千二百七十六話 <夢闇轟轟>※恒久スキル獲得※
階段を上がり広場に出た直後――。
段々畑のような壇を備えた広場には、まだ生き残りの四眼四腕の魔族たちがいた。
そして、中央の神像の背後にいたであろう漆黒のローブを被った魔族たちが悪夢ノ赤霊衣環だった物体というか生き物のような存在に、
「――我らは贄ではないぞ!」
「こっちに来るなァァ」
と魔刃を飛ばしていく。
「ぐあぁぁぁ、ベゲドアード様ァァァ、悪夢の女王ベラホズマ様ァァァ助けてぇぇぇ――」
〝悪夢ノ赤霊衣環〟だった物体に生えている無数の手足に捕まった四眼四腕の魔族は体を左右に引っ張られて千切られていた。
「――おぃぃ! 黒髪と銀髪の魔族も来たぞ!!」
「ベゲドアード様は……」
「止まるな、赤霊キュベラノが暴走した以上は倒されたということだろうが!」
「――赤霊キュベラノどころではない!! あの手足の量が見えないのか!」
「げぇ、あれは使徒たちの!?」
「あぁ、分かっているが、こっちにぁぁげぇ――」
と、また一人の二眼四腕の魔族が、〝悪夢ノ赤霊衣環〟だった物体に生えている無数の手足に捕まって肉団子にされて喰われていた。
「――くそがぁぁ」
「アァァ」
「ヴァーミナ様アァッァ」
「ベラホズマ様ァァァ」
次々に〝悪夢ノ赤霊衣環〟に捕まっていく四眼四腕の魔族たち、その体が破裂して血肉は吸い取れていく。〝悪夢ノ赤霊衣環〟の見た目は、完全な怪物。
手足の量といい、その皮膚と指の数に、骨に赤黒い金属が混じり、眼球のような物もできていくし、青蜜胃無のような部分もあるし、総じてヤヴァい……。
「――まさか〝悪夢ノ赤霊災厄〟が体現か! では、悪夢の女王ヴィナトロス様の欠片も暴走を?」
「〝悪夢ノ赤霊災厄〟だと?」
「……あの〝悪夢ノ赤霊衣環〟が、こんな怪物に……」
「アァァ、ベラホズマの名の下に――」
「「「ベラホズマの名の下に――」」」
「「悪夢教団ベラホズマ、悪夢の使徒、万歳!」」
「ベラホズマ・ヴァーミナ様万歳」
「「「――アァァ」」」
と、四眼四腕の魔族たちに魔刃を浴びた〝悪夢ノ赤霊衣環〟の怪物は前進し、それらの魔族たちを捕まえては体を潰して血肉を吸い込んでいた。
「――くそ……〝悪夢ノ赤霊災厄〟とはなんなんだ! 俺は悪夢ノ赤霊衣環がこんな行動をとるなんて俺は知らなかった!」
「「俺もだ!」」
「私もよ!」
「我もだ!」
「――キベラは知っていたのかよ!」
キベラと呼ばれた四眼四腕の魔族は二本の魔槍と魔剣から魔刃を飛ばす。
漆黒のローブがはだけた。
――手足が他とは明らかに違う。
四つの魔刃を喰らった〝悪夢ノ赤霊衣環〟だった大怪物は仰け反った? 体が異質だから分からないが、動きを止める。
効いたようだな。
そのキベラは、<黒呪強瞑>系統を強めた。
体に気色悪い魔印を浮かばせる。
ん? 右上腕と左上腕の大きさが他の腕と釣り合わないし両足の魔力操作がオカシイ。
と、俺の腰の魔軍夜行ノ槍業が揺らぐ。
『――弟子、あいつだ。キベラと呼ばれた四眼四腕の魔族! 俺の手足を移植してやがる……魔槍は無覇と夢槍だ……、弟子よ取り返してくれ、あれがあればお前に妙神槍を伝授できる! そして、〝魔略・無覇夢槍譜〟か、〝妙神槍流譜〟もあるなら妙神槍の<魔槍技>も教えられるかもだ!』
妙神槍のソー師匠の手足と二本の魔槍か。
『はい、分かりました!』
四眼四腕の魔族のキベラのソー師匠の手足を確認。
二つの魔槍も他とは異なる、キベラは仲間たちに、
「あぁ、悪いが、知っていた……ベゲドアード様の<魔饑ノ使徒>と<封魔堕閣>と<贄・魂強>に<混魂ノ臓器>などが消えた以上は、こうなると……」
「そんな……俺は悪夢の女王ベラホズマ様の復活に必要な贄のことしか聞いていないぞ! こんな――」
「「……俺もだ!」」
と叫びながら〝悪夢ノ赤霊衣環〟だった怪物に魔刃を当てまくる四眼四腕の魔族と二眼四腕の魔族たち。キベラは、
「その贄も含めた……〝悪夢ノ赤霊衣環〟が、ベラホズマ様の復活に必要だったようだがな……が、この暴走具合だと、それが正しいってことなのか……」
「どういうことなんだよ!」
「……ベゲドアード様も想定してなかったはず」
「しらねぇ、さっさと言えよ、あぁぁトミアルが――」
とトミアルと呼ばれた四眼四腕の魔族が、〝悪夢ノ赤霊衣環〟の怪物に捕まってまた体がバラバラにされた。
キベラは、俺たちをチラッと見たが、直ぐに仲間たちを見て、
「しかし、ここに来たとなると……〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中身の目的は、俺たちの血肉とベラホズマ様の魔力か……だが、背後の黒髪と銀髪の魔族は襲っていないのはオカシイ……」
