千二百八十七話 <魔次元の悪夢>と金漠の悪夢槍
とりあえず、子供云々はスルー。
悪夢の女神ヴァーミナ様に、
「この<魔次元の悪夢>は、セラにいる俺たちへと、アクセスした方法とは異なるスキルのようですね」
と聞くと皆がヴァーミナ様を見上げた。
そのヴァーミナ様は頷いて、
「その通り、姉様たちとシュウヤがいる場所は魔界セブドラだ。妾にリスクない」
「はい」
「あの時、シュウヤが称号の<魔界騎士ヲ叙任セシ者>などを得た時とは大きく異なる。神格を有した妾の魔力が一時狭間を越えてセラに移動したのだからな。魔界セブドラを越えるリスクは甚大。次元障壁の揺らぎは周辺地域の神格を有した存在に喧嘩を売る行為でもある。そして、<魔神ノ超越格>と<魔界セブドラの神格体>と<セラへの識格>と<狭間の理>が必要だった。更に、シュウヤが魔界セブドラの魔界騎士を、己の配下にできるように<魔神大格者>と<魔界騎士大認可>を使用したのだ」
頷いた。結構なリスクか。
するとベラホズマ様が、
「ヴァー? 魔次元の紐などを使わず、セラにアクセスしたのか!」
「した! 魔次元の紐は、セラ側で使う物ぞ? だから、シュウヤのために<魔神大格者>、<魔界騎士大認可>を認めたのだ」
「……シュウヤの為とはいえ、なんてリスキーなことを……」
「ふふ、シュウヤ様との誼を深めたのですね」
ヴィナトロス様の言い方は女神的すぎる。
悪夢の女王って雰囲気は皆無だ。
ヴァーミナ様は頷き、
「はい、ヴィナ姉。妾とシュウヤには<夢闇祝>という絆、縁がある。だからこそ魔界の神々の中で、妾が最初にシュウヤが魔界騎士の配下を持つことを認められたのだ……それにシュウヤのためなら<魔神ノ超越格>、<魔界セブドラの神格体>、<セラへの識格>、<狭間の理>などを失っても、いずれは取り返せる。という考えぞ」
「ふむ、先見の明はある」
「ん、あの時、皆で怒ってごめんなさい」
「ふふ、いいのだ。紫色の瞳が綺麗なエヴァ」
「ん」
エヴァは微笑む。
ヴィーネとキサラは微かに頭部を下げた。
嫉妬の雰囲気は消える。
ヴァーミナ様は、
「そのシュヘリアは、今もセラのサイデイルで活躍しているのだろう?」
キッシュの治める樹海のサイデイルを想いながら、
「はい、キッシュたちの下でデルハウトと共にサイデイルの安寧のために日夜戦っている状況です」
と発言。
「……ふむ、セラの十二樹海の結界主は、亜神ゴルゴンチュラからシュウヤの<筆頭従者長>のキッシュ・バグノーダ・ハーデルレンデが引き継いだ形か」
「そうですね、更に、一騎当千の<従者長>のママニ、フー、ビア、サザー、クエマ、ソロボ、サラ、ベリーズ、ブッチと光魔騎士シュヘリアと光魔騎士デルハウト、<光魔ノ蝶徒>のジョディ、シェイルがサイデイルには居ます」
「戦力は十分か。ならば、いずれは知記憶の王樹キュルハの根と神意の樹木が、お前たちには必要になるかも知れぬな」
「知記憶の王樹キュルハの根と神意の樹木が俺たちに? それはどういうことでしょうか」
「黒魔女教団の教義……」
とキサラが呟く。
「黒魔女教団も知記憶の王樹キュルハを信奉していたな」
「はい」
ヴァーミナ様は、
「魔界とセラの十二樹海を繋ぐ【幻瞑暗黒回廊】のような〝樹海道〟が使えると聞いている。傷場を支配するつもりがないのならセラと魔界を往き来する手段の一つに、その権益を押さえるべきだと思うたのだが……セラの樹海も多種多様か……特に南マハハイム地方の樹海には古代狼族や吸血鬼に旧神にオークの諸勢力がいるのだったな……人族の王国にモンスターを含めれば探索も容易ではないか」
……頷いた。
そこにゼレナード&アドホックがいたんだよな。
飛行機も落下してくるし、女王サーダインも現れるし、樹海はカオスの中のカオス。
樹海の北、北東側のオセべリア王国の領地はゼントラーディ伯爵が治めている。
そこにアツメルダという人形使いがいた。
ゼントラーディが生きているなら敵となりえるが、シャルドネにも話は通しているから大丈夫かな。
それに公爵家がサイデイルのバックに居れば、もう貴族たちもサイデイルを美味しいと思わなくなるか。
樹海の南のアルゼの街の領主フレデリカにもゼレナード関係で仲良くなった。
そして、今回、<筆頭従者長>や<従者長>の枠ではない方法の水神ノ血封書を利用して眷属となったナロミヴァスも居る。
公爵家の嫡男の肩書きと第二王子との仲も相俟ってオセべリア王国側だけなら余計な争いをしないで済みそうだ。
