千二百八十一話 ナロミヴァス復活と悪夢の女王ヴィナトロスの救出
血の龍に噛まれながら地面に押さえつけられている〝悪夢ノ赤霊衣環〟は「ウゴガァァ」と呻き声を発し、その塊の体から蒸発音も響かせる。
<血道第六・開門>の血の龍の歯牙や体から滴り落ちている光魔ルシヴァルの血に触れた悪夢ノ赤霊衣環の手足と目玉は血色に変色し腐ったように消え、赤黒い金属も血色に染まると溶けるように消えていく。
悪夢ノ赤霊衣環の耐性はかなり高いが光魔ルシヴァルの血は効く。
そして、<血道第五・開門>の血の錫杖は<血道第六・開門>の効果で血龍偃月刀と化しているが、今は振るわない。<血道・九頭龍異穿>も当然使わない。
<血道・九頭龍異穿>を使えば大ダメージは確定。
〝悪夢ノ赤霊衣環〟を倒せるとは思うが……今は、この<血想槍>の神槍と魔槍と連結している<血道・九曜龍紋>の血の龍と血の錫杖の操作を強める。
そして、先ほど出した水神ノ血封書をチラッと見た。
水神ノ血封書で<水血ノ魂魄>を用いれば……。
※水血ノ魂魄※
※<水血ノ混沌秘術>系統:魂魄使役術※
※高水準の能力と水神ノ血封書と<水の神使>などが必須※
※水神ノ血封書を外に出しておくと威力が上昇※
※荒ぶる精霊やSランク以上のモンスターを弱らせたところで使うと、魂を捕らえ、水神ノ血封書に封じ使役を可能とする、成功率は低い※
※<水の神使>などを使えば成功率は上がる※
荒ぶる精霊やSランク以上のモンスターを弱らせて、魂を捕らえ、水神ノ血封書に封じ使役を可能とするだからな。
そして、<霊呪網鎖>もある。
※エクストラスキル<鎖の因子>固有派生スキル※
※エクストラスキル<光の授印>の作用により追加効果※
※光の粒子鎖を用いて知能の低いモンスターを限定して洗脳、支配下に治められる。ただし<鎖の因子>のマークに直接触れていることが条件※
現状の〝悪夢ノ赤霊衣環〟は知能が低そうに見えるが、それは様々な眷属と怪物たちの魂が欠片が入っているからだ……。
<水血ノ魂魄>と<霊呪網鎖>の二つ同時使用を試すのもありかな……。
が、このまま血の龍で〝悪夢ノ赤霊衣環〟の内部に食い込めそうな気配もある。
その〝悪夢ノ赤霊衣環〟は魔力を強めて空間を振動させるような衝撃波を周囲に発したが、<血道第六・開門>の魔法陣と血の龍も崩れない。
すると、先ほどよりも<夢闇祝>と<夢闇轟轟>の傷の痛みが激しくなった。
更に、『た……す……』と思念が響いてきた。
これは悪夢の女王ヴィナトロス様の思念か?
混沌とした〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中からだ。
悪夢の女王ヴィナトロス様の魂の叫びかもしれない。
〝悪夢ノ赤霊衣環〟の内部から大きい魔素を血の龍越しに感じられた。
その魔素がヴィナトロス様かも知れない。
ベラホズマ様は、
『〝悪夢ノ赤霊衣環〟には、妹と妾の眷属たちに他の魂の欠片が入っているのだぞ……』
と思念を寄越してきたからな。
そして、推測だが……。
妹の悪夢の女王ヴィナトロスは無意識下で姉の悪夢の女王ベラホズマ様に助けを求めていたから、地下へと直進したのかも知れない。
悪夢の女王ヴィナトロスも、昔は、ヴァーミナ様やベラホズマ様と同格か、魔界の神の上級まではいかないまでも神の一柱だったはず。
だから使役せず〝悪夢ノ赤霊衣環〟に取り込まれた理由は知らないが助けてあげたいな。
ヴァーミナ様やベラホズマ様の下に戻してあげたい。
だが、家族特有の憎しみ一心でベラホズマ様を目指したって線もあるんだよなぁ。
実は【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】を巡る姉と妹の覇権争いが過去にあったとか?
