百二十五話 キャネラス邸
最後には白地の花嫁衣装だけになり、消えてなくなった。
「ふぅ……ひさびさに魂を味わった」
あの消えた蟲は何なんだろうか、特に毒や麻痺は無いようだけど。
影響は特に無く魂を頂いた。
しかし、後味が悪い。
最初は逃がしてやろうとしたのに……。
あの気が狂った顔は魔法か呪いにでも掛かっていた感じだった。
だが、俺が殺したのは、事実。
今後はエリボルの娘シルフィリアの結婚相手が問題になりそうだ。
まぁ後悔したところで、後の祭り。
……確りと、俺の糧にしてやるさ。
まずは、床に落ちた魔法の短剣を確認。
持ち手と、鋭い刃先が禍々しい虫の形をしている。
やはり、呪いの品か?
『閣下、その短剣からは魔力を感じます』
ヘルメが視界に現れて、短剣へ向けて指をさす。
『そうだな。魔力はそんな感じないが、薄気味悪い』
『はい。何かの魔法系が関係していることは確かですね』
嫌な感じがするので、触るのは止めとこ……。
彼女はこんなのに触れ持ったから、頭がイカれた可能性が高い?
……分からないが。
アイテム鑑定はできないので放っておく。
何かヒントがあるかもしれないので、エリボルの娘が出てきた扉の先を調べてみるか。
扉の先に入ってみると、そこは小さなコレクションルーム的なところだった。
壁には曰く付きがありそうな枯淡な絵が並び、魔力を漂わせている黒々とした細木細工で作られた大きい船の模型、魔力が留まってる血濡れた骸骨群、魔力を放出している血で汚れた布。などが飾られてある。
どれも怪しい物ばかり……。
あ、箪笥の上に黒曜石の古びた蟲の形をした石壇がある。
その上に短剣が置かれてあった窪みの場所があった。
ここに置いてあった魔法の短剣をエリボルの娘は手に取ったのか?
推測に過ぎないが。
この部屋は危険な物しかないようだ。
何も触れずに無視。
回収するならさっきのお宝群だ。戻ろっと。
エリボルの死体が転がる部屋に戻り、
「……まずは、この鍵杖をアイテムボックスの中に入れて……後は、金貨の山を全部頂くとするか」
「にゃ」
黒猫もいつもの姿へ戻り一声鳴いて返事をすると、エリボルの死体から流れ出ている血を舐めていた。
白狸の血は白豚のように美味しいのかな?
気にせずに金が入った箪笥を見る。
この底深い箪笥に詰まった、金貨の山、いったいどれぐらいあるんだろう。
白金貨だけで、百は楽に超えていると思われる……。
数えるのは大変なので、纏めてアイテムボックスの中へぶちこんどく。
そして、この大白金貨。
二枚は大きい。なんせ、一枚で白金貨の百枚分の価値。
アイテムボックスに入っている大白金貨と合わせると全部で十四枚。
こりゃ、ここらで散財しちゃうか?
年末の地下オークションで高級奴隷を買うつもりだったけど……。
すぐに高級奴隷を買っちゃうか。
そうなると、こないだ面接した【デュアルベル大商会】の幹部組織【一角の誓い】のケラガン・キャネラスに会わないとな。
キャネラスに掛け合うとして、あの場、一緒に連れていたダークエルフが欲しい。
確か、地下オークションへ出品予定と話していた。
交渉すれば、早々にあのダークエルフをゲットできるかもしれない。
あの商人もどうせ売るつもりなら、地下オークションで売買されるよりも高く買い取ってやれば文句はないだろうし。
今回手に入れた大白金貨を一枚、二枚、と出せばゲットできるか?
