千二百八十九話 光魔騎士ヴィナトロスに新たなる魔王級
三玉宝石の〝悪夢吸宝石〟を戦闘型デバイスのアイテムボックスの中に仕舞う。
そして、魔界騎士のような宣誓の忠誠か。
「忠誠は嬉しいですが、ひとまず頭を上げてください――」
とヴィナトロス様に片手を伸ばした。
ヴィナトロス様は俺を見上げ、
「……私は、自分の意思で、姉と妹も慕っているシュウヤ様の配下になることを決めたのです。そして、ヴァーとベラ姉との連絡役が居れば、何かと有効かと思います」
と発言した。
ヴィナトロス様は本気と分かる。
「それはそうだが……」
「ダメですか?」
「……ダメではないが、神格はいずれ復活できると思いますので」
「神格はオマケです。シュウヤ様の傍にいたいのです。傍に居れば……うふ♪」
神格はオマケというパワーワード。
頷くしかないから、頷いた。皆は黙っている。
もう受け入れるつもりだろう。
ヴィナトロス様を凝視。熱を帯びた視線だ。
美人でキスもされたし、好意も非常に嬉しい。
更に、俺には最上位称号:覇戈神魔ノ統率者を持つ。
<魅了の魔眼>も内包されている。
更に魔界セブドラ称号:夜行光鬼槍卿もあるからな。
ヴィナトロス様は、神格を失い、〝悪夢ノ赤霊衣環〟の一部として生きるしかなかった状態の最中に、俺に助けを求めてくれた。
ヴィナトロス様は先ほど、
『その後、〝悪夢ノ赤霊衣環〟がどうなったのか……覚えているのは、延々と続く悪夢……そして、悪夢の怪物たちに、魂と魔力を喰われ続けていた……私は、この額の三玉宝石が健在でしたので、なんとか無事でしたが……』
魂と魔力が喰われ続ける拷問はきつすぎる。
阿鼻地獄や剣林処などの仏教の地獄世界を想起してしまう。
そんな精神状態だったところに、水神ノ血封書と<血道第六・開門>の<血道・九曜龍紋>と<血脈瞑想>を活かして、ヴィナトロス様の精神を救出できたんだからな。
あまつさえ、その体までも顕現できた。
復活したヴィナトロス様にとって俺は恩人というより、新たな生みの親や信仰の対象に近いのかも知れない。
<筆頭従者長>たちのプレッシャーがある中、なかなかの胆力を見せてきた。
が、それ以上に妹と姉のことを考えての行動かな?
先ほどのベラホズマ様とヴァーミナ様の抱き合う姿を眺めている表情は凄く幸せそうだった。
片目から涙が流れていた。
あの時、ヴィナトロス様の心根が見えた気がした。
そして、三玉宝石が額に真にあったから助かったようだが、『家族に会いたい』、『傍に戻りたい』などの、愛の気持ちが土台の健全な心が魂に在り続けたからこそ、ヴィナトロス様の心の支えになり、〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中でも精神の均衡が保てていたんだと思う。
だから、その家族を想う心が基軸、根幹で……。
家族や【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】のため、俺や皆という強い戦力を確保し続けるため自らを犠牲にする覚悟の上でのキスの連続、子を孕む発言なのかも知れない。
ヴァーミナ様との連絡役と言っていたが、あれが本心と予想。
神格を失ったとはいえ、元は魔界セブドラの一柱、悪夢の女王ヴィナトロス様だからな。
そんな思考の下――。
血魔剣を右手に出して<血魔力>を通した。
血魔剣の剣身から血の炎がパッと出て、骨の柄からも血の炎が噴出した。
血の炎の十字架にも見える血魔剣だ。
ヴィナトロス様は、少し怯えて、
「……その血の炎を有した魔剣は、吸血神ルグナド様の?」
頭部を振るって、