覇権争いに負けたヴィナトロスは、ベラホズマ様かヴァーミナ様に〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中に封じられた線もある。
そうして、神々の争いの余波で〝悪夢ノ赤霊衣環〟を喪失し、どこかでベゲドアードが入手に至る? この予想は保留、保留だとして、どの程度の確率だろうか。
ヴァーミナ様は、一言も家族のことを言わなかった。
そして、首の傷の中に女性がいたが、あの女性もベラホズマ様の妹か姉の可能性もあるわけか。
更に、〝煉霊攝の黒衣〟を着た状態なら〝悪夢ノ赤霊衣環〟を御しきれるらしいが……。
未知のコントロール方法は怖い……。
魔力、精神力はそれなりに高まっているから大丈夫とは思うが……。
御した上で、<水血ノ魂魄>と<霊呪網鎖>を試みて、眷属にできる怪物がいたら挑戦するのもありか。
そして、御しきれるなら、〝悪夢ノ赤霊衣環〟を壊すこともできるってことなんだろうか。
〝煉霊攝の黒衣〟を装備し、〝悪夢ノ赤霊衣環〟を触ってしまったら、一生外れない。
または頭上に赤黒い環の金属がついて回るとか、色々といやなことを考えてしまう。
――蛇人族族の姥蛇の呪い品を思い出す。
あれは火山に投げたが……あんな呪いも様々に存在するわけだからな……。
とりあえず……<血道第六・開門>の血の龍でヴィナトロス様の気配は感じられた。
このまま血の龍を活かすとしよう――。
二十面相の聖魔術師の仮面の聖魔術師ネヴィルの仮面を外した。
血龍偃月刀の血の錫杖を頭上に浮かせて座禅を行う。
<経脈自在>を発動。
<滔天内丹術>を発動。
※滔天内丹術※
※滔天仙流系統:恒久独自神仙技回復上位スキル※
※戦神イシュルルの加護と<水神の呼び声>と<魔手太陰肺経>の一部が必須※
※玄智の森で取り込んだ様々な功能を活かすスキル※
※体内分泌などが活性化※
※<闘気玄装>、<魔闘術の仙極>、<血魔力>の魔力が呼応し効果が重なる※
※回復玄智丹、万仙丹丸薬などの分泌液と神経伝達物質が倍増し、それらが全身を巡ることにより飛躍的に身体能力が向上し、<魔闘術>と<闘気霊装>系統も強化され、魔力回復能力も高まる※
※<経脈自在>で効果倍増※
魔力の回復能力を高める。
水神ノ血封書にも<血魔力>を繋げて――。
同時に<闇透纏視>と<血脈冥想>を発動――。
※血脈冥想※
※光魔ルシヴァル血魔力時空属性系<血道第五・開門>により覚えた特殊独自スキル※
※<魔雄ノ飛動>、<仙魔奇道の心得>、<経脈自在>、<滔天仙正理大綱>、<水神の呼び声>、<水の神使>、<闘気玄装>、<滔天神働術>、時空属性が必須※
※蓮の花と座禅修業を行うと体が消える(消えた先は血脈霊道)※
※格闘系の<魔手太陰肺経>を習っていることが必須※
※光魔ルシヴァルの<瞑想>修業の進化スキル※
※血道系統のスキル獲得率を大幅に引き上げる※
※<血脈冥想>を行えば行うほど血道関係が進化する※
――かなり小さくなった〝悪夢ノ赤霊衣環〟に<血魔力>を送るように血の龍を直進させた。
繋がっている水神ノ血封書の神性さを感じ取る。
――〝悪夢ノ赤霊衣環〟が一気に溶けるが――。
構わず両手を合わせた。
八百万の神々へと祈りも行いながら――。
〝悪夢ノ赤霊衣環〟の秘奥へと<血道第六・開門>の血の龍を向かわせる。
「ご主人様が消えました……〝悪夢ノ赤霊衣環〟にこんな方法でアクセスするなんて」
「ん、水神ノ血封書といい、完全に予想外」
「はい、鳥肌が……」
「……血の蓮の花と茎が……」
「ンン、にゃ、にゃお、にゃ~」
「ん、血の龍も〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中に消えた!」
「は、はい……あ、蓮の花の群れと茎の群れが〝悪夢ノ赤霊衣環〟のへどろのようなモノを吸い込んで溶かしている?」
「ん……不思議……」
「わぁ~血の花が」
背後からヴィーネたちの声が聞こえてくるが、気にしない。目を瞑ったまま〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中を潜水するように血の龍と化した俺の精神体を進ませた。
と、血の龍に触れた邪悪なモノを喰らう。
邪悪なモノは溶けるように消えた。
顎に感覚を得る。
複数の歯牙に複数の何かが絡まる。
大きい魔素を咥えた。
この魔素は女性、噛んではいけない……。
更に、懐かしい感覚を得た。
これは公爵の息子、ナロミヴァス・ゼフォン・アロサンジュと、オセべリア王国男爵バーナビー・ゼ・クロイツの僅かな記憶の欠片か――。
ナロミヴァスの記憶のほうが少し大きいか?
クロイツの記憶は他の悪夢の怪物に喰われたように萎んで消えたと理解――。
ナロミヴァスの記憶の欠片を強く意識した――。
幼い頃は父に期待されて育ったと分かる。
子供ながらに、スパルタだ……多種多様な教師たちに見識や教養を叩き込まれている。
図書室で〝暁の帝国の大賢者貴族の書〟と〝狭間を超越して冥界と魔界へ繋がる方法〟を読んでいた魔法学院ではエリートか。
と、公爵家の宝物庫に案内されて、三玉宝石を誰かに勧められている?
ナロミヴァスは、その誰かに勧められるまま……。
三玉宝石を触る直前で記憶は途切れた。
と、水神ノ血封書の神性が強まった。
〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中にいる悪夢の怪物たちが寄ってナロミヴァスの記憶の欠片が侵食される気配を察知。
急いでナロミヴァスの記憶の欠片に<水血ノ魂魄>――を実行――ナロミヴァスの記憶に血の龍の一部と<血魔力>が降り掛かる。
更に周囲に無数の血の蓮根のようなモノが見えたような気がした瞬間――。
目を開ける。
〝悪夢ノ赤霊衣環〟から俺の<血魔力>が噴出。
血の龍が飛び出た。
更に〝悪夢ノ赤霊衣環〟から白濁とした液体が噴き上がる。
その白濁とした液体の中に、邪悪な何かが溶けながら消えていく。
すると、血の龍と血の蓮の花と蓮根のような茎に絡まっている女性と男性と射手と魔術師が出現した。
ピコーン※<悠久の血湿沼ナロミヴァス使役>
女性は額に三つの勾玉を嵌めている女性。
悪夢の女王ヴィナトロス様だろう。
男性はナロミヴァス。
使役してしまった。
射手は渋いイケメンだが隻眼か?
魔術師は眼鏡を掛けた女性で背が少し小さい。
続きは明日。
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コミックス1巻~3巻発売中。




