千二百六十七話 ハルホンクのウィングスーツ
大部屋の香具から放たれている匂いを感じながら走る。
「――ご武運を!」
「「ご武運を!!」」
背後から聞こえたバーソロンたちの声に片手を上げて、
「おう、後ほど合流しよう――」
「はい!」
バーソロンの返事の声の後――。
近くを浮遊していたヘルメが、
「――では、《水幕》を消します!」
と発言しながら前方に腕を伸ばす。
ヘルメの指先が僅かに光ると、司令官室の大部屋の端に展開させていた《水幕》が消えた。
岩壁に付着しているような板の橋と木組みの櫓が見える。
すると、ぴゅうとした涼しい風が室内に入り込んできた。
荒野的な土の匂いが気持ちいい――。
と一応――。
「エトアとイモリザにペミュラスもラムラントと同じく<珠瑠の花>で運んでくれ――」
「ふふ、分かってます」
ヘルメの声を背中で感じつつ――。
「ハルホンク、飛翔用をイメージした防護服にするぞ」
と発言――。
「――ングゥゥィィ!」
大部屋の床を左足で突いてホップ、ステップの右足で、また床を突いて、ジャンプ~と端を左足で蹴って両手と両足を拡げながら飛び降りた――。
一気に風を全身で感じ取る。
ハルホンクは一瞬の間に、
玄智宝珠札素材――。
棒手裏剣素材――。
手裏剣素材――。
魔竜王素材――。
白いケープ素材――。
銀ヴォルクのイリアス神の聖遺骸布を模したレプリカ素材――。
黒衣の王素材――。
星槍・無天双極の輝く槍素材――。
牛白熊素材――。
ミスランの法衣素材――。
などの素材を絶妙にミックスさせた近未来的な飛行用のウィングスーツを造る。
胸元の装甲部に刻まれている白い竜が渋い。
その新衣装でスカイグライディングを――、
「――ヒャッホー」
と楽しむ。そのままモモンガになった如く<武行氣>を活かしつつ飛行を続けた。
風に乗ったままの加速感が半端ない――。
――山間を滑空する空中スポーツもこんな気持ちがいいんだろうか。
「――閣下に続けぇぇ」
「「ウオォォォ――」」
背後からゼメタスとアドモスとキスマリの気合い溢れる魔声が響いてきた。
ゼメタスとアドモスか。
グルガンヌ地方は敵が多い。
骨騎士の部下がいるし、東南地方を治めることは中々大変だと思うから最近は呼ばずにいたが……。
ゼメタスとアドモスは俺の近くで戦いたいと言ってくれた。
その気持ちは嬉しい――と振り返る。
<ルシヴァル紋章樹ノ纏>には若干の浮遊能力はあると思うが……飛行しているゼメタスとアドモスが渋い。
星屑のマントからキラキラした魔力が放出されているし、ゼメタスとアドモスから噴出している粉塵のような魔力効果で飛行しているんだろうか。
そのままゼメタスとアドモスの飛行というか宙空を滑るように移動しているのを見つつ――。
<武行氣>を活かすように上昇しゆっくりと旋回しながら速度を落とす。
下を見る。と、岩場と広場か。
広場には、わんさわんさの群衆、三腕の魔族のバリィアン族たちがいる。老若男女、子供のバリィアン族も見えた。
平和的な交渉が成功して本当に良かった。
民間人に被害はでないように配慮しても何が起きるか分からないからな。
と、考えていると、近くを浮遊している皆の中でヴィーネとキッカとキサラが寄ってきた。
キサラはアイマスク。
ダモアヌンの魔槍に足を挟んでいた。
ノースリーブの黒い衣装でミニスカ状態。
悩ましい太腿が見えている。
キッカは、そのキサラに抱きついているから、キサラのおっぱいの膨らみがより強調されていた。
キッカの片手がキサラのおっぱいをダイレクトに包んでいた。
そして、片手の掌からキサラの乳房の一部が溢れている。
おっぱいの大きさが丸わかり。
うむ、素晴らしい。
「シュウヤ様の着ている衣装が空用に変化しています!」
「え!」
キッカもキサラの言葉を聞いて抱きついていた両手を離して、頭部を横にズラして、俺を見ると、「あ、本当!」と指摘。
ヴィーネも、
「――ご主人様の衣装が格好いい!」
「おう、相棒たちを追うぞ」
「「「はい!」」」
飛行術を行っているヴィーネは少し興奮したのか、バランスを崩し、キサラのダモアヌンの魔槍の後部にお尻を付けていた。
キッカが伸ばした手を掴むヴィーネは、そのままダモアヌンの魔槍の後部に座る。
可愛い女座り。
その背後にヘルメがいるが――。
ヘルメの両手から伸びている<珠瑠の花>は斜め下のほうに伸びきっている?