よし、交渉するためキャネラスの屋敷を探そう。
確か貴族街の西、庭にユニコーンの銅像があるので目立つと話していたのは覚えている。
渡された布ハンカチを提出すれば入れるんだよな。
アイテムボックスからその布を取り出しておく。
腕輪に触り、
「オープン」
羅列されたアイテム欄からユニコーンの布印を取り出す。
よし。
ここから出るとして、普通に出たら目立つ。
空も駄目だ。隣の敷地に居た竜騎士たちに追われちゃうかもしれない。
ということで、ゲートだな。
「ロロ、戻るぞ。ゲートを使う」
「ンン」
黒猫は俺の肩へ戻ってくる。
胸ポケットから二十四面体を取り出し、一面の記号を親指でなぞりゲートを起動させた。
ゲート先には宿屋の部屋が映る。
誰も居ないことを確認。
念のため<隠身>を使用してから、ゲートに潜り込む。
鏡を抜け出て、宿屋部屋のベッド前に到着。
ベッドには飛び込まない黒猫は珍しく、我慢していた。
俺が<隠身>を使用しているのをちゃんと感じているようだ。
そっと屈みながら移動。寝台を迂回して、出窓を開けた。
一応、屋根上から入ってきたと見せかけておく。
月の残骸は忙しいだろうし、気にしすぎかな。
そこで<隠身>を解除。
肩から黒猫が待ってましたと言わんばかりに寝台へ跳躍。
いつものことなので、放っておく。
『ヘルメ、汚れを掃除して』
『はい、お任せください』
左目から放出していくヘルメ。
瞬時に水スライムに補食されたかのように薄い水膜が俺の全身を包む。
あっという間に外套だけでなく、身に着けていた古竜バルドーク産の紫鎧の一式が綺麗になった。
水膜に覆われているのは、不思議な感覚。
掃除が終わった液体の精霊ヘルメは、蜃気楼でも起こすかのように俺の全身から離れ宙の一か所へ丸くなり集結。
丸の形が空気が抜けたサッカーボールのように萎んで波打ち、ぐにょりと変化しながら、黝色の葉っぱ皮膚を持つ人型へ戻っていく。
「――完了です。血が僅かに付着していたので吸収しときました」
「ありがと。目に戻っていいよ」
「はいっ」
ヘルメは水状態へ戻り俺の目の中へ入り込んでいく。
「ロロ、寝台で遊ぶのは止めだ。行くぞ」
「にゃあ」
黒猫を呼び、出窓から身を乗り出し外へ出た。
紫色に近い赤色の尾根上を伝い走る。
軒先から、そのまま路地の地面に飛び降り都市の北側へ向かった。
隣を走る黒猫が馬獅子型へ変身。
その馬獅子の背中へ軽くジャンプして跨った。
触手手綱を掴み、少し、艶がある黒毛の匂いを感じるように屈めて抱き着く。
馬獅子型黒猫は俺の気持ちを感じ取ったのか、速度を増した。
路地を抜け、建物を飛び越え、月明かりを帯びた深夜の大通りを駆けていく。
貴族街にまた戻ってきた。
キャネラスの屋敷は貴族街の西。
その場で馬獅子型黒猫から降りる。
歩いて、探すか。竜騎士がいるし、今日はもう空から見回る方法は使わない。
数時間――黒猫と一緒に徒歩ペースで探し続けた。
そして、夜も明ける頃に、やっと目的の敷地を発見。
碁盤の目のような格子門を越えた先に、聞いた大きさのユニコーン像が聳え立っているのを発見した。
キャネラスが話していた通り、敷地外からも分かるほど目立っている。
格子門にも職人が作ったと思われるユニコーンマークが彫られた専用銅板が嵌められてあった。
この敷地内にある屋敷の中に、キャネラスが住んでいるはず。
だが、今は当然の如く、朝一な時間帯。
まだ寝ていると思う。格子門も閉まっているし。
もう少し待つか。
高級奴隷を売って貰おうと交渉したいんだから、いきなり朝方に押し掛けて迷惑はかけたくない。
格子門の向かいにある違う屋敷の壁に背を預けて休憩。
すると、肩にいた黒猫が、じっと待つことに飽きたようで、高い格子門に興味を持ったのかは分からないが、見上げて、そのまま跳躍。
触手を使い、格子門の天辺に登ってしまった。
「ンンンっ」
言葉に鳴らない喉声を発しながら、狭い金属製の格子門上を優雅に歩いていく。
黒猫は鼻をくんくんと、動かし、頭をきょろきょろと左右を見回しては、敷地内の庭や俺を含めた周囲の景色を眺めている。
「ロロ、いいよ、自由に遊んでこい」
「ンン、にゃお~ん」
なにやら楽しげな高音の声だ。
黒猫はそのまま格子門の上でいったりきたりすると、門の向こう側へ跳躍し、庭へ侵入。
姿が見えなくなった。庭の探索かねぇ?
