、眉を傾け、両手を拡げながら、
「……美都よ」
「ミトさんか、ハットリさんと同僚か、なにかかな」
ミトさんは、ハットリさんを見てから、
「さんとか、敬語は止して、ハットリは同僚で部下の一人。わたし、こう見えてバアネル族に捕まる前は、黒鳩連隊の八番隊の副長だったの」
「へぇ」
「はい、わしも服部だけで結構ですぞ」
「了解した」
戦国、安土桃山時代の武将、伊賀出身で忍者だった服部半蔵の一族と血が繋がっているかも知れない。
パラレルワールドの日本の過去から転移か転生だから、名が同じなだけかも知れないが、そのことではなく、
「黒鳩連隊とは?」
「空軍の名、【レン・サキナガの峰閣砦】は崖の高台にあるからね。空から奇襲を行うための部隊が黒鳩連隊」
「へぇ、土地を利用した部隊か」
「そう、見下ろすように【メイジナ大平原】と【サネハダ街道街】が近くにあるし、交通の要所だから利用する魔族たちは多い、何かしら争いも毎度の如く起こる。モンスターの襲撃も多いから、わたしたちの出番も色々あるんだ。盗賊のようなことも行うことがあるから」
と、結構な情報を教えてくれた。
「正直だな。しかし、いいのか、レン家の情報を俺に伝えて」
「ハッ、今さらよ。だって、シュウヤ様は、わたしたちを無償で助けてくれたのよ? わたしたちにバリィアン族の【バリィアンの堡砦】内部を見せ、光魔ルシヴァルと源左の情報を伝えたまま内情を聞かずに、解放しようとしているし……まったく、この魔界セブドラで何考えてるのよ……あぁ、混乱しちゃう。普通、わたしたちを人質にするでしょう? そして、放り出さず、わざわざ送ってくれるって……交渉しようとしているって分かるけど、シュウヤ様は、相当なお人好しの魔君主ってこと、理解している?」
「はは」
と素で笑った。早口なこともあるが、言い方が結構好きだ。
「おぃ……すみません、シュウヤ様」
ハットリはミトの言い方にひいていた。
「謝る必要はないさ、ミトなりの礼の一環だろ?」
「は、はい」
「……」
ハットリは冷や汗をかいたような表情を浮かべていたが、ミトは少し驚いた様子で俺を見ていた。
そのミトに、
「ミト、その盗賊を行う理由を伺おうか」
「ふふ、承知、周囲の勢力に煉家の黒髪がここにいると知らしめることで、【メイジナ大平原】と交通の要衝の【サネハダ街道街】の内と外をだれが守っているのか、その皆に、わたしたちの名を知らしめる効果があると、レン様は仰っていた」
「……」
ハットリさんはミトを見て『呆れた』と言うような顔つきとなった。
盗賊といっても、相手が魔族だからな。
敢えて悪く言っているふしもあるし、正義の面も多々あるだろう。
頷いて、
「【メイジナ大平原】から【レン・サキナガの峰閣砦】の山か崖を遠くから見たが、ここら辺は色々な土地へと通じている交通の要衝と分かる」
「うん、そうよ、【メイジナ大平原】の陸続きだから各地に通じている。当然、そこは莫大な利権が生まれる。レン様は頭がいいからね……」
そのタイミングで、ミトは源左サシィがいる後頭部をチラッと見てから、俺を見ていた。
「源左と喧嘩したこともそれ関係なの」
「源左の保守主義に、レン様は割が合わなかったって辺りか?」
「……源左サシィ様からレン様のことを聞いたのかしら?」
「いや、裏切り者としか聞いていない」
「「「「……」」」」
ミトとハットリさん以外の背後で俺たちの会話を聞いていた黒髪の方々は少し驚いていた。レン家の子供たちは、神獣ロロディーヌの黒毛のソファの中に体重を預けて、埋没しながら顔だけ見せているが、大半が眠っていた。
「もう少し詳しく聞こうか。【メイジナ大平原】にある【レン・サキナガの峰閣砦】の周辺地域の情報を頼む」
〝列強魔軍地図〟をチラッと見て、ジロッと俺を睨む。
『それを見れば一発でしょう? あんたバカなの?』と言いたげなミト。
溜め息を吐いて、俺を見てから、
「……【古バーヴァイ族の集落跡】から来たから省くとして……今、飛行中なのが【メイジナ大平原】でしょ……そして【源左サシィの槍斧ヶ丘】、【ゲーメルの大霧地帯】、【蜘蛛魔族ベサンの魔塔】、【ベサンの大集落】、【ベルトアン荒涼地帯】、【デアンホザーの地】、【デアンホザーの百足宮殿】、【テーバロンテの王婆旧宮】などの土地に通じているってことよ」
頷いた。
〝列強魔軍地図〟の地形を現実の【メイジナ大平原】の一大パノラマに合わせながら見比べていく。
「そして、源左からは距離的に【メイジナ大平原】と【メイジナの大街】と【サネハダ街道街】は利用したい街だからね。【サネハダ街道街】を大規模に利用する時は、わたしたちの【レン・サキナガの峰閣砦】がどうしても邪魔になる」
「なるほど、源左が【サネハダ街道街】を利用しようとしても、その首根っ子を押さえている立場がレン家ってことか」
「そう、ランドパワーを活かしてね。色々な魔族の勢力が利用し、同盟を結んだり争ったりと……忙しい」
地政学用語を、レン家から聞くとは思わなかった。
「分かった。では、ミトの戦闘に関する情報を頼む」
「<煉丹・剣術>と<煉丹・飛翔術>と<煉丹闘法>には自信がある。因みに黒鳩連隊の服部も八番隊の隊員よ」
「へぇ、了解した。それで、もう一度聞くが、狼煙に構わず、【レン・サキナガの峰閣砦】に近付いたら、どうなる」
「距離にして約五町、否、五百メートル~一里、前後の空域に入れば、黒の煙幕が空に展開されまする。更に近付けば、空から黒鳩連隊と地上から上笠連長が主体の魔銃隊と射手の守備隊からの攻撃が始まるはずですぞ」
翻訳即是が一里と出たが、距離の単位だったはず。
「了解した。では、その手前で、一旦降りるとしよう。では、後で」
「「はい」」
皆のところの神獣の頭部に戻る。
山城的な印象がある【レン・サキナガの峰閣砦】らしき建物も見えてきた。
周囲に赤い茨畔の道が多い。
竪穴住居と似た建物と兵舎に櫓を視認。
櫓から斜め後方にかけて、赤と緑の信号弾が打ち上がる。
赤と緑の信号弾は、壁のような岩と崖が連なる山城のような方角へと向かった。
相棒の進行する空域の一帯が赤と緑の煙だらけとなった。視界が悪くなる。
「ンンン、にゃごぁ――」
と、直ぐに神獣が紅蓮の炎を吐いた。
手加減ナシ――。
赤と緑の煙は一瞬で消えた。
が、次から次へと、他の櫓から信号弾が宙空に放たれた。
「ンン――」
「ロロ、強行突破はナシ、降りようか」
「にゃ~」
「皆もいいかな」
「ん」
「「「「「はい」」」」」
「了解」
「「分かりました」」
続きは明日。
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