千二百六十六話 ルシヴァルの紋章樹の系統樹
バリィアンの道か。
魔鋼族ベルマランの【グラナダの道】を思い出した。
パセフティの見た目は若いがラムラントの父だとは思わなかった。
魔族として若く見えただけかな。
パセフティとバーソロンは早速――。
【バーヴァイ丘】。
【バーヴァイ谷】。
【バーヴァイの岩隠】。
【バーヴァイ川】。
【デラバイン古道】。
などと通じている【バーヴァイ平原】と【バーヴァイ城】の話と【源左サシィの槍斧ヶ丘】について話を始めていく。
<従者長>アチの名と<筆頭従者長>のサシィの名も出していた。
特産物の話では、デラバイン族たちの紡績工の話が出ていた。
バーヴァイ平原には魔綿花畑がある。
絹糸光沢が綺麗だった。
綿車などもあったな。
それらの品に【ケーゼンベルスの魔樹海】では極大魔石が採取可能。
採取する時はモンスターが大量に湧くからリスクが高いが、強者がいっぱい居れば、モンスターの対処は楽。
他にも源左には様々な特産物がある。
皆の土地で採取できる物を分け合う。
紙幣制度ではない、いい循環ができれば平和に繋がるはずだ。
するとヘルメが、バーソロンとパセフティとの間に入り、
「ふふ、バーソロンとパセフティ少しいいですか?」
「あ、はい」
「パセフティ、先ほどの言葉は、バリィアン族の王らしい言葉でした。これからは、神聖ルシヴァル大帝国の大同盟の一員としての働きを期待しています」
「お任せください。貴女様は精霊様ですね」
「そうです。体から水を出していたので、さすがに分かりましたか」
「はい、精霊様のような人型で高位な魔法生命体らしき存在をシャントル道やベルトアン道の近くで見かけたことがありました」
「ベルトアン道とシャントル道で、わたしのような存在ですか……」
「はい、見ただけです」
「気になる」
と、俺が指摘するとパセフティは、敬礼してから、
「ハッ、我らは距離を取って戦うことを優先とします。シャントルやベルトアンは敵対的な魔族も多いので……魔法生命体を使役している存在がいるのか、生きた魔法生命体が放浪しているのか、アイテムを起因にしている現象なのか、何一つ分かりません」
【シャントルの霧音唖】と【ベルトアン荒涼地帯】には精霊を使役する存在がいる可能性があるってことか。
自然的な〝虚ろの魔共振〟的な現象かもな。
秘宝が眠っている可能性もあるか。
【ゲラバダル降霊ノ地下道】という地名が気になる。
地下の冒険は面白そうだ。
が、今は地下冒険を楽しんでいる時間はない。
地下冒険と言えば、風のレドンドとの約束もあるからな。
冒険者ギルドの依頼も時間制限はないし、長命のエルフだから、数百年後とかでも大丈夫なのかも知れないが。
ヘルメは、
「……分かりました。覚えておきましょう。では改めて、わたしは閣下の左目に棲まう常闇の水精霊ヘルメと言います、宜しくお願いします」
「「はい!」」
「よろしく頼みまする」
三人は敬礼。
ヘルメも敬礼して横回転を行いつつその三人に水をピュッと振りかける。
三人の尻が輝いた。
パセフティたちは気付いていない。
その様子がシュールだ。
皆もいつものことだから指摘はしないが、他の三腕のバリィアンの兵士がいたら、どんな反応を示すか……。
そこで天井付近を浮遊していたグィヴァに、
「グィヴァも精霊なんだ。グィヴァ、外に向かう前に三人に挨拶をしとこう」
と指摘すると、そのグィヴァが「はい――」と返事をしながら細長い足下から雷属性の魔力を放電させながら降下し、
「――上から失礼致します。闇雷精霊グィヴァです。三人とも、よろしくお願いします……そして、先ほどの戦いでは三腕の魔族バリィアンの兵士を多数屠ってしまいました。ごめんなさい!」
と謝った。
パセフティは直ぐに、
「精霊様……我らが先に、シュウヤ様たちに攻撃を仕掛けた結果故です。気にせずに、そして、戦場では、敵と味方が利によって変化することは常……我らも、生きるため同盟相手から裏切り者と呼ばれることも多々ありました。そして、これからもよろしくお願い致します!」
と、流暢に語った。
利によって立場の変化は当然にあるだろう。
