千二百五十八話 潜入と<脳脊魔速>と大部屋
右頬の十字架の形をした金属素子に指の腹を当てた。
遺産高神経に対応したカレウドスコープは優秀。
そして、戦闘型デバイスとも連携している。
戦闘型デバイスの開発理由は、ナ・パーム統合軍惑星同盟の銀河騎士マスターの一人だったアオロ・トルーマーさんが銀河帝国との戦争でナ・パーム統合軍惑星同盟が劣勢な状況を覆すため、外宇宙へと優秀な銀河騎士&銀河戦士の超戦士を求めるために開発された。
それが、アウトバウンドプロジェクト。
戦闘型デバイスを開発したのは、フーク・カレウド・アイランド・アクセルマギナ博士のチーム。
と、その戦闘型デバイスを見る。
今も、戦闘型デバイスの真上に高精細に立体映像で表現されている軍服姿のアクセルマギナは――美人さんだ。
汎用戦闘型と人工知能アクセルマギナのモデルはフーク・カレウド・アイランド・アクセルマギナ博士本人なんだろうか。
そんなことを考えながら――。
選ばれし銀河騎士専用と呼べるカレウドスコープを起動させた。
一気に視界は鮮明となった。
様々な輪郭の線が強調されながら世界の彩りが増えるように網膜や眼球の性能が上昇している結果だろう。
――偵察用ドローンも出す。
<光魔・血霊衛士>は<無影歩>が三腕の魔族たちにバレた際の囮でいいかな。
それか、パセフティ、ボトムラウ、ラムラントと会った際の交渉時、または集団戦闘になる手前辺りで使うとしよう。
戦闘となったらゼメタスとアドモスを呼ぶのもありか。
波群瓢箪のリサナと<光魔ノ秘剣・マルア>や閃光のミレイヴァルも直ぐに呼べる。
この砦の建物の一部をごっそり刳り抜ける必殺技の<空穿・螺旋壊槍>もあるし。
……俺は歩く戦術兵器か。
と二体の偵察用ドローンを意識して出す――。
戦闘型デバイスの縁が回転。
太陽の紅炎のプロミネンスを模している形の縁が六角形状の集合体、ハニカム構造へと変化を遂げる。
そのハニカム構造の二つの孔から二体の偵察用ドローンが飛び出た。
蜂的な印象の偵察用ドローンは結構可愛い。
共有している偵察用ドローンの視界は良好。
さて――二人の三腕の魔族を追うとしよう。
掌握察は使わない。
円状の魔素の拡がりは、探知網に引っ掛かる可能性がある。
だから、偵察用ドローンを使う。
扉を少し開け、そこから二つの偵察用ドローンを外に飛ばした。
偵察用ドローンの一つを廊下の左から進ませる。
廊下の右に、もう一つの偵察用ドローンを進ませた。
廊下の右を進ませている偵察用ドローンの視界に、二階の廊下を歩く三腕の魔族が映る。 先ほどの小部屋の前で止まった三腕の魔族が映る。
その三腕の魔族は角を曲がった。
左の偵察用ドローンは階段を下りて一階の廊下に出た。
一階の廊下の右は広間か。
左側が幅広な通路で奥に大部屋があるようだ。
お偉いさんがいそうな大部屋だ。
廊下は茶色の板の間。
色合いは二階と近いが、少々汚れが目立つ。
お、その廊下を歩く二人組を見つけた。
伝令兵の二人の三腕だ。その二人の三腕の魔族へと――。
天井すれすれの機動で偵察用ドローンを進ませた。
一階の幅広な通路の左側には扉がない部屋がある。
隠れ場所に最適だ。
通路の壁には、魔剣と手斧の飾りと魔力を帯びた眼球が嵌まる魔道具が飾られている。
一方、二階の廊下内を進ませている偵察用ドローンは伝令兵の魔族の背後を映している。
その二階の廊下を歩いていた三腕の魔族は足を止めた。
周囲を見ていた。
三腕の魔族は二眼かと思いきや、四眼なのか。
人族と同じ位置にある双眸。
その左右の眼球の斜め上に、細い眼が存在していた。
その三腕の魔族は振り返り、二階の廊下を歩き始める。
またも角を曲がった。偵察用ドローンも後を追わせた。
この二階の偵察用ドローンは放置しておくか。
時がきたら消すとしよう。
一階の偵察用ドローンの視界を共有しつつ<無影歩>を維持した状態で小部屋の扉を開けて廊下に出た。
二階の廊下の左を足早に進み、廊下の突き当たりの階段を下りた。
一階廊下の右は広間には複数の三腕の魔族がいる。
偵察用ドローンで見ていた通りだ。
広間には行かず左側の幅広な通路を進む。
すると、幅広な通路を進む三腕の魔族は動きを止めた。
実際の有視界にも、その三腕の魔族の背中が見えた。
右目の網膜に展開されているカレウドスコープにある▽のカーソルを、その二人の内の一人に合わせてスキャン――。
――――――――――――――――
バリィアン>魔界?生命体???