「これは異なる次元世界の吸血鬼たちの吸血王の血魔剣です」
「異なる次元世界の吸血王……」
「「おぉ」」
と発言すると、ヴィナトロス様に、話を聞いている流觴の神狩手アポルアと闇の悪夢アンブルサンも驚いていた。
「異なる宇宙次元に棲まう吸血鬼たちのことをソレグレン派と言います。その吸血王です。更に、俺は外宇宙の理、称号の<血魔道ノ理者>を持つ。スキルも<ソレグレン派の系譜>と<吸血王サリナスの系譜>を持ちます」
「おぉ……異なる宇宙次元……シュウヤ様は、定命の範疇を超えている……シュウヤ様は、セラの荒神大戦と関係があるのでしょうか」
「いえ、さすがに宇宙開闢の荒神大戦と俺は関係がない」
「あ、はい」
最初の転移が不思議だったから……可能性は否定できないが……転移、転生にインフレーション理論や泡宇宙のことを説明してもな、そもそもが仮説の塊。
俺の知る地球を含めた宇宙は、ブラックホールの表面に描かれている三次元空間、ホログラムって仮説もあったぐらいだからなぁ。
「……説明が難しいですが、惑星セラには原初より黒き環という巨大な環状の転移装置があることは知ってますよね?」
ヴィナトロス様は頷く。
「はい、理解しました。黒き環の先の異世界に棲まう吸血鬼がソレグレン派なのですね」
そりゃ魔神の一柱、黒き環を知らぬわけがないか。
「その通り。ソレグレン派の吸血鬼たちは、吸血神ルグナド様とは関係がない。ですから、セラの吸血鬼とも地下で激突していました。そのソレグレン派は、惑星セラの地下で長く活動していたのです。俺はそのソレグレン派を取り込んだ光魔ルシヴァルの宗主です」
「……なるほど、地下……獄界ゴドローンなどの異世界と通じている。そして、外宇宙の吸血鬼のソレグレン派……納得です。シュウヤ様は外宇宙の理、称号の<血魔道ノ理者>を持つとなると……魔界の神々には脅威に見えるかも知れませんね」
「……それは覚悟の上です。しかし、ヴァーミナ様は初見から平気な顔で、俺と会話をしていたような……ただ、己の虜にならない定命の男に興味を持っただけかもですが」
「あ、ふふ。ヴァーらしい……」
ヴィナトロス様の笑顔が可愛らしい。
「では、ヴィナトロス様、魔界騎士の宣言に応えようと思いますが」
「あ、お願い致します、そして、私には、もう様は要らないです。部下として扱ってください」
「分かった」
ヴィナトロスは頭を垂れた。
そのヴィナトロスの肩に血魔剣剣身を置く。
「では、俺も誓おう。いかなる時も俺はヴィナトロスに居場所を与えると。そして、名誉を汚すような奉仕を求めることもしない。自由の精神を大事にする。これを、この血魔剣と悪夢の女神ヴァーミナ様に神獣ロロディーヌと皆と、水神アクレシス様にかけて誓う!」
「ハッ! シュウヤ様――」
ヴィナトロスが声を発した瞬間、出したままだった水神ノ血封書が煌めいた。
途端に、ヴィナトロスの和服と似た衣の上半身がはだけるように消えた。
綺麗な二つの乳房を晒す。
血魔剣を直ぐに消した。
程よい茶碗型のおっぱいだ。
素晴らしい美がここにある。
おっぱいの美しい形に魅了されていると、
「え? きゃ」
ヴィナトロスは自らの乳を細長い右腕で隠してきた。
美と愛の女神のヴィーナスかい。
と言いたくなるぐらいのポージング。
少し興奮を覚えているとヴィナトロスが、
「あぁ、胸が熱い……これはシュウヤ様の愛……ううん<血魔力>……先ほどの血の龍が私の魂に……あぁぁ、あんッ」
と喘ぎ声を発して体を揺らす。
両腕を左右に開いて自らの胸を晒した。
鎖骨と胸元から血の龍が噛んだ証拠の傷の孔がくっきりと現れた。
え?
