千三百五話 煉霊攝の黒衣を喰らうハルホンク
2023年12月9日 9時21分 修正
「ンン、にゃごん~」
今度は細い槍状の紅蓮の炎が飛来――。
<導想魔手>を蹴り斜め左に飛翔して槍状の炎を余裕の間で避けた。
炎槍のような魔法もこんな感じなのかな。
――<武行氣>と<導想魔手>のコラボは楽しい。
この紅蓮の炎の槍は相棒の炎なだけに少し怖さを覚えるが――。
神獣は炎の質を弱めて速度もわざと遅くするように変な声を発しながら紅蓮の炎の槍を吐いてくれていた。
「『――ウォォン!』」
と俺の真下から魔皇獣咆ケーゼンベルスの神意力が含まれた魔声が轟く。
全身にプレッシャーを感じて飛行速度が落ちた。
その魔皇獣咆ケーゼンベルスの頭部が、下からぬっと現れると、
「――主、友と喧嘩でもしたのか!」
と心配してくれた。
真横に並んだように飛翔する魔皇獣咆ケーゼンベルスは巨大で歯牙を晒して結構、怖いが、可愛くて渋い。
そのケーゼンベルスに、
「大丈夫だ、【バリィアンの堡砦】まで遊んでいるだけ」
「ウォォン! 戯れ食いか、ハハハッ、心配して損したぞ――」
口内と歯牙を晒しながら喋ったケーゼンベルスは口を閉じると体を少し縮ませながら急降下――四肢で地面を穿つ、と、爆発的な加速力で斜め前に跳ぶ。
凱旋門賞を末脚で優勝は確実とか、毎回だが思ってしまう。
【古バーヴァイ族の集落跡】の地を駆けていく。
魔皇獣咆ケーゼンベルスが蹴った【赤霊ノ溝】の範疇の谷底は大きくケーゼンベルスの四肢に抉られていた。
そして、あの速度なら魔皇獣咆ケーゼンベルスが【バリィアンの堡砦】に一番乗りかな。
皆に、
『よーし、皆! 祭りにあるような射的屋のノリで、<バーヴァイの魔刃>の練習台に俺を使ってくれていい、そして、俺を捕まえる&遠距離攻撃を当てたら盛大な<血魔力>をプレゼントしよう――』
『え、はい!』
『ん、がんばる!』
『『はい!』』
「にゃ~」
<血道第一・開門>を意識――。
漆黒の煉霊攝の黒衣を着た状態で<血魔力>を体から放出させた。
ローブの中割れと両袖と両足から一気に血が迸る。
直ぐに<血道第三・開門>――。
<血液加速>を発動。
更に<水神の呼び声>意識し発動――。
続いて<水月血闘法>――。
そして、<水月血闘法・鴉読>――。
連続発動させた――。
※水月血闘法※
※独自闘気霊装:開祖※
※光魔ルシヴァル独自の闘気霊装に分類※
※<脳魔脊髄革命>と<魔雄ノ飛動>と魔技三種に<超脳・朧水月>、<水神の呼び声>、<月狼ノ刻印者>が必須※
※霊水体水鴉と双月神、神狼、水神、が祝福する場だからこそ<水月血闘法>を獲得できた※
※血を活かした<魔闘術>系技術の闘気霊装が<水月血闘法>※
いい加速感だ。
ゼロコンマ数秒の間に絨毯のような血の<血魔力>が足下に拡がった。
速度を上げて、斜めに上昇しながら旋回気味に振り返る。
<水月血闘法>中は、俺の足下だけ満月の意味があるような輝きが出現する時がある。
周囲の血の月の紋様は、飛行中の俺を追いつつトレースするように形を変化させていく。 そして、水面に月の満ち欠けを表したように儚げに消えていく血の月は美しい――。
そのまま、
※水月血闘法・鴉読※
※<水月血闘法>技術系統・上位避け技※
※霊水体水鴉の力を活かすように複数の水鴉が使い手を守りつつ分散。使い手の体を加速させつつ、回避性能を向上させる※
――血の月の水面から霊水体水鴉が幾つも生まれ出た。
――飛翔する水鴉も現れると、俺を模って分身が無数に出現していく。
「――閣下が増えました!」
「御使い様、皆のようにわたしもライジングランサーを放っていいですか~」
「ピュリンも参加しますか~」
げ、ピュリンの場合は凄腕スナイパーだから、狙撃されまくる。
「わたしは見学します~」
リサナは見学か。
扇子を振るっている。
「ピュリンはイモリザとしてリサナたちと仲良く見学しててくれ。グィヴァは本気にならない程度で射ってこい!」
「はい!」
その間にも、ヘルメの《氷槍》が飛来してくるが、俺には当たらない、代わりに俺の分身体が貫かれて消えていく。
と、グィヴァの《雷槍》が瞬間的に俺がいたところを通り抜けた。背筋に稲妻が走った感覚を得た。
……今の速度は本気だと思うが――。
巨大な神獣を見るように旋回を行う。
グィヴァは両手の掌に雷属性の魔力を集積させていた。
そのグィヴァは、楽しそうに俺を見ながら、その両手から《雷槍》を放り投げてくる――。
その《雷槍》を右に加速飛翔して避けた。
隣の常闇の水精霊ヘルメといい、射的場の景品となった俺を撃ち落とすゲームに夢中だ。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>を使う――。
「――ハルホンク、〝煉霊攝の黒衣〟を喰っていいから軽装を頼む」
「ングゥゥィィ!!」
と肩の竜頭装甲は右肩の竜の口から漆黒のローブの〝煉霊攝の黒衣〟を勢い良く吸い込んで食べた。
――膨大な魔素を得る。
ドッとした重低音が俺の体と精神から響いたような気がした。
魔界セブドラの空域が揺れた?
