百二十八話 パーティ名
2020/12/13 8:42 修正
ギルドの受付前は列ができていた。
列に並び雑談しながら待つこと数十分。
やっと俺たちの番になった。
皆でカードと依頼札を受付台へ一斉に提出。
“パーティを組んで行きます”
と、意気揚々と受付嬢に言ったら、
「パーティ名はどうしますか?」
と、聞かれて唖然とする。
しまった。何も考えてなかった。
幸いにも後ろに並んでいる冒険者はいないので考える時間はある。
「……どうしよっか、パーティ名」
「ん、シュウヤと仲間たち」
エヴァが素早く名前の候補を挙げるが、ダメだな。
「却下」
エヴァは俺が速攻で否定したことにショックを受けたのか、肩を竦め車椅子を動かしながらヴィーネの後ろへ隠れるように移動していた。
「えっと、レベッカ代案を」
「え? わたしが? ん、んんん、――アームブルー団!」
レベッカは細い二の腕を披露し、力瘤しを作るように細い手を曲げて答えている。
「却下! それ【青腕宝団】ブルーアームジュエルズのパクリでしょ?」
「ぁぅ、バレた……」
「ヴィーネ、何かあるか?」
彼女は銀の細眉がピクッと動き反応。
「はっ、闇獅子と書いて、ダークブレズム。と言うのは、どうでしょうか」
闇獅子でダークブレズム?
「闇獅子とは何?」
「地下世界で恐れられた闇の害獣名です」
「へぇ、響きはいい。だけど、却下」
「青い鳥ピピクは?」
レベッカが鳥の名前を推薦してきた。
これも響きは良いけど、却下だな。
「んー惜しいが却下」
「ちぇ、却下却下で、シュウヤの案は聞いてないんだけど」
レベッカが、じと目を向けながら、話してきた。
うーん。全員の特徴を捉えるか?
『閣下っ、いい案があります』
『ん、何?』
『一、閣下と下僕たち、二、閣下とお尻愛、三、至高たる御方の下僕たち、四、閣下と』
お知り合いとお尻愛か、だれが上手いこと言えと。
『まった、ヘルメ、もういい』
『はい……』
……ヘルメのは参考にならない。
俺は魔槍杖と鎖がメイン。サブが魔法。
レベッカは魔法がメイン。
ヴィーネは二剣がメインでサブが魔法?
エヴァは二本の鈍器がメインでサブが魔法?
ロロディーヌは触手骨剣がメインで、炎ブレス。
レベッカ以外は武器が使えて、魔法も使える。
魔法、マジックユーザーズ
うぅ、安直すぎる。しかし、浮かばない。
一応言ってみるか。
「……マジックユーザーズとかどうだ?」
「大却下っ!」
素早く俺を断罪し、へへんっと、得意気に上唇を舌でなめるレベッカ。
「レベッカ、それ言いたかっただけだろ?」
「ち、違うもん」
口を尖らすレベッカ。
「あのですね、パーティ名と言ってもクラン名ではないので、気軽に決めてもらっていいんですよ? パーティ特典としてパーティボックスが使えますが、ギルドの記録に残るだけですし、名前はすぐに変更が可能ですから」
受付嬢はこめかみに力を入れながら話す。
早く決めてくれと、催促してきた。
その時、肩にいた黒猫が受付台に乗り降りて、歩き出していく。
尻尾をふりふりして“無邪気”に歩いてるし……。
無邪気か。
ピンっときたよ。英語でinnocence、イノセント。
無邪気で、無辜、無垢。
イノセントブラックキャット……。
イノセントキャット……。
井之頭公園……。
井上……。
胃……。
と、そこで、ピコーン、とスキルを獲得するような音が鳴った。
気のせいだが。閃いたのだ。
イノセントアームズなんて、どうだろうか。
無邪気な武器団。
「“イノセントアームズ”なんてどうだろう?」
「ん、賛成」
エヴァの声。
いつの間にか俺の隣に戻っていた。
「ご主人様に従います」
続けて物静かにヴィーネが賛成。
「……まぁまぁね。わたしも賛成」
楽し気だが、両手を組み、偉そうな態度のレベッカも賛成してくれた。
「では、パーティ名【イノセントアームズ】で登録しますね」
受付嬢は俺たちの冒険者カードを机に並べて、書類に羽根ペンでカキカキしてる。
「はい」
その後は同じパターン。
皆、水晶に手を乗せ五つの依頼は受理され、カードを返された。
「これで正式にパーティ名が登録されました。プライベートの連絡を取りたい場合はパーティボックスをご利用してください。手紙を受付で申請できます。公表しても良い場合は受付の右、あちらの立ちテーブルが並ぶ待合室にある連絡板をご利用してください。待ち合わせなどの気軽に利用する場合は、あちらの連絡板を利用すると良いでしょう」