脳波:正常
身体:正常
性別:雄
総筋力値:353
エレニウム総合値:10799
武器:あり
――――――――――――――――
スキャンを終わらせた。
頭部に邪神ヒュリオクスの蟲はいない。
勿論、魔界王子テーバロンテのバビロアの蠱物もナシ。
背中の太い腕は便利そうだ。
二人の伝令兵は、正面にいる他の三腕の魔族と会話を始める。
「あぁ、魔皇獣咆ケーゼンベルスと連動している小勢力の新手は異常な強さだ」
「……バズとパタルの上等連絡兵に特務隊のゲラッパたちも悉く返り討ちにあったと報告を聞いたばかりだ」
「俺たちもそれは見ている。では、ラムラント様とボトムラウ様もパセフティ様の傍に?」
「あぁ、緊急軍議中だ」
「分かった。俺たちも報告がある」
「了解した」
伝令兵の二人の魔族は、その三腕の魔族と別れて幅広な通路を進み始める。
俺も三腕の幅広な通路を歩いた。
会話していた三腕の魔族は此方に歩いてきたから急いで横の部屋に入って隠れた。
<無影歩>の気配殺しは凄いスキルだが……。
完全な透明マントを着ている状態ではないからな。
三腕の魔族は俺に気付かず――。
幅広な通路を進む。
背中の腕の形は先ほどの伝令兵と違って少し短くて入れ墨が彫られてある腕だ。
種族的に興味が湧いてきた。
三腕の魔族と戦争になったが、ここから三腕の魔族と友好的な雰囲気に持っていけるか?
一芝居をうてばいけるか?
ヴィーネたち、あ、バーソロンをリーダーとして俺はフリーの魔傭兵の立場って三腕の魔族の大将に言えば怪しまれないかも知れない。
もしそうなったら血文字で事前に皆と連絡すればいけるだろう。
が、魔皇獣咆ケーゼンベルスの場合は融通が利かず一方通行に三腕の魔族たちへ攻撃を仕掛ける可能性もあるから、この交渉のプランBは巧くいかないかも知れない。
その際はエヴァたちに注意してもらうか。
敵の大将との交渉が失敗し戦いとなったら最後までやりきろう。【バーヴァイ平原】と隣接した地域の独立勢力に憂いは残せない。
……〝コグロウの大針〟で<闇ノ一針>の敵の大将の暗殺も考えていたが、そんなトリックスター的な交渉を考えると、わくわくしてきた。
――よし。
幅広な通路に戻った。
伝令兵の二人を追う。
偵察用ドローンの視界には伝令兵の二人は大きな扉の前に立ち、衛兵と会話しているところが映っている。
大きな扉が開かれた。
伝令兵の二人は司令官室のような広い部屋に入った。
真上に浮遊させている偵察用ドローンを司令官室に侵入させた。
簡素な会議室的な場所。
天井には、干からびた干し肉のようなモノがずらりと並ぶ。
壁には大きい【古バーヴァイ族の集落跡】の地図が貼られてあった。手斧が幾つか突き刺さっている。
あぁ、手斧は三腕の魔族の支配地域か。
街や街道と繋がっている場所には、黒髪の魔族の印が多い。
要所の岩場に二眼四腕の魔族の印。
魔獣を意味する印も点在している。
あ、中心に魔神バーヴァイと魔神レンブラントの祭壇かな。近くある手斧のマークが、ここの基地の印だろう。
床には寝袋的な寝台も幾つか並ぶ。
無垢な長い机と小さい椅子。
長い机の上には肉と野菜が盛られた皿とフォークとスプーンがある。
食事した後か。
食事の文化は、人族と同じかな。
一つだけ豪華な椅子があった。
奥には三人の三腕の魔族がいる。
中央にいる三腕の魔族がパセフティだろうか。
部屋の端に隠れられそうな空間を見つける。
俺も<無影歩>を維持したまま――。
幅広な通路を歩いて衛兵が扉を閉める前に<脳脊魔速>を発動――。
加速したまま衛兵に気付かれず司令官室らしき大部屋に侵入できた。
<脳脊魔速>のタイムラグが切れるまで端に待機。
バレるか、バレないか……。
続きは、今週かも。
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