黒猫も居なくなったし、暇だ。
門が開くのを待ってる間、何しよ……。
今度、暇潰しに使えそうなアイテム類を探しに、市場辺りをぶらつくのも良いかもしれない。
あ、市場とはいえば、箸作りの木材も見つけないと。
しかし……暇だなぁ。
朝には門が開くとして、昼までには交渉を終わらせたいとこだけど。
ギルドでエヴァと待ち合わせがあるし………。
さて、暇潰しといえば、やはり、訓練しかないか。
仙魔術は止めとこ。
ヘカトレイルで暇な時に訓練したけど、毎回かなりの魔力が持っていかれるからな。
やればやるほど消費が抑えられているのは分かるんだけど……。
今は胃が捻り曲がる感覚と、胆汁を口の中では味わいたくない。
そこで左手に魔剣ビートゥを出現させる。
片手半剣の練習だ。
魔剣の柄巻を確りと握り締め、構えた。
腕を伸ばし、剣突を放ち、引き戻しながら斜めに構まえてクロス斬り。
ビルが使ってた、剣突からの~腕をぐるりと回して、斜めクロス切りを念頭に歩く歩法。
蛇行斬り系だと思うが、上手くできない。
ん~、いまいちだ……。
訓練相手に丁度良い闇の獄骨騎の沸騎士たちは、都市のど真ん中だし呼べない。
そこで<導想魔手>を発動。
<導想魔手>に魔槍杖を握らせて、空中から魔槍の矛で宙を突く。
普通の突きだが、鋭い。
俺の拙い両手剣による剣突よりかは、確実に上。
魔槍杖を握っている歪な魔力の手である<導想魔手>を動かして、空中で風を切るように乱舞させる。
最後に<刺突>を放つ。宙に螺旋の風が起きるような威力だ。
これを敵は受けていたんだな。
紅斧刃と矛の威力は凄まじいと思う。
こんなの食らいたくねぇ……。
次は<闇穿>を撃たせてみる。宙が切り裂かれるほどの突技。
紅色、紫色、闇色の残像が見えるほどの威力。
<刺突>と比べたら威力は二割増しぐらいか?
それに<闇穿>は闇属性が付く。
魔槍杖の先端部位である矛とその下真横にある紅斧刃の上部にかけて、闇色の薄膜が発生していた。
ちゃんと見た目通りの効果がある。
そこで、両手に握っていた魔剣ビートゥを消し<導想魔手>の歪な魔力の手に持たせていた魔槍杖を、実際の右手で掴み直す。
右腋を閉めて魔槍杖を構える。
その瞬間、踏み込みからの腰を捻り、うねりを意識した突き出しの<刺突>から、<闇穿>の連続スキルを撃ち放つ。
ブンッブォンッと、風を突き抜ける音が響く。
――よしっ。やっぱ、実際に生身の手で使った方がしっくり来る、か。
そして、その場で、軍の兵隊が起立するように背筋を真っ直ぐに保ちながら魔槍杖をくるりと縦に回し、太股の外側へピタリと握り手の金属棒を当て、縦に魔槍杖を持った。
矛と紅斧刃が下向きへ、石突の竜魔石を上に。
真っ直ぐな姿勢を堅持した状態で、魔槍杖を消失させる。
違う槍を買い、常に<導想魔手>に持たせるのも有りだな。
二槍流。偽鎖槍を用いての三槍流も脳裏に過るが、一本の槍道でさえ、キリが無いほどに上達していくのに、横道にそれちゃ駄目だ。
それに魔槍杖が好きだし、常にこれを使いたい。
二槍、三槍はあくまで、遠い未来の布石の一つとして記憶しとこう。
次は魔法実験に移行だ。
初級:水属性の《氷弾》を念じる。
何もイメージせず、氷弾を発動させた。
壁に丸い氷礫が当たり、石壁が丸くめり込んでいる。
次は、生成する氷礫を銃弾に変えるようにイメージしながら、また魔法を念じる。
《氷弾》を放つ。
壁に氷弾が突き刺さり穴が空いていた。
氷の形状はティアドロップ型の銃弾だ。
それもライフル弾をイメージしたらやはり威力が段違い。
これ、無意識に弾丸をイメージ構築する癖をつけないと。
そんな訓練を続けること数時間。
急に背後から門の開く音が聞こえた。
急ぎ、訓練を終わらせる。
因みに俺が魔法を当て続けた壁はボロボロになっていた。
家主にはごめんなさい。
と、謝りながら、背後を振り返り、格子門が開いたところへ向かう。
門が開いた先には、広い敷地があった。
幅広な石道と広い芝生の庭が広がっている。
その石道から初老の使用人たちが現れて、掃除を始めていた。
掃除を行っているけど、門は開いてるし、通っても大丈夫かな……。
行っちゃうか。敷地の中へ入り石道から歩いていく。
「お待ちください。お屋敷にご用ですか?」
掃除していた初老の男性に止められた。
あの布マークを見せれば、いいのかな?