視線を向けると、確かに伝言板らしき物と立ち喫茶的なテーブルが並ぶ。
なるほど、いつか利用するかも。
そこでカードを見る。
名前:シュウヤ・カガリ
年齢:23
称号:竜の殲滅者たち
種族:人族
職業:冒険者Cランク
所属:なし
戦闘職業:槍武奏:鎖使い
達成依頼:二十五
今受けた五つの依頼を終わらせたら、三十回達成となる。
Bランクの試験は受けられるのだろうか。
それと、所属は無しのままか。
これパーティ名を登録しただけじゃ、所属のとこに書かれないんだな。
「ん、シュウヤ行こう」
「おう」
エヴァに促されギルドの外に出ては、円卓通りを歩いていく。
布告状ではまたニュースが流れている。
――ルシズ戦役で結果を残したオセべリア貴族たちが主催する募兵集会がアリアの広場にて開かれる。戦争が激化しているため、新たに兵を募るらしい。優秀な場合、騎士団に直接編入、貴族の従者、或いは、軍の幕閣に取り立てもあるとのことだ。
――ベンラック村の近くにある光の十字森の丘にて、またもや、虚ろの魔共振が発生し、モンスターが大量発生し集まっているとのこと、東の大橋を渡る行商人たちは注意されたし。
――仮面魔人ザープの続報だ。紅のアサシンとの争う現場が南の郊外、鉄角都市ララーブインへ向かう街道で見られたとのこと、貿易商人たちよ注意されたし。
いつものように布告場を通り露店や冒険者たちの口上を聞き流しながら歩いていると、また、あの薬草売りの少女を見かけた。
また、買うか。
「あそこで買い物してくるから先行ってて」
「ん、買い物?」
「また、買うの?」
エヴァとレベッカは薬草売りを見つめて話す。
「そそ、じゃ行ってくる」
「ご主人様、わたしも付き合います」
「おう」
レベッカはエヴァの方を見て、
「それじゃエヴァ、わたしたちは先に行こう」
「ん、わかった」
エヴァとレベッカは迷宮出入り口がある方へ向かう。
肩に黒猫を乗せた状態で、薬草の束を売っている少女のもとへ走り寄っていく。
ヴィーネもぴたりと俺も横をキープしている。
真っ白な双眸を持つ少女は気配を察知したのか、キョロキョロと顔を動かし俺が何処にいるか探していたので、声を掛けてあげた。
「よっ、また買わせてもらうよ」
「あぁっ、こないだの冒険者様ですか?」
声質で俺が誰か分かるようだ。耳は良いな。
「商売は順調かい?」
「はいっ、少しだけ売れました」
元気ある声だ。真っ白い目が輝いて見える。
「そりゃ良かった。それじゃ、薬草を買わせてもらうよ」
「はい。何束入りますか?」
実はこないだ買った薬草は使ってない。
胸ポケットにまだ入ってたりする。
「一つでいい。代金を渡すよ」
アイテムボックスから銀貨を一枚取り出し、少女の掌の上に銀貨を手渡した。
薬草と交換。
「こ、この大きさに少し重い、銅貨じゃないですよ?」
「いいから、釣りもいらない。この薬草、もっと売れるといいな?」
「でも、困ります……他のお客さんの手前がありますし」
「あ、迷惑だったか? ごめん」
「……わたしの目を見て、同情されておられるのでしたら必要ないですよ。わたしは今の暮らしがとても楽なのですから」
そっか、完全に蟹の横這いだった。
「悪かった。次からは普通に買わせてもらうよ」
「はい、でもお優しい冒険者様なのは分かっています。また、買ってくださいね」
「あぁ、またな」
「……ご主人様? 何故、薬草一枚を銀貨で?」
ヴィーネは困惑と疑問が混ざった様子で聞いてくる。
「気紛れだよ」
ぶっきらぼうに喋ってから走る。
◇◇◇◇
待っていた皆と合流。
皆で迷宮出入り口を潜り、水晶体にタッチした。
その場でエヴァが三層と唱えた瞬間、三階層の水晶体へ瞬時に到達。
一階の水晶体から三階へと無事にワープできた。
目の前の三階の水晶体は二階の水晶体より太く長方形。
エヴァはその太い水晶体から手を離している。
確かランダムに飛ばされたはずだが……。
エヴァは一発で目的地の水晶体を引き当てたらしい。
水晶体が鎮座している部屋の床と壁は、灰色。
コンクリートのような質感を持つざらざらしてそうな壁だ。
壁の表面には、幾何学模様が眩しく光り、白い光源になっている。
壁や天井に光源があるのは二階と変わらないようだ。
周りでは、多数の冒険者たちがコンクリートの床に居座り、休憩を行っている。
中には囲炉裏のように布シートが敷かれ囲み、焼いた茸を食べ合い談笑しているパーティもいた。
何だか、部屋が狭く感じる。
実際に一階や二階に比べて狭いか?