と、その先には、輝く紐を腰に巻き付けているイモリザが、崖を走っていた。
点々と突兀とした崖の横を可憐に跳躍を繰り返す。
ターザンのような遊びをしながら前進しているイモリザを見て吹いた。
イモリザの行動は面白すぎる。
ペミュラスとエトアも<珠瑠の花>に捕まっている。
光魔騎士グラドと馬魔獣ベイルも<珠瑠の花>に捕まっていると思ったがいない。
と、魔素を察知すると、もうグラドとベイルは俺たちの位置を越えていた。
今も岩を蹴り飛ばして跳ぶように移動している。
目指す場所は【赤霊ノ溝】。
先ほど〝列強魔軍地図〟は見ているし、土地勘は俺よりもある光魔騎士グラドだからな。
さて、俺も――。
目指すは神獣ロロディーヌと銀灰猫と魔皇獣咆ケーゼンベルス――と振り返る。
――遠いが、斜め下のほうにいる相棒が見えた。
黒虎からグリフォンに変化していた神獣ロロディーヌか。
位置的に【バリィアンの堡砦】から出て先を進んだ辺りかな。
あの先が【赤霊ノ溝】か。
そこに皆と共に飛翔していく。
ロロディーヌは、谷間の上空でホバリング。
俺たちを待っていてくれた。
片翼を傾けて、見上げてきた。
――少し桃色がかった鼻が可愛い。
相棒はグリフォンスタイルか。
拡げている両翼が素晴らしいほどに綺麗だった。
銀灰虎と魔皇獣咆ケーゼンベルスは見かけない。
【赤霊ノ溝】があるだろう谷の奥かな。
二眼四腕の魔族たち、赤霊ベゲドアード団の匂いを追ったようだな。
そのロロディーヌに皆と近付く。
「――よう、相棒」
「にゃお~」
触手手綱を掴むと腰にも触手が絡まって一気に相棒の頭部へと運ばれた。
皆もロロディーヌの頭部に着地。
ヘルメも着地。
両手の指の球根から伸びていた<珠瑠の花>に絡まっていた皆も着地。
エトアの体とラムラントの背の細長い腕に絡み付いていた<珠瑠の花>は紐解かれていく。
二人の尻は輝いていた。
ラムラントは、「わぁ……これが神獣様の毛毛……柔らかい……あ、動いた!」
と、子供のような反応だ。
巨大なロロディーヌの頭部に着地だ。
頭の黒い毛毛の足場なんて普通では味わえない体感だからな。
モコモコと柔らかい頭部の足場もあれば、硬くなっている頭部の足場もある。頭皮は神獣次第だが、柔らかいところを歩くのは結構好きだ。
そして、長く大きい両耳も、魔塔のような印象だしな。あの耳の産毛の感触はフェザータッチを超えているから、一度体感したら、もう相棒ちゃんから離れたくない! と思うはず。
と、乙女だと思うラムラントの気持ちを予想してみたが、違うかもだ。
すると、
「ん、この奥の谷は【赤霊ノ溝】に続いている。進まないの?」
「あぁ、相棒、ゆっくりでいいから、谷に行こうか」
「にゃお~」
と相棒は飛行していく。
エヴァも振り向いて前を見た。
俺は前を少し歩いて、そのエヴァの横顔を見ていく。
……【レンブラント鉱脈への岩道】がある方角は覚えている。
エヴァは指摘しなかったが……。
魔神レンブラントと関係している鉱脈なことは確実。
地中にある金属の原石を精錬して調べたい思いはあったはず。
ミスティへのお土産にもなるしなぁ。
が、エヴァは、ペミュラスの平和への熱いの記憶を<紫心魔功>で見て体感している。
超エンパシー気質どころではないエヴァの能力だし、ペミュラスのために早く【テーバロンテの王婆旧宮】に行きたいんだろう。
優しいエヴァだ。
「皆さん、【赤霊ノ溝】の場所はもう分かっているようですね」
とラムラントが指摘。
「おう」
「「はい」」
「宗主の〝列強魔軍地図〟は見てますからね」
「土地名と絵と神獣様の立ち位置で、はい」
「ふふ、神獣様の嗅覚は確実です。メトちゃんとケーゼンベルスが奥に行ったままなのが少し心配ですが」
「うむ、神獣様は先陣を友のケーゼンベルスに譲ったのだろうか」
キスマリの指摘に神獣ロロディーヌは、頭部を少し前後させた。
皆は「「きゃ」」「わっ」と声を発して上下に体が浮いたが、直ぐに皆の足に触手と黒毛が絡み付く。
そのまま赤霊ベゲドアード団がいるだろう【赤霊ノ溝】へと飛行を続けると周囲の地形に緑が増えてきた。
更に人型の無数の魔素を察知――。
魔皇獣咆ケーゼンベルスと銀灰虎もいた!
続きは明日を予定。
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