「うん。このマークを見せれば、いいと、キャネラスさんに言われたんだけど」
胸ベルトのポケットから布マークを取り出し、ひらひらと見せる。
「こ、これは失礼を、お客様でしたか。すぐに旦那様にお知らせします。待合室にご案内しますので付いてきてください」
使用人らしき男性は俺が手に持つ布マークを確認すると、驚きの反応を示す。
そのまま深々と頭を下げてから石道が続く庭を案内してくれた。
庭の敷地は広く、情趣に富んだ庭と言える。
天然芝の間にある遊歩道のような石道が庭のあちこちへと延びていて、白い十字架、天使像、白い芙蓉の花々、オリーブのような木、松の木に似た木、沢山のオブジェや自然の造形が、石道を通るお客を出迎えるように配置されていた。
趣向が施されていた庭、オープンガーデン的。
そんな庭を楽しみながら石道を進み、屋敷前に到着した。
だけど、意外に屋敷は小さい。
庭は広いから、屋敷もそれなりに大きい大屋敷なのかな。と、勝手に考えていたけれど、そうでもなかった。
エリボルが住んでいた屋敷とは大違い。
檜木と大理石の建材を使ったシンプルな設計。
アールデコ風、建材の質は高級感が溢れている。
この家主はシンプルな家が好きなんだ。と納得できた。
使用人さんに「こちらです、どうぞ中へ」と言われて大理石の玄関を通され、ソファが並ぶ一室に通された。
外装はシンプルだったが、内装は豪華絢爛だ。
きっと大貴族もこんな感じなんだろう。
ここに来るまでの廊下も赤絨毯が敷かれてあったし。
客専用の豪華な部屋だ。
「今、お飲み物を用意しますので、少々お待ちください」
「いやいや、お構い無く……」
いきなりのアポなし訪問なので、遠慮勝ちに言った。
「いえ、旦那様に叱られてしまいますので、ご用意させてください」
使用人は頭を少し上げて、チラッと俺を見る。
「はぁ、分かりました」
力なく納得すると、使用人はささっと翻して部屋から退出。
間もなく使用人たちが、お盆に紅茶、フルーツ、菓子類を乗せた食器類を運んできてくれた。
ソファ前にある長机の上にフルーツ盛合せな大皿が並べられていく。
「遠慮なく、ご堪能ください。……旦那様は、もう少ししたら来ますので」
礼儀正しい使用人は頭を下げると、離れていく。
その素晴らしい無駄のない所作を見て、少し緊張してしまう。
机からは、紅茶の香りが漂ってきた。
良い香りだ。それにティーカップも高級そうな物。
紅茶セット器の隣には底深い皿に盛られたフルーツもある。
これも美味しそうだし、ビスケット菓子の方は前世で見たことがある菓子に似ていた。
これが、異世界の上流社会で流通してる菓子類か。
まずは紅茶から飲む。
ティーカップの隣には蜂蜜らしきモノが入った蓋空きの小さい陶器の瓶がある。
蜂蜜が砂糖代わりか、少しいれるか。
この備えられた小さい棒で掬うようだ。
棒に絡んだ蜂蜜は、とろとろな黄金色で美しい。
とろりとろり流れる蜂蜜を紅茶に入れて、かき混ぜた。
ティーカップを口へ運び、蜂蜜入りの紅茶を啜り飲む。
旨い、口内を満たす香りも独特の雰囲気を感じさせる。
ダージリンティーと未知の葉をブレンドした感じか?
温度も丁度良く、飲みやすい、蜂蜜の程好い甘さも素晴らしい。
専門的な名前がありそうな紅茶だ。
目を瞑れば、高貴な貴婦人が紅茶を飲んでいるところを想像させる。
他のも頂戴するか。
まずは、皿上にあるビスケットを掴み、拝見。
見た目的には鳥型のビスケット。口へ運び、もぐっと、一噛み。
堅めの食感でパサパサしている。しかも、あんまり甘くない。
これでも旨い方なのかねぇ?
俺が作ったほうが美味しくできそうだぞ。
一応、自炊派だったからな。
紅茶を飲みながら疑問顔でビスケット菓子を食い終わる。
次は盛り沢山なフルーツ類が入った皿からチェックする。
液体が入ってるのでフルーツポンチみたいな感じだ。
印付きのハンカチ風皮布の上に木製のスプーンと小さいナイフも置かれてあるけど、手掴みで食べちゃおっと。
サクランボのような小さい枝付きの種から、貰う。
枝を掴み口へ運んだ。お、これは想像通りな味。
甘いし旨い。小さいわりに汁がジュウシーで豊富ときた。
種は皿に戻して、次はこれかな、梨のようなフルーツ。
皿の中へ手を突っ込み、梨に似たフルーツを掴む。
表面は桃と似ているようだ。柔らかい感触。
にゅるにゅるして掴み辛い。
ナイフで刺すか。と、皿に突っ込んだ手をひっこめて水に濡れた指を舐める。
色々なフルーツ味がした。
特別に甘い水という訳じゃないらしい。
用意されてある皮布で手を拭きながら小さいナイフを使う。
梨桃にナイフを刺し、身を口へ運んだ。
最初はシャキと、トロッとした感触。冷んやりして旨い。
桃と梨が合体したような感じ。
不思議と外側は、梨のような味、内側にいくと桃の味に変化していく。
中間は完全に混じった味わいだった。
次はこの固そうなバナナを切った感じの平べったいフルーツの一切れを貰う。
ナイフで刺すと、サクっと柔らかい感触。口へ運び、一噛み。
――おっ、全部柔らかいのか。
噛むとジュワッと果汁が溢れる。
これ、バナナじゃなくマンゴーに近いのか?