けど、高さは二十メートルあるし、部屋の四隅に開かれた扉通路があるのは変わらない。
そのすべての通路先では大きい茸と冒険者たちが戦っているのが見えた。
人の多さが狭く感じさせているのかもしれない。
しかし、いきなりの激戦区。
大量に化け大茸が湧いていると依頼紙に書かれてあったが実際に目で見ると圧巻だ。
冒険者たちが次々と武器を振るっては大きな茸を潰して倒す。
素材として落ちた柔らかそうな傘の部位を大きな袋の中へ入れていた。
「シュウヤ、こっち」
エヴァは二本のトンファーを左へ伸ばす。
左の開かれた扉の先から進むようだ。
車椅子を進めていく。
黒猫はエヴァの隣に向かう。
トコトコと歩きながら姿大きくさせては、黒豹の姿に変身した。
「左か」
魔槍杖を出しとこ。
エヴァと黒猫のすぐ後ろから進む。
俺の後方からヴィーネとレベッカが続いた。
隊列やら、作戦やら、何も話していないが、まぁ大丈夫だろう。
部屋から出た通路は横幅が広い。
コンクリート系なのは変わらない。
横幅が広い通路で戦っている冒険者の数は多い。
しかし、モンスターである化け大茸の数はそれ以上だ。
「十字路まで茸狩り」
エヴァの言葉に誘われたかのように、化け大茸が胞子をバラ撒きながら、俺たちのもとへ近寄ってきた。
車椅子の木車部位から両手を離した彼女は、左手に装着してるトンファーで、化け茸の頭、傘の部位をミンチにするように叩きつける。
傘を凹ませ潰すと、右手に装着しているトンファーを真っすぐ伸ばしては、茸の黄色い柄胴体を突き刺していた。
大茸は刺されて動かなくなる。
あのトンファー、先を尖らすこともできるのか。
そして、エヴァが大茸を倒した直後。
次々と化け大茸たちが襲いかかってきた。
左に出ては、魔槍杖バルドークの穂先を化け大茸へと伸ばす。
柱のような太い柄に紅矛が突き刺さった。
よっし、倒した。
柔らかい感触だったが、太いし、ずっしりと手応えがある。
だが、まだ化け大茸たちの数は多い。
近く大茸たちの傘をちょん切るように魔槍杖を真横へと振り抜いた。
一気に三匹の大茸を屠る――。
肘を畳んで脇を締めつつ魔槍杖を引いてから――。
左足の踏み込みから、その魔槍杖バルドークを突き出した。
そして、突いて――突く――突く――大茸を突きまくる。
連続で大茸たちの柄の胴体を貫き倒した――。
よーし――。
紅矛で貫き倒す度に――。
じゅあっと貫いた穴から焼けるから、いい匂いが漂った。
焼き茸の匂いが……。
鼻腔が刺激され、胃の中へ焼けた茸を運びたくなる。
松茸を焼いたような香ばしい匂いを満喫。
右手に持った魔槍杖を振り回さずに、脇を絞めて、コンパクトさをイメージしながら突く動作を繰り返し、慎重に次々と化け大茸を仕留めていく。
化け大茸は、火属性に弱いらしい。
今度はじゅあっとミディアムに焼ける感じではなく、予め、アルコールが掛かっていたかのように、ぼあっと一気に炭化する勢いで燃え出してしまうこともあった。
黒豹型黒猫も触手骨剣で化け大茸を突き刺し仕留めていく。
身の回りの化け大茸が減ると、エヴァのことがお気に入りなのか、彼女をフォローするように右前方へ駆けていた。
レベッカは火球魔法を唱え、火球を大茸たちへ衝突させる。
二匹を一度に屠り、周りの大茸たちを火だるまにさせていた。
近くで控えていたヴィーネも動く。
腰にぶら下がる二剣の柄へクロスさせるように手を当てると、抜刀術を行うように素早い所作で、銀色の光を見せる剣身を引き抜いていた。