その孔から宙空へ無重力のように血飛沫が浮き出ている。
「「「え!」」」
「ヴィナトロス様の……」
「ご主人様、ヴィナ様の胸の傷は……<血魔力>……」
「ん、でも今まで見えなかった」
エヴァの言葉の後――。
ヴィナトロスの胸の傷孔から<血魔力>が噴出。
<血魔力>は小さい血の龍を形成したが、直ぐに血となってヴィナトロスの体へと吸収される。
傷孔は消えていた。
綺麗な乳房をまたも凝視。
薄い乳輪に乳首は見事に立っている。
美しい乳首のボタンを押して、乳首を仕舞いたくなる男は多いはずだ。
と、アホなことを考えていると、二つの乳房が自然と揺れる。
次の瞬間、胸が十字に裂かれ内臓が露出し、三つの心臓らしき内臓が浮き上がった。
冠状動脈がドクドクと律動していた。
血は一滴も下に垂れず、<血魔力>としてヴィナトロスの体に収斂しながら血を纏う。
その三つの心臓から――三玉宝石の形をした半透明な物が魔力が浮くように出現していた。
半透明の三玉宝石の周囲に闇色の霧が漂う。
「「えぇ!?」」
「なんと!」
「……ヴィナトロス様」
「あ、本当に! シュウヤ様の魔界騎士に……ヴィナ様の神格が消えていたから?」
と最後の闇の悪夢アンブルサンの言葉が妙に可愛い。
と、外に出た血飛沫は小さい龍の形を描きながら俺とヴィナトロスの周囲を囲う。
「――魔界騎士の儀式の一環だと思いますが、これは今までにない」
ヴィーネの言葉に頷く。
ヴィナトロスは、
「シュウヤ様、私の魔界騎士の証明……<魔心ノ悪夢ノ三玉核>に魔力を注いでください……」
頷いて、
「半透明の三玉宝石を掴んで引っ張り押し込む?」
「はい、私の胸に挿入をお願い致します……」
「了解した、ヴィナトロス、行くぞ!」
「はいっ」
半透明の三玉宝石を掴んで引き抜く。
「アァァッ――」
ヴィナトロスは感じたように喘ぎ声を発した。
体が震えながら仰け反り、皮膚に珠のような汗を次々に生み出していく。
鎖骨に溜まる汗の粒が悩ましい、直ぐに<魔心ノ悪夢ノ三玉核>に<血魔力>を注ぐ。
とヴィナトロスと俺の周りに幾つもの闇色の霧と闇の炎の剣刃が幾つも浮かぶ。
<魔心ノ悪夢ノ三玉核>に、剣刃と霧は白色、血色、黒色、蒼色、薄い黄色、灰銀色の煌めきを繰り返す。
闇の子精霊のような幻影も出現し、半透明の<魔心ノ悪夢ノ三玉核>の上で踊り出す。
<魔心ノ悪夢ノ三玉核>から<血魔力>が溢れ出た。
更に<血道第六・開門>の<血道・九曜龍紋>の九曜の紋様も出現しルシヴァルの紋章樹の紋様が<魔心ノ悪夢ノ三玉核>に刻まれる。
その<魔心ノ悪夢ノ三玉核>をヴィナトロスの三つの心臓に押し戻した――。
ずにゅりと音が響く。
「あぁぁ――」
<魔心ノ悪夢ノ三玉核>を取り戻した三つの心臓は直ぐにヴィナトロスの体内に戻る。
胸の表面は元通り、綺麗な双丘と乳首も元通りだ。
が、その上半身の肌が斑に血色へと染まった。
ヴィナトロスは「アンッ」と感じた声が発せられると、小さい口から凍えたような魔息が吐かれる。
ずっと見ていたかったが、直ぐに和風の晒布が胸元を覆う。
ヴァーミナ様と似ている下着か。
ヴィナトロスは気を失うことなく、<血魔力>が漂う和風の衣装となる。俺を見上げ、
「シュウヤ様、光魔騎士ヴィナトロスが誕生です。そして、私は<血悪夢ノ殺絶魔王>の戦闘職業を獲得しました……魔王級は超えているかも知れない……」
「「おぉ」」
「わ……」
「ま、魔王」
「ここで、光魔騎士と共に新たな魔王級が生まれるとは……」
続きは明日。
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