ナロミヴァスの眷属化にヴィナトロス様と流觴の神狩手アポルアと闇の悪夢アンブルサンの救出できた俺の四神と関係している<血道・九曜龍紋>が中々に凄い。
俺は水神ノ血封書に<血脈冥想>を使って霊道を活かした血の龍に憑依というか、精神を移動させた。
そうした発展が可能な<血脈冥想>と連動が可能な源左の<魔闘術>も研究しておきたいところだ。
※血道・九曜龍紋※
※<脳魔脊髄革命>と<四神相応>と<滔天仙正理大綱>と九頭武龍神流<魔力纏>系統:奥義仙技<闘気霊装>の<龍神・魔力纏>を持つ光魔ルシヴァルの宗主が、異世界の源左一族の血を得たことで源左一族が持つ恒久スキル<九曜龍紋>を獲得した証拠※
※九頭武龍神流<魔力纏>系統※
※武王龍神族家ホルバドスが扱う血の龍よりも多い※
※九頭武龍神流<魔力纏>系統と似た光魔ルシヴァルの<血道・九曜龍紋>を周囲に発生させる※
※源左一族の影星夏美が使った日、月、火、水、木、金、土、七曜星と羅と計都の二星を意味する陰陽道と関係し、使い手に様々な影響を及ぼす※
※<血道第五・開門>の<血霊兵装隊杖>とも融合し、血の錫杖をも大幅に強化するだろう※
とりあえず、ヴァーミナ様に、
「知記憶の王樹キュルハ様とは、まだ魔界では会ったことがありません。十二樹海は魔界セブドラにもあるようですが、〝列強魔軍地図〟という名の魔地図には、まだそれらしき名は描かれていないので、本当にあるのかどうか……」
「ハッ、シュウヤよ、魔界は広い。妾は十二樹海の位置を知っているから、単に、その〝列強魔軍地図〟に魔界側の十二樹海の地名が刻まれていないだけであろう。そして、一説によると、魔界セブドラの森や樹が知記憶の王樹キュルハと関係しているとも聞いたことがある」
魔界のセブドラの森や樹が……。
「魔界の森には、知記憶の王樹キュルハ様が関わっている場合があるってことですね」
「そうだ、そのキュルハだが、魔界側の十二樹海以外にも現れることもある。それでいて喋ることは滅多にない。眷属も人型は極端に少ないのだ」
女王サーダインは人型だったが、あれは破壊の王の血も混ざっている存在か。
その女王サーダインのことではなく、
「……俺の<筆頭従者長>の一人アドゥムブラリは、〝知記憶の王樹の器〟か、〝知記憶の王樹の欠片〟という名の秘宝が十二樹海と関係している【世界樹キュルハ】などにあると語っていました。そこには、秘宝が本当に存在するのでしょうか」
「ある。と、されている。見た訳ではないが〝知記憶の王樹の器〟は知名度が高い。【世界樹キュルハ】の土地も知っているぞ。だから〝知記憶の王樹の器〟の秘宝は、もう誰かの手に渡っているとみて良いだろう」
たしかに。アドゥムブラリも情報を得ている以上はそうなるか。
「なるほど……その〝知記憶の王樹の器〟があれば、眷属たちと記憶が共有できる。または、記憶共有のスキルが得られると聞いています」
ヴァーミナ様とベラホズマ様ヴィナトロス様とナロミヴァスたちは頷く。
ヴィーネたちは黙ったままだ。
「ふむ、他にも知記憶の王樹キュルハとの絡みがありそうだがな?」
「はい」
「そして、妾と定命のシュウヤたちの時間の感覚がことなる故に、これは言ってもあれだが……キュルハに頼らずとも、己で<記憶共有>を探り得られるだろうに」
「はい、いずれは可能でしょう。ですが、成長に伴う神格の肥大化は、狭間を抜ける時に大変なことになる」
「……たしかに。ならば傷場も占有しないつもりか……そこまでセラが大切か……吸血神ルグナドのように、ただの餌場の管理者として自由に眷属たちに任せたらいいではないか……現に、サイデイルにいるキッシュは女王なのだろう?」
「……セラは大切です」
ヴァーミナ様は視線を強めて俺たちを見据えると、
「……妾の夫となるシュウヤ、セラよりも、魔界セブドラを重視し、魔界で魔神に成り上がれば良いものを……」
すると、ヴィーネが魔力をわざと外に放出。
ガドリセスの切っ先をヴァーミナ様が映っている<魔次元の悪夢>に向けた。
キサラもダモアヌンの魔槍の穂先を差し向ける。
穂先の孔からキラキラと輝くフィラメントが四方八方に放出されていく。
「ヴァーミナ様、何度も言いますがご主人様は、ヴァーミナ様の夫にはなりません。光魔ルシヴァルの宗主の立場は堅持しますので」
「はい、シュウヤ様はシュウヤ様です」
ヴィーネとキサラの言葉に頷く。エヴァは俺の手を握ってきた。それだけで愛が伝わってくる。エヴァは良い子だ。