――引き抜かれた直後、クロスされた青白い腕が指揮者のように舞い、同時に、銀剣によるX印の軌跡を残す、綺麗な剣閃が幾つも宙に生まれ出る。
ぼよよっんと、効果音を鳴らしながらジャンプしていた化け大茸たちは、彼女の剣技により、あっという間に千切りにされていた。
素早い剣技。
ヴィーネはメインな武器と語っていたように、右手と左手に握られている両刃の少し反った銀剣の扱いは凄まじい……。
何流かは分からないが、相当な剣術の腕前であることは確かだった。
今も、化け茸を一刀で両断に。
その綺麗な太刀筋は記憶に残る。
一瞬、ユイの剣技と被った。
一刀を扱う動きもスムーズだし、袈裟斬りから切り返しのポーズも銀色の長髪が揺れて美しい。
ヴィーネの戦いぶりに感心しながら大化け茸を倒し終えると、茸の死骸が通路内に多数、横倒れ、山のように重なっていた。
太い柄と傘だからな。
「ロロ、見回りよろしく。皆は、魔石と素材回収――」
適当に指示を出す。
「にゃ」
「うん」
「ん」
「はい」
皆、それぞれ回収作業を行っていく。
俺も目の前に転がる大茸を回収。
化け大茸は、弱いだけに小魔石だった。
こいつの場合は素材だけでよいか。
黒猫は指示通り、小さい頭を一生懸命にきょろきょろ動かしては、警戒してくれている。
それだけでなく、壁に湧いた化け大茸を見つけると、傘に噛み付き、美味しそうに奥歯を使いながら咀嚼して食っていた。
はは、腹が減ってたかロロ。
あ、そういや、ちゃんとした朝飯をあげていなかった。
ひょっとしたら、キャネラス邸の庭で何かを食っていた可能性もあるが。
ごめんな、と心の中で謝りながら、倒した化け大茸の数を数えていく。
「……燃やし尽くしたのは省いて、残っているのは全部で二十五匹か。このままなら、化け大茸の素材はすぐに集まりそうだ」
「ん」
「そうね。すぐに湧くようだし、ほら、壁からもう頭が出てきてる」
「本当だ」
「ご主人様、化け大茸は天井からも湧くようです」
と、ヴィーネの指摘通り、上から落ちてきた化け大茸。
すぐに<鎖>を射出。
一直線に伸びた鎖は空中で大茸を捉え串刺しにする。
貫いた鎖を、掃除機の線を左手首へ収納させるように収斂させて、鎖の先端に刺さった化け茸の死骸を左手に戻した。
「これで、二十六個目。湧く速度が早いのか」
死骸を左手に掴みながら話す。
「さすが、ご主人様です」
「シュウヤ、そんな凄い武器を持っていたのね……」
「ん、わたしも初見。シュッて、伸びてじゅばって、凄い」
「そうか? これ、エヴァ助けた時に使ったぞ」
エヴァは頭を左右にぶんぶんと振る。
「? 気付かなかった」
「あ、そういえば、あの時は気を失っていたか、済まん」
「――んん、いい」
エヴァは頭を左右に軽く振り、優しく微笑む。
「わたしと組んでいた時も、その鎖は使用してなかったわね?」
レベッカは俺を訝しむ。
怪しいわ、と言うように、目を細めて見つめてくる。
「確かに、あの時は使う必要無かったし。魔法もあるからな、お、また湧いてる――」
慣性を生かすように魔槍杖を回転させ、後部にある石突側の竜魔石を先に伸ばし、魔力を魔槍杖へ込めた。
その刹那――竜魔石から青白く平い隠し剣が発生し、伸びに伸びて壁に突き刺さる。
誕生したばかりの化け大茸は壁に縫われた状態で凍っていた。
「……」
この光景に皆が黙ってしまった。
自重せずに隠し剣を使ってしまったのは不味かったかな?