「キベラ、いいから教えろ!」
「……中身……え、ただの暴走ではないのね……」
「俺は〝悪夢ノ赤霊衣環〟は〝煉霊攝の黒衣〟があるからベゲドアード様は使いこなせていると聞いたことがあるぞ――」
「……そうだ、様々な要因がある」
「〝悪夢ノ赤霊衣環〟の暴走自体が、わからねぇ!」
「俺もだ、キベラ、どういうことなのだ」
「あの無数の手足はなんなんだ!」
「――俺もだ、ベゲドアード様は赤黒い金属を使いこなしていたぐらいしかしらねぇぞ――」
と叫んだ四眼四腕の魔族が、その怪物となった〝悪夢ノ赤霊衣環〟の無数の手足に捕まって体が爆発したように四散。
その血肉は〝悪夢ノ赤霊衣環〟の中に吸い込まれた。
「……〝悪夢ノ赤霊衣環〟には、無数の悪夢の使徒の魂の欠片、闇の悪夢アンブルサン、……流觴の神狩手アポルア、悪夢の女王ヴィナトロス様の魂の欠片など、混じるように入っていた……ベゲドアード様が倒れたのなら、その暴走は確実だろう――」
キベラと呼ばれた四眼四腕の魔族は皆に説明しつつ二本の魔槍と魔剣を振るい幾つもの魔刃を出す。
魔刃を喰らった〝悪夢ノ赤霊衣環〟はまた動きを止めた。
結構効いたのか、『ヌ……』と、俺に思念を寄越した?
「……ご主人様、四眼四腕の魔族たちに攻撃を開始しますか?」
「もう少し様子を見よう」
「はい」
ヴィーネはガドリセスを消す。
少し後退し金属鳥を出す。
頬の銀色の蝶々も<血魔力>で輝かせる。
<銀蝶の踊武>の準備もしていた。
再び、〝悪夢ノ赤霊衣環〟とキベラを凝視。
キベラは二本の魔槍と魔剣は魔力が豊富。
穂先は紫色の魔力が濃い。
後端は石突ではなく穂先。
ダブルブレード的な独鈷魔槍のような魔槍が無覇と夢槍か。
後端には半透明な魔力が集積している。
キベラは、俺たちを見てから、〝悪夢ノ赤霊衣環〟を見て、
「ゲンダラ、ベホンド! アキミン! あの黒髪たちも牽制だ! が、残りの皆は、この〝悪夢ノ赤霊衣環〟の怪物を倒すことに集中しろ!」
「「「「「おう!」」」」」
キベラは、ここのリーダー格か。
俺とヴィーネに〝悪夢ノ赤霊衣環〟だった物体に向け魔刃を飛ばしてきた。
飛来してきた魔刃を見ながら<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>を召喚――。
大きな<夜行ノ槍業・召喚・八咫角>で魔刃を弾く。
そして、
「ヴィーネ、あのキベラという四眼四腕の魔族だが、魔軍夜行ノ槍業の妙神槍のソー師匠の両手足と無覇と夢槍という名の魔槍を持つから、武具の破壊系はそいつにはナシでいこうと思う」
「はい、ご主人様、それより、奥の女神的な神像は悪夢の女王ベラホズマ様なのでしょうか」
「あぁ、たぶんな。それと魔力も高まっている」
「はい……」
「とりあえず、あの〝悪夢ノ赤霊衣環〟の怪物と少し距離を詰めるか」
と、広場にアーゼンのブーツで足を踏み入れた刹那――。
硝子が破れる音が鳴り響く。
大きな火花が無数に散った。
大きな火花には、白濁とした世界が拡がっている。
その火花から闇炎を纏った三つの勾玉が出現し、俺と重なった。頸の横の<夢闇祝>がチクッと痛む。更に強い電流が走った。
※ピコーン<夢闇轟轟>※恒久スキル獲得※
触ると新たな傷が首にできていた。
火花の白濁とした世界が俺と重なる。視界が反転、逆さとなった。
仄かな霧が風景を暈かす。が、霧は生暖かい風と共に徐々に消えた。
中央の巨大な神像以外が、血と白濁が混ざり合った湖となった。空は暗がり、景色が様変わりだ。隣にいたヴィーネがいない。
ここは、【白銀の魔湖ハイ・グラシャラス】か? 白銀の湖ではない? これは幻か? 歩掛けのような月明かりは変わらない。
穂状花序の花弁と蛍の星影が漂うのも、同じ。
が、沙羅双樹を思わせる紫金の大高木は浮いていない。巨漢の黒い兎のシャイサードもいない。すると巨大な神像が縮む。
俺と同じぐらいの大きさとなった。和風の衣を着た女性……光背のような背もたれ的な物が浮いていて、髪飾りと槍のような金釵と繋がっていた。
その金釵にはシンプルな宝石が鏤められてある。三玉宝石だろうか。その金釵の髪飾りと光背は繋がっている。
前髪は揃ったロングヘアで細い眉毛はヴァーミナ様と似ている。乳房の大きさはヴァーミナ様より少しだけ大きい。
上下左右の端には数字の9を思わせる蛇が宝石に絡み付こうとしているデザインが施されてあった。
背負い袋を背負っているのかも知れない。
バーソロンの髪を纏めた印象に近い。
『汝……ヴァーミナの申し子か?』
『え?』
続きは明日。
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