バナナ&マンゴーな、味と感触で旨いじゃん。
これが大本命だったか。美味すぎる、一気に残りを胃の中に詰め込む。
黒猫は帰ってこないな。
このフルーツの盛り合わせ美味しいのに……。
と、調子に乗ってフルーツ類を全部食べきってしまった。
すると、丁度良く、左奥にある部屋の扉が開かれ、ケラガン・キャネラスが笑顔で登場。
近くに歩み寄ってきた。
格好は鮮やかなブルー色が際立つ鮫皮? 的な半袖服を着ている。
首下からは、特徴的なチリチリな胸毛と金チェーン付きの魔力漂うネックレスが目立つ。
腕にも魔法の腕輪、指にも豪華な指輪を嵌めている。
下半身は黒光りするラメ革な長ズボンに高級革靴。
あれでもラフな格好なんだろうが、高級感は溢れていた。
それより肝心なダークエルフが居ない。
「これはこれは、シュウヤさん。お待たせしました」
「いえいえ」
「地下オークションはまだまだ先ですし、今日はどういった理由で此方へ?」
キャネラスはそう言いながら、向かいにあるソファに座る。
「えぇ、実は、高級戦闘奴隷を買おうかと思いまして」
キャネラスの青い瞳を捉えた俺は、来た目的を話す。
「そうですか。わたしが所有する奴隷商館に行きますか?」
「えぇ、商館にも興味はありますが、キャネラスさんが、こないだ連れていたダークエルフは何処ですか?」
キャネラスは俺の目的がダークエルフと分かると、頬が弛む。
「ほぅ、彼女ですか? あのダークエルフなら実戦経験を積むために迷宮ですよ。もうすぐ帰ってくるはずですが、もしや、レアな彼女をご所望でしょうか?」
奴隷でも迷宮に潜れるということは、冒険者の資格は奴隷だろうが関係ないのか。
俺は素直に頷く。
「……はい」
「なるほど。地下オークションに出品する予定だったのですがねぇ……彼女は滅多に、と言いますか、市場では全く見られない貴重なダークエルフ。しかも……。おっと、これはまだ話せませんな。それで、地下オークション用の高級奴隷をお望みなのですから、その値段はそれ相応の金貨を要求しますが…………宜しいので?」
キャネラスは顎に手を当て、考える仕草を取る。
その思わせぶりな態度は前世でよく見ていた、クイズ番組の司会者を連想させた。
深海を思わせる濃い青目からは、独特の圧力が感じられる。
鋭い視線で俺を見据えて、ファイナルアンサー? 的な間を空ける言い方がなんともいえん。
ツッコミを入れたくなるが、我慢。
俺はいったい、幾らだ?
と、キャネラスの青目と視線を合わせて、低い声質で話していく。
「……えぇ、幾らでしょうか」
「大白金貨三枚と白金貨五十枚。といったところでしょうか」
おぉ、何だよ。余裕じゃないですか。
「分かった。買おう」
即決。しかし、俺があっさり大金を支払うと言ったのが“信じられない”というようにキャネラスは絶句した表情を浮かべる。
「あ、ありがとうございます。では彼女が帰り次第、すぐにでも受け渡しの作業に入りたいと思います。もしや、彼女の他にも奴隷をご所望でしょうか?」
キャネラスは直ぐに商人らしい顔色へ戻し、急ぎ契約しようと早口で捲し立ててくる。
「分からないです。実際に見てみないと」
「はい。それはごもっともですね。では契約が完了次第、商館へご案内いたしますよ」
「その際はよろしくです」
「はい。では受け渡しの準備を進めます。契約書と小道具を持ってきますので少々お待ちを」
「わかりました」
キャネラスはサッと立ち上がり、機嫌良さげな顔を浮かべては素早く部屋を退出していった。