ま、いいや。これからたまに使えば慣れるだろうし。
魔槍杖をずらし、さらっと氷を消す。
氷が溶けたような涼しい風が辺りを包んだ。
「あ、あのぅ、その斧槍から氷が伸びた?」
レベッカが恐縮するように質問してきた。
「そうだな」
「ん、今度のは絶対、初見!」
「ご、ご主人様、凄い武器をお持ちなのですね……」
「ンンン? にゃお、にゃ」
黒猫が通路の先頭に立ち、そんなことより『先に進むニャ』と尻尾で床を叩きながら鳴いていた。
「ほら、ロロも催促しているし、先へ行こう」
「はい」
「そうねぇ。その凄い武器には納得してないけど、ロロちゃんカワイイし行きましょうか、ね」
レベッカは頭を斜めに僅かに振って、エヴァへ語り掛ける。
「ん」
レベッカはとエヴァは互いに顔を見合わせ笑顔で頷き合う。
何か小声で互いに話しては、俺をチラッと見てくるし、二人はコソコソ話しながらついてくる。
何を話しているんだが……と言うか、彼女たちさっきまで初対面だったのに、もう意気投合しているのか?
女子力、コミュ力が高いな、と、考えながら、ヴィーネと共に歩いていた。
ヴィーネの顔を窺うと、初めて俺を見た時とはえらい違い。
今までは冷たい表情だったのが、今ではどこか熱を帯びた視線で俺を見ているような……気がする。
俺が戦うところを見たからかな?
と、銀のフェイスガード越しに銀瞳を見つめる。
「ご主人様?」
前は氷の微笑だったけど、今は生き生きとした微笑だ。
「いや、ヴィーネは何か、元気になったのかなと」
「はい。ご主人様がモノスゴイ雄、強き男なのだと分かりましたので、嬉しいのです」
はは、モノスゴイ雄。
もう少し語呂を考えて欲しいもんだ。
と、ツッコミを入れたいけど、我慢しとこ。
「……先頭ではロロが戦い出しているから、俺たちも行くぞ」
「はいっ」
そんな調子で横幅が広い通路を進み、他の冒険者たちとすれ違いながらも最初の大部屋に辿り着く。
大部屋では戦士が三人、魔法使い、盗賊、僧侶の冒険者六人パーティと、大きいムカデ&化け大茸が戦っていた。
化け大茸は言わずもがな、もう一つのモンスターは初めて見る。
「ん、黒種百足……中々強い、嫌い」
エヴァが軽く説明していた。
そのパーティの戦いを邪魔しないように隅を歩きながら大部屋を通りすぎ右の通路を選択。
一時間近く灰色コンクリートの通路を進んだ。
その間に湧き続けていた化け大茸は、全て倒している。
ここまで、モンスター茸ばかりで通路内に罠がない。
どうやら三階層には罠が少ないらしい。
罠の無い灰色通路を進み、化け大茸を二百匹以上は倒し終えた頃、エヴァが十字路があるところでピタッと車椅子を止める。
車椅子を回転させ振り向く。
「――この十字路の先から森に変わる」
森?
「場所が変わると、化け大茸は、湧かない?」
「ん」
エヴァは頷く。
「それじゃここから、ゴブリンやオークに樹魔とか甲殻回虫が相手かしら?」
レベッカは白魚のような手に握る杖を握りながらエヴァに聞いている。
「そう。他にも居る」
「え、まさか“バルバロイの使者”とか?」
「ん、会いたくないけど、ここは三階層。その可能性はある」
女子な二人は警戒をするように顔を引き締めると、頷き合っている。
バルバロイの使者か。前にギルドのボードで見た。
「なぁ、そのバルバロイとは、現れると不気味な音楽が鳴るという?」
「ん、そう。ユニークモンスター」
エヴァはいつものように頷き、肯定。
「でもさ? 守護者級、十天邪像近辺に湧く、強力なモンスターでも、シュウヤなら何とかしちゃうかも?」
レベッカは俺に期待するように蒼目を輝かせて見つめてきた。ん、今、瞳が蒼く燃えた?