エヴァは頬を少し赤らめて照れていた。
「そ、それはわこうておる……光魔ルシヴァルの宗主の妻になるつもりなのじゃが……」
「……え? でも、あぁ、もう、それは同じです!」
「うぐ、バレた」
なんか面白い。
「ん、今はだめ、シュウヤには妻がいっぱいるから、順番待ち」
「でも、神様が定命のシュウヤ様の妻って、ちょっとオカシイので、却下ですね」
「はい、ヴァーミナ様との領域は遠いですから、まだまだ無理です。ヴィーネとエヴァとキサラもいますし、ビュシエとバーソロンもいますから」
「「「はい!」」」
「……ならば、今は、<筆頭従者長>たちの意見を尊重しよう……」
と悪夢の女神ヴァーミナ様は気位をみせる。
「……ふふ、ヴァー、シュウヤ様の取り合いはそこまでにして、当時の話を聞かせてくださいまし、私たちが負けた後……【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】はだいぶ侵略されたのでは?」
とヴィナトロス様が聞くと、ヴァーミナ様は頷いて、
「七難は超える規模で侵略されまくった……が、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】は広い故に対処はできた。しかし、正直キツイ戦いの連続であった」
と、俺を見つめてくる。その瞳には熱があった。
とウィンクしてくれた。
「だから、強いシュウヤ様を欲しているのですね」
「うむ」
ベラホズマ様は俺の傍に来て、
「妾も強いシュウヤを好いておる」
「あ、ありがとうございます」
「うふ」
と、ベラホズマ様は魔力を全身から噴き出した。
迫力があるが、豊かな乳房を隠す黒いブラジャー系の衣装が露出。
「ベラ姉様、私もシュウヤ様が好きです」
「うぬ、分かっておる」
「「「……」」」
ナロミヴァスとアポルアとアンブルサンは皆の言動に一言も言葉を漏らさない。部下らしい態度で安心感。
三人とも地面に片膝を下ろしたまま頭を垂れている。
「ヴィナ様、俺も美しい女性のヴィナトロス様を救えて嬉しく、好意は嬉しく思います」
「ふふ、はい……」
ヴィナ様は頬を斑に朱に染めていく。
さて、また嫉妬合戦となるから、ヴァーミナ様に、
「そして、<魔次元の悪夢>とは親族のベラホズマ様とヴィナトロス様と連動しているから可能のスキルなんですよね」
ヴァーミナ様とベラホズマ様とヴィナトロス様は頷いた。
「ヴァーミナ様がここに来ることが可能なんですか?」
「妾は無理ぞ。が、姉様たちは【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】に帰還できる」
「「おぉ」」
「ん、驚き」
「あぁ、それは凄い……<魔次元の悪夢>とはゲート魔法のスキルなのですか」
「うむ。諸条件が揃ったことも大きい……」
「諸条件、この地方一帯を支配していた魔界王子テーバロンテが消えたことが主な要因でしょうか?」
「要因ではないが、一つぞ。先ほどの話にも通じるが、魔界王子テーバロンテは神格を有した者や濃密な魔素を内包した存在の転移を封じる方法が得意だったようだ。そして、ある程度の神格結界、心象結界、領域結界などならシャイサードの転移送還はすり抜け突破は可能なのだがな? できなかった……狭間の障壁とまでは言わないが、あの斜陽世界は、それほどの効果を魔界セブドラに齎していたのだ。勿論妾の知らぬ、妾よりも巧みな次元転移術を扱える存在ならば……魔界王子テーバロンテが造り出していた斜陽世界の突破はできるだろう」
頷いた。
「では、ベラホズマ様とヴィナトロス様は……」
「うむ、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】に戻る」
「はい」
「そして、戻る前に、シュウヤにこれを託そう――」
とベラホズマ様は己の頭部に刺さっていた金釵の髪飾りを抜くと放ると、宙空で金釵の髪飾りは魔槍の形に変化した。
穂先は片鎌槍か、金の柄。
「名は、金漠の悪夢槍。妾の褒美ぞ、そして、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】にて待つ――」
とベラホズマ様は先に<魔次元の悪夢>の中に突入した。
続きは明日。
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