「閣下がパワーアップ!?」
「ん、ちょっと驚き、ただのスッパマンではなかった!」
「ンン――」
エヴァの言葉に笑いそうになったが、相棒の細長い龍のような紅蓮の炎をも肩の竜頭装甲は吸い寄せるように吸い取った。
ピコーン※<煉霊ノ時雨>※スキル獲得※
ピコーン※<神獣焰ノ髭包摂>※恒久スキル獲得※
――おお? 焔の髭?
肩の竜頭装甲の竜の髭が橙色の魔力を発して燃えていた。
粒子状の燕と〝アメロロの猫魔服〟の模様が点減。
〝煉霊攝の黒衣〟ごと相棒の炎を取り込んだハルホンクが進化したか。
その間にも――。
ヴィーネとキサラとエヴァとミレイヴァルの<バーヴァイの魔刃>も飛来してきた――。
<血液加速>を解除し――。
わざと速度を落とし避けきる。
そして、斜め上に上昇――。
【古バーヴァイ族の集落跡】の【バリィアンの堡砦】目指し飛翔していく。
と、エヴァの白皇鋼製の大きな金属が斜め下から飛来。
それをよく見たら巨大なしゃもじ型の金属だった。
しゃもじって――と、その巨大しゃもじのような金属を見るように<水月血闘法>技術系統・上位避け技で避ける。
角張っているところもあるから――<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>に似せたのかな。
そして、早速覚えたばかりの<神獣焰ノ髭包摂>を意識し、発動。
すると、両肩に竜頭装甲が現れた。
しかも竜の髭が燃えながら伸びて宙空に靡く。
そのまま加速感を得た。
「ん、また、避けられた! あ、シュウヤから小さい炎が出て速度が上昇してる!」
「――はい、ハルホンクの防護服の新しいバージョンでしょうか、初見です」
「わたしも初めてです。もしかして、今、進化した?」
「ご主人様は、常に修業し進化を望む方、そうかも知れません――そして、速い時と遅い時がありますから、当てるのは難しいです!」
更に、覚えたばかりの<煉霊ノ時雨>を実行――。
周囲、俺の上下の空域が光と闇を意味するような世界となると、天気雨のような魔力の雨が、俺の飛行速度に合わせて降ってきた。
その直後、淡く幻想的な火の玉のようなものが幾つか出現――。
同時にキサラの<バーヴァイの魔刃>を見るように避ける。
幻想的な火の玉の<煉霊ノ時雨>とキサラの<バーヴァイの魔刃>が衝突すると、幻想的な火の玉の<煉霊ノ時雨>と<バーヴァイの魔刃>は相殺し消滅していた。
<煉霊ノ時雨>は魔法防御でもある?