気のせいか、レベッカの青い瞳は本当に美しいからな……。
とにかく守護者級とは、強そうだ。
「……どうだろう。戦ってみないと分からないな。それより、スライムはもっと奥なのか?」
微妙に褒め殺しをしてくるレベッカから話をずらすように視線を外し、三階層について知っているエヴァへ話を振る。
「ここからもうちょっと先。森の先にある広い湿ったとこに湧く。ジグアの木金魚もその辺り、レアモンスター部屋を通ったすぐ先」
エヴァは頷き、右手に持つトンファーを十字路の右へ指す。
「ちょっと、レアモンスター部屋?」
お宝大好きレベッカは、身を乗り出すようにエヴァを見る。
「っん」
エヴァはレベッカの反応の良さに、少しビクっとしていた。
「その部屋には何が湧くの?」
「黒飴水蛇Aランク」
「あの、黒い大蛇と呼ばれてる奴かぁ、ダメージを与える度に“黒い甘露水”を傷口から放出するのよね、その甘露水を飲めば少し魔力が回復、しかも喉が爽やかになり、甘くて、特別に美味しい高級水なんだとか」
黒い甘露水で、飲めば喉がスカッとする?
まさかコーラじゃないだろうな?
だとしたら、飲んでみたい。
というか、猛烈に飲みたいぞ。
「しかも、王国美食会がいつも討伐依頼を出してるモンスターよ。噂では王侯貴族たちが常に欲しているとか。美食アカデミーでは必需品らしいわ。紅茶にも実は合うのよねぇ」
「レベッカ、詳しい」
エヴァが言うようにレベッカは詳しい。
「……ねぇ、そのレアモンスター挑戦しない?」
「ん、シュウヤ次第」
彼女たち、美人の女特有のプレッシャーで、俺を見つめてくる。
「構わない。でもさ、そんな美味しいものを出す場所だ、どうせ混んでいるんだろ?」
「……混んでいる。手練れなパーティが数組。その部屋の出入り口がある通路を進む時、必ず誰かしらは居た」
やっぱり。
「うぅ、それを聞くとゲンナリね。でも黒い甘露水、一度は飲んでみたいのよね。それにさ、お宝、宝箱が出るかもでしょ? ここ三階層だから、鉄箱、銀箱、金箱が出現するかもしれない。挑戦してみたいなぁ」
レベッカは倒せる前提で話している。
お宝も気になるようだ。
前回も腕輪を手に入れて嬉しそうだったし。
「レベッカさんよ。何か、最初から倒せる予定で話しているが黒飴水蛇とは、Aランクモンスターだよな? 強いんだろ?」
「うん。巨大と聞いたことあるし、強いのは強いと思う。でも、シュウヤとロロちゃん居るし。エヴァとヴィーネもいるじゃない。わたしも頑張るし?」
まったく、調子が良い。
だけど、俺も気になる。
宝箱も気になるけど、黒い甘露水は飲みたい……。
だから、一回だけ挑戦してみるか。
「混雑具合によるが、一回、挑戦してみるか?」
にやけ顔を浮かべ、皆に問う俺であった。
「はいっ」
ヴィーネは気合いを入れるように素早く返事をする。
「ん、了解」
エヴァは頷き、紫の瞳で俺の双眸を見つめては、微笑んでいた。
真新しいミディアムヘアが美人さんによく似合う。
「もっちろーん」
レベッカは喜びの声をあげて、その場で少しジャンプ。
スカートが捲れて、縞々の皮パンツらしきものが見えた。
「にゃおぉん」
黒猫もそんなレベッカに釣られ、脚を斜めに上げてマヌケな可愛らしい跳躍を繰り返し、喜んでいる。
こっちはこっちで、プリティな菊門を見せていた。
「……はは、んじゃ行くか」
黒い甘露水はコーラか、蜂蜜水か、砂糖水か、未知の水か、魅惑の黄金水か、はたまた、鳳凰院が飲んでいた選ばれし者の知的飲料ドクターペッパー、秋葉で売っているホットコーラ、或いはオデン缶みたいな物かもしれない。
それとも……。
そんなアホ的な妄想を繰り広げながら、皆と共に、通路を進んでいた。