屈するよりも誇りに生きるなどの、信念があれば、また別だが……。
が、それは一部の上層部のみってことが多いからな。
多数のバリィアン族が生きるためなら、裏切り者と揶揄されようとも生きるために行動するのもまた、一つの道か。それに付いては肯定も否定もしない、あるがままだ。
……グィヴァやヘルメも俺たちと同じように思考したようで沈黙していた。
そのグィヴァは、ジロッとパセフティを見て、
「……裏切りに憎悪などは魔界セブドラの神々は好みますが、わたしは好まない。御使い様を裏切ったら……わたしは許しませんので」
「は、はい!」
パセフティは、グィヴァの気概に少し驚いていた。
グィヴァの魔法の衣から雷属性の魔力が放出される。
「「おぉ~」」
「グィヴァ様の周囲の稲妻が……」
「はい、雷の精霊様なだけはあります」
「ふれたら焦げちゃいそうです♪」
「……はい」
皆が指摘するように、グィヴァの周囲に様々な大気電気の現象が起きた。
エトアは何回も既に見ていると思うが、怖かったのかイモリザの背後に移動している。
ヘルメの水属性の魔法とスキルをグィヴァの雷属性と合わせたら凄まじい電光の嵐が可能そうだな。
それらの大気現象を見ていた三人だったが、パセフティとボトムラウは時々グィヴァの巨乳さんを見ていた。
まぁ、見ない振りしても、見てしまうのが、おっぱいだ。
女性の、否、グィヴァやヘルメのおっぱいには美しさと品があると言えるか。
グィヴァも嫌がらずグィヴァ立ちから踊りを始めた。
ヘルメも「新しき同盟相手の誕生を祝して――」と踊り始めた。
踊り方がゆったりとしている。
右腕を斜め上に伸ばす、面白い決めポーズだ。ディスコ風だ。
「――二人の精霊様の立ち居振る舞いは素晴らしい! 同時に畏れ入った! 精霊様たちよ、これからよろしく頼む! 我はバリィアン族の名に恥じぬようがんばりまする!」
ボトムラウがやや興奮気味に語った。
「「ふふ」」
「ヘルメ様とグィヴァ様、わたしもがんばりますので」
「はい、御使い様に付いてくるようですから期待していますよ」
「ラムラントは、閣下の<従者長>となるかもですから期待しています」
「え!」
と、ヘルメの言葉にラムラントは目を見張る。
「ん、賛成。<従者長>になれば血文字が使える」
「はい、【古バーヴァイ族の集落跡】にも連絡員は必須。光魔騎士グラドと光魔騎士ファトラの仕事も減ります、それだけ他に回せる」
とキサラの言葉に皆が頷く。
ヴィーネとバーソロンとビュシエは反対気味の顔と分かるが、ヴィーネは俺を見て、
「ご主人様はラムラントが気に入っているようだ。受け入れよう」
「「はい」」
ヘルメが直ぐに前に出て、
「ラムラント、この際です。血の眷属たちに聞きたいことはありますか?」
「あ、はい。光魔ルシヴァル一門には、眷属の種類が沢山あるように見えます……」
ラムラントの言葉に皆が頷いた。
ヘルメは水をグィヴァにピュッと飛ばす。
お尻を輝かせているグィヴァは「ヘルメ様、わたしにお任せを!」と発言。
そのまま右腕を雷刀のような武器に変化させる。
と、その雷刀と化した腕を斜めに伸ばす。
そして、
「――ふふ、御使い様の眷属は多い! 背後の光魔沸夜叉将軍ゼメタスとアドモスに、皆様の<筆頭従者長>たち、他にも<従者長>と呼ばれている光魔ルシヴァルの血の眷属たちがいますからね、名だけを聞けば少し混乱するのも分かります」
と稲妻で宙空に模様を作る。
ルシヴァルの紋章樹にも見えてきた。
細身のラムラントは、見上げて頷くと、背中の細長い腕の手で床を付く。
その細長い腕にゆったりと体重を預けて、椅子代わりにしていた。
普通の右手の人差し指を唇に当てて少し考えていく。
……三腕のラムラントか。
バリィアン族の動きは新鮮だ。他にない。
「<筆頭従者長>と<従者長>……吸血神ルグナド様のような眷属たち……」
「はい、閣下は吸血神ルグナド様とも会話をしたことがあります」
「「「え!」」」
三人はまたも驚く。
「更に言えば、そこのビュシエは吸血神ルグナド様の元<筆頭従者長>の一人です」
「「ひぃぁ」」
「マジですか!」
三人とも驚きまくりだが、リアクション的に今日一番驚いている?