「――ご主人様! 新しいスキルを獲得なされたのですね!」
「はい、新しいスキルはめでたいですが、普通に<魔闘術>系統の使い方が巧みすぎる、血剣術を織り交ぜている私を含めた皆の<バーヴァイの魔刃>がこうも当たらないとは……宗主の強さがよく分かる!」
「ん、緩急が上手い――」
キサラとヴィーネとキッカとエヴァの<バーヴァイの魔刃>を紙一重で避ける。
「ご主人様! 裸になった時に進化を!?」
「使者様のぱおーんが進化~♪」
イモリザの言葉に吹いた。
と、相棒の触手に捕まりそうになった。
あぶない――。
「ンン――」
「スキルの獲得に<魔闘術>系統を強めたのもあると思いますが、何か、強くなったような気がします――」
キサラは鋭い。
「はい、でも、お陰で本気の<バーヴァイの魔刃>の練習になります!」
「ンン、にゃ、にゃ、にゃ~」
「ん、シュウヤもだけど、ロロちゃんも楽しそう!」
「はは、はい!」
エヴァたちも射的屋で遊んでいる気分のようだ。
キサラは本気気味だが、皆の<バーヴァイの魔刃>の練習台にはなっただろう。
そして、飛行中に〝煉霊攝の黒衣〟と神獣の炎を吸収した肩の竜頭装甲は衣装チェンジをしていたが、素っ裸になった時があったからな、ヴィーネとイモリザは視力がいい――。
キサラは匕首の聖なる暗闇を使用。
と、仕込み魔杖に変えてきた。
仕込み魔杖に魔力を通すと、ムラサメブレード・改のような魔力の剣となる。
その仕込み魔杖を持つ腕を振るい<バーヴァイの魔刃>を放っていた。
百鬼道ノ六の雲雨鴉などの<魔嘔>を使用せずとも遠距離攻撃が繰り出せるのは、やはり便利だよな。
キサラの<バーヴァイの魔刃>を避けまくる。
皆の<バーヴァイの魔刃>の練習台となりながら飛行していると、前方に【バリィアンの堡砦】が見えてきた。
<武行氣>を弱め飛行速度を遅くしながら振り返る。
皆も【バリィアンの堡砦】に近付いたのは理解している、<バーヴァイの魔刃>を止めた。が、相棒は――一瞬で複数の触手に捕まった。
刹那の間に視界がぐわわーんと回りに回る。
俺は魚の玩具じゃねぇ~と叫びたかったが――。
そんな調子で、相棒の触手に髪の毛をぐちゃぐちゃに弄られながら遊ばれた。
俺が避けまくっていたのが、よほど悔しかったらしい。
「にゃおおおぉ~」
はは、嬉しそうな神獣の声が響くと、
『あいぼう』、『つかまえた』、『たのしかった』、『だいすき』、『えう゛ぁ』、『う゛ぃーね』、『へるめ』、『きさら』、『いもりざ』、『えとあ』、『ふぃな』、『う゛ぃな?』、『なろ』、『あぽ』、『あみら』、『あめだま』、『いっぱい』、『よんこ』、『まぞく』、『いない』
と、次々に気持ちを寄越してきた。
う゛ぃな? はヴィナトロスの名前か?
まだちゃんと覚えられていないようだ。
刹那、ロロディーヌの背後の遠くに山のような地形と森が見えた。
当然、俺たちがいた【赤霊ノ溝】の全景はもう見えず。
そのまま相棒の触手に引っ張られるまま――。
黒い毛毛を擁した相棒の頭部に向かう。
そこにいるヴィーネたちと、相棒の頭髪と耳に衝突する勢いで収斂されていく。
手前で急ストップ――何事もなく俺の体を掴んでいた触手が離れた。
と、背中を相棒の触手に小突かれながら、巨大な神獣の頭部にふんわりと両足で着地――。
「ん、おかえり、ロロちゃんの勝ちだった~」
「ロロ様の勝ちですね」
「……宗主に<バーヴァイの魔刃>をたくさん飛ばしてしまいましたが、すべて避けきられました、完敗です」
キッカは魔剣・月華忌憚を掲げ、ラ・ケラーダのポーズを取りながら語る。
ヴィーネもガドリセスを掲げ、
「はい、こちら側の心理を読んでいるような空中機動が巧みでした」
「<バーヴァイの魔刃>が掠りもしなかった」
「おう、皆の練習になったかな」
「それは勿論! ありがとうございます」
「はい、最高の練習台でした。ご主人様のような機動を行う強敵はそうは居ませんから」
「「「はい」」」
「ぐぬぬ、我も<バーヴァイの魔刃>を撃ちたいぞ」
「ん、シュウヤもキスマリは眷属化すると思うから、もう少し待って」
「うむ」
「キスマリ、【バリィアンの堡砦】に着いたら、そこで<従者長>に成るか?」
「なる!」
「おう、分かった」
と神獣が宙空で速度を弱めた。
【バリィアンの堡砦】に到着か。
「着きました♪」
イモリザは相棒の鼻先から下を見ている。
「おう、相棒、皆を頼む」
「ンンン――」
助けたバリィアン族の方々を【バリィアンの堡砦】の中央の広場に降ろしていった。
黒髪のレン家の方々も降ろしていく。
とりあえずは、ここで休んでもらおう。
「シュウヤ様、ここで小休止ですね」
「そうなる」
「ん、皆、降りよう」
「「「「はい」」」」
「閣下、先に降ります」
「了解、キスマリの<従者長>化を行うから、暫く自由行動だ」
「「「「はい」」」」
「「了解しました」」
「ん」
相棒が斬るように切断したパセフティたちがいる司令室はそのままだ。
その部屋の中にいるバーソロンとパセフティたちが見えた。
バーソロンが、手を振り、
『陛下、お帰りなさいませ、【赤霊ノ溝】での戦いはかなりの戦いだったと血文字で聞いています』
『おう、今、そっちに向かう、話もあると思うがキスマリの<従者長>化も行うから』
『はい』
「キスマリ、行こうか――」
「うむ!!」
キスマリが先に駆けた。
俺も神獣の頭部を走り、端から飛び降りる。
直ぐに<武行氣>を使いキスマリがパセフティたちがいる部屋の中に豪快に突入したのを見ながら、俺も、その部屋の中に滑るように入った。
続きは明日。
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