ラムラントの仕種が少し面白かった。
ボトムラウは大きい双眸が飛び出る勢いだ。
そのパセフティとラムラントとボトムラウに、
「更に驚かすつもりはないが、視覚的に分かりやすいように、エクストラスキルの<ルシヴァルの紋章樹>を試すとしよう――」
<ルシヴァルの紋章樹>のエクストラスキルを強く意識し発動させる。
<血魔力>のブラッディサージテラーの血文字が俺を模る――。
と瞬時に崩れて<血魔力>の血の波となった。
その<血魔力>の血の波は、周囲の<筆頭従者長>と繋がる。
と一瞬で<血魔力>の波は巨大なルシヴァルの紋章樹の幻影を模った。
ルシヴァルの紋章樹の幻影には――。
<筆頭従者長>の大きな円と――。
<従者長>の小さな円が類縁関係と派生関係などを樹の枝分かれの形に示されている。
ルシヴァルの紋章樹の系統樹は見た目で直ぐに分かるから便利だ。
「……凄い……シュウヤ様が大きい幹の系統樹として光魔ルシヴァルの一門の名が刻まれているのですね」
「……樹状図か。ヴィーネ様とエヴァ様にキッカ様とビュシエ様とバーソロン様の文字が……」
「非常に分かりやすいです」
ヘルメとグィヴァもルシヴァルの紋章樹の回りを泳ぐように飛翔して、
「――はい、ルシヴァルの紋章樹の幹と万朶だが、閣下を意味している……そこに、光魔ルシヴァル一門の類縁関係が樹木状に模式化された系統樹の<筆頭従者長>と<従者長>と光魔騎士などの名が刻まれているのですね……」
と発言。
「「凄すぎる」」
「これほどの一族の仲間に加わられるとは……」
とパセフティとラムラントとボトムラウは語り、頷き合う。
ルシヴァルの紋章樹を消した。
キサラは、
「そして、ゼメタスとアドモスはもう見ていると思いますが、閣下の大事な眷属です」
ヘルメの言葉に、パセフティとラムラントとボトムラウは振り返る。
ゼメタスとアドモスを見やった。
ゼメタスとアドモスは魔鋼鉄の甲冑の節々から蒸気のような魔力を噴出させる。
前にも増して輝きを増したようにも見える前立の飾りの鍬形は、かなり渋い。
その冑の横から槍烏賊の防具を伸ばす。
骨盾からは虹色のフォースフィールド的な魔法力を放出させていた。
「「「……」」」
「魔界四九三書を元としたフィナプルス殿と、光魔騎士グラド殿も閣下の眷属!」
ゼメタスとアドモスが指摘すると、三人が「「「はい」」」と言ってフィナプルスたちを見た。二人は会釈した。
グィヴァは片腕に閃光を発して、雷刀にすると、
「――他にも閃光のミレイヴァル、魔軍夜行ノ槍業の八人の師匠たちに、無名無礼の魔槍のナナシなどもいます。御使い様は一人でそれら眷属を展開できる。そして、わたしと本契約をする前に、【魔雷教団】と親睦を深めた御使い様は闇神アーディン様とも邂逅を果たして、闇神アーディン様の仕事をこなしています。だからこそ、今、わたしはここにいる」
「「え!」」
「おぉ、魔界の神々と……会話を……」
驚くパセフティとラムラントとボトムラウ。
すると、俺の真横に来たキスマリが、
「……神獣様たちだけで、赤霊ベゲドアード団を全滅させてしまう……」
とボソッと語りつつ、わざとらしく魔剣の剣身を三腕の手が持つ砥石で磨き始める。
砥石も普通ではないと見たが、四腕は便利だな。
済まないが、話が盛り上がってしまった。
そこでゼメタスとアドモスに、
「ゼメタスとアドモス、来てもらって戦わせずに悪いが……」
「承知! 閣下に使われることが私たちの至上の喜びですぞ! グルガンヌ南東に戻らずとも、このまま閣下に付いていきまする」
「ハイ! 我らは閣下の光魔沸夜叉将軍! 閣下の領地でもあるグルガンヌ南東の地ならしは順調であります」
「順調であります♪」
イモリザがアドモスの真似をすると、
「ふふ」
とエトアが笑っていた。
「了解した。では、ゼメタスとアドモスも付いてこい」
「「はい!」」
ゼメタスとアドモスは互いの盾を叩き合くと、俺の前に来る。
パセフティとボトムラウは、光魔沸夜叉将軍の挙動を見て息を呑んでいた。
浮遊しながらの機動だ。
星屑のマントの裏側は小宇宙のようだしな、足下は<魔闘術>系統の<ルシヴァル紋章樹ノ纏>が自動的に発動しているように月虹のような光を放っている。
そのままヴィーネたちを見据え、
「では、皆、相棒たちを追おうか。ラムラントは機動力に自信があると分かるが、今は俺たちの速度に合わせてもらうぞ?」
「はい」
「ヘルメ、ラムラントを頼む」
「お任せを!」
<珠瑠の花>をラムラントの背中の細長い腕に絡めた。
背中の細長い腕に絡めると便利だな。
「うむ!!」
「「「「はい」」」」
パセフティとボトムラウにアイコンタクト。
二人はお辞儀。
バーソロンにもアイコンタクトをしてから身を翻した。
ヴィーネとエヴァとキサラと並んで駆ける。
フィナプルスとキッカとビュシエが直ぐに背後から付いてきた。
続きは今週